連載小説
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後編
「はぁぁ!!」

私はオリヴィアとか言うドラゴンへ駆け寄り距離を縮め、レイピアによる縦斬りを繰り出した。

「Flying!!」

だが、オリヴィアはその場で高く飛び上がり、私の斬撃をかわした。

「さぁ、空中の敵とどう戦う!?」

オリヴィアは空中で滞空したまま、挑発的な笑みを浮かべた。
上等だ!こっちから向かって来てやる!

「空を飛べるのは……貴様だけじゃない!」

魔力で背中に黒い翼を生えさせ、滞空しているオリヴィアに突進した。

「何!?」

私が飛べる事など予期もしなかったのだろう。オリヴィアは私の翼を見るなりひどく驚いた。だが、私は構う事無くレイピアの切っ先をオリヴィアに向けたまま突撃した。

「うぉっと!」

それに対しオリヴィアは身を翻して私の突撃をかわした。私は空中で止まり、背後にいるオリヴィアに向き直った。
中々素早いな……十分気を付けなければ……!

「ヒュ〜♪あんた、飛べるのか?空中バトルとは、ホントに楽しめそうだ!」

オリヴィアは楽しそうな笑みを浮かべながら身構えた。
そこまで余裕を見せるとは……癪に障る!

「その減らず口、二度と叩けないようにしてやる!」
「OK!Come on!」

私とオリヴィアは勢い良く翼を羽ばたかせ、同時に迫った。

「はぁぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉ!!」

私はレイピア、オリヴィアは両手の爪で怒涛の斬撃を繰り出した。互いに連撃を繰り出す度に、レイピアと爪がぶつかり合う音が響き渡る。
このままでは埒が明かない……!
私は瞬時に後方へ引き下がり、一旦オリヴィアとの距離を取り、レイピアをオリヴィアの頭上目がけて投げ飛ばした。

「……!?」

私の突拍子もない行動にオリヴィアは目を丸くしながらもレイピアに視線を奪われた。
コリックに手を出した罰だ!串刺しになれ!
私は片手の人差し指を下に向かって下げた。それと同時に、レイピアが物凄い速さで切っ先からオリヴィアの頭目がけて突進してきた。

「おわぁ!」
「……ちっ!」

くそっ!かわされたか!
咄嗟にかわされた事を心の中で毒づきながらも、私は人差し指をクイッと曲げてレイピアを自分の方へ引き戻させた。レイピアはクルクルと円を描きながら私の手元へ戻った。

「……なぁ、あんた……!」

突然、オリヴィアは物欲しげな表情を浮かべた。
……何だ、突然?

「その剣、面白いな!突っ込んで来たり、戻って来たり!ヤバい!欲しい!その剣、欲しい!」
「はぁ!?」

いきなり何を言い出すんだ、この女は!?戦いの最中だと言うのに!

「よし!私が勝ったら、その剣を貰うぞ!」
「はぁ!?」

何なんだ、このドラゴンは!?意味が分からん!

「だ、駄目だ!このレイピアは私にしか扱う事が出来ないんだ!このレイピアには私の魔力が宿っている!レイピアを自由自在に操れるのは私だけだ!」
「……what?じゃあ、なんだ?私じゃその剣を操れないのか?」
「ああ、そうだ!だから貴様が所有する価値など無い!」
「え〜、つまんなーい!」

…………不貞腐れた…………。
もう頭に来た!許さん!逆にこっちが丸焼きにしてやる!

「そうか……ならば堕ちろ!」

私は翼に力を込めてオリヴィアに突進した。その勢いを保ったまま前方に回転し、オリヴィアの脳天に踵を振り下ろした。

「……よっと!」
「なっ……!」

だが、オリヴィアは両手ででいとも容易く私の足を受け止めた。

「怒りに任せて攻撃なんて、無謀過ぎるな!」

オリヴィアは私の足を掴み直す。
な、何だ!?一体、何を……!?

「ジャイアントスイング!!」
「きゃああああああ!!」

突然、オリヴィアが回転し始めた。私の足を掴んだまま放さない為、振り回されてダメージが蓄積されていく。

「どうだ!?空中で回るってのも悪くないだろ!?」
「き、貴様!止めろ!やめ……ぐっ!うぅ……!」

……マズイ……苦しい……このままでは……!

