連載小説
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・次女がドラゴンな場合

エキドナが産む子供は二人目からは多種多様である。
だから何が生まれてくるのか、両親も楽しみにしていたが。
まさか二人目でドラゴンが産まれてくるなんて、全く予想してなかっただろう。
ジパングには『鳶が鷹を生む』という言葉があるが、母さんなら納得できてしまうのが怖い。

・〜ある日の朝〜


「フルー、起きてるか?」

「・・・・・・」


・・・まだ寝てるか。
上の方の妹はいい加減自分で起きて欲しいものだ。
仕方がないな。
あれをやるか。


「フルー、朝だぞ〜」ナデナデ

「・・・うむ、兄よ。おはよう」

「ああおはよう」


即座にパッチリと目が開く。
フルーは頭を撫でないと何故か起きない。
小さい頃からずっとそうだ。
普通のドラゴンであれば、頭を撫でたというものなら数十メートル先まで吹っ飛ぶパンチが飛んでくることだろう。
うちのドラゴンは、正直変わっている。
一度頭を撫でずに放置したこともあったが、その時は昼過ぎまで寝ており、一日中機嫌が悪かった。
そして一日中無言の圧力で睨まれた。
何でだ。
しかし、頭を撫でられて即座に起きられるものだろうか。


「いつも思うんだが、フルー。俺が来る前から起きてないか?」

「・・・ならば私が狸寝入りをしているとでも言うのか?兄に迷惑までかけて」

「迷惑だなんて思ってはない。起こす手間が一人増えたって何も変わらん」


本当は時間的には結構変わるんだけどね。
狸寝入りする理由も分かんないし。


「そうか。兄はそれで良いのだ。いつも通り私の頭を撫でて起こしに来ればそれで良いのだ」

「・・・・・・」

「どうした?」

「何で俺が頭を撫でていることを知っている」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁ」


墓穴掘ったな。
やっぱり起きてるんじゃないか。


「・・・そうか。兄よ。私の頭を触っていたのだな?そうかそうか」

「何を。フルーがさっき自分で」

「崇高なるドラゴンの頭を、触っていたのだな?」

「・・・・・・」


なるほど、そうきたか。
平常心を装って自分の発言を脅しで誤魔化そうとしてるんだな。
あたかも俺が言ったことで今初めて知った風にしたいんだな。


「・・・分かったよ。俺は何も言ってないし、何も聞いてない」

「何?」

「俺が『普通に』起こしに来て、フルーはそれで『普通に』起きた。そういうこと」

「・・・ふむ。うん、それでいいんだ」

「はいはい」


ちなみに俺がフルーのことを『崇高なるドラゴン様』と見たことは今まで一度もない。
俺にとって、妹は妹だ。
種族が何であろうと、妹に変わりはない。


「それじゃ、顔洗ってきな。着替えてな」

「ああ」


さて、他の妹を呼びに行こう。
・・・そういえば、俺フルーのパジャマ見たことないんだよなぁ。
でも「どんなパジャマ着て寝てるの?」とか聞くのは変だから絶対に聞かない。
まあいいか。
そこまで気にすることでもないだろ。
うん、問題ない問題ない。






「・・・やっぱり気がつかないな。私が全裸で寝てること・・・チッ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・〜ある日の贈り物〜


「いやぁ〜手伝って貰ってありがとうございます!」

「いえいえ。買い物帰りだったので、ついでですよ」

「ついででもなんでも、大助かりですよ」


いきなり何かというと。
買い物帰りに、庭の柵を壊して困っている人がいたのだ。
近所にいる仲の良い夫婦だ。
その柵を直すのを手伝っただけだ。
俺にとって修理作業はお手の物だ。
何回家の品々を妹達に壊されたものか・・・


