第十章†心と剣の誇りは二乗†
三度に渡ってのマスカーとの激しい連戦を繰り広げたザーン率いる第四部隊。
たった一晩のうちに繰り広げられた戦いであったが、
それは壮絶なものであり、魔王軍は最終的に勝利を納めたものの
マスカー・グレンツ、 バンドー、 そしてダヴァドフ
といった類稀ならぬ実力者たちにより、膨大な被害を受けるのだった。
そして勝利を掴み取るきっかけとなった第四部隊は
魔王軍からの援軍として派遣された
デュラハンのキャスリン将軍が統一する拠点へとやってきていた………。
それぞれが戦いで受けた傷を癒す為に…………。
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≪主人公:ザーン視点≫
私は今夢を見ている。
なぜわかるのか?そうだな……今私が見ている光景が私の過去だからだろう。
酷く懐かしく……………思い出したくもない光景だ…………。
そこは殺風景な白い部屋の中。
昔の私がその部屋の中で立ち尽くし、そんな私の周りを白衣を纏い、
レポートを手にした男女たちが囲んでいた。
私を観察しているのか、私は彼らからあらゆる指示を受け、
身体能力の検査、体内魔力の検査などをさせられる。
するとその結果が出るや、彼らはレポートに目を移しながら
ペンで書き足しては、なんらかの会話を繰り広げていた。
『なかなか悪くな【ザァァッ】……肉体、精神的にも十分【ザァァッ】』
『この【ザァァッ】に一番適した武器は?』
『体内魔力量は並ではありますが剣による【ザァァッ】は高く………』
なぜだろうか、彼らの会話のところどころにノイズが響く、
ああそうか……よほど思い出したくもないのだろうな私は………。
するとまた視点が暗転する。
そして次に私の前に現れた光景は、業火に包まれた城下町…………。
…思い出した…、リゼッタと川に落ちた時に見たあの夢と同じ光景だ。
相も変わらずあたり一面を赤く汚した人間と魔物たちの死体の山、
そしてさらに相も変わらず、死体に囲まれた中央で
スケッチブックに何かを書いている幼き頃の私だった。
顔を蹲め、スケッチブックになにかを書くことに集中している幼き私……。
すると私の存在に気付いたのか、幼き私はゆっくりとこちらに振り向いた。
………また会ったな…
私のこの夢のような意識のなかで、そいつに話しかけてみた。
『…………………』
相も変わらずの無表情、しかし其の目はなぜか
また来たのか と私に述べているような気がした。
そしてあの時と同じように、その幼き私は手に持つスケッチブックを
私に見せ、先程まで書いてあったであろう文字がそこにあった。
『オマエニヤツラヲミチビクケンリアガアルノカ?』
本当に相も変わらず、赤き血で殴り書きされているそれ………、
そしてまた私の視界は黒く染まり、暗転するのだった………。
重い瞼を上げた私が見たのはどこかの天井のようだった。
目が覚めると同時に、記憶を辿ればここがどこなのか予想がつく……。
するとそんな私の視界に……二人のダークプリーストが映りこんだ……。
「お目覚めになられましたか?」「どこか痛みはございませんか?」
現状から察すると、どうやらこの場所は医務室の個室らしい。
おそらくキャスリン将軍の拠点の医務室だろう。
それも一人用のベッドしかない所から察するに特別医務室といったところか。
なにか夢を見ていたような………ああだめだ、思い出せない………。
「ああ……、大丈夫だ。痛みも疲れた感じはない」
「そうですか、それはよかった」「それなら私たちも安心です」
「お前たちは……まぁ聞かずとも予想もつくか」
「はい、私どもはキャスリン将軍の命にて貴方様を看護しておりました」
その二人のダークプリースト、姉妹なのだろうか?
息も合っている上、顔が非常に良く似ている。
一応魔物にも図鑑とは違って、其々にも顔の特徴などで多少の違いはあるが
この二人はまるで鑑あわせしたかのように瓜二つだ。
私は自身の手を見て、握り開いたりを繰り返し、体の完治を再度確認し、
二人に聞いたところ、あの森での戦いから二日ほどが経ったらしい。
いや、戦いの最中に夜二十四時は確実に経過していただろうから
約一日といったほうが正しいかもしてれん。
しかしそれでもそんな永いこと寝込んでいたこととなる。
私は部屋の窓から空を見た、太陽の位置から時刻は昼時だと伺える。
「そうだ………ほかの…私の隊員たちは?」
「命に別状はございません」「みなさん別室で元気にしています」
「ただ、リザードマンのお方…」「そしてワーウルフとアラクネのお方…」
「サキサたちがどうかしたのかっ?」
「この三名は戦闘での出血による貧血気味」
「およびアラクネのお方が過度の魔力放出」
「「多少の休養を用いる必要があるでしょう」」
姉妹が交互に言葉を並べ(一々目線切り替えるのが正直メンドクサイ……)
二人して両手を合わせ握り、ダークプリーストらしい祈りを示している。
「そうか……だが命に別状はないのであれば安心か………
ここでの治療はお前たちダークプリーストが専門なのか?」
「はい、こちらの拠点での医療担当です、ですが………」
「なにも私たち、ダークプリーストだけというわけではございませんよ♪」
すると部屋の扉が開き、入ってきたのは数人の魔女たちであった。
その手には私の黒軍服があった………………んっ?
「………………………………」
私は自身の格好を確認する、傷の名残で包帯を巻いていて気づかなかった。
上半身裸………ズボンは……患者用のズボンがはかされているだけマシか…。
「傷は完治しておりますから…」「包帯をお取りしますね?」
「あ、ああ…」
言わなくてもいいことだろうがあえて言おう…………嫌な予感しかせんぞ。
ダークプリーストは禁欲的な男に襲い掛かる傾向が強いからな………
いやいやいや、別に私はそこまで禁欲的というわけではないぞ!?
この間、リゼッタと体を交えたばかりだし…………まぁそれ以前は……
少なからずシュザントに来てその手の自慰行為は控えてはいたが………
あれっ、これって……案外やばいのでは………?
