前編
「……釣れねぇな……」
「……釣れないね……」
晩飯を食べ終えた後、俺とヘルムは船の甲板にて夜釣りをしていた。
が、釣りを初めて2時間は経ったが、一向に釣れる気がしない。
「はぁ……小魚でも良いから釣られてよ……魚が食べたいのに……」
「晩飯食った後で、よく食べたいなんて言えるな」
「だってさ、最近肉料理が多いと思わない?食事のメニューに不満がある訳じゃないけどさ、たまには魚も食べたいでしょ?」
「肉でも良いじゃねぇか。俺たち海賊は、しっかり体力を付けないと。それに、肉は俺の好物だし」
「僕は肉より魚が好きなの」
こんな他愛も無い会話が繰り広げられる最中、俺たちの後ろから楓とリシャスが声をかけてきた。
「船長さん、ヘルムさん、何か釣れましたか?」
「ふん、その様子じゃ、小魚一匹ですら釣れてないようだな」
「ああ、見ての通り不調だよ」
俺は現状を正直に答えた。すると、リシャスがフンッと鼻で笑った。
「やり方が古いから釣れないんだ」
リシャスは腰に掛けてるレイピアを鞘から抜き取り、クルクルと片手で回すと……。
「ハッ!」
海に向かって一直線に投げ飛ばした。
「お、おい!何やって……!」
「黙って見てろ」
得意げな笑みを浮かべたまま、リシャスはクイッと片手の人差し指を自分の方へ曲げた。
すると、海へ投げられたレイピアが円を描きながらリシャスの手に戻って来た。
……五匹の魚が串刺しにされてた。
「これが新しい魚釣りだ」
リシャスは魚が刺さったレイピアを高々と掲げながらドヤ顔を見せた。
……いや、確かに魚は捕れたが…………。
「そりゃ、釣るって言うより刺してるだろ、銛みたいに」
「この方が一気に複数の魚が捕れる。一石二鳥だ」
「まぁ、そりゃそうだが、釣りってのは、こう……魚が釣れるまでのワクワク感ってのが……」
「負け惜しみなど見苦しいぞ」
……ああ、そうだよ、どうせ負け惜しみだよ…………。
もはや言い返す気力も失せてしまった。
「……リシャス、今度からそうやって魚を捕るのは禁止な」
「なんだと!?そんなに悔しいのか!嫉妬も良い所だぞ!」
「そうじゃない。魚どころか海に住んでる魔物にまで刺さったらどうするんだ?」
「うっ……!」
俺の反論に対し、リシャスは何も言い返せなかった。
確かに良い方法かもしれないが、海の魔物たちに巻き添えを喰らわせてしまったら申し訳が立たない。
「……全く、小言の多い船長だ……!」
「まぁまぁ、捕れた魚は私が美味しく料理して差し上げますから」
「う、うむ…………」
楓は優しい口調でリシャスを宥めた。そしてリシャスはレイピアに刺さった魚を俺の釣り籠に移した。
「……あ!キッド!引いてる、引いてる!」
「何!?」
ヘルムに呼ばれて視線を釣り竿に戻すと、釣り竿が海中に向かって曲がっていた。
おお!やっと来たか!
「よっしゃあ!釣ってやる!」
俺は釣り竿を力いっぱい引き上げ魚を引き寄せた。
手応えはかなりある。これはデカイぞ!
落ち着け、集中、集中だ……!
「敵船だー!!」
……何!?敵船!?
「あー!逃げられた!」
俺が気を逸らしてるうちに、魚が餌を食った後に逃げてしまった。
ああ!もう!釣れそうだったのに!
「敵はどこにいるんだ!?」
いつの間にか釣り道具を片づけていたヘルムがマストに立ってる見張り番の仲間に言った。俺もすぐに釣り道具を片づけた。
「船の真正面からこっちに向かって来ます!」
見張り番は船の進路方向を指差して言った。その方向を見ると、一隻の船が遠くからこっちに向かって来るのが窺えた。
マストに立ってるあの旗……ドクロが描かれてる。と言う事は、俺たちと同じ海賊か!
「……ねぇ、キッド」
「ん?」
「あの海賊たち、何か……おかしくない?」
「……?」
おかしい?おかしいって…………?
俺はこっちに向かって来る海賊たちの様子を窺った。
……何だろう、確かにおかしい……。どこか慌てふためいてるし、怯えてるし……。
「お、おい!ヤベェぞ!海賊が来るぞ!」
「くそっ!こんな時に!なんて最悪なタイミングなんだ!」
「モタモタしてる場合じゃねぇ!戦闘の準備だ!」
敵の船から声が聞こえてくる。どうやら、戦うつもりらしい。
「……でも、相手も戦う気があるみたいだけど……やるかい?」
「……勿論!」
変な様子だが、相手もやる気はあるようだ。
俺は船の仲間たちに向かって大声で叫んだ。
「野郎ども!戦闘だぁ!!」
「ウォォォォォォ!!」
俺の号令を引き金に、仲間たちは武器を引き抜いて戦闘態勢に入った。そうしているうちに、敵の船がすぐ手前まで近づいてくる。
「さぁ、始めようぜ……って、えぇ!?」
俺は敵の出で立ちに素っ頓狂な声を上げてしまった。
敵が武器として構えているのは…………!
「…………モップ?」
……いや、モップだけじゃない。敵が武器として構えているのは……フライパン、バケツ、樽、縄、皿……。武器としては使えそうにもない物ばかりだ。
「貴方達!」
突然、楓が険しい表情を浮かべながら声を荒げた。
何だ、突然?
「フライパンは料理をする為の道具で、お皿は料理を食べる為の道具です!今すぐ片付けなさい!」
……まぁ、その通りだけどよ……間違ってないけどよ……他にも突っ込むべき所があるだろうが……!
「う、うるせぇ!お前らみてぇな雑魚相手にはこれで十分なんだよ!」
フライパンを持った敵の男が怒鳴り出した。
「……随分と舐めた真似をしてくれる……!」
レイピアを構えていたリシャスが不愉快そうな表情を浮かべながら言った。だが、俺は敵の様子がどこか気になった。
確かに舐めてる様にも見えるが、どこか焦っている様にも見える。まさか、これも何かの作戦か?
「死にたくないんなら大人しく金をよこしやがれ!」
俺が思案に暮れていると、モップを持った敵の男が挑発してきた。
威勢は良いが、こけおどしに見える。
「俺たちは泣く子も黙る……うぎゃあ!?」
俺は素早くショットガンを抜き取り、虚勢を張るモップの男の腹を撃った。男は撃たれた腹の部分を抑えつつ、その場で膝を付いた。
「悪いが、金は渡せない。その前にお前らが海の藻屑になっちまうんだからな!」
俺はショットガンを敵に向けたまま、片手で長剣を抜き取り戦闘の体勢に入った。
相手が何を考えてるか分からないが、どの道戦う事だけは避けられない。ここは喧嘩を買ってやろうじゃねぇか!
