連載小説
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第十二話 勝利への道は閉ざされた!
「なんてことだ……!」

氷の島アイス・グラベルドの崖にて……遠くから悠々とこちらに向かってくる五隻の教団の船を目の当たりにして、俺はただ呆然とするしかなかった。
すぐ傍の海上では俺の愛船ブラック・モンスターに乗ってる仲間たちが教団と戦ってるというのに……!いくら俺の仲間たちでも、あの数をまとめて相手にするのは無理だ!
早く助けに行かないと!

「……ふん!教団の虚け共め……30年も経った今でも全くもって変わらぬようだな……!」

俺の隣に立ってる黒ひげは腕組みをしながらこちらに向かってくる五隻の教団の船を不愉快そうに見据えながら呟いた。

そう言えば……黒ひげは30年前に教団の勇者と戦った経歴があるんだった。という事は……黒ひげと教団には深い因縁があると言っても過言ではないな。
……って、そんな事思ってる場合じゃなかった!


「こうなりゃ全力で暴れまわってやる!行くぜ!!」


俺は足に力を入れて、勢いよく崖から跳び上がった!



みんな……待っててくれ!俺が必ず助けt



「待たんか!」




ガシッ!!




「え!?あ!ちょ、足を掴まれたら……!」



ヒュゥゥゥゥ……



ガドーーーン!!




「ほげーっ!!」
「うわっ!カッコわるっ!!」




急に足を掴まれたことにより空中で停止してしまい、勢い余って弧を描きながら崖の側面に全身で激突してしまった……。
てかメアリー!『カッコわるっ!!』って何だよ!『カッコわるっ!!』って!!

「全く、少しは落ち着かぬか…………」

よく分からないが黒ひげは半ば呆れながら俺を崖から引っ張り上げた。

「しかしまぁ、『ほげー』とは……ひょうきんな事この上ないな……ククク……!」
「アンタの所為だろーが!!」
「……カッコ悪い」
「二度も言われた!?」

崖の上で座り込む俺を見るなり、黒ひげは笑いを堪えるわ、メアリーは哀れみの視線を向けるわ、踏んだり蹴ったりとはこの事か……。

「……で、なんで止めたんだよ!?早く行かないと間に合わないだろ!?」
「だから落ち着かぬか。こんな状況であるからこそ冷静にならなければなるまい」

立ち上がりながら抗議する俺を黒ひげは両手を翳して宥めた。

……まぁ、確かにその通りだな。こんな時こそ冷静に…………。




ヒュゥン!




「ん!?」


突然、何か巨大な物体が俺たちの頭上を通り過ぎた。

「……あぁ!?あれは……!」

そしてメアリーが目を見開きながら海の方向を指差した。
メアリーの指差す方向へと視線を向けると…………!

「バジル!?」

なんと、バジルが巨大な鳥に乗ってブラック・モンスターに隣接してる教団の船に向かっていた!
そして…………!

「あ!見て!バジル君が教団の兵士たちと戦ってる!」

そう、バジルは教団の兵士たちを次々と海へ落とし始めた。まるで、俺の仲間たちに助太刀するかのように……!

「助けてくれるのはありがたいが、なんでこんな所に……?」
「分からない。でも、バジル君が戦ってるんだから、私たちも戦わないと!」

そう言うとメアリーは背中の翼を大きく広げ、空高く飛び上がり…………。


「バジル君!私が今行くから……」
「待てと言うておろうが!!」



ガシッ!!




「あ!ちょ、尻尾掴んだら……!」



ヒュゥゥゥゥ……



ベターーーン!!



「ぼべーっ!!」
「ええ!?カッコわりぃ!!」


急に尻尾を掴まれてビックリしたのか、翼に力が入らなくなった途端に空中で弧を描きながら崖の側面に……って俺と同じパターンかよ!!

「全く、この時代の若人はせっかちな奴ばかりであるな……」
「だってぇ…………」

黒ひげに崖の上まで引き上げてもらったメアリーは、ペタンと座ったまま頬を膨らませて不貞腐れた。

「しかしまぁ……貴様まで『ぼべー』とは……ククク……!」
「誰の所為よ!!」
「いやぁ、カッコ悪いなぁ……。うん、マジでカッコ悪い……」
「あー!三度も言ったぁ!しかも最後には『マジ』なんて付けたぁ!ひっどーい!!」

さっきのお返しとばかりに三度も言ってやった。
メアリー、これでアンタも俺の気持ちが分かっただろう……。

「……ゴホン!さて、下らぬ寸劇はさておき……」

黒ひげは軽く咳払いをしてから話を切り出した。

「良いか?貴様らが今すぐ駆けつけ、貴様の部下を助けたとしても、ここに向かって来てる五隻の船を相手にどう立ち向かうと言うのだ?」
「それは…………」

確かに、俺の仲間と戦ってる教団の連中を追い払ったとしても、こっちに向かって来てる五隻の船を相手にしなければならない。
正面から立ち向かうとしても、ブラック・モンスターだけで五隻の船を相手にするのには無理がある。逃げ回る手段もあるが……戦った後の残り少ない体力で逃げ切れる可能性は極めて低い。

だとしたら……どうすれば良いんだよ……!

