新入生入学初日
俺の名前は『セイン・アストラダー』。今日この学園に入学した奴らの一人だ。校長の話、先生の紹介、施設の利用、学校の規則についてなど色々と説明を受け、それがようやく今終わって大講堂から出てきたところである。
「ふぃー、結構長かったなぁ…」
不意に俺の横から先ほどの式の感想が聞こえてきた。
「入学式なんだから長いのは当然だろーよ」
「しかもこのあとまた説明あんじゃねぇかー、疲れるわぁ…」
「我慢しろよ」
こいつは『ルーク・ミドルハイカー』、俺の同郷から一緒に出てきた、まあ所謂幼馴染だ。ちなみに男。俺はこの学園に冒険者志望で来たわけだが、どういうわけかこいつもついてきた。理由は「俺の頭でも入れるし、何より女の子が多い!」からである。なんというか…。
「ほらさっさと教室行くぞ」
「へーい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
校舎の廊下に張り出されているクラス分けの紙を確認する。
「さて、俺のクラスは、と…1−Bか」
「おぉ!俺も1−Bだわ」
「へー、あ、そう」
「冷たくねぇ!?俺への反応冷たくね!?」
「いやまあ、だってねぇ」
小さい頃からずっと同じ学校で同じクラスだったからなぁ、ここではどうかと思ったが…変わらなかったな。まさしく腐れ縁だ。
「そろそろルークも一人立ちすると思ってたのに、全く」
「クラス分けランダムだよな!?俺のせいじゃなくねぇか!」
「さて、行くか」
「無視しないで!お願いスルーしないで!初日から騒がしいやつだと思われてハブられたくねえ!」
ツッコミが無駄に激しくなってきたのでスルーして教室に入ることにしよう。
無駄にやかましいのはいつものことだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
教室に着いたのでドアを開ける。
ガラガラッ
ザワザワザワ… ザワザワザワ…
もう多くの学生が教室に入ってるようで、席についてたりおしゃべりをしていたりと様々だ。
「うぉ〜、やっぱ可愛い女の子いっぱいだなぁ〜(´▽`)」
「そりゃこの学園人魔共学だからな」
この学園は人間だけでなく魔物も多く通っている。どちらかといえば魔物の方が多いくらいだ。魔物で外見が可愛くない奴なんて見たことがない。
しかし、バカでかい斧を背負った女子や下半身が蛇だったり手足が鱗だったりといった奴がうようよいる光景にはいささかビビる。
地元じゃそこまで魔物いなかったからなぁ。
「ん?なんか書いてあるな」
『10時40分から授業の説明について開始する。今回は席は自由とする。』
黒板には均等に書かれた綺麗な字でこう書かれていた。
「自由席か…どうする?」
「う〜ん、後ろで寝てたいしなぁ…」
「先生美人かも「よし前に座ろうぜ」よ」
やっぱり即答かよ。
「寝てたいんじゃなかったのか?」
「バカ野郎、美人で綺麗な先生を至近距離で見たくないのかっ?」
綺麗な先生だなんて決まってないんだがな…しかも女性かどうかわからんし。
そんなことを思いつつ、教卓近くの前の席の方へ鞄を置く。
まあ最初だし授業の話は大事だからな。前に座りたくてこいつを誘導したわけだが。俺でも一人で前の方に座るのはなぜか抵抗がある。
「どんなセンセーかな〜ぁ♪楽しみだな〜♪」
「顔キモいぞ、やめろ」
「うっせぇ!」
「あはは…仲いいんですね」
そんなことを言いあってると隣に座ってる奴が話しかけてきた。
どうやら先に座っていて、気づかず隣に座ってたらしい。
金髪ショートヘアーで目元がデフォルトでニコニコしてる細目の男だった。
身長はやや小さい感じで、いかにも「優しそうな奴」的オーラが出ている。
「あぁ、悪いなうるさくて」
「いえ、別に構いませんよ。僕は『リント・ヒーリンス』っていいます。これからよろしくお願いしますね」
「おう、よろしくな。俺はセイン・アストラダーだ。セインで構わん。
…ああ、あとこいつはルーク。友達といっていいかどうか怪しい奴だ。」
「ひでぇ!?親友だろ俺たち!」
「ハテ?どちら様かな?」
「お前から紹介したよな俺を!?」
「ははは…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「静かにしろ、時間だぞ」
そんな会話をしているとドアが開き、先生と思われる人物が入ってきた。
「喋ってる奴もさっさと席についてくれ。君たちも早く説明を終わらせたいだろう?」
長い黒髪にとんがった犬耳、手はもふもふの毛に覆われた獣の手。
スーツこそ着ているが紛れもない魔物、アヌビスである。
「それに予定が合わなくなるしな」
それにこの時間の細かさは絶対アヌビスだろう。
