・九女がケンタウロスな場合
ただ魔物といっても色々な種類の色んな魔物がいるわけで。
その魔物によっては理知的で誇りを重んじる種族とかいたりするよな。
でも、それはあくまでも同種族の部族だとか村だとかの話。
エキドナのランダム要素と一般家庭という状況の前では。
そんな常識じみたことも関係なかったりするんだよね。
今回は、そんな感じの妹の話。
・〜ある日の朝〜
「起きろー、ベル」
「・・・ぐぅ、ぐぅ」
全く、布団がごちゃごちゃじゃないか。
バレスじゃあるまいし、寝相もうちょっと良くならないものかなぁ。
まあそれはいいとして・・・
この寝ぼすけはケンタウロス。普通なら、威厳のある誇り高き部族の・・・とかだろうけど。
我が家は威厳があるわけでも誇り高いわけでもない、ただの一般家庭である。
つまり・・・
「早く起きてくれよ。気持ちの良い朝だぞ?」
「ん〜・・・あと5時間・・・(-_-)゜zzz…」
「長ぇよ。昼になっちゃうぞ」
「うぅん・・・兄ちゃんも寝ようよー・・・」
「俺は朝忙しいの。分かってるでしょう?」
「うぅ〜・・・(=-ω-)zzZZ・・・」
「こら、二度寝するな」
つまりこういうことだ。
うちの教育方針は『割と自由にのびのびと』。
そうだな、自由にした結果がコレだよ。
ケンタウロスはクールキャラ?何ソレおいしいの?
悪いとは言わないが、原種ブレイカーであることは間違いないだろうな。
「たまにはいーじゃ〜ん・・・寝ててもバチは当たらないよー・・・」
「規則正しい生活を送りなさい。寝て過ごすのはもったいないぞ」
「むぅ〜」
何とも渋るベル。
昨日、元気に外走り回ったから疲れているのかもしれない。
仕方ないなぁ・・・
「あ〜あ〜、折角今日の朝飯はベルの好きな物なんだけどなぁ〜」
「・・・えっ」ピクッ
「魔界豚を母さんが昨日持って帰ってきてたから、ハムサンドにしたんだけど。
ベルが大好きな肉厚のハムサンド。仕方ない、ベルが起きないなら皆で・・・」
ガバッ!!
「待って!起きるー!!」
ドタドタドタ・・・
・・・元気なもんだな。
疲れなんてベルには無用の心配だったか。
まあベルは元気が取り柄だしな。
ドドドドド・・・!
「ん?」
「兄ちゃん!」
「どうしたベル」
「ボクちょっと一走りしてくる!いい汗流してお腹空かせるんだ!
だから先に食べてちゃダメだよ!絶対だからね!!」
「はいはい、待っててやるから早く帰って来るんだぞ?」
「はーい!行ってきまーすっ!!」
ドドドドド・・・
本当に元気だな・・・
さっきまで起きるのを渋っていたとは思えんな。
ベルの体力は無尽蔵か。でも子供って大体そうだよね。
・・・きっと相当お腹空かせてくるだろうなぁ。
これはちゃんと準備してあげないとね。
「ひゃっほーい!風が気持ちいー!!」
玄関の方から声がする。
おそらく・・・街は一周してきそうだな。
ベルの足なら・・・15分もあれば帰ってくるだろ。その後お風呂に入ってあがって・・・
俺は他の妹起こして、着替え準備しつつ、朝飯の残り作って・・・
・・・うん、問題ないな。予定調和。
さて、次の妹起こしに行きますか。
(やった!やった!あっさごはんっ!たっのしっみだな〜〜♪兄ちゃん大好き〜〜!♥)
パカラッ、パカラッ、パカラッ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・〜ある日の散歩〜
「兄ちゃ〜ん!今時間ある〜?」
「んん?どうしたベル」
「一緒に散歩しようよ!今日いい天気だし!」
家事も一段落ついた昼過ぎ。ベルがそんなことを提案してきた。
朝あれだけ走ってたのになぁ。
まあ割といつものことだし、別に付き合うこと自体は問題じゃない。
丁度時間もあることだしな。
「別に大丈夫だよ」