いやいやいや、だが待て……向こうはあくまで介護士としての仕事で
私に付き添っているのだ。キャスリン将軍の命ならば仕方のないこと。
第一、いくら魔物だからといって私と彼女達の関係は軍人の上司と部下だ。
軍人なら当然それぐらいは弁えているだろう。
自己思案解決を済ませるとすぐにその姉妹は私の包帯を丁寧に取り除いた。
その後ろでは数人の魔女達が私の服を持って待機しており、
包帯をすべて取り除き終わると前に出た。
「「軍服の方はこちらで洗浄させていただきました」」
「おお、それは助かる……ここのところそういった余裕がなかったからな…」
「お役に立てれば光栄です♪」「ではどうぞこちらへ……」
二人が私の軍服をそれぞれ持ち、私に傍に来るように煽る。
「…………さすがにズボンはまずかろう……自分で着替える【ガシィッ!】
……ぅおぉい、貴様ら何突然人様のズボンに掴みかかっとるか…」
「遠慮しないでくださいな♪」「お気になさらずにぃ♪」【ぐぐぐぐっ】
力ずくで私のズボンを下げようとする姉妹たちに必死で抵抗する。
後ろにいた魔女たちも興奮しているんだか緊張しているんだか、
両手で赤くした顔を覆い隠しながらも指の隙間からこちらを見ている。
…………というか見てないで助けろ…。
「貴様ら……仮にも私は上司だぞ…? 軍人としての弁えが……」【ぐぐっ】
「「私たちはそれ以前に魔物ですからぁ♪」」【ぐぐぐぐぐっ】
「…………………」
コラ、画面の前の君、ですよねーとか言わない…。
「……………ふんっ!」【ブンッ】
「「きゃあぁ〜♪」」
「お〜〜〜〜!」
私が力ずくで二人を振り払うと、後ろの魔女たちがなぜか感心の声を上げ、
ダークプリースト姉妹もなぜか遊ばれたような声を上げている。
とりあえず私は早急に二人から軍服を取り上げ、急ぎ足でその場を後にした。
「あ〜あ逃げられちゃいましたねぇ〜♪」「そうですねぇ〜♪」
【バタンッ!】
「「……あらら?」」
私は超早急に軍服に着替え、再び部屋に戻り周囲を見渡した。
「あ、剣ならこちらです」
魔女の一人が持っていた私の愛剣を受け取り、
再び逃げるように部屋を後にした。……そうだよ忘れてたのだよ悪いかっ!?
「意外とおっちょこちょいさんですねぇ♪」「うふふ、か〜わいぃ〜♪」
…………聞こえんわ…。
さて、いつもの私に切り替えねばっ………。
日頃シュザント拠点にて職務を果たしている私にとって
このような別地の拠点に訪れる機会など滅多にない。
その為、この拠点は非常に私の興味意欲を誘うのだった。
シュザントとはまた違った建物の作りや
外部からの敵軍を迎え撃つ為の軍事設備、いやはや興味が尽きないものだ。
しかしやはりと言うべきか………、人魔一体のシュザントとは違い、
ここは純粋に魔物だけしかいない拠点の為、道行く先にいる魔物たちが
必ずというほど私を見てくる。それほど人間の軍隊長が珍しいのだろうか?
「あの………っ!」
「?」
廊下を歩いている最中、突然声を掛けられ振り向いてみると、
そこにいたのは一人のゴブリンの少女だった。なぜか顔が赤いな?
「なにか用かね?」
「あ…いえ…その、お礼が言いたくて…っ!」
「礼…?………ああ、お前は確か昨日の戦いで……」
「はい!お兄さんのおかげで……その、あたしたち助かったから…それで……
あの、これ!よかったらどうぞっ……!そ、そんじゃっ!!」
そのゴブリンは私に小さな箱を渡すと、
早足で廊下の曲がり角へと消えていった。
そこからやたら「キャーキャーッ」と騒いでいる声が聞こえてきた為、
どうやらこのお礼というべき箱の中身は、
あのゴブリンだけではなく複数人からによるものらしい。
「ふふふっ、さーすがザーン隊長モテモテね♪」
「キャスリン将軍………」
後ろから声を掛けられ、振り向いてみればキャスリン将軍がそこにいた。
「もう体は大丈夫なの?」
「ええ、一日ゆっくりと休ませていただいたおかげでこの通りです」
「そう、ならよかったわ。どうやら傷もほとんど治ってるようね。
まぁ、なんたってウチの医務室にいる医療班は優秀ですもの」
「ダークプリーストは勘弁してほしいですがね……魔女はともかくとして…」
「あら、お気に召さなかったかしら?」
「傷が癒されても、精神が持ちませんな………。
隙さえあらば襲い掛かってこられてはこちらもたまったものではありません
一日無傷で休めたのが不思議なくらいだ」
「さすがに怪我人を襲うような無神経さは教えていないわよ、
怪我さえ治れば別だけど………♪」
ため息が出そうになるな、以前から思っていたことだが
本当にデュラハンなのかこの方は?
「そう言えば隊員のみんなは大丈夫なの?」
「キリアナ、シウカ、ノーザはそれぞれ自由行動をとらせていますが
サキサとリゼッタ、ヴィアナの三名は今だ休養をとっているそうです」
「そう、あの三人には随分無茶してもらったから仕方ないわね………
でもうちの医療班の治療技術ならどんな傷だってへっちゃらよ。
魔力を大量に消費しちゃったヴィアナとかには、
性のつく魔界の果実を食べさせてあげてるし、あっという間に回復するわ」
「なにからなにまで申し訳ありません将軍」
「何言ってるのよ、同じ軍に所属する仲間じゃないの
それに私達は貴方たちのおかげでこの間の戦いに勝てたのよ?