「そこの前の男、にやにやしながらこっちを見るな」
やべっ、俺そんな顔して見てたか!? と思っていたら
「す、すみません!」
と、ルークが謝っていた。あぁ、美人だもんな。よかったな、予想通りで。
…てかお前完璧ににやけて先生見てんなよ。
俺としてはやれやれといった感じだ。
「さて、自己紹介といこうか。私は『レシア・リーベル』、見ての通り魔物で、種族はアヌビスだ。1−Bの担任を務めることになった。戦闘分野に進むつもりなら授業でも会うことになるだろうな。」
戦闘分野の先生か… きっとダンジョンとか使った授業なんだろうな。アヌビスだし。
「じゃあまず一人ずつ自己紹介をしてもらう。そこのニヤケ顔から順に後ろへやっていってくれ。」
『えーー!?』『何言えばいいかな…』『メンドくさいわぁ』ザワザワ…
「手短で構わん。名前と志望動機、それと意気込みとかな。」
手短ですかね、それ。
「じゃあ早く言え、ニヤケ顔」
ルーク、お前まだにやけてたのか…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一通り自己紹介が終わり、次に授業のことや衣食住についての説明が始まった。
「まず封筒を配る。後ろに回していってくれ」
と言われ、かなり分厚い封筒が手渡された。多いな。
「行き渡ったか?では緑の冊子の6ページを開いてくれ。
みんなは早速専門的なことが学べると思っているか?それはちょっと間違いだ。新入生は最初の3ヶ月はこのクラスで授業を進めていく。単純な学業をやるわけではないから安心しろ。
知っての通りこの学園は戦闘分野、技術分野、実業分野などといった多くの枠があり、さらにそこからさまざまな学科に分かれている。最終的には一つの学科を選んで学んでいくことになるが、まだ今の段階で決めかねている者もいるだろう。
そこでこの3ヶ月で様々な学科の内容を実際に学んでいってもらい、そこから受ける講義、学科を絞っていくわけだ。要は体験授業だ。午前中の2限は必ずこのクラスで授業をし、午後の2限は自分で講義を選択して受けてくれ。
本格的な専門授業は3ヶ月後から始まるが、すでに学科を決めている者は「3ヶ月は長すぎでは」と思う人もいるかと思う。だがこれは『多くのことを学んで欲しい』という教育理念によるものだと理解してくれ。
そういった者は決めている学科に関する午後の授業で講義を受けていくといい。選択で関係のある学科については冊子の123ページから189ページまでに書いてある。よく確認しておくように。
大体の説明は以上だ。何か質問のある者はいるか?」
…一気に説明されたな。まとめるとこのクラスで午前中2限受けて、午後の選択授業は好きにとってくれ、ってことか。専門的な授業は3ヶ月後と。
「ああそうだ、選択授業の方だが受けた授業を途中で変えることはやめてほしい。一度受けた講義は3ヶ月一通り受けてくれ。途中で受ける分には構わないが、ちゃんと内容についていけるようにすること。
あと全く受けないこともやめてくれ。午前中だけの講義を3ヶ月受けているだけだと、3ヶ月後に泣きを見るぞ」
なるほど、適当に選択を受けてやめるのはダメというわけだ。さらに全く受けてないと専門的な3ヶ月後の講義についていけないと。
「質問が無いようなので先に進めるぞ。赤い冊子の13ページを開いてくれ。
次に衣食住についてだが、君たちは寮生活をすることは知っていると思う。
生活もほぼ学園中心でのものになるかと思うが、さすがに外に出れないわけじゃない。外出許可を学園からもらえばいつでも外に出ることができる。外出する理由を学園側に提示すれば許可は降りる。面倒に聞こえるかもしれんが、そこまで厳正なものじゃないから多少の我慢はしてほしい。許可もすぐもらえるしな。外に息抜きに行く感覚で出ていけるから。あ、あと学生が物を売ってたり、学園内でも最低限の買い物はできるぞ。外にも色々売ってはいるがな。
外へ出ていくには転移魔法陣を通ることになる。この魔法陣は寮や食堂などに行くときにも使えるから覚えていくように。魔法陣に入る際は行き先を伝えてから入ってくれ。あと寮は男子寮と女子寮に分かれているからそれもきちんと述べるようにすること。
それと、他には…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…以上で本日の説明は終了だ。ここからは自由行動とする。明日から二日間は休日だから、そのうちに今日の資料をよく読み、授業開始に備えること。この二日間で学園の構造を知っておくといいかもしれんな。
それでは解散だ。来週の授業、遅れないようにな」
…な、長かった。このアヌビス1時間半くらいずっとしゃべりっぱなしだったぞ… 喉渇いてないのか…?