「やったー!それじゃ早速行こうよっ!」
・・・・・
外は快晴。雲一つない良い天気だ。
洗濯物がよく乾く乾く。これほど嬉しい天気はない。
暖かな風が心地よく、昼寝でもしたらさぞ気持ちが良いだろう。
俺達は現在家近くの平原の道。ベルは俺の隣を歩いている。
一般的な、平和な散歩である。
「ねぇ兄ちゃん」
「何だ?」
「折角の散歩だし、背中乗らないの?」
「乗ったらどうせダッシュするんだから、最初くらいゆっくり歩かせてくれ」
「分かった!兄ちゃんとゆっくり歩くのも好きだし!」
ただし、ベルはいつも背中に乗せたがり、そして必ずと言っていいほど走るのだ。
まあ聞き分けは良い方だから、最初は普通に歩いてくれるんだけどね。
本人曰く「兄ちゃん乗せると、何だか熱くなってきちゃうんだよね!」だそうで。
何やらテンション上がっちゃうみたいなんだよなぁ。
「・・・もう背中乗せてもい〜い?」
「早ぇよ、まだ1分もたってないよ」
「だって早く兄ちゃん乗せて走りたいんだもん!!」
こんな問答がいつも10分くらい続く。少しでも時間を稼ぐのだ。
乗ること自体に特に問題はない。ベルに関しては。
ただ背中に乗ったら最後、ベルが落ち着くまで走らされるだけだ。
軽くロデオ状態。結構、いやかなりスリリングだったりする。
俺の体力と気力が持つかどうか・・・
「・・・もうい〜い?」
「さっきゆっくり歩くの好きとか言ってなかったか・・・?」
「今日は好きなの食べて気分がハイテンションなのだっ!!」
「そっかぁー。じゃあ気分を落ち着けるために歩こうかー」
「はーい!・・・あれぇ?」
比較的困らない妹で助かる。
基本的に兄である俺の言うことを聞いてくれるからだ。
それでも駄目な時は、駄目だけどね・・・
・・・・・
「最高にハイってやつだァァァァ!!!!」
「うぉおおおおおおおおおお!!!?」
はい突然何かといいますと。
絶賛ロデオ中です。ええ、もう10分経ったんです。逃れきれなかったんです。
もう乗っているというより、馬体に必死にしがみついています。
普段からこんな感じじゃないんだけどなぁ。いつもは颯爽と駆ける感じなんだけど・・・
今日は何というか、馬力が違う。文字通り百万馬力くらいありそう。
てか腕がもうやばいです誰か助けて。
「べ、ベル!ちょちょちょっととまとまま止まってくくくれないかかか」ガックンガックン
「え〜?兄ちゃん何か言った〜?」
走るのに夢中で聞こえてないらしい。
ベルが全力で思いっきり走ってるのだ。
それに乗っている・・・否、しがみついているとなれば、振動と風圧でまともに話すのなんて無理に決まっている。
それは現在もなお続いており、上下に体を思いっきり振られ、掴まっているのがやっとである。
ベルの方はおそらく「兄ちゃんなら大丈夫!」という根拠のない自信から、こちらを全く心配していない。
兄ちゃん超人じゃないんだぞ。
「だだだからららちょちょっとねねね」ガックンガックンガックン
「今のボクに足りないもの、それは!
情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりもォォォオオオオッ!!
速さが足りない!!」
「・・・・・・」ガックンガックン
本当に楽しそうに走ってるなぁ・・・
台詞は意味分かんないけど。
ああもう、これ止まんない。止まんないよ。
諦めるしかないなぁ。
むしろ止める方が野暮ってもんだよ。
ごめんね。兄ちゃんにもできないことって、あるんだよ。
「イヤッッホォォォオオォオウ!」
「あ、ちょっ」
おいベル。そこで上体あげてジャンプしたら・・・
ズ ル ッ
「ぶるぁあああああああああああああああああああああああああああ!!?」
ドグシャァッッ!!
「あっはっはっは!楽しいね!兄ちゃんっ!・・・・・・兄ちゃん?