それなのにお礼もしないようじゃ、逆に私の騎士としての誇りが廃るわ。
さっきのゴブリンやほかの魔物たちだって、みんな貴方に感謝してるのよ?」
そう言って将軍は私の手に持つ小箱を指さすのだった。
(そうだな……少なからず、サキサたちは頑張ってくれたんだ。
それを拒むというのは将軍にも悪ければ、みんなにも悪いだろう……)
私はそう自分に納得させ箱を開けた。
「これは……」
「へぇ、あの娘たちにしちゃあ随分と洒落たプレゼントじゃない♪」
箱の中身にあったプレゼントは白手であった。
君たちの世界で言うと、タクシーの運転手などが着けている
ああいった感じの手袋だ。
私はゴブリンが立ち去った曲がり角のほうを見る。
「きゃっ!?///」「わっ、こっち見た///」「気に入ってくれるかなぁ///」
なんともまぁ微笑ましいものだ、
本人たちは隠れてこちらの様子を伺っているつもりなんだろうがな。
「ザーン隊長、着けてあげたら?」
「もとよりそのつもりですよ」
私はそのまま迷うことなく、その白手袋を装着した。
そしてゴブリンやオークたちのいるところまで歩み寄った。
「え、…えぇっ!?」「わわっ、こっち来たぁ…」「お、怒られるっ!?」
「………お前たち」
『は、はいっ!?』
「ありがとう、非常に気に入った。大切にさせてもらう…」
『////!!!??』
彼女たちは顔を赤くすると、
まるで逃げるかのように走り去ってしまった。
「……怖がらせてしまったのだろうか…?」
「ふふっ馬鹿ね、そんなんじゃないわよアレ」
「? どういう意味ですか将軍」
「さぁってねぇ〜、それくらい自分で考えてみたら?」
…よくわからんな。
「あ、そうだザーン隊長。よかったらお願いがあるんだけど………」
…………?
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≪魔王軍キャスリン拠点:中庭訓練場≫
【ギンッ ガンッ ギギィンッ】
「はぁっ!」
「それぇっ!」
【ギィンッ……】
「くっ……この攻撃も通じないなんて………さすがにやるわねザーン隊長」
「お褒めに預かり恐縮限り、だがこちらも同じセリフで返しましょう将軍」
キャスリン将軍からの要望は私との手合わせだった。
とはいっても、互いに病み上がりの為、
体が鈍っていないか確かめる程度のものだ。
「では次はこちらから……………ふッ!」【ヒュンッ】
「………っ!?ふふっ、さすがにはやいじゃない!」【ガガガガガガンッ】
一息入れると同時に、将軍の懐まで一気に入り込み、
手足の関節部分を狙った連続攻撃をした。
しかしさすがかな、将軍も己の剣を巧みに動かしそれを防ぎきっている。
【ガガガガ】「ハアァッ!!」【ガンッ!】
(うおっ………)
さらには私の剣撃を上に跳ね返した。
これにより私に大きな隙が生まれ、将軍は即効で仕掛けてきた。
だが私も即座に剣を持つ手に力を入れ将軍とほぼ同じタイミングで仕掛けた。
【ピタッ…】
そしてお互い、相手の首元に剣が直前に止まった状態で
決着がついたのだった。
「………引き分けですかな」
「………ふっ、どうやらそのようね」
互いに剣を首元から外し、剣を鞘に納めると一礼をした。
『きゃああああああああああっ!!//////』
「!?」【ビクゥッ】
不覚にも体が反応して驚いてしまった、
周囲を見渡してみると、響き渡る声の正体は
ここの拠点の大勢の魔物たちであったことを確認した。
…………以前もあったなこのシチュエーション、デジャヴというやつか。
「すごい、将軍と互角だなんて……」
「昨日アタシ、あの人の戦いぶり見てたけど凄かったわよぉ〜」
「確か最近話題のシュザントの隊長なんでしょう?」
「人間なのにあんなに強いなんてかっこいいわぁ〜〜…」
「やっぱやっぱぁ、ああいう人と恋がしたいなぁ私///」
「さっきも〜、私たちのプレゼント喜んでくれてたよぉ〜」
「ふふっ、私の拠点人間の男がいないから仕方ないわねこれは」
周囲を見渡している私の心情を察したのか、将軍がそう言った。
「しかし、男の軍人がそんなに珍しいものですかね?」
「…貴方って軍人としては優秀だけど、そういうのには疎いわねぇ」
「…?先程も似たようなことを言っていましたが、どういう意味です?」
「さあってね、私が言ったって仕方がないもの。
それぐらい自分で理解することね、人間として男としてね」
「……しかし…」
『ねぇねぇシュザントの隊長さんっ!』【グイッ】
「おぉっ?」
突然私の腕を強く引っ張ってきたのは人だかりの
ところにいた魔物たちの内のホーネットたちだった。
『この後お暇でしたら私たちの訓練に付き合ってくれませんか!?』
「う、うむ。私でよければ構わないが………」
『やった♪それじゃあよろしくお願いします♪』
「……やれやれ」
私は溜め息を吐きながらホーネットたちに腕をつかまれていった。
私の後に続くかのようにオークやゴブリンたちが着いてきたので
これは最悪砦にいる全員の訓練に付き合わされるな……。
「がんばりなさいなザーン隊長、期待してるわよぉ〜」
………できれば助けて欲しかったというのが本心ですがな将軍殿。
≪シュザント:サキサ視点≫
太陽の光に満ちた空の下で、私は木陰から遠目で隊長を見ていた。
大勢のホーネットたちのスピアランスと対峙し、
自身の剣で其れを受ければそれぞれの悪い点を指摘する。
近くで素振りをしているゴブリンやオークたちにも力の入れ方を指摘し、
時にはその腕に触れ判りやすく指摘する。
当然その魔物の顔は赤く染まり、
隊長に対して尊敬以上の恋焦がれたような目を向けている。
「やっぱあの人かっこいいよねぇ〜♪」
「うんうん!クールだし、ちょっと見た目は怖いけどとっても優しいし♪」
「訓練での教え方もすごくわかりやすい………」
「夕食に誘っちゃおっかなぁ〜……」
「あ、こら!抜け駆けするんじゃないぞっ!」
「ふん!早い者勝ちよーだっ!」
隊長から指導を受けた魔物兵士たちが
集団を作り、隊長に聞こえないところから小声で騒いでいる。
私はリザードマンの、リゼッタほどではないが多少優れた聴覚力で
其の会話を聞き取った。
----ズキンッ
まただ……、今日の私はなにかがおかしい……
隊長がほかの魔物に触れるたび、親しそうに話しているたびに心が痛む。
こんな痛み私は知らない、いかなる戦で体を傷つけてきたが
このような痛みを私は味わったことがない……。
最初この痛みを味わったのは目が覚めてから……
隊長とは別室の医務室のベットで昨日のことを思い返してからだった…。
人間離れしたマスカーの嫡子が率いる軍隊との戦闘、
その戦いの後の私たちを強襲した特殊部隊とダヴァドフ……、
そして……私にあそこまで言ってくれた隊長……。
休養を取らなければいけない筈なのに、
私は隊長の事を思い出すたびになぜか落ち着いていられなかった。
そして今こうして訓練場に生えている木影から隊長を見ている。
原因はわかっているんだ、
昨日………突然の事態に取り乱した惨めな私を叱ってくれたあの時……
あの男はこう言ってくれた。
『お前は私の自慢の部下だ………』
「……………………〜〜〜〜〜/////♪」【ジタバタ】
両手で頬をおさえて私は頭を何度も横に振った。
「自慢の部下♪………自慢の部下♪……素晴らしい戦士♪……えへへ」
…………ハッ!?、いかんいかん思い出すだけで
口元がものすっごいニヤけてしまう、
これじゃあ私が変人みたいじゃないかっ!?
