隣のお前に大好きを
□■□■□
暑い。毛布のぬくもりを感じながら、大きくあくびをした。ここ最近、気温が下がってきているから、毛布を出してきたのだ。
しかし、ここまで暑いと今夜も使うかどうか微妙な気持ちになる。ぐむむ。
俺は布団を軽く放り出そうとしたが、右腕が動かない。寝違えた、のか。気力もあまりないので、早々に動かすのを諦めた。動く左手で軽く胸の辺りの毛布をめくる。感覚的に腰の辺りでばさりと布団が畳まった。ぼやっと目を開け、猛烈な体のだるさに負けてまた目を閉じる。
目が開かない。だんだんと目が覚めてきたけれど、まだ体が重い。何度も思う。眠たくて目を開けたくない。ベッドに身を任せ、すっと体の力を抜く。ぷかぷかと体が浮いているような感覚に改めて動きたくないなぁと思わされる。
そして、やっぱり、違和感がする。確かめるためにすんすんと鼻で息を吸った。
――気のせいだと思っていたが、やはり、いい匂いがする。
目が覚めてきたきっかけの1つの甘い匂いだ。朝食の用意のような匂いでもなく、自分の寝汗の匂いでもない。花のような、そう、例えるなら花の香りだ。そう考えていくと、じりじりと這うような速度で頭が覚めていく。だるくて体の方が眠りを求めてくるのは相変わらずだが。
そして、目が覚めてくると寝返りを打ちたくなる。
同じ体勢でずっといるせいか、右腕の感覚がおかしいので寝返りを打とうと思い立つ。だが、何かに引っかかるようで、どうも左側に回れない。無理に回ろうとするたび、違和感に加え、痛みのような、痺れのようなものまで感じる。よってあまり動かないほうがよさそうだと止めた。
左に回れないなら仕方ないか、と右を向くように転がる。横を向く程度転がったところで、何かにぶつかって止まった。
そして、気付いた。両腕の間に、なにか抱き枕のようなものがあるらしい。当然ながら、これがぶつかったものだろう。そして、甘い香りはどうやらそれからしてくるようだった。
それならば、抱き締めるしかない。なんとなく直感でそう思った。すぐさま左腕をそれに被せるように伸ばし、くいっと抱え込む。柔らかく、暖かく、丁度いい抱き心地だった。不思議なことに、非常に多幸感を伴うものだった。抱き枕があると、安眠ができると聞いたことがあるが、どうやら本当らしい、俺はふにゃっと笑った。
だが、抱き枕なんて買った覚えは無い。そこだけははっきりと記憶にある。頭は冴えてきているが、きっとこれは起きる前の寝ぼけた時間によく見る明晰夢のようなものか。しかし、触覚は思ったよりはっきりしている。まあ、いいか。もう少しだけ強く抱き締める。どうやら、いい匂いはここからしていたようだ。腕の中に抱きとめる確かな重量と、甘い香りについにやけてしまう。こんな夢なら、醒めなくてもいいかもしれない。もう少し、ゆっくり寝よう。
幸せな気持ちに包まれながら、抱き締めているものをぽんぽんと愛おしく叩く。撫でる。なんなら一生抱きついていてもいい。幸せだ。夢であるのが惜しい。こんなに気持ちよく惰眠に沈むことができるなんて。それ以上に、とても心が温まるような――
「ふみゅぅ」
――抱き締めているものから声がした。同時にがっ、と抱き締め返され、胸板に何かが擦り付けられるような感じもする。そして、それは俺以上に幸せそうに喉を鳴らす。とてもくすぐったい。
「えへ、へへー……えいく……ん」
眠気とか、頭の重さとか、全てが吹き飛んで俺は目を開けた。閉めきれていないカーテンから光が一筋入り、部屋を縦断している。飛んでいる埃にその日差しが当たり光の粒が部屋を舞っているように見えた。パッと見は綺麗だが、すぐに夢想は破れる。先程の光の粒の正体もそうだし、近くにある勉強机の下に散らばる授業プリント。教科書を抜き取ったために本が若干倒れている本棚。……今日朝イチで処理しようと思っていたゴミ箱。それら日常臭さ――それも台無し系のものが幻想を打ち消す。間違いない、リアルすぎる。ちょっとまて、リアルすぎるじゃないか!……夢じゃない、のか。
……で。俺は恐る恐る自分が抱き締めている何かに顔を向ける。その動作は、互いにぎゅうぎゅうに抱きついているのと、心臓が破裂しそうな緊張でぎこちない動きだった。
息を呑んだ。体が震えた。人だった。俺に抱きついている、抱き締めているのは、人だった。ちょっと待て、いや、夢だよな。さもなければ、冗談だよな。黒髪の少女の背中を撫でる。その度に彼女は、にゅうにゅうと猫のように心地よさそうな声を上げた。見覚えがあるってレベルじゃない。声も聞き覚えがあるってレベルじゃないぞ、白水鏡華!
