授業も始まってない休日の過ごし方-午前-
朝
うっすらと差し込む光で目が覚めた。
目に映るのは見慣れぬ天井・・・・
(そうか・・・・昨日から寮生活が始まったんだっけか・・・)
初めて寝たベットにしては気持ちよく寝れたと思う。
体を起こして辺りを見回すと・・・・
「あ、おはようございます。よく寝てましたね〜。」
・・・リントがすでに起きていた。俺より遅く寝てたよな。なんで俺より起きるのが早いんだよ・・・
「おはよう。起きるの早いな。」
「え?でももう8時ですよ?」
時計を見る。確かに8時。
俺昨日何時に寝たっけ・・・
「授業開始は9時だよな・・・1時間あれば準備は余裕かな」
「何言ってるんですか。今日と明日はまだ休みですよ」
「へ?・・・あ、そうか」
あー・・・まだ寝ぼけてんな俺。確かこの二日で学園内把握しといた方がいいんだっけ。あと選択授業とか。
「・・・入学式の次の日が休みってどうなんだろうな」
「どうって、何がですか?」
「いや、何でもねえ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
着替えや洗顔で頭を起こし、今日は何すっかなーとぼんやり考えてる。
「それじゃ朝ごはん行きましょうよ。僕が奢りますから」
「え?いや悪いよそりゃ」
「昨日言ってたじゃないですか。掃除のお礼だって」
・・・別に本当にいいんだけどな。好きにやってただけだし。
「まあ奢るかどうかは別にして、飯には行くか」
「そうですね」
そういって俺たちは飯を食いに外に出た。ルークは・・・どうすっかな・・・
・・・・・・・・そしたら男子寮の目の前でエルフが寝ていた。寝顔可愛いな。
「なんでこんなところでリティさんが寝てるんですかね?」
俺に聞くな。
「しょうがねえなー、おーい、朝だぞー」
俺はリティの肩を優しく揺する。
「ぅみゅぅ・・・・ひゅい!?」
ある程度揺すってたら奇声をあげて起きた。
なにこの子面白いんだけど。
「あ、え、う、お、おはよ・・う・・・」
「おう、おはよう」
「おはようございます」
驚いたような顔して、まずは朝の挨拶。
いや驚いてんのはこっちなんですけど・・・・。
「リティ?お前なんでこんなとこで寝てんだ?」
「あ、うぅ・・・えっと・・・それは、だね、その・・・」
「君を待っていたらしいぞ?」
「っ!??」
後ろから声がしたのでびっくりしたが、そこには石像・・・いや寮監さんであるマキナさんがそこにいた。
いやガーゴイルだから最初からいたのか・・・
「あ、おはようございます。寮監さん」
「うむ、おはよう。気持ちのいい朝だな。まさしく外出日和じゃないか」
「おはようございます・・・で俺を待ってたって?」
「ふふ、それはだな。彼女2時間ほど前に来ててな?理由を聞くと君にどうしても会いたかったそうだ」
「ほー、なんで、ですか?」
「それは本人の口から聞きたまえ」
にやにやしながらこっちを見ないで欲しいな、寮監さん・・・
「あ、あのだね・・・えーと、うん・・・・すぅー、はー」
しどろもどろになりつつもリティが話始める。
そして自分を落ち着けるように深呼吸をしている。
「ふぅ・・・・わ、私と一緒に買い物に来てくれにゃにか!!!」
「ぶふぅ!?ww」
え?噛んだ?今盛大に噛んだ?
俺は内容よりもそっちの方に思わず吹き出してしまった。
「セインさん、笑っちゃダメですよ。気持ちはわかりますけど」
「あぅ・・・」
リティ耳まで真っ赤だよ・・・。いや結構構えて聞いてたら噛むんだもん・・・。
でも流石に罪悪感出てきた。後ろで寮監さん全力で笑いこらえてるし。
「ふぅ・・・・あー、ごめんごめん。で、えーと・・・・・・・え?俺と買い物?」
冷静になって状況を整理するとだ。
俺、女の子に、買い物誘われてる?なんで?昨日あったばかりの女の子に?
「えー、と。なんで俺と?」
どうせ買い物に行くなら女の子同士の方がいいんじゃないのか?