「……貴様は……このような状況においても、己の部下を助けたいと思っておるのか?」

黒ひげは真っ直ぐな視線を向けながら言った。
それは……勿論……!

「どんな状況だろうと、俺は絶対に仲間たちを見捨てたりしない!あいつらは……俺にとって宝だ!サフィアも、ピュラも、ヘルムも……みんな何にも変え難い最高の宝なんだよ!」
「!?」

黒ひげは息を呑んだが……今言った言葉に偽りは無い。
愛する妻も、妹分も、親友も、部下も全力で守る!それが俺の……キャプテンとしての心構えだ!

「……宝か……」

黒ひげは俺の目をジッと見つめながら微笑んだ。まるで、我が子の成長を温かく見守るかのように…………。

「良かろう!我が力を貸してやる!共に戦おうではないか!」
「え!?力を貸すって……ホントか!?」
「男に二言は無い!さぁ、我について来い!」

黒ひげは踵を返し、海とは反対方向に向かって歩き始めた。
まさか伝説の海賊が協力してくれるなんて……って、ちょっと待て!

「どこへ行くんだよ!?敵はあっちだぞ!?」
「分かっておるわ。まずは敵の勢力を上回る程の戦力を用意しなければなるまい」
「戦力?」
「百聞は一見に如かず。実際にその目で見れば分かる。焦る気持ちを抑えて我について来い」

そう言って黒ひげはスタスタと歩き続けた。

しかし、不思議なものだな。大した根拠の無い発言なのに、心から頼もしく思えてしまうなんて…………。



〜〜〜数分後〜〜〜



「黒ひげ、一つ訊かせてくれ」
「ん?」

俺は先頭を歩く黒ひげの背中に向かって言った。

「アンタが協力してくれるのはありがたいさ。でも、なんで急にそんな気になったんだ?無理をしてでも手を差し伸べる義務も無いのに……」

黒ひげが力を貸してくれるのは本当にありがたいと思ってる。でも、何故俺たちを助ける気になったのかが未だに分からない。俺たちを助けたとしても、黒ひげには何のメリットも無いとしか思えないんだが…………。

「……気に入ったからよ」
「……え?」
「貴様が気に入ったから手を貸すのだ。理由など他には無い」

気に入った?俺が?ホントかよ?

「気に入ったって……なんでまた……?」
「妻だけではなく、妹に旧友、挙句の果てには己の部下まで宝と呼ぶ。貴様のその心構えは賞賛に値する。我は……貴様のような海賊こそ長く生きるべきだと考えておる」
「…………」
「それに、希望に溢れる海賊の若き芽が摘み取られるのは許し難い。我のように古き時代の海賊には、貴様のような期待の新星を見守る義務がある。分かるか?貴様には期待しておるのだよ」

……俺に期待してくれてるのか?伝説の海賊に期待されるのは……嬉しいけど、どこか小恥ずかしい気がするな……。

「むぅ、キッド君ばっかり……!私だって海賊なのに!」
「フハハハハ!そう不貞腐れるな!貴様とて同じよ!貴様が立派な海賊団の船長になる日を楽しみにしておるぞ!」
「うん!私も立派な海賊になるからね!」