「さぁて……そろそろフィナーレに入ろうじゃないか!」

……何だ?回転が……止まって……!

「沈めー!!」

オリヴィアは下に叩きつける様に私を投げ飛ばした。その先には……海が!
マズイ!私は泳げないのに!このままでは溺れてしまう!

「このまま……沈んで……たまるかぁ!!」

私は体勢を立て直して力を振り絞り、海面ギリギリの所で止まった。少しでも遅かったら海で溺れていたところだ。
だが……!

「Go to sea!!」

私の頭上から勝ち誇った笑みを浮かべながら両手を握って振り下ろそうとするオリヴィアが……!

「調子に乗るな!トカゲが!」

私は咄嗟に身を翻し、オリヴィアの拳を避けた瞬時に、オリヴィアの後頭部に回し蹴りをお見舞いした。蹴りをまともに喰らったオリヴィアは、一旦私から距離を取る様に前方へ進み、私の方へと向き直った。

「It's surprise!ここまで粘り強いとはな!」

オリヴィアは蹴られた後頭部を撫でながら言った。
好戦的な奴だ。こうも楽しそうに笑っていられるとはな。

「貴様を殺すまでは、死んでも死に切れないんでな!」

私とオリヴィアは同時に迫り合い、押し合いの状態に入った。

「あんたとのバトル、最高に楽しいねぇ!」
「笑っていられるのも今のうちだ!」

後方へ下がり距離を取ると、私は翼を羽ばたかせて一気に上昇した。
海に入ってしまったら確実に負ける。ここは一旦上空へ行かなければ!

「逃がさないよ!」

オリヴィアも後から私を追って来た。
……悔しいが、やはり相手の方が速いな。
私に追い付くのも、そう遅くはなかった。オリヴィアは私の隣に来る様に付いて来た。

「あんたにはウェルダンがお似合いの様だな!」

私の隣を飛び続けたまま、オリヴィアはすぅ〜っと息を吸い込んだ。

まさか、炎を吐く気か!?……いや、これは逆に……好機かもしれない!

「ブォォォォ!!」

オリヴィアの口から放出された灼熱の炎が私に襲って来る。

「隙あり!」

私は空中で急停止し、オリヴィアの背後へと回った。

「!!?」

オリヴィアは一瞬の事で戸惑っていたが、私は構う事無くオリヴィアのしっぽを脇で抱える様に掴み取った。

「さっきはよくもやってくれたな!今度は私の番だ!」

私はオリヴィアのしっぽを抱えたまま回転を始めた。あの時、オリヴィアが私に繰り出した様に!

「せりゃあぁぁぁ!!」
「NOーーー!!」

私に振り回されたオリヴィアは苦痛の叫びを上げた。
これで決める!

「そぉれぇ!」

私は力いっぱい浜辺に向かって投げ飛ばした。そして私は投げ飛ばされたオリヴィアを追う様に迫り、オリヴィアの腹部を狙い肩で突き飛ばした。

「ごはぁ!!」

突き飛ばされたオリヴィアは背中から浜辺に叩きつけられた。その衝動で浜辺から砂煙が湧きあがった。

「……う……うぐ…………」

やがて砂煙が収まると、腹を押さえて蹲るオリヴィアの姿が見えた。
見事なまでに効いたようだな。少しは挫いたか?
私は砂浜に向かって飛び、足から綺麗に着地して一旦背中の翼を消した。

「さぁ、まだやるか?」

私の挑発に対し、オリヴィアは徐に立ち上がり、不敵な笑みを浮かべながら言った。

「まさか、こんなに楽しいバトルができるなんて!キャプテンが持ってる伝説の剣、無双カリバーが目的だったんだが、あんたみたいな猛者に出会えて嬉しいな!」

……伝説の剣?無双カリバー?何を言って……?

