第十三話 逆転！
「さぁ！まずは我が愛船ダークネス・キング号の力……その身を持って知るが良い！」
黒ひげの勇ましい叫びと同時に、黒ひげの海賊船ダークネス・キング号が五隻の教団の船に向かって進み始めた。
「黒ひげさんって、こんなに大きい船を持ってたんだね……！」
「ああ、海の中から出てくる船なんて初めて見た……！」
俺と共に船の甲板に立ってるメアリーは未だに興奮を抑えられないようだ。斯く言う俺も未だに驚きを隠せないでいる。
黒ひげ曰く、このダークネス・キング号は海中をも進む事が出来る船だとか。どういった経緯で海中に留まっていたのかは知らないが、船が海の中を潜れるだけでも驚くべき事だ。しかも…………！
「この船、風の影響を全く受けてないんだよな……」
「そうだね。風向きは進行方向とは逆なのにスピードが全然落ちてない……」
「フハハハハ！この船を動かすのに風など不要！強靭な精神力こそ、ダークネス・キング号の原動力ぞ！」
そう、この船は風の影響を受けてない。普通の船は帆に風を受けさせて海を進む原理なのだが、このダークネス・キング号は風の方向、強弱共に関係なく思うがままに進んでいる。
ダークネス・キング号を進めるのに必要なのは、この船の指揮棒と、それを操る為の精神力であるらしい。しかし、並大抵の精神力では操る事が出来ず、逆に指揮棒によって精神を狂わされてしまうとか。
現在のところ、このダークネス・キング号を操れるのは黒ひげただ一人のようだが……実際に指揮棒によって精神を狂わされた被害者が実在していたのは確かだと、黒ひげが話してた。
ただ、それほど厄介な物をこんなにあっさり使いこなすなんて……やはり伝説の海賊の名は伊達じゃなかった訳だ。
「くっ……！こうなれば迎撃するまで！みんな！あの海賊船を沈めるのよ！」
「了解です！ユカ隊長！」
突然、教団の船の一隻に乗ってる親玉とも思われる人物……ユカが兵士たちに命令を下した。
よく見ると……あの親玉は人間の女か。一見するとまだ年若く、いかにも堅物って感じで、男を寄せ付けなさそうな雰囲気だな。
いや……女はあの親玉だけではない。あの親玉が率いてる兵士まで全員女だ。
「ほう……女だけの部隊とは珍しい。だが、あれぞまさに絶好の獲物よ……！」
「獲物？」
「フフフ……そろそろ面白いものを見せてやろう」
それだけ言うと、黒ひげは胸元の内ポケットからダークネス・キング号の指揮棒を取り出し、振り返り際に指揮棒を船の中央部に位置する鋼鉄製の床に向けた…………。
「出でよ！究極大砲（アルティメット・キャノン）！！」
ウィィィィィィン…………
「！？」
すると、船の中央部の床が自動で開き…………！
ガシャァァァァン！！
「こ、これは…………！」
「た……大砲！？」
その床の下から、見上げてしまう程の大きさを誇る巨大な大砲が現れた！
「こいつは……でかい大砲だな……！」
「こんなのが船の内部に仕掛けられてたんだね……！」
「フフフ……驚くのはまだ早い」
俺とメアリーは究極大砲の大きさに驚きを隠せないでいるが……黒ひげは余裕を見せびらかすかのように不適な笑みを浮かべている。
しかし……こんなにでかい大砲となると……発射される玉も相当でかいんだろうな。
……ん？まてよ……これだけでかい大砲が乗ってるうえに、更にでかい砲弾が乗ってるとしたら……重すぎて沈んじまうんじゃないか？
「なぁ黒ひげ、この船って……これだけでかい大砲に加え、更に発射する為の砲弾も乗せてるんだとしたら……船に余計な負担が掛かるんじゃないか？」
「フン、甘いな……このダークネス・キング号は、そんじょそこらの船とは違う！どんなに重い物を乗せようとも、沈む恐れなど無い！」
「……まぁ、確かにこの船自体もでかいけどな……」
「それに……あの究極大砲を使用するのに砲弾など必要無い！」
「へぇ……って、え！？砲弾無いのかよ！？」
黒ひげの予想外の発言に耳を疑ってしまった。
……というか、発射する為の砲弾が無いんだったら、どうやって戦うんだよ！？
「案ずるでない。海上での敵との戦闘に、砲弾を使う必要も無い」
「……どういう事だ？」
「まぁ見ておれ。まずは一発……あの女共の船にお見舞いしてやる！」
黒ひげは徐に女のみで編成されてる部隊の船へと振り返り……。
「標的確定！まずはあの船よ！」
女の部隊の船に指揮棒を向けた。すると究極大砲が素早く旋回し、砲口が指揮棒と同じ方向へと向いた。
「ひゃあ！？こ、こっち向いた！」
「わ、私たち……此処で死んじゃうの……！？」
「みんな、落ち着いて！これは罠よ！あんな大きい大砲、見掛け倒しに決まってるわ！」
大砲を向けられた女兵士たちは一斉に怯えたが、それを窘めるような口調でユカが呼びかけた。
だが…………！
「見掛け倒しかどうかは……その身をもって知るが良い！」
この船の究極大砲が見掛け倒しとは思えなかった。
何故なら……大砲砲口から、紫色の光が放たれているのだから…………！
「放たれよ……レチェリー・テンタクル！！」
ドォォォォォン！！
凄まじい轟音と共に、紫色の光の弾が放たれた！
「うわ！危ない！」
そして紫色の弾は標的の船の中央部に着弾し、見る見るうちに船の床へと溶け込み、最後には大きな円となって床に張り付いた。
「……な、何これ……？」
「ちょ、迂闊に近寄らない方が……！」
女兵士たちも状況が把握出来ず、船の床に張り付いた光の円を見つめた。
「……なぁ黒ひげ、あれは一体……？」
「フフフ……今に見ておれ。あの船は快楽による喘ぎ声に包まれる」
「……は？それ、どういう…………」
ビュルルルル！！
突然、床に張り付いてる光の円から何かが飛び出てきた！
それは……！
「あれは……触手！？」
なんと、光の円から出てきたのは……濃厚な紫色をした無数の触手だった。
一本、二本、三本と……ヌメヌメの質感を宿した太目の触手が止まる事無く湧き出てくる。
しかも……！
「きゃああああ！！」
「ま、巻きついてくる！」
「やめて！来ないで！！」
その無数の触手は女兵士たちに襲い掛かってきた。身体や手足に巻きついて動きを封じたり、逃げ回る兵士を追いかけたり……。
「ひゃあ！？な、なに！？」
「この触手、服を……い、いやぁ！」
「こらぁ！そんなとこ、触るな……はぅっ！」
「何よこれ……ヌメヌメして……ひゃ、あ、ああん！」
そして挙句の果てに女兵士たちの服を脱がして……って、うぉい！
「ちょ、何やってんだよアレ！？」
「何って……見て分からぬか？触手が女兵士を裸にして陵辱しておるのだ」
「如何わしい事をサラッと言うな！」
平然と言ってのける黒ひげに思わず突っ込みを入れてしまった……。
いや、だってよ…………！
「あ、ふぁあ！あ……ん、んん！」
「いやぁ……そこはダメェ……！」
「そ、そんなに激しくしないでぇ……きゅうん！」
「わ、私……触手なんかで……ひ、ああん！」
「あ、あ、ああん！もうダメ！イっちゃう！」
……女兵士たちが……触手に犯されてる……。なんだろう……俺は何もしてないんだが……罪悪感を抱かずにはいられない……。
「レチェリー・テンタクル……見ての通り魔力で生成された触手の怪物よ。近くに人間の女が居れば、容赦なく性的に襲う習性を持つ。あのように女兵士しかおらぬ船は、まさに絶好の標的とも言えるな」
「な、成程……」
「…………ゴクッ」
「……メアリー、何を生唾飲みながら見惚れてるんだ？」
「え！？あ、いや……すっごく淫らな絶景だなぁって……あはは……」
「いや、あれはむしろ地獄絵だろ……」
黒ひげは淡々と説明するし、メアリーは触手の変態行為に見入ってるし……もしかしてアレか？俺がズレてるのか？俺の方が変なのか？
いやでも、メアリーはリリムだからエロい事に興味を持っても仕方ないし、黒ひげは……見るからに普通の人間じゃなさそうだけど……。
「お、おのれ、よくも同胞を！皆の者！あの海賊船を沈めるのだ！」
「イェッサー！！」
と、一人で色々と考えていたら、ちょうど触手が生えてる船の隣に居るもう一隻の船がこちらに向かって進もうと旋回し始めた。
おっと、今は余計な事を考えてる場合じゃないな。早く教団の船の大軍を片付けないとな。
「ふむ……あの船は男しか乗っておらぬようだな」
黒ひげがそう呟きながら指揮棒を三時の方向へと向けると、ダークネス・キング号は徐に旋回し始めた。
「……あ、あれ？黒ひげさん、戦うんじゃないの？」
「うむ、これから奴らの船を沈めるのだ。その為には此処から少し離れた場所へと移動しなければなるまい」
「でも……あの一隻の船は私たちに向かって来ようとしてるよ？」
「案ずるな。あれはもう相手にする必要も無くなった」
少々戸惑いながら訊いてくるメアリーに対し、黒ひげはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
相手にする必要が無くなったって……どう言う意味だ…………？
「ぎゃあああ！しょ、触手がこっちに！」
「くそっ！なんとか追い払え！」
「無理です！数が多すぎて対処出来ません！」
と、疑問に思っていると、こっちに向かおうとしてる教団の船から悲鳴が上がった。視線を移してみると、さっきまで女兵士たちを襲ってた触手が、教団の船に巻きついていた。船の胴体、マスト、船首など……あらゆる箇所に巻きついて引き寄せてる。
「フフフ……此度はあの船と海の一部が白濁に染まる……！」
「白濁？」
「うむ、あれを見よ」
黒ひげが指差した方向には触手の根元となった船が…………あれ？
「……あんな奴ら、乗ってたか？」
ふと、触手が生えた船に乗ってる女兵士たちに違和感を感じた。
なんか、こう……小さ目の角と翼が生えてて、サキュバスみたいな尻尾が……って、まさか！？
「気付いたか？あのサキュバスたちは先ほど触手に犯されてた元人間の女兵士よ」