「テ、テメェ!」
「やんのか、こらぁ!」
敵は武器……いや、武器としては申し分ない物を構えて威嚇してきた。
「上等だ!掛かって来やがれ!野郎ども!行くぜ!!」
「ウォォォォォォ!!」
俺の仲間たちの雄叫びが、広い海原に響いた…………。
〜〜〜翌日(午後8時)〜〜〜
私は洞窟にて今までの成果を振り返っていた。
昨日は財宝目当てに私に挑んできた海賊たちから逆に奪い盗ったが、どれも私が既に持っている物ばかりだった。奴らの船に積んである財宝を全て押収したが、取り分け珍しい物も、私の持ってない物も無かった。
それから今日に至るが、私に挑んでくる勇者や冒険者は一人も来る事はなく、財宝は増えなかった。
最近、こう言った不況が続いて退屈な日々を過ごしている。何か、私を楽しませる事でも起きないだろうか。
「……ん?」
ふと、洞窟の入り口から人間の気配を感じた。だが、複数の気配は感じない。
まさか、一人で来たのか?無謀と言うか、何と言うか…………。まぁ、良い。何か目ぼしい財宝でも持っていれば頂くとするか。
私は、洞窟の入り口に向かって歩き出した…………。
************
「……ここか?」
「へぇ、間違いないですぜ、旦那」
静けさが漂う夜の森林にて、俺と楓、そして街に住んでる情報屋の中年の男は少し離れた位置から洞窟の様子を窺っていた。
昨日の戦にて、最初は何かの作戦かと思ったが、手間取る事無く一分も経たない内に圧勝してしまった。そして勝った後、敵の船を隈なく調べてみて、昨日の時点における敵の事情を一通り知る事ができた。
あいつらは最初から武器と言える武器を持っていなかった。かつては幾つかの武器が収められていたであろう武器庫には、肝心の武器が一つも無かった。
金に困っていたから売った……なんて事も考えたが、戦う為の武器まで全部売るなんて自殺行為な真似をするとは思えない。恐らく、誰かに盗まれたんだろうと思った。
そして、その俺の予感は見事に的中した。この中に、昨日戦った海賊たちの武器を持って行った犯人がいる。
「……今はあの中にいるのか?」
「へぇ、あの中で戦士たちを待っているでしょうねぇ」
「財宝もあの中に?」
「恐らく」
俺の質問に対し、情報屋は真剣な表情で頷いた。
情報屋の話によると、数年前からあの洞窟に住んでいるドラゴンは自分より強い戦士を待っているらしい。だが、今まで数え切れない程の戦士たちが挑んだが、そいつに勝った者は一人もいないとか。
そして、あの洞窟の中には一生遊んで暮らせる程の値が付く秘宝があると聞いた。今まで挑んできた戦士たちの中には、その秘宝を目当てに来た者も含まれてるらしい。
「あの……今更このような事を言って大変申し訳無いのですが、もう少し仲間をお呼びになられた方がよろしいのでは?」
「ああ、俺たちは戦う為にここに来たんじゃない。あくまで真相を確かめる為に来たんだ」
少し不安そうな表情を浮かべながら問いかけてくる楓に対し、俺は余裕を見せながら答えた。
今回、俺たちがこの洞窟まで足を運んだ理由は真相を知る為だ。情報屋の話によると、昨日も海賊が秘宝を目当てにあの洞窟に入って行ったとか。昨日の海賊たちの武器が奪われたのは、あの洞窟に入った時しか考えられない。
それに、この洞窟にある秘宝ってのも気になるしな…………。
「…………!?」
ふと、洞窟から何かの気配がした。それは、徐々にこっちに向かって、もの凄い速さで…………!
「隠れろ!」
俺は咄嗟に木の陰に身を隠した。楓と情報屋も俺の言葉を合図に木の陰に身を隠す。すると、洞窟から何かが物凄い速さで夜空へと飛び立ち、どこかに向かって去って行った。
「……今のは……まさか!」
身を隠していた情報屋が目を丸くして何かが飛んで行った方向を見ながら呟いた。
まさか……あれが洞窟に住んでいたドラゴンか?
「旦那!急いで洞窟に入りやしょうぜ!秘宝の正体を暴く絶好のチャンスでっせ!」
いつの間にか洞窟の前まで駆け寄っていた情報屋が興奮気味に洞窟に入る様手招きしてきた。俺と楓も情報屋の後に続いて洞窟に向かう。だが、この時俺は幾つかの疑問が頭に浮かんだ。
あいつはこんな夜遅くに何処へ向かったんだ?それに、秘宝は守らなくても良いのか?
そう思ったが、考えるのは洞窟を調べてた後でも遅くはない。秘宝とやらを調べたら、すぐに船に戻るとするか。
俺たちは洞窟の中へ入り、更に奥深くへと進んで行った。
「……思ったより結構深いですね……」
「そうだな……」
洞窟は想像以上に奥行きがあり、薄暗くて不気味さが漂っていた。
「……ん?あれは……?」
歩き続けていると、奥から眩い光が放たれていた。
「おお!秘宝がありそうな予感がしやすぜ!」
情報屋が興奮気味に言った。
そう言えば、情報屋もドラゴンの秘宝を見た事が無いって言ってたな。希少価値の高い情報を手に入れられると思うと、ワクワクするようだ。
「……ん!?ちょっと待て!」
何か違和感を感じた俺は先へ行こうとする情報屋を慌てて止めた。
「何なんですか、旦那!?速く行きや……」
「シーッ!」
もどかしそうな表情を浮かべる情報屋を俺は人差し指を立てて黙らせた。
「……船長さん、何か……いますね?」
「………………」
楓も何かに気付いた様だ。静かな声で訊いてくる楓に対し、俺は無言で頷いた。
あの光輝く所から物音と、誰かの声が聞こえる。それも、女の声が。この洞窟に住んでるドラゴンならさっき何処かへ飛び出たばかりだ。と言う事は……!
「誰かいるぞ、あそこに……!」
俺は先頭に立ち、後ろにいる楓と情報屋を無言で手招きした。二人は緊張した面持ちで俺の後を付いて行く。
遠くから聞いてる為確信はできないが、恐らく一人だろう。だが、女一人でドラゴンを追い出したとは思えない。恐らく、手段は分からないが、ドラゴンの目を盗んで洞窟に忍び込んだのだろう。
俺は一歩一歩慎重に奥へと進んで行く。やがて、光の先にあった物が明確に見えた。
そこには……!
「ムッキー!どうなっているのです!?この頭脳明晰でビューティーなわたくしを混乱させるなんて!!」
「……なんだ、あれ?」
一人の女が頭を抱えて苦悩していた。その女は金髪のロールヘアで、頭に黒いシルクハットを被り、更に黒いマントと言ういかにも怪しい出で立ちだった。
そして女がいた場所には、ベッドに机など、様々な日用品が置かれて、壁の至る所に蝋燭が掛けられていた。
俺たちが遠くから見た光の正体はコレか。ドラゴンはここで生活しているんだな。
それにしても…………。
「……おい、あの女、誰なんだ?」
「さぁ、あっしにも分かりやせん……」
駄目元で情報屋に訊いてみたが、案の定、情報屋は首を横に振って答えた。
……つーか、あの女、これだけ人気の無い洞窟の中で俺たちの存在に気付かないってのもどうかしてると思うが……。
「……えぇ!?人!?何時の間に!?」
話しかけるかどうか迷ってる間に、女の方から俺たちに気付き、警戒の姿勢を示した。どうやら、こいつは魔物じゃない。人間の女のようだ。
「貴方達、一体何者ですの!?怪しいですわ!」
「いや、アンタの方が怪しいだろ、あからさまに!」
こんな所で頭抱えて自分を頭脳明晰だとかビューティーだとか言ってる人の方が変だろ!?