「悪いが、俺はそんな剣、持ってないぞ」

突然、声が聞こえた。
そこには、楓とキッドがいた…………。



************



「キッド!楓!」

僕は慌てて船から降りて、キッドたちの下へ駆け寄った。
やっと来てくれたか!これで丸く収められる!

「悪いな、ヘルム。少し遅くなっちまった。ちょっと、厄介者の成敗にてこずっちまってな」

キッドは苦笑いを浮かべながら言った。
厄介者?何の話だ?

「……もしかして、あんたがキャプテンか?」

オリヴィアは獲物を狙う猛獣の様な目つきでキッドを見定めた。

「ああ、俺はキッド。海賊団の船長だ」

あの、キッド、自己紹介してる場合じゃ……。

「先に言っておくが、無双カリバーなんて剣、無いぞ」
「え?」

キッドの言葉に対し、オリヴィアはキョトンとした表情を浮かべた。
……無双カリバー?そんな剣、見た事も聞いた事も無いんだけど……。

「なぁアンタ、ここに来る前にシロップとか言う女に会っただろ?」
「シロップ?ああ!あの変な女か!?」

キッドの質問に対し、オリヴィアは何か思い出した様に手をポンと打った。
……シロップ?誰の事なんだ?

「あの、キッド、さっきから何を言ってるのか理解できないんだけど……」
「まぁ、待ってくれ。まずはこいつにキチンと説明しなきゃならないんだ」

キッドは片手をかざして僕を制止する様に言った。そしてキッドはオリヴィアに視線を戻して話し始めた。

「アンタさ、シロップって奴に俺が伝説の剣なんて物を持ってるなんて聞かされたんだろ?」
「あ、ああ、そうだが……」
「悪いが、俺は無双カリバーなんて持ってない」
「……えぇ!?」

オリヴィアはひどく驚いた様子を見せた。

「そ、そんな!?だってあんた、自分の故郷から来たんだろ!?無双カリバーはあんたの故郷の山の神殿に眠ってて……!」
「いいか?俺の故郷はカリバルナって言う親魔物国家だが、山はあるが神殿なんて物は無い」
「そ、そんな……それじゃあ、伝説の剣は……無双カリバーは……!?」
「持ってない。いや、それ以前に、そんな剣はこの世に存在しない」
「……てことは……」
「そう、あの女の言った事は全部嘘だ」

上手くのめり込めないが、事情は一通り理解できた。要するに、オリヴィアはシロップとか言う人に騙されたのか。

「で、でも、何で?何でそんな嘘を……?」
「あいつはな、アンタが守ってる秘宝を奪う為に騙したんだ。戦う事無く、アンタを追い出して、アンタが帰ってくる前に秘宝を奪って逃亡する為にな」

秘宝を奪う為か……確かに、ドラゴンと互角に戦うなんて相当な実力を要する。戦うのを避けて無傷で秘宝を手に入れるのなら、ある意味、利口な手段かもしれない。

「………ム……」

……ん?

「ガッデェェェェェム!!!」

うわぁ!ビックリした!

「畜生!あの女!騙しやがって!マジで許さない!」

怒りの形相を浮かべながら、オリヴィアは飛び立とうとしたが……。

「ああ、待て待て!」

キッドが呼びとめた。

「何だ!?私はあの女に鉄槌を喰らわしてやらなければ……!」
「アンタ、怪我してるだろ!?まずは手当てが先だ!船に乗せて治療してやるから!」
「だがな……!」
「それに、アンタの代わりと言っては何だが、俺たちが制裁を与えてやった」
「……え?」

制裁って…………?



************




「ムキー!この!この!解きなさい!」

山中にて、わたくしは縄で縛られ、一本の木に宙吊りにされていた。

……言っておきますけど、好きでぶら下がってる訳じゃありませんわよ!?
秘宝は手に入れられないわ、餌にした海賊の船長からこんな酷い仕打ちを受けるわ、挙句の果てに首に、

『わたくしは只今修行中です。夜が明けるまでは絶対に縄を解かないでください』

なんて書かれた看板を首に掛けられるわ、全く、腹立だしいったらありゃしませんわ!

大体、秘宝が……アレだなんて……どうやっても盗めないじゃありませんの!これは完全に詐欺ですわ!あのドラゴン、何時の日か訴えてやりますわ!
いえ、それよりも…………!