俺の隣を歩いてるメアリーは俺と黒ひげの会話を聞いて不機嫌になってたが、黒ひげに励まされた途端に機嫌を直した。
全く、分かりやすい奴だな。

こうして歩き続けていると、突然黒ひげが立ち止まった。どうやら目的地と思われる場所に着いたらしい。

「黒ひげ……ここに戦力があるのか?」
「うむ」

メアリーと共に黒ひげに連れてこられたのは人気の無い海岸。正面を見渡しても無限に広がる海ばかりで、それ以外に変わったものは見当たらない。

「あの、黒ひげさん……ここに何があるの?」
「まぁ見ておれ」

何やら余裕の笑みを浮かべながら、黒ひげは胸元の内ポケットから何かを取り出した。
あれは……指揮棒だ。そういえば、さっき復活した時も同じ物を取り出してたな。

「……30年という長い年月……眠っておったのは我だけではなかったようだな」

懐かしむように言うと、黒ひげは指揮棒を海面へ向けた。
すると…………。

「あ!指揮棒が……!」

黒ひげの指揮棒から禍々しい黒色の魔力が放出された。そしてその魔力は海面に向かって線状になって放たれ、そのまま海中の奥底へと進んでいった。


「……改めて考えると、我がこの時代において伝説と呼ばれるようになったのも、貴様のお陰でもあるな」


黒ひげは静かに呟いたが……それは俺にでも、メアリーにでもなく、海中の何かに向けて言ってるように見えた。


「長年眠り続けて退屈であっただろう?だが……そんな貴様に朗報がある。すぐ近くで教団の虚け共が暴れておるわ」


独り言のようにも見えるが……黒ひげは後ろにいる俺たちに構わず海中の何かに話し続ける。

「……ねぇキッド君、さっきから黒ひげさんは何をやってるの?」
「さぁ、分からねぇ……」

メアリーが俺に訊いてきたが……俺だってよく分かってない。
ただ……これから何かが起こりそうな予感がしてならなかった。

「……また暴れようではないか。30年前と同じように……我と共に戦おうではないか!」
「……ん?」

ふと、俺は反射的に海の異変に気づいた。
なんと言うか…………海底から小さい影らしき物が……。

「さぁ、今こそ姿を現せ!長年の眠りから覚めるのだ!我が究極の大秘宝よ!」
「!?」

今、究極の大秘宝って……!?

「ああ!キッド君!あれ、あれ!」

メアリーが驚いた様子で海面を指差した。
その先にある小さい影が徐々に大きくなり…………!




ザパァァァァン!!




「くっ!?」
「きゃあ!?」

突然、海中から何か巨大な物体が浮上してきた。勢いのあまりに海の水滴が飛び散り、俺とメアリーは思わず身体をよじってしまった。

「おお……変わらぬ姿で何よりぞ!」

黒ひげの歓喜の言葉を聞き、俺は恐る恐る姿勢を正し、海中から出てきた物体の正体をこの目で確かめたが…………。

「……これは……まさか!?」
「……ほぇ!?これって……!?」

俺は……目の前で海に浮かんでる巨大な物体を見た瞬間に言葉を失ってしまった。メアリーも俺と同じように、巨大な物体を目前にして驚きを隠せないでいるようだ。
何やら球状のバリアーらしき物で包まれてるようだが……それを差し引いても巨大である事に変わりはない。


「ククク…………こやつと共に戦えると思うと年甲斐も無く心が躍る!一度死に掛けても海賊の血は衰えぬようだな!」


そう言う黒ひげは……心から嬉しそうな笑顔を浮かべた…………。




***************




「Shit!なんて奴だ!」
「どうしました?もっとドラゴンの力を出しても良いのですよ?」

私の目の前で剣を構えてる金髪の女……タイラントは余裕の笑みを浮かべた。
この女と戦ってから数分は経つが、一切の隙が無い……!攻撃、防御、素早さ、体力……全てにおいて圧倒的な高さを誇ってる。

「油断するなよ……!今から本気で叩きのめしてやるからな!」
「そこまで仰るのであればかかって来なさい!」

そう言うんだったら……遠慮なく行くぞ!

「喰らえ!Steel claw!」

両足に力を込めてタイラントに駆け寄り、鉄の如く頑丈な爪で斬りかかった。

「せりゃあ!!」
「はぁぁぁぁ!!」

しかし、相手も容易く喰らってくれる訳ではない。タイラントは右手に持ってる剣で応戦し、そのまま互いの斬撃による攻撃が繰り返される。
爪と剣がぶつかり合う度に、金属の乾いた音と同時に小さな衝撃波が発生される。その衝撃波はタイラントの剣の威力がどれほど強力なのかを物語っていた。

「……そこだ!」

このままでは埒が明かない。そう判断した私はタイラントの剣を素手で掴んで…………!




ブォォォォォ!!



至近距離でタイラントの顔を目掛けて灼熱の炎を吐き出した!
しかし…………!


「甘い!」

瞬時に魔力の円状のシールドで防がれてしまった。
参った……瞬発力も長けてるとはな……!

「この剣から手を放しなさい!さもなくば…………!」

突然、タイラントの剣から眩い光が…………!


「シャイニング・スパーク!!」



バリバリバリバリバリ!!



「うぁああああ!!」


剣から放出された電撃が私の体中に走り、骨の髄まで痺れさせた!
強い電流に耐え切れなくなり、思わず剣を放してしまった。

「隙あり!」

私が怯んだ瞬間に、タイラントは電流を帯びた剣を振りかざした。
不味い!早く回避を…………!


「思い上がるなぁ!!」
「ああっ!?」


次の瞬間、何者かがタイラントを突き飛ばした事により、私は剣の一撃を喰らわずにすんだ。
助かったが……一体誰が?


