夢と膝枕
走っている……騒音の中を。
探している……頼れる人を。
呼んでいる……大切な人を。
でも……なんにも返ってこない。
「パパー!ママー!」
滝の涙を流しながら必死に呼びかける。
返ってくるのは無しかない。
「うわあああ!!」
「なんて事だ……たかが愚民どもに押されるなんて!」
「愚民を舐めんじゃねぇ!お前たち、よくも今まで好き勝手にやってくれたな!」
「出て行け!この国から今すぐ出て行け!」
繰り返される戦乱の叫び。
圧倒的たる革命の始まり。
そして今から……この国は0へと変貌を遂げる。
この戦乱は……全ての引き金。
「パパー!ママー!」
泣き叫びも空しいばかり。
次第に募る寂しさ。
どうしようもない状況下。
「待てよ」
「ひぐっ……ふぇ……?」
そんな中、明らかに自分を呼びかける声が聞こえた。
闇雲に走るのを止めて、ゆっくりと背後を振り返ってみる。
「小僧、そんなに泣いてどうしたんだ?」
自分よりも遥かに大きい体を見上げる。
自分が探している父と同じくらい大きい男の人だ。
「……あ……あぁ……」
「そう怖がるな。何もしない」
男の人はこちらの警戒心を解こうと、やんわりとした口調で話しかける。
……不思議だった。
今まで会ったことの無い人なのに……。
なんだか……変な感じが……。
「この野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
……ここでプツリと、昔の記憶で構成された映像が途切れた。
………………。
…………。
……。
「……夢か……」
徐に瞼が開かれて、俺はベッドの上で上半身を起こして軽く伸びをした。
しかしまぁ……夢とはいえ、あんな昔の記憶を見る羽目になるなんてなぁ。
カリバルナの革命……さっき見た夢こそ、俺の故郷が生まれ変わる運命の日だった。
あの日に叔父さんが国王になったんだよな。そう言えば叔父さんとアミナさん、元気にしてるかな……。
……最後のほうで出会った、あの巨体の男。
あいつは……確か……。
「スゥ……スゥ……」
ふと隣に視線を移すと、瞳を閉じて安らかに眠っているサフィアの姿が見れた。
そう言えば昨日は……同業者のアジトに潜入して、財宝を奪って、それを宝物庫に納めてから船長室に戻って……その後二人でヤッたんだっけな。
「よいしょっと……」
夢のことを一々考えてても切が無い。とりあえず起きよう。
サフィアを起こさないようにそっとベッドから降りて部屋のカーテンを開けた。
今日も良い天気だ。波は穏やかで雲も白い。東から降り注がれる太陽の光が身体に染み渡るようだ。
「……さてと」
今日も一日頑張ろう。
そう思いながら、俺は身支度を整え始めた。
〜〜〜(ピュラ視点)〜〜〜
「ふんふんふふ〜ん♪」
このお船の料理人をやってる稲荷の楓さんに、朝ごはんで使うみそを持ってくるように頼まれて、私ははな歌を歌いながら食りょうこまで向かっていた。
「卵焼き〜♪卵焼き〜♪」
今日の朝ごはんには私の大好きな甘い卵焼きが出るらしいから、朝からちょっと幸せ!
しかも楓さんが、『お味噌を持ってきてくれたら、ピュラちゃんにはお礼に卵焼きを一個オマケしますよ』と言ってくれたから、とっても得した気分だ!
「それにしても……これすっごく便利!」
ちなみに私はフワフワと宙に浮かぶ浮き輪に入って、尾びれをバタつかせて移動している。
この浮き輪……人魚の魔物が地上で移動する為に作られた物で、バルーンフロートと呼ばれる物らしい。前に小さな島に立ち寄った際に、お兄ちゃんが刑部狸さんから買ってくれたものだ。
浮き輪に体を通すだけで海中と同じ方法で地上を移動できる優れもので、お陰でお船の中での移動が楽になったし、私もすっかり気に入っちゃった。
今度は町の中でも使ってみたいなぁ……。
「……あ、ここだ」
そう思ってるうちに食りょうこの前まで着いた。
早くみそを持っていこう。
そう思いながらゆっくりとドアを開けた。
「……あれ?」
そして中に入ったら……何かがおかしいことに気付いた。
奥の方に人のかげのようなものが見える。私よりだれか先に来たのかな?