「お〜の〜れ〜!キッド・リスカード!」

あの男だけは絶対に許しませんわ!このビューティーで、エレガントなわたくしに刃向かうなんて!わたくしは全然悪くないのに!今に見てなさい!この縄から解放された暁には、あの男が率いる海賊団の宝を奪い取って見せますわ!
その時まで……!

「憶えてなさい!キッド・リスカード!!」



************



「ハクション!」

ダイニングにて、突然、キッドがくしゃみを出した。
……キッド、風邪でも引いたのかな?具合は悪くなさそうだけど……?

「キッド、あのオリヴィアとか言うドラゴンに話があるとは、どう言う事だ?」

ダイニングの壁に背を預けているリシャスが、少し不服な顔を浮かべながら言ってきた。
やれやれ、オリヴィアがコリックに手を上げた事をまだ許してないのか?結構根に持つタイプだな。

「ちょっと、確認したい事があってな」
「確認?なんだい、それは?」

僕は思わず訊いてみたが、キッドはニヤリと含み笑いを浮かべながら答えた。

「秘宝についてだ」
「?」

詳しく訊きたいけど、キッドは今、手当てを受けてるオリヴィアが来るのを待っている。ここは大人しく待っていよう。

「Hay!待たせたな!」

オリヴィアとシャローナがダイニングに入って来た。オリヴィアはキッドの正面に位置する椅子に、シャローナはその隣に座った。すると、キッチンから楓がティーカップが乗ったお盆を持って来た。

「さぁ、どうぞ、レモンティーです」
「お!thank you!」

楓から差し出されたレモンティーを、オリヴィアは嬉しそうに飲んだ。
……あれって、結構熱いんじゃ……ドラゴンだから大丈夫なのか?
そう思ったが、キッドが話を切り出した。

「早速だが、色々と確認したい事があるんだ」
「ちょうど良い!私もあんたに話があるんだ!」
「話?」
「まぁ、待て、私のは後でいい。あんたから話していいぜ、キャプテン」

オリヴィアはキッドに話を促した。すると、キッドは一瞬だけ何かを考える素振りを見せてから話を切り出した。

「ああ、そうだな……まずは、単刀直入に言わせてもらうが?」
「なんだ?」
「アンタ、武器は好きか?」

武器?一体何を言って……?

「Yes!大好きだ!」

オリヴィアは興奮気味に言った。

「武器って良いよな!なんか、こう、綺麗で、カッコよくて、あの刀身にしか持ってない特有の輝きとか、眺めてるとゾクゾクするだろ!?私さ、財宝として色んな武器を集めてるんだ!」

うわぁ〜、すっごく目が輝いてる……。

「私のお気に入りはやっぱり剣!swordだな!ああ、でも、棍棒とか、ハンマーとかの打撃系も捨て難いな!あと、ライフルとかの銃系も中々……」
「もしも〜し!お〜い!」
「What?」
「話を聞いてくれないか?」
「……So,sorry」

オリヴィアは苦笑いを浮かべながら謝った。

ここまで我を忘れて語るなんて、よっぽど武器が好きなんだな。
……ん?待てよ?武器が好き?集めてる?

僕の脳裏に昨日の出来事が過った。あの時戦った海賊たちは、武器らしい武器を持っていなかった。
まさか…………!

「アンタ、昨日海賊と戦って、武器を全部没収しただろ?」
「……え?あんた、なんで知ってるんだ?」

そうか!昨日の海賊たち、オリヴィアに武器を全部奪われたのか!