「ムカッ!誰が怪しいですって!?ビューティーの間違いではなくって!?」
「間違えてないわ!圧倒的に怪しいわ!」
「ムッカー!失礼しちゃいますわ!こんな美人に向かって怪しいだなんて!」
「いや、自分を美人とか言ってる時点で怪しい事に変わりはないっつーの!」
「ムッキー!ホント失礼ですわ!このわたくしに、スーパーエレガント、ハイパービューティーな、この怪盗シロップ様が怪しいだなんて!プンスカ、プンスカ、プンですわ!!」
……なんだ、こいつ…………。
半ば呆れたが、何時までもこんな不毛なやり取りをしてる場合じゃない。とりあえず俺は話を切り出す事にした。
「アンタ、シロップ……だっけ?」
「ええ!?貴方、何故わたくしの名前をご存じですの!?」
「いや、さっきアンタから名乗っただろ……」
「あら?そうでしたっけ?では、改めて……」
「いや、改める必要無いから、名乗らなくていいから……」
「わたくしの名はシロップ!美しくて、賢くて、強くて、エレガントで、世界一の怪盗!それが、このビューティー・シロップですわ!オーッホッホッホッホッホ!!」
……ダメだ、こいつ、早くなんとかしないと……って俺がする必要も無いな、うん。
……俺はとりあえず話を続けた。
「……あ〜それでだ、もしかしてアンタ、ドラゴンの秘宝が目的で此処に来たのか?」
「……ハッ!そうでしたわ!ええ、仰る通り!貴方達にはドラゴンの秘宝は渡しませんわ!」
シロップは再び警戒の体勢に入った。
怒ったり、笑ったり、警戒したり、忙しい奴だな……。
「いや、渡さないって言ってもさ、アンタだって見つけられてないんだろ?」
「フフン、それは現時点においての話ですわ!今に見てなさい!この賢過ぎるわたくしが、ドラゴンの秘宝を見つけ出してみせますわ!」
「てことは、アンタが秘宝を見つけたところを、俺たちが横取りするって事でOK?」
俺の質問に対し、シロップは慌てた様子で弁解した。
「……い、いや!貴方達が見てもよろしいのは、わたくしのビューティーな姿だけですわ!」
「いや、それだと、アンタが秘宝を見つけた姿も見るって事になるが?」
「だーかーら!見るのはわたくし!秘宝はダメ!絶対!」
「滅茶苦茶じゃねぇか!」
「お黙り!この長剣!」
「いや、それ俺の武器だから。罵ってないから」
「お黙り!このイケメン!」
「イケメンって貶してねーよ!逆に褒めとるわ!」
「お黙り!このアンチョビミルク!」
「意味分かんねーよ!!」
「○%×▼¥!>*+!!」
「もう言葉ですらねーよ!!」
ダメだ!ホントにダメだ!何がダメかって、色々とだ!ホントにこいつ、早くなんとかしないと!
「……あ、あの〜……」
突然、俺の後ろから楓が申し訳無さそうな表情を浮かべながら話しかけてきた。
「あの、情報屋さんが…………」
楓は、とある方向を指差した。その先には、机で何か本を呼んでいる情報屋が……。
「な、なんだってー!?」
「!?」
な、何だよ一体……いきなり大声出したりして……!
「お、おい、どうしたんだよ…………?」
俺は情報屋に恐る恐る声をかけた。すると、情報屋は呆然としつつも、俺に歩み寄ってページが開いた一冊の本の様な物を差し出した。
「……これ、机の中から見つけた日記なんすがね……」
そうか、日記か……って!
「人の日記を勝手に読んだりしたらダメだろ!こんなところ、ドラゴンに見られたら……!」
「いえ、あの、とにかく、これを読んでくだせぇ!」
「……?」
必死に読む様に催促してくる情報屋に戸惑いながらも、俺は日記を受け取ってあらかじめ開かれたページを読んでみた。楓とシロップも、覗きこむ様に日記を読んでみる。
しかし、日記を書くとは意外な…………ん?
「……え?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。日記に書かれてる信じられない真実を読んでるうちに……。
「は?」
「え?」
「嘘!」
またもや素っ頓狂な声を上げてしまった。しかも、今度は楓とシロップ同時にだ。そして、俺は次のページを読んでみる。
「「「…………」」」
俺は隣にいる楓と顔を見合わせた。その顔は、ひどく呆然とした表情だった。多分、俺も今同じ様な顔をしてる。そして…………!
「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」」
驚愕の叫びが、洞窟の中に響いた…………。
************
人気のない浜辺にて、僕は船の甲板から森林を眺めていた。数分前、キッドと楓が森林の奥にある街へと出かけたきり、未だに帰って来ない。
この島に上陸した後の事だった。街で散策していた僕は、山の中にドラゴンが住んでる洞窟がある噂を聞いた。なんでも、そのドラゴンは大量の武器を抱えて飛んでいたとか。
船に戻った僕は、早速キッドにドラゴンの事を報告。案の定、キッドは真相を確かめに行くと言い出した。本当ならこんな夜遅くに行かせたりはしないんだが、戦ったりはしない、無茶をしないと約束させて行かせる事にした。全く心配してない訳じゃないけど、キッドだって自分の事は顧みる。楓も一緒にいるから大丈夫だろう。
「お疲れ様です、ヘルム副船長」
ふと、僕の後ろからコリックが声をかけてきた。船の掃除が終わったらしく、汚れた水の入ったバケツとモップを持っていた。
「僕は何もしてないよ。疲れているのは君のほうじゃないかい?」
「いえいえ、これくらい、どうって事ないです」
コリックは明るい笑みを見せた。
元々人一倍の努力家だったけど、リシャスを嫁に貰ってから更に頑張っているように見える。やっぱり、お嫁さんを幸せにしたいと思うと頑張れるものなのだろうか。
「それにしても、キッド船長と楓さん、まだ戻って来ませんね」
「そうだね……おや?もしかして、心配してるのかい?」
「い、いえいえ!キッド船長も楓さんも、強くて頼もしい人たちです!あの二人に限って何か起こるなんて……!」
コリックは慌てて弁解した。
「……ん?」
ふと、何かの気配を感じた。
それは空から……って、空!?
「よお!海賊共!」
そこには、赤い翼を羽ばたかせて僕たちを見下ろしているドラゴンがいた。身体が炎の様に赤い鱗に覆われているドラゴンは、何か物を探すかの様に船を見渡した。船にいる他の仲間たちも、何事かと慌てふためきながらドラゴンを見ていた。
もしかして、あれが噂のドラゴンか!?
「あんた等のキャプテンに用があるんだ。さっさと会わせて貰いたいね」
ドラゴンは空中で滞空したまま言ってきた。
キャプテンって……キッドに?何で?