「そぉ〜……」
物音を立てないようにこっそりとかげの方へ歩み寄る。
気付かれないようにゆっくりと……。
「……え!?」
「……あ……」
そこには……むしゃむしゃと干し肉をかじってる人がいた。
しかもその人は……このお船の人じゃなかった。
〜〜〜数時間後(キッド視点)〜〜〜
「……ふぅ……」
「釣れませんね……」
「ま、そんなに事を急いでも仕方ないさ。こうしてジッと待つのも釣りの醍醐味って奴だ」
「そういうものでしょうか」
午後2時30分頃……俺は船の甲板にて釣りをしていた。船長室から持ち運んできた椅子に腰掛け、ジッと獲物が餌に食らいつくのを待っている。しかし、始めてから30分は経つが一向に釣れる気配が無い。俺の隣に座っているサフィアもジッと釣竿を眺めているが、時間が経つにつれて段々暇そうな表情を浮かべてきた。
「なぁに、もうすぐ活きの良い大物が釣れるさ」
「だと良いのですけど……」
「……あまり期待してないだろ?」
「そんな事無いですよ……ふぁ〜……」
サフィアが眠そうに……尚且つ上品に口を押さえて欠伸をした。
まぁ、今が暇な状況下ってのもあるんだろうけど、最近サフィアも寝不足だったからな。昨夜も夜遅くまで激しくヤッちまったし……。
「……眠いか?」
「はい、少しだけ……」
「……我慢するなよ。なんだったら寝ていいぞ」
「え?此処でですか?」
「……ほら、ここに枕があるし」
流石に起こしたまま待たせるのも悪いと思い、俺は自分の腿をポンポンと叩いた。俺の言いたい事を察したのか、サフィアはさっきまでの暇そうな表情を消して、パッと明るい笑みを浮かべた。
「いいのですか?」
「ああ」
「膝枕してくれるのですか?」
「俺のでよかったらな」
「……嬉しいです♪では、失礼しますね♪」
さっきまでの退屈そうな様子は何処へ行ったのやら。サフィアは子供みたいに嬉しそうに笑いながら俺の腿に頭を乗せた。
「あぁ……温かい……」
「おいおい、そんなに動くなよ。くすぐったいだろ」
「うふふ、ごめんなさい。でもキッドに膝枕してもらうの久しぶりですから、つい嬉しくて……♪」
「男の膝枕なんて、そんなに良いものとは思えないが……」
「ちょっと違いますよ。私はキッドのお膝だから嬉しいのです。大好きな旦那様にこうして寄り添えるのが、とても幸せなのです」
「そ……そうか?ま、まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいな」
サフィアは寝そべったまま、主人に甘える飼い猫のように俺の足に頬擦りをしてきた。俺もサフィアの綺麗な青い髪を撫でて、その好意を受け止めた。
普段はお淑やかなお姉さんって雰囲気なのに、このように俺の前では可愛い姿も見せてくる。まぁ、そこも含めて好きになってるんだけどな。
「でも……こうしているとドキドキして、逆に眠れそうにないですね」
「あ、マジか?じゃあ止める?」
「嫌です。もう少しだけこのままでいます」
「言うと思った、こいつめ」
「あん♪キッドぉ……そんなにホッペ突かないでください。くすぐったいですぅ」
……これも幸せ呆けって奴か。二人だけの世界に入り浸ってるのを自覚している。
こんなところ他の誰かに見られたら……。
「……はっ!?」
……本能的に背後からの視線を感じた。
恐る恐る振り向いて見ると……。
「……お姉ちゃんって甘えん坊だね」
「ピュ、ピュラ……何時からそこに?」
「う〜んとね……お兄ちゃんがお姉ちゃんに膝枕してあげるところから」
「それほぼ最初から……」
そこには、ニヤニヤと笑みを浮かべている俺の妹……マーメイドのピュラが居た。
「あう〜……よりによってこんなところを見られるなんて……」
サフィアも姉としての自覚はあるのか、見られていたと知った途端に、恥じらいを表すかのように真っ赤になった顔を両手で覆った。
……それでも俺の腿から頭を離そうとしない。これだけはどうしても止めたくないのだろうか。
「でもいいなぁ。お兄ちゃんの膝枕……」
「そうか?だったらピュラも来るか?」
「ありがとう。そうしたいけど……先におやつ食べたいから、後で私にも膝枕してくれる?」
「おお、いいぞ」
「えへへ♪」
おやつか……もうそんな時間になったのか。
俺もあと一時間くらい経ったら一先ず切り上げようかな。
「……むぅ〜……」
「ん?」
すると、サフィアが不貞腐れた表情で俺のズボンをギュッと握ってきた。
「おい、どうしたんだよ?」
「……キッドは私の夫なのに……」
「あ、ああ……そうだが、どうかしたか?」
「キッドの膝枕……独り占めしたいです……」
……あぁ、そういう訳か。所謂ヤキモチって奴か。
まぁ悪い気はしないが、なにも妹相手にムキにならなくても……。
「そう言うなよ。また今度サフィアにもしてやるからさ」