「あ〜、やっぱりあの触手は普通の触手じゃなかった訳か」
「左様。レチェリー・テンタクルは人間の女を魔物化させる能力を得ておる。濃厚な魔力の粘液を体中に浴びせ、時には口内へと注ぐ事により魔物へと変化させるのだ」
「成程……」
確かに女しか乗ってない船はレチェリー・テンタクルにとって絶好の獲物とも言えるな。
まてよ…………今触手に引き寄せられてる男だらけの船が魔物と化した女兵士たちの船と完全にくっ付いたら…………。
「これからどうなるか……もう分かるであろう？」
「……あぁ、もう分かった……」
相手にする必要が無いって……この事か…………！
ドォン！
「男〜！！」
「うわぁ！兵士が……いえ、魔物が襲って来ました！！」
「く、来るな！寄るな！触るな！」
……予想通りの展開となった。魔物と化した兵士たちが、次々と男の兵士たちに襲ってる…………性的に！
「きゃはは！好みの男、ゲットよ♪」
「ひぇぇ！助けてくれぇ！死にたくねぇよぉ！」
「殺さないわよ。いっぱい愛してあげる♥」
「ウフフ♪可愛い子にはチューしちゃうぞ〜♥」
「ま、待て！目を覚ませ……んむぅ！？」
「ん……ちゅっ……あんたの唇って柔らかいね♪」
「ほぅら、お姉さんのおっぱいパフパフ攻撃だぁ♥」
「うぅん……き、気持ち良いけど……止めて……！」
「ん〜？この勃起状態のおちんちんは『もっとやって！』って言ってるけどな〜？」
「私ね……初めて会った時からあなたが好きだったの！だから、あなたに私の処女をあげるね！」
「ちょ、それは嬉しいけど、言う場所と時間が違う……って聞いてるのか！？」
「もう我慢出来ない！ここで童貞貰っちゃうからね！」
……えっと……なんとも言えない光景だな……。
と言うか、白濁に染まるってこう言う事か…………。
「く、くそっ！なんて事だ！まさか味方が魔物に堕落してしまうなんて！」
「……あ、見つけた！私の王子様♥」
「は？……って貴方は、まさか！？」
味方が次々と魔物の虜になってしまい嘆いている男の兵士に一人のサキュバスが近寄ってきた。
あれ？あのサキュバスの顔……間違いない。さっき部下たちに指示を出していた親玉……ユカだ。あいつも魔物化したのか……。
「ずっと……ずっと夢見てたわ……あなたと愛し合う日々を……」
「え？な、何を言って……」
「私……ずっと前からあなたが好きだった……ううん、今でもあなたが好きよ……」
「え、いや、あの……」
頬を紅潮させながら歩み寄ってくるユカに戸惑いと恐怖心を拭えないのか、男の兵士は腰に携えてる剣に手を添えながら後ずさりしている。
「でも私は隊長で、あなたはただの兵士……身分の違いから、周りの人たちはあなたと心を通わせるのを許してくれなかった。それに自分自身を紳士と名乗る、ムカつく上司が恋愛禁止なんてルールを定めた所為で……今までこの想いを伝える事が尚更出来なかった」
「紳士って……まさか……！」
「でも可笑しいよね？大好きな人に大好きって言って……何が悪いのかしら？愛する人と身体を重ねるのは、むしろ素晴らしい事よ。今更だけど……魔物になってようやく気付いたわ」
ユカは一旦立ち止まり、両手を大きく広げて高らかに言った。
「私……もう決めたわ！自分の気持ちは隠さない！これからはあなたと共に生きていくんだって！ねぇ、もう教団兵士なんて辞めましょう！そして……私をお嫁さんにして！」
「それだけは……うわぁ！？」
突然、さっきまで女兵士を魔物に変えた触手が一瞬の隙をついて男の兵士の身体に巻きついた。更に腰の剣まで取り上げられ、完全に動きを封じられてしまったようだ。
あの触手……男にも襲うようだな。だが性的な行為を犯してないところを見ると……むしろ魔物を援護しているようにも見える。
「ああ、ありがとう触手さん、私たちを応援してくれるのね……。さぁ、今此処で私と一つになりましょう！」
「わわっ！ちょ、やめ、おわあああ！！」
ユカは自分の内に秘める欲望を露に男の兵士に飛びついた。
……しかしまぁ、あの女の発言からして、教団の人間も色々と大変なんだな。でも魔物になったのを機に自分を拘束していた枷が外れたのなら、それはそれで良いかもな。
「あ、ひゃあん♥良い！気持ちいいよぉ♥」
「お兄ちゃん♥もっと、もっと突いて♥」
「ふぁん♥私……初めてなのに、感じちゃってる♥」
「もう……もう教団とか主神なんてどうでもいいから、いっぱい精液注いでぇ♥♥」
もう後戻り出来ない状況になってしまったようだ。もう此処が外であろうが船上だろうが御構い無し。魔物たちはそれぞれ気に入った男と欲望のままに交わり続けている。その中には魔物の魅了に負けたり、自分への一途な想いに心を打たれて自ら無我夢中で腰を振る男も居る。
「はぁ……あれこそ魔物と人間のあるべき姿だよね……」
「そ、そう……かもな……」
「良いね……あんな素晴らしい絶景を見るのは初めてだよ……」
「いや、だから絶景じゃ……もう、どう言えば良いんだよ……！」
メアリーは恍惚の表情を浮かべながら魔物と教団兵の情事を眺めてるが……まぁ、リリムにとっては最高の光景なんだろうけど……。
「さて、これで二隻纏めて片付いたな」
黒ひげは軽く咳払いをしてから魔物たちに向かって大声で叫んだ。
「そこの者たちよ！お楽しみの最中に口を挟んですまないが我の話を聞け！此処はすぐに危険な戦場と化す！危険な目に遭いたくなければ、一刻も早くこの場から立ち去るのだ！」
「「は〜い♪」」
魔物たちが素直に返事をすると同時に、触手が生えてる船はもう一方の船と繋がったまま遠くの方へ進み始めた。
「おじさ〜ん！私たちを魔物に変えてくれてありがとう！私たち、本当に幸せだよ！」
「うむ！魔界で達者に暮らすが良い！フハハハハ！！」
どこか遠くへ去りながら礼を言う魔物に対し、黒ひげは豪快な笑い声を上げた。
しかし、不思議なものだな……最初は魔物を嫌ってたにも関わらず、自分が魔物に変わった途端に喜びを感じるなんて……。
魔物化って、そんなものなのか？
「おのれ、黒ひげ！貴様の好きにはさせない！」
「汚らわしい魔物共の犠牲となった同胞の仇は必ず取る！」
「皆の者！あの忌々しき船を沈めろ！」
……おっと！そうだった！まだ教団の船が三隻も残ってるんだった！
三隻の教団の船がこちらに向かおうとしてるのが見えた。恐らく、一斉に突撃してダークネス・キング号を沈める気なのだろう。
「……フン！魔物へと変わり果てたとは言え、先ほどまで同胞でもあった女兵士たちが汚らわしいとは……呆れて言葉が出ぬわ！」
黒ひげの怒りの言葉と同時に、完全に三時の方向を向いてるダークネス・キング号は徐に進み始めた。
そして……究極大砲の砲口からは眩い白光が放たれている。
「わざわざ一隻ずつ相手にする必要も無い！あのような雑魚船など、纏めて沈めてくれるわ！」
「……おわぁ！？」
「おぉっとと！」
すると、急にダークネス・キング号の進む速さが格段に上昇した。普通の船では有り得ないスピードに、俺とメアリーはよろめいてしまったが、なんとか耐える事が出来た。
「撃て！とにかく撃て！」
「だ、駄目です！敵が速過ぎて当たりません！」
「おのれ……！一体どうなってるんだ、あの船は！？」
教団の船はこちらに向けて大砲を発射してるが……ダークネス・キング号のあまりの速さに大砲の弾が追いついてない。
「……そろそろ急カーブの時！二人とも、振り落とされぬように、どこかにしがみ付いておれ！」
「え！？ちょ、しがみ付くって……！？」
黒ひげに注意され、とりあえず俺とメアリーは船の柵に掴まった。
そして…………！
「ふぅんぬ！」
「うっ……ぐ！」
「ひゃあ！っと、ととと！」
ダークネス・キング号が小さくＵターンを始め、俺とメアリーは柵に掴まってどうにか耐えた。
だが、これにより並列に並んでる教団の船の側面に回り込めたようだ。黒ひげが何をする気なのかは分からないが……。
「……うむ、船を三隻沈めるにはあれ位で妥当か」
ふと、黒ひげが究極大砲へと視線を移して小さく頷いてるのが見えた。俺も究極大砲を見てみるが……さっきの光が一段と輝きを増してる。
しかも……砲口がちょうど教団の船を向いている！
「覚悟するが良い！今から放たれるのは、このダークネス・キング号の切り札の一つよ！力を調節しなければ、島国一つ跡形も無く焼き払ってしまう程の凶悪な光線……！」
そう豪語する黒ひげは勝ち誇った笑みを浮かべている。その様子を見るからに、これから放たれる砲撃はとてつもない威力を誇ってるのだろう。
「ま、不味い！皆の者！早く此処から離れ…………」
危険を察知したのか、敵の親玉が撤退するように命じたが…………遅かった。
「沈むが良い！地獄の破壊砲（ヘル・デストロイバースト）！！」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォン！！！
「きゃあっ！？」
「うぉっ……くっ！これは……強烈だな……！」
とてつもない威力を誇る巨大な光線が究極大砲から放たれた！砲撃による反動からか、船が少しばかり揺れて危うく倒れそうになったが、どうにか耐える事が出来た。
そして…………！
「ぎゃあああああ！！」
巨大な光線は三隻の船を纏めて一直線に貫いた！壮絶な攻撃を喰らった船は無残にも砕け散り、教団兵の断末魔のような叫びが響き渡った…………。
「ち……畜生……！」
「まさか……海賊がこんなに強いなんて！」
「……もう駄目だ……あんなのに勝てるわけねぇよぉ……！」
奇跡的にもあの光線を受けたにも関わらず、生き延びた者も少なからずいるようだ。ただ、もう完全に戦意を失ったらしく、皆それぞれ一目散にこの場から逃げようと必死で泳いでる。
しかし……それも無駄な足掻きに過ぎない…………。
「……ん？おわぁ！？スキュラだ！？」
「ラッキー♪そろそろ夫が欲しいと思ってたのよねぇ♪」
「く、来るな！来るｎフグッ！？」
