手と手をつないであなたがほしい(ヴァンパイア)−1
第一話:外弁慶内地蔵
四月一日。この日、オレはフェンネル第三高校に入学した。そんじょそこらの不良ならこんなに偏差値の高い学校に入学することは適わないだろうが、オレは不良と呼ばれる中でも珍しいタイプだったようだ。両親の勧めで受験して、合格するだけの学力はあった。
とはいえ、中学生の頃から変わらないこの目つきと、ガタイは高校生になっても、他の連中見たく普通になるわけもなく、二週間余りで周囲の人間からはヤンキー認定されてしまった。まあ、もともとあまり話すほうではないし、仮に話したとしても『地獄の大釜で風呂に入る旧魔王時代の鬼』のような声をしているのでみんなビビってしまうのが現実だ。
そんなわけで、四月も中ごろになってなお、オレには友人一人すらいない。というより近づいてくるやつがいない(他校のヤンキーなら喧嘩を吹っかけにやってくる場合もあるが)。今日も一人、放課後に通学路を歩いて帰っている。夕日が目に染みるぜ全く……
「……はぁ」
ため息が漏れる。せめて今月中に一人ぐらいは友達を作りたいものだ……無理か。中学でも一年通してようやく一人、周囲からは舎弟と呼ばれる男が一人出来ただけだったし……
そんなことをぼんやり考えながら家への近道である路地に入ると
「近寄るな!人間が私に触れるんじゃない!」
「いいじゃねえか。ほら、魔物ってなんだかんだで男に触られたら嬉しいんだろ?」
「そんなわけがあるか!……あ!日傘を取るな!」
「知ってるぜ。ヴァンパイアは日差しが直接当たると弱くなるんだろ」
「お姉さんの、ちょっとエロいの見てみたい!」
「やめ、くっ」
なんか、下衆な連中がいるみたいだ。ヴァンパイアの女か?そいつの日傘を無理やり奪ってナンパしようと……いや、あれは襲おうとしてんのか?スカートとか胸に手をやってるし、女は必死で抵抗してるし。あ、それにあの服うちの制服じゃねえか。あ〜あ、泣きそうになってる。見てらんねえな。
「おい、そこの愚図ども」
「あ"?んだごぶぉあ!?」
こっちに振り返るより先に壁に叩きつけてやった。
「んな!?摸武咲!?てめぶぉあん??!」
こっちはこっちを見た勢いのまま殴りぬく。
「ひ、ヒイィ!鬼…鬼だああああべしっ!」
逃げようとするケツに一撃。頭から壁にぶつかった。これで全員KOしたな。
いいことすると気持ちいいもんだ……さてと
「あんた、怪我ねえか?」
「……」
女は軽い放心状態になっている。やれやれって感じだな。さっと見る限りは怪我はないようだ。服も少し乱れているが、破れたところとかはない。あ、日傘折れちまってる。壁に叩きつけたやつが持ってたからだな……
「あー。すまん。日傘折れちまったみたいだ。これ、いくらしたんだ?」
「……え?あ、ああ……別にかまいませんわ。近くのコンビニで買ったものですし、貴方のせいではありませんもの」
「そうか」
「えぇ」
沈黙……そして
「えっと……あ!?」
「あ?」
「た、助けてくださらなくてもわたくしなら暗がりに運ばれた段階であのような下郎など千切っては投げ千切っては投げくらい……」
「あいつら全力で日の当たるところで脱がしにかかってたよな」
「うぐっ……」
「まあ、いいけど。で?日傘のスペアはあるのか?」
「……無いですわ」
「どうするんだ?」
「……どうしましょう」
「はぁ……ほら」
と、オレは学ランを脱いで渡した。サイズはかなり大きい。こいつは見た感じ小柄なほうだから十分体を日差しから守ってくれるだろう。
「は?」
「これ使えよ。また襲われても知らねえぞ」
「な!?男の服を着て帰れというの!?みっともない恰好で!」
「んじゃ、どうしろってんだよ」
「……じゃあわたくしの家まで付いてきてくださる?いわばガードマンですわ」
「……あ?」
厄介なことになった……
−数十分後ー
「到着ですわ。ここがわたくしの家ですの」
「はぁ、まあ普通だな」
「悪かったですわね」
なかなか貴族っぽいしゃべり方をするもんだからいいとこのお嬢様かと思いきや、なんてこたぁない。普通の一般家庭っぽい感じだ。
「わたくしは貴族としての誇りを持っているからこの話し方なのであって、別にお金は関係ありませんわ」
「さいで。そんじゃ、送ったし帰らせてもらうぞ」