ルークに至ってはもうなんか口から出てるし。魂的なのが。ルーク、寝ようと体を倒した度に本で頭ぶっ叩かれてたからなぁ…。十回くらい叩かれたんじゃないか?しかも先生も息するように叩くし。すげえな。
リントは「長かったね〜」とか言ってて余裕そうだ。こいつ絶対頭いいな。
「こ、このあと…どうする…?二人とも…」
ルークが息を吹き返したようだ。
「と、とりあえず飯だな。腹が減った」
「そうですね、学食でお昼を食べてから考えましょう」
そんなわけで俺たち三人は学食に向かうことにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うひゃぁ〜、でっっっけーーなぁ〜〜〜」
食堂に着いてまず一言発したのはルーク。
広い。 縦にも、横にも、とにかく広い。
普通の学校の学食のようになっているやつの数十倍くらい広い。
さらには奥の方には露店まで出てる。2階へ登る階段もあるからまだまだ広いだろう。
「まあ学生のほとんどが利用するからじゃないですか?人も多いですし」
「だからといってここまで広い食堂も初めて見たわ」
地元の学校じゃ考えられないな。まあ一番驚いたのは…
「俺は転移魔法陣ってのに驚いたがな。一瞬で目の前に食堂とか」
「シュパッてなってシュシュシュシューンですもんね」
「なんだその表現」
リントは天然も入ってるかもしれない。
「さて、何を食おうか」
でかでかと書かれたメニューを見上げていると
「……あれ?お前、セインか…?」
ふと自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くとその先には、新緑色の長い髪で耳のとんがった女性がこちらを見ていた。
「お前、あ!いや…君、セインだよ…ね?」
「あ、ああ、そうだけど…」
「やっぱり!こんなところで会えると思わなかった〜!」
「???」
俺の頭の上に疑問符が浮かぶ。え?マジで誰だ?こんな可愛い緑が似合う女の子、俺知らないぞ??
「…おいセイン、知り合いか?」「え?ルークさんも知らないんですか?」
ルークがこちらを睨んでる。おそらく自分が知らない可愛いこと俺が知り合いであることが気に食わないんだろう。
「ちくしょぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!セインにこんな可愛い女の子の知り合いがいるなんてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!抜けがけかコノヤロウ!!」
予想通りだ。あと
「うるせえぇ!公共の場で叫ぶなお前は!」
「こいつらは、君の友達か?…なんというか個性的、だな」
ちょっとルークに吃驚してる。可愛い。
…いやいやいやいやそんなことじゃなくて!
「あの〜、俺、君といつ会ったっけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
いや、あの、そんな泣きそうな顔しないで、何が何だか分かんなくて俺まで泣き出しそうだから。
「え?今なんて」
「だから、あの、うん。非常に言いにくいんだけど…ど、どこで会ったっけな〜って…。」
そう言うと、その子は後ろを振り向いてしまった。
「そう……だよね、覚えて、ない、よね。む、昔の頃…だもんね」ボソボソッ
「おぃぃぃぃ!こんな可愛い子に名前呼ばれて知らないってどういうことだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あの人、困ってますよ?」
そんなこと言われても覚えてないものは覚えてない。
頭をフル回転させて記憶を引っ張り出しているが…だめだ、思い出せねえ。
「いや、いいんだ。だいぶ昔のことだからね。覚えてないのも無理ないよ…」
かなり落ち込み気味で、新緑色の子はそう答えた。
「それじゃあ改めまして自己紹介だ!私は『リティ・オーレリア』、よろしくね!」
「ああ、よ、よろしくな。 ごめんな覚えてなくて…」
「全くだぜ!こんな可愛い子忘れるなんて! あ、俺ルークって言うんだよろしくな!なんだったら俺と」
「僕はリントといいます。よろしくお願いしますね」
リントがルークが喋ってる途中で入ってきた。
「リント〜、俺まだ喋ってたよなぁ・・・!」
「え!?あ、すいません・・・」
リント・・・・やっぱり天然だわ。
ルークはちょっとがっくりうなだれてる。
「ああ、よろしくね」
「あの〜、私も会話に混ざっていいだろうか・・・」
声のした方を見る男三人。そこには水色の長い髪を束ねた女性が一人。
「あ、ごめんね!別にほったらかしにしてたわけじゃないよ!」
リティが必死に弁明している。
「この人は『レーヴァ・フリード』、私と同じ部屋の子なんだ」
「同じ部屋?」
「そう、寮の部屋。クラスも1−Cで一緒なの」
あれ?寮って二人部屋だっけ?
「おいセイン、封筒の中に鍵入ってたぞ。お前何番?俺128番」
「え?あ、ホントだ。俺は246番だ」
「あ、僕と一緒ですよセインさん」
「おぉ、マジか」
「え〜、俺ハブられてんじゃんよ〜」
「くじ運くじ運、仕方ねえよ」
「そうですね〜」
「あの・・・私、会話・・・ハブられてるの・・・私・・・」
「「「あ、ごめん」」」
「(;ω;)」
そういえば自己紹介もリティがしちゃってたし、結局会話に入ってないな・・・
ホントにごめんなさい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
というわけでリティとレーヴァも加え、5人で昼食をとりましたとさ。
その会話でリティはエルフ、レーヴァはデュラハンだということが分かってビックリ。さらに二人とも戦闘分野の学科志望だそうで、さらにビックリした。