「それは・・・」
「ふぅくくww、ふぅ・・・・おいおい少年。理由を聞くのは野暮ってもんじゃないかい?」
寮監さんが笑いのツボからようやく復帰し、俺にそう言う。
「こういうのは黙って了承するのが男じゃないか」
それもそうだな。何か言えない理由があるのかもしれないし。
「そうですね・・・俺でよければ構わないよ?」
「ぅぅ・・・・ふぇ?」
「昨日は全然見て回れなかったからな。俺も学園内とか外とか見ておかないとな」
「ほ、本当か!?」
「ああ、いいよ」
「じゃ、じゃあ・・・」
グゥ〜
腹の虫が聞こえる。
「あはは、まずは腹ごしらえですね」
「そ、そうだな。リティ、お前も来るか?朝飯まだだろ?」
「あ、ああそうだね。私もご一緒して、いいかな?」
どうやら音の根源は俺とリティの腹からだったらしい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺とリントとリティは学食で朝食を取ることにした。
ちなみにルークは誘ってない。
あいつどうせ昼まで寝てるだろうし、あいつと同部屋の奴とも面識ないしな。
ここの学園は休日でも学食が利用できるからありがたい。
俺はピザトースト、リントはレーズンパン、リティはフルーツサンドイッチを食べている。
チーズと野菜の食感が実にマッチしていて非常にうまい。
このうまさの3枚で230G(単位はガルド)はかなり安いと思う。
「ちなみにリティは何が欲しいんだ?」
「むぐ?」
買い物といっても何が欲しいのか気になったのでリティに聞いてみた。
サンドイッチを加えながらこちらを見る。可愛いな。
「んん・・・・・武器の矢が切れてしまっていたからそれを買いたいんだ。あといい小物が少しあれば買いたいかな」
そういえば武器は弓矢だっけな。でも武器なんてすぐに使わないと思うが・・・
「そうそう、来週の授業で戦闘学科の選択でもう武器がいるみたいですよ?」
「え、マジで?なんで知ってんの?」
「冊子の授業予定は一通り見ましたからね」
俺も後で確認しとこ・・・
「それなら俺も武器買っとかないとなー・・・」
「武器を持っていないのか?」
「ああ、使う機会なんてなかったしな」
俺とルークのいた故郷は比較的穏やかな地域だ。発展してるわけじゃないけど衰退もしてないような町。特に何かあるわけじゃないけど、危険もなくのんびりとしたいい町だと俺は思う。
「武器か・・・何がいいかな・・・・」
「ある程度自分にあった武器を選んでおかないと苦労しますよ?」
「リントは何の武器使ってんだ?」
「僕は投げナイフですよ。使い勝手がいいので」
投げナイフ・・・・なんか印象と全然違うんだけど・・・・
てかリントが武器持ってる姿が想像できないからなんか怖い。
キッチンで包丁とかなら似合いそうなんだがな。
「武器はもう用意してるので買う必要はないですね」
「そっか、ちょっとどんなもんか見てみたいな」
「後で見せますよ。二人はこれから武器を買いに行ってはどうでしょうか?」
あれ?リントは一緒に行かないのか?とか思っていると
「リ、リントは・・・・ついてくる気はないのか?」
リティが代弁してくれた。
「ん〜、二人の邪魔しちゃいけませんし、遠慮しておきますよ」ニコッ
「っ!」
リティまた顔が赤くなったな。大丈夫か?
「それに、昨日で学園内は見て回りましたからね」
「・・・・なんか、すまないな・・・」
「謝れるとそれはそれで困るんですけどね」
リティが謝って、リントは苦笑いを浮かべた。リントは来ないつもりなのか・・・
「俺としてもいい武器を選びたいから、リントの意見も参考にしたいんだけどな・・・」
「自分の武器も選べないようでは、一流の冒険者にはなれませんよ?」
「うぐっ・・・・」
そう言われてしまうと何も言えなくなってしまう。なんか悔しい。
ちなみに俺が冒険者志望なことは昨日の昼飯の時に話しているのでみんな知っている。
「僕は講義棟内とかを探索してますよ。それじゃあ先に行きますね?」
そう言うとリントは会計を済ませ先に学食を後にしてしまった。
しかもちゃっかり俺とリティの分まで会計済ませてるし・・・・
くそ・・・なんかカッコいいな・・・・
「それじゃ、俺たちも行こうか」
「そ、そうだな」
なんとも言えぬ悔しさを抱きつつ、俺たち二人は学食から出て行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
学食を出て、俺たち二人はのんびり学園内を歩いている。
しかし、この学園内は色々あるな・・・
学食以外にも形部狸やゴブリンが経営してる出店がちょこちょこ出てるし、食べ物以外にも生活用品、アクセサリーと品揃えがいい。しかもジムという名の鍛練場はもちろん、まず病院にしか見えない保健室、水棲魔物が泳ぎまくってるプール、いつかイベントが行われるであろうステージ、寮にはシャワーがついているというのになぜか温泉まである。
・・・・混浴ありという字が見えた気がしたが見なかったことにしよう。
これだと少なくとも街に出る必要はそこまでないんじゃないか?せいぜい服か自炊用の食材が欲しいときくらいだろ。
リティはというと色々なものが出ている店を目を輝かせながら見ている。
無邪気にキョロキョロしている姿は見てて実に和む。
「どこか寄ろうか?」
「ふぉ!?・・・い、いや、私たちは武器を買いに行くんだ!寄り道をすることは・・・」
「別にちょっと覗くくらい構わないんじゃない?」
「セ、セインがそう言うなら・・・」
そう言って俺は適当な店に足をのばす。
「あら!いらっしゃい♪」
すると出迎えたのは一人のアラクネ。
この店はかわいい布製の小物やぬいぐるみなんかが売ってるみたいだ。
「ん〜?君たち新入生?」
「あ、はい。そうです」
「そう!入学おめでと!私は『カリーナ・アドネット』、服飾学科の3年生よ。よろしくねお二人さん♪」
「え?学生なんですか?」
「やぁ〜ね〜、そんなに老けて見えちゃう?」
「いや、そういうわけではなくて」
俺が驚いたのは学生が出店を出してることだ。学園内で商売なんてしていいのか?
「あぁ、学生がなんで商売してるのかって顔してるわね。ちゃんと冊子は読んでおかないとダメよ?」
「す、すいません」
俺そんな分かりやすい顔してたか?