「うちの船長に一体、何の用があって来たんだ?」
僕はドラゴンに訊いたが、ドラゴンはハエでも追い払う様な仕草を見せて素っ気無く答えた。
「大人しくキャプテンさえ出てくれば答えてやるよ。それ以外の奴はすっこんでな!」
どうやら、キッドさえ帰って来てくれないと話が進まないようだな。
「だったら、もう少し待っててくれないか?生憎、船長は今外出中なんだ」
「Don't tell a lie!あんた等のキャプテンが居るのは知ってるんだよ!」
ドラゴンは大声を上げて威嚇してきた。
参ったな……まともに話を聞いてくれそうにないな……。でも、『知ってる』ってどう言う事なんだ?まるで、誰かから聞いたように言ってる気が……。
「……ああ、そうかい、それなら……Magnum!」
「!?」
突然、ドラゴンが空から急降下して来た。その先には……コリックが!
「コリック!逃げ……」
「うわぁ!!」
気づいた時には遅かった。コリックは船に着地したドラゴンによって胸倉を掴み上げられてしまった。上げられた拍子に、両手に持たれてたモップとバケツが音を立てて甲板に落ちた。
「Hey!教えてくれよ!キャプテンは何処にいるんだ?」
「ちょ!放してください!」
胸倉を掴まれ、宙に浮いたまま足をバタつかせて必死に抵抗するコリック。
「止めろ!手を放せ!」
僕はドラゴンからコリックを引き離そうとしたが、ドラゴンは空いた手の鋭い爪を僕に向けて威嚇した。
「キャプテンに会わせろ!それとも、力ずくでも私を追い出すか?」
ドラゴンはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら言った。
くそっ!キッドがいない時に、なんて事だ!
「切り刻まれたくなかったら、早いとこ教えな!キャプテンは何処だ!?」
「放してください!キッド船長は本当に居ないんです!」
「あくまで白を切るつもりか?だったら……!」
ドラゴンは空いた手の爪の先をコリックの喉元に向けた。
「無理にでも吐かせるまで!」
「ひぃっ!」
コリックはドラゴンの威圧に怖気づき、小さな悲鳴を上げた。
このままじゃコリックが危ない!何としてでも止めないと!
「ちょっと!やめ……」
「きぃぃぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
凄まじい怒号が、制止させようとした僕を硬直させた。
そして、その声の持ち主は……リシャスは……!
「死ねぇ!!」
目にも留まらぬ速さで、リシャスはドラゴンの懐にパンチをお見舞いした。
「ごはぁっ!!」
予期もしない出来事に対処できなかったのか、ドラゴンはリシャスの怒りの拳を諸に喰らい、コリックを掴んでた手を放してしまった。ドラゴンから解放されたコリックは、勢いよく尻もちをついた。
「消え失せろぉ!!」
リシャスは怯んでいるドラゴンに追撃を与えるかのように、素早く腰のレイピアを抜き取り、腹部目がけて突き出した。
「甘いな!」
だが、ドラゴンは咄嗟に身を翻してレイピアを避けると、リシャスの顔面を狙って回し蹴りを繰り出した。すると、リシャスはその場でしゃがみ、回し蹴りを避け、立ち上がると同時にドラゴンの顎目がけて足を振り上げた。
「おおっとぉ!」
ドラゴンは素早く後方に飛び、リシャスの蹴り上げを避けた。
「コリック!」
リシャスはその場で座り込んでるコリックの下へ寄った。
「大丈夫か!?怪我は無いか!?」
「う、うん、大丈夫」
心配そうな表情を浮かべるリシャスに対し、コリックは安心させるかの様に笑いかけた。
そう言えば、今は夜だからヴァンパイアであるリシャスも何事も無く活動できるんだった。
「ヒュ〜♪あんた、やるねぇ!久々に骨のある奴と出会えたもんだよ!」
ドラゴンは余裕と言った様子でリシャスとコリックの様子を眺めてた。
「黙れ!このメストカゲ!!」
だが、リシャスはドラゴンに向き直ると、激しい怒りが籠った目つきでドラゴンを睨みながら怒鳴った。
どうしよう……完全に怒ってる……!
「あぁ〜ん!?」
メストカゲと罵られたドラゴンは、鋭い目つきでリシャスを睨み返した。
……ちょっと……これ、ヤバいよ……この雰囲気、ホントにヤバいよ……!
「貴様……!よくも私の夫を……コリックを掴み上げてくれたな!」
「それがなんだってんだ?私はただ、あんた等のキャプテンに会わせろと頼んだだけじゃないか」
「そんな事、どうでもいい!今はただ、私の愛する人に狼藉を働いた貴様への怒りを抑えられない!」
怒りの形相を保ったまま、リシャスは尚も食ってかかる。
「……ああ、ああ、分かった、分かった、そいつに手を出した事は謝るから……」
ばつが悪そうに、ドラゴンは頭を掻きながら言った。
お!?もしかして、話を聞いてくれるんじゃ……!
「許さない!!」
……え?
突然、リシャスは勢いよく駆け出し、ドラゴンを押し倒して馬乗りになった。
そしてレイピアを鞘に戻し、拳を振り上げ……!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ごぉ!ぐふぁ!がっ!ぐはぁ!」
リシャスはドラゴンに殴り付けた。一発だけならぬ、二度も、三度も、何度も強く……って!
「ちょ、ちょっと!待って!止めて!気持ちは分かるけどやり過ぎ!」
せっかく無事に収束すると思ったのに!これじゃ余計に怒りを買ってしまう!
僕は慌ててリシャスとドラゴンの間に入ろうとしたが……!
「調子に……乗るなぁ!!」
その前に、ドラゴンがリシャスの拳を受け止め、しっぽでリシャスを突き飛ばした。
「……やってくれる……!」
立ち上がったドラゴンは、両手をポキポキと鳴らしながらリシャスを見据えた。そして、その目には紅蓮の炎が燃え盛っていた。
……駄目だ、完全にやる気にさせてしまった……。
「ここまで向かって来るとは大したものだ!私の名はオリヴィア!憶えておけ!さぁ、次はあんたの名前を聞かせて貰おうか!」
「断る!貴様に名乗る義務は無い!」
あのドラゴン、オリヴィアって名前なのか……。
ドラゴン……いや、オリヴィアに突き飛ばされたリシャスは、その場で立ち上がり拒絶の反応を見せた。
「……まぁ良い、折角のバトルだ!派手に洒落込もうか!」
オリヴィアは両手を構えて戦闘態勢に入った。
……え?バトルって、ここで?
「上等だ!死ぬまで突き刺してやる!」
リシャスもレイピアを抜き取りオリヴィアと対峙する。
あの、リシャス?なんでそんなにやる気なの?
「Are you ready!?」
「覚悟しろ!!」
……その時、僕は悟った。僕にはもう、この二人を止める事が出来ない。そもそも、ヴァンパイアとドラゴンなんて最強の実力者を止められる程、僕は強くない。
この状況を収められる人はただ一人。それは、オリヴィアが会いたがってる人であり、この船の船長でもある、僕の強い相棒……!
