連載小説
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猟師の過ごした半月。
ある日猟をしに出かけたら、変なモンが落っこってた。

金髪で、このクソ暑い中だってのに黒いマントを羽織った女だ。
服装も見ただけで高価と分かりそうなのを着てやがる。いいとこのお嬢様なんだろうな。
何とも苦しそうに唸ってる。悪い夢でも見てんのか?


ツイてねえなあ今日は。・・・どうにもメンドくせぇことになりそうだ。





・・・・・





お、どうやら目が覚めたみてぇだな。
ボーッとしてやがるが、すぐにハッとした様子でこっちを睨んでやがる。

おはようさん。随分眠ってやがったなぁ。

そう言うと、睨みを強くしやがった。
手を動かそうともがいてやがるが、手は縄で縛ってある。
熊二頭が全力で引っ張ってもちぎれねぇ銀の縄だ。
起き上がるのは無理だろうなぁ?
自分の状況に気付いたのか、体を見て驚く。
そりゃ目が覚めて服着てなかったら驚くよな。

私をどうするつもりだ、だと?
へへへ、決まってんじゃねえか。こうすんだよ。

手を体に触れ、肌を撫でる。
女は苦悶の表情だ。苦しそうな声もあげている。
そんなに感じちまって。ちったぁ我慢しやがれってんだ。








あ?何をしているんだ、だって?
薬塗ってるに決まってんじゃねーか。
何でかは知らねぇがテメェ、体ボロボロだろうが。
それを早く治す薬だよ。媚薬じゃねぇぞ?フツーの傷薬だ。


何で手を縛っているのかって?
痛みで暴れられても困るし、それにテメェは魔物だろう?襲われたらもっと困るからさ。
裸にしたのは傷が塗れねぇから。
ボロボロ過ぎてどこに傷があるか分かったモンじゃねぇからな。
マントみてぇなのも翼なんだな。・・・おい、翼で体隠すんじゃねぇよ。
翼を無理して動かしてんのが見え見えなんだよ。クソッタレ。
まだ塗り終わってねぇんだから、大人しくしてろ。
ったく、やっぱりメンドくせぇな。


何で助けた、だと?
テメェ俺がそんな薄情者に見えんのか、クソッタレ。
狩猟日和に外出てみりゃあ、魔物が倒れてんだぞ?
見捨てたらそれこそメンドくせぇことになるじゃねぇか。
この反魔物領でよ。
だから傷が治ったら、さっさと出て行かすかんな。
半月もすりゃ、ちったぁマシになるだろうからよ。
結構いい薬なんだぜ?これ。
知り合いの薬剤師に感謝するんだな。


そら、塗り終わったぞ。
服着させっから、翼どかしやがれ。
自分で着れるから貸せ、だと?
手、縄で縛ってんのにどーやって着んだよ。
着させることだって無理だろうってか?
だから翼どかしたまま、じっとしてろってんだ。
すぐに終わんだからよ。


ほら、着せたぞ。
今何をしたか、だと?
質問が多い奴だなクソッタレ。
魔法だよ、ま・ほ・う。テメェだって使えんだろ?
俺は物を指定した場所に一瞬で飛ばせるんだよ。分かったか。


ただの猟師が何でそんな魔法使えるか、って?
・・・人には事情ってモンがあんだよ。余計な詮索してんじゃねぇ。
分かったらもう少し寝てろ。うるせぇ口は塞いでやがれ。





・・・・・





おい、起きろ。
んだよ、睨むんじゃねぇよ。
飯が出来たってのに、その様子じゃいらねぇか?
下等な人間が作ったものなどいらん、ねぇ・・・




ハハッ、腹の虫は正直のようだぜ?
おいおい、顔真っ赤にしてんじゃねぇよ。腹が鳴るのは自然なことじゃねぇか。
腹減ってんだろ?スープとパンなら用意してる。
だったら縄を外せ?
俺はまだ、テメェを信用したわけじゃねぇんだ。
それに、無理に動くと激痛が走るぞ?試してみるか?
気付いてねぇみてぇだが、テメェはそんな怪我をしてんだよ。
分かったら大人しく食わされとけよ。ほら、口開けろ。
あぁ?毒でも入っているんだろって?
んなことすっかよ。メンドくせぇ。
そんなことするぐれぇなら飯なんて食わせねぇよフツー。
目の前で毒見でもしてやろうか?