「まぁまぁ、恥ずかしがらないで♪それにしてもボロボロね……。よし！私が優しく手当てしてあげるから、一緒においで♪」
こんな感じで次々と海に住む魔物たちに連れ去られる訳で……つまり逃げ場は無いと言う訳だ。
でも魔物の夫になって幸せに暮らした方が死ぬよりよっぽどマシだろうけどな。
「あ〜、ビックリした……この海賊船、本当に凄い……！」
「そうだな……と言うか海賊船じゃなくて、むしろ戦艦だろ？」
「だよね……」
風の影響を受けないし、触手の化け物を生み出すし、挙句の果てにあんな高威力の光線も放てるし……もう船の常識を覆してるとしか言いようがない。
まぁ何にせよ、教団の船は全て片付けた。後は島に残ってる教団兵と……クソ紳士をぶっ飛ばせばそれで終わりだ。
「フハハハハ！虚け共！次は我自身が戦う！死に急ぐ者から相手をしてやろう！」
「あ……あわ……あわわ……」
黒ひげは氷の島に居るラスポーネルと教団兵に向かって大声を上げた。次の標的とされたラスポーネルは顔面蒼白で膝を付き、全身を震わせていた。
「よっし！いよいよ締め括りの時だ！俺も戦うぜ！」
「……キッド、貴様はまだ来なくて良い」
「おう、そうか！ってはぁ！？なんで！？」
人がせっかく気を引き締めようとしてたのに……なんでまだ来なくて良いとか……てか『まだ』ってなんだよ『まだ』って？
「貴様はまず自分の船に戻れ。そして……確か貴様の妻の名はサフィアであったな？」
「え？あ、ああ、そうだが……サフィアがどうかしたか？」
「そのサフィアに会いに行け。そして貴様の元気な姿を見せて安心させてやれ。虚け共を倒すのはその後で構わぬ」
「え…………？」
ああ、そう言えばダークネス・キング号に乗る前に黒ひげには此処に来るまでの経緯を話してたんだった。俺とメアリーが攫われた事も、その所為でサフィアたちと離れ離れになってしまった事も……。
そりゃあ、俺だってサフィアに会いたいけど…………。
「いや、俺だってそうしたいさ。でも今は教団の連中を片付けるのを優先しないと……」
「戯けがぁ！！」
「！？」
突然、黒ひげは俺の胸倉を掴み上げた。
「貴様の妻はどれほど寂しい想いをしておったか分からぬのか！？その者が魔物であれば尚更の事！たとえ僅かな一時であろうとも、愛する者が傍らから消えるのは耐え難い苦痛！我には貴様らの仲が如何様なものかは知らぬが、これだけは言える！貴様の妻は、一刻も早く貴様との再会を望んでおるのだぞ！」
そう言ってから、黒ひげは俺の胸倉から手を放し、俺の肩に手を置いて言った。
「男なら、一生愛すると誓った女に寂しい想いをさせるな！戦う事だけが守る事ではない！傍で寄り添うのも守る手段だ！愛する女の身も心も全て守る！それが真の男だ！！」
「黒ひげ…………！」
……そうだ……俺は敵との戦いしか考えてなかった所為で、大切な事を忘れかけていた。戦いだけが全てじゃない。傍に居る事も守る事になる。
俺とした事が……情けないな…………。
「……ありがとう、黒ひげ！俺、行って来る！」
「うむ、それで良い！暫くは我とメアリーが雑魚の相手をしよう。メアリーもそれで良いな？」
「うん！私も早くバジル君を助けなきゃ！」
メアリーも快く承諾してくれたし、ここはお言葉に甘えて、一旦ブラック・モンスターに戻ろう！
「さぁ、最後の総仕上げぞ！」
黒ひげが氷の島に指揮棒を向けると、ダークネス・キング号は氷の島に向かって進み始めた。
「キッドー！」
「船長さーん！」
そして徐々にブラック・モンスターが近くなると、ヘルムや楓などの仲間たちが俺を呼んでいた。
あいつらにも心配掛けたからな……ちゃんと侘び言わないと。
「よし！ちょっと行って来る！」
「うむ！」
ちょうどブラック・モンスターの隣まで来たところで、俺は勢い良くブラック・モンスターに跳び移った。それと同時に、俺の仲間たちが一斉におれの下へ駆け寄った。
「キッド！無事だったか！」
「船長さん……良かったぁ……！心配しましたよ！」
「ああ、待たせて悪かったな……」
ヘルムと楓を始めとした仲間たちが安堵の笑みを浮かべている。この様子からして、やっぱり心配を掛けさせちまったみたいだな。
「お兄ちゃーん！！」
「え……おお！？ピュラ！？」
突然、腰に強い衝撃が与えられたかと思うと、ピュラが嬉しそうに俺に抱きついていた。
「良かった……生きてて良かったよぉ！お兄ちゃん！お兄ちゃん！」
「……へへ、俺は死なねぇよ」
人懐っこく擦り寄ってくるピュラの頭を優しく撫でてやった。
でも、やっぱり嬉しいものだな。迎えてくれる人がいるって……本当に良い事だ。
「……ありがとな、ピュラ。俺を待っててくれたんだな」
「うん、待ってたよ！でも……お兄ちゃんを待ってたのは私だけじゃないよ。だよね、お姉ちゃん！」
そう言いながら、ピュラは後ろを振り返ってとある人物に呼びかけた。
そいつは……俺が会いたがってた最愛の妻…………！
「……サフィア！」
「キッド……」
サフィアは心底から嬉しそうな表情を浮かべながら俺の下へ駆け寄った。
「……私……キッドが攫われたと聞いて……ショックで倒れそうになった……。キッドが突然消えてから……とても寂しかった……」
「サフィア……」
「ほんの少しの間でも……私にはとても長く感じた……。キッドに会えないのがこんなにも辛いだなんて……！でも……」
サフィアは……必死で涙を堪えていた。不安にさせまいと、なんとか言葉を繋げて…………。
「でも……良かった……本当に良かった……キッドが無事で……帰って来てくれて……キッド！」
もう踏ん張りが効かなくなったのか、サフィアは勢い良く俺に抱きついてきた。溢れんばかりの涙を流しながらも、俺の胸元に顔を埋め…………。
「キッド！寂しかった！会いたかった！キッド、キッド！」
「……サフィア……心配掛けてごめんな……」
「うぅ……キッド……うわああああああん！！」
サフィアはしっかりと俺の身体に腕を回し、俺の胸元に顔を埋めたまま激しく泣き始めた。それに対し、俺はサフィアを抱き返し優しく頭を撫でて応えた。
こうして抱きしめていると、サフィアの温もりがキチンと伝わった…………。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「船の大軍を片付けたとしても、まだ結構残ってるね……」
「いや、あの程度であれば恐るに足らん」
島に残ってる教団兵の軍団を目の当たりにしても、黒ひげさんは全く動じた様子を見せなかった。
どこからそんな自信が出てくるのかは知らないけど、堂々としてる姿は頼もしい事この上ない。
「そういえば、今度は黒ひげさんも戦うんだよね？」
「うむ、そうだが？」
「ストレートな質問だけど……黒ひげさんってどんな戦い方をするの？」
ふと思った事だけど、黒ひげさんってどうやって戦うんだろう？伝説の海賊と呼ばれるくらいだから、それなりに実力はあるんだろうけど……そもそも強いのかな？
「ふむ、口で説明するよりは実際に目にした方が早いだろう。事実、今は長々と話す暇が無い故にな」
「そ、そう？」
結局もったいぶられてしまった。まぁ、確かに実際に見た方が早いかもしれない。折角だから一緒に戦って…………ん？
「……あ！あれは……！」
ふと前方に視線を移すと、仰向けに倒れてる人物が視界に入った。
……ちょっと待って……あれって……まさか！
「バジル君！？」
なんと、バジル君がボロボロの状態で倒れていた！戦いで身体を負傷したのか、痛みで顔を歪めている。
大変！すぐに治癒魔法を掛けなきゃ！
「ん？あやつは貴様の知り合いか？」
「知り合い……まぁ、そんなところかな……」
「……一足先に行け。そして怪我の手当てをしてやれ」
「う、うん！分かった！」
黒ひげさんに促された通り、私は翼を広げて空へ飛び、急いでバジル君の下へ飛んで行った。
「バジル君！大丈夫！？」
「……あぁ、貴様か……」
島に着地した後、急いでバジル君の下へ駆け寄って上半身を起こして呼びかけた。すると、バジル君も私を認識したのか、痛みで顔を歪めながらも私と視線を合わせた、
「バジル君……どうしてこんな事に……」
「こいつ……私たちの船を庇って、強力な一撃を喰らったんだ」
「オリヴィアちゃん……そうだったんだ……」
「Sorry……私が傍に居ておきながら、こんな有様に……」
「……ううん、オリヴィアちゃんは悪くないよ」
傍に居たオリヴィアちゃんが悔しそうな表情を浮かべながら謝ってきたけど……バジル君が怪我をした原因はオリヴィアちゃんではない。
「私、バジル君に治癒魔法を掛けるから、その間に魔力の防壁を張るけど良いかな？」
「OK！私とリシャスはあいつらの相手を引き受けるよ！」
「ああ、正直なところキツイが……泣き言を言ってる暇は無いな！」
オリヴィアちゃんとリシャスちゃんは互いに頷きあった後、教団兵の軍団に突撃した。
さて、私も早く治療を済ませなきゃ！
「バジル君、待っててね！治癒魔法を掛けてあげるから！」
私は周辺に半球状の防壁を張り、バジル君の怪我を治す為に治癒魔法を掛け始めた。見たところ損傷が激しいから、なるべく強めに、尚且つ慎重に…………！
ドォン！！
すると、防壁の外側から爆音が聞こえた。
もう戦いが始まったんだね。私も早く駆けつけないと！
「……貴様に手当てをしてもらうのも、これで二度目か……」
「あ、あんまり動かないで。傷が痛むでしょ？」
「そうでもないさ……早くも魔法が効いてる……」
マスクで口元を覆ってるからよく分からないけど……バジル君は苦笑いを浮かべているように見えた。
私の魔法も役に立ってくれてるみたいだけど……念のためにもっと掛けておこう。
「……もうそれくらいで大丈夫だ。だいぶ痛みも収まってきたから……」
「ダメ！もっと掛けておかなきゃ！」
「いや、本当に大丈夫だから……」