でもまあデュラハンは当然だよな。しかし制服だと魔物だってわっかんねえな・・・と言ってたら、「私まだ魔物じゃないもん!」とリティが反論してた。
エルフについてそこまで詳しく知らないからな・・・あとで調べてみようかな。
「ふは〜食った食った、うまかったなー」
「だらしない声出すなよルーク、みっともない」
「ひどぅい!(;´Д`)」
「でも美味しかったのは本当ですよね。ルークさんはみっともないですけど」
「リントまで!?Σ(゚д゚lll)」
「「「「「あはははははっ!」」」」」
気づけば五人とも仲良くなってたな。よかったよかった。
入学初日でこれは順調な滑り出しと言えるだろう。実際いろんなやつと仲良くなりたいと思ってたし。
・・・でもリティは俺といつどこで会ったのかは話してくれなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それじゃこれからどうしようか?」
お昼も食べて、色々話して、そこそこいい時間だ。探索するもよし、このまま寮に帰るもよし。荷物の整理もあるだろうしな。俺はある。
だから俺はみんなにどうするかを聞いた。
「う〜ん、適当にぶらついてから帰るかな俺は・・・はっ!ナンパとかできるんじゃね!?」
「僕も買いたいものがあって・・・この学園内で探せるかちょっと歩き回ってみます。」
「私は鍛練場を探すぞ!」
「私もちょっとお店の探索したいかな、矢って買えるのかなぁ・・・(そ、そうだ、セインも一緒に行こうって誘おうかなぁ・・・そしたら・・・)」
うーん、見事に目的がバラバラ。ルークについてはノーコメント。デュラハンに至っては流石である。
「じゃあ俺は先に寮に戻っていいか?」
「なんだ、もう帰んのか?」
「荷物の整理もあるし、探索は明日でもできそうだしな」
俺はあのアヌビス先生の話で結構疲れがきてた・・・早く休みたいのと、さっさと身の回り周辺を片付けたいというのもある。
それに二日間の休みもあるのだ。探索はその時でもいいだろう。
「そっか、じゃあ俺はナンパしにいくぜー!」
「僕もしばらく散策してから寮に向かいますね」
「うむ、じゃあここで解散だな」
「ふぁ!?・・・あ、ああそうだね(セイン、帰っちゃうのか・・・)」
「(ふぁ?)まあ来週また会えるだろうよ」
授業でもしかしたら会うかもしれないし、教室もそこまで遠いわけじゃない。まあ会うことは難しくないだろう。
「それじゃ、みんなまたな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・毎回のことだが、一瞬で着くとビビるな」
俺は転移魔法陣の場所に行き、寮へと帰ってきてた。
「やあ、おかえり新入生」
「うぇ?」
あれ?今どこから声が聞こえてきたんだ?変な声出たじゃんか。
「どこを見てるんだ?私はここだ、ここ」
「え?」
声がした方を見ると、一体の石像がある。
「ようこそ男子寮へ。私は寮監の『マキナ・ルディオット』だ。よろしくな」
「うおぉ!」
思わず驚いてしまった。石像がしゃべりだしたからだ。
「そこまで驚くことないだろう。私はガーゴイル。そういう魔物だからね」
ガーゴイル・・・確か、石像に魂が宿った魔物だっけか。
あれ?でも確か・・・
「でもガーゴイルならこの時間はまだ動けないですよね?」
ガーゴイルが動くことができるのは夜だけのはずだ。今はまだ3時くらいだから、夜にはほど遠い。
「いい質問だね。普通のガーゴイルなら動けないが、私の体には術式が施されていてね。日が昇っている間でも話をしたりとかはできるんだ。そうしないと寮監としての仕事、まあ他の生徒が来たときや不審者が入ったときの対応ができないだろう?」
「でも動けないですよね?不審者とか来ても」
「魔力で学園内の教師に連絡が伝えられるようになってるから私が動けなくても問題ないよ。まあ、昼に堂々と侵入してくる輩なんてそうそういないがね」
なるほど、納得。これなら寮の安全に関しては心配ないだろう。
「まあ女学生の侵入はたまに許しちゃうけどね」
「えぇー・・・・」
訂正。部屋にはきちんと鍵かけないとな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺は階段を登り、自室へたどり着いた。ちなみに246号室は2階だ。てか部屋多いな。
俺は部屋に戻ってすぐに家から送ってきた荷物の整理をしていた。
結構私物が多いからな・・・後回しにすると面倒だ。
あ、言っておくが同じ部屋のやつに見せられないものとかそんないかがわしいものは持ってきてないぞ。断じてだ。まあリント別に気にしなさそうだが。
ちなみに意外にもルークもそういったものは持っていなかったりする。あいつは変なところは真面目なんだよな。
「ただいまー」
片付けをしているとリントが帰ってきたようだ。
「おう、おかえり」
「こんな時間まで片付けしてたんだね」
もう8時を回っていた。集中してると時間経つの早いもんだね。
「ん?まあ掃除もやってたしな」
「あー、それはちょっと申し訳ないなぁ」
「なんでだ?」
「いや、僕の部屋でもあるわけだから、掃除させちゃって申し訳ないな、と」
そういえば俺の部屋であると同時にリントの部屋でもあるわけだもんな。
確かに申し訳なくなるか。
「気にすんなよ。俺掃除好きだし」
「じゃあ明日の朝ごはん奢らせてね。ささやかなお礼ってことで」
リントは本当にいい奴だな。
ちなみに晩飯は持ってきてた食べ物食べましたよ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
片付けも終わり一息入れてると流石に襲ってきましたよ。ええ、睡魔が。
「ふぁ〜・・・俺そろそろ寝るわー」