気が済んだか?毒なんてねぇだろ。ほら、さっさと口開けやがれ。
いい加減、手が疲れんだよクソッタレ。





・・・・・





あ?どうした、もじもじしやがって。
何?トイレに行かせろ?
あー、それがあったか。メンドくせぇなクソッタレ。
・・・仕方ねぇ、縄を外してやるよ。
ただし、ベット側の方だけな。手の方は結んだまま、片方は俺が持つ。
外したら何をされるか分かったモンじゃねぇ。ま、何もできねぇだろうがな。
だからいちいち睨むんじゃねぇよ。テメェの趣味か何かか?


ほら、外したぞ。ゆっくり起きろ・・・
!?馬鹿っ!急に立ち上がんじゃねぇよ!
床に思いっきり倒れたらどうすんだ!支えてやったからいいものを・・・
あぁ!?すごく痛いって、テメェ俺の話聞いてただろクソッタレ!!
満足に動ける体じゃ・・・どうした、俯いて。
顔もまた赤くなって・・・
・・・。


ああ・・・悪ぃな。そんなに我慢してたなんて知らなくてよ。
今、拭くモン持ってくるから。待ってろ。

あと、今度からは早めに言いやがれ。





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あれから五日か。でもまだだからな。
無理に動こうなんて考えんじゃねぇぞ。
今日は猟に行ってくる。食料も尽きちまったからな。
だから大人しく家で待ってろよ?


あ?私を一人にするのか、だと?
そりゃそうだろう。でなきゃ一体誰が狩りに行くんだよ。
それともあれか?俺がいなくなると寂しいってか?


ふざけた事を言うな?
へいへい、悪かったよ。
まあ、遅くならねぇ内には戻るからな。
それじゃ、行ってくんぜ。





・・・・・





ふぅ、やっと家に着いたぜ。
へへっ、大物がいたから少しばかり遅くなっちまった。
今日はご馳走だな。さーて、どうやって食ってやろうか。
暑いが鍋にするのもありかもしんねぇな、それはそれで。
よお、ただいまっと。
・・・おぃ?どうしたその顔。何だか不安そうな顔して目まで赤くして・・・


あぁ?帰ってくるのが遅い?いつまで待たせるつもりだって?
あー早く帰るつってたモンなぁ。そりゃ悪かったよ。
でもよ、今日はでけぇ猪を見つけてよ。仕留めようと躍起になってたら時間かかったんだよ。
おかげで今日は少しマシな食事ができるんだ。感謝して欲しいくらいだな。
・・・おぃ、足で脇腹小突くのは止めろよ。痛ぇって。何でそんなに怒ってんだよ。


自分で考えろ?
・・・知るかよそんなこと。ったく、ああクソッタレ。
さっさと飯の準備してくるから、待ってろよな。
・・・はぁ、しおらしい顔してると思ったらすぐ睨んできやがって。
ホント、訳分かんねぇな。





・・・・・





よっ、と。洗い物も一通り済んだな。
しかし美味かったな、あの猪。まだ残ってるし、しばらく肉には困らねぇだろう。
さて、アイツの様子でも見に行くか・・・


よう、調子はどうだ。
・・・おい、何か顔色悪くねぇか?


何?血が足りない?
テメェ血なんて飲むのかよ。さっすが魔物さんだねぇ。
・・・へぇー、ヴァンパイア・・・吸血鬼だったのか。
それじゃ、確かに血が吸いてぇわな。一体それまでどう過ごしてたんだ?