「まあちょっと説明してあげるとね?技術分野に進んだ子たちは3年次からは学内商売の許可が貰えるのよ。学園内で邪魔にならないとこで、決まった時間内の間自分で仕入れた品とか作った物を売ることができるの」
「へえ〜・・・」
技術分野は戦闘分野とは違って、作ることに特化した分野だ。料理学科、建築学科、芸術学科、鍛冶学科、服飾学科などなど・・・戦闘分野に負けていないくらいの多さである。
「まあ商業学科の選択授業が必須科目になるんだけどね?売ったものとかは全部自分の利益よ♪ちなみにこの店の品は全部私の手作りなの♪」
「て、手作り!?」
全部自分で作ったのかこれ!いや普通に街に置いてあるレベルだぞ・・・
「アラクネなんだからこれぐらいはできてないとね♪」
アラクネってすげぇ・・・
「それで・・・・お連れの彼女さんは何をお探しかな?」
「ふぅわっ!?」
小物とぬいぐるみをまじまじと眺めていたリティは驚いて声をあげる。
リティって驚いたとき必ず変な声出るんだな・・・。
「えと・・・わ、私はセインがこの店に入ったから、ついて来ただけで・・・」
俺はリティがこの店ガン見してたからここにしたんだけどな。
「ふぅ〜ん・・・・ねえ、それ欲しい?」
カリーナ先輩が指差したのはリティが一番長く見ていた小さめのぬいぐるみだ。鳥のヒナをモデルにしたものだろう。
俺と話してる最中でもそれを見抜くとは、流石は商売人ってとこか。
・・・・・・まああんだけ眺めていれば誰でもわかるか。
「え!?」
「お近づきの印ってことで半額にしてあげるわよ〜。あとこれからもご贔屓にしてね♪」
「え、えと・・・私が持ってても、その・・・」
「エルフが持ってても別に不思議じゃないわよ?女の子はこういうのみんな好きなんだから♪」
そういうものなのか、勉強になるな。
「じゃ、じゃあ買います!」
「毎度有り〜♪」
そういってリティはぬいぐるみを250Gで買った。半額じゃないにしても500Gでこの出来は素人からみても安いだろ絶対・・・。
「あ、そうだ。せっかくだから二人の名前教えてくれない?まだ聞いてなかったわ」
「俺はセインです。セイン・アストラダー」
「私はリティです!リティ・オーレリアっていいます!」
「セイン君にリティちゃんね?これからもよろしくね♪」
「はい、ありがとうございます!」
リティはお礼を言って、俺たちは店を後にした。
今考えると俺がお金出してやればよかったなぁ・・・
リントのようにさらっとやるのは俺には難しいみたいだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
またしばらく学園内を歩く俺たち。カリーナ先輩に武器屋の店の場所教えてもらえばよかったと軽く後悔してると
『武器あります。この先クロード工房』
という看板を見つけたので正直ほっとした。
そんなわけで武器屋に到着。
「ごめんくださーい」
そう言って店に入るが、返事がない。
「?・・・・まあいるよね店員さん」
「大丈夫なのか?」
「いやOPENの看板出てたし大丈夫でしょ」
店の中は結構シンプル。棚に武器が並べられていて、樽にも無数の武器が入ってる。カウンターはあるのだが、そこに店員はいない状態だ。
「ふぅ〜む・・・」
すると棚の方から声が聞こえてきた。どうやら先客がいたらしい。
学園でもかなり珍しい銀髪・・・いや白に近いな。髪型はややツンツンして、襟足の髪を束ねている。目はややつり目で、変わった手袋をつけている。
結構印象的な男だ。
「あ、あいつは・・・・!」
「リティ?どうした、知り合いか?」
「知り合いというより同じクラスの奴だ。ただ、とんでもないことを言ってた奴でね」
「とんでもないこと?」
「うん・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜昨日・1−Cホームルーム〜
私のクラスで自己紹介していたときのことだ。
最後の一人の紹介が終わって先生が話を進めようとしてたんだ。
「それじゃあ、説明の方を・・・」
「すみません!!遅れましたァ!!!!」
「!??」
ザワザワザワ・・・ザワザワザワ・・・
「ええと、あなたは・・・?うちのクラスの子?」
「ここ1−Cですよね?」
「ええ、そうよ」
「校長先生のところに行ってたら遅れてしまいました!すみません!」
「校長先生?・・・・・あぁ、この子が例の・・・」
先生は何かつぶやいてたみたいだけどあんまりよく聞こえなかったな。
「分かりました、それじゃ適当なところに座って、自己紹介をお願いできますか?」
「はい、分かりました」
『校長先生のところに行ってた?』『なんで?』
『なにかあったんじゃない?』『ただの遅れた言い訳だろ・・・』
『トイレにでも行ってたんじゃないの〜?』
ザワザワザワ・・・ザワザワザワ・・・
「えー、と。オレはスオウ シュウゼンって言います。趣味は読書と・・・瞑想?とかです。一応ジパング出身です!いろんな奴と仲良くなりたいと思ってます。これからよろしくお願いします!」
「はい、ありがとうございます。それでは・・・」
「あ、あと」
「?」
「魔物の人は『死にたくなかったら』オレに近づかないでください」
『え・・・・・・・?』(クラス全員)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「え?そんなこと言ったのか?」
「うん。まあそのあとみんな騒ぎ始まっちゃって、静かになるのに時間かかったけど・・・」
「そのあとは?」
「先生が『騒ぐのは後にしてくださーい!』って言ってそれっきり。説明が終わった後あいつの方見たらいつの間にかいなくなってるし」
「なるほどねぇ・・・」
しかし仲良くなりたいって言ってんのに魔物は近づくなって・・・矛盾してるじゃないか。かなり変な奴だな。
「・・・ちょっと話しかけてみるか?」
「え!?やめておいたほうがいいんじゃないかな・・・?」
「ものは試しさ」
「よう、こんにちは」
「うぉっ!?」
話しかけたら驚かれたんだけど・・・。
「あぁ、こんにちは。普通に話しかけられると思わなかったなぁ」
「そうか?挨拶くらい普通だろ」
「そいやそだね。・・・見た感じ、もしかしてオレと同じ新入生で武器買いに来たとか?」
「そういうこと。俺はセインだ。で、こっちの隠れてるのがリティ」
リティさん、いくらなんでも俺の陰に隠れなくても・・・
「そかそか。俺はスオウ シュウゼン。よろしくなー・・・エルフ耳?」
「ああ、リティはエルフだ。魔物化してないがな」
「ちょぉ!」
シューゼンが少し後ずさる。
「お前、魔物化してないエルフなら大丈夫なんじゃないのか?」
「え?なにそれ?」
俺はてっきり魔物が嫌いな奴だと思っていたからだ。そうじゃない奴があんな台詞吐くとは思えない。
「魔物が嫌いなんだろ?」
「え?オレが?別に?」
は・・・・?ますます分からん。
「うーん、じゃあなんで昨日あんなこと言ったんだ?」
「え、もしかして昨日教室にいたのか?」
「俺じゃないが、リティがな」
そう言うとシューゼンは頭を手で押さえて苦笑いをしている。
「アハハ・・・・まあ、ワケアリなんだけど」
「訳あり?」
「・・・・・・」
ちょっと黙り込んでしまった。まずいこと聞いたか?