「しかし、壊す前よりも完璧に直ってるなぁ・・・」

「慣れてますから、それではこれで」

「ああ!ちょっと待ってください!何かお礼を!」

「別にいいですよ。日頃から良くしてもらってますし」


このご家族は奥さんが魔物。
種族はワーラビットで、娘さんも二人いる。
うちの小さい妹達ともよく遊んでいるわけだ。
こちらとしても本当にありがたい。


「特に妹達の面倒を見てもらっているようで、本当にお世話になってます」

「いえいえ!それはこちらも同じですし!うちの娘たちもそちらにお世話になってます!」

「・・・それでは、隣人からのプレゼントとして受け取ってもらえないでしょうか」


旦那さんの方からそんな提案が出てきた。


「これからもよろしくお願いしますという意味を込めて、贈り物をさせてください」

「・・・そこまで言われてしまっては、受け取らないわけにはいきませんね」

「ありがとうございます」

「ちなみに、その贈り物というのは?」



・・・・・



「ん〜、ぬいぐるみかぁ・・・」


帰り道を歩きつつ、貰った贈り物について考えていた。
街の催しでちょっとしたゲームがあったそうだが、その時の景品でぬいぐるみを大量にゲットしたらしい。
しかし、流石に多すぎるということでいつもお世話になっているうちへプレゼントしたいとのことだった。
ちなみにモチーフは魔物娘でデフォルトされている。
なかなか良い出来だ。


「でも、これなぁ・・・」


別に不満があるわけではない。
ただ、その魔物娘の種類が、うちの種族とピッタリ一致しているのだ。
もしかして、最初からうちへ送るために手に入れてたんじゃないのか。


「これは、後で菓子折りでも送らなきゃな」


もちろん、手製でね。
そんなことを考えている間に家に着いた。


「ただいまー」

「おかえり。兄」


出迎えてくれたのはフルーだ。
しかし、いつもと違う状況に違和感を覚える。


「んー、いつもなら総出で『おかえりなさい!』と突貫してくるのに、随分静かだな」

「皆、遊び疲れていてな。今しがた寝かしつけたところだ」

「なるほど」


いつも騒がしい妹達が皆寝てるのか。
こんなにも静かになるもんなんだな、と感心してしまう。
今日は久しぶりにゆっくり本を読むことができそうだな。


「あ、そうだ」ゴソゴソ

「何だ?」

「はいこれ」

「これは・・・ぬいぐるみか・・・?」


とりあえずフルーに先んじて渡しておく。
ドラゴンの人型形態の可愛らしいぬいぐるみである。


「ワーラビットさんとこの柵を直しててな。そのお礼とこれからもよろしくってことで貰った」

「なるほど、それで遅くなってたのか・・・!」キラキラ・・・


目をキラキラと輝かせながらぬいぐるみを眺めているフルー。
実はフルーはぬいぐるみや光り物など、自分の好きなものを収集する趣味がある。


「それはフルーにあげるよ。ぬいぐるみ大好きだもんな」

「いいのか!ホントか!ありがとう!大s・・・流石は兄だな!」キラキラ


以前は
「ぬいぐるみ?興味ないね」
とか言ってたのに。
一度掃除で部屋に入った時に見つかってからは開き直ってた。
「すすす好きなんだから仕方ないじゃないか!!///」
と顔を真っ赤にしながら反論していた姿は実に可愛らしかったな。
流石我が妹である。
この収集癖は俺にだけ話しているらしい。
うん。本人は、そう思ってる。
でもね、フルー。
他の妹達の一部には、とっくにバレてますよ。


「まあ、あの人たちに感謝するんだな」

「ああ、もちろんだ!兄にも感謝してやろう!」トロピカルヤッホー!

「おう、ありがとな」


こういった時は素直なんだけどな。
いつもべったりされるよりこちらの苦労が少なくて済むフルーは、俺としてもありがたい。
妹達の中でも理性的だ。


「早速部屋に持っていこう!それではな!」

「おお、コケるなよ」

「無論だ!」


大丈夫かなあ。
前にも俺から渡した時、はしゃぎ過ぎてコケてたんだがなあ。
まあそんなに何度もあるまい。






「きゃん!」


あ、コケた。






(コケたのは痛いが、兄からのプレゼント!///私の『兄コレクション』も増えるな!///)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・〜ある日の深夜〜


カリカリ・・・カリカリカリ・・・

コトン

「よし、家計簿つけ終わったな。寝るか」


家計簿はもちろん俺が付けている。
家族が多い分、お金をどう使ったかをチェックするのは大変だ。
妹達が寝てから付け始めるためもう深夜・・・
明日もいつも通りに早いし、さっさと寝るか。


ガタンッ・・・


ん?物音?
何事?


「兄ぃ・・・」

「・・・どうしたフルー。もう夜遅いぞ。寝たんじゃないのか」

「・・・・・・っ」

「何か、あったか?」


するとフルーは意を決した顔をした。
一体何が・・・!?






「兄!喜べ!私と寝る権利をやろう!