はたから見たら絶対引かれるぞこれっ!?
落ち着けぇ〜、落ち着けぇ〜私の心臓ぉ〜〜、深呼吸だ〜深呼吸ぅ〜〜…
ふぅーーっ………よし、だいぶ落ち着いたな……………。
「サキサ」
「うひゃああぁぁっ!!?」
【ビクッ】「…………あースマン、驚かせたか?」
「たっ!?た、たたたたいたいたいたたた隊長ぉっ!!?」
なんと目を瞑り深呼吸をし、再び瞼を開けた先には隊長が立っていた。
隊長も手を組んだまま体を飛び跳ねていたが、ビックリしたのは私のほうだ!
その証拠に未だ心臓がドキドキッ言ってるぞ…………、
うん、驚いたからだぞ………?………そうだろ私の心臓?
「サキサ、体のほうは大丈夫なのか?」
「え…あ、ああ!問題ないぞ!ここの医療班はなんとも優秀だなっ!
そ、そういう隊長こそどうしたんだ?彼女たちとの訓練は?」
私は隊長の後ろを見てみると
遠くで魔物兵たちがその場に座り込みくつろいでいる
そうか………休憩時間というわけか……。
大方、隊長は私の姿に気付いて逃げるようにあそこから退いたのだろう……。
------さわっ
「うっひゃあっ!?」
な、なななななななんで隊長いきなり私の背中を触っているんだッ!?
「……………ふむ、傷はちゃんと塞がっているようだな」
「えっ……?あ、そ…そうか確認……、
あ…ああ!だから問題ないって言ったではないかっ!」
「フッ、そうだな…余計な世話だったかもしれん。
だがなサキサ、無理はしないことだ………
先の戦いではいろいろと無茶をさせたからな…………」
「な……なにを言っているんだ隊長っ!!!」
「!?」
隊長の発言に私は思わず怒鳴ってしまった………だが構うものかっ!
「隊長こそわかっているのか!?倒れたのだぞッ!?
私のことじゃない!隊長がだ!!無理をしているのはそっちのほうだっ!!」
私は心の感情のままに隊長の胸倉を掴むように引き寄せた。
私のその手は僅かに震えてしまっている……。
「隊長………もっと自分の体を大切にしてくれ………
私たち第四部隊のみんなは隊長が必要なんだ………、
隊長は………私にとってまさに理想の隊長だ……みんなのために気遣い、
厳しく…昨日だって混乱していた私を叱ってくれた………」
私は隊長の顔を見ることができなかった、
顔をうずくめ、目から熱いものが頬につたるのを感じてしまう………。
「……私はぁ…ひっくっ……こんなにも…泣き虫で………弱い女だ……
いつも……意地を…張っていても…、どんなに…強がっても………
ヒックッ…本当は…怖くてたまらないだ………
でも……でも……隊長の役に立てるなら…私は…頑張れるんだ……」
「………………………」
ああ……いつの間にかこの男が私の体を優しく抱きしめてくれている……
あったかい……この男の腕の中でならこんなにも安心するんだ……………。
「私……私は…っく、…頑張るから……隊長の為の強い女でいるからぁ……
だから……隊長も…私のことを信じて…少しでも休んでくれ……頼む……」
「………サキサ…」
すると互いに密着していた状態から、
隊長が私の両肩を掴み、互いとの距離を引き離し、私の顔をじっと見た。
「………………すまなかった…」
「………………えっ?」
そしてなんと、隊長は私の両肩を掴んだまま頭を下げてきたのだ。
「私は……自分が無理をしてでも頑張れば
お前たちを救えるとずっと考えていた………だが……間違いだったな……
こんなにも…お前に頼られていると同時にこんなにも心配させていたなど……
私は不甲斐無い隊長だ………」
「そんなことッ……!」
するとそこで、隊長はもう一度私の体を強く抱きしめてくれた……。
今度はさっきのような慰めのような抱擁じゃない、
男らしく…力強く……その身に責任感を感じているようなものだった……。
「ありがとう………お前は私に重要なことを気付かせてくれた……
これからはお前をより理解し、お前に相応しき隊長であることを約束する…
だからお前も強くいてくれ……強く…誇り高きリザードマンとして……
そして…その強き心でどうか私を支えてくれないだろうか……?」
ああ……この男はなんてまっすぐな意志を持っているんだろうか……、
嬉しくてたまらないこの想い……、抱きしめられたその体を隊長に預け、
自身の顔を隊長の胸元に沈めている………。
だが私はゆっくりと隊長から離れると、
たぶん今までにない穏やかな顔でこう言った。
「ならば………今夜、時間を頂けるか……?」
≪主人公:ザーン視点≫
日時が明日にならんとする手前の夜……。
拠点からの部屋の明かりが徐々に薄れていくのを私は
そこから少し離れた草原の丘の上から無心に眺めていた。
いつもと同じ軍服を纏い、肌寒い風を感じながら
傍に生えている唯一一本の木の隣で私は昼間のサキサとの会話を思い出す。
「信じる…か、そうだ……私は彼女を…彼女たちを能力の高さだけでしか
視ていなかったのかもしれない……それなのにシュザントの隊長気取りか…
ふん、とんだ御笑い種というわけだ……情けない……
これでは一体何のためにあの演習をしたのかわかったものではないな……」
私は右手を見ると、握り締めを数度繰り返し、
新しく装着した白手の馴染み具合を確認した。
うむ、昼間にみなと訓練しただけありだいぶ馴染んできたな。
この肌寒い夜に対しては防寒にもなれば、
剣を持つ際にもそれなりに様になる。
なぜこんな話をしたか…?