「・・・・前に魔物に襲われたことがあってなぁ。ここでも襲われたら困るからあんなこと言ったってわけだな」
・・・・・・えーと、つまり魔物が襲ってこないように遠ざけられるようなことを言ったと?
「・・・・ここの学生が急に襲いかかってくることはないと思うが」
「それに、それは逆効果だと思う」
さっきからずっと黙っていたリティも口を開いた。
「え?どゆこと?」
「あーゆーこと言われてうちの部屋の子は『それほど腕の立つ男なのか?面白い・・・!』とか言ってたし、他のみんなもそれぞれ理由は違うけど関わる気マンマンだよ」
「・・・うー・・・ぁー・・・orz」
シューゼンが全力で落ち込んでる。なんていうか、ドンマイ。
「別にいいじゃねえか、魔物が嫌いなわけじゃないんだろ?」
「それはそなんだけど・・・・あー、仕方ねえか。リティさん、だっけ?」
「リティでいいよ」
「ならリティ、昨日はすまんかったわ」
「え?」
「いやリティだけじゃないけど、クラスみんなに嫌な思いさせちゃったかなーと、ごめんね」
「別に私は気にしてないけど。あと他のみんなもこれから他のみんなもこれからシューゼンのこと分かってくれると思うよ?」
「そか、よかった・・・。クラスでもよろしくね」
「うん」
こいつ根は普通に良さそうだな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シューゼンと話してて本来の目的を忘れるところだった。
武器買いに来たんだよ、武器。
「シューゼンはなんの武器にするんだ?」
「どしよかな、まあ普通に剣あたりかね・・・」
「リティは矢見つかったか?」
「うーん、弓はあるんだけどなぁ・・・」
俺はどうするかな・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・お客さん?」
カウンターの奥の方から店員さんと思われる人がようやく出てきた。
まあ人じゃなくて魔物ですが。
一つ目の魔物、サイクロプスである。
「あ、こんにちは。武器勝手に見ちゃってますけど大丈夫でしたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・平気」
口数少ない人だ。
てかここサイクロプスの店だったんだな。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お求めは?」
「え、あぁ、俺たち新入生なんで新しい武器を買いに来ました」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう」
うう、なんか気まずい!
「あー、そうだ!おすすめとかありますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・全部」
「はい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・自信のない武器なんて、店に置かない」
なるほど、流石サイクロプス。扱う品は一級品ってことか。
「うーん、そうなるとどれを選ぶか迷うな・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
サイクロプスの店員さんがこちらをじっと見ている。
あの大きな目で見られると眼力がやばいんですけど・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そこの、あなた」
「え、あ、はい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これ、使ってみる?」
そう言って手渡されたのは・・・・槍?
持ってみるとなぜかすぐに手に馴染んでくる。
「これは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・新作」
まあ思ってたけどやっぱりあなたの手作りですかそうですか。
まあサイクロプスだもんなー。
そんなことを考えつつ、少し回してみる。
ブォンブォンブォン、シュッ!
おお、なんかうまく使える!槍なんて使って回したことないのに!
・・・・まあ地元では棒状の物回して暇つぶしとかしてたっけなぁ。
こんなとこで役に立つとは。
「すごい!セイン、槍使ったことあるのか!?」
「いや、全然」
「初めてでこれか。たいしたもんやね・・・」
なんか照れくさくなる。槍回しただけでここまで褒められるとは思わないよ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり」
「え?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなたには、それが合ってる」
・・・・・・・・あ、もしかして俺が使う武器見定めてくれた?てか見ただけで分かったのか!?他人が使える武器をか!?
「あ、ありがとうございます!」
「あ、あの!ここに矢って置いてありますか!」
今度はリティが欲しい品を伝える。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あるよ」
「本当ですか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・持ってくる」
「よかったな、リティ」
「うん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これ」
リティに手渡された矢はしっかりした矢筒に入っていた。しかもリティの使ってる弓にぴったりのサイズだ。いかにもエルフが持っていそうだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エルフ用の、矢」
「あー、なるほど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大概、エルフは、これ使ってるから」
「ありがとうございます!!」
お礼を言って目を輝かせるリティ。思わず俺まで嬉しくなってくる。
「あとはオレかぁ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」じぃ〜
「な、なにか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなたには、必要ない」
「え?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だって、もう、持ってるでしょ?」
「っ!」
シューゼンは驚きを隠せないでいた。じゃあなぜここに来たんだ?