兄ちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!?」
・・・・・
「ご、ごめんなさい・・・兄ちゃん・・・」
「だ、大丈夫だよ・・・大したことなかったから・・・」
今、俺達は平原に生える木に寄りかかり、一休み中だ。
あの時、どうなったかというと・・・
滑って手を離しちまったおかげで、それはもう凄まじい勢いで地面を転がったよ。
ええ、そりゃもう絶叫モノでした。できれば二度と体験したくない。
柔らかい草と土がクッションになったおかげで、大事にはいたらなかった。
おそらく、ここらの土地を管理している精霊のノームさんのおかげだろう。
ノームさんありがとう。
「本当にごめんなさぃ・・・」
「・・・全く」
本気でしょげるベル。
素直な分、かなり落ち込んでいる様子だ。
俺はそんなベルの頭を撫でてやる。
「ひゃっ!?に、兄ちゃん・・・?///」
「いいっていいって。・・・でも、次からはもう少しスピード抑えてね?」
「・・・っ!!うんっ!!」
落ち込んでいた顔が、まるで太陽のような笑顔になる。
相変わらず、笑った顔がよく似合う妹だ。
ベルはちょっとハメを外しすぎちゃうところもあるけれど、基本的には聞き分けが良い。
本当にいい子に育ってくれたものだ。
「しかし、何で今日はまたあんなに元気だったの。えらい勢いで走ってたけど」
「いやあのね、ニュートラル入れてたのね。
そして、それ知らないでセカンド発進だと思ってそれなりにスロットル回したら、
動かないからアレッと思って、ギアいじったっけ、ロー入っちゃって、
もうウィリーさ!!」
「ごめん何言ってるか全然分からない」
「ボクも分かんないっ!」
「・・・・・・・・・」
きっと母さんの入れ知恵か何かだろう。今度本気でシメようか。
・・・無理に決まってるけどさ。
いや本当に、なまら恐かったよ。死ぬかと思ったよ。
ノームさんいなかったら、俺は怪我してないの不思議なくらいだよ。
何か、ベルの中に潜む闘争心か何かが頂点に達していたのだろう。
多分おそらくそういう感じ。
「うんとね、つい興奮しちゃって・・・でも楽しかった!!」
「それは良かった」
何にせよ、ベルが喜んでくれたのだ。体を張った甲斐があるというもの。
・・・できれば本当に二度目は遠慮しておきたいけど。
「それじゃ兄ちゃん、帰ろっか!ふわぁ〜あ・・・」
「何だ、疲れて眠くなったのか?」
「へへっ・・・流石に全力で走ると、ちょっぴりね」
「・・・少し、寝てから帰るか?膝貸してあげるよ」
「ええっ!?・・・本当に、いいの?」
「おう。嫌ならいいけど」
「い、嫌じゃないよっ!!むしろ全然オッケーだよっ!!ばっちこい!!///」
そ、そこまで気合を入れるものじゃないと思うんだけど・・・
何だか急に顔が赤くなったけど。耳もパタパタしてる。
本当に大丈夫かな?まあきっと疲れが出ているんだろうね。
休めばいつも通りだろう。
「ほら、頭乗っけてさ」ポンポン
「えっと、それじゃぁ、お邪魔しま〜す・・・///」
「はい、いらっしゃ〜い」
おそるおそる頭を膝に乗っけるベル。
う〜ん、耳かき棒があれば耳かきもできるのになぁ。
今度から用意しておいておくか。
「膝、固くないか?」
「全然、すっごく気持ちいいよぅ・・・ほふぅ」
平原をなびく風が通り抜ける。
確かにこの風の中を駆け抜けたらさぞ気持ちが良いだろう。
我を忘れて駆け回っても、仕方ないよね。うんうん。
そういうことにしておこう。
「ま、別にいっか」ナデナデ
「んにぃー」
ベルの頭をごく自然に撫でる。
何とも不思議な声を出し、甘えるように顔を膝に擦り付けてくる