「どこが大丈夫なの！？今の自分の姿を鏡に映して見たらどうなの！？変にカッコつけないでよ！」
気付いたら、強がってるバジル君を怒鳴ってた。自分でも声が高くなってるのが分かってる。
でも、バジル君には無茶をしないで欲しい。その想いから声を上げずにはいられなかった。
「いや、別にカッコつけてる訳じゃ……俺も早く戦わなきゃ……」
「なんでそんなに戦いたがるの！？そんなに武器を振りたいの！？そんなに殺し合いが好きなの！？」
「そうじゃない！俺はけじめを付けたいだけだ！不本意とは言え自ら犯してしまった罪を償う為にも……！」
「うっさい！馬鹿！」
「痛っ！？」
バジル君の頭を叩いてやった。
「自分の事も考えてよ！身体が動かなくなったら……何も出来なくなるじゃない！死んじゃったら……何の意味も無いじゃない！」
……こう言った時には既に涙を流していた。バジル君が死ぬ姿を想像したら……悲しくて……辛くて……泣かずにはいられなかった……！
「けじめとか罪滅ぼしとか……責任感があるのは仕方ないだろうけど、必要以上に自分の身体に鞭を打つような真似は許さないからね！」
「…………」
「私……バジル君が無駄に傷ついたら……此処で死んだりしたら……本当に悲しいの！バジル君には生きてて欲しいの！だから……無茶だけはしないで！」
目を丸くしているバジル君を見つめながら大声で叫んだ。今言ったのは紛れも無い事実だ。
私は、バジル君が死ぬなんて考えたくもない。
ずっと……ずっと生きていて欲しい！バジル君とお話したい！バジル君と遊びたい！バジル君と一緒に居たい！
……あぁ……やっぱりそうか。
そう思ってるってことは……私は……バジル君の事が……。
「……すまなかったな……」
バジル君は徐に上半身を起こして……温かい笑みを浮かべた。治癒魔法が効いたらしく、もう動いても問題なさそうだ。
「まぁ、その……そう言ってくれるのは……嬉しいがな……」
「……だったら無茶だけはしないで」
「ああ、分かった。でもな……」
バジル君は真剣な面持ちで私に言った。
「戦わせてくれ。どちらにしろ俺は守りたいものを守る為に戦わなければならないんだ。ただ、貴様が言った通り無茶だけはしないから許してくれ」
「守りたいもの……？」
バジル君が言ってる守りたいものって……多分キッド君たちの事だよね。船を庇った話からして、この島まで誘導しておいて危険な目に遭わせた事に罪を感じてるんだろうな。
「……いいよ。ただし、私も一緒に戦うからね。それだけは譲れない」
「それは……あぁ、いや分かった」
「よし！」
バジル君の了承も得た事だし、私も戦おう！
心の中で意気込んだ私は先にすっくと立ち上がり、続いてバジル君の手を引いてバジル君を立ち上がらせた。
「さて、頑張りますか！キッド君と、その仲間たちを守る為にもね！」
「……まだ言ってなかったな」
「ん？」
手をポキポキと鳴らして戦闘に備えてると、急にバジル君が両手にランスを構えながら言った。
「俺が言った『守りたいもの』は……キッドたちではない」
「……え！？そうなの！？」
「罪滅ぼしと、守りたいものを守る事は全く別だ」
「え？それじゃあ、バジル君が言ってる守りたいものって？」
私の質問に対し、バジル君は……視線を斜めに逸らしながら言った。
「……メアリーを守りたい……と言ったら迷惑か？」
「……え？」
……守りたいって……私？メアリーって私の事？
……え！？ウソ！？バジル君が……私を守りたい！？
「……メアリー、防壁……」
「え、えっと！今の、どういう……」
「早く防壁を解除してくれ！戦えないだろ！」
「え、あ……う、うん！」
……うぅ、気になりすぎてまともに戦えないかも……。
バジル君に急かされて防壁を解除した。
……しょうがない。今は教団兵を倒してから…………あれ？
「……あれ？教団兵って……あんなに少なかったっけ？」
「……いや、もっと多かったぞ」
「だよね……」
防壁を解除した瞬間に、この氷の島での戦況に違和感を覚えた。
おかしいな……さっきはあんなに居た教団兵の大軍が半分も減ってる。
しかも……！
「ひ、ひぇぇ！ヤベェ！強すぎてヤベェよぉ！」
「お、おい！お前が先に行けよ！剣術には自身があるんだろ！？」
「いやいやいや！剣で勝てる相手じゃないだろ！？お前こそ自慢の魔術でなんとかしろよ！」
「なんとか出来たらとっくにやってるっつーの！」
どう言う訳か、教団兵の殆どが怯えた表情を浮かべながら尻込みしてる。
どうしたんだろう？あの怯え方……普通じゃない事が起きたとしか思えない。
「……あ、メアリー！手当てはもう終わったのか？」
ふと、オリヴィアちゃんとリシャスちゃんが私たちの存在に気付いたようだ。
でも、この二人も様子がおかしかった。さっきまで戦ってたハズなのに全然疲れてない。それに……私との距離が意外と近い。教団兵に突撃したハズなのに……。
「二人とも……大丈夫みたいだね」
「ああ、なんせ私たちは一切手を出してないからな……」
「え？」
「ほら、あれだ、あれ」
リシャスさんはとある方向へと指差した。私もその先へと視線を移すと、そこには…………！
「……フン！これくらいで怖気付きおって！他愛も無い虚け共よ！」
そこには、仁王立ちで教団兵を睨み付けてる黒ひげさんが居た。
そうか……黒ひげさんも乱入したんだ。もしかして……黒ひげさんが教団兵の半分を倒したの？
「……挑む気が無いのであれば、我自ら手を下すまでよ！」
そう言い放つと、黒ひげさんは片手を教団兵の大軍に向かって翳すと…………！
「念力爆破！」
ドカァァァァァァァン！！
「ぎゃあああああ！！」
「ふぇ！？な、何！？何が起きたの！？」
突然、黒ひげさんが片手に力を入れると同時に、教団兵の大軍が居た場所が爆発した！教団兵たちは爆発に巻き込まれ、赤黒い炎が燃え盛ると同時に、漆黒の煙がモクモクと天空へ昇りあがる！
なんで……なんで急に爆発したの！？あの辺りに火薬でもばら撒かれてたの！？
「我が攻撃に……範囲などという規定など皆無！」
すると、黒ひげさんの両手から何やら黒色の小さな粒が数十個生成された。
「飛ぶのだ、爆種！」
そして黒ひげさんが両手を突き出すと同時に、爆種と呼ばれた黒色の粒が飛び出て、次々と教団の身体に付着する。
そして…………！
「点火！」
パチン！
ドカァァァァン！！
「ぎゃああああ！！」
「あ、熱い！熱い！」
「み、水だ！海へ飛び込め！」
黒ひげさんが指をパチンと鳴らした瞬間、爆種が爆発した！爆発を受けて炎に包まれた教団兵は次々と海へ飛び込んでいく。
「休ませる暇は与えぬぞ！」
そう言うと、黒ひげさんは片腕を引いて教団兵の大軍に狙いを定めると……。
「突風爆破！」
一気に腕を突き出した。
すると…………！
ビュウウウウウウウ！
突然、突風が出たかと思うと…………！
ドカァァァァン！！
「うわあああああ！！」
またしても爆発した！今度は突風を受けた教団兵たちがが爆発を受けて、次々と海へと飛び込む！
今の突風は黒ひげさんの腕から放たれたんだ……！というか……！
「黒ひげさんの攻撃って……爆発するものばかり……！」
そう、さっきから黒ひげさんが繰り出す攻撃は全て爆発するものばかりだ！たった一発の攻撃で、複数の教団兵を一気に倒してる！
「フハハハハ！これぞ我が得意とする魔術……『爆破魔法』よ！あらゆるものを破壊する術……それが爆破！我が敵となる者は、爆破魔法の爆炎に呑まれるが良い！」
黒ひげさんは誇らしげに言い放った。
爆破魔法……さっきバジルに治癒魔法を掛けてる最中にも爆音が聞こえたけど、あれも黒ひげさんの仕業だったんだ。
そういえば……黒ひげさんはあらゆるものでも破壊出来る力を持ってたとか。今この状況を見てその謎が明らかになった。
破壊出来る力って……この事だったんだ！
「虚け共よ！貴様ら全員相手をしてやる！掛かって参れ！」
黒ひげさんは勇ましくも、教団兵の大軍にビシッと人差し指を向けて言い放った。
「しょ、諸君！ボケッとしてないで行ってきたまえ！それと、第一に吾輩の命を守りたまえ！」
「そ、そんな無茶な！」
「口答えを許した覚えは無いよ！戦いながら吾輩を全力で守りたまえ！」
「い、嫌です！絶対嫌ですから！」
しかし、教団兵たちは戦いに挑むどころか、何時起こるか分からない爆発に怯えてばかりいる。更にラスポーネルは教団兵の影に隠れて偉そうに命令ばかりしてる。
やれやれ……誰も戦う気が無いじゃない。これじゃあもう不戦勝かな？
「……私が相手です！」
「……む？」
すると、何者かが黒ひげさんの前に立ちはだかった。
あれって……女の人？
「……どうやら互いに悪運が強かったようだな」
「悪運ではありません！主神様が私を救ってくれたのです！」
「……ぬかしおって」
黒ひげさんはあの女の人を知ってるのか、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。
女の人の外見は……透き通った肌、金色の長髪、胸元には十字架のマーク、そして片手には銀色の剣……一見すると、誰もが認める美人だと思われるが……。
「タイラント君！君だけが頼りだ！なんとかしたまえ！」
ラスポーネルが教団兵の影に隠れたまま叫んだ。
この女の人はタイラントって言う名前らしいけど……どうやら教団の人間のようだ。
「……まさか、３０年の年月を経て貴様と再び相見えるとは……これは偶然か？それとも定めか？」
「私は……定めだと思います。貴方との決着をつける為に蘇ったとしか思えません」
「そうか……」
黒ひげさんは拳を握り、タイラントに突き出して言い放った。
「ならばそのようにするまでよ！３０年前から預けられた決闘……今此処で終わらせるのみぞ！」
「望むところ！主神の加護の下に、貴方を此処で打ち倒す！」
そして今……二人の決闘が始まった！！