ほう、小瓶に人間の血を入れて・・・あ?でもそんなモンどこにも・・・
丁度切らしてた?そんな状態でうっかり反魔物領に来てたってのか?
ハッ、こりゃあ何とも情けない笑い話だな!
旅の準備は念入りにしとくモンだぜ。
何でテメェが旅してて、あそこでくたばってたかは知らんがな。


で、テメェは血が足りねぇとどうなるんだ?
・・・今は食事をしてるから別に死にはしないが、今まで吸っていた血を飲めなくなったから一時的な貧血状態、だと?
まあ、死なねぇんなら別にいいがよ。
・・・。


・・・・・・。


・・・・・・・・・。


ったく、あぁもーしょうがねぇな。
ちっと待ってろ、クソッタレ。








ほら、これでいいんだろ?
ご丁寧にワイングラスに入れてやったぜ。感謝しな。


これは何だ、だと?
見りゃ分かんだろ、血だよ血。
まーこりゃあの大猪の血なんだけどなぁ?
血なら、何でもいいだろう?ヴァンパイアさん?
文句を言える状態じゃないモンなぁ?
この畜生の血を飲んで、シャキッとしやがれってんだ。


あぁ、わざわざ血を持ってきてくれたのかって?
・・・仕方なくだよ、仕方なく。
テメェにゃさっさとここを出て行ってもらわなくちゃいけねぇからな。
早く治してもらわねぇと困んだよ。
俺のためだ。


その左手首の包帯は何だ、だと?さっきまでしてなかったろうって?
・・・猪の血ぃ抜くとき、手ぇ滑らしただけだ。テメェには関係ねぇよ。
うだうだ言ってねぇでさっさと飲みやがれ!要らねーんなら、外に捨てちまうぞ!
ったく、ホントに世話の焼ける奴だな、クソッタレ。
不味かったら口から出してもいいからな。


・・・どうした?そんな驚いた顔して。
一口飲んだら止まっちまってよ。
早く全部飲んじまえよ。


あ?何でもない?早く飲ませろ?
何だよ急に・・・おお、一気に飲んだな。
そんなに猪の血がお気に召したのかなぁ?高貴なヴァンパイアさん。
・・・猪の血にしては中々美味であった、ねぇ。
ケッ、素直になりやがって。面白くねぇ反応。


あぁ?ありがとう、だあ?
テメェの口からそんな言葉が聞けるとはなぁ。
だが、感謝してんなら、さっさと元気になりやがれ。
二度とそのげっそりした顔見せんじゃねぇぞ、クソッタレ。


・・・おかわり?
いきなり図々しくなったな!?
ねぇよそんなモン!明日まで待ちやがれ!


・・・っと。あぁ?大丈夫かって?
少しふらついただけだろ。何だ、心配してくれちゃってんのかぁ?
ちっとばかし疲れただけだ。魔物さんとは体のつくりが違ぇんだよ。
俺はもう寝るからな。テメェもしっかり寝てやがれ。
まあ、ヴァンパイアに夜寝ろってのは難しいだろうがな。
黙って目ェ瞑って、少しでも多く休んでやがれ・・・じゃあな・・・




ああ、クソッタレ。
手首、切るモンじゃねぇな。
俺まで、貧血じゃねぇか・・・





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アイツを拾って十日目か、早いモンだなぁ。
アイツもこの生活に慣れてきたのか、あまり嫌な顔見せなくなった。
適応力の早いこって。
・・・まあ、それももうすぐ終わりなんだがな。




今日は街へ行く。
今まで狩った獲物の皮と肉を換金するためだ。
そこで、だ。今日はテメェも連れて行く。


あ?教団に引き渡すのか、だと?
勘違いすんじゃねぇよ。ただのリハビリだよ。
旅に出たら長距離を歩くんだろうからな。
また家の近くで野垂れ死にされても困んだよ。


縄を外しても大丈夫なのか、だと?
テメェ今更俺を襲おうってのか?
もしそうなら即刻教団に引き渡すから安心しやがれ。
・・・冗談だよ。だからそんな顔すんじゃねぇよ。
でもホントに襲うんじゃねぇぞ。


高貴なるヴァンパイアの誇りに懸けて、そんなことはしない、か。
ハッ、今のテメェにゃ気品も優雅さもあったモンじゃねぇがな。
大事なのは心構え?
へいへい、ご立派なこってよ。


久しぶりにまともに立った感想はどうだ?
まあ今まで飯んときは体起こさせてたし、トイレにゃ補助付いて歩かせてたし。
たまに身体をゆっくり伸ばしたり動かしたりもしてた。
無理な動きをしなきゃ、倒れることはねぇよ。多分。
魔物の回復力には驚かされるねぇ、全くよ。