「僕は少し今日の冊子読んでからにするね」
「おう、おやすみ」
そう言って俺はベットの上に寝転がった。
・・・昔に会ったエルフか・・・いつ会ったっけな・・・・・・
思い出せそうで思い出せない昔会ったであろうリティのことを考えつつも、俺はいつの間にか睡魔に負けて、眠りについていた・・・
「ふぃー、結構長かったなぁ…」
不意に俺の横から先ほどの式の感想が聞こえてきた。
「入学式なんだから長いのは当然だろーよ」
「しかもこのあとまた説明あんじゃねぇかー、疲れるわぁ…」
「我慢しろよ」
こいつは『ルーク・ミドルハイカー』、俺の同郷から一緒に出てきた、まあ所謂幼馴染だ。ちなみに男。俺はこの学園に冒険者志望で来たわけだが、どういうわけかこいつもついてきた。理由は「俺の頭でも入れるし、何より女の子が多い!」からである。なんというか…。
「ほらさっさと教室行くぞ」
「へーい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
校舎の廊下に張り出されているクラス分けの紙を確認する。
「さて、俺のクラスは、と…1−Bか」
「おぉ!俺も1−Bだわ」
「へー、あ、そう」
「冷たくねぇ!?俺への反応冷たくね!?」
「いやまあ、だってねぇ」
小さい頃からずっと同じ学校で同じクラスだったからなぁ、ここではどうかと思ったが…変わらなかったな。まさしく腐れ縁だ。
「そろそろルークも一人立ちすると思ってたのに、全く」
「クラス分けランダムだよな!?俺のせいじゃなくねぇか!」
「さて、行くか」
「無視しないで!お願いスルーしないで!初日から騒がしいやつだと思われてハブられたくねえ!」
ツッコミが無駄に激しくなってきたのでスルーして教室に入ることにしよう。
無駄にやかましいのはいつものことだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
教室に着いたのでドアを開ける。
ガラガラッ
ザワザワザワ… ザワザワザワ…
もう多くの学生が教室に入ってるようで、席についてたりおしゃべりをしていたりと様々だ。
「うぉ〜、やっぱ可愛い女の子いっぱいだなぁ〜(´▽`)」
「そりゃこの学園人魔共学だからな」
この学園は人間だけでなく魔物も多く通っている。どちらかといえば魔物の方が多いくらいだ。魔物で外見が可愛くない奴なんて見たことがない。
しかし、バカでかい斧を背負った女子や下半身が蛇だったり手足が鱗だったりといった奴がうようよいる光景にはいささかビビる。
地元じゃそこまで魔物いなかったからなぁ。
「ん?なんか書いてあるな」
『10時40分から授業の説明について開始する。今回は席は自由とする。』
黒板には均等に書かれた綺麗な字でこう書かれていた。
「自由席か…どうする?」
「う〜ん、後ろで寝てたいしなぁ…」
「先生美人かも「よし前に座ろうぜ」よ」
やっぱり即答かよ。
「寝てたいんじゃなかったのか?」
「バカ野郎、美人で綺麗な先生を至近距離で見たくないのかっ?」
綺麗な先生だなんて決まってないんだがな…しかも女性かどうかわからんし。
そんなことを思いつつ、教卓近くの前の席の方へ鞄を置く。
まあ最初だし授業の話は大事だからな。前に座りたくてこいつを誘導したわけだが。俺でも一人で前の方に座るのはなぜか抵抗がある。
「どんなセンセーかな〜ぁ♪楽しみだな〜♪」
「顔キモいぞ、やめろ」
「うっせぇ!」
「あはは…仲いいんですね」
そんなことを言いあってると隣に座ってる奴が話しかけてきた。
どうやら先に座っていて、気づかず隣に座ってたらしい。
金髪ショートヘアーで目元がデフォルトでニコニコしてる細目の男だった。
身長はやや小さい感じで、いかにも「優しそうな奴」的オーラが出ている。
「あぁ、悪いなうるさくて」
「いえ、別に構いませんよ。僕は『リント・ヒーリンス』っていいます。これからよろしくお願いしますね」
「おう、よろしくな。俺はセイン・アストラダーだ。セインで構わん。
…ああ、あとこいつはルーク。友達といっていいかどうか怪しい奴だ。」
「ひでぇ!?親友だろ俺たち!」
「ハテ?どちら様かな?」
「お前から紹介したよな俺を!?」
「ははは…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「静かにしろ、時間だぞ」
そんな会話をしているとドアが開き、先生と思われる人物が入ってきた。
「喋ってる奴もさっさと席についてくれ。君たちも早く説明を終わらせたいだろう?」
長い黒髪にとんがった犬耳、手はもふもふの毛に覆われた獣の手。
スーツこそ着ているが紛れもない魔物、アヌビスである。
「それに予定が合わなくなるしな」
それにこの時間の細かさは絶対アヌビスだろう。
「そこの前の男、にやにやしながらこっちを見るな」
やべっ、俺そんな顔して見てたか!? と思っていたら
「す、すみません!」
と、ルークが謝っていた。あぁ、美人だもんな。よかったな、予想通りで。
…てかお前完璧ににやけて先生見てんなよ。
俺としてはやれやれといった感じだ。
「さて、自己紹介といこうか。私は『レシア・リーベル』、見ての通り魔物で、種族はアヌビスだ。1−Bの担任を務めることになった。戦闘分野に進むつもりなら授業でも会うことになるだろうな。」
戦闘分野の先生か… きっとダンジョンとか使った授業なんだろうな。アヌビスだし。
「じゃあまず一人ずつ自己紹介をしてもらう。そこのニヤケ顔から順に後ろへやっていってくれ。」
『えーー!?』『何言えばいいかな…』『メンドくさいわぁ』ザワザワ…
「手短で構わん。名前と志望動機、それと意気込みとかな。」
手短ですかね、それ。
「じゃあ早く言え、ニヤケ顔」