なぁに、気付いている者は気付いていよう……、
サキサがわざわざ私をここに呼び出した理由に…………。
「待たせてしまったか?」
おっと、上手いタイミングでサキサがやってきたか。
私は丘を登ってくる彼女を見下ろした。
「月が真上に上る時……、丁度いい時間帯だ。私もついさっき来たばかりだ」
「それならいい、私も呼び出しておいて待たせてしまうなど
みっともないことはしたくないからな。
すまない隊長、わざわざこんな時間に付き合わせてしまって……
抜け出すのに苦労したんじゃないのか?」
「一人…見回りのオークに見つかったが適当に言葉を交えてどうとでもした。(なぜ会話の最中に顔を赤らめたのかはわからんがな……)」
「ふふっ、隊長らしい………」
丘を登りきったサキサだったが、そのまま私を通りすぎると
丘の向こう側………拠点より反対側を眺めていた。
「隊長……少し私の昔話を聞いてくれないか……?」
その言葉に私は沈黙という承諾をするのだった…。
「私は……メリサ平原という地で遊牧民として
同じリザードマンたちと暮らしていたんだ…」
メリサ平原……この大陸の中央付近に位置する大平原だ……。
…………まて、確かあそこは……。
「隊長も知っているだろう、あそこは今………マスカー領なんだ」
「……………………」
そう、シュザントが結成される数ヶ月程前、
マスカー軍の侵略に魔王軍が大規模な国境戦を繰り広げたのだ。
先ほども言ったとおり、メリサ平原は大陸中央付近に位置する広大な大平原。
広大なだけあり、かつて互いの国境線がその平原に中途半端な位置に
引かれていたが、マスカーの大規模な侵略により、
今ではメリサ平原全体がマスカー領として
完全に飲み込まれた土地となってしまった。
シュザントが結成される前に起こった国境戦………、
そしてそこに暮らしていた………、これだけでも私は十分な予想ができた。
「サキサ………お前は…」
「さすがに予想もできるだろう?
メリサ平原に暮らしていた魔物はあの戦いに巻き込まれて大勢犠牲になった、
私たちリザードマンも……例外じゃない……ということだ……
そう…、忘れもしない……あれは今から丁度半年前だ……」
サキサは私に背を向けながら離しているが、
なんとなく今の彼女が悲しそうな顔をしているであろうと予想が浮かんだ…。
今のサキサの声色がとても低く力ないものだったのだからな……。
「私たちメリサ平原のリザードマンは
互いに協力し各地を回りながら生活をしてきた集団的なリザードマンだった。
マスカーから身を守るために結成された集団だ、
時には野生動物を狩り獲物を競い合い、親魔物派の町や村に訪れては
獲物から剥いだ毛皮などを売るなどをして生計を立てていた。
ふふっ、もうずっと前の事だというのについこの間のように感じるな……
ああ……賊などを退治して報酬を貰ったこともあったかな…………」
話の最後の声が少し震えているような感じがした、
…………思い出して話すだけでも悲しいということだろう……。
私は一瞬、無理に話す必要もないとも思った……。
しかし彼女が自ら私を呼び出し話している……、そう考えると、
自分の過去を私に話しているのも彼女なりの決断とも思えた。
だから私は聞く側の義務として、彼女の過去を聞き入れることにした。
「私も遊牧民になる前はちゃんとした村で両親と一緒に暮らしていたんだ…
だが…ある日マスカーの侵略を受けて父上が死んでしまったんだ……。
幼かった頃の私も、母も死ぬ物狂いで逃げた……、
侵略してきたマスカーに太刀打ちすらもできなかった……」
「リザードマンの遊牧民になったのはその後か……」
「ああ…、私と母は自分の身は自分で守り、
大切な人を守るという信念を持っていた。父が殺されたときのような
悲しい思いは二度としたくないと誓って………。
メリサ平原のリザードマン遊牧民は村にもよく訪れて親交があったからな…
みんな、私と母を歓迎してくれた………。
彼女たちも私たちと一緒だった…、大切な家族を奪われ、
屈辱的な敗北を味わっている……。
だからみんなで力を合わせて生きていこうとも誓った…………。
今思えばあの時が、リザードマンとして……戦士として……
私が一番充実していた時期かもしれない………」
「………………………」
「母やみんなも厳しかったが優しかった……、
私にあらゆる戦闘術を教えてくれて……私を立派な戦士にしようとしてくれた
みんなが私の家族のようなものだった………なのに……ッ……うっ…うぅ…」
サキサが片腕で顔を覆い始めた。
「……サキサ、辛いのならば…」
「とめないでくれ……話させてくれ………今話さなければ絶対だめなんだ…」
「……ならばゆっくりでいい…、夜は永い…私はいくらでも待つ…」
「ありがとう…隊長……」
片腕で顔を抑えたまま、サキサは体を震わせながら
悲しさからの声を漏らしていた。
【ぎりっ…】
それを見ているうちに私は歯を噛む力と拳を握る力が
無意識に強くなっていた。
だが同時に安心もしたかもしれない………、
少し不安だった……、先ほど私は彼女たちを能力でしか視ていないと自覚した
……だが…この胸の内にある彼女たちに対するこの想い……
これだけは本物なのだなと……再び自覚できたのだからな……。
サキサの体の震えが落ち着いてきた…。
「そして半年前…忘れもしないあの日………
メリサ平原でいつものように狩りをしているときだった、
私たちはマスカー軍の攻撃を受けたんだ……、
メリサ平原に侵略してきた時……
奴等が真っ先に攻撃を仕掛けてきたのは私たち………、
わかるか隊長…?やつらは私たちを………
魔王軍の武装兵団と勘違いして攻撃してきたんだ………」
「……………ッ!」
「私たちは……恨んでこそはしていたが…逆襲しようなんて思ってなかった…
ただ自分たちの身を守り、生きたかっただけだったのに………
ただみんなとの幸せが得たいだけだったのに………
私たちももちろん対抗はした………だが…あんなの……あんなものは……
戦士としての戦いじゃない………ッ!