あぁ、このローブ被ってけよ。
日の光も通さねぇし、何よりその翼見られたらアウトだからな。
街に行くからってはしゃぐんじゃねぇぞ?
バレたら捕まって即処刑だ。


そんな危ないところに行くのかって?
目立つ大通りとかは通んねぇから大丈夫だと思うが、一応な。
中心部には入んねぇよ。あんまし長居もしねぇ。


は?何で今になって、だと?
だからリハビリを兼ねてって言ってんだろうが。
テメェは昨日街を見てみたいとかボヤいてたようだが・・・
別に他意はねぇんだからな。


だから勘違いすんなって言ってんだろ。
にやにや笑ってんじゃねーよ、クソッタレ。





・・・・・





ふぅ、何とか無事に換金できたな。
少しばかりひやひやしたぜ。


あれだけ注意を受けたんだから目立ったことはしない、だって?
どうだか。街に入ったとき、目ぇキラキラ輝かせた子どもみてぇだったがな?
おいおい、声を荒げんじゃねぇよ。注目浴びるじゃねぇか。


それじゃ、帰んぞ。
・・・もう帰るのか、だと?
ったりめぇだろ。テメェ殺されてぇのか?
・・・わーったよ!仕方ねぇな!
ちょっと飯食って、物見るだけだからな!
ったく、メンドくせぇなぁクソッタレ。





・・・・・





ん?どうした、そんな露天商の品なんか見て。
・・・まさか欲しいんじゃねぇだろうな。
別にそんなことないって?
目が泳いでるぜ。分かりやすい奴だなテメェは。


おい、小人・・・いや商人。
そいつぁ何だ?
何?『魔法の指輪』?互いの場所が離れてても分かるだと?
何そのうっさんくっせぇアイテム。呪われてんじゃねぇの?
あぁあぁ、分かった分かった。ギャーギャー喚くんじゃねぇよ。悪かったよ。
全く小せぇのに年寄りみてぇな話し方しやがって。変わった奴。


お詫びに、ってわけでもねぇが・・・そいつぁいくらだ?
・・・何だ意外と安いじゃねぇか。
しょうがねぇ、買ってやんよ。
・・・驚いた顔すんじゃねぇよ。買ってやんねぇぞ?


名前を教えろ?
何でそんなこと言わなきゃなんねぇんだよ。
別にコイツの名前知らねぇしな・・・俺も教える気はねぇし。
指輪の効果に関わるって?知るかそんなこと。


・・・テメェ何勝手に名乗ってやがる。
てかテメェ、『テナサ・マザーシア』って名前だったんだな。
あ?これからはそう呼べ?
テメェなんざ、テメェで十分だ。
俺?・・・俺は、ただの猟師だよ。名前なんて、ねぇさ。


彼女と仲良くの、だと?
別にコイツとはそんなんじゃねぇよ。
ただの怪我人の付き添いだ。商人が思ってるようなロマンチックな話は何一つねぇ。
だからそんな疑り深い目で見るんじゃねぇよ。


おい、テメェも何顔赤くしてんだよ。
まさか本気でそう思ってるんじゃねぇだろうな。
・・・だから大声出すんじゃねぇって。クソッタレ。


今更否定したって、遅いんだよ。





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アイツと出会って半月。
ついに今日、アイツはこの家を出る。
別に寂しくなんてねぇ。厄介払いができて清々すらぁ。
でもこの半月の間。いつもより楽しかったのは、事実だ。


出て行くのは夜。今は昼で、アイツは丁度寝ている。
生活リズムを戻すためだとか何とか理由をつけてベットの中だ。
そんな時、誰かが家のドアを叩きやがった。


何だよ、こんな山ん中に。迷い人か?
ドアを開くと、立っていたのはあの時の商人だった。


こんな山奥に一体何の用だ。商品の返品ならお断りだぞ。
何?彼女をお前はどうするかだって?
いきなりなんだってんだ。
どうもしねぇよ。ただ、今日アイツはここを出ていく。
旅の途中で、自分にぴったりの屋敷を探しているんだと。
流石、旅の貴族はやることが違うねぇ〜。