まるで犬か猫だ。動物を膝に乗せてあやしている気分になる。
なんか楽しい。
「ベルは甘えん坊だな」
「・・・・・・」
「・・・ベル?」
「・・・すぅ・・・すぅ・・・・・」
「・・・寝ちゃったか」
さっきまで起きていたはずだが、もう寝息を立てている。
無邪気な顔して眠るベルを見ると、自然と笑みが零れてしまう。
やっぱり疲れてたんだな。ゆっくりお休み。
俺もこの風を感じながら、少しだけ寝ることにするか・・・
「本当に、今日は良い天気だなぁ・・・」
・・・・・
「ただいまー!!」
「ただいま」
その後、今度はゆっくりとした速度のベルに乗り、家に帰ってきた。
道中口数がやけに少なかったが、まだ眠気が残っていたのだろう。
今はすっかり目が覚めたみたいだが。
「二人共お帰りー。ベル、散歩楽しかった?」
「うん!楽しかった!!」
玄関ではクラリネが出迎えてくれた。
時間にして1時間半ほどだが、体感的にはもっと長かったような気がする。
まあ・・・振り落とされたりもしたしなぁ・・・
「お風呂沸かしてあるから入ってきたら?ベルなんて汗びっしょりだよ?」
「うんっ、そうするよ・・・!///」
ベルはそそくさとお風呂場へ向かっていった。
あんなに走ったんだ。汗を流さなきゃ気分悪いよな。
俺も後で軽くひとっ風呂浴びるか・・・
(・・・兄ちゃん、また一緒に散歩行こうね。兄ちゃんがいると、毎日が楽しいなぁ・・・
体も心も熱くなっちゃうし・・・/// ここも、こんなに濡れちゃってるしね・・・・・・♥)
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・〜ある日のお祝い〜
「それでは、ベルの『町内弓技大会 優勝』を祝しまして・・・」
『乾ぱーーーーい!!!』
実は先日、ベルが街の『弓技大会』に参加したのだが。
なんと、見事に優勝。金メダルを獲ってきたのだ。
前々から大会に備えて一緒に練習していたんだけど、まさか優勝するなんてな。
兄として鼻が高い。何とも誇らしく思う。
だから、今日の夕食はベルの優勝パーティだ。
「お、おめでとう!ベル!が、頑張った甲斐があったね!」
「カスタ!ありがとう!!
兄ちゃん兄ちゃん!ボクすごかったよねっ!?」
「うんうん、すごかった。流石俺の妹だ」
「!! えっへんっ!!///」ニマー
ケンタウロスは弓の扱いに長けている種族ではあるが、うちのベルも同じようで。
普段弓なんて使う機会はないが、やらせてみるとメキメキと上達していった。
素質があったんだろうねぇ。
「優勝できたのも兄ちゃんのおかげだよ!ありがとうっ!!」
「俺はちょっと教えただけだよ。実際上手く弓が引けるわけじゃないし」
「でも兄ちゃんの教え方、とってもわかりやすかったよ!」
事の発端は、『ボクもケンタウロスなんだから、弓の大会に出てみたい!』とベルが言ったことだった。
だから俺も少しは力になってあげようと思い、弓の扱いの本を読んで、時間がある時には練習に付き合っていたのだ。
それが今では、こんなに立派になっちゃって・・・
「兄上様は教える事に関しては一流ですもの。優勝できて当然ですわ」
「まあタク兄は教えるの異常に上手いからね・・・どんだけ指導能力高いのよ」
「バレスが家事できるのも、だいたい兄さんのおかげだものね」
「お、俺にかかれば家事ぐらい朝飯前だぜ!」
「ふむ、では今度兄に代わってやってもらおうか」
「勘弁してくださいお願いします」orz
皆も食事をしながら盛り上がっているようだ。
しかし、教え方そんなに上手いのかな。自分では全然分からないんだけどなぁ。
「あのね兄ちゃん!準優勝のエルフの子とも友達になったんだよ!!