「実は昨日な、アンタと戦った海賊たちと海原で偶然居合わせちまってな」
「へぇ……で、そいつら、どうなったんだ?」
「俺たちに喧嘩を売ってきたが、返り討ちにしてやったよ」

キッドがニヤリと不敵な笑みを浮かべながら答えた。

「武器も無いのにか?」
「ああ、ホント、手応えの無い連中だったよ」
「いやぁ、でもさ、仮に武器を持ってたとしても、楽勝だろうよ?あいつら、バトルのバの字も知らないド素人だからな!」
「そうだな、あれで良く海賊やってこれたもんだな」

……あの、二人とも、そこまで言わなくても……何だろう、昨日の海賊たちに同情しそう…………。

「……あ、あの〜、キッド、秘宝の事は訊かなくて良いの?」

このままじゃ話が進まないと思った僕は、秘宝の話を促した。すると、さっきまで笑ってたオリヴィアの表情が変わった。

「……あんたら、秘宝が欲しいのか?」

オリヴィアが、真偽を見定めるかの様な真剣な表情を浮かべながら訊いた。
秘宝を盗られるのを恐れているのだろうか?いや、待てよ?オリヴィアは洞窟に戻らなくて良いのだろうか?こうしているうちに、誰かが秘宝を持って行ってしまうのでは?
僕はそう思ったが、キッドは宥める様な口調で言った。

「いや、欲しいとは思わない。アンタを殺してまで欲しいとは思わないからな」

……殺す?どう言う意味だ?秘宝を手に入れるだけなら、殺す必要なんて無いだろうに。

「なんだ、情けでも掛けてるつもりか?それとも、私と戦うのがそんなに怖いか?」

オリヴィアは挑発的な笑みを浮かべながら言った。だが、キッドは首を横に振って静かに言った。

「そうじゃない。秘宝を手に入れると言う事は、アンタを殺すと言う事だからだ」

……どう言う意味だ?秘宝を手に入れる事と、オリヴィアを殺す事は同じだとでも言うのか?さっぱり分からない……。

「……あんたは知ってるのか?秘宝の在り処を……」
「……ああ」

オリヴィアの質問に対し、キッドは大きく頷いた。そして、キッドは徐にオリヴィアの左胸を指差した。

「……それだろ?」
「…………」
「それが秘宝だろ?」

……え?オリヴィアの…………左胸?

「アンタの心臓が……秘宝なんだろ?」
「え?」

予想外の発言に、僕は素っ頓狂な声を上げてしまった。
オリヴィアの心臓が……秘宝?どう言う意味だ?訳が分からない。

「……何故そう思う?」

オリヴィアは真剣な表情でキッドに問いかけた。それに対し、キッドは申し訳無さそうな表情を浮かべながら答えた。

「その……先に謝らなきゃいけない事があるんだが……」
「?」
「アンタの洞窟にある日記、勝手に読んじまった……本当に……済まない……」

キッドは深々と頭を下げた。
日記読んだって……ちょっとマズイんじゃ……。

「……なんだ、そうか……てことは、全部バレたのか……」

だが、以外にもオリヴィアは微笑みながら呟いた。
なんだろう……どこか吹っ切れてた様に見えるけど……?

「おい、いまいち話が見えないぞ」

リシャスが話に割って来た。
正直、僕もそう思ってた。オリヴィアが武器好きで、昨日の様に集めている事までは分かった。でも、肝心の秘宝については理解できない。

「なぁ、秘宝については私から説明してもいいか?」
「ああ、その方がアンタにとっても良いかもしれないな」

キッドから許可を得たオリヴィアは、一旦咳払いをしてから話を切り出した。

「さて、どう話したら良いか分からいが……まずは一つ、真実から述べた方が良いか?」

オリヴィアは親指で左胸を指して言った。

「私の……この心臓の中には……宝石が入ってるんだ」
「……え!?」

宝石!?そんな馬鹿な!心臓の中に宝石だなんてあり得ない!

「何を言ってる!?そんなの、あり得ないだろ!?心臓の中に別の物が入っていたら、普通なら死んでしまうだろ!」

リシャスが捲し立てた。だが、オリヴィアは落ち着いた様子で話を続けた。

「ああ、普通なら死んでるさ。だが、この心臓自体が普通じゃないから私はこうして生きていられるんだ。と言っても、これは元々、私の心臓じゃない。別の者の心臓だったがな」

別の心臓?それって……。

「あなた、もしかして、心臓の移植手術を受けた事があるの?」
「もしかしなくても、その通りだ」

僕の代わりに質問したシャローナに、オリヴィアは満足げに答えた。
要するに、オリヴィアは別の誰かの普通じゃない心臓を持っていると言う事か。
……でも、心臓を移植するって事は……何かあったのかな?