「速く帰って来て!楓さん!キッドせんちょぉぉぉぉ!!」(泣)
……コリック、僕も君と同じ気持ちだよ。
「……釣れないね……」
晩飯を食べ終えた後、俺とヘルムは船の甲板にて夜釣りをしていた。
が、釣りを初めて2時間は経ったが、一向に釣れる気がしない。
「はぁ……小魚でも良いから釣られてよ……魚が食べたいのに……」
「晩飯食った後で、よく食べたいなんて言えるな」
「だってさ、最近肉料理が多いと思わない?食事のメニューに不満がある訳じゃないけどさ、たまには魚も食べたいでしょ?」
「肉でも良いじゃねぇか。俺たち海賊は、しっかり体力を付けないと。それに、肉は俺の好物だし」
「僕は肉より魚が好きなの」
こんな他愛も無い会話が繰り広げられる最中、俺たちの後ろから楓とリシャスが声をかけてきた。
「船長さん、ヘルムさん、何か釣れましたか?」
「ふん、その様子じゃ、小魚一匹ですら釣れてないようだな」
「ああ、見ての通り不調だよ」
俺は現状を正直に答えた。すると、リシャスがフンッと鼻で笑った。
「やり方が古いから釣れないんだ」
リシャスは腰に掛けてるレイピアを鞘から抜き取り、クルクルと片手で回すと……。
「ハッ!」
海に向かって一直線に投げ飛ばした。
「お、おい!何やって……!」
「黙って見てろ」
得意げな笑みを浮かべたまま、リシャスはクイッと片手の人差し指を自分の方へ曲げた。
すると、海へ投げられたレイピアが円を描きながらリシャスの手に戻って来た。
……五匹の魚が串刺しにされてた。
「これが新しい魚釣りだ」
リシャスは魚が刺さったレイピアを高々と掲げながらドヤ顔を見せた。
……いや、確かに魚は捕れたが…………。
「そりゃ、釣るって言うより刺してるだろ、銛みたいに」
「この方が一気に複数の魚が捕れる。一石二鳥だ」
「まぁ、そりゃそうだが、釣りってのは、こう……魚が釣れるまでのワクワク感ってのが……」
「負け惜しみなど見苦しいぞ」
……ああ、そうだよ、どうせ負け惜しみだよ…………。
もはや言い返す気力も失せてしまった。
「……リシャス、今度からそうやって魚を捕るのは禁止な」
「なんだと!?そんなに悔しいのか!嫉妬も良い所だぞ!」
「そうじゃない。魚どころか海に住んでる魔物にまで刺さったらどうするんだ?」
「うっ……!」
俺の反論に対し、リシャスは何も言い返せなかった。
確かに良い方法かもしれないが、海の魔物たちに巻き添えを喰らわせてしまったら申し訳が立たない。
「……全く、小言の多い船長だ……!」
「まぁまぁ、捕れた魚は私が美味しく料理して差し上げますから」
「う、うむ…………」
楓は優しい口調でリシャスを宥めた。そしてリシャスはレイピアに刺さった魚を俺の釣り籠に移した。
「……あ!キッド!引いてる、引いてる!」
「何!?」
ヘルムに呼ばれて視線を釣り竿に戻すと、釣り竿が海中に向かって曲がっていた。
おお!やっと来たか!
「よっしゃあ!釣ってやる!」
俺は釣り竿を力いっぱい引き上げ魚を引き寄せた。
手応えはかなりある。これはデカイぞ!
落ち着け、集中、集中だ……!
「敵船だー!!」
……何!?敵船!?
「あー!逃げられた!」
俺が気を逸らしてるうちに、魚が餌を食った後に逃げてしまった。
ああ!もう!釣れそうだったのに!
「敵はどこにいるんだ!?」
いつの間にか釣り道具を片づけていたヘルムがマストに立ってる見張り番の仲間に言った。俺もすぐに釣り道具を片づけた。
「船の真正面からこっちに向かって来ます!」
見張り番は船の進路方向を指差して言った。その方向を見ると、一隻の船が遠くからこっちに向かって来るのが窺えた。
マストに立ってるあの旗……ドクロが描かれてる。と言う事は、俺たちと同じ海賊か!
「……ねぇ、キッド」
「ん?」
「あの海賊たち、何か……おかしくない?」
「……?」
おかしい?おかしいって…………?
俺はこっちに向かって来る海賊たちの様子を窺った。
……何だろう、確かにおかしい……。どこか慌てふためいてるし、怯えてるし……。
「お、おい!ヤベェぞ!海賊が来るぞ!」
「くそっ!こんな時に!なんて最悪なタイミングなんだ!」
「モタモタしてる場合じゃねぇ!戦闘の準備だ!」
敵の船から声が聞こえてくる。どうやら、戦うつもりらしい。
「……でも、相手も戦う気があるみたいだけど……やるかい?」
「……勿論!」
変な様子だが、相手もやる気はあるようだ。
俺は船の仲間たちに向かって大声で叫んだ。
「野郎ども!戦闘だぁ!!」
「ウォォォォォォ!!」
俺の号令を引き金に、仲間たちは武器を引き抜いて戦闘態勢に入った。そうしているうちに、敵の船がすぐ手前まで近づいてくる。
「さぁ、始めようぜ……って、えぇ!?」
俺は敵の出で立ちに素っ頓狂な声を上げてしまった。
敵が武器として構えているのは…………!
「…………モップ?」
……いや、モップだけじゃない。敵が武器として構えているのは……フライパン、バケツ、樽、縄、皿……。武器としては使えそうにもない物ばかりだ。
「貴方達!」
突然、楓が険しい表情を浮かべながら声を荒げた。
何だ、突然?
「フライパンは料理をする為の道具で、お皿は料理を食べる為の道具です!今すぐ片付けなさい!」
……まぁ、その通りだけどよ……間違ってないけどよ……他にも突っ込むべき所があるだろうが……!
「う、うるせぇ!お前らみてぇな雑魚相手にはこれで十分なんだよ!」
フライパンを持った敵の男が怒鳴り出した。
「……随分と舐めた真似をしてくれる……!」
レイピアを構えていたリシャスが不愉快そうな表情を浮かべながら言った。だが、俺は敵の様子がどこか気になった。
確かに舐めてる様にも見えるが、どこか焦っている様にも見える。まさか、これも何かの作戦か?
「死にたくないんなら大人しく金をよこしやがれ!」
俺が思案に暮れていると、モップを持った敵の男が挑発してきた。
威勢は良いが、こけおどしに見える。
「俺たちは泣く子も黙る……うぎゃあ!?」
俺は素早くショットガンを抜き取り、虚勢を張るモップの男の腹を撃った。男は撃たれた腹の部分を抑えつつ、その場で膝を付いた。
「悪いが、金は渡せない。その前にお前らが海の藻屑になっちまうんだからな!」
俺はショットガンを敵に向けたまま、片手で長剣を抜き取り戦闘の体勢に入った。
相手が何を考えてるか分からないが、どの道戦う事だけは避けられない。ここは喧嘩を買ってやろうじゃねぇか!