「・・・・・今は、ワケあって使えないんスよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう」
「だからそれが使えるようになるまで代用ってことです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
店員さんは少し悩んだような顔をして、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ、これを」
「これですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・レンタル」
「・・・了承です」
ちょっと大きめの剣。片手で持つには大きそうだが、大剣というほど大きさではない普通の剣だ。
「ありがとうございます」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、それじゃぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お会計」
・・・・・・お金のことすっかり忘れてたよ。
サイクロプス製ですもん。高かったです・・・・・・・・・・・・・・・・・
うっすらと差し込む光で目が覚めた。
目に映るのは見慣れぬ天井・・・・
(そうか・・・・昨日から寮生活が始まったんだっけか・・・)
初めて寝たベットにしては気持ちよく寝れたと思う。
体を起こして辺りを見回すと・・・・
「あ、おはようございます。よく寝てましたね〜。」
・・・リントがすでに起きていた。俺より遅く寝てたよな。なんで俺より起きるのが早いんだよ・・・
「おはよう。起きるの早いな。」
「え?でももう8時ですよ?」
時計を見る。確かに8時。
俺昨日何時に寝たっけ・・・
「授業開始は9時だよな・・・1時間あれば準備は余裕かな」
「何言ってるんですか。今日と明日はまだ休みですよ」
「へ?・・・あ、そうか」
あー・・・まだ寝ぼけてんな俺。確かこの二日で学園内把握しといた方がいいんだっけ。あと選択授業とか。
「・・・入学式の次の日が休みってどうなんだろうな」
「どうって、何がですか?」
「いや、何でもねえ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
着替えや洗顔で頭を起こし、今日は何すっかなーとぼんやり考えてる。
「それじゃ朝ごはん行きましょうよ。僕が奢りますから」
「え?いや悪いよそりゃ」
「昨日言ってたじゃないですか。掃除のお礼だって」
・・・別に本当にいいんだけどな。好きにやってただけだし。
「まあ奢るかどうかは別にして、飯には行くか」
「そうですね」
そういって俺たちは飯を食いに外に出た。ルークは・・・どうすっかな・・・
・・・・・・・・そしたら男子寮の目の前でエルフが寝ていた。寝顔可愛いな。
「なんでこんなところでリティさんが寝てるんですかね?」
俺に聞くな。
「しょうがねえなー、おーい、朝だぞー」
俺はリティの肩を優しく揺する。
「ぅみゅぅ・・・・ひゅい!?」
ある程度揺すってたら奇声をあげて起きた。
なにこの子面白いんだけど。
「あ、え、う、お、おはよ・・う・・・」
「おう、おはよう」
「おはようございます」
驚いたような顔して、まずは朝の挨拶。
いや驚いてんのはこっちなんですけど・・・・。
「リティ?お前なんでこんなとこで寝てんだ?」
「あ、うぅ・・・えっと・・・それは、だね、その・・・」
「君を待っていたらしいぞ?」
「っ!??」
後ろから声がしたのでびっくりしたが、そこには石像・・・いや寮監さんであるマキナさんがそこにいた。
いやガーゴイルだから最初からいたのか・・・
「あ、おはようございます。寮監さん」
「うむ、おはよう。気持ちのいい朝だな。まさしく外出日和じゃないか」
「おはようございます・・・で俺を待ってたって?」
「ふふ、それはだな。彼女2時間ほど前に来ててな?理由を聞くと君にどうしても会いたかったそうだ」
「ほー、なんで、ですか?」
「それは本人の口から聞きたまえ」
にやにやしながらこっちを見ないで欲しいな、寮監さん・・・
「あ、あのだね・・・えーと、うん・・・・すぅー、はー」
しどろもどろになりつつもリティが話始める。
そして自分を落ち着けるように深呼吸をしている。
「ふぅ・・・・わ、私と一緒に買い物に来てくれにゃにか!!!」
「ぶふぅ!?ww」
え?噛んだ?今盛大に噛んだ?
俺は内容よりもそっちの方に思わず吹き出してしまった。
「セインさん、笑っちゃダメですよ。気持ちはわかりますけど」
「あぅ・・・」
リティ耳まで真っ赤だよ・・・。いや結構構えて聞いてたら噛むんだもん・・・。
でも流石に罪悪感出てきた。後ろで寮監さん全力で笑いこらえてるし。
「ふぅ・・・・あー、ごめんごめん。で、えーと・・・・・・・え?俺と買い物?」
冷静になって状況を整理するとだ。
俺、女の子に、買い物誘われてる?なんで?昨日あったばかりの女の子に?
「えー、と。なんで俺と?」
どうせ買い物に行くなら女の子同士の方がいいんじゃないのか?