アンタ、気づいてるんだろ?
アイツが魔物だってこと。そして、アンタも魔物だ。
驚いた顔してるな。生憎俺はそーいうことに鋭くてね。
だから別にどうもしねぇって。
アンタが怪しげな商品売ろうが何しようが、俺に害がなきゃ勝手にやってろよ。


で、用はそれだけか?
・・・いい話と悪い話を持ってきた?
情報料なんて払う気はねぇぞ。
お節介で話すことだから別にいらんってか?
そりゃどうも、助かるね


で、話ってのは何だよ。








・・・。








ああ、そうかい。クソッタレ。





・・・・・





おはようさん。随分眠ってやがったなぁ。

何笑ってんだ?起き抜けに。
私が最初ここに来た時と台詞が同じ?
そうだっけか。よく覚えてんなぁテメェも。


今はすっかり夜で、傷も治った。
テメェはここにいる理由がなくなったわけだ。よかったな?
でだ、テメェにいい話がある。
一昨日の商人、いただろ?アイツが昼に訪ねてきてよ。
実は魔物だってんでテメェのことを話したら、ある親魔物領に屋敷が余ってるんだと。
それをテメェにくれてやるってよ。よかったな、目的が達成できそうで。


本当か?ってそりゃ嘘言ったってしょうがねぇだろ。
まあテメェに似合わなきゃ捨てたって別にいいらしいから、感謝するんだな?
・・・俺に感謝してどーすんだよ。


今までありがとう、世話になった、だあ?
・・・俺が勝手にやったことだ。感謝されても困んだよ。
さて、荷物もまとめてあるし。さっさと出て行くんだな。


・・・もう少し、ここに居れないか、だと?
馬鹿、言ってんじゃねぇよ。テメェにゃ旅がお似合いだぜ。
だから早くここから・・・




・・・ああ、もうきやがったのか。
ドアをボコスカ叩きやがって、乱暴にしたら壊れるじゃねぇか。
ま、防御魔法かけてあっから、そう簡単には破れねえがな。


一体何だって?
テメェにゃ何の関係もねぇよ。
何、商人がもう一つ話を持ってきててな?夜ここに教団が攻め込んでくるんだとよ。
ったく、迷惑な話だよなぁ。


あ?私のせいで、だぁ?
自惚れんな、別にテメェのせいじゃねぇよ。
いずれ、こうなってただろうしなぁ・・・


一体何の話だ、だと?
だからテメェにゃ関係ねぇ。だからほら、裏口からさっさと・・・
ああ、駄目だな。回り込まれちまってる。そりゃそうか。




あぁもう、全く。メンドくせぇったらありゃしねぇぜ。
そら、荷物持ってろ。離すなよ。
そんなことしてる場合じゃないって?
いや、今はテメェが出ていく準備をしている場合なんだよ。


何をするつもりだ、だと?
そうだな、テメェをその屋敷まで送ってやるよ。
親切な猟師さんの、最後の親切ってやつだ。


そんなの無理に決まってる?どうやってだと?
ハッ、それはな・・・








こうするんだよ。








手をかざしたアイツの姿は光に包まれ。
そして消えていった。




じゃあな、クソッタレ。
楽しかったぜ。





・・・・・





はぁ・・・はぁ・・・
いやぁ、魔法ってのはホント便利だねぇ・・・
その気になれば、人ひとり、魔法で飛ばすことができるんだからさ・・・
まあ、その分魔力の消費は激しいけどな・・・!
転移魔法なんて、才能のある奴にしか使えねぇ、最上級魔法だしなぁ・・・!


よぉ、久しぶりだなクソ司祭。
ドアをノックで叩き破るたぁ、中々のマナーじゃねぇの。
こんなとこまで出張ってくるなんて、ヤキが回ったんじゃねぇの?
たったひとりの裏切り者を始末するために、こんな前線に出てきていいのかねぇ?