「……絶対にしてくださいね?」
「ああ」
「お姉ちゃんって嫉妬深いね」
「むぅっ!」
ピュラのからかいに対して、自分のものだとでも言わんばかりに、サフィアは俺の腰に腕を回した。
……やれやれ。どっちが子供だか分からんな。
「それじゃあ先に行ってるね!」
「おう!」
ちょっとした苦笑いを浮かべながら、ピュラはダイニングへと去って行った。
「……キッドは私のものですもん!」
「ははは……」
ここぞとばかりに甘えてくるサフィア。心の片隅にある小さい子供っぽさは相変わらずだ。
……と言うか、全然眠そうに見えないが。
「そう言えばサフィア」
「はい?」
「何時までこうしている?」
「気が済むまでです」
「……せめてあと一時間だけにしてくれ」
「短いです……」
「いや長い方だって」
そんな感じで、サフィアとの和やかな時間は過ぎていった……。
〜〜〜(シルク視点)〜〜〜
「……駄目だ。やっぱり落ち着かない」
シングルベッド、クローゼット、少し小さめのテーブルと椅子、そして落ち着いた色合いのカーテン。その隙間から差し込まれる太陽の光。
こうも寛げる空間に居ると、逆に安らげない。海賊船に侵入しているとなると、やはり内心穏やかでなくなるものだ。何時見つかってもおかしくない。
ベッドに寝転んでもさほど問題ないのだろうが……状況が状況だからな。
「なんとか話を聞いてくれてが……ある意味ここからが正念場だな」
さっき出会ったあの子……こちらが正直に話をしたら快く承諾してくれたが、他の船員だったらそうはいかなかっただろう。ある意味、運が良かったと思うべきだ。
問題は……何時どのタイミングで船から脱出するかだ。
ガチャッ
「お待たせ〜。おやつ持ってきたよ」
「!……ああ、君か」
急に扉が開いて誰かが入ってきた。反射的に身構えたが、そこには私が知ってる子がいた。
この船で旅をしている子供のマーメイド……ピュラちゃんだ。
「楓さんがホットケーキを焼いてくれたんだ。一緒に食べよう!」
そう話すピュラちゃんはホットケーキの塔とアイスティーが乗ってるお盆を持っていた。
飲み物も取り皿もきっちりと二人分用意してくれたのか。ここまで運ぶのも大変だったろうに……。
「私の事は気遣わなくてもいいのに……」
「でも……シルクさんもちゃんとした物を食べてないんでしょ?なんでもしっかり食べなきゃダメだよ」
「……ありがとう」
小さな子の気持ちに感謝しながら、私はピュラちゃんから受け取ったお盆をテーブルに乗せた。
「それじゃ、いただきます!」
「ふふ……いただきます」
ピュラちゃんと一緒に椅子に座ったところで、早速ホットケーキをいただくことにした。
一番上に積まれているホットケーキをピュラちゃんの皿に移して、その次に私の皿に二枚目のホットケーキを移した。
「ありがとう!モグモグ……美味しい!」
「ふふ……本当に美味しそうに食べるんだな」
「だって本当に美味しいんだもん!シルクさんも食べてみてよ!」
「では……うん、美味いな」
「でしょ!」
ふんわりとしたケーキの食感と、メープルシロップの甘味が抜群に合う。海賊船でこんなに美味いものを食べれるとは思わなかった。
おっと、浮かれている場合でもなかったか。
「…………」
「ん?どうしたの?」
「あ、いや、見つからないかどうか不安になってきてな」
「大丈夫だよ。このお部屋は誰も使ってないし、お船の人たちも滅多に来ないから心配ないよ」
「そうか……」
あの時……食糧庫にてピュラちゃんに見つかった時はどうしようかと思った。干し肉をかじっている最中でも警戒しているつもりではあった。だがピュラちゃんは不思議な道具で宙に浮かんで移動する……足音なんて出るわけがない。
だが落ち着いて事情を話したら、ピュラちゃんは私を信じてくれた。敵でないことも、この船に危害を加える気も無いことも。
まぁ……私から見れば、海賊船にこんな小さな子供が乗っていること自体、不思議でならないが。
「でも……やっぱりお兄ちゃんに正直に言った方が良いんじゃないかな?」
「いや、それは出来ない。別に君の兄を疑ってる訳ではないのだが、これは個人的な問題だし、会ったばかりの人間に頼む訳にもいかないからな」
「そうかなぁ……。お兄ちゃん優しいから、素直に言えば聞き入れてくれると思うけど……」
事情を説明したらピュラちゃんはこの海賊船の船長キッドに会うよう促したが、私がそれを拒んだら、この空き部屋まで案内してくれた。
ここは誰も使ってないから安心していいと言われているが、それでも警戒は怠らない方がいいだろう。
第一、ここが海賊船であることを忘れてはならない。ピュラが言うに、船長キッドは優しい男だと言うが、海賊であるのは事実。初見の人間の話を素直に聞き入れてくれるとは思い難い。こっそりと忍び込み、こっそりと立ち去った方が無難な手段だ。