と、とにかく、女の子と一緒のベッドに入ってるって、まずくないか。いや、やましい事はして――して、ない。してないけれど。慌てふためきながらも重い体の方は変わらず彼女の背中を撫で続ける。もこもこした生地のパジャマを着ているのか、とても撫で心地がいい。それに、服の手触りの向こうに、感じるのだ。肌の熱と柔らかさ、弾力。よく触り心地を何かに例えるような表現を見るが、思いつかないくらい手が幸せだ。いつまでも撫でていてもいいくらいに――一周回ってこれは夢か。夢なのか。
いや、逃げるな、とりあえず夢にしろ、夢でないにしろ、おい、起きろ。俺は腕の中で未だ寝続けている彼女を起こすべく、背中を軽く叩いた。それが向こうにとってたまらなく気持ちいのか、だらしなく笑う。息が胸に当たってこそばゆい。じゃなくて、起きろ!
少し先程よりも叩く力を強めると、ううん、と唸った。やっと起きるか、と思った。だが、甘かった。彼女は少し体を浮かせた後、飛び込むように落ちてきた。勢いよく俺の首筋に顔をうずめる。右腕に乗っかっている状態から、体を横断。左側の首筋に顔をうずめたのだ。体同士が交差するように重なる。密着面積が増え、なぜ心臓が爆発しないか不思議に思うくらいドキドキする。
そして、俺は異変に気付く。右手が痺れる、というか、痛い、というか、痛い!?本当に、夢じゃない!じんじんと右腕が焼ける。2つ目の心臓ができたのかというくらい脈打つ不快感。ことこと煮込まれているような持続性のある痛みが脳天に這い寄ってきた。
のた打ち回ろうにも、あいつが袈裟固めもどきに俺に抱きついているせいで動けない。
ああもう、どけっ、どけ!腕がびりびりびりびりびりするんだよっ!伸ばしたり曲げたりして辛さを紛らわしたいんだよ!残念かな、俺の気持ちは微塵も伝わらない。
「しあわせぇ、へへへ」
俺の気持ちを露知らず、あいつ、白水鏡華はのほほんと笑っている。表情は分からないが、能天気な声だった。それを聞いてしまうと、とたんに体の力が抜けた。怒るのも馬鹿らしいというか、どうでもよくなってくる。
すぅぅぅぅぅ。はぁーっ。えへへへ。
俺の耳に、息を胸いっぱいに吸っているような音が聞こえた。こいつは今、俺に顔をうずめて――っ、やっぱりどうでもいいわけが無い!頭の中で恥ずかしさと、初心な気持ちが爆ぜた。
白水は俺の首筋にその顔を埋めるにあたり、今や半身俺の上に乗っかっている。隣でくっつくだけでもいけないことのような気がしたのに、これはまずい。これでもか、と体重と暖かさを感じる。胸が柔らかい、という騒ぎではなく、回された腕も柔らかければ、お腹は控えめに筋肉が着いているのだろう弾力も兼ね備えているし、右足に絡まる足、ふくらはぎ、なんというか、ああもう、考えるな!小さく首を振った。おそらく顔は真っ赤だ。
平常心を焦がすような体勢でのしかかってきている白水だが、それで1つだけ助かっていることがある。右腕だ。体重のかかる主なところが胸になったので、多少息苦しくはあるが、腕の痺れは取れてきた、気がする。あー、動かさないと結局分かりそうはない。こいつに気が回り過ぎて痛みを感じていないだけかもしれないし。いや、怖がっても仕方が無い。動かせば分かる、とのしかかる彼女を掴み、引き剥がした。脇を持って掬い上げるように持ち上げたため、寝ながら高い高いをしているような体勢っぽくなる。
果たして、彼女は幸せそうな顔をしていた。不公平だ。そんな顔を見るともっとドキドキしてしまう。俺にだけこんなやきもきするような気分を味わわせておいて、そんな悩みのなさそうな寝顔だなんて。
ところで、俺、日端誠英(ひばた まさひで)は白水鏡華が好きだ。ずっとずっと前から好きだった。幼稚園の頃に、漢字で書かれた『誠英』が読めなくて『うー、まことえい?』と読んだ時から好きだ。ばーか、とからかう俺に、にこりと笑い『えへへ、覚えた!』と言ったあの顔は今でも忘れない。
今でも好きだ。中学校の頃別々の学校に行っていたが、それでもずっと好きだ。こんなにお前しか見えないのは変なのかもしれない。でも、そうだったとしても、後悔なんてないくらい好きだ。
だから、何でここにいるんだ。正直、あちこち撫で回したいくらい興奮している。今は行きも震えているんだ。こんなところを見られてしまったらきっと失望される。毛布の中に潜ってきたと言う事は、向こうからは俺を男としてより、まだ、幼馴染の親友って見ているのだろう。眠さがぶり返してきたのか、もやがかかる頭でそんな事を思った。急に感情が制御できなくなってくる。
どうにか落ち着かせるために深く息を吸った。胸いっぱいに甘い香りが入ってくる。だめだ、我慢できない。目元が熱くなってくる。体の底から煮えたぎる何かが湧いてくるような感覚だった。ああ、白水が、欲しい。