「それは・・・」
「ふぅくくww、ふぅ・・・・おいおい少年。理由を聞くのは野暮ってもんじゃないかい?」
寮監さんが笑いのツボからようやく復帰し、俺にそう言う。
「こういうのは黙って了承するのが男じゃないか」
それもそうだな。何か言えない理由があるのかもしれないし。
「そうですね・・・俺でよければ構わないよ?」
「ぅぅ・・・・ふぇ?」
「昨日は全然見て回れなかったからな。俺も学園内とか外とか見ておかないとな」
「ほ、本当か!?」
「ああ、いいよ」
「じゃ、じゃあ・・・」
グゥ〜
腹の虫が聞こえる。
「あはは、まずは腹ごしらえですね」
「そ、そうだな。リティ、お前も来るか?朝飯まだだろ?」
「あ、ああそうだね。私もご一緒して、いいかな?」
どうやら音の根源は俺とリティの腹からだったらしい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺とリントとリティは学食で朝食を取ることにした。
ちなみにルークは誘ってない。
あいつどうせ昼まで寝てるだろうし、あいつと同部屋の奴とも面識ないしな。
ここの学園は休日でも学食が利用できるからありがたい。
俺はピザトースト、リントはレーズンパン、リティはフルーツサンドイッチを食べている。
チーズと野菜の食感が実にマッチしていて非常にうまい。
このうまさの3枚で230G(単位はガルド)はかなり安いと思う。
「ちなみにリティは何が欲しいんだ?」
「むぐ?」
買い物といっても何が欲しいのか気になったのでリティに聞いてみた。
サンドイッチを加えながらこちらを見る。可愛いな。
「んん・・・・・武器の矢が切れてしまっていたからそれを買いたいんだ。あといい小物が少しあれば買いたいかな」
そういえば武器は弓矢だっけな。でも武器なんてすぐに使わないと思うが・・・
「そうそう、来週の授業で戦闘学科の選択でもう武器がいるみたいですよ?」
「え、マジで?なんで知ってんの?」
「冊子の授業予定は一通り見ましたからね」
俺も後で確認しとこ・・・
「それなら俺も武器買っとかないとなー・・・」
「武器を持っていないのか?」
「ああ、使う機会なんてなかったしな」
俺とルークのいた故郷は比較的穏やかな地域だ。発展してるわけじゃないけど衰退もしてないような町。特に何かあるわけじゃないけど、危険もなくのんびりとしたいい町だと俺は思う。
「武器か・・・何がいいかな・・・・」
「ある程度自分にあった武器を選んでおかないと苦労しますよ?」
「リントは何の武器使ってんだ?」
「僕は投げナイフですよ。使い勝手がいいので」
投げナイフ・・・・なんか印象と全然違うんだけど・・・・
てかリントが武器持ってる姿が想像できないからなんか怖い。
キッチンで包丁とかなら似合いそうなんだがな。
「武器はもう用意してるので買う必要はないですね」
「そっか、ちょっとどんなもんか見てみたいな」
「後で見せますよ。二人はこれから武器を買いに行ってはどうでしょうか?」
あれ?リントは一緒に行かないのか?とか思っていると
「リ、リントは・・・・ついてくる気はないのか?」
リティが代弁してくれた。
「ん〜、二人の邪魔しちゃいけませんし、遠慮しておきますよ」ニコッ
「っ!」
リティまた顔が赤くなったな。大丈夫か?
「それに、昨日で学園内は見て回りましたからね」
「・・・・なんか、すまないな・・・」
「謝れるとそれはそれで困るんですけどね」
リティが謝って、リントは苦笑いを浮かべた。リントは来ないつもりなのか・・・
「俺としてもいい武器を選びたいから、リントの意見も参考にしたいんだけどな・・・」
「自分の武器も選べないようでは、一流の冒険者にはなれませんよ?」
「うぐっ・・・・」
そう言われてしまうと何も言えなくなってしまう。なんか悔しい。
ちなみに俺が冒険者志望なことは昨日の昼飯の時に話しているのでみんな知っている。
「僕は講義棟内とかを探索してますよ。それじゃあ先に行きますね?」
そう言うとリントは会計を済ませ先に学食を後にしてしまった。
しかもちゃっかり俺とリティの分まで会計済ませてるし・・・・
くそ・・・なんかカッコいいな・・・・
「それじゃ、俺たちも行こうか」
「そ、そうだな」
なんとも言えぬ悔しさを抱きつつ、俺たち二人は学食から出て行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
学食を出て、俺たち二人はのんびり学園内を歩いている。
しかし、この学園内は色々あるな・・・
学食以外にも形部狸やゴブリンが経営してる出店がちょこちょこ出てるし、食べ物以外にも生活用品、アクセサリーと品揃えがいい。しかもジムという名の鍛練場はもちろん、まず病院にしか見えない保健室、水棲魔物が泳ぎまくってるプール、いつかイベントが行われるであろうステージ、寮にはシャワーがついているというのになぜか温泉まである。
・・・・混浴ありという字が見えた気がしたが見なかったことにしよう。
これだと少なくとも街に出る必要はそこまでないんじゃないか?せいぜい服か自炊用の食材が欲しいときくらいだろ。
リティはというと色々なものが出ている店を目を輝かせながら見ている。
無邪気にキョロキョロしている姿は見てて実に和む。
「どこか寄ろうか?」
「ふぉ!?・・・い、いや、私たちは武器を買いに行くんだ!寄り道をすることは・・・」
「別にちょっと覗くくらい構わないんじゃない?」
「セ、セインがそう言うなら・・・」
そう言って俺は適当な店に足をのばす。
「あら!いらっしゃい♪」
すると出迎えたのは一人のアラクネ。
この店はかわいい布製の小物やぬいぐるみなんかが売ってるみたいだ。
「ん〜?君たち新入生?」
「あ、はい。そうです」
「そう!入学おめでと!私は『カリーナ・アドネット』、服飾学科の3年生よ。よろしくねお二人さん♪」
「え?学生なんですか?」
「やぁ〜ね〜、そんなに老けて見えちゃう?」
「いや、そういうわけではなくて」
俺が驚いたのは学生が出店を出してることだ。学園内で商売なんてしていいのか?
「あぁ、学生がなんで商売してるのかって顔してるわね。ちゃんと冊子は読んでおかないとダメよ?」
「す、すいません」
俺そんな分かりやすい顔してたか?