「……まぁでも、シルクさんがそう言うなら仕方ないか」
「すまないな、ピュラちゃん。迷惑を掛けてしまって……」
「ううん、気にしないで!応援してるよ!」
「……ありがとう」
こんなに可愛くて優しい子を巻き込むのは心が痛むが、現状こうするしかない。
もう少しだけ、ピュラちゃんの厚意に甘えさせてもらおう。
「モグモグ……あ、最後の一枚……」
「……ほら、ピュラちゃんにあげるよ」
「え?い、いいよ!シルクさんこそちゃんと食べないと!」
「これは元々ピュラちゃんのだから、ピュラちゃんが食べるべきだ」
「う〜ん……それじゃあ半分こしよ!ね?」
「ピュラちゃん……ありがとう」
「えへへ!」
……今目の前にいる子供の笑顔が、何よりも輝いて見えた。
〜〜〜(ガロ視点)〜〜〜
コンコン
「お館様、ガロでございます」
「おう、入って来い」
ここは我が主……ドレーク様が所有する海賊船、ゴールディ・ギガントレオ。
船長室の扉を軽く叩くと、奥からお館様の声が聞こえた。
ガチャッ
「失礼いたします」
お館様から入室の許可を頂き、丁寧に扉を開けて船長室へと入った。
大きな出窓から注がれる日差し、それを受け止める熊の毛皮で出来たマット、そして壁に掛けられている大き目の剣。相も変わらず立派な部屋だ。
「よう、来たか。とりあえず、こっちに来い」
「ははっ」
まず最初に見えたのは、大きな椅子に腰掛け、広い机に両足を乗せて、右手にかじりかけのリンゴを握られているお館様……もといドレーク船長だ。
お館様の命どおり、某はお館様の目前まで歩み寄った。
「ガブッ、ムシャムシャ……わざわざスマンな。例の大仕事の後だってのに」
「滅相もございません。お館様の為あらば、この身も惜しまず尽くしてみせます」
「ったく、相変わらず義理堅い野郎だ」
そう言いながら、お館様は右手のリンゴを一口かじった。
相変わらずリンゴがお好きなようだ。ただ、焼きリンゴに限っては『邪道だあんなもん!リンゴは生で食うべきだ!阿呆んだら!』とのことで。
「お館様、某から報告したい事があるのですが」
「おっと、そうだったな」
とりあえず話を進める為、恐縮ながら某から話を切り出した。
「以前確保したドクター・アルグノフですが……」
「なんだ?あの爺さん、なんかやらかしたか?」
「いえ、特に問題は起こしておりません。ただ、一つ要求したい事があるようでして……」
「あん?何をだ?」
つい先日に確保したドクター・アルグノフ……あの日から我が船に乗せている老人だ。
我々の諸事情で身柄を確保する事になったが……。
「お館様に直接お会いして、話がしたいと……」
「……面倒だな。まだ警戒してんのか?」
「警戒と言いますか……どうしてもお館様に聞きたい話があるとのことで」
「……しゃーねーな。今晩、時間が空いたら会いに行くか」
報告を聞くと、お館様は面倒くさそうな表情を浮かべながらも渋々と承諾した。
……おお、そうだ。ついでに聞いておこう。
「時にお館様、先日捕らえた金髪の女ですが……」
そう……某が聞きたいのは、以前アルグノフと共に船に乗せた金髪の女だ。
最初こそ弓矢で抵抗してきたが、結局は某の手によってあっさりと捕まってしまった。どうするべきかお館様も迷ったが、あのまま島に残すと後が面倒になると判断し、結局はこの船に乗せてしまった。
正直なところ扱いに困る女だが……。
「あの女はいかがいたしましょうか?」
「あー、あいつか……正直なところ、あの金髪女に用は無いんだよな」
「では……」
「気が済むまで適当に遊んでやれ。後は好きにしていいぞ。海に捨てても構わねぇ」
「御意」
適当に遊んでやれ、か……まぁ、つまりそう言う意味であろうな。
お言葉通り、こちらで処理させてもらおう。
「ご報告は以上になります。何かご不明な点、もしくは命令などはございますか?」
「特に無いな。今日はゆっくり休んでおけ」
「恐れ入ります」
勿体無きお言葉を頂き、退出しようと思った矢先、お館様の机に置かれているアクセサリーが目に留まった。
これは……心なしか見覚えがある。しかし、お館様はこのような物を身に着けていないような……?
「お館様、それは一体……?」
「ん?ああ、これか」
お館様は某が指差した方向へ視線を移すと、机に置いてあるアクセサリーへとマシンガンの左腕を伸ばし……。
グニャグニャ……ジャキン!
マシンガンだった左腕が粘土のように柔らかくなって型崩れ、鋼鉄の人間の手に変形した。そして固くなった鋼鉄の左手でアクセサリーを取り出し、某の目の前で掲げて見せた。
太陽のシンボルが刻まれている銀色のブレスレット……とても綺麗な逸品だ。しかし、そんなもの何時から手にしていたのであろうか?