俺は、あいつからこういうことをされるまで『英君』として信頼されている。でも、それは、きっと幼馴染の友達としてなんだ。恋人としてじゃない。あいつはロマンチストだ。昔、『恋人をキスで起こすのが夢なんだ』なんて言っていた。だから、こんな状態って事は、俺は、恋人足り得ない、ということで――
――ああ、せめて、ファーストキスだけでも、奪っておきたい。鏡ちゃん、俺は、こんな男なんだ。俺はほんのり桜色に艶めく唇へと視線をさまよわせた。
カーテンが閉まっていて、やや薄暗い中で、そこはうっすらと濡れたように光っていた。しわが全くなく、コップの水がぎりぎりで溢れない状態を思わせるほど張りがある。引力を感じるが、妖しい、艶やかというよりは可憐な感じだろう。それでかつ、その薄い色は儚さを感じさせるのだからたまらない。
淡雪のような肌がさらにそれを際立たせている。雪原の中に一輪鮮やかな花があればそこに目が惹かれるような、そんな誘惑。奪ってしまおう。摘んでしまおう。汚してしまおう。俺以外の男に渡したくはない。
幸い、俺を信用しきっているのか、幸せそうな寝顔は崩れる気配がない。少し、触れる程度、どうにでもなりそうだ。乾いた笑いが口から漏れる。
白水の甘い匂いに当てられているのかもしれない。あの頃より変わらず、あの頃よりもっと魅力的になった彼女が独り占めできる場所にあるからかもしれない。この女を逃がしたくない。自分のものだと印をつけてしまいたい。そう思ってしまう。
流石に心の端には抵抗がある。こんな事をしたら二度と元には戻れないだろう。だが、坂道を転がり始めたように、欲望が止まらない。どうかしてると思う。それに、唇を奪うだけで終わらないかもしれない。でも、駄目だ。
白水を仰向けにしてベッドにそっと下ろす。さっきは逆に俺があいつを見下ろしている。その気になればマウントも取れる。間違いなく俺の思い通りにできる。それがたまらなく俺を興奮させ、それは麻薬のようだった。
「好きだ、白水」
俺は狙いを定め、まず、彼女の頬だ。頬へと顔を近づけていく。本当に肌が綺麗だ。しわもしみもにきびも荒れもなければ傷もない。新雪のようだ。今からそこに跡を付けるんだ。
触れたら溶けてしまいそう。でも、溶けるのならば、溶けてしまえ。そう思いながら唇を押し付けた。経験の無い俺は吸うなんて思いつかなかったし、見える所に跡が残るのは避けたかった。1秒、2秒、3秒。俺は一旦唇を離す。何にも例えられない感触と、熱が心地よかった。余韻を味わうように唇を湿らせ、もう一回顔を下げようとしたところで、俺が俺を嗤った。
いきなり唇を奪わなかったのもそうだが、やはり、俺は臆病なのだ。跡を付けたいと考え、欲に燃えながらも、やはり、周りの目が怖いんだ。公然と『俺の女だ』と叫ぶこともしなければ、示すこともする気がない。それ以前に、積極的に会おうともしなかっただろう。お前はだから恋人として好きな女から見られないんだ。好かれるための努力も、覚悟も何もかも足りな――
――口を歪めながら舌打ちをした。鋭く、湿った音がやけに部屋に響いた。俺は大きく息を吸う。そして吐く。
これは、決して気持ちを抑えて落ち着かせるためにしたわけではない。俺は、今度こそ、あいつの唇にキスをした。
その穏やかで控えめな――だからこそ扇情的な――唇の色とは裏腹に、とても熱かった。それが、たまらなく、より味わえるように顔を押し付けた。ぴくり、とかすかに白水の体が揺れた。口を塞がれたのだ、起きたのかもしれない。だが、構うものか。
……赤熱する焼き鏝に唇を押し当てているようだ。しかし、それで焦がれるのは、どうも白水への思いばかりらしい。
ああ、このまま、いっそ嫌われてもいい。この快感を思うままに貪りたい。熱に浮かされたようにただひたすらそう思った。
唇と唇。ただ表面が触れているだけの稚拙なキス。それでも、互いの薄い皮膚が熔け合って混ざったようで、陶酔してしまう。抱き締めていた時には感じえなかった熱、柔らかさ。口周りがそのまま底知れぬ沼に浸かってしまったようでもある。
俺の息も、あいつの息も、どんどん荒くなっていく。胸焼けとは違う、心地いいような、じれったいような、痺れるような、そんな熱が浅く、早く肺を動かす。その度、鼻から甘い空気がねっとりと入ってきて、焚き火に空気が送られるように、もっと熱く燃えていく。
白水の鼻息が聞こえる。今、口を離してしまえば、犬のように口をだらしなく開けて息をし始めそうな程荒い。控えめな胸がそれに合わせて上下していた。もこもこしているが、それほど厚手の生地のパジャマではないので体の輪郭がよく分かる。そこから鼓動が、聞こえてきそうで、俺と同じくあいつも興奮しているのかと思ってしまって、それがたまらなく興奮の材料となった。
俺と白水が今まさに1つになっている。自分のものになっている。俺の手の中で、俺の行為で息を荒げている。ああ、いい、たまらない。もっとだ。もっとだ!