今度時間があったら、また一緒に弓教えてよ!」
「ん〜、ベルとその子が構わないなら、別にいいよ」
「やったー!!」
「いいなー、ベルは弓の指導してもらってさー。兄さんと一緒に」
「あら、クラリ姉様も何か大会や行事などに参加なされたら良いではありませんか」
「えー?次の街の大会っていったら・・・闘技大会じゃん」
「クラリ姉じゃちょっと厳しいでありますな。この街は強敵揃いであります」
ちなみに俺達が住んでいる街『レストオール』では、月一頻度で何かしらの大会が開かれる。
今回のような弓技大会だったり、来月の闘技大会だったり。
他にも剣技とか釣りとか料理とか裁縫とか、種類は色々だ。
ここを治める領主の趣味の一環だそうだ。街がもっと活気づいて欲しいって理由らしい。
事実、大会のために街にやってくる冒険者や旅行者もいるくらいだし、思惑通りになってるんじゃないかな。
「・・・なら兄よ、来月の闘技大会のため、手取り足取り戦闘訓練をお願いできるか?」
「おっ、フルー姉が出るなら俺も出るぜ!いいよな兄貴!」
「私も魔法の指導をお願い致しますわ兄上様・・・」
「兄様、私も今度新しい料理を・・・」
「お、お兄ちゃん。わ、私も鎌の扱い方を・・・」
「ちょ、ちょっと落ち着け皆」
いくらなんでも多すぎる。
戦闘訓練に、魔法に、料理に、どさくさに紛れて鎌の扱いとか。
一遍にできるわけないでしょうに。
兄は神様ではないんだよ。
「あ、私も鍵開け技術の向上をお願いしたいであります」
「コルネッタは駄目」
「ひどいっ!?(;ω;)」
そんな軽く犯罪まがいの手助けできるか。
というより、これ以上貞操の危機を増やしてたまるかい。
「はっはっは!あまりタクトを困らしてやるんじゃないよ?みんな」
「相変わらず、タクトは妹達の人気者だね・・・」
母さんと父さんは俺のフォローをしてくれた。
でもね、母さん。
あなたが一番俺を困らせている原因の一端を担っているのですよ?
偶に妹達にとんでもないこと吹き込んでいくのだけは止めていただきたい。
妹達が暴走する原因、半分くらいは母さんが原因なんだからね?
・・・・・
「ふぅ、やっと片付いた」
お祝いパーティが終わり、まさに今洗い物を終わらせたところだ。
今日はお祝いということもあり、普段より多く料理を作ったが・・・
横に積まれた大量の皿は、見るだけで圧巻である。
全て洗い終わるのに1時間ほどかかったが、まあ手馴れたものである。
皆よく食べるからね。
「・・・兄ちゃん」
「ん?どうしたベル」
丁度良いタイミングでベルがやってきた。
後はもう寝るだけなのに、一体どうしたのだろうか?
「ベル?・・・何だか顔赤いけど」
「ふへへ・・・兄ちゃん・・・♥」
「・・・ベル?」
「兄ちゃぁぁん・・・!!♥♥♥」ドシーン
「ヘアぁ!?」
何だ!何が起きた一体!?
何で俺はベルに組み伏せられている!?
馬体がしっかりと足を押さえつけて、身動きが取れない!
「どうしたベル!?一先ず離れろ!」
「兄ちゃぁん・・・ボクね?今すっごく体が熱いんだぁ・・・♥♥」
そう言うとベルは俺に体を押し付けてくる。
母さん譲りのたわわな果実が、俺の胸板で形をひしゃげている。
寝る子は育つ。俺の知らないところで成長しているんだなぁー・・・
・・・ってそうじゃねぇよ!?
「あ、熱いのは分かった!分かったから!ちょっと離れよ!?な!?」
「えへー、やだー。だって兄ちゃんといるとどんどん熱くなってくるんだもん♥」
「あ、熱すぎるのは嫌だろう!?今日はもう寝るだけだし!寝れなくなっても知らないぞ!?」
「兄ちゃんと、寝れない夜を過ごす・・・ジュルリ♥」
こいつはヤベーー!!
目が据わっちゃってる!!
今までにないくらいの捕食者の目をしているッ!!
一体ベルに何があった!?
今いる場所、キッチンは死角だ・・・
今はこの窮地を脱するべく・・・!
「おーい!!!誰kむぐぅ!?」
「あむぅ、むちゅぅ♥ んぐんぐれろぉ・・・♥」
き、キスで口を塞がれた!?しかもディープ!?
これでは声が出せん!!助けが呼べない!!
だ、だが!息継ぎの時を狙えば・・・
「んふぅ・・・♥ ダメじゃないか兄ちゃぁん・・・皆に聞こえちゃうじゃん・・・♥」
「いや!!だからおmんんぅーー!?」
「ちゅるる・・・はむ、あむ♥ ちゅう、れる♥」
「んぐぐぐー!?」
「ぷはぁ・・・大きな声を出そうとする兄ちゃんの口はぁ、塞いじゃおうねぇ♥」
「はぁ・・・はぁ・・・!」
駄目だ、対策されとる!?