ルーク、お前まだにやけてたのか…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一通り自己紹介が終わり、次に授業のことや衣食住についての説明が始まった。
「まず封筒を配る。後ろに回していってくれ」
と言われ、かなり分厚い封筒が手渡された。多いな。
「行き渡ったか?では緑の冊子の6ページを開いてくれ。
みんなは早速専門的なことが学べると思っているか?それはちょっと間違いだ。新入生は最初の3ヶ月はこのクラスで授業を進めていく。単純な学業をやるわけではないから安心しろ。
知っての通りこの学園は戦闘分野、技術分野、実業分野などといった多くの枠があり、さらにそこからさまざまな学科に分かれている。最終的には一つの学科を選んで学んでいくことになるが、まだ今の段階で決めかねている者もいるだろう。
そこでこの3ヶ月で様々な学科の内容を実際に学んでいってもらい、そこから受ける講義、学科を絞っていくわけだ。要は体験授業だ。午前中の2限は必ずこのクラスで授業をし、午後の2限は自分で講義を選択して受けてくれ。
本格的な専門授業は3ヶ月後から始まるが、すでに学科を決めている者は「3ヶ月は長すぎでは」と思う人もいるかと思う。だがこれは『多くのことを学んで欲しい』という教育理念によるものだと理解してくれ。
そういった者は決めている学科に関する午後の授業で講義を受けていくといい。選択で関係のある学科については冊子の123ページから189ページまでに書いてある。よく確認しておくように。
大体の説明は以上だ。何か質問のある者はいるか?」
…一気に説明されたな。まとめるとこのクラスで午前中2限受けて、午後の選択授業は好きにとってくれ、ってことか。専門的な授業は3ヶ月後と。
「ああそうだ、選択授業の方だが受けた授業を途中で変えることはやめてほしい。一度受けた講義は3ヶ月一通り受けてくれ。途中で受ける分には構わないが、ちゃんと内容についていけるようにすること。
あと全く受けないこともやめてくれ。午前中だけの講義を3ヶ月受けているだけだと、3ヶ月後に泣きを見るぞ」
なるほど、適当に選択を受けてやめるのはダメというわけだ。さらに全く受けてないと専門的な3ヶ月後の講義についていけないと。
「質問が無いようなので先に進めるぞ。赤い冊子の13ページを開いてくれ。
次に衣食住についてだが、君たちは寮生活をすることは知っていると思う。
生活もほぼ学園中心でのものになるかと思うが、さすがに外に出れないわけじゃない。外出許可を学園からもらえばいつでも外に出ることができる。外出する理由を学園側に提示すれば許可は降りる。面倒に聞こえるかもしれんが、そこまで厳正なものじゃないから多少の我慢はしてほしい。許可もすぐもらえるしな。外に息抜きに行く感覚で出ていけるから。あ、あと学生が物を売ってたり、学園内でも最低限の買い物はできるぞ。外にも色々売ってはいるがな。
外へ出ていくには転移魔法陣を通ることになる。この魔法陣は寮や食堂などに行くときにも使えるから覚えていくように。魔法陣に入る際は行き先を伝えてから入ってくれ。あと寮は男子寮と女子寮に分かれているからそれもきちんと述べるようにすること。
それと、他には…」
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「…以上で本日の説明は終了だ。ここからは自由行動とする。明日から二日間は休日だから、そのうちに今日の資料をよく読み、授業開始に備えること。この二日間で学園の構造を知っておくといいかもしれんな。
それでは解散だ。来週の授業、遅れないようにな」
…な、長かった。このアヌビス1時間半くらいずっとしゃべりっぱなしだったぞ… 喉渇いてないのか…?
ルークに至ってはもうなんか口から出てるし。魂的なのが。ルーク、寝ようと体を倒した度に本で頭ぶっ叩かれてたからなぁ…。十回くらい叩かれたんじゃないか?しかも先生も息するように叩くし。すげえな。
リントは「長かったね〜」とか言ってて余裕そうだ。こいつ絶対頭いいな。
「こ、このあと…どうする…?二人とも…」
ルークが息を吹き返したようだ。
「と、とりあえず飯だな。腹が減った」
「そうですね、学食でお昼を食べてから考えましょう」
そんなわけで俺たち三人は学食に向かうことにした。
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「うひゃぁ〜、でっっっけーーなぁ〜〜〜」
食堂に着いてまず一言発したのはルーク。
広い。 縦にも、横にも、とにかく広い。
普通の学校の学食のようになっているやつの数十倍くらい広い。
さらには奥の方には露店まで出てる。2階へ登る階段もあるからまだまだ広いだろう。
「まあ学生のほとんどが利用するからじゃないですか?人も多いですし」
「だからといってここまで広い食堂も初めて見たわ」
地元の学校じゃ考えられないな。まあ一番驚いたのは…
「俺は転移魔法陣ってのに驚いたがな。一瞬で目の前に食堂とか」
「シュパッてなってシュシュシュシューンですもんね」
「なんだその表現」
リントは天然も入ってるかもしれない。
「さて、何を食おうか」
でかでかと書かれたメニューを見上げていると
「……あれ?お前、セインか…?」
ふと自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くとその先には、新緑色の長い髪で耳のとんがった女性がこちらを見ていた。
「お前、あ!いや…君、セインだよ…ね?」
「あ、ああ、そうだけど…」
「やっぱり!こんなところで会えると思わなかった〜!」
「???」
俺の頭の上に疑問符が浮かぶ。え?マジで誰だ?こんな可愛い緑が似合う女の子、俺知らないぞ??