「これはあいつが身に着けてたブレスレットだ。見たところ、相当の価値がありそうな逸品だがな。上手くやれば高値で売れるだろうよ」
「あいつ……ああ、なるほど」
お館様が言う『あいつ』とは……昨日会った女の事であろう。
名前は確か……。
「ルミアス……でしたね」
「そうだ」
そうだ……その太陽のブレスレットは、ルミアスと言う名のエルフが着けていたものだった。
探している……頼れる人を。
呼んでいる……大切な人を。
でも……なんにも返ってこない。
「パパー!ママー!」
滝の涙を流しながら必死に呼びかける。
返ってくるのは無しかない。
「うわあああ!!」
「なんて事だ……たかが愚民どもに押されるなんて!」
「愚民を舐めんじゃねぇ!お前たち、よくも今まで好き勝手にやってくれたな!」
「出て行け!この国から今すぐ出て行け!」
繰り返される戦乱の叫び。
圧倒的たる革命の始まり。
そして今から……この国は0へと変貌を遂げる。
この戦乱は……全ての引き金。
「パパー!ママー!」
泣き叫びも空しいばかり。
次第に募る寂しさ。
どうしようもない状況下。
「待てよ」
「ひぐっ……ふぇ……?」
そんな中、明らかに自分を呼びかける声が聞こえた。
闇雲に走るのを止めて、ゆっくりと背後を振り返ってみる。
「小僧、そんなに泣いてどうしたんだ?」
自分よりも遥かに大きい体を見上げる。
自分が探している父と同じくらい大きい男の人だ。
「……あ……あぁ……」
「そう怖がるな。何もしない」
男の人はこちらの警戒心を解こうと、やんわりとした口調で話しかける。
……不思議だった。
今まで会ったことの無い人なのに……。
なんだか……変な感じが……。
「この野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
……ここでプツリと、昔の記憶で構成された映像が途切れた。
………………。
…………。
……。
「……夢か……」
徐に瞼が開かれて、俺はベッドの上で上半身を起こして軽く伸びをした。
しかしまぁ……夢とはいえ、あんな昔の記憶を見る羽目になるなんてなぁ。
カリバルナの革命……さっき見た夢こそ、俺の故郷が生まれ変わる運命の日だった。
あの日に叔父さんが国王になったんだよな。そう言えば叔父さんとアミナさん、元気にしてるかな……。
……最後のほうで出会った、あの巨体の男。
あいつは……確か……。
「スゥ……スゥ……」
ふと隣に視線を移すと、瞳を閉じて安らかに眠っているサフィアの姿が見れた。
そう言えば昨日は……同業者のアジトに潜入して、財宝を奪って、それを宝物庫に納めてから船長室に戻って……その後二人でヤッたんだっけな。
「よいしょっと……」
夢のことを一々考えてても切が無い。とりあえず起きよう。
サフィアを起こさないようにそっとベッドから降りて部屋のカーテンを開けた。
今日も良い天気だ。波は穏やかで雲も白い。東から降り注がれる太陽の光が身体に染み渡るようだ。
「……さてと」
今日も一日頑張ろう。
そう思いながら、俺は身支度を整え始めた。
〜〜〜(ピュラ視点)〜〜〜
「ふんふんふふ〜ん♪」
このお船の料理人をやってる稲荷の楓さんに、朝ごはんで使うみそを持ってくるように頼まれて、私ははな歌を歌いながら食りょうこまで向かっていた。
「卵焼き〜♪卵焼き〜♪」
今日の朝ごはんには私の大好きな甘い卵焼きが出るらしいから、朝からちょっと幸せ!
しかも楓さんが、『お味噌を持ってきてくれたら、ピュラちゃんにはお礼に卵焼きを一個オマケしますよ』と言ってくれたから、とっても得した気分だ!
「それにしても……これすっごく便利!」
ちなみに私はフワフワと宙に浮かぶ浮き輪に入って、尾びれをバタつかせて移動している。
この浮き輪……人魚の魔物が地上で移動する為に作られた物で、バルーンフロートと呼ばれる物らしい。前に小さな島に立ち寄った際に、お兄ちゃんが刑部狸さんから買ってくれたものだ。
浮き輪に体を通すだけで海中と同じ方法で地上を移動できる優れもので、お陰でお船の中での移動が楽になったし、私もすっかり気に入っちゃった。
今度は町の中でも使ってみたいなぁ……。
「……あ、ここだ」
そう思ってるうちに食りょうこの前まで着いた。
早くみそを持っていこう。
そう思いながらゆっくりとドアを開けた。
「……あれ?」
そして中に入ったら……何かがおかしいことに気付いた。
奥の方に人のかげのようなものが見える。私よりだれか先に来たのかな?