特に何もないようだ。
何だ。凄んで損した。


「いらん。早く寝ろ」

「私と寝るなんて光栄に思うがいい!」

「寝なさい」

「ぬうぅ!何故だ!何が不満なんだ!」

「俺は一人で安眠したいんだ」

「今なら、わ、私が!だ、抱き枕になってやることも吝かではないぞ!///」

「間に合っている」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


いつもなら聞き分けがいい方なのに食い下がるな。
本当に何かあったんじゃないか?


「何があった。正直に言いなさい」

「・・・・・・ぐぅ」

「正直に言えば、フルーと寝ることを考えてやらんでもない」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当か?」

「ああ」




「・・・・・・・・・・・・怖い」

「怖い?」

「・・・・・・・・・・・・母から、話を聞いて」

「何の?」

「・・・『エンゼルとグレテンス』」

「・・・・・・あれか」ハァ・・・


『エンゼルとグレテンス』というのは我が母さんが某有名童話を改悪した作り話だ。
とてつもなくホラーな内容となっており、俺も初めて聞いたときは三日は満足に寝れなかった。
つまり、あれか。


「怖い話を聞いて一人では眠れなくなったんだな」

「・・・・・・」コクン


無言で頷く。
顔は真っ赤で、少し涙目だ。
母さんが久しぶりに帰ってきたと思ったらこれだよ。
あの人面倒事しか持ってこないんだから。
しかしフルーが怖い話苦手だとはなぁ・・・
でもフルーも18なんだよな。
うん。色々とマズイよな。一緒に寝るの。
でも、あの怖さを知ってるだけに、流石に可哀相だよなぁ。
母さんめ。何故話したんだ。
・・・反応が面白いからに決まってるか。


「・・・母さんめ。全く仕方ない」

「・・・・・・一緒に、いてくれないのか?」ウルウル

「今日だけな。明日からはちゃんと一人で寝ろよ?」

「っ!」パアァ・・・!


うわーすっげー満面の笑み。
久しぶりに見た気がするわ。
俺が兄じゃなかったら抱きついてるよ。
これは理性が抑えられないだろー。
・・・俺はしないよ?


「それじゃ部屋に行くぞ」

「・・・うん・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう///



・・・・・



俺はフルーと一緒に、自分のベットの中に入った。
フルーは普段着のままだったが、一人で着替えてこいと言うのも酷だろうからあえて何も言わなかった。
お互いに背中合わせの体勢で横になる。
さっさと寝たいところであるが、一応フルーが寝付くまでは起きているつもりだ。


ふにんっ・・・


・・・何か二つ当たってるな。
おかしいな。
さっきまで背中合わせだったはずだが。
そんなことを考えている内に手が腹の方へ回される。


「・・・フルー」

「何だ、起きてたのか」

「お前が寝付くまではな。それと・・・どうした」


危ない危ない。
思わず「当たってるぞ」と言いそうになった。
意識していることを伝えてはいけないのだ。
平常心を保ちやがれ。


「・・・まだ眠れなくてな。それに・・・」

「・・・それに?」

「・・・」(こうやってすぐ近くで、兄の鼓動を感じていたいしな///♥)ギュッ

「・・・目を瞑ってじっとしていろ。そうすれば早く寝られる」

「・・・」(そんな勿体無いことできるか!///・・・一晩中こうしていたっていいくらいだ♥)

グイッ

「・・・・・・足を絡ませて・・・だから早く寝ろと」

「・・・」(ああ・・・♥兄・・・♥)スンスン・・・クンカクンカ・・・

「・・・・・・・・・」

さっきから返答がない。
だが、体はぴっちりとくっつけてきている。
息も近いし。
さっき「抱き枕になってやろう」とかいってたくせに。
これでは俺が抱き枕じゃないか。


「・・・」(これは・・・いけるんじゃないか?♥ヤれるんじゃないか?♥♥)

「・・・おい」

「・・・」(そうだ・・・あそこさえ触ってしまえば・・・♥)モゾモゾ

「もし変なとこ触ったら、俺は部屋を出て行くからな」

「・・・っ!」(くっ・・・先手を打たれた!だが触ってしまえばこっちのもの・・・♥)

「あと一生口をききません」

「っ!?」(なっ・・・!?えっ!?(;゚Д゚)・・・ぅぅ)