「そうはいきませんわ。うちでもてなされてから帰っていただかないと、貴族の誇りに傷がついてしまいますわ」
「いや、用事があるんだが」
「なら、せめてお菓子のひとつでももって帰ってくださいな……母上、ただいま帰りました」
「あら、おかえ……あらあらあらまあまあ、彼氏さん?」
「ち、違いますわ。そ、そんなことより母上、何か手渡しできるほどの大きさのお菓子はありませんか?」
「えーっと、ホワイトロリータがあったはずだけど」
「あぁ、妹と弟が好きだわそれ」
「!母上、それをお願いします」
「はいはい。とってくるわね。彼氏さんはウチに上がっていかないの?」
「このあと用事があるので」
「そう。残念だわ」
「それと彼氏じゃ……いってしまった」
彼氏じゃないと説明しようとしたらお菓子を取りに行ってしまった……
「後でわたくしから説明しておきますわ。ともかく、これで『ガードマンをしてくれた』お礼はすみますわね。ありがとうございました。正直不安でしたから」
「いや、構わん。しばらくは親父さんかだれかに迎えに来てもらうことだな。あの連中、下手をするとこれからもあの辺りうろつくかもしれんぞ」
「ですわね。両親と話し合ってみますわ」
と、ここでお母さんが帰ってきたようだ。
「はいこれ。弟さんと妹さんが好きだっていってたから、二袋」
「あ、どうもすみません。助かります」
兄弟喧嘩が勃発しなくてすむ。
「それでは娘のことをよろしくおねがいしますね」
「母上っ!」
「ははは。それでは……」
どうせこいつから説明するだろ。お茶を濁して帰ってしまおう。と思ってきびすを返すと、
「あ、そこまで送っていきますわ」
少し先までついてきてしまった。なんだこいつ……
「ところで、お名前を聞くのを忘れていましたわ。私に名前はフレデリカ。貴方は?」
「轟木 将兵」
「クラスは?」
「……1−12」
「そう。わたくしは1−8ですわ。よろしく」
「そうか」
正直、何がよろしくかわからなかった。
が
「さあ!暴漢から救っていただいた恩返しとして、お弁当をつくって参りましたの!一緒に食べませんこと!?」
そう来たか……
四月一日。この日、オレはフェンネル第三高校に入学した。そんじょそこらの不良ならこんなに偏差値の高い学校に入学することは適わないだろうが、オレは不良と呼ばれる中でも珍しいタイプだったようだ。両親の勧めで受験して、合格するだけの学力はあった。
とはいえ、中学生の頃から変わらないこの目つきと、ガタイは高校生になっても、他の連中見たく普通になるわけもなく、二週間余りで周囲の人間からはヤンキー認定されてしまった。まあ、もともとあまり話すほうではないし、仮に話したとしても『地獄の大釜で風呂に入る旧魔王時代の鬼』のような声をしているのでみんなビビってしまうのが現実だ。
そんなわけで、四月も中ごろになってなお、オレには友人一人すらいない。というより近づいてくるやつがいない(他校のヤンキーなら喧嘩を吹っかけにやってくる場合もあるが)。今日も一人、放課後に通学路を歩いて帰っている。夕日が目に染みるぜ全く……
「……はぁ」
ため息が漏れる。せめて今月中に一人ぐらいは友達を作りたいものだ……無理か。中学でも一年通してようやく一人、周囲からは舎弟と呼ばれる男が一人出来ただけだったし……
そんなことをぼんやり考えながら家への近道である路地に入ると
「近寄るな!人間が私に触れるんじゃない!」
「いいじゃねえか。ほら、魔物ってなんだかんだで男に触られたら嬉しいんだろ?」
「そんなわけがあるか!……あ!日傘を取るな!」
「知ってるぜ。ヴァンパイアは日差しが直接当たると弱くなるんだろ」
「お姉さんの、ちょっとエロいの見てみたい!」
「やめ、くっ」
なんか、下衆な連中がいるみたいだ。ヴァンパイアの女か?そいつの日傘を無理やり奪ってナンパしようと……いや、あれは襲おうとしてんのか?スカートとか胸に手をやってるし、女は必死で抵抗してるし。あ、それにあの服うちの制服じゃねえか。あ〜あ、泣きそうになってる。見てらんねえな。
「おい、そこの愚図ども」
「あ"?んだごぶぉあ!?」
こっちに振り返るより先に壁に叩きつけてやった。
「んな!?摸武咲!?てめぶぉあん??!」
こっちはこっちを見た勢いのまま殴りぬく。