「…おいセイン、知り合いか?」「え?ルークさんも知らないんですか?」
ルークがこちらを睨んでる。おそらく自分が知らない可愛いこと俺が知り合いであることが気に食わないんだろう。
「ちくしょぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!セインにこんな可愛い女の子の知り合いがいるなんてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!抜けがけかコノヤロウ!!」
予想通りだ。あと
「うるせえぇ!公共の場で叫ぶなお前は!」
「こいつらは、君の友達か?…なんというか個性的、だな」
ちょっとルークに吃驚してる。可愛い。
…いやいやいやいやそんなことじゃなくて!
「あの〜、俺、君といつ会ったっけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
いや、あの、そんな泣きそうな顔しないで、何が何だか分かんなくて俺まで泣き出しそうだから。
「え?今なんて」
「だから、あの、うん。非常に言いにくいんだけど…ど、どこで会ったっけな〜って…。」
そう言うと、その子は後ろを振り向いてしまった。
「そう……だよね、覚えて、ない、よね。む、昔の頃…だもんね」ボソボソッ
「おぃぃぃぃ!こんな可愛い子に名前呼ばれて知らないってどういうことだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あの人、困ってますよ?」
そんなこと言われても覚えてないものは覚えてない。
頭をフル回転させて記憶を引っ張り出しているが…だめだ、思い出せねえ。
「いや、いいんだ。だいぶ昔のことだからね。覚えてないのも無理ないよ…」
かなり落ち込み気味で、新緑色の子はそう答えた。
「それじゃあ改めまして自己紹介だ!私は『リティ・オーレリア』、よろしくね!」
「ああ、よ、よろしくな。 ごめんな覚えてなくて…」
「全くだぜ!こんな可愛い子忘れるなんて! あ、俺ルークって言うんだよろしくな!なんだったら俺と」
「僕はリントといいます。よろしくお願いしますね」
リントがルークが喋ってる途中で入ってきた。
「リント〜、俺まだ喋ってたよなぁ・・・!」
「え!?あ、すいません・・・」
リント・・・・やっぱり天然だわ。
ルークはちょっとがっくりうなだれてる。
「ああ、よろしくね」
「あの〜、私も会話に混ざっていいだろうか・・・」
声のした方を見る男三人。そこには水色の長い髪を束ねた女性が一人。
「あ、ごめんね!別にほったらかしにしてたわけじゃないよ!」
リティが必死に弁明している。
「この人は『レーヴァ・フリード』、私と同じ部屋の子なんだ」
「同じ部屋?」
「そう、寮の部屋。クラスも1−Cで一緒なの」
あれ?寮って二人部屋だっけ?
「おいセイン、封筒の中に鍵入ってたぞ。お前何番?俺128番」
「え?あ、ホントだ。俺は246番だ」
「あ、僕と一緒ですよセインさん」
「おぉ、マジか」
「え〜、俺ハブられてんじゃんよ〜」
「くじ運くじ運、仕方ねえよ」
「そうですね〜」
「あの・・・私、会話・・・ハブられてるの・・・私・・・」
「「「あ、ごめん」」」
「(;ω;)」
そういえば自己紹介もリティがしちゃってたし、結局会話に入ってないな・・・
ホントにごめんなさい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
というわけでリティとレーヴァも加え、5人で昼食をとりましたとさ。
その会話でリティはエルフ、レーヴァはデュラハンだということが分かってビックリ。さらに二人とも戦闘分野の学科志望だそうで、さらにビックリした。
でもまあデュラハンは当然だよな。しかし制服だと魔物だってわっかんねえな・・・と言ってたら、「私まだ魔物じゃないもん!」とリティが反論してた。
エルフについてそこまで詳しく知らないからな・・・あとで調べてみようかな。
「ふは〜食った食った、うまかったなー」
「だらしない声出すなよルーク、みっともない」
「ひどぅい!(;´Д`)」
「でも美味しかったのは本当ですよね。ルークさんはみっともないですけど」
「リントまで!?Σ(゚д゚lll)」
「「「「「あはははははっ!」」」」」
気づけば五人とも仲良くなってたな。よかったよかった。
入学初日でこれは順調な滑り出しと言えるだろう。実際いろんなやつと仲良くなりたいと思ってたし。
・・・でもリティは俺といつどこで会ったのかは話してくれなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それじゃこれからどうしようか?」
お昼も食べて、色々話して、そこそこいい時間だ。探索するもよし、このまま寮に帰るもよし。荷物の整理もあるだろうしな。俺はある。
だから俺はみんなにどうするかを聞いた。
「う〜ん、適当にぶらついてから帰るかな俺は・・・はっ!ナンパとかできるんじゃね!?」