「・・・聞こえてるだろ?返事は?」

「・・・それは、嫌だ」

「なら、ちゃんと寝ようとしなさい」


一生口をきかないことなんて絶対ありえないけどね。
俺の方が耐えられんわ。
まあ向こうもそれが嫌だと思ってくれてたのは幸いだな。
そりゃそうだよな。
俺が家のこと色々やってるんだから、まず生きていけなくなるのと同意義だもんな。
でもフルーならもう独り立ち出来そうだけどなー。


「・・・なあ」

「うん?」

「・・・少し話すのは、いいか?」

「・・・少しだけだぞ」

「・・・話すことまで拒否されたら・・・どうしようかと思った」ギュ・・・

「フルーが寝付くまでなら、聞いてやるよ」


フルーはカタカタと体を震わせながらも、俺の体を抱く力を強めた。
少し不安がらせ過ぎたか。
これは反省しなければ。
でもさっきの発言を取り消すことはできない。
妹達とのもっとうまい接し方、考えないと。
俺もまだまだだな。


「・・・ずっと、思っていたことがあったんだ」

「・・・何だ?」

「兄は、私を・・・・・・怖いと、思ったことは・・・ないのか?」

「怖い?」

「私は・・・ドラゴンだ。強大な力を持ったドラゴン・・・
人に怖がられ、恐れられている・・・・・・
そんな私が、すぐ近くに・・・
兄の真後ろにいるのだぞ・・・・・・?
私に対して・・・距離を置こうとするのも・・・・・・グス・・・
や、やはり・・・ヒッグ・・・」


最後の方は、完全に涙声になっていた。
くそ・・・こんなに不安がらせて、泣かせるなんて。
兄失格じゃないか。
あーもう。
後で自分をぶん殴っておこう。


「フルー、聞いて」

「何だ・・・覚悟は、できてるぞ」グス・・・

「俺はね・・・」








「俺は、フルーのこと、大切な『妹』だと思ってるよ」

「・・・ぅえ?」ズズッ

「代わりなんていない。俺の大切な妹。
フルーのことが怖い?馬鹿言うな。
その大切な妹を怖いなんて思ったこと、一度もないよ」

「でも・・・私は強大なドラゴンで・・・」

「兄妹なドラゴンではあるな。確かに。
俺とフルーで兄妹だ。
でもドラゴンだろうが、人間だろうが、フルーはフルーだ。
俺の『妹』であり、俺の『家族』であり・・・

俺の『宝物』なんだよ」


俺の思っていることを、そのまま伝えた。
こんなこと言うのは滅多にないけど、フルーにはちゃんと伝えておこう。
他の妹達にもいずれ、だな。
それに・・・俺は正直人間の方が怖い。
何を考えているのか。
何を思っているのか。
今でも、よく分からなくなることがある。
それでも、良い奴、悪い奴、他にも色々いるってだけなんだ。
人間だって、魔物だって、人それぞれだよ。


「・・・いいのか?」

「何がだ?」

「私は・・・兄の『宝物』でいて、いいんだな?」グス・・・ヒッグ・・・

「ああ、俺の誇れる『宝物』だ」

「うぅ・・・ぅうう・・・うああああああああああああぁぁぁぁぁぁん・・・!」


フルーは、声を出して泣き出してしまった。
わんわん泣いた。
これ以上ないくらいに。
俺は、背を向けたまま、フルーの手をしっかりと握ってやった。






(私も・・・私も兄が世界で一番大好きな『宝物』だ・・・!)








あれからしばらく経って、フルーは泣き疲れて眠ってしまっていた。
今日はフルーの本音が聞けた気がしたな。
何だか嬉しいよ。
俺も今はぐっすり眠れそうだ。
ただ・・・







起きたとき、どうやってこの抱擁から脱出すればいいんだろう。
(がっちりホールド)


13/03/03 15:17更新 / 群青さん
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■作者メッセージ

はい。お読みいただきありがとうございます。
次女の『フルー・オーケスティア』
ドラゴンです。
ちなみに年は18歳。
クラリネの一つ下ですね。

今回はちょっぴり真面目な路線のお話になりました。
威厳たっぷりで余裕のあるドラゴンさんもいいですが、
こういった女性らしい一面を垣間見せるギャップのあるドラゴンさんも良いと思うのですよ。

名前の由来は木管楽器の『フルート』から。
フルートの音色は私も大好きです。

とりあえず予定している妹は15名。
ですが増やしてほしい!という希望があれば増えるかもしれませんw
ある程度妹達を出してから、複数人での絡ませ合いも書きたいですね。

次は三女のお話。

それでは次回もお楽しみに。

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