私たちを囲み、長槍や弓を使った遠距離攻撃………
疲労をしたリザードマン一人を複数人でのリンチ攻撃………
串刺しにされて状態で死体を次々と掲げられる地獄絵図……」
サキサが両腕を押さえて震えている…、
私はそっと彼女の肩に手を添えた……やがて徐々に震えが収まる。
「戦いというかりそめの虐殺のなか……私は……生き延びた…
母が……自分の身を挺して………私を逃がしてくれた……、
母は…体中に矢を浴びながら、戦いの負傷で気絶した私を抱えて……
やってきた魔王軍に私の身柄を預けようとしたんだ……、そこで私は……
目を覚ました……でも…そこにあったのは……私とは逆に、
目を閉じ…冷たくなりながらも…私を抱えていた母の姿……
仲間たちの全滅という……残酷な知らせだった……」
「…………………………」
「そして私は…軍人になった………
元々腕にはそれなりに自信はあったからな…、死んだみんなのおかげで……
士官学校に入って間もない私に……上の連中がシュザントの件で
私をスカウトしてくれた………」
「そんな短期間で…か、よほど腕を買われていたということか………
(或いは…彼女の境遇に同情した上の連中の配慮か……。
だがそれはそれで……こいつにとっては地獄でしかないかもしれない…、
しかし………私の部下である限りそんな思いは絶対にさせんぞ…ッ!)」
「ふふっ……、シュザントに入って色々なことがあった……、
一番驚いたのは…キリアナとの再会だったな……」
「キリアナとの……?」
「言ってなかったか?私とキリアナは同じ村の出身なんだ……」
「……………」
私はそれ以上、キリアナについては聞かないことにした。
キリアナのことは……またいつか知るときがあるだろう………。
「ふふふっ……」
「………………なにがおかしい?」
「そのままの意味だ…、なぁ隊長……私がシュザントに配属されて
一番嬉しいと思ったことは何だと思う………?」
ここでサキサがはじめて背を向けていたところから顔をこちらに向けてきた。
「…………貴方と出会ったことだ」
「……………!」
「貴方が私たちの隊長になったときは色々あったなぁ………、
実は言うと、あの時の私は人間に対して不信を抱いていたんだ、
私たち魔物は人間と共存する為にこの姿があると母は言った。
…でも、家族を人間に殺されたのに、その人間を信用できるのか不安だった
その上、私たちの隊長が人間であると聞いた時は不安でいっぱいだった…
だが、隊長を見ている内に……ふふっ、いつの間にかそんな不信感も
どこかへと消え去っていった………」
目を閉じながら……彼女が浮かべている笑みは…私の心を痛くした……。
「ああ……話してよかった、大分スッキリしたぞ隊長…」
「……………それだけの為に呼び出したわけではあるまい…」
「…ははっ、参ったな。全部お見通しか………、
私たちに相応しい隊長であることを約束する、隊長が言った言葉だ……、
今一度確認したい……、その言葉に偽りはないな…?」
「ない、一度口にした言葉に責任を持つ覚悟はある」
「即答…か、ならば隊長…剣を抜け。
私も隊長にこう言った、貴方の為に強い女でいる……と」
「『戦士』としてではなく…か?」
「ああ、『女』としてだ…。だから今一度……この手で…
この剣で……隊長と勝負がしたいッ!!
手合わせとしてではなく、純粋な勝負で…隊長を確かめたい…ッ!!」
「……………………」
迷いのない目で、剣を抜いたサキサを見て
私はゆっくりと剣を鞘から抜くことによって、意を決するのであった。
リザードマンである彼女との『勝負』…………
それはどういう意味を指すのかを理解して………。
「………………………………」
「………………………………」
沈黙……今、私もサキサもその肌には夜風よりも
冷たいものを感じているだろう…。
そして私たちの傍に聳え立つ唯一一本の木から葉が落ち、
互いの間を落下した瞬間、それが開始の合図となった。
【ガァアンッ!】
それなりの間隔があった互いの距離が一瞬で目の前にあり、
刃と刃がぶつかり合った大きな音を夜の草原へと響かせた。
「…………ッ!」
「………………」
私は攻撃を相殺されてはにかんだサキサの目を見て確信した………。
……本気だ…、以前の手合わせとは比べ物にならないほどの
殺気が私の全身を強く刺激していた。
だが私もそれに押されるわけにはいかない、
振り切った剣を持つ手に再び力を込め、∞字を描くように剣を振り
容赦なしの連撃を仕掛ける。
【ガガガガガガッ!】
この攻撃は体の筋肉構造上、鍛錬の成果もあり
相手に反撃の隙を与えないほどの連撃を叩き込める。
事実、サキサは防戦一方…………【スパァンッ】……なにっ!?