「そぉ〜……」
物音を立てないようにこっそりとかげの方へ歩み寄る。
気付かれないようにゆっくりと……。
「……え!?」
「……あ……」
そこには……むしゃむしゃと干し肉をかじってる人がいた。
しかもその人は……このお船の人じゃなかった。
〜〜〜数時間後(キッド視点)〜〜〜
「……ふぅ……」
「釣れませんね……」
「ま、そんなに事を急いでも仕方ないさ。こうしてジッと待つのも釣りの醍醐味って奴だ」
「そういうものでしょうか」
午後2時30分頃……俺は船の甲板にて釣りをしていた。船長室から持ち運んできた椅子に腰掛け、ジッと獲物が餌に食らいつくのを待っている。しかし、始めてから30分は経つが一向に釣れる気配が無い。俺の隣に座っているサフィアもジッと釣竿を眺めているが、時間が経つにつれて段々暇そうな表情を浮かべてきた。
「なぁに、もうすぐ活きの良い大物が釣れるさ」
「だと良いのですけど……」
「……あまり期待してないだろ?」
「そんな事無いですよ……ふぁ〜……」
サフィアが眠そうに……尚且つ上品に口を押さえて欠伸をした。
まぁ、今が暇な状況下ってのもあるんだろうけど、最近サフィアも寝不足だったからな。昨夜も夜遅くまで激しくヤッちまったし……。
「……眠いか?」
「はい、少しだけ……」
「……我慢するなよ。なんだったら寝ていいぞ」
「え?此処でですか?」
「……ほら、ここに枕があるし」
流石に起こしたまま待たせるのも悪いと思い、俺は自分の腿をポンポンと叩いた。俺の言いたい事を察したのか、サフィアはさっきまでの暇そうな表情を消して、パッと明るい笑みを浮かべた。
「いいのですか?」
「ああ」
「膝枕してくれるのですか?」
「俺のでよかったらな」
「……嬉しいです♪では、失礼しますね♪」
さっきまでの退屈そうな様子は何処へ行ったのやら。サフィアは子供みたいに嬉しそうに笑いながら俺の腿に頭を乗せた。
「あぁ……温かい……」
「おいおい、そんなに動くなよ。くすぐったいだろ」
「うふふ、ごめんなさい。でもキッドに膝枕してもらうの久しぶりですから、つい嬉しくて……♪」
「男の膝枕なんて、そんなに良いものとは思えないが……」
「ちょっと違いますよ。私はキッドのお膝だから嬉しいのです。大好きな旦那様にこうして寄り添えるのが、とても幸せなのです」
「そ……そうか?ま、まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいな」
サフィアは寝そべったまま、主人に甘える飼い猫のように俺の足に頬擦りをしてきた。俺もサフィアの綺麗な青い髪を撫でて、その好意を受け止めた。
普段はお淑やかなお姉さんって雰囲気なのに、このように俺の前では可愛い姿も見せてくる。まぁ、そこも含めて好きになってるんだけどな。
「でも……こうしているとドキドキして、逆に眠れそうにないですね」
「あ、マジか?じゃあ止める?」
「嫌です。もう少しだけこのままでいます」
「言うと思った、こいつめ」
「あん♪キッドぉ……そんなにホッペ突かないでください。くすぐったいですぅ」
……これも幸せ呆けって奴か。二人だけの世界に入り浸ってるのを自覚している。
こんなところ他の誰かに見られたら……。
「……はっ!?」
……本能的に背後からの視線を感じた。
恐る恐る振り向いて見ると……。
「……お姉ちゃんって甘えん坊だね」
「ピュ、ピュラ……何時からそこに?」
「う〜んとね……お兄ちゃんがお姉ちゃんに膝枕してあげるところから」
「それほぼ最初から……」
そこには、ニヤニヤと笑みを浮かべている俺の妹……マーメイドのピュラが居た。
「あう〜……よりによってこんなところを見られるなんて……」
サフィアも姉としての自覚はあるのか、見られていたと知った途端に、恥じらいを表すかのように真っ赤になった顔を両手で覆った。
……それでも俺の腿から頭を離そうとしない。これだけはどうしても止めたくないのだろうか。
「でもいいなぁ。お兄ちゃんの膝枕……」
「そうか?だったらピュラも来るか?」
「ありがとう。そうしたいけど……先におやつ食べたいから、後で私にも膝枕してくれる?」
「おお、いいぞ」
「えへへ♪」
おやつか……もうそんな時間になったのか。
俺もあと一時間くらい経ったら一先ず切り上げようかな。
「……むぅ〜……」
「ん?」
すると、サフィアが不貞腐れた表情で俺のズボンをギュッと握ってきた。
「おい、どうしたんだよ?」
「……キッドは私の夫なのに……」
「あ、ああ……そうだが、どうかしたか?」
「キッドの膝枕……独り占めしたいです……」
……あぁ、そういう訳か。所謂ヤキモチって奴か。
まぁ悪い気はしないが、なにも妹相手にムキにならなくても……。
「そう言うなよ。また今度サフィアにもしてやるからさ」
「……絶対にしてくださいね?」
「ああ」
「お姉ちゃんって嫉妬深いね」
「むぅっ!」
ピュラのからかいに対して、自分のものだとでも言わんばかりに、サフィアは俺の腰に腕を回した。