……そうだ、唇を触れ合わせるだけで気持ちいいのなら、もっと深く繋がってしまったらどうなるのだろう。ふと俺は思った。貪欲に次を次をと求める気持ちは止まらない。
口付けをしたまま、唇を軽く開いてちろりと舌をと出した。白水の唇を包むようにそのまま唇を広げ、舐る。つうっと右から左、左から右に彼女の唇を舌でなぞるたびに、小さく彼女の体が跳ねる。鼻息も激しくなる。それはむずむずと嗜虐心を刺激していく。
もっと、可愛い反応を見たい。どうしたらどんな反応が返ってくるのか。そう思いながら丹念にキスを続けた。ぴくり、ぴくり、もぞもぞ、と動く白水。そこで、俺はまた頭の中に考えが浮かんだ。
これだけでこの反応なら、唇を吸ったなら、どんな反応を返してくれるのだろう、と。身を大きくよじるだろうか、声にならない声をあげるだろうか、どうだろう。どんな可愛い反応を返してくるのだろう。好きだ。
少しずつ吸う力を強くしながら舌を引っ込め、開いていた口を吸いやすいように少しすぼめる。同時に白水の唇をこじ開けるように舌を動かした。頬にキスをした時よりもやっぱり柔らかい。
――夢中で舌を進め、緩急を付けて唇を吸っている最中に、一瞬白水の体が強張った。
「む、んっ、ふっ、ふっ、ふっ」
ビクン、と今までで一番大きく白水が跳ねた。そして、一度では収まらない、と言わんばかりに華奢な体が2回3回と震える。だんだんとその動きは小さくなっていくが、驚いて口を離した後も、電池が切れかけたおもちゃの人形のようにカク、カクと揺れている。
もしかして、酸欠の症状――!?俺は冷水を浴びたように急に寒気を感じた。思わず、俺は白水を抱き起こした。未だ、白水は目を閉じたまま、体を震わせる。顔は――変わらず真っ白だ。
「だ、大丈夫か白水!」
「あっ、ふっ、はぁっ、はっ、はあ」
「おい、しっかりしろ!」
ハードな運動をした後のように息を切らす白水。とてもただ事とは思えない。俺は、、急に自分がとんでもないことをしたように思えた。
甘い香りがする。それがもっと白水をめちゃくちゃにしたいという欲を煽るが、俺は思いっきり自分の頬を叩いた。とりあえずは換気だ。白水に毛布をしっかり被せてから、ベッドから降りた。急いで窓に向かい、カーテンを開け、網戸もガラス戸もなく思いっきりそれらを開けた。
すぅっと冷たく澄んだ空気が部屋に流れていくのを感じる。同時に、部屋の中の濁ったような甘ったるい空気がもうもうと漏れ出すのも感じた。これで、少しは、と白水を見た。
……どうやら、少しは落ち着いたようで、毛布は大きく上下していた。それに安堵を感じると共に、苦しくなってくる。俺は――。
歯噛みをすると、口の中に甘さを感じた。今さらだが、だ。形容しがたいくらい、幸せな味がした。甘酸っぱいなんて、大嘘だった。
――俺は、何をした。結局目が覚めることなく未だベッドにいる白水を見ながら震える。俺は白水が好きだ。だけれど、今のは、何だ。ぞくりと背中に氷が張り付くような感覚がして、思いっきり頭を振った。視線を外し、窓を閉める。今日は雲ひとつなく、いい天気だった。それでも、張り付くような怖気が消えない。
「ん、んん。ふぁあ、あ!えへへへ」
可愛らしい声が聞こえた。
その何も知らない、と言う調子が俺に突き刺さる。いつも通り、そう何度も何度も何度も何度も自分に言い聞かせ、振り返った。そこには伸びをやめ、目をこすりながらこちらを見つめる白水がいる。こちらと目が合うと、彼女は嬉しそうににこりと笑った。それは思い出の中の姿より、想像していた姿より、ずっともっと綺麗なものだった。
暑い。毛布のぬくもりを感じながら、大きくあくびをした。ここ最近、気温が下がってきているから、毛布を出してきたのだ。
しかし、ここまで暑いと今夜も使うかどうか微妙な気持ちになる。ぐむむ。
俺は布団を軽く放り出そうとしたが、右腕が動かない。寝違えた、のか。気力もあまりないので、早々に動かすのを諦めた。動く左手で軽く胸の辺りの毛布をめくる。感覚的に腰の辺りでばさりと布団が畳まった。ぼやっと目を開け、猛烈な体のだるさに負けてまた目を閉じる。