大きな声を出そうとするたびキスされるとか!!
これはやばい・・・!
しかも口の中が変な味・・・
あれ?これアルコール・・・
「ベル・・・!まさか、酒飲んじゃったのか・・・!?」
「おさけー?んふふー、こんなに気持ちいいのはおさけのせいなのかなー?♥♥」
確か・・・ケンタウロスは酒癖が悪い!
酔ったケンタウロスは自制が全く効かず、凶暴かつ好色になるって話だ!!
そのまま男性に襲いかかるって・・・
・・・今まさにそんな状況じゃァねぇかーーーー!!?
「今、ベルは酔っているんだ!だから理性がきいてない状態なんだよ!」
「えー?ボクおさけのんでないよー?♥ ボクはコップに注がれたやつしかのんでないもーん♥♥」
「なん・・・だと・・・!?」
いや、冷静に考えろ、考えるんだ。
ベルにはお酒を飲んだ自覚がない。だから自分で飲んでいないと思ってる。
普段から妹達にはお酒は無闇に飲まないように言い聞かせているから、自分から飲むことはないだろう。
だが、現にベルは酔っ払っている。
それにコップの飲み物しか飲んでいないんだ。
つまり、コップの中にお酒が混入していた・・・?
だがアルコールが入る機会なんて・・・
確か、ベルの隣の席は俺と・・・
・・・。
「母さんの仕業かぁあぁあああぐぅんん!!?」
「んむぅ、れるぉ・・・んちゅぷ♥ ふはぁ、だから、大きな声出しちゃ、めーだよぉ?♥」
「うぐ・・・」
絶対母さんの仕業だ。そうに違いない。
多分面白半分、悪ふざけ半分でお酒を入れたんだ。
あの人、やっていいことと悪いことがあるでしょう!?
よりにもよって一番飲ませたらいけない妹に酒なんて飲ませて!!
「・・・どーして、そんなに拒否するのかなぁ・・・」
「・・・ベル?」
「ボクが、女の子としての魅力がないから?兄ちゃんに迷惑かけちゃうような妹だから?
こんな、ケンタウロスっぽくない感じだから?だから、拒否されるまでに・・・
・・・えぐ・・・嫌われ、ちゃってるのかなぁ・・・ひっぐ・・・」グス、グス
「そんなことないぞ!」
「兄ちゃん・・・?」
「ベルは俺から見ても魅力的な女の子だからな。元気で笑顔が眩しい女の子だ!
それに迷惑なんて思ってないぞ!ベルは妹の中でも聞き分けのいい子なんだから。
だから、嫌うなんてことは絶対にありえないことだ」
普通のケンタウロスとはイメージが違うかもしれないけど。
そんなことは関係ない。些細なことだ。
例えどんな姿かたちをしていたとしても、どんな性格だったとしても。
ベルは俺の妹なんだ。それは変わりのない事実。
正直、妹じゃなかったら、拒否なんてしないだろうし・・・
それに・・・
「兄ちゃん・・・ありがとう・・・♥」
「ベル・・・だから一旦・・・」
「ボク、もう我慢できなぁい・・・!!♥♥」
「ベル!?」
さらに体を押し付けてきた!?
チクショウ!万事休すか・・・!!
このまま、ベルに・・・
「兄ちゃぁん・・・えへぇ・・・zzz♥」
「・・・あれ?」
「ぐぅ・・・ぐぅ・・・にい、ちゃん・・・zzz」
「・・・はぁ、寝たのか」
きっと、興奮でアルコールが早く体に回っちゃったんだろう。
で、一気に眠気がきて、寝てしまったと。
・・・どうやら、助かったようだ。
「・・・人騒がせな妹だな」ナデナデ
「えへへ・・・兄ちゃん・・・♥・・・すぴーzzz」
夢の中まで俺がいるらしい。
全く、いい夢見て、よく休むんだぞ。
(兄ちゃん・・・ボク、兄ちゃんのこと大大大だーい好きだからね!!♥・・・ぐぅ・・・zzz)
その後、馬体にのしかかられて動けなくなっていた俺は。
無事に他の妹達に救助されましたとさ。
・・・アカン、腰が地味に痛い。
13/06/29 23:23更新 / 群青さん
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