「ひ、ヒイィ!鬼…鬼だああああべしっ!」
逃げようとするケツに一撃。頭から壁にぶつかった。これで全員KOしたな。
いいことすると気持ちいいもんだ……さてと
「あんた、怪我ねえか?」
「……」
女は軽い放心状態になっている。やれやれって感じだな。さっと見る限りは怪我はないようだ。服も少し乱れているが、破れたところとかはない。あ、日傘折れちまってる。壁に叩きつけたやつが持ってたからだな……
「あー。すまん。日傘折れちまったみたいだ。これ、いくらしたんだ?」
「……え?あ、ああ……別にかまいませんわ。近くのコンビニで買ったものですし、貴方のせいではありませんもの」
「そうか」
「えぇ」
沈黙……そして
「えっと……あ!?」
「あ?」
「た、助けてくださらなくてもわたくしなら暗がりに運ばれた段階であのような下郎など千切っては投げ千切っては投げくらい……」
「あいつら全力で日の当たるところで脱がしにかかってたよな」
「うぐっ……」
「まあ、いいけど。で?日傘のスペアはあるのか?」
「……無いですわ」
「どうするんだ?」
「……どうしましょう」
「はぁ……ほら」
と、オレは学ランを脱いで渡した。サイズはかなり大きい。こいつは見た感じ小柄なほうだから十分体を日差しから守ってくれるだろう。
「は?」
「これ使えよ。また襲われても知らねえぞ」
「な!?男の服を着て帰れというの!?みっともない恰好で!」
「んじゃ、どうしろってんだよ」
「……じゃあわたくしの家まで付いてきてくださる?いわばガードマンですわ」
「……あ?」
厄介なことになった……
−数十分後ー
「到着ですわ。ここがわたくしの家ですの」
「はぁ、まあ普通だな」
「悪かったですわね」
なかなか貴族っぽいしゃべり方をするもんだからいいとこのお嬢様かと思いきや、なんてこたぁない。普通の一般家庭っぽい感じだ。
「わたくしは貴族としての誇りを持っているからこの話し方なのであって、別にお金は関係ありませんわ」
「さいで。そんじゃ、送ったし帰らせてもらうぞ」
「そうはいきませんわ。うちでもてなされてから帰っていただかないと、貴族の誇りに傷がついてしまいますわ」
「いや、用事があるんだが」
「なら、せめてお菓子のひとつでももって帰ってくださいな……母上、ただいま帰りました」
「あら、おかえ……あらあらあらまあまあ、彼氏さん?」
「ち、違いますわ。そ、そんなことより母上、何か手渡しできるほどの大きさのお菓子はありませんか?」
「えーっと、ホワイトロリータがあったはずだけど」
「あぁ、妹と弟が好きだわそれ」
「!母上、それをお願いします」
「はいはい。とってくるわね。彼氏さんはウチに上がっていかないの?」
「このあと用事があるので」
「そう。残念だわ」
「それと彼氏じゃ……いってしまった」
彼氏じゃないと説明しようとしたらお菓子を取りに行ってしまった……
「後でわたくしから説明しておきますわ。ともかく、これで『ガードマンをしてくれた』お礼はすみますわね。ありがとうございました。正直不安でしたから」
「いや、構わん。しばらくは親父さんかだれかに迎えに来てもらうことだな。あの連中、下手をするとこれからもあの辺りうろつくかもしれんぞ」
「ですわね。両親と話し合ってみますわ」
と、ここでお母さんが帰ってきたようだ。
「はいこれ。弟さんと妹さんが好きだっていってたから、二袋」
「あ、どうもすみません。助かります」
兄弟喧嘩が勃発しなくてすむ。
「それでは娘のことをよろしくおねがいしますね」
「母上っ!」
「ははは。それでは……」
どうせこいつから説明するだろ。お茶を濁して帰ってしまおう。と思ってきびすを返すと、
「あ、そこまで送っていきますわ」
少し先までついてきてしまった。なんだこいつ……
「ところで、お名前を聞くのを忘れていましたわ。私に名前はフレデリカ。貴方は?」
「轟木 将兵」
「クラスは?」
「……1−12」
「そう。わたくしは1−8ですわ。よろしく」
「そうか」
正直、何がよろしくかわからなかった。
が
「さあ!暴漢から救っていただいた恩返しとして、お弁当をつくって参りましたの!一緒に食べませんこと!?」
そう来たか……
13/11/25 08:44更新 / しんぷとむ
戻る
次へ