「油断するなと言っただろう?」
「……リシャス!?」

正面を向くと、さっきまでブラック・モンスターで教団兵と戦ってたリシャスがレイピアを抜き取って身構えていた。
今タイラントを突き飛ばしたのはリシャスか……。お陰で助かった。

「Thank you,ところで、こんな所に来ても良いのか?教団兵は片付けたのか?」
「教団の連中は僅かに残ってるが……私が手を貸す必要も無い。今はこの女をねじ伏せるのが先だ。どんなに拒んでも加勢するからな」
「……まぁ、今回ばかりはお言葉に甘えるしかないよな……」

本音を言えば、二対一なんてUnfairだから一人でぶっ飛ばしたいんだが……今回は相手が悪過ぎる。不本意だが、リシャスにも協力してもらおう。

「……ドラゴンとヴァンパイアとは……奇妙な組み合わせですね」

先ほどリシャスに突き飛ばされたタイラントは徐に立ち上がって鋭い眼差しを向けた。
しかしまぁ……本当にタフな女だな。こいつ、本当に人間かよ?

「……さて、早く片付けるとするか」
「片付けられるのは貴方方ではなくて?」
「無駄口を叩く暇があったら、大人しくやられろ!私は早くコリックとヤりまくりたいのでな!」

いや、ちょっとリシャス……最後の一言は言わなくても……。


「そこまでだぁ!魔物共!!」


突然、島の奥から教団兵と思われる軍団が姿を現した。
なんて事だ……!島にもこんなに教団の連中が隠れていたのか!

「いやいや、中々の盛り上がりだねぇ!」

またしても島の奥から何者かが現れた。
待てよ?この声は……まさか!


「ああ!あんたは……!」


そう……島の奥から現れたのはキャプテンを攫った張本人、ラスポーネルだった!
いや待て……何故こいつは教団の連中と一緒にいるんだ?こいつも海賊だったハズ……。
いや、それよりも大事なのはキャプテンが何処にいるかだ!


「テメェ……!キャプテンはどこだ!?」
「キャプテン?ああ、キッド君の事だね!彼なら我輩の船の牢屋に閉じ込められてるだろうねぇ!」
「だったら、その船の場所を教えろ!」
「教えたって無駄でしょ?だって君たちは此処で死ぬのだからねぇ!」

ラスポーネルの発言と同時に、教団兵の軍団が一斉に武器を構えた。
しまった……。ただでさえタイラントに苦戦してるってのに……あんな雑魚共に構ってる余裕なんか無いぞ!

「フフフ……さぁ、行きたまえ!タイラントを援護したまえ!」
「イェス!ジェントルメーン!!」

奇妙な掛け声と同時に、教団の兵士たちが襲いかかって来た!

「くっ……!オリヴィア!奴等の相手は私が引き受ける!貴様はその女を……!」

と、リシャスがレイピアを構えて教団兵の軍団に立ち向かおうとした…………その時!






「そこまでだ!ファイヤー・クロウ!」




「……え!?」


ブォォォォォォ!!



「ぎゃああ!あ、アチチチチ!!」
「う、うわぁ!燃える〜!」

戦闘を走ってた数名の教団兵が炎に包まれた!そして燃やされてる教団兵たちは我先にと海へと飛び込んだ。
今のは……炎?いや、カラス?

「ラスポーネル!ここで全て終わらせてやるぞ!」

聞き覚えのある声と同時に、何者かが空から華麗に着地した。
そいつは……!

「あんたは…………バジル!?」

そいつは……私たちにこの島の場所を教えた張本人、バジルだった。両手にランスを持ち、鋭い目つきでラスポーネルを睨み付けている。
でも、こいつは確かラスポーネルに雇われてる身分だったハズ……。それなのに何故……?

「……そう身構えるな。今から俺は貴様らの味方になる」
「え?どういうことだ?Why?」
「事情が変わった。俺はもうあんな男とは縁を切った」

それだけ言うと、バジルはランスの先をラスポーネルに向けて言い放った。

「此処に来る前に……貴様のアジトは完膚なきまでに破壊した!後は貴様の首を狩ればそれで終わりだ!」
「……おやおや、吾輩に喧嘩を売るとは……どうやら後戻りする気は無いようだねぇ」
「誰が貴様のような男に雇われるものか!」

……どうなってるんだ?こいつら、仲間割れでもしたのか?

「残念だねぇ……。だったら、此処で無様に殺されたまえ!」

ラスポーネルの叫びと同時に、教団兵の軍団が一斉にバジルに襲い掛かった。
おおっと!一人であの軍団を相手にするのは限度がある。ここは私も……!