……やれやれ。どっちが子供だか分からんな。
「それじゃあ先に行ってるね!」
「おう!」
ちょっとした苦笑いを浮かべながら、ピュラはダイニングへと去って行った。
「……キッドは私のものですもん!」
「ははは……」
ここぞとばかりに甘えてくるサフィア。心の片隅にある小さい子供っぽさは相変わらずだ。
……と言うか、全然眠そうに見えないが。
「そう言えばサフィア」
「はい?」
「何時までこうしている?」
「気が済むまでです」
「……せめてあと一時間だけにしてくれ」
「短いです……」
「いや長い方だって」
そんな感じで、サフィアとの和やかな時間は過ぎていった……。
〜〜〜(シルク視点)〜〜〜
「……駄目だ。やっぱり落ち着かない」
シングルベッド、クローゼット、少し小さめのテーブルと椅子、そして落ち着いた色合いのカーテン。その隙間から差し込まれる太陽の光。
こうも寛げる空間に居ると、逆に安らげない。海賊船に侵入しているとなると、やはり内心穏やかでなくなるものだ。何時見つかってもおかしくない。
ベッドに寝転んでもさほど問題ないのだろうが……状況が状況だからな。
「なんとか話を聞いてくれてが……ある意味ここからが正念場だな」
さっき出会ったあの子……こちらが正直に話をしたら快く承諾してくれたが、他の船員だったらそうはいかなかっただろう。ある意味、運が良かったと思うべきだ。
問題は……何時どのタイミングで船から脱出するかだ。
ガチャッ
「お待たせ〜。おやつ持ってきたよ」
「!……ああ、君か」
急に扉が開いて誰かが入ってきた。反射的に身構えたが、そこには私が知ってる子がいた。
この船で旅をしている子供のマーメイド……ピュラちゃんだ。
「楓さんがホットケーキを焼いてくれたんだ。一緒に食べよう!」
そう話すピュラちゃんはホットケーキの塔とアイスティーが乗ってるお盆を持っていた。
飲み物も取り皿もきっちりと二人分用意してくれたのか。ここまで運ぶのも大変だったろうに……。
「私の事は気遣わなくてもいいのに……」
「でも……シルクさんもちゃんとした物を食べてないんでしょ?なんでもしっかり食べなきゃダメだよ」
「……ありがとう」
小さな子の気持ちに感謝しながら、私はピュラちゃんから受け取ったお盆をテーブルに乗せた。
「それじゃ、いただきます!」
「ふふ……いただきます」
ピュラちゃんと一緒に椅子に座ったところで、早速ホットケーキをいただくことにした。
一番上に積まれているホットケーキをピュラちゃんの皿に移して、その次に私の皿に二枚目のホットケーキを移した。
「ありがとう!モグモグ……美味しい!」
「ふふ……本当に美味しそうに食べるんだな」
「だって本当に美味しいんだもん!シルクさんも食べてみてよ!」
「では……うん、美味いな」
「でしょ!」
ふんわりとしたケーキの食感と、メープルシロップの甘味が抜群に合う。海賊船でこんなに美味いものを食べれるとは思わなかった。
おっと、浮かれている場合でもなかったか。
「…………」
「ん?どうしたの?」
「あ、いや、見つからないかどうか不安になってきてな」
「大丈夫だよ。このお部屋は誰も使ってないし、お船の人たちも滅多に来ないから心配ないよ」
「そうか……」
あの時……食糧庫にてピュラちゃんに見つかった時はどうしようかと思った。干し肉をかじっている最中でも警戒しているつもりではあった。だがピュラちゃんは不思議な道具で宙に浮かんで移動する……足音なんて出るわけがない。
だが落ち着いて事情を話したら、ピュラちゃんは私を信じてくれた。敵でないことも、この船に危害を加える気も無いことも。
まぁ……私から見れば、海賊船にこんな小さな子供が乗っていること自体、不思議でならないが。
「でも……やっぱりお兄ちゃんに正直に言った方が良いんじゃないかな?」
「いや、それは出来ない。別に君の兄を疑ってる訳ではないのだが、これは個人的な問題だし、会ったばかりの人間に頼む訳にもいかないからな」
「そうかなぁ……。お兄ちゃん優しいから、素直に言えば聞き入れてくれると思うけど……」
事情を説明したらピュラちゃんはこの海賊船の船長キッドに会うよう促したが、私がそれを拒んだら、この空き部屋まで案内してくれた。
ここは誰も使ってないから安心していいと言われているが、それでも警戒は怠らない方がいいだろう。
第一、ここが海賊船であることを忘れてはならない。ピュラが言うに、船長キッドは優しい男だと言うが、海賊であるのは事実。初見の人間の話を素直に聞き入れてくれるとは思い難い。こっそりと忍び込み、こっそりと立ち去った方が無難な手段だ。
「……まぁでも、シルクさんがそう言うなら仕方ないか」
「すまないな、ピュラちゃん。迷惑を掛けてしまって……」
「ううん、気にしないで!応援してるよ!」
「……ありがとう」
こんなに可愛くて優しい子を巻き込むのは心が痛むが、現状こうするしかない。