「僕も買いたいものがあって・・・この学園内で探せるかちょっと歩き回ってみます。」
「私は鍛練場を探すぞ!」
「私もちょっとお店の探索したいかな、矢って買えるのかなぁ・・・(そ、そうだ、セインも一緒に行こうって誘おうかなぁ・・・そしたら・・・)」
うーん、見事に目的がバラバラ。ルークについてはノーコメント。デュラハンに至っては流石である。
「じゃあ俺は先に寮に戻っていいか?」
「なんだ、もう帰んのか?」
「荷物の整理もあるし、探索は明日でもできそうだしな」
俺はあのアヌビス先生の話で結構疲れがきてた・・・早く休みたいのと、さっさと身の回り周辺を片付けたいというのもある。
それに二日間の休みもあるのだ。探索はその時でもいいだろう。
「そっか、じゃあ俺はナンパしにいくぜー!」
「僕もしばらく散策してから寮に向かいますね」
「うむ、じゃあここで解散だな」
「ふぁ!?・・・あ、ああそうだね(セイン、帰っちゃうのか・・・)」
「(ふぁ?)まあ来週また会えるだろうよ」
授業でもしかしたら会うかもしれないし、教室もそこまで遠いわけじゃない。まあ会うことは難しくないだろう。
「それじゃ、みんなまたな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・毎回のことだが、一瞬で着くとビビるな」
俺は転移魔法陣の場所に行き、寮へと帰ってきてた。
「やあ、おかえり新入生」
「うぇ?」
あれ?今どこから声が聞こえてきたんだ?変な声出たじゃんか。
「どこを見てるんだ?私はここだ、ここ」
「え?」
声がした方を見ると、一体の石像がある。
「ようこそ男子寮へ。私は寮監の『マキナ・ルディオット』だ。よろしくな」
「うおぉ!」
思わず驚いてしまった。石像がしゃべりだしたからだ。
「そこまで驚くことないだろう。私はガーゴイル。そういう魔物だからね」
ガーゴイル・・・確か、石像に魂が宿った魔物だっけか。
あれ?でも確か・・・
「でもガーゴイルならこの時間はまだ動けないですよね?」
ガーゴイルが動くことができるのは夜だけのはずだ。今はまだ3時くらいだから、夜にはほど遠い。
「いい質問だね。普通のガーゴイルなら動けないが、私の体には術式が施されていてね。日が昇っている間でも話をしたりとかはできるんだ。そうしないと寮監としての仕事、まあ他の生徒が来たときや不審者が入ったときの対応ができないだろう?」
「でも動けないですよね?不審者とか来ても」
「魔力で学園内の教師に連絡が伝えられるようになってるから私が動けなくても問題ないよ。まあ、昼に堂々と侵入してくる輩なんてそうそういないがね」
なるほど、納得。これなら寮の安全に関しては心配ないだろう。
「まあ女学生の侵入はたまに許しちゃうけどね」
「えぇー・・・・」
訂正。部屋にはきちんと鍵かけないとな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺は階段を登り、自室へたどり着いた。ちなみに246号室は2階だ。てか部屋多いな。
俺は部屋に戻ってすぐに家から送ってきた荷物の整理をしていた。
結構私物が多いからな・・・後回しにすると面倒だ。
あ、言っておくが同じ部屋のやつに見せられないものとかそんないかがわしいものは持ってきてないぞ。断じてだ。まあリント別に気にしなさそうだが。
ちなみに意外にもルークもそういったものは持っていなかったりする。あいつは変なところは真面目なんだよな。
「ただいまー」
片付けをしているとリントが帰ってきたようだ。
「おう、おかえり」
「こんな時間まで片付けしてたんだね」
もう8時を回っていた。集中してると時間経つの早いもんだね。
「ん?まあ掃除もやってたしな」
「あー、それはちょっと申し訳ないなぁ」
「なんでだ?」
「いや、僕の部屋でもあるわけだから、掃除させちゃって申し訳ないな、と」
そういえば俺の部屋であると同時にリントの部屋でもあるわけだもんな。
確かに申し訳なくなるか。
「気にすんなよ。俺掃除好きだし」
「じゃあ明日の朝ごはん奢らせてね。ささやかなお礼ってことで」
リントは本当にいい奴だな。
ちなみに晩飯は持ってきてた食べ物食べましたよ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
片付けも終わり一息入れてると流石に襲ってきましたよ。ええ、睡魔が。
「ふぁ〜・・・俺そろそろ寝るわー」
「僕は少し今日の冊子読んでからにするね」
「おう、おやすみ」
そう言って俺はベットの上に寝転がった。
・・・昔に会ったエルフか・・・いつ会ったっけな・・・・・・
思い出せそうで思い出せない昔会ったであろうリティのことを考えつつも、俺はいつの間にか睡魔に負けて、眠りについていた・・・
12/09/09 01:56更新 / 群青さん
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