黒ひげの勇ましい叫びと同時に、黒ひげの海賊船ダークネス・キング号が五隻の教団の船に向かって進み始めた。
「黒ひげさんって、こんなに大きい船を持ってたんだね……！」
「ああ、海の中から出てくる船なんて初めて見た……！」
俺と共に船の甲板に立ってるメアリーは未だに興奮を抑えられないようだ。斯く言う俺も未だに驚きを隠せないでいる。
黒ひげ曰く、このダークネス・キング号は海中をも進む事が出来る船だとか。どういった経緯で海中に留まっていたのかは知らないが、船が海の中を潜れるだけでも驚くべき事だ。しかも…………！
「この船、風の影響を全く受けてないんだよな……」
「そうだね。風向きは進行方向とは逆なのにスピードが全然落ちてない……」
「フハハハハ！この船を動かすのに風など不要！強靭な精神力こそ、ダークネス・キング号の原動力ぞ！」
そう、この船は風の影響を受けてない。普通の船は帆に風を受けさせて海を進む原理なのだが、このダークネス・キング号は風の方向、強弱共に関係なく思うがままに進んでいる。
ダークネス・キング号を進めるのに必要なのは、この船の指揮棒と、それを操る為の精神力であるらしい。しかし、並大抵の精神力では操る事が出来ず、逆に指揮棒によって精神を狂わされてしまうとか。
現在のところ、このダークネス・キング号を操れるのは黒ひげただ一人のようだが……実際に指揮棒によって精神を狂わされた被害者が実在していたのは確かだと、黒ひげが話してた。
ただ、それほど厄介な物をこんなにあっさり使いこなすなんて……やはり伝説の海賊の名は伊達じゃなかった訳だ。
「くっ……！こうなれば迎撃するまで！みんな！あの海賊船を沈めるのよ！」
「了解です！ユカ隊長！」
突然、教団の船の一隻に乗ってる親玉とも思われる人物……ユカが兵士たちに命令を下した。
よく見ると……あの親玉は人間の女か。一見するとまだ年若く、いかにも堅物って感じで、男を寄せ付けなさそうな雰囲気だな。
いや……女はあの親玉だけではない。あの親玉が率いてる兵士まで全員女だ。
「ほう……女だけの部隊とは珍しい。だが、あれぞまさに絶好の獲物よ……！」
「獲物？」
「フフフ……そろそろ面白いものを見せてやろう」
それだけ言うと、黒ひげは胸元の内ポケットからダークネス・キング号の指揮棒を取り出し、振り返り際に指揮棒を船の中央部に位置する鋼鉄製の床に向けた…………。
「出でよ！究極大砲（アルティメット・キャノン）！！」
ウィィィィィィン…………
「！？」
すると、船の中央部の床が自動で開き…………！
ガシャァァァァン！！
「こ、これは…………！」
「た……大砲！？」
その床の下から、見上げてしまう程の大きさを誇る巨大な大砲が現れた！
「こいつは……でかい大砲だな……！」
「こんなのが船の内部に仕掛けられてたんだね……！」
「フフフ……驚くのはまだ早い」
俺とメアリーは究極大砲の大きさに驚きを隠せないでいるが……黒ひげは余裕を見せびらかすかのように不適な笑みを浮かべている。
しかし……こんなにでかい大砲となると……発射される玉も相当でかいんだろうな。
……ん？まてよ……これだけでかい大砲が乗ってるうえに、更にでかい砲弾が乗ってるとしたら……重すぎて沈んじまうんじゃないか？
「なぁ黒ひげ、この船って……これだけでかい大砲に加え、更に発射する為の砲弾も乗せてるんだとしたら……船に余計な負担が掛かるんじゃないか？」
「フン、甘いな……このダークネス・キング号は、そんじょそこらの船とは違う！どんなに重い物を乗せようとも、沈む恐れなど無い！」
「……まぁ、確かにこの船自体もでかいけどな……」
「それに……あの究極大砲を使用するのに砲弾など必要無い！」
「へぇ……って、え！？砲弾無いのかよ！？」
黒ひげの予想外の発言に耳を疑ってしまった。
……というか、発射する為の砲弾が無いんだったら、どうやって戦うんだよ！？
「案ずるでない。海上での敵との戦闘に、砲弾を使う必要も無い」
「……どういう事だ？」
「まぁ見ておれ。まずは一発……あの女共の船にお見舞いしてやる！」
黒ひげは徐に女のみで編成されてる部隊の船へと振り返り……。
「標的確定！まずはあの船よ！」
女の部隊の船に指揮棒を向けた。すると究極大砲が素早く旋回し、砲口が指揮棒と同じ方向へと向いた。
「ひゃあ！？こ、こっち向いた！」
「わ、私たち……此処で死んじゃうの……！？」
「みんな、落ち着いて！これは罠よ！あんな大きい大砲、見掛け倒しに決まってるわ！」
大砲を向けられた女兵士たちは一斉に怯えたが、それを窘めるような口調でユカが呼びかけた。
だが…………！
「見掛け倒しかどうかは……その身をもって知るが良い！」
この船の究極大砲が見掛け倒しとは思えなかった。
何故なら……大砲砲口から、紫色の光が放たれているのだから…………！
「放たれよ……レチェリー・テンタクル！！」
ドォォォォォン！！
凄まじい轟音と共に、紫色の光の弾が放たれた！
「うわ！危ない！」
そして紫色の弾は標的の船の中央部に着弾し、見る見るうちに船の床へと溶け込み、最後には大きな円となって床に張り付いた。
「……な、何これ……？」
「ちょ、迂闊に近寄らない方が……！」
女兵士たちも状況が把握出来ず、船の床に張り付いた光の円を見つめた。
「……なぁ黒ひげ、あれは一体……？」
「フフフ……今に見ておれ。あの船は快楽による喘ぎ声に包まれる」
「……は？それ、どういう…………」
ビュルルルル！！
突然、床に張り付いてる光の円から何かが飛び出てきた！
それは……！
「あれは……触手！？」
なんと、光の円から出てきたのは……濃厚な紫色をした無数の触手だった。
一本、二本、三本と……ヌメヌメの質感を宿した太目の触手が止まる事無く湧き出てくる。
しかも……！
「きゃああああ！！」
「ま、巻きついてくる！」
「やめて！来ないで！！」
その無数の触手は女兵士たちに襲い掛かってきた。身体や手足に巻きついて動きを封じたり、逃げ回る兵士を追いかけたり……。
「ひゃあ！？な、なに！？」
「この触手、服を……い、いやぁ！」
「こらぁ！そんなとこ、触るな……はぅっ！」
「何よこれ……ヌメヌメして……ひゃ、あ、ああん！」
そして挙句の果てに女兵士たちの服を脱がして……って、うぉい！
「ちょ、何やってんだよアレ！？」
「何って……見て分からぬか？触手が女兵士を裸にして陵辱しておるのだ」
「如何わしい事をサラッと言うな！」
平然と言ってのける黒ひげに思わず突っ込みを入れてしまった……。
いや、だってよ…………！
「あ、ふぁあ！あ……ん、んん！」
「いやぁ……そこはダメェ……！」
「そ、そんなに激しくしないでぇ……きゅうん！」
「わ、私……触手なんかで……ひ、ああん！」
「あ、あ、ああん！もうダメ！イっちゃう！」
……女兵士たちが……触手に犯されてる……。なんだろう……俺は何もしてないんだが……罪悪感を抱かずにはいられない……。
「レチェリー・テンタクル……見ての通り魔力で生成された触手の怪物よ。近くに人間の女が居れば、容赦なく性的に襲う習性を持つ。あのように女兵士しかおらぬ船は、まさに絶好の標的とも言えるな」
「な、成程……」
「…………ゴクッ」
「……メアリー、何を生唾飲みながら見惚れてるんだ？」
「え！？あ、いや……すっごく淫らな絶景だなぁって……あはは……」
「いや、あれはむしろ地獄絵だろ……」
黒ひげは淡々と説明するし、メアリーは触手の変態行為に見入ってるし……もしかしてアレか？俺がズレてるのか？俺の方が変なのか？
いやでも、メアリーはリリムだからエロい事に興味を持っても仕方ないし、黒ひげは……見るからに普通の人間じゃなさそうだけど……。
「お、おのれ、よくも同胞を！皆の者！あの海賊船を沈めるのだ！」
「イェッサー！！」
と、一人で色々と考えていたら、ちょうど触手が生えてる船の隣に居るもう一隻の船がこちらに向かって進もうと旋回し始めた。
おっと、今は余計な事を考えてる場合じゃないな。早く教団の船の大軍を片付けないとな。
「ふむ……あの船は男しか乗っておらぬようだな」
黒ひげがそう呟きながら指揮棒を三時の方向へと向けると、ダークネス・キング号は徐に旋回し始めた。
「……あ、あれ？黒ひげさん、戦うんじゃないの？」
「うむ、これから奴らの船を沈めるのだ。その為には此処から少し離れた場所へと移動しなければなるまい」
「でも……あの一隻の船は私たちに向かって来ようとしてるよ？」
「案ずるな。あれはもう相手にする必要も無くなった」
少々戸惑いながら訊いてくるメアリーに対し、黒ひげはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
相手にする必要が無くなったって……どう言う意味だ…………？
「ぎゃあああ！しょ、触手がこっちに！」
「くそっ！なんとか追い払え！」
「無理です！数が多すぎて対処出来ません！」
と、疑問に思っていると、こっちに向かおうとしてる教団の船から悲鳴が上がった。視線を移してみると、さっきまで女兵士たちを襲ってた触手が、教団の船に巻きついていた。船の胴体、マスト、船首など……あらゆる箇所に巻きついて引き寄せてる。
「フフフ……此度はあの船と海の一部が白濁に染まる……！」
「白濁？」
「うむ、あれを見よ」
黒ひげが指差した方向には触手の根元となった船が…………あれ？
「……あんな奴ら、乗ってたか？」
ふと、触手が生えた船に乗ってる女兵士たちに違和感を感じた。
なんか、こう……小さ目の角と翼が生えてて、サキュバスみたいな尻尾が……って、まさか！？
「気付いたか？あのサキュバスたちは先ほど触手に犯されてた元人間の女兵士よ」
「あ〜、やっぱりあの触手は普通の触手じゃなかった訳か」
「左様。レチェリー・テンタクルは人間の女を魔物化させる能力を得ておる。濃厚な魔力の粘液を体中に浴びせ、時には口内へと注ぐ事により魔物へと変化させるのだ」