「テ、テメェ!」
「やんのか、こらぁ!」
敵は武器……いや、武器としては申し分ない物を構えて威嚇してきた。
「上等だ!掛かって来やがれ!野郎ども!行くぜ!!」
「ウォォォォォォ!!」
俺の仲間たちの雄叫びが、広い海原に響いた…………。
〜〜〜翌日(午後8時)〜〜〜
私は洞窟にて今までの成果を振り返っていた。
昨日は財宝目当てに私に挑んできた海賊たちから逆に奪い盗ったが、どれも私が既に持っている物ばかりだった。奴らの船に積んである財宝を全て押収したが、取り分け珍しい物も、私の持ってない物も無かった。
それから今日に至るが、私に挑んでくる勇者や冒険者は一人も来る事はなく、財宝は増えなかった。
最近、こう言った不況が続いて退屈な日々を過ごしている。何か、私を楽しませる事でも起きないだろうか。
「……ん?」
ふと、洞窟の入り口から人間の気配を感じた。だが、複数の気配は感じない。
まさか、一人で来たのか?無謀と言うか、何と言うか…………。まぁ、良い。何か目ぼしい財宝でも持っていれば頂くとするか。
私は、洞窟の入り口に向かって歩き出した…………。
************
「……ここか?」
「へぇ、間違いないですぜ、旦那」
静けさが漂う夜の森林にて、俺と楓、そして街に住んでる情報屋の中年の男は少し離れた位置から洞窟の様子を窺っていた。
昨日の戦にて、最初は何かの作戦かと思ったが、手間取る事無く一分も経たない内に圧勝してしまった。そして勝った後、敵の船を隈なく調べてみて、昨日の時点における敵の事情を一通り知る事ができた。
あいつらは最初から武器と言える武器を持っていなかった。かつては幾つかの武器が収められていたであろう武器庫には、肝心の武器が一つも無かった。
金に困っていたから売った……なんて事も考えたが、戦う為の武器まで全部売るなんて自殺行為な真似をするとは思えない。恐らく、誰かに盗まれたんだろうと思った。
そして、その俺の予感は見事に的中した。この中に、昨日戦った海賊たちの武器を持って行った犯人がいる。
「……今はあの中にいるのか?」
「へぇ、あの中で戦士たちを待っているでしょうねぇ」
「財宝もあの中に?」
「恐らく」
俺の質問に対し、情報屋は真剣な表情で頷いた。
情報屋の話によると、数年前からあの洞窟に住んでいるドラゴンは自分より強い戦士を待っているらしい。だが、今まで数え切れない程の戦士たちが挑んだが、そいつに勝った者は一人もいないとか。
そして、あの洞窟の中には一生遊んで暮らせる程の値が付く秘宝があると聞いた。今まで挑んできた戦士たちの中には、その秘宝を目当てに来た者も含まれてるらしい。
「あの……今更このような事を言って大変申し訳無いのですが、もう少し仲間をお呼びになられた方がよろしいのでは?」
「ああ、俺たちは戦う為にここに来たんじゃない。あくまで真相を確かめる為に来たんだ」
少し不安そうな表情を浮かべながら問いかけてくる楓に対し、俺は余裕を見せながら答えた。
今回、俺たちがこの洞窟まで足を運んだ理由は真相を知る為だ。情報屋の話によると、昨日も海賊が秘宝を目当てにあの洞窟に入って行ったとか。昨日の海賊たちの武器が奪われたのは、あの洞窟に入った時しか考えられない。
それに、この洞窟にある秘宝ってのも気になるしな…………。
「…………!?」
ふと、洞窟から何かの気配がした。それは、徐々にこっちに向かって、もの凄い速さで…………!
「隠れろ!」
俺は咄嗟に木の陰に身を隠した。楓と情報屋も俺の言葉を合図に木の陰に身を隠す。すると、洞窟から何かが物凄い速さで夜空へと飛び立ち、どこかに向かって去って行った。
「……今のは……まさか!」
身を隠していた情報屋が目を丸くして何かが飛んで行った方向を見ながら呟いた。
まさか……あれが洞窟に住んでいたドラゴンか?
「旦那!急いで洞窟に入りやしょうぜ!秘宝の正体を暴く絶好のチャンスでっせ!」
いつの間にか洞窟の前まで駆け寄っていた情報屋が興奮気味に洞窟に入る様手招きしてきた。俺と楓も情報屋の後に続いて洞窟に向かう。だが、この時俺は幾つかの疑問が頭に浮かんだ。
あいつはこんな夜遅くに何処へ向かったんだ?それに、秘宝は守らなくても良いのか?
そう思ったが、考えるのは洞窟を調べてた後でも遅くはない。秘宝とやらを調べたら、すぐに船に戻るとするか。
俺たちは洞窟の中へ入り、更に奥深くへと進んで行った。
「……思ったより結構深いですね……」
「そうだな……」
洞窟は想像以上に奥行きがあり、薄暗くて不気味さが漂っていた。
「……ん?あれは……?」
歩き続けていると、奥から眩い光が放たれていた。
「おお!秘宝がありそうな予感がしやすぜ!」
情報屋が興奮気味に言った。
そう言えば、情報屋もドラゴンの秘宝を見た事が無いって言ってたな。希少価値の高い情報を手に入れられると思うと、ワクワクするようだ。
「……ん!?ちょっと待て!」
何か違和感を感じた俺は先へ行こうとする情報屋を慌てて止めた。
「何なんですか、旦那!?速く行きや……」
「シーッ!」
もどかしそうな表情を浮かべる情報屋を俺は人差し指を立てて黙らせた。
「……船長さん、何か……いますね?」
「………………」
楓も何かに気付いた様だ。静かな声で訊いてくる楓に対し、俺は無言で頷いた。
あの光輝く所から物音と、誰かの声が聞こえる。それも、女の声が。この洞窟に住んでるドラゴンならさっき何処かへ飛び出たばかりだ。と言う事は……!
「誰かいるぞ、あそこに……!」
俺は先頭に立ち、後ろにいる楓と情報屋を無言で手招きした。二人は緊張した面持ちで俺の後を付いて行く。
遠くから聞いてる為確信はできないが、恐らく一人だろう。だが、女一人でドラゴンを追い出したとは思えない。恐らく、手段は分からないが、ドラゴンの目を盗んで洞窟に忍び込んだのだろう。
俺は一歩一歩慎重に奥へと進んで行く。やがて、光の先にあった物が明確に見えた。
そこには……!
「ムッキー!どうなっているのです!?この頭脳明晰でビューティーなわたくしを混乱させるなんて!!」
「……なんだ、あれ?」
一人の女が頭を抱えて苦悩していた。その女は金髪のロールヘアで、頭に黒いシルクハットを被り、更に黒いマントと言ういかにも怪しい出で立ちだった。
そして女がいた場所には、ベッドに机など、様々な日用品が置かれて、壁の至る所に蝋燭が掛けられていた。
俺たちが遠くから見た光の正体はコレか。ドラゴンはここで生活しているんだな。
それにしても…………。
「……おい、あの女、誰なんだ?」
「さぁ、あっしにも分かりやせん……」
駄目元で情報屋に訊いてみたが、案の定、情報屋は首を横に振って答えた。
……つーか、あの女、これだけ人気の無い洞窟の中で俺たちの存在に気付かないってのもどうかしてると思うが……。
「……えぇ!?人!?何時の間に!?」
話しかけるかどうか迷ってる間に、女の方から俺たちに気付き、警戒の姿勢を示した。どうやら、こいつは魔物じゃない。人間の女のようだ。
「貴方達、一体何者ですの!?怪しいですわ!」
「いや、アンタの方が怪しいだろ、あからさまに!」
こんな所で頭抱えて自分を頭脳明晰だとかビューティーだとか言ってる人の方が変だろ!?