「来るな!」
「!?」
「こいつらの相手は俺一人で十分だ!貴様らはタイラントを倒せ!」
「いや、でも……」
「うぉぉぉぉぉ!!」

と、私が駆けつけようとした瞬間バジルは私を呼び止め、自ら教団の軍団へと突撃した。

「せりゃあ!!」
「ぎゃあ!?」
「ちょ、なんだよこいつ……ぐはぁっ!」
「さぁ、死にたい奴から相手をしてやる!」

だが、どうやら心配する必要は無さそうだ。あの大軍を相手にランスを振り回して互角に戦ってる。
よく考えれば、バジルは100人斬りを達成した実力者でもあった。ここはバジルに任せても大丈夫か。

「……さて、勝負の続きを始めましょうか」

今まで黙って事の成り行きを見物していたタイラントがゆっくりとこちらに歩み寄って来た。
おっと、余所見をしてる場合じゃなかったな。

「よし……行くぞ、オリヴィア!」
「OK!Let'go!」

私とリシャスは同時にタイラントに向かって駆け寄った。

「せぁあ!」
「ふんっ!」

まずはリシャスが先陣切ってレイピアでタイラントに斬りかかったが、それに対しタイラントは剣でレイピアの斬撃を受け止めた。

「よし!今なら背中が隙だらけだ!」

タイラントの動きが止まってる隙に、私は素早くタイラントの背後に回り込んだ。
そして…………!

「Magnum punch!!」

力が込められた拳をタイラントに突き出した!
しかし…………!




ガシッ!!



「甘く見ないでください」
「What!?」

片手で簡単に受け止められてしまった!そして今、タイラントは右手の剣でリシャスのレイピアを、左手で私の拳を受け止め……まさに挟み撃ちの状態となった。

「ぬっ……くっ!」
「ふぅん、ぬ……!」

私とリシャスはそれぞれ力任せにタイラントを押し潰そうとしたが、当の本人はビクともしない。
どうなってんだよ……!その華奢な体のどこにそんな力が!?

「ゴリ押しとは利口ではありませんね」

それだけ言うと、タイラントは両手で素早く私たちを弾き返し…………。

「はぁっ!」
「くっ!」
「うぉ!?」

大きく跳び上がって足を広げ、私とリシャスを同時に蹴り飛ばした。

「おのれ……図に乗るな!」

腹を蹴られたリシャスは魔力で生成された背中の翼を広げ空高く羽ばたいた。そしてレイピアを構えて…………!

「はぁぁぁぁ!!」
「たりゃあああ!!」

目にも留まらぬ速さで連続突きを繰り出した。それに対しタイラントは剣でレイピアによる連撃を一つ一つ的確に受け流した。
リシャスに気を逸らされてる今なら、今度こそ攻撃を当てられるかもしれない……!打撃が止められるのなら、これはどうだ!


「ブォォォォォォォ!!」


私はタイラントの背中に向かって自慢の炎を吐き出したが……

「……身代わりがあって良かったです」
「え……ぐあっ!?」
「!?」

なんと、タイラントは空中にいるリシャスの手首を掴み、私に向かって投げ飛ばした!

やばい!このままじゃ、炎がリシャスに当たる!
私は慌てて口を閉じたが、既に吐かれた炎はリシャスに向かって……!

「くっ!……ふぅん!」

しかし、リシャスは力を振り絞って上空へ飛び上がり、私の炎を上手くかわした。そして避けられた炎はそのままタイラントに向かったが……。

「サンライト・バリアー!」

タイラントの魔術の防壁によって防がれてしまった。
しかし、危なかった……もう少しでリシャスを燃やしてしまうところだった……。

「ふぅ……危なかった……」
「すまない、リシャス……私とした事が……」
「謝るな。悪いのはあの女だろ?」

上空から着地したリシャスは私の詫びを軽くあしらったが、タイラントに対する敵対心は変わらないようだ。

「結局自分で防がなければならないなんて……身代わりの意味が無いじゃありませんか」
「黙れ!汚い真似をして、許されると思うな!」

明らかに挑発してるタイラントに対し、リシャスは腹の底から怒号を上げた。
しかし参ったな……リシャスと二人で挑んでも全く歯が立たない。こんなに苦戦するとは思わなかった。

せめて……キャプテンが来てくれれば…………!


「オリヴィアさーん!リシャスさーん!今助けに行きますからねー!」


突然楓の声が聞こえたので振り返ってみると、ブラック・モンスターが悠々とこちらに向かって進んでいた。
良かった……どうやら海上での戦いは無事に終わらせたみたいだな。


「おーい!タイラントくーん!」


突然、遠くで立ってるラスポーネルが大きく手を振ってタイラントを呼んだ。
なんなんだ、あの変な髭のオッサンは……さっきから戦闘に参加せずに高みの見物とは、良いご身分だな……。

「その魔物共の相手は後回しで構わない!今はこちらに向かって来てるあの海賊船を沈めたまえ!」

なに!?このオッサン、ふざけた事言いやがって!そんな事させるかよ!