「以前までは普通の心臓を持っていたんだが、とある出来事が原因で心臓が移植されたんだ」

とある出来事?それは一体……?

「それは、数年前の事……」

オリヴィアは静かに目を閉じて話を切り出した。

「私は、ここから遥か遠くにある国に住んでいた。今は反魔物国家として知られているが、元は大勢の魔物で賑わっていた親魔物国家だった」

オリヴィアは閉じていた目を開いて話を続けた。

「ところがある日、教会の人間たちが、大勢の勇者たちを引き連れて攻め込んできた。私が住んでいた国は、瞬く間に陥落してしまった……」

オリヴィアの声は、どこか低くて悲しそうだった。
その日の光景を思い出してしまったのか……オリヴィアにも辛い過去があったんだな……。

「私は当時、住居にしてた洞窟の近くの谷底で戦っていた為、足場が悪く非常に戦い辛かったが、それでも立ち向かって来る人間を容赦無く倒してきた……そして、とある一人の勇者と一対一のデスマッチが始まった」

オリヴィアは一呼吸置いてから再び話し始めた。

「その勇者はかなり強かった。剣術、魔術共に長けて、隙と言う隙が無く、今まで戦ってきた奴らの中でもトップクラスに匹敵した。だが、バトルの最中に良からぬ事故が起きた……」

とある事故?それは一体……?
頭の中に浮かんだ疑問に答える様に、オリヴィアは話した。

「バトルの最中に、満身創痍の子供を守る様に抱えて走り去る一人の男の姿を見た。そして、その頭上から巨大な岩が落ちる様子も……」

巨大な岩?まさか……!

「気付いた時には必死で飛んでいた。罪の無い子供と男を助ける為に、子供を抱えていた男を突き飛ばして……私は岩の下敷きになった」

そんな事があったのか……。

「いつもなら自力で岩をどける事も出来たかもしれない。だが、言い訳がましいが、その時の私は勇者とのバトルで体力が無くなっていたせいで、岩をどかす気力も無くなっていた。そこで私は意識を失った……」

そうか……それが心臓を移植する原因だったのか……。

「気付いた時には、私は病院にいた。医者から聞かされた話だが、私は数日の間昏睡してたらしい。そして私を岩から救出し、その医者の下まで運んでくれたのは、子供を抱えてた男と……私と戦った勇者だとか」
「……勇者が?」

僕は思わず頭に浮かんだ疑問を口に出してしまった。
魔物を敵対視する勇者が、魔物を助けるなんて……なんだか、理に適ってない気がする。
オリヴィアは一瞬だけ僕に視線を移し、再び視線を戻してから話を続けた。

「これはあくまで推測なんだが、その勇者にとって私が助けた男は大切な存在だったと思うんだ」

オリヴィアは、天井を見上げて記憶を辿る様子を見せながら言った。

「医者が勇者から『私の大切な人を助けてくれた借りは返した。次に会った時は覚悟しておけ』と、伝えておく様に頼まれたらしい」
「成程な……」

キッドは納得したかのように頷いた。恐らく、キッドは一通り知ってるんだろう。
僕もある程度は理解できた。その勇者は大切な人を助けて貰った借りを返す為に医者の下まで運んだと言う訳か。

「本題はここからだ」

オリヴィアは視線を戻して話を再開した。

「その時の私の心臓は岩の重力によって強く押さえられ、致命的な状態だったらしい。助かるには他の心臓を移植するしか無かった。それが今の心臓なんだが……これがとんでもない物でな……」

オリヴィアは咳払いをしてから言った。

「この心臓はサキュバスが魔王になる以前の時代の魔物の心臓なんだ」
「それって……魔物が血肉を喰っていた時代に生きてる魔物の心臓って事なのか?」
「ああ、そうだ」

僕の質問に、オリヴィアは頷いて答えた。

「その魔物は異常なまでに強欲で、宝石をかき集めて独り占めしていたらしいんだ。強欲のあまり、一番価値の高い宝石を自分自身の心臓に埋め込ませるなんて真似を犯したとか」
「それが……今の君の……?」
「その通り」