目が開かない。だんだんと目が覚めてきたけれど、まだ体が重い。何度も思う。眠たくて目を開けたくない。ベッドに身を任せ、すっと体の力を抜く。ぷかぷかと体が浮いているような感覚に改めて動きたくないなぁと思わされる。
そして、やっぱり、違和感がする。確かめるためにすんすんと鼻で息を吸った。
――気のせいだと思っていたが、やはり、いい匂いがする。
目が覚めてきたきっかけの1つの甘い匂いだ。朝食の用意のような匂いでもなく、自分の寝汗の匂いでもない。花のような、そう、例えるなら花の香りだ。そう考えていくと、じりじりと這うような速度で頭が覚めていく。だるくて体の方が眠りを求めてくるのは相変わらずだが。
そして、目が覚めてくると寝返りを打ちたくなる。
同じ体勢でずっといるせいか、右腕の感覚がおかしいので寝返りを打とうと思い立つ。だが、何かに引っかかるようで、どうも左側に回れない。無理に回ろうとするたび、違和感に加え、痛みのような、痺れのようなものまで感じる。よってあまり動かないほうがよさそうだと止めた。
左に回れないなら仕方ないか、と右を向くように転がる。横を向く程度転がったところで、何かにぶつかって止まった。
そして、気付いた。両腕の間に、なにか抱き枕のようなものがあるらしい。当然ながら、これがぶつかったものだろう。そして、甘い香りはどうやらそれからしてくるようだった。
それならば、抱き締めるしかない。なんとなく直感でそう思った。すぐさま左腕をそれに被せるように伸ばし、くいっと抱え込む。柔らかく、暖かく、丁度いい抱き心地だった。不思議なことに、非常に多幸感を伴うものだった。抱き枕があると、安眠ができると聞いたことがあるが、どうやら本当らしい、俺はふにゃっと笑った。
だが、抱き枕なんて買った覚えは無い。そこだけははっきりと記憶にある。頭は冴えてきているが、きっとこれは起きる前の寝ぼけた時間によく見る明晰夢のようなものか。しかし、触覚は思ったよりはっきりしている。まあ、いいか。もう少しだけ強く抱き締める。どうやら、いい匂いはここからしていたようだ。腕の中に抱きとめる確かな重量と、甘い香りについにやけてしまう。こんな夢なら、醒めなくてもいいかもしれない。もう少し、ゆっくり寝よう。
幸せな気持ちに包まれながら、抱き締めているものをぽんぽんと愛おしく叩く。撫でる。なんなら一生抱きついていてもいい。幸せだ。夢であるのが惜しい。こんなに気持ちよく惰眠に沈むことができるなんて。それ以上に、とても心が温まるような――
「ふみゅぅ」
――抱き締めているものから声がした。同時にがっ、と抱き締め返され、胸板に何かが擦り付けられるような感じもする。そして、それは俺以上に幸せそうに喉を鳴らす。とてもくすぐったい。
「えへ、へへー……えいく……ん」
眠気とか、頭の重さとか、全てが吹き飛んで俺は目を開けた。閉めきれていないカーテンから光が一筋入り、部屋を縦断している。飛んでいる埃にその日差しが当たり光の粒が部屋を舞っているように見えた。パッと見は綺麗だが、すぐに夢想は破れる。先程の光の粒の正体もそうだし、近くにある勉強机の下に散らばる授業プリント。教科書を抜き取ったために本が若干倒れている本棚。……今日朝イチで処理しようと思っていたゴミ箱。それら日常臭さ――それも台無し系のものが幻想を打ち消す。間違いない、リアルすぎる。ちょっとまて、リアルすぎるじゃないか!……夢じゃない、のか。
……で。俺は恐る恐る自分が抱き締めている何かに顔を向ける。その動作は、互いにぎゅうぎゅうに抱きついているのと、心臓が破裂しそうな緊張でぎこちない動きだった。
息を呑んだ。体が震えた。人だった。俺に抱きついている、抱き締めているのは、人だった。ちょっと待て、いや、夢だよな。さもなければ、冗談だよな。黒髪の少女の背中を撫でる。その度に彼女は、にゅうにゅうと猫のように心地よさそうな声を上げた。見覚えがあるってレベルじゃない。声も聞き覚えがあるってレベルじゃないぞ、白水鏡華!