「……分かりました!」

タイラントは静かに頷くと、剣を縦に振る構えに入った。
なんだ?さっきと同じ技を繰り出すようだな。だが、放たれる前に止めれば良いし、船には楓がいるから魔力の壁で防げる……!

「今度は……とびっきり大きいのをお見舞いして差し上げましょう!」

タイラントが持ってる剣に白い魔力が収束していった。
……いや待て……この魔力の量……さっきより多いぞ!

「これだけの力が込められていれば……今度は防壁などでは防げませんよ!」

そう言い放つタイラントは勝ち誇った笑みを浮かべていた。
……確かに……いくら楓の防壁でも、あれだけの魔力を止める事は出来ない!
だとしたら……全力で止めるしかない!

「Wait!そんな事させるかよぉ!」
「おのれ……コリックに怪我を負わせるような真似は許さない!」

私とリシャスはタイラントを止める為に全力で駆け寄ったが、タイラントは一旦左手を剣から放し、人差し指を私たちに向けて……!

「近寄らないでください……ロック・レーザー!」

突然、線状の光線が放たれた!

「う、うぉわ!?」
「な、なんだ!?身体が……動かない……!」

そして光線に当たった瞬間、自分の意思に逆らうかのように私とリシャスの身体が動かなくなってしまった。

「なんてこった……!この!こんにゃろ!動け!動けよ!」
「くっ!どうなってるんだ!?」

力尽くで動こうとしたものの、身体は全くもって言う事を聞いてくれない。
さっきタイラントが放った光線は敵の動きを封じる技だったのか……畜生!こんなトリッキーな技まで習得してたのかよ!

「貴方たちはそこで見ていなさい。卑劣な賊が無残に散り果てる様を……!」

そう言ってるタイラントの剣には膨大な量の魔力が……!

不味い!このままじゃ、船に乗ってる仲間たちが…………!
クソッ!クソッ!身体さえ動ければ……何とか出来るのに……!

「うぅん、くっ!動け!こんにゃろう!」
「あぁ!くぅ!ふんぬぅ!」

私とリシャスは力尽くで動こうとしたが、やはり身体はビクともしない。
なんて事だ……私は……何も出来ないのか……!


「さぁ、これで決まりです!ギガムーン・スラッシュ!」
「!?…………止めろぉぉぉぉぉ!!」


私の叫び声が通じる訳もなく、タイラントは無情にも船に向かって巨大な三日月形の魔力を放った!


……どうすれば……どうすれば良いんだよ……!
私はただ……目の前で仲間がやられる姿を見るしかないのか?
何も出来ずに……このまま大人しくやられるしかないのかよ!?







「待てぇ!!」





…………え!?




バァァァァァァン!!




「ぐぁあああああああ!!」
「!!?」


……私は見た。迅速に駆け出し、仲間が乗ってる船を背に、自ら魔力を受ける盾となった人物を……!
そいつは……その男は…………!


「バジル!!」


……そう……さっきまで教団兵と戦っていたバジルが、私たちの仲間を庇って三日月形の魔力を真正面から受けたのだ!

「うぅ……!」

威力の高い攻撃を喰らったバジルは、痛々しい呻き声を上げながらその場で倒れこんだ。
こいつ……自ら盾になるなんて……!


「……は!動ける!動けるぞ!」
「……お、本当だ!」

突然、リシャスが声を上げたかと思うと、身体が動けるようになった。どうやら光線の効果が切れたみたいだな。
いや、それよりも…………!

「おい!バジル!大丈夫か!?」
「う……うぅ……ん……」

私はうつ伏せに倒れてるバジルの下へ慌てて駆け寄り、その場でしゃがんで軽く背中を叩き、意識があるかどうかを確認した。
良かった……微かではあるが呼吸してるようだ。生きていて安心したよ。

「あんた……なんでこんな事を!?」
「……貴様らを……此処へ導いたのは俺だ……」
「だからなんだってんだよ!?」
「……こんな事になるとは思ってなかった……貴様らを……こんな目に……遭わせる気ではなかった……うぅ!」
「お、おい!大丈夫か!?」

突然、バジルは小さな呻き声を上げながら苦渋の表情を浮かべた。
やっぱりさっきの攻撃は相当効いたようだな。これは早く手を施すべきか……!

「だが……貴様らを勝手に……此処へ向かわせておいて……更に不条理な仕打ちを与えるなんて……俺には許せなかった……!何よりも……貴様らに何かあったら……貴様らの船長に……キッドに会わせる顔が無い…………!」

……成る程な。確かにキャプテンが認めるだけの事はある。
だが……こいつは責任感が強すぎる。そんな事、気にする必要なんて無いのに……!