もう少しだけ、ピュラちゃんの厚意に甘えさせてもらおう。
「モグモグ……あ、最後の一枚……」
「……ほら、ピュラちゃんにあげるよ」
「え?い、いいよ!シルクさんこそちゃんと食べないと!」
「これは元々ピュラちゃんのだから、ピュラちゃんが食べるべきだ」
「う〜ん……それじゃあ半分こしよ!ね?」
「ピュラちゃん……ありがとう」
「えへへ!」
……今目の前にいる子供の笑顔が、何よりも輝いて見えた。
〜〜〜(ガロ視点)〜〜〜
コンコン
「お館様、ガロでございます」
「おう、入って来い」
ここは我が主……ドレーク様が所有する海賊船、ゴールディ・ギガントレオ。
船長室の扉を軽く叩くと、奥からお館様の声が聞こえた。
ガチャッ
「失礼いたします」
お館様から入室の許可を頂き、丁寧に扉を開けて船長室へと入った。
大きな出窓から注がれる日差し、それを受け止める熊の毛皮で出来たマット、そして壁に掛けられている大き目の剣。相も変わらず立派な部屋だ。
「よう、来たか。とりあえず、こっちに来い」
「ははっ」
まず最初に見えたのは、大きな椅子に腰掛け、広い机に両足を乗せて、右手にかじりかけのリンゴを握られているお館様……もといドレーク船長だ。
お館様の命どおり、某はお館様の目前まで歩み寄った。
「ガブッ、ムシャムシャ……わざわざスマンな。例の大仕事の後だってのに」
「滅相もございません。お館様の為あらば、この身も惜しまず尽くしてみせます」
「ったく、相変わらず義理堅い野郎だ」
そう言いながら、お館様は右手のリンゴを一口かじった。
相変わらずリンゴがお好きなようだ。ただ、焼きリンゴに限っては『邪道だあんなもん!リンゴは生で食うべきだ!阿呆んだら!』とのことで。
「お館様、某から報告したい事があるのですが」
「おっと、そうだったな」
とりあえず話を進める為、恐縮ながら某から話を切り出した。
「以前確保したドクター・アルグノフですが……」
「なんだ?あの爺さん、なんかやらかしたか?」
「いえ、特に問題は起こしておりません。ただ、一つ要求したい事があるようでして……」
「あん?何をだ?」
つい先日に確保したドクター・アルグノフ……あの日から我が船に乗せている老人だ。
我々の諸事情で身柄を確保する事になったが……。
「お館様に直接お会いして、話がしたいと……」
「……面倒だな。まだ警戒してんのか?」
「警戒と言いますか……どうしてもお館様に聞きたい話があるとのことで」
「……しゃーねーな。今晩、時間が空いたら会いに行くか」
報告を聞くと、お館様は面倒くさそうな表情を浮かべながらも渋々と承諾した。
……おお、そうだ。ついでに聞いておこう。
「時にお館様、先日捕らえた金髪の女ですが……」
そう……某が聞きたいのは、以前アルグノフと共に船に乗せた金髪の女だ。
最初こそ弓矢で抵抗してきたが、結局は某の手によってあっさりと捕まってしまった。どうするべきかお館様も迷ったが、あのまま島に残すと後が面倒になると判断し、結局はこの船に乗せてしまった。
正直なところ扱いに困る女だが……。
「あの女はいかがいたしましょうか?」
「あー、あいつか……正直なところ、あの金髪女に用は無いんだよな」
「では……」
「気が済むまで適当に遊んでやれ。後は好きにしていいぞ。海に捨てても構わねぇ」
「御意」
適当に遊んでやれ、か……まぁ、つまりそう言う意味であろうな。
お言葉通り、こちらで処理させてもらおう。
「ご報告は以上になります。何かご不明な点、もしくは命令などはございますか?」
「特に無いな。今日はゆっくり休んでおけ」
「恐れ入ります」
勿体無きお言葉を頂き、退出しようと思った矢先、お館様の机に置かれているアクセサリーが目に留まった。
これは……心なしか見覚えがある。しかし、お館様はこのような物を身に着けていないような……?
「お館様、それは一体……?」
「ん?ああ、これか」
お館様は某が指差した方向へ視線を移すと、机に置いてあるアクセサリーへとマシンガンの左腕を伸ばし……。
グニャグニャ……ジャキン!
マシンガンだった左腕が粘土のように柔らかくなって型崩れ、鋼鉄の人間の手に変形した。そして固くなった鋼鉄の左手でアクセサリーを取り出し、某の目の前で掲げて見せた。
太陽のシンボルが刻まれている銀色のブレスレット……とても綺麗な逸品だ。しかし、そんなもの何時から手にしていたのであろうか?
「これはあいつが身に着けてたブレスレットだ。見たところ、相当の価値がありそうな逸品だがな。上手くやれば高値で売れるだろうよ」
「あいつ……ああ、なるほど」
お館様が言う『あいつ』とは……昨日会った女の事であろう。
名前は確か……。
「ルミアス……でしたね」
「そうだ」
そうだ……その太陽のブレスレットは、ルミアスと言う名のエルフが着けていたものだった。
13/06/17 21:07更新 / シャークドン
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