と、とにかく、女の子と一緒のベッドに入ってるって、まずくないか。いや、やましい事はして――して、ない。してないけれど。慌てふためきながらも重い体の方は変わらず彼女の背中を撫で続ける。もこもこした生地のパジャマを着ているのか、とても撫で心地がいい。それに、服の手触りの向こうに、感じるのだ。肌の熱と柔らかさ、弾力。よく触り心地を何かに例えるような表現を見るが、思いつかないくらい手が幸せだ。いつまでも撫でていてもいいくらいに――一周回ってこれは夢か。夢なのか。
いや、逃げるな、とりあえず夢にしろ、夢でないにしろ、おい、起きろ。俺は腕の中で未だ寝続けている彼女を起こすべく、背中を軽く叩いた。それが向こうにとってたまらなく気持ちいのか、だらしなく笑う。息が胸に当たってこそばゆい。じゃなくて、起きろ!
少し先程よりも叩く力を強めると、ううん、と唸った。やっと起きるか、と思った。だが、甘かった。彼女は少し体を浮かせた後、飛び込むように落ちてきた。勢いよく俺の首筋に顔をうずめる。右腕に乗っかっている状態から、体を横断。左側の首筋に顔をうずめたのだ。体同士が交差するように重なる。密着面積が増え、なぜ心臓が爆発しないか不思議に思うくらいドキドキする。
そして、俺は異変に気付く。右手が痺れる、というか、痛い、というか、痛い!?本当に、夢じゃない!じんじんと右腕が焼ける。2つ目の心臓ができたのかというくらい脈打つ不快感。ことこと煮込まれているような持続性のある痛みが脳天に這い寄ってきた。
のた打ち回ろうにも、あいつが袈裟固めもどきに俺に抱きついているせいで動けない。
ああもう、どけっ、どけ!腕がびりびりびりびりびりするんだよっ!伸ばしたり曲げたりして辛さを紛らわしたいんだよ!残念かな、俺の気持ちは微塵も伝わらない。
「しあわせぇ、へへへ」
俺の気持ちを露知らず、あいつ、白水鏡華はのほほんと笑っている。表情は分からないが、能天気な声だった。それを聞いてしまうと、とたんに体の力が抜けた。怒るのも馬鹿らしいというか、どうでもよくなってくる。
すぅぅぅぅぅ。はぁーっ。えへへへ。
俺の耳に、息を胸いっぱいに吸っているような音が聞こえた。こいつは今、俺に顔をうずめて――っ、やっぱりどうでもいいわけが無い!頭の中で恥ずかしさと、初心な気持ちが爆ぜた。
白水は俺の首筋にその顔を埋めるにあたり、今や半身俺の上に乗っかっている。隣でくっつくだけでもいけないことのような気がしたのに、これはまずい。これでもか、と体重と暖かさを感じる。胸が柔らかい、という騒ぎではなく、回された腕も柔らかければ、お腹は控えめに筋肉が着いているのだろう弾力も兼ね備えているし、右足に絡まる足、ふくらはぎ、なんというか、ああもう、考えるな!小さく首を振った。おそらく顔は真っ赤だ。
平常心を焦がすような体勢でのしかかってきている白水だが、それで1つだけ助かっていることがある。右腕だ。体重のかかる主なところが胸になったので、多少息苦しくはあるが、腕の痺れは取れてきた、気がする。あー、動かさないと結局分かりそうはない。こいつに気が回り過ぎて痛みを感じていないだけかもしれないし。いや、怖がっても仕方が無い。動かせば分かる、とのしかかる彼女を掴み、引き剥がした。脇を持って掬い上げるように持ち上げたため、寝ながら高い高いをしているような体勢っぽくなる。
果たして、彼女は幸せそうな顔をしていた。不公平だ。そんな顔を見るともっとドキドキしてしまう。俺にだけこんなやきもきするような気分を味わわせておいて、そんな悩みのなさそうな寝顔だなんて。
ところで、俺、日端誠英(ひばた まさひで)は白水鏡華が好きだ。ずっとずっと前から好きだった。幼稚園の頃に、漢字で書かれた『誠英』が読めなくて『うー、まことえい?』と読んだ時から好きだ。ばーか、とからかう俺に、にこりと笑い『えへへ、覚えた!』と言ったあの顔は今でも忘れない。
今でも好きだ。中学校の頃別々の学校に行っていたが、それでもずっと好きだ。こんなにお前しか見えないのは変なのかもしれない。でも、そうだったとしても、後悔なんてないくらい好きだ。
だから、何でここにいるんだ。正直、あちこち撫で回したいくらい興奮している。今は行きも震えているんだ。こんなところを見られてしまったらきっと失望される。毛布の中に潜ってきたと言う事は、向こうからは俺を男としてより、まだ、幼馴染の親友って見ているのだろう。眠さがぶり返してきたのか、もやがかかる頭でそんな事を思った。急に感情が制御できなくなってくる。
どうにか落ち着かせるために深く息を吸った。胸いっぱいに甘い香りが入ってくる。だめだ、我慢できない。目元が熱くなってくる。体の底から煮えたぎる何かが湧いてくるような感覚だった。ああ、白水が、欲しい。