「おやおやまぁまぁ!自分から攻撃を受けるなんて、ばっかだねぇ!そんなに馬鹿だとは思わなかったよ!いや、大馬鹿?それとも超馬鹿?アッハハハハハ!!」

遠くから見物していたラスポーネルは明らかに蔑むような目つきを向けながら大声で笑っていた。
こいつ…………さっきから偉そうに好き勝手言いやがって!

Shut up!テメェには、こいつを馬鹿にする資格は無いよ!」
「フフフ……弱い獣はよく吠えるものだねぇ」
「……もうブチ切れた!全員残らず潰してやる!」

素早く立ち上がって、あのラスポーネル……いや、クソ紳士を睨み付けた。
そこで待ってろよ!その面、ぶん殴ってやるからな!

「……あ!お、おいオリヴィア!あれを見ろ!」
「あぁ!?…………ふぇ!?」

リシャスは驚愕の表情を浮かべながら、とある方向を指差している。その先を追うように視線を移すと…………!


「……おいおい……なんだよ、あれ……!?」


そこには……並列になってこちらに向かって来てる五隻の船が…………!


「ちょっと待て……あの船……まさか……!?」
「……リシャス、残念だが……あれは間違いなく……」
「……教団の……」
「……そうらしいな……」


間違いなかった。あれは全部……教団の船だ!


「おお!やっと来たか!待ち侘びたよ!」


突然、ラスポーネルが歓喜の声を上げながら五隻の船に向かって大きく両手を振った。
……え?なんだ?あの教団の船……このオッサンと関係があるのか?
と言うか、待ち侘びたって……まさか、あの船はオッサンが呼んだのか!?

「フフフ……ちょっと大袈裟だとは思ってたけど……タイラントの復活の証人になってもらう為に、部下を全員此処へ呼んでおいて正解だったねぇ!」
「……貴様……なんて事を……!」

私の足元で倒れてるバジルが、満足げに頷いてるラスポーネルを睨み付けた。
……あのオッサン、部下がどうとか言わなかったか?

「どうなってんだよ……!海賊が教団の兵士を部下に従えてるとか、ジョークにも程があるだろ!?」
「……奴は……海賊ではない……」
「……え?」
「海賊は仮の姿で……ラスポーネルは……教団の人間だったんだ……!」
What!?それ本当かよ!?」

バジルの言葉を聞いて納得できた。
しかし、あれだけの船を此処に呼べるなんて、相当地位は高いんだろうな。

「……いや、待てよ?じゃあ、さっき私の仲間と戦ってた教団の連中は……!」
「恐らく、奴らも部下の一部だったのだろうな」

うつ伏せに倒れてるバジルの変わりにリシャスが答えた。
しかし、なんて事だ……まさか教団の船が五隻も来るなんて……!

「ククク……どうやら勝負あったようだねぇ。あれほどの大軍を相手に勝てる道理なんて無いからねぇ!」

ラスポーネルは勝ち誇った笑みを浮かべながら言い放った。

悔しいが……確かに勝てる気がしない。
私の仲間たちは決して弱くない。それは十分分かってる。だが、あれだけの数を相手に戦う体力なんて残ってない……。更にこっちは教団兵の大軍と共に、圧倒的な強さを誇るタイラントも残ってる。
もはや絶体絶命のピンチ……!だが……どうすれば良いのか私には分からない……!





……もう……ここまでなのかよ…………!











「まだ終わってないぜ!!」







ドォォォォォォォォォン!!





「うわぁ!?砲撃だぁ!」
「!?今のは……!?」

聞き慣れた声と同時に、大砲の音が当たりに響いた。
だが、大砲を受けたのは私たちではなく……こっちに向かってる教団の船だった。



ドォォォォン!!
ドォォォォン!!
ドォォォォン!!


「うわぁ!ま、まただ!」
「おのれ……一体どこから!?」
「あ!あ、あれです!」

休ませる隙も与えず、連続で放たれる砲撃。その猛攻を受けてる最中、一人の教団兵がとあるものを見つけたようだ。
しかし、此処からだと何も見えないが…………。

「…………ん!?あれは……!?」

砲撃を放ってるものが島の物陰から出てきた事によって、私にも見えるようになった。

「……あれは……船!?にしても…………デカイ!」

そう、教団の船に砲撃を放っていたのは、かなりの巨体を誇る全身黒色の船だった。
しかし、驚くべきはその大きさだけではない。その船のマストの天辺には旗が立てられてるが……その旗には、両目の赤い髑髏が爆弾らしき物を銜えてる姿が描かれていた。
あの旗を見れば海賊船である事は見当がつく。だが、何故海賊船がこんな所に…………?