「成程……」
確かに女しか乗ってない船はレチェリー・テンタクルにとって絶好の獲物とも言えるな。
まてよ…………今触手に引き寄せられてる男だらけの船が魔物と化した女兵士たちの船と完全にくっ付いたら…………。
「これからどうなるか……もう分かるであろう？」
「……あぁ、もう分かった……」
相手にする必要が無いって……この事か…………！
ドォン！
「男〜！！」
「うわぁ！兵士が……いえ、魔物が襲って来ました！！」
「く、来るな！寄るな！触るな！」
……予想通りの展開となった。魔物と化した兵士たちが、次々と男の兵士たちに襲ってる…………性的に！
「きゃはは！好みの男、ゲットよ♪」
「ひぇぇ！助けてくれぇ！死にたくねぇよぉ！」
「殺さないわよ。いっぱい愛してあげる♥」
「ウフフ♪可愛い子にはチューしちゃうぞ〜♥」
「ま、待て！目を覚ませ……んむぅ！？」
「ん……ちゅっ……あんたの唇って柔らかいね♪」
「ほぅら、お姉さんのおっぱいパフパフ攻撃だぁ♥」
「うぅん……き、気持ち良いけど……止めて……！」
「ん〜？この勃起状態のおちんちんは『もっとやって！』って言ってるけどな〜？」
「私ね……初めて会った時からあなたが好きだったの！だから、あなたに私の処女をあげるね！」
「ちょ、それは嬉しいけど、言う場所と時間が違う……って聞いてるのか！？」
「もう我慢出来ない！ここで童貞貰っちゃうからね！」
……えっと……なんとも言えない光景だな……。
と言うか、白濁に染まるってこう言う事か…………。
「く、くそっ！なんて事だ！まさか味方が魔物に堕落してしまうなんて！」
「……あ、見つけた！私の王子様♥」
「は？……って貴方は、まさか！？」
味方が次々と魔物の虜になってしまい嘆いている男の兵士に一人のサキュバスが近寄ってきた。
あれ？あのサキュバスの顔……間違いない。さっき部下たちに指示を出していた親玉……ユカだ。あいつも魔物化したのか……。
「ずっと……ずっと夢見てたわ……あなたと愛し合う日々を……」
「え？な、何を言って……」
「私……ずっと前からあなたが好きだった……ううん、今でもあなたが好きよ……」
「え、いや、あの……」
頬を紅潮させながら歩み寄ってくるユカに戸惑いと恐怖心を拭えないのか、男の兵士は腰に携えてる剣に手を添えながら後ずさりしている。
「でも私は隊長で、あなたはただの兵士……身分の違いから、周りの人たちはあなたと心を通わせるのを許してくれなかった。それに自分自身を紳士と名乗る、ムカつく上司が恋愛禁止なんてルールを定めた所為で……今までこの想いを伝える事が尚更出来なかった」
「紳士って……まさか……！」
「でも可笑しいよね？大好きな人に大好きって言って……何が悪いのかしら？愛する人と身体を重ねるのは、むしろ素晴らしい事よ。今更だけど……魔物になってようやく気付いたわ」
ユカは一旦立ち止まり、両手を大きく広げて高らかに言った。
「私……もう決めたわ！自分の気持ちは隠さない！これからはあなたと共に生きていくんだって！ねぇ、もう教団兵士なんて辞めましょう！そして……私をお嫁さんにして！」
「それだけは……うわぁ！？」
突然、さっきまで女兵士を魔物に変えた触手が一瞬の隙をついて男の兵士の身体に巻きついた。更に腰の剣まで取り上げられ、完全に動きを封じられてしまったようだ。
あの触手……男にも襲うようだな。だが性的な行為を犯してないところを見ると……むしろ魔物を援護しているようにも見える。
「ああ、ありがとう触手さん、私たちを応援してくれるのね……。さぁ、今此処で私と一つになりましょう！」
「わわっ！ちょ、やめ、おわあああ！！」
ユカは自分の内に秘める欲望を露に男の兵士に飛びついた。
……しかしまぁ、あの女の発言からして、教団の人間も色々と大変なんだな。でも魔物になったのを機に自分を拘束していた枷が外れたのなら、それはそれで良いかもな。
「あ、ひゃあん♥良い！気持ちいいよぉ♥」
「お兄ちゃん♥もっと、もっと突いて♥」
「ふぁん♥私……初めてなのに、感じちゃってる♥」
「もう……もう教団とか主神なんてどうでもいいから、いっぱい精液注いでぇ♥♥」
もう後戻り出来ない状況になってしまったようだ。もう此処が外であろうが船上だろうが御構い無し。魔物たちはそれぞれ気に入った男と欲望のままに交わり続けている。その中には魔物の魅了に負けたり、自分への一途な想いに心を打たれて自ら無我夢中で腰を振る男も居る。
「はぁ……あれこそ魔物と人間のあるべき姿だよね……」
「そ、そう……かもな……」
「良いね……あんな素晴らしい絶景を見るのは初めてだよ……」
「いや、だから絶景じゃ……もう、どう言えば良いんだよ……！」
メアリーは恍惚の表情を浮かべながら魔物と教団兵の情事を眺めてるが……まぁ、リリムにとっては最高の光景なんだろうけど……。
「さて、これで二隻纏めて片付いたな」
黒ひげは軽く咳払いをしてから魔物たちに向かって大声で叫んだ。
「そこの者たちよ！お楽しみの最中に口を挟んですまないが我の話を聞け！此処はすぐに危険な戦場と化す！危険な目に遭いたくなければ、一刻も早くこの場から立ち去るのだ！」
「「は〜い♪」」
魔物たちが素直に返事をすると同時に、触手が生えてる船はもう一方の船と繋がったまま遠くの方へ進み始めた。
「おじさ〜ん！私たちを魔物に変えてくれてありがとう！私たち、本当に幸せだよ！」
「うむ！魔界で達者に暮らすが良い！フハハハハ！！」
どこか遠くへ去りながら礼を言う魔物に対し、黒ひげは豪快な笑い声を上げた。
しかし、不思議なものだな……最初は魔物を嫌ってたにも関わらず、自分が魔物に変わった途端に喜びを感じるなんて……。
魔物化って、そんなものなのか？
「おのれ、黒ひげ！貴様の好きにはさせない！」
「汚らわしい魔物共の犠牲となった同胞の仇は必ず取る！」
「皆の者！あの忌々しき船を沈めろ！」
……おっと！そうだった！まだ教団の船が三隻も残ってるんだった！
三隻の教団の船がこちらに向かおうとしてるのが見えた。恐らく、一斉に突撃してダークネス・キング号を沈める気なのだろう。
「……フン！魔物へと変わり果てたとは言え、先ほどまで同胞でもあった女兵士たちが汚らわしいとは……呆れて言葉が出ぬわ！」
黒ひげの怒りの言葉と同時に、完全に三時の方向を向いてるダークネス・キング号は徐に進み始めた。
そして……究極大砲の砲口からは眩い白光が放たれている。
「わざわざ一隻ずつ相手にする必要も無い！あのような雑魚船など、纏めて沈めてくれるわ！」
「……おわぁ！？」
「おぉっとと！」
すると、急にダークネス・キング号の進む速さが格段に上昇した。普通の船では有り得ないスピードに、俺とメアリーはよろめいてしまったが、なんとか耐える事が出来た。
「撃て！とにかく撃て！」
「だ、駄目です！敵が速過ぎて当たりません！」
「おのれ……！一体どうなってるんだ、あの船は！？」
教団の船はこちらに向けて大砲を発射してるが……ダークネス・キング号のあまりの速さに大砲の弾が追いついてない。
「……そろそろ急カーブの時！二人とも、振り落とされぬように、どこかにしがみ付いておれ！」
「え！？ちょ、しがみ付くって……！？」
黒ひげに注意され、とりあえず俺とメアリーは船の柵に掴まった。
そして…………！
「ふぅんぬ！」
「うっ……ぐ！」
「ひゃあ！っと、ととと！」
ダークネス・キング号が小さくＵターンを始め、俺とメアリーは柵に掴まってどうにか耐えた。
だが、これにより並列に並んでる教団の船の側面に回り込めたようだ。黒ひげが何をする気なのかは分からないが……。
「……うむ、船を三隻沈めるにはあれ位で妥当か」
ふと、黒ひげが究極大砲へと視線を移して小さく頷いてるのが見えた。俺も究極大砲を見てみるが……さっきの光が一段と輝きを増してる。
しかも……砲口がちょうど教団の船を向いている！
「覚悟するが良い！今から放たれるのは、このダークネス・キング号の切り札の一つよ！力を調節しなければ、島国一つ跡形も無く焼き払ってしまう程の凶悪な光線……！」
そう豪語する黒ひげは勝ち誇った笑みを浮かべている。その様子を見るからに、これから放たれる砲撃はとてつもない威力を誇ってるのだろう。
「ま、不味い！皆の者！早く此処から離れ…………」
危険を察知したのか、敵の親玉が撤退するように命じたが…………遅かった。
「沈むが良い！地獄の破壊砲（ヘル・デストロイバースト）！！」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォン！！！
「きゃあっ！？」
「うぉっ……くっ！これは……強烈だな……！」
とてつもない威力を誇る巨大な光線が究極大砲から放たれた！砲撃による反動からか、船が少しばかり揺れて危うく倒れそうになったが、どうにか耐える事が出来た。
そして…………！
「ぎゃあああああ！！」
巨大な光線は三隻の船を纏めて一直線に貫いた！壮絶な攻撃を喰らった船は無残にも砕け散り、教団兵の断末魔のような叫びが響き渡った…………。
「ち……畜生……！」
「まさか……海賊がこんなに強いなんて！」
「……もう駄目だ……あんなのに勝てるわけねぇよぉ……！」
奇跡的にもあの光線を受けたにも関わらず、生き延びた者も少なからずいるようだ。ただ、もう完全に戦意を失ったらしく、皆それぞれ一目散にこの場から逃げようと必死で泳いでる。
しかし……それも無駄な足掻きに過ぎない…………。
「……ん？おわぁ！？スキュラだ！？」
「ラッキー♪そろそろ夫が欲しいと思ってたのよねぇ♪」
「く、来るな！来るｎフグッ！？」
「まぁまぁ、恥ずかしがらないで♪それにしてもボロボロね……。よし！私が優しく手当てしてあげるから、一緒においで♪」