「ムカッ!誰が怪しいですって!?ビューティーの間違いではなくって!?」
「間違えてないわ!圧倒的に怪しいわ!」
「ムッカー!失礼しちゃいますわ!こんな美人に向かって怪しいだなんて!」
「いや、自分を美人とか言ってる時点で怪しい事に変わりはないっつーの!」
「ムッキー!ホント失礼ですわ!このわたくしに、スーパーエレガント、ハイパービューティーな、この怪盗シロップ様が怪しいだなんて!プンスカ、プンスカ、プンですわ!!」
……なんだ、こいつ…………。
半ば呆れたが、何時までもこんな不毛なやり取りをしてる場合じゃない。とりあえず俺は話を切り出す事にした。
「アンタ、シロップ……だっけ?」
「ええ!?貴方、何故わたくしの名前をご存じですの!?」
「いや、さっきアンタから名乗っただろ……」
「あら?そうでしたっけ?では、改めて……」
「いや、改める必要無いから、名乗らなくていいから……」
「わたくしの名はシロップ!美しくて、賢くて、強くて、エレガントで、世界一の怪盗!それが、このビューティー・シロップですわ!オーッホッホッホッホッホ!!」
……ダメだ、こいつ、早くなんとかしないと……って俺がする必要も無いな、うん。
……俺はとりあえず話を続けた。
「……あ〜それでだ、もしかしてアンタ、ドラゴンの秘宝が目的で此処に来たのか?」
「……ハッ!そうでしたわ!ええ、仰る通り!貴方達にはドラゴンの秘宝は渡しませんわ!」
シロップは再び警戒の体勢に入った。
怒ったり、笑ったり、警戒したり、忙しい奴だな……。
「いや、渡さないって言ってもさ、アンタだって見つけられてないんだろ?」
「フフン、それは現時点においての話ですわ!今に見てなさい!この賢過ぎるわたくしが、ドラゴンの秘宝を見つけ出してみせますわ!」
「てことは、アンタが秘宝を見つけたところを、俺たちが横取りするって事でOK?」
俺の質問に対し、シロップは慌てた様子で弁解した。
「……い、いや!貴方達が見てもよろしいのは、わたくしのビューティーな姿だけですわ!」
「いや、それだと、アンタが秘宝を見つけた姿も見るって事になるが?」
「だーかーら!見るのはわたくし!秘宝はダメ!絶対!」
「滅茶苦茶じゃねぇか!」
「お黙り!この長剣!」
「いや、それ俺の武器だから。罵ってないから」
「お黙り!このイケメン!」
「イケメンって貶してねーよ!逆に褒めとるわ!」
「お黙り!このアンチョビミルク!」
「意味分かんねーよ!!」
「○%×▼¥!>*+!!」
「もう言葉ですらねーよ!!」
ダメだ!ホントにダメだ!何がダメかって、色々とだ!ホントにこいつ、早くなんとかしないと!
「……あ、あの〜……」
突然、俺の後ろから楓が申し訳無さそうな表情を浮かべながら話しかけてきた。
「あの、情報屋さんが…………」
楓は、とある方向を指差した。その先には、机で何か本を呼んでいる情報屋が……。
「な、なんだってー!?」
「!?」
な、何だよ一体……いきなり大声出したりして……!
「お、おい、どうしたんだよ…………?」
俺は情報屋に恐る恐る声をかけた。すると、情報屋は呆然としつつも、俺に歩み寄ってページが開いた一冊の本の様な物を差し出した。
「……これ、机の中から見つけた日記なんすがね……」
そうか、日記か……って!
「人の日記を勝手に読んだりしたらダメだろ!こんなところ、ドラゴンに見られたら……!」
「いえ、あの、とにかく、これを読んでくだせぇ!」
「……?」
必死に読む様に催促してくる情報屋に戸惑いながらも、俺は日記を受け取ってあらかじめ開かれたページを読んでみた。楓とシロップも、覗きこむ様に日記を読んでみる。
しかし、日記を書くとは意外な…………ん?
「……え?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。日記に書かれてる信じられない真実を読んでるうちに……。
「は?」
「え?」
「嘘!」
またもや素っ頓狂な声を上げてしまった。しかも、今度は楓とシロップ同時にだ。そして、俺は次のページを読んでみる。
「「「…………」」」
俺は隣にいる楓と顔を見合わせた。その顔は、ひどく呆然とした表情だった。多分、俺も今同じ様な顔をしてる。そして…………!
「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」」
驚愕の叫びが、洞窟の中に響いた…………。
************
人気のない浜辺にて、僕は船の甲板から森林を眺めていた。数分前、キッドと楓が森林の奥にある街へと出かけたきり、未だに帰って来ない。
この島に上陸した後の事だった。街で散策していた僕は、山の中にドラゴンが住んでる洞窟がある噂を聞いた。なんでも、そのドラゴンは大量の武器を抱えて飛んでいたとか。
船に戻った僕は、早速キッドにドラゴンの事を報告。案の定、キッドは真相を確かめに行くと言い出した。本当ならこんな夜遅くに行かせたりはしないんだが、戦ったりはしない、無茶をしないと約束させて行かせる事にした。全く心配してない訳じゃないけど、キッドだって自分の事は顧みる。楓も一緒にいるから大丈夫だろう。
「お疲れ様です、ヘルム副船長」
ふと、僕の後ろからコリックが声をかけてきた。船の掃除が終わったらしく、汚れた水の入ったバケツとモップを持っていた。
「僕は何もしてないよ。疲れているのは君のほうじゃないかい?」
「いえいえ、これくらい、どうって事ないです」
コリックは明るい笑みを見せた。
元々人一倍の努力家だったけど、リシャスを嫁に貰ってから更に頑張っているように見える。やっぱり、お嫁さんを幸せにしたいと思うと頑張れるものなのだろうか。
「それにしても、キッド船長と楓さん、まだ戻って来ませんね」
「そうだね……おや?もしかして、心配してるのかい?」
「い、いえいえ!キッド船長も楓さんも、強くて頼もしい人たちです!あの二人に限って何か起こるなんて……!」
コリックは慌てて弁解した。
「……ん?」
ふと、何かの気配を感じた。
それは空から……って、空!?
「よお!海賊共!」
そこには、赤い翼を羽ばたかせて僕たちを見下ろしているドラゴンがいた。身体が炎の様に赤い鱗に覆われているドラゴンは、何か物を探すかの様に船を見渡した。船にいる他の仲間たちも、何事かと慌てふためきながらドラゴンを見ていた。
もしかして、あれが噂のドラゴンか!?
「あんた等のキャプテンに用があるんだ。さっさと会わせて貰いたいね」
ドラゴンは空中で滞空したまま言ってきた。
キャプテンって……キッドに?何で?