俺は、あいつからこういうことをされるまで『英君』として信頼されている。でも、それは、きっと幼馴染の友達としてなんだ。恋人としてじゃない。あいつはロマンチストだ。昔、『恋人をキスで起こすのが夢なんだ』なんて言っていた。だから、こんな状態って事は、俺は、恋人足り得ない、ということで――
――ああ、せめて、ファーストキスだけでも、奪っておきたい。鏡ちゃん、俺は、こんな男なんだ。俺はほんのり桜色に艶めく唇へと視線をさまよわせた。
カーテンが閉まっていて、やや薄暗い中で、そこはうっすらと濡れたように光っていた。しわが全くなく、コップの水がぎりぎりで溢れない状態を思わせるほど張りがある。引力を感じるが、妖しい、艶やかというよりは可憐な感じだろう。それでかつ、その薄い色は儚さを感じさせるのだからたまらない。
淡雪のような肌がさらにそれを際立たせている。雪原の中に一輪鮮やかな花があればそこに目が惹かれるような、そんな誘惑。奪ってしまおう。摘んでしまおう。汚してしまおう。俺以外の男に渡したくはない。
幸い、俺を信用しきっているのか、幸せそうな寝顔は崩れる気配がない。少し、触れる程度、どうにでもなりそうだ。乾いた笑いが口から漏れる。
白水の甘い匂いに当てられているのかもしれない。あの頃より変わらず、あの頃よりもっと魅力的になった彼女が独り占めできる場所にあるからかもしれない。この女を逃がしたくない。自分のものだと印をつけてしまいたい。そう思ってしまう。
流石に心の端には抵抗がある。こんな事をしたら二度と元には戻れないだろう。だが、坂道を転がり始めたように、欲望が止まらない。どうかしてると思う。それに、唇を奪うだけで終わらないかもしれない。でも、駄目だ。
白水を仰向けにしてベッドにそっと下ろす。さっきは逆に俺があいつを見下ろしている。その気になればマウントも取れる。間違いなく俺の思い通りにできる。それがたまらなく俺を興奮させ、それは麻薬のようだった。
「好きだ、白水」
俺は狙いを定め、まず、彼女の頬だ。頬へと顔を近づけていく。本当に肌が綺麗だ。しわもしみもにきびも荒れもなければ傷もない。新雪のようだ。今からそこに跡を付けるんだ。
触れたら溶けてしまいそう。でも、溶けるのならば、溶けてしまえ。そう思いながら唇を押し付けた。経験の無い俺は吸うなんて思いつかなかったし、見える所に跡が残るのは避けたかった。1秒、2秒、3秒。俺は一旦唇を離す。何にも例えられない感触と、熱が心地よかった。余韻を味わうように唇を湿らせ、もう一回顔を下げようとしたところで、俺が俺を嗤った。
いきなり唇を奪わなかったのもそうだが、やはり、俺は臆病なのだ。跡を付けたいと考え、欲に燃えながらも、やはり、周りの目が怖いんだ。公然と『俺の女だ』と叫ぶこともしなければ、示すこともする気がない。それ以前に、積極的に会おうともしなかっただろう。お前はだから恋人として好きな女から見られないんだ。好かれるための努力も、覚悟も何もかも足りな――
――口を歪めながら舌打ちをした。鋭く、湿った音がやけに部屋に響いた。俺は大きく息を吸う。そして吐く。
これは、決して気持ちを抑えて落ち着かせるためにしたわけではない。俺は、今度こそ、あいつの唇にキスをした。
その穏やかで控えめな――だからこそ扇情的な――唇の色とは裏腹に、とても熱かった。それが、たまらなく、より味わえるように顔を押し付けた。ぴくり、とかすかに白水の体が揺れた。口を塞がれたのだ、起きたのかもしれない。だが、構うものか。
……赤熱する焼き鏝に唇を押し当てているようだ。しかし、それで焦がれるのは、どうも白水への思いばかりらしい。
ああ、このまま、いっそ嫌われてもいい。この快感を思うままに貪りたい。熱に浮かされたようにただひたすらそう思った。
唇と唇。ただ表面が触れているだけの稚拙なキス。それでも、互いの薄い皮膚が熔け合って混ざったようで、陶酔してしまう。抱き締めていた時には感じえなかった熱、柔らかさ。口周りがそのまま底知れぬ沼に浸かってしまったようでもある。
俺の息も、あいつの息も、どんどん荒くなっていく。胸焼けとは違う、心地いいような、じれったいような、痺れるような、そんな熱が浅く、早く肺を動かす。その度、鼻から甘い空気がねっとりと入ってきて、焚き火に空気が送られるように、もっと熱く燃えていく。
白水の鼻息が聞こえる。今、口を離してしまえば、犬のように口をだらしなく開けて息をし始めそうな程荒い。控えめな胸がそれに合わせて上下していた。もこもこしているが、それほど厚手の生地のパジャマではないので体の輪郭がよく分かる。そこから鼓動が、聞こえてきそうで、俺と同じくあいつも興奮しているのかと思ってしまって、それがたまらなく興奮の材料となった。
俺と白水が今まさに1つになっている。自分のものになっている。俺の手の中で、俺の行為で息を荒げている。ああ、いい、たまらない。もっとだ。もっとだ!