こんな感じで次々と海に住む魔物たちに連れ去られる訳で……つまり逃げ場は無いと言う訳だ。
でも魔物の夫になって幸せに暮らした方が死ぬよりよっぽどマシだろうけどな。
「あ〜、ビックリした……この海賊船、本当に凄い……！」
「そうだな……と言うか海賊船じゃなくて、むしろ戦艦だろ？」
「だよね……」
風の影響を受けないし、触手の化け物を生み出すし、挙句の果てにあんな高威力の光線も放てるし……もう船の常識を覆してるとしか言いようがない。
まぁ何にせよ、教団の船は全て片付けた。後は島に残ってる教団兵と……クソ紳士をぶっ飛ばせばそれで終わりだ。
「フハハハハ！虚け共！次は我自身が戦う！死に急ぐ者から相手をしてやろう！」
「あ……あわ……あわわ……」
黒ひげは氷の島に居るラスポーネルと教団兵に向かって大声を上げた。次の標的とされたラスポーネルは顔面蒼白で膝を付き、全身を震わせていた。
「よっし！いよいよ締め括りの時だ！俺も戦うぜ！」
「……キッド、貴様はまだ来なくて良い」
「おう、そうか！ってはぁ！？なんで！？」
人がせっかく気を引き締めようとしてたのに……なんでまだ来なくて良いとか……てか『まだ』ってなんだよ『まだ』って？
「貴様はまず自分の船に戻れ。そして……確か貴様の妻の名はサフィアであったな？」
「え？あ、ああ、そうだが……サフィアがどうかしたか？」
「そのサフィアに会いに行け。そして貴様の元気な姿を見せて安心させてやれ。虚け共を倒すのはその後で構わぬ」
「え…………？」
ああ、そう言えばダークネス・キング号に乗る前に黒ひげには此処に来るまでの経緯を話してたんだった。俺とメアリーが攫われた事も、その所為でサフィアたちと離れ離れになってしまった事も……。
そりゃあ、俺だってサフィアに会いたいけど…………。
「いや、俺だってそうしたいさ。でも今は教団の連中を片付けるのを優先しないと……」
「戯けがぁ！！」
「！？」
突然、黒ひげは俺の胸倉を掴み上げた。
「貴様の妻はどれほど寂しい想いをしておったか分からぬのか！？その者が魔物であれば尚更の事！たとえ僅かな一時であろうとも、愛する者が傍らから消えるのは耐え難い苦痛！我には貴様らの仲が如何様なものかは知らぬが、これだけは言える！貴様の妻は、一刻も早く貴様との再会を望んでおるのだぞ！」
そう言ってから、黒ひげは俺の胸倉から手を放し、俺の肩に手を置いて言った。
「男なら、一生愛すると誓った女に寂しい想いをさせるな！戦う事だけが守る事ではない！傍で寄り添うのも守る手段だ！愛する女の身も心も全て守る！それが真の男だ！！」
「黒ひげ…………！」
……そうだ……俺は敵との戦いしか考えてなかった所為で、大切な事を忘れかけていた。戦いだけが全てじゃない。傍に居る事も守る事になる。
俺とした事が……情けないな…………。
「……ありがとう、黒ひげ！俺、行って来る！」
「うむ、それで良い！暫くは我とメアリーが雑魚の相手をしよう。メアリーもそれで良いな？」
「うん！私も早くバジル君を助けなきゃ！」
メアリーも快く承諾してくれたし、ここはお言葉に甘えて、一旦ブラック・モンスターに戻ろう！
「さぁ、最後の総仕上げぞ！」
黒ひげが氷の島に指揮棒を向けると、ダークネス・キング号は氷の島に向かって進み始めた。
「キッドー！」
「船長さーん！」
そして徐々にブラック・モンスターが近くなると、ヘルムや楓などの仲間たちが俺を呼んでいた。
あいつらにも心配掛けたからな……ちゃんと侘び言わないと。
「よし！ちょっと行って来る！」
「うむ！」
ちょうどブラック・モンスターの隣まで来たところで、俺は勢い良くブラック・モンスターに跳び移った。それと同時に、俺の仲間たちが一斉におれの下へ駆け寄った。
「キッド！無事だったか！」
「船長さん……良かったぁ……！心配しましたよ！」
「ああ、待たせて悪かったな……」
ヘルムと楓を始めとした仲間たちが安堵の笑みを浮かべている。この様子からして、やっぱり心配を掛けさせちまったみたいだな。
「お兄ちゃーん！！」
「え……おお！？ピュラ！？」
突然、腰に強い衝撃が与えられたかと思うと、ピュラが嬉しそうに俺に抱きついていた。
「良かった……生きてて良かったよぉ！お兄ちゃん！お兄ちゃん！」
「……へへ、俺は死なねぇよ」
人懐っこく擦り寄ってくるピュラの頭を優しく撫でてやった。
でも、やっぱり嬉しいものだな。迎えてくれる人がいるって……本当に良い事だ。
「……ありがとな、ピュラ。俺を待っててくれたんだな」
「うん、待ってたよ！でも……お兄ちゃんを待ってたのは私だけじゃないよ。だよね、お姉ちゃん！」
そう言いながら、ピュラは後ろを振り返ってとある人物に呼びかけた。
そいつは……俺が会いたがってた最愛の妻…………！
「……サフィア！」
「キッド……」
サフィアは心底から嬉しそうな表情を浮かべながら俺の下へ駆け寄った。
「……私……キッドが攫われたと聞いて……ショックで倒れそうになった……。キッドが突然消えてから……とても寂しかった……」
「サフィア……」
「ほんの少しの間でも……私にはとても長く感じた……。キッドに会えないのがこんなにも辛いだなんて……！でも……」
サフィアは……必死で涙を堪えていた。不安にさせまいと、なんとか言葉を繋げて…………。
「でも……良かった……本当に良かった……キッドが無事で……帰って来てくれて……キッド！」
もう踏ん張りが効かなくなったのか、サフィアは勢い良く俺に抱きついてきた。溢れんばかりの涙を流しながらも、俺の胸元に顔を埋め…………。
「キッド！寂しかった！会いたかった！キッド、キッド！」
「……サフィア……心配掛けてごめんな……」
「うぅ……キッド……うわああああああん！！」
サフィアはしっかりと俺の身体に腕を回し、俺の胸元に顔を埋めたまま激しく泣き始めた。それに対し、俺はサフィアを抱き返し優しく頭を撫でて応えた。
こうして抱きしめていると、サフィアの温もりがキチンと伝わった…………。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「船の大軍を片付けたとしても、まだ結構残ってるね……」
「いや、あの程度であれば恐るに足らん」
島に残ってる教団兵の軍団を目の当たりにしても、黒ひげさんは全く動じた様子を見せなかった。
どこからそんな自信が出てくるのかは知らないけど、堂々としてる姿は頼もしい事この上ない。
「そういえば、今度は黒ひげさんも戦うんだよね？」
「うむ、そうだが？」
「ストレートな質問だけど……黒ひげさんってどんな戦い方をするの？」
ふと思った事だけど、黒ひげさんってどうやって戦うんだろう？伝説の海賊と呼ばれるくらいだから、それなりに実力はあるんだろうけど……そもそも強いのかな？
「ふむ、口で説明するよりは実際に目にした方が早いだろう。事実、今は長々と話す暇が無い故にな」
「そ、そう？」
結局もったいぶられてしまった。まぁ、確かに実際に見た方が早いかもしれない。折角だから一緒に戦って…………ん？
「……あ！あれは……！」
ふと前方に視線を移すと、仰向けに倒れてる人物が視界に入った。
……ちょっと待って……あれって……まさか！
「バジル君！？」
なんと、バジル君がボロボロの状態で倒れていた！戦いで身体を負傷したのか、痛みで顔を歪めている。
大変！すぐに治癒魔法を掛けなきゃ！
「ん？あやつは貴様の知り合いか？」
「知り合い……まぁ、そんなところかな……」
「……一足先に行け。そして怪我の手当てをしてやれ」
「う、うん！分かった！」
黒ひげさんに促された通り、私は翼を広げて空へ飛び、急いでバジル君の下へ飛んで行った。
「バジル君！大丈夫！？」
「……あぁ、貴様か……」
島に着地した後、急いでバジル君の下へ駆け寄って上半身を起こして呼びかけた。すると、バジル君も私を認識したのか、痛みで顔を歪めながらも私と視線を合わせた、
「バジル君……どうしてこんな事に……」
「こいつ……私たちの船を庇って、強力な一撃を喰らったんだ」
「オリヴィアちゃん……そうだったんだ……」
「Sorry……私が傍に居ておきながら、こんな有様に……」
「……ううん、オリヴィアちゃんは悪くないよ」
傍に居たオリヴィアちゃんが悔しそうな表情を浮かべながら謝ってきたけど……バジル君が怪我をした原因はオリヴィアちゃんではない。
「私、バジル君に治癒魔法を掛けるから、その間に魔力の防壁を張るけど良いかな？」
「OK！私とリシャスはあいつらの相手を引き受けるよ！」
「ああ、正直なところキツイが……泣き言を言ってる暇は無いな！」
オリヴィアちゃんとリシャスちゃんは互いに頷きあった後、教団兵の軍団に突撃した。
さて、私も早く治療を済ませなきゃ！
「バジル君、待っててね！治癒魔法を掛けてあげるから！」
私は周辺に半球状の防壁を張り、バジル君の怪我を治す為に治癒魔法を掛け始めた。見たところ損傷が激しいから、なるべく強めに、尚且つ慎重に…………！
ドォン！！
すると、防壁の外側から爆音が聞こえた。
もう戦いが始まったんだね。私も早く駆けつけないと！
「……貴様に手当てをしてもらうのも、これで二度目か……」
「あ、あんまり動かないで。傷が痛むでしょ？」
「そうでもないさ……早くも魔法が効いてる……」
マスクで口元を覆ってるからよく分からないけど……バジル君は苦笑いを浮かべているように見えた。
私の魔法も役に立ってくれてるみたいだけど……念のためにもっと掛けておこう。
「……もうそれくらいで大丈夫だ。だいぶ痛みも収まってきたから……」
「ダメ！もっと掛けておかなきゃ！」
「いや、本当に大丈夫だから……」
「どこが大丈夫なの！？今の自分の姿を鏡に映して見たらどうなの！？変にカッコつけないでよ！」
気付いたら、強がってるバジル君を怒鳴ってた。自分でも声が高くなってるのが分かってる。