「まあちょっと説明してあげるとね?技術分野に進んだ子たちは3年次からは学内商売の許可が貰えるのよ。学園内で邪魔にならないとこで、決まった時間内の間自分で仕入れた品とか作った物を売ることができるの」
「へえ〜・・・」
技術分野は戦闘分野とは違って、作ることに特化した分野だ。料理学科、建築学科、芸術学科、鍛冶学科、服飾学科などなど・・・戦闘分野に負けていないくらいの多さである。
「まあ商業学科の選択授業が必須科目になるんだけどね?売ったものとかは全部自分の利益よ♪ちなみにこの店の品は全部私の手作りなの♪」
「て、手作り!?」
全部自分で作ったのかこれ!いや普通に街に置いてあるレベルだぞ・・・
「アラクネなんだからこれぐらいはできてないとね♪」
アラクネってすげぇ・・・
「それで・・・・お連れの彼女さんは何をお探しかな?」
「ふぅわっ!?」
小物とぬいぐるみをまじまじと眺めていたリティは驚いて声をあげる。
リティって驚いたとき必ず変な声出るんだな・・・。
「えと・・・わ、私はセインがこの店に入ったから、ついて来ただけで・・・」
俺はリティがこの店ガン見してたからここにしたんだけどな。
「ふぅ〜ん・・・・ねえ、それ欲しい?」
カリーナ先輩が指差したのはリティが一番長く見ていた小さめのぬいぐるみだ。鳥のヒナをモデルにしたものだろう。
俺と話してる最中でもそれを見抜くとは、流石は商売人ってとこか。
・・・・・・まああんだけ眺めていれば誰でもわかるか。
「え!?」
「お近づきの印ってことで半額にしてあげるわよ〜。あとこれからもご贔屓にしてね♪」
「え、えと・・・私が持ってても、その・・・」
「エルフが持ってても別に不思議じゃないわよ?女の子はこういうのみんな好きなんだから♪」
そういうものなのか、勉強になるな。
「じゃ、じゃあ買います!」
「毎度有り〜♪」
そういってリティはぬいぐるみを250Gで買った。半額じゃないにしても500Gでこの出来は素人からみても安いだろ絶対・・・。
「あ、そうだ。せっかくだから二人の名前教えてくれない?まだ聞いてなかったわ」
「俺はセインです。セイン・アストラダー」
「私はリティです!リティ・オーレリアっていいます!」
「セイン君にリティちゃんね?これからもよろしくね♪」
「はい、ありがとうございます!」
リティはお礼を言って、俺たちは店を後にした。
今考えると俺がお金出してやればよかったなぁ・・・
リントのようにさらっとやるのは俺には難しいみたいだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
またしばらく学園内を歩く俺たち。カリーナ先輩に武器屋の店の場所教えてもらえばよかったと軽く後悔してると
『武器あります。この先クロード工房』
という看板を見つけたので正直ほっとした。
そんなわけで武器屋に到着。
「ごめんくださーい」
そう言って店に入るが、返事がない。
「?・・・・まあいるよね店員さん」
「大丈夫なのか?」
「いやOPENの看板出てたし大丈夫でしょ」
店の中は結構シンプル。棚に武器が並べられていて、樽にも無数の武器が入ってる。カウンターはあるのだが、そこに店員はいない状態だ。
「ふぅ〜む・・・」
すると棚の方から声が聞こえてきた。どうやら先客がいたらしい。
学園でもかなり珍しい銀髪・・・いや白に近いな。髪型はややツンツンして、襟足の髪を束ねている。目はややつり目で、変わった手袋をつけている。
結構印象的な男だ。
「あ、あいつは・・・・!」
「リティ?どうした、知り合いか?」
「知り合いというより同じクラスの奴だ。ただ、とんでもないことを言ってた奴でね」
「とんでもないこと?」
「うん・・・」
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〜昨日・1−Cホームルーム〜
私のクラスで自己紹介していたときのことだ。
最後の一人の紹介が終わって先生が話を進めようとしてたんだ。
「それじゃあ、説明の方を・・・」
「すみません!!遅れましたァ!!!!」
「!??」
ザワザワザワ・・・ザワザワザワ・・・
「ええと、あなたは・・・?うちのクラスの子?」
「ここ1−Cですよね?」
「ええ、そうよ」
「校長先生のところに行ってたら遅れてしまいました!すみません!」
「校長先生?・・・・・あぁ、この子が例の・・・」
先生は何かつぶやいてたみたいだけどあんまりよく聞こえなかったな。
「分かりました、それじゃ適当なところに座って、自己紹介をお願いできますか?」
「はい、分かりました」
『校長先生のところに行ってた?』『なんで?』
『なにかあったんじゃない?』『ただの遅れた言い訳だろ・・・』
『トイレにでも行ってたんじゃないの〜?』
ザワザワザワ・・・ザワザワザワ・・・
「えー、と。オレはスオウ シュウゼンって言います。趣味は読書と・・・瞑想?とかです。一応ジパング出身です!いろんな奴と仲良くなりたいと思ってます。これからよろしくお願いします!」
「はい、ありがとうございます。それでは・・・」
「あ、あと」
「?」
「魔物の人は『死にたくなかったら』オレに近づかないでください」
『え・・・・・・・?』(クラス全員)
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「え?そんなこと言ったのか?」
「うん。まあそのあとみんな騒ぎ始まっちゃって、静かになるのに時間かかったけど・・・」
「そのあとは?」
「先生が『騒ぐのは後にしてくださーい!』って言ってそれっきり。説明が終わった後あいつの方見たらいつの間にかいなくなってるし」
「なるほどねぇ・・・」
しかし仲良くなりたいって言ってんのに魔物は近づくなって・・・矛盾してるじゃないか。かなり変な奴だな。
「・・・ちょっと話しかけてみるか?」
「え!?やめておいたほうがいいんじゃないかな・・・?」
「ものは試しさ」
「よう、こんにちは」
「うぉっ!?」
話しかけたら驚かれたんだけど・・・。
「あぁ、こんにちは。普通に話しかけられると思わなかったなぁ」
「そうか?挨拶くらい普通だろ」
「そいやそだね。・・・見た感じ、もしかしてオレと同じ新入生で武器買いに来たとか?」
「そういうこと。俺はセインだ。で、こっちの隠れてるのがリティ」
リティさん、いくらなんでも俺の陰に隠れなくても・・・
「そかそか。俺はスオウ シュウゼン。よろしくなー・・・エルフ耳?」
「ああ、リティはエルフだ。魔物化してないがな」
「ちょぉ!」
シューゼンが少し後ずさる。
「お前、魔物化してないエルフなら大丈夫なんじゃないのか?」
「え?なにそれ?」
俺はてっきり魔物が嫌いな奴だと思っていたからだ。そうじゃない奴があんな台詞吐くとは思えない。
「魔物が嫌いなんだろ?」
「え?オレが?別に?」
は・・・・?ますます分からん。
「うーん、じゃあなんで昨日あんなこと言ったんだ?」
「え、もしかして昨日教室にいたのか?」
「俺じゃないが、リティがな」
そう言うとシューゼンは頭を手で押さえて苦笑いをしている。
「アハハ・・・・まあ、ワケアリなんだけど」
「訳あり?」
「・・・・・・」
ちょっと黙り込んでしまった。まずいこと聞いたか?