「ぐあっ!?」
いつの間にか私は地面に倒れていた、
だが足に伝わるこの痛みが、その理由を教えてくれた。
(尻尾で足を払ってきたか……ッ)
「せやぁっ!!」
(………ッ!考える暇も無しかッ…。いや……この勝負に思考は不要か…
ただ……リザードマンでいう……本能で戦うのみ……ッ!)
私は追撃していたサキサの剣撃を剣で振り退けたが
続けざまにきた尻尾による攻撃はとても対処できなかった。
【ズガンッ】
「ゴッ……ホォッ……!」
衝撃と口からの血の味、しかしこれは甘んじて受けざる得ない……。
だがこれで剣と尻尾の攻撃手段は使い切った。
私はサキサが攻撃態勢を取り戻す前に、
剣を持っていないもう片方の手で地面から体を押し上げ
彼女の腹に足蹴りを放った。
「ぐああぁっ…!」
衝撃からサキサが後方へと吹っ飛んだが、このチャンス逃す手は無し。
私は体を起き上がらせ、その勢いのままサキサへと駆けていった…。
「……ッ!…まだだぁっ!!」【ガァンッ】
するとなんということだ、サキサも地面に尻尾で衝撃を与え、
空中で体を一回転させ瞬く間に体勢を取り戻した。
しかしここまでくれば私も止まれない…ッ、
剣を構え、サキサに向けて走りの勢いを乗せた突きを放った……。
【ギィィンッ!!】
この時、私はあることを思い出した……。
以前行ったサキサの手合わせ……あの時サキサは両腕で剣のグリップを握り、力任せで剣もろくに固定できていない防御をしていた。
だが今目の前では、片手でグリップを強く握り、
もう片手は刀身を抑えることで固定するという完璧な防御ができていた……。
これには少し感動を覚えてしまった………。
しかしそれもつかの間……、
次に私が見たのは、私の剣が持ったまま上に弾かれ………
逆に剣を上に掲げて、刀身から……
鮮やかの薄緑のオーラを放たせていたサキサの姿だった。
「 『リザード・ライン』ッ!! 」
その瞬間、夜の平原に鮮やかな薄緑色の一本筋が描かれた。
10メートルほどの距離までその筋は伸び……魔力の光が消えると、
そこには痕跡のように残った一本の裂け目が出来上がっていた…………。
≪シュザント:サキサ視点≫
リザード・ライン………、
私が母から伝授された唯一の魔剣技。
我が愛用のブロードソードに魔力を鋭く乗せ、
振り下ろすと同時に、前方に向かって可能な限り魔力の斬撃を伸ばす……。
私が今、唯一使うことができる必殺技……、
同族以外の他人に見せたのは……これが初めてかもしれない………。
私にとってはこれが最高の技………だが…ふふっ、認めたくないものだ……
舞い上がる砂煙の中……私の喉元には以前と同じく剣が突き付けられていた。
そして当然、その剣を持つ先には隊長がいた。
私が作り上げた裂け目の僅か横で………。
「そういった技は距離をとって放つことだ……、
あんな大振りでは隙を生みすぎてしまう……、重力系が相手ならまだしも、
私のような素早いタイプには通用しないと思え…………
だが私も咄嗟だったからな……どちらかといえば私は運がよかった……
お前のその魔剣技……感服したぞ…」
ふふっ、己が勝利を宣言するより私に対する助言か…………。
本当……この男らしい………、
私は自然とこぼれた小さな笑みと一緒に、自分の剣を納めるのだった。
それを見た隊長も剣を鞘へと納めたその瞬間だった……、
私は隊長に強く抱きつき、そのまま押し倒した。
「ありがとう隊長……これで私は…本物の…立派な女となれる……」
ああ、もう我慢することができない………する必要もない。
さっきの戦いで………いいや……もしかしたらそれよりもずっと前…
私は気付いてしまったんだ…この気持ちに……この想いに…。
私はこの男がこんなにも好きだったんだ……。
だれがどう否定しようと……これはもう確実だ…。
胸の鼓動の高鳴りが今にも私の心臓を抉りそうだ……、
ああ……ほしいっ!ほしいっ!私を倒したこの男がほしいッ!!
おそらく今の私は堪らなくなって
見るに耐えないみっともない顔をしているだろう。
隊長の背中を木に凭れさせて彼をジッと見た。
互いに見つめ合って……、どちらも口を開こうとしなかったが、
なんと…隊長が両手を私の頬に添えて、ゆっくりと自分の顔に近づけてきた!
「リザードマンであるお前との真剣勝負だ………
私も示しはついている…………。(許せ、リゼッタ……)」
「ふふっ……んっ……はぁ……んぅ……♪」
反則的なまでに官能的なキス……、
ゆっくりと唇を離すと同時に、隊長が私の体を力いっぱい抱きしめてくれた。
私にとって堪らない行為だった………。
事実こんなに密着されては、アソコがうずきまくってたまらない……。
「サキサ……過去を忘れろとは言わん…、
だが…今を幸せに生きるというのであれば……私はお前への慰めを施そう
戦士として……女として……リザードマンとして……
魔物としての幸福を私は約束しよう………」
「〜〜〜〜〜〜〜ッ/////
ああ…好きだ隊長っ! 堪らなすぎる!幸福すぎるッ!!
私の全身の血がこんなにも興奮している……ッ!!」
私の顔が限界まで赤く染まっているのがわかる……。
でも我慢なんてする必要はどこにもない…っ!
彼の顔に無数のキスの雨を降り注ぎ、この幸福を共有しようと
服も乱暴に脱がしにかかる。そしたら彼も私の服を脱がしにかかってくれた。
これだけでも私は嬉しくて堪らなかった。
「ああっ、隊長ぉ……少し脱がし方荒いぞぉ……あぁっ…♪」
ふふふっ…黙れとでも言いたいのか?