でも、バジル君には無茶をしないで欲しい。その想いから声を上げずにはいられなかった。
「いや、別にカッコつけてる訳じゃ……俺も早く戦わなきゃ……」
「なんでそんなに戦いたがるの！？そんなに武器を振りたいの！？そんなに殺し合いが好きなの！？」
「そうじゃない！俺はけじめを付けたいだけだ！不本意とは言え自ら犯してしまった罪を償う為にも……！」
「うっさい！馬鹿！」
「痛っ！？」
バジル君の頭を叩いてやった。
「自分の事も考えてよ！身体が動かなくなったら……何も出来なくなるじゃない！死んじゃったら……何の意味も無いじゃない！」
……こう言った時には既に涙を流していた。バジル君が死ぬ姿を想像したら……悲しくて……辛くて……泣かずにはいられなかった……！
「けじめとか罪滅ぼしとか……責任感があるのは仕方ないだろうけど、必要以上に自分の身体に鞭を打つような真似は許さないからね！」
「…………」
「私……バジル君が無駄に傷ついたら……此処で死んだりしたら……本当に悲しいの！バジル君には生きてて欲しいの！だから……無茶だけはしないで！」
目を丸くしているバジル君を見つめながら大声で叫んだ。今言ったのは紛れも無い事実だ。
私は、バジル君が死ぬなんて考えたくもない。
ずっと……ずっと生きていて欲しい！バジル君とお話したい！バジル君と遊びたい！バジル君と一緒に居たい！
……あぁ……やっぱりそうか。
そう思ってるってことは……私は……バジル君の事が……。
「……すまなかったな……」
バジル君は徐に上半身を起こして……温かい笑みを浮かべた。治癒魔法が効いたらしく、もう動いても問題なさそうだ。
「まぁ、その……そう言ってくれるのは……嬉しいがな……」
「……だったら無茶だけはしないで」
「ああ、分かった。でもな……」
バジル君は真剣な面持ちで私に言った。
「戦わせてくれ。どちらにしろ俺は守りたいものを守る為に戦わなければならないんだ。ただ、貴様が言った通り無茶だけはしないから許してくれ」
「守りたいもの……？」
バジル君が言ってる守りたいものって……多分キッド君たちの事だよね。船を庇った話からして、この島まで誘導しておいて危険な目に遭わせた事に罪を感じてるんだろうな。
「……いいよ。ただし、私も一緒に戦うからね。それだけは譲れない」
「それは……あぁ、いや分かった」
「よし！」
バジル君の了承も得た事だし、私も戦おう！
心の中で意気込んだ私は先にすっくと立ち上がり、続いてバジル君の手を引いてバジル君を立ち上がらせた。
「さて、頑張りますか！キッド君と、その仲間たちを守る為にもね！」
「……まだ言ってなかったな」
「ん？」
手をポキポキと鳴らして戦闘に備えてると、急にバジル君が両手にランスを構えながら言った。
「俺が言った『守りたいもの』は……キッドたちではない」
「……え！？そうなの！？」
「罪滅ぼしと、守りたいものを守る事は全く別だ」
「え？それじゃあ、バジル君が言ってる守りたいものって？」
私の質問に対し、バジル君は……視線を斜めに逸らしながら言った。
「……メアリーを守りたい……と言ったら迷惑か？」
「……え？」
……守りたいって……私？メアリーって私の事？
……え！？ウソ！？バジル君が……私を守りたい！？
「……メアリー、防壁……」
「え、えっと！今の、どういう……」
「早く防壁を解除してくれ！戦えないだろ！」
「え、あ……う、うん！」
……うぅ、気になりすぎてまともに戦えないかも……。
バジル君に急かされて防壁を解除した。
……しょうがない。今は教団兵を倒してから…………あれ？
「……あれ？教団兵って……あんなに少なかったっけ？」
「……いや、もっと多かったぞ」
「だよね……」
防壁を解除した瞬間に、この氷の島での戦況に違和感を覚えた。
おかしいな……さっきはあんなに居た教団兵の大軍が半分も減ってる。
しかも……！
「ひ、ひぇぇ！ヤベェ！強すぎてヤベェよぉ！」
「お、おい！お前が先に行けよ！剣術には自身があるんだろ！？」
「いやいやいや！剣で勝てる相手じゃないだろ！？お前こそ自慢の魔術でなんとかしろよ！」
「なんとか出来たらとっくにやってるっつーの！」
どう言う訳か、教団兵の殆どが怯えた表情を浮かべながら尻込みしてる。
どうしたんだろう？あの怯え方……普通じゃない事が起きたとしか思えない。
「……あ、メアリー！手当てはもう終わったのか？」
ふと、オリヴィアちゃんとリシャスちゃんが私たちの存在に気付いたようだ。
でも、この二人も様子がおかしかった。さっきまで戦ってたハズなのに全然疲れてない。それに……私との距離が意外と近い。教団兵に突撃したハズなのに……。
「二人とも……大丈夫みたいだね」
「ああ、なんせ私たちは一切手を出してないからな……」
「え？」
「ほら、あれだ、あれ」
リシャスさんはとある方向へと指差した。私もその先へと視線を移すと、そこには…………！
「……フン！これくらいで怖気付きおって！他愛も無い虚け共よ！」
そこには、仁王立ちで教団兵を睨み付けてる黒ひげさんが居た。
そうか……黒ひげさんも乱入したんだ。もしかして……黒ひげさんが教団兵の半分を倒したの？
「……挑む気が無いのであれば、我自ら手を下すまでよ！」
そう言い放つと、黒ひげさんは片手を教団兵の大軍に向かって翳すと…………！
「念力爆破！」
ドカァァァァァァァン！！
「ぎゃあああああ！！」
「ふぇ！？な、何！？何が起きたの！？」
突然、黒ひげさんが片手に力を入れると同時に、教団兵の大軍が居た場所が爆発した！教団兵たちは爆発に巻き込まれ、赤黒い炎が燃え盛ると同時に、漆黒の煙がモクモクと天空へ昇りあがる！
なんで……なんで急に爆発したの！？あの辺りに火薬でもばら撒かれてたの！？
「我が攻撃に……範囲などという規定など皆無！」
すると、黒ひげさんの両手から何やら黒色の小さな粒が数十個生成された。
「飛ぶのだ、爆種！」
そして黒ひげさんが両手を突き出すと同時に、爆種と呼ばれた黒色の粒が飛び出て、次々と教団の身体に付着する。
そして…………！
「点火！」
パチン！
ドカァァァァン！！
「ぎゃああああ！！」
「あ、熱い！熱い！」
「み、水だ！海へ飛び込め！」
黒ひげさんが指をパチンと鳴らした瞬間、爆種が爆発した！爆発を受けて炎に包まれた教団兵は次々と海へ飛び込んでいく。
「休ませる暇は与えぬぞ！」
そう言うと、黒ひげさんは片腕を引いて教団兵の大軍に狙いを定めると……。
「突風爆破！」
一気に腕を突き出した。
すると…………！
ビュウウウウウウウ！
突然、突風が出たかと思うと…………！
ドカァァァァン！！
「うわあああああ！！」
またしても爆発した！今度は突風を受けた教団兵たちがが爆発を受けて、次々と海へと飛び込む！
今の突風は黒ひげさんの腕から放たれたんだ……！というか……！
「黒ひげさんの攻撃って……爆発するものばかり……！」
そう、さっきから黒ひげさんが繰り出す攻撃は全て爆発するものばかりだ！たった一発の攻撃で、複数の教団兵を一気に倒してる！
「フハハハハ！これぞ我が得意とする魔術……『爆破魔法』よ！あらゆるものを破壊する術……それが爆破！我が敵となる者は、爆破魔法の爆炎に呑まれるが良い！」
黒ひげさんは誇らしげに言い放った。
爆破魔法……さっきバジルに治癒魔法を掛けてる最中にも爆音が聞こえたけど、あれも黒ひげさんの仕業だったんだ。
そういえば……黒ひげさんはあらゆるものでも破壊出来る力を持ってたとか。今この状況を見てその謎が明らかになった。
破壊出来る力って……この事だったんだ！
「虚け共よ！貴様ら全員相手をしてやる！掛かって参れ！」
黒ひげさんは勇ましくも、教団兵の大軍にビシッと人差し指を向けて言い放った。
「しょ、諸君！ボケッとしてないで行ってきたまえ！それと、第一に吾輩の命を守りたまえ！」
「そ、そんな無茶な！」
「口答えを許した覚えは無いよ！戦いながら吾輩を全力で守りたまえ！」
「い、嫌です！絶対嫌ですから！」
しかし、教団兵たちは戦いに挑むどころか、何時起こるか分からない爆発に怯えてばかりいる。更にラスポーネルは教団兵の影に隠れて偉そうに命令ばかりしてる。
やれやれ……誰も戦う気が無いじゃない。これじゃあもう不戦勝かな？
「……私が相手です！」
「……む？」
すると、何者かが黒ひげさんの前に立ちはだかった。
あれって……女の人？
「……どうやら互いに悪運が強かったようだな」
「悪運ではありません！主神様が私を救ってくれたのです！」
「……ぬかしおって」
黒ひげさんはあの女の人を知ってるのか、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。
女の人の外見は……透き通った肌、金色の長髪、胸元には十字架のマーク、そして片手には銀色の剣……一見すると、誰もが認める美人だと思われるが……。
「タイラント君！君だけが頼りだ！なんとかしたまえ！」
ラスポーネルが教団兵の影に隠れたまま叫んだ。
この女の人はタイラントって言う名前らしいけど……どうやら教団の人間のようだ。
「……まさか、３０年の年月を経て貴様と再び相見えるとは……これは偶然か？それとも定めか？」
「私は……定めだと思います。貴方との決着をつける為に蘇ったとしか思えません」
「そうか……」
黒ひげさんは拳を握り、タイラントに突き出して言い放った。
「ならばそのようにするまでよ！３０年前から預けられた決闘……今此処で終わらせるのみぞ！」
「望むところ！主神の加護の下に、貴方を此処で打ち倒す！」
そして今……二人の決闘が始まった！！
12/11/04 21:05更新 / シャークドン
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