「うちの船長に一体、何の用があって来たんだ?」
僕はドラゴンに訊いたが、ドラゴンはハエでも追い払う様な仕草を見せて素っ気無く答えた。
「大人しくキャプテンさえ出てくれば答えてやるよ。それ以外の奴はすっこんでな!」
どうやら、キッドさえ帰って来てくれないと話が進まないようだな。
「だったら、もう少し待っててくれないか?生憎、船長は今外出中なんだ」
「Don't tell a lie!あんた等のキャプテンが居るのは知ってるんだよ!」
ドラゴンは大声を上げて威嚇してきた。
参ったな……まともに話を聞いてくれそうにないな……。でも、『知ってる』ってどう言う事なんだ?まるで、誰かから聞いたように言ってる気が……。
「……ああ、そうかい、それなら……Magnum!」
「!?」
突然、ドラゴンが空から急降下して来た。その先には……コリックが!
「コリック!逃げ……」
「うわぁ!!」
気づいた時には遅かった。コリックは船に着地したドラゴンによって胸倉を掴み上げられてしまった。上げられた拍子に、両手に持たれてたモップとバケツが音を立てて甲板に落ちた。
「Hey!教えてくれよ!キャプテンは何処にいるんだ?」
「ちょ!放してください!」
胸倉を掴まれ、宙に浮いたまま足をバタつかせて必死に抵抗するコリック。
「止めろ!手を放せ!」
僕はドラゴンからコリックを引き離そうとしたが、ドラゴンは空いた手の鋭い爪を僕に向けて威嚇した。
「キャプテンに会わせろ!それとも、力ずくでも私を追い出すか?」
ドラゴンはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら言った。
くそっ!キッドがいない時に、なんて事だ!
「切り刻まれたくなかったら、早いとこ教えな!キャプテンは何処だ!?」
「放してください!キッド船長は本当に居ないんです!」
「あくまで白を切るつもりか?だったら……!」
ドラゴンは空いた手の爪の先をコリックの喉元に向けた。
「無理にでも吐かせるまで!」
「ひぃっ!」
コリックはドラゴンの威圧に怖気づき、小さな悲鳴を上げた。
このままじゃコリックが危ない!何としてでも止めないと!
「ちょっと!やめ……」
「きぃぃぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
凄まじい怒号が、制止させようとした僕を硬直させた。
そして、その声の持ち主は……リシャスは……!
「死ねぇ!!」
目にも留まらぬ速さで、リシャスはドラゴンの懐にパンチをお見舞いした。
「ごはぁっ!!」
予期もしない出来事に対処できなかったのか、ドラゴンはリシャスの怒りの拳を諸に喰らい、コリックを掴んでた手を放してしまった。ドラゴンから解放されたコリックは、勢いよく尻もちをついた。
「消え失せろぉ!!」
リシャスは怯んでいるドラゴンに追撃を与えるかのように、素早く腰のレイピアを抜き取り、腹部目がけて突き出した。
「甘いな!」
だが、ドラゴンは咄嗟に身を翻してレイピアを避けると、リシャスの顔面を狙って回し蹴りを繰り出した。すると、リシャスはその場でしゃがみ、回し蹴りを避け、立ち上がると同時にドラゴンの顎目がけて足を振り上げた。
「おおっとぉ!」
ドラゴンは素早く後方に飛び、リシャスの蹴り上げを避けた。
「コリック!」
リシャスはその場で座り込んでるコリックの下へ寄った。
「大丈夫か!?怪我は無いか!?」
「う、うん、大丈夫」
心配そうな表情を浮かべるリシャスに対し、コリックは安心させるかの様に笑いかけた。
そう言えば、今は夜だからヴァンパイアであるリシャスも何事も無く活動できるんだった。
「ヒュ〜♪あんた、やるねぇ!久々に骨のある奴と出会えたもんだよ!」
ドラゴンは余裕と言った様子でリシャスとコリックの様子を眺めてた。
「黙れ!このメストカゲ!!」
だが、リシャスはドラゴンに向き直ると、激しい怒りが籠った目つきでドラゴンを睨みながら怒鳴った。
どうしよう……完全に怒ってる……!
「あぁ〜ん!?」
メストカゲと罵られたドラゴンは、鋭い目つきでリシャスを睨み返した。
……ちょっと……これ、ヤバいよ……この雰囲気、ホントにヤバいよ……!
「貴様……!よくも私の夫を……コリックを掴み上げてくれたな!」
「それがなんだってんだ?私はただ、あんた等のキャプテンに会わせろと頼んだだけじゃないか」
「そんな事、どうでもいい!今はただ、私の愛する人に狼藉を働いた貴様への怒りを抑えられない!」
怒りの形相を保ったまま、リシャスは尚も食ってかかる。
「……ああ、ああ、分かった、分かった、そいつに手を出した事は謝るから……」
ばつが悪そうに、ドラゴンは頭を掻きながら言った。
お!?もしかして、話を聞いてくれるんじゃ……!
「許さない!!」
……え?
突然、リシャスは勢いよく駆け出し、ドラゴンを押し倒して馬乗りになった。
そしてレイピアを鞘に戻し、拳を振り上げ……!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ごぉ!ぐふぁ!がっ!ぐはぁ!」
リシャスはドラゴンに殴り付けた。一発だけならぬ、二度も、三度も、何度も強く……って!
「ちょ、ちょっと!待って!止めて!気持ちは分かるけどやり過ぎ!」
せっかく無事に収束すると思ったのに!これじゃ余計に怒りを買ってしまう!
僕は慌ててリシャスとドラゴンの間に入ろうとしたが……!
「調子に……乗るなぁ!!」
その前に、ドラゴンがリシャスの拳を受け止め、しっぽでリシャスを突き飛ばした。
「……やってくれる……!」
立ち上がったドラゴンは、両手をポキポキと鳴らしながらリシャスを見据えた。そして、その目には紅蓮の炎が燃え盛っていた。
……駄目だ、完全にやる気にさせてしまった……。
「ここまで向かって来るとは大したものだ!私の名はオリヴィア!憶えておけ!さぁ、次はあんたの名前を聞かせて貰おうか!」
「断る!貴様に名乗る義務は無い!」
あのドラゴン、オリヴィアって名前なのか……。
ドラゴン……いや、オリヴィアに突き飛ばされたリシャスは、その場で立ち上がり拒絶の反応を見せた。
「……まぁ良い、折角のバトルだ!派手に洒落込もうか!」
オリヴィアは両手を構えて戦闘態勢に入った。
……え?バトルって、ここで?
「上等だ!死ぬまで突き刺してやる!」
リシャスもレイピアを抜き取りオリヴィアと対峙する。
あの、リシャス?なんでそんなにやる気なの?
「Are you ready!?」
「覚悟しろ!!」
……その時、僕は悟った。僕にはもう、この二人を止める事が出来ない。そもそも、ヴァンパイアとドラゴンなんて最強の実力者を止められる程、僕は強くない。
この状況を収められる人はただ一人。それは、オリヴィアが会いたがってる人であり、この船の船長でもある、僕の強い相棒……!
「速く帰って来て!楓さん!キッドせんちょぉぉぉぉ!!」(泣)
……コリック、僕も君と同じ気持ちだよ。
11/10/21 22:05更新 / シャークドン
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