ヤキが回ったのは貴様の方、か。
そりゃそうだ。俺は昔、教団を裏切った。
魔物を駆逐するため、教団の教えを随分叩き込まれた。
魔物を排除するため、無理やり魔法も覚えさせられた。
まあ、魔法の方は今役に立ってくれたがな。
感謝するぜ、ありがとよ。


まさか、こんな近くにいるなんて?
ハッハッハ!そりゃ驚くよなぁ?教団の裏切り者が。
その領内でぬくぬくと暮らしてたんだからよぉ?
貴様らの間抜けズラがこうやって拝めたんだ。
住んでたかいがあったってモンだぜ。


おいおい、その名前はもう呼ぶんじゃねぇよ・・・
若き英雄、勇者『デュオス』はもういねぇ。
貴様らの前にいるのは、ただの猟師だ。


あ?何であんな穢れた存在を庇うのか、だと?
それはな・・・




拾ったモンの面倒は最期まで看るのが、拾った奴の責任だからだ。
いくらどんなにメンドーくさくてもな。




貴様らがいくら愚かと罵ろうとも。
テメェの愚かさはテメェで決めてんだ。
愚かかどうかなんて、人様が勝手に決めるなよ。


さて、そろそろ問答は止めにしようや。
もう時間稼ぎの必要もないんだろう?
おーおー、こりゃまた随分な大人数で。
おいおい分かってんだろうなぁ?
貴様らの前にいるのは、ただの猟師だぜ?
その猟師に、この人数で挑むなんて。



覚悟は、できてんだろうなぁ?





・・・・・





ああ、畜生。
痛ぇじゃねぇかクソッタレ。
魔力、使いすぎちまったな。
血も止まんねぇし。
俺、ここで死ぬんだなぁ。


だけど、あのクソ司祭。
最後の力を振り絞って、魔界のどっかに飛ばしてやったぜ。
今頃、魔物に追われてヤられて大変だろうな・・・ハッ、いい気味だ。
まあ、あの野郎も最後まで悩んでたみてぇだし。
そこで幸せになってくたばりやがれ。


他の奴らも、司祭が消えたことと俺が脅したことで、ビビって街に戻ったようだが。
何やら悲鳴が聞こえた。きっとあの商人が何か仕掛けてやがったな?
全く、商人ってのは食わせ者が多いねぇ。魔物であれば、尚更か・・・




あぁ、もう前も真っ暗になってきやがった。
体も冷えてく。
冷たい。
寒い。






そうだ。

最期に。

この指輪を。

アイツのとこに送ってやろう。










願わくば、届きますように。


テナサ。


お前のところへ・・・












・・・・・ ・・・・・






・・・・・・・ ・・・・・・・






・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・













ここはどこだ?・・・俺は、死んだんだよな?
じゃあ、何で眩しい光が見えるんだ。
ゆっくりと目を開けるとそこには・・・





・・・知らねぇ天井だ。
ホントにどこだここ?
どうやらでけぇベットに寝てるらしい。ふかふかだ。
体は・・・全く動かねぇ。目をやると、包帯でグルグル巻きにされてるみてぇだ。
まるでマミーにでもなった気分だよ、クソッタレ。



ドアが開く。
そこには、気品と優雅さを兼ね備える女がいた。
ここ半月、ずっと見てきた女の顔が、そこにあった。




よぉ。何か、久しぶりだな。
っ・・・!いってぇ!?
テメェ!走ってきていきなり体触るんじゃねぇよ!
顔もぺたぺた触るんじゃねぇ。
俺は新品の人形じゃあねぇんだぜ。


生きているのか、だと?
勝手に殺すんじゃねぇよ、クソッタレ。
おいおい、無言で抱きつくんじゃねぇよ。暑苦しい。
あ?何だよ、聞こえねぇなぁ。




・・・俺が、生きてて良かっただと?
愛しいお前にまた会えて良かっただと?



・・・うるせぇよ。




俺もだよ、馬鹿テナサ。

13/08/02 20:02更新 / 群青さん
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■作者メッセージ
ここまでお読みいただきありがとうございます。

さて、このお話は2話構成。
次回は彼女の視点でこの半月がもう一度語られます。
楽しんでいただければ、幸いです。

※全話の誤字を修正致しました。

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