「・・・・前に魔物に襲われたことがあってなぁ。ここでも襲われたら困るからあんなこと言ったってわけだな」
・・・・・・えーと、つまり魔物が襲ってこないように遠ざけられるようなことを言ったと?
「・・・・ここの学生が急に襲いかかってくることはないと思うが」
「それに、それは逆効果だと思う」
さっきからずっと黙っていたリティも口を開いた。
「え?どゆこと?」
「あーゆーこと言われてうちの部屋の子は『それほど腕の立つ男なのか?面白い・・・!』とか言ってたし、他のみんなもそれぞれ理由は違うけど関わる気マンマンだよ」
「・・・うー・・・ぁー・・・orz」
シューゼンが全力で落ち込んでる。なんていうか、ドンマイ。
「別にいいじゃねえか、魔物が嫌いなわけじゃないんだろ?」
「それはそなんだけど・・・・あー、仕方ねえか。リティさん、だっけ?」
「リティでいいよ」
「ならリティ、昨日はすまんかったわ」
「え?」
「いやリティだけじゃないけど、クラスみんなに嫌な思いさせちゃったかなーと、ごめんね」
「別に私は気にしてないけど。あと他のみんなもこれから他のみんなもこれからシューゼンのこと分かってくれると思うよ?」
「そか、よかった・・・。クラスでもよろしくね」
「うん」
こいつ根は普通に良さそうだな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シューゼンと話してて本来の目的を忘れるところだった。
武器買いに来たんだよ、武器。
「シューゼンはなんの武器にするんだ?」
「どしよかな、まあ普通に剣あたりかね・・・」
「リティは矢見つかったか?」
「うーん、弓はあるんだけどなぁ・・・」
俺はどうするかな・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・お客さん?」
カウンターの奥の方から店員さんと思われる人がようやく出てきた。
まあ人じゃなくて魔物ですが。
一つ目の魔物、サイクロプスである。
「あ、こんにちは。武器勝手に見ちゃってますけど大丈夫でしたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・平気」
口数少ない人だ。
てかここサイクロプスの店だったんだな。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お求めは?」
「え、あぁ、俺たち新入生なんで新しい武器を買いに来ました」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう」
うう、なんか気まずい!
「あー、そうだ!おすすめとかありますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・全部」
「はい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・自信のない武器なんて、店に置かない」
なるほど、流石サイクロプス。扱う品は一級品ってことか。
「うーん、そうなるとどれを選ぶか迷うな・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
サイクロプスの店員さんがこちらをじっと見ている。
あの大きな目で見られると眼力がやばいんですけど・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そこの、あなた」
「え、あ、はい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これ、使ってみる?」
そう言って手渡されたのは・・・・槍?
持ってみるとなぜかすぐに手に馴染んでくる。
「これは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・新作」
まあ思ってたけどやっぱりあなたの手作りですかそうですか。
まあサイクロプスだもんなー。
そんなことを考えつつ、少し回してみる。
ブォンブォンブォン、シュッ!
おお、なんかうまく使える!槍なんて使って回したことないのに!
・・・・まあ地元では棒状の物回して暇つぶしとかしてたっけなぁ。
こんなとこで役に立つとは。
「すごい!セイン、槍使ったことあるのか!?」
「いや、全然」
「初めてでこれか。たいしたもんやね・・・」
なんか照れくさくなる。槍回しただけでここまで褒められるとは思わないよ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり」
「え?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなたには、それが合ってる」
・・・・・・・・あ、もしかして俺が使う武器見定めてくれた?てか見ただけで分かったのか!?他人が使える武器をか!?
「あ、ありがとうございます!」
「あ、あの!ここに矢って置いてありますか!」
今度はリティが欲しい品を伝える。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あるよ」
「本当ですか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・持ってくる」
「よかったな、リティ」
「うん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これ」
リティに手渡された矢はしっかりした矢筒に入っていた。しかもリティの使ってる弓にぴったりのサイズだ。いかにもエルフが持っていそうだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エルフ用の、矢」
「あー、なるほど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大概、エルフは、これ使ってるから」
「ありがとうございます!!」
お礼を言って目を輝かせるリティ。思わず俺まで嬉しくなってくる。
「あとはオレかぁ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」じぃ〜
「な、なにか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなたには、必要ない」
「え?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だって、もう、持ってるでしょ?」
「っ!」
シューゼンは驚きを隠せないでいた。じゃあなぜここに来たんだ?
「・・・・・今は、ワケあって使えないんスよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう」
「だからそれが使えるようになるまで代用ってことです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
店員さんは少し悩んだような顔をして、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ、これを」
「これですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・レンタル」
「・・・了承です」
ちょっと大きめの剣。片手で持つには大きそうだが、大剣というほど大きさではない普通の剣だ。
「ありがとうございます」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、それじゃぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お会計」
・・・・・・お金のことすっかり忘れてたよ。
サイクロプス製ですもん。高かったです・・・・・・・・・・・・・・・・・
12/09/10 02:29更新 / 群青さん
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