……そうだ、唇を触れ合わせるだけで気持ちいいのなら、もっと深く繋がってしまったらどうなるのだろう。ふと俺は思った。貪欲に次を次をと求める気持ちは止まらない。
口付けをしたまま、唇を軽く開いてちろりと舌をと出した。白水の唇を包むようにそのまま唇を広げ、舐る。つうっと右から左、左から右に彼女の唇を舌でなぞるたびに、小さく彼女の体が跳ねる。鼻息も激しくなる。それはむずむずと嗜虐心を刺激していく。
もっと、可愛い反応を見たい。どうしたらどんな反応が返ってくるのか。そう思いながら丹念にキスを続けた。ぴくり、ぴくり、もぞもぞ、と動く白水。そこで、俺はまた頭の中に考えが浮かんだ。
これだけでこの反応なら、唇を吸ったなら、どんな反応を返してくれるのだろう、と。身を大きくよじるだろうか、声にならない声をあげるだろうか、どうだろう。どんな可愛い反応を返してくるのだろう。好きだ。
少しずつ吸う力を強くしながら舌を引っ込め、開いていた口を吸いやすいように少しすぼめる。同時に白水の唇をこじ開けるように舌を動かした。頬にキスをした時よりもやっぱり柔らかい。
――夢中で舌を進め、緩急を付けて唇を吸っている最中に、一瞬白水の体が強張った。
「む、んっ、ふっ、ふっ、ふっ」
ビクン、と今までで一番大きく白水が跳ねた。そして、一度では収まらない、と言わんばかりに華奢な体が2回3回と震える。だんだんとその動きは小さくなっていくが、驚いて口を離した後も、電池が切れかけたおもちゃの人形のようにカク、カクと揺れている。
もしかして、酸欠の症状――!?俺は冷水を浴びたように急に寒気を感じた。思わず、俺は白水を抱き起こした。未だ、白水は目を閉じたまま、体を震わせる。顔は――変わらず真っ白だ。
「だ、大丈夫か白水!」
「あっ、ふっ、はぁっ、はっ、はあ」
「おい、しっかりしろ!」
ハードな運動をした後のように息を切らす白水。とてもただ事とは思えない。俺は、、急に自分がとんでもないことをしたように思えた。
甘い香りがする。それがもっと白水をめちゃくちゃにしたいという欲を煽るが、俺は思いっきり自分の頬を叩いた。とりあえずは換気だ。白水に毛布をしっかり被せてから、ベッドから降りた。急いで窓に向かい、カーテンを開け、網戸もガラス戸もなく思いっきりそれらを開けた。
すぅっと冷たく澄んだ空気が部屋に流れていくのを感じる。同時に、部屋の中の濁ったような甘ったるい空気がもうもうと漏れ出すのも感じた。これで、少しは、と白水を見た。
……どうやら、少しは落ち着いたようで、毛布は大きく上下していた。それに安堵を感じると共に、苦しくなってくる。俺は――。
歯噛みをすると、口の中に甘さを感じた。今さらだが、だ。形容しがたいくらい、幸せな味がした。甘酸っぱいなんて、大嘘だった。
――俺は、何をした。結局目が覚めることなく未だベッドにいる白水を見ながら震える。俺は白水が好きだ。だけれど、今のは、何だ。ぞくりと背中に氷が張り付くような感覚がして、思いっきり頭を振った。視線を外し、窓を閉める。今日は雲ひとつなく、いい天気だった。それでも、張り付くような怖気が消えない。
「ん、んん。ふぁあ、あ!えへへへ」
可愛らしい声が聞こえた。
その何も知らない、と言う調子が俺に突き刺さる。いつも通り、そう何度も何度も何度も何度も自分に言い聞かせ、振り返った。そこには伸びをやめ、目をこすりながらこちらを見つめる白水がいる。こちらと目が合うと、彼女は嬉しそうににこりと笑った。それは思い出の中の姿より、想像していた姿より、ずっともっと綺麗なものだった。
16/01/23 18:30更新 / 夜想剣
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