「よぉ、野郎共!待たせて悪かったな!!」



突然、黒色の船から聞き覚えのある声が聞こえた。
この声は……まさか……。

「ああ!皆さん!あれ、あれ!」

すると、ブラック・モンスターに乗ってる楓が嬉しそうに顔を綻ばせながら黒色の船の甲板を指差した。

「……おお!やっぱりそうだったか!」
「……全く、サフィアに寂しい思いをさせておいて…………」

私とリシャスも楓が指差す方向へと視線を移し、船の甲板にいるものの正体を確認した。
その時、リシャスは呆れたように首を振ったが、どこか安心したような表情を浮かべていた。
それもその筈、何故なら、あの黒色の船には…………!




「キャプテン・キッド、参上!……なんてな」



そう、私たちのキャプテン……キッドが乗っていた!
良かった……!無事だったんだな!


「みんなー!今助けるからねー!」


キャプテンの隣に立ってる、頭にバンダナを巻いた白い髪の女が元気よく大声を上げた。
あれは……メアリー!キャプテンと一緒に攫われてたけど、あいつも無事だったのか!
いやぁ、良かった……本当に良かった!

「うぇえ!?なななななんで!?なんであんな所にいるの!?」

と、キャプテンとメアリーの姿を見た瞬間、ラスポーネルはひどく動揺した。
そう言えばこのオッサン、キャプテンとメアリーは牢屋に閉じ込めてるとか言ってなかったか?

「……ふ……あいつら……無事に脱出出来たようだな……」
「え……バ、バジル君!まさか、君が…………!」
「……俺はな……最初から……あいつらの味方なのさ!」
「ぐぎぎぎぎ!なんて憎たらしい!このアホガキがぁ!クズ!カス!豚野郎!」
「……貴様の方が、よく吠える弱い獣だな!」
「うぐっ!」

お!上手い事言った!賞賛の拍手を送りたいくらいだよ。
それにしても……バジルは最初から私たちを助けてくれてたんだな。こいつ、やっぱり良い奴なのかもな。


「ふはははは!30年の年月を経ても、我が究極の秘宝は健全のようであるな!」


突然、黒色の船の甲板にてキャプテンの隣に見知らぬ男が現れた。
胸元まである長い髭に右頬の×印の傷、赤いコートを着ており、頭には三角帽を被っている。

「あれは…………黒ひげ!?生きていたのですか!?」

タイラントが目を見開いて黒色の船に乗ってる髭の男を見据えた。

……ん?黒ひげ?聞いた事があるような…………?
……ああ!思い出した!以前、キャプテンが話してたな!確か、30年前に死んだ伝説の海賊……って、ええ!?

「あれが……黒ひげ!?」

私は改めて髭の男を見直した。
あれが黒ひげだとしたら……なんでキャプテンとメアリーと一緒にいるんだ?いや、それ以前に……死んだはずの人間が何故この世にいるんだよ!?

「教団の虚け共!しかと聞け!!」

私が疑問に思ってるのを余所に、黒ひげはキャプテンとメアリーの肩に手を置いて言い放った。

「海賊の若き芽を摘み取るような愚考はさせぬ!今此処にいる二人の若い海賊は……これからの海賊の時代を築き上げる新星なのだ!」

そして黒ひげは二人の肩から手を放し、一呼吸置いてから大声を上げた。



「我を敵に回したからには……勝利への道は閉ざされたと思え!!」



「ひ、ひぃぃ!」
「ヤベェよ……怖ぇよぉ……!」

黒ひげの迫力に次々と怖気づく教団の兵士たち。
あの威圧感……確かに敵側から見れば厄介だが、味方になってくれると思うと頼もしい事この上ない!

「さぁ、我が愛船、もとい我が究極の海賊船『ダークネス・キング号』よ!共に戦おうぞ!」

黒ひげがそう言うと、黒色の船……いや、ダークネス・キング号は教団の船の大軍に向かって進み始めた。


「よぉし!お預けされた分、力の限り暴れてやるぜ!」
「私たち、キャプテントリオは無敵だよね!」
「フハハハハ!キャプテントリオとは面白い!しかし、その意気や良し!やはり海賊たるもの、己が内に秘める闘志を燃やすべきよ!」


キッド、メアリー、そして黒ひげ…………。
なんとも奇妙な組み合わせだが、一つだけ言える事がある。

本当の戦いは……これから始まるんだ!



「キッド、メアリー……決着をつけに行くぞ!!」
「「おう!」」



そして今、第二ラウンドのゴングが鳴った!!
12/10/14 19:39更新 / シャークドン
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■作者メッセージ
ここまで読んでくださった方は分かってくれたとは思いますが、サブタイトルは黒ひげのセリフだったりします。いやぁ、実は一度でも良いからキャラのセリフをサブタイトルにしてみたいな……と思いましてね。

さて、次回は遅れてやってきたキッド、メアリー、黒ひげ……もといキャプテントリオが参戦!黒ひげの愛船ダークネス・キング号と共に大暴れ!……の予定です。
では、読んでくださってありがとうございました!

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