なんて事だ……欲が深いあまりに、自分の身体の一部に宝石を埋めるなんて……考えられない。

「そんな昔の心臓なんて、よく移植できたわね?」

シャローナが不思議そうに言った。
よく考えると、オリヴィアが心臓の手術を受けたのは数年前の話だ。今オリヴィアの身体にある心臓は遥か昔の時代の魔物の心臓。生き物の臓器がここまで長く保てるとは信じ難い。

「あんたら、ドクトル・ベンランドって人間を知ってるか?」
「え?ベンランドって、医術だけじゃなく、魔術にも長けてるあの名高い名医の?」
「そう、そのベンランド」

シャローナの訊き返しに対し、オリヴィアは頷いた。
その人なら僕も知ってる。高い医術を持って数多くの患者を救った事で有名な医術の巨匠。数多くの伝説を残してあの世へ逝った名医だ。

「私の心臓の移植手術を施したのは、そのベンランドなんだ」
「えぇ!嘘!?」

突然、シャローナが驚愕した。
医者の世界では神の様な存在だ。シャローナが驚くのも無理は無いか。

「私の手術の時、ベンランドは強力な魔術によって鼓動を維持された、たった一つしかない魔物の心臓を提供してくれた。それ以来も、私が退院するまで面倒を見てくれた。あの男には計り知れない恩がある。できれば、あいつが生きてるうちに恩を返したかったがな」

ベンランドの事を思い出しているのだろうか?そう話したオリヴィアの表情は、どこか優しくて温かく感じた。

「……で、退院した後は、ここに移り住んで、心臓の宝石をネタに、戦士を誘いこんで武器を集めて、御覧のあり様だ。尤も、私は宝石には興味ないがな」

オリヴィアは両手を広げて言った。
成程……やっと全て理解できた。オリヴィアの秘宝の正体は心臓の宝石で、それを餌に戦士たちから武器を集めてたって事か。

「……アンタ、そのベンランドって医者の下まで運んでくれた勇者が今どうなったか知ってるか?」

突然、キッドが言ってきた。
何だ、突然……?

「ああ、そいつが居る国、崩壊したんだろ?」

オリヴィアは把握しているかの様に答えた。

「……ねぇ、何の話?」

僕は思わず話に割って入った。すると、キッドは不敵な笑みを浮かべながら言った。

「名前を聞けばすぐに分かる。お前も知ってる奴だぞ」
「僕も?」

そう言われても、すぐには思い浮かばない。僕は躊躇う事無くキッドに訊いた。

「キッド、その勇者の名前は?」






「…………ウィルマリナ
「!!?」

ウィルマリナ……サキュバスであり……レスカティエの戦士……!

「私は以前、ウィルマリナと戦った事がある。まだ人間だった頃のな」

オリヴィアの言葉を聞いた途端、全てに合点がいった。以前レスカティエに滞在してて、本人にも一度だけ会った事があるから憶えてる。ウィルマリナは一人の男を心から愛していて、今はその人と暮らしてる。
と言う事は……もしかして!

「そう、かつては兵士として戦い、私にに助けられた男が、今ではウィルマリナの夫だ」

やっぱりそうか!まさか、オリヴィアがあのウィルマリナと戦ったなんて、思ってもいなかった!

「……それでだ、今度は私の話を聞いてくれるか?」

僕が驚いていると、オリヴィアが言ってきた。

「ああ、そうだな、それで、話って何だ?」

キッドがオリヴィアに話を促した。
そう言えば、オリヴィアも話があるって言ってたな。秘宝の話に聞き入ってしまってすっかり忘れてた。
話を促されたオリヴィアは話を切り出した。

「実はな…………」

この後のオリヴィアからの話で、僕はまた驚かされた………………。
11/10/27 17:02更新 / シャークドン
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■作者メッセージ
我ながら凄い設定だな……心臓に宝石なんて……(汗)
さて、残すはお約束(?)のエピローグだけとなりました。
何卒、生温かい目で見守って下さい。

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