そんな乱暴に私の胸を攻めて………あぁんっ、乳首がぁ……♪
たいちょ………予想以上に……うまいぃ…♪
「…………綺麗なものだな…」
「ふぇっ…………?」
「いやっ……なんでもない……んっ…」
「んんぅ………んぁっ…れろぉ……♪」
彼の舌が私の舌を正確に犯し始める…、
さすがは隊長…、こんなところでも巧みなのだな…♪
【ぐいっ】
「きゃぁっ!?」
すると先ほどまで木に体を預ける形だった隊長が
逆に私を押し倒し、今度は私の体全体に体を預けてきた。
そしてそこからさらに私の首筋を言葉にできない舌使いでキスしてきた。
「ひゃぁっ……ああぁっ……たいちょっ…そこはぁ……♪」
「だったら手っ取り早く挿れてイかせてやろうか……?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ/////」【ぞくぞくぞくっ】
耳元に囁かれたその言葉に
全身に恥ずかしさからの震えと嬉しさからの震えが駆け巡る。
「ふん、可愛いやつめ…」
私の前髪を掻き分けると、そのまま私の額に軽くキスをし、
私の体はまた強く反応した。
「〜〜〜〜〜〜っ///♪♪」【ビクンッビクンッ】
体が反応するがままに、私は隊長の背中に両手を回し、
心から愛おしいと想えるこの人を離したくないと、ホールドするのだった。
「なら望みどおり挿れてやる。力を抜け……出来る限り優しくする……」
「………はぃ…♪…………ザーン……隊長ぉ…♪」
私は体を僅かに震わし、隊長に抱きついたまま
自分の陰部に彼の肉棒が入り込んでくるのを実感した。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ/////♪♪♪!!!!♪♪♪」
声にならない悲鳴を上げ、私は今まで味わったことのない
初めての快感に、目を大きく見開かせ、下品に舌を出した。
「んっ♪〜〜〜ッんぅぁ……はゃんっ…♪」
しかしその舌すらも、あっという間に彼の舌に犯されている……。
私の体全部がこの男に犯されつくされている……。
そう想うだけで…………ッ、無意識にあそこが締まってしまうぅ…ッ!
「ッ!……うおぉっ…!」
それが隊長にはそうとう応えたのだろう、
体を敏感に反応させ、顔が僅かに歪んだ。
「そろそろだサキサッ……!」
「はいっ!ザーン隊長っ……だしてくれぇっ!!
私の膣に貴方という痕跡をっ……私に…私にぃぃぃぃっ!!」
互いに力いっぱい抱き合い、唇を重ね合い、私たちは絶頂に達した。
私は自分の中に、愛している男の痕跡が注がれているのを実感しながら、
魔物としての最高の幸福の中、彼の胸に体を預けたのだった。
「はぁっ♪………はぁっ♪…はぁっ…♪…………大好きっ……♪」
二人だけの夜……私はこの時だけ…、
今この瞬間を心から永遠に続いてほしいと願ったのだった………。
ああ……これからはこの人の為に全力を尽くそう…
この人だけの戦士として……この人だけのリザードマンとして………
女として頑張っていこう。
貴方は私が守るから、無理をせず…やれるだけのことをやればいい……
それを支えるのが私の……ううん、第四部隊みんなの役目……
そうだろう……ザーン隊長…♪わたしの愛しき人……♪
たった一晩のうちに繰り広げられた戦いであったが、
それは壮絶なものであり、魔王軍は最終的に勝利を納めたものの
マスカー・グレンツ、 バンドー、 そしてダヴァドフ
といった類稀ならぬ実力者たちにより、膨大な被害を受けるのだった。
そして勝利を掴み取るきっかけとなった第四部隊は
魔王軍からの援軍として派遣された
デュラハンのキャスリン将軍が統一する拠点へとやってきていた………。
それぞれが戦いで受けた傷を癒す為に…………。
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≪主人公:ザーン視点≫
私は今夢を見ている。
なぜわかるのか?そうだな……今私が見ている光景が私の過去だからだろう。
酷く懐かしく……………思い出したくもない光景だ…………。
そこは殺風景な白い部屋の中。
昔の私がその部屋の中で立ち尽くし、そんな私の周りを白衣を纏い、
レポートを手にした男女たちが囲んでいた。
私を観察しているのか、私は彼らからあらゆる指示を受け、
身体能力の検査、体内魔力の検査などをさせられる。
するとその結果が出るや、彼らはレポートに目を移しながら
ペンで書き足しては、なんらかの会話を繰り広げていた。
『なかなか悪くな【ザァァッ】……肉体、精神的にも十分【ザァァッ】』
『この【ザァァッ】に一番適した武器は?』
『体内魔力量は並ではありますが剣による【ザァァッ】は高く………』
なぜだろうか、彼らの会話のところどころにノイズが響く、
ああそうか……よほど思い出したくもないのだろうな私は………。
するとまた視点が暗転する。
そして次に私の前に現れた光景は、業火に包まれた城下町…………。
…思い出した…、リゼッタと川に落ちた時に見たあの夢と同じ光景だ。
相も変わらずあたり一面を赤く汚した人間と魔物たちの死体の山、
そしてさらに相も変わらず、死体に囲まれた中央で
スケッチブックに何かを書いている幼き頃の私だった。
顔を蹲め、スケッチブックになにかを書くことに集中している幼き私……。
すると私の存在に気付いたのか、幼き私はゆっくりとこちらに振り向いた。
………また会ったな…
私のこの夢のような意識のなかで、そいつに話しかけてみた。
『…………………』
相も変わらずの無表情、しかし其の目はなぜか
また来たのか と私に述べているような気がした。
そしてあの時と同じように、その幼き私は手に持つスケッチブックを
私に見せ、先程まで書いてあったであろう文字がそこにあった。
『オマエニヤツラヲミチビクケンリアガアルノカ?』
本当に相も変わらず、赤き血で殴り書きされているそれ………、
そしてまた私の視界は黒く染まり、暗転するのだった………。
重い瞼を上げた私が見たのはどこかの天井のようだった。
目が覚めると同時に、記憶を辿ればここがどこなのか予想がつく……。
するとそんな私の視界に……二人のダークプリーストが映りこんだ……。
「お目覚めになられましたか?」「どこか痛みはございませんか?」
現状から察すると、どうやらこの場所は医務室の個室らしい。
おそらくキャスリン将軍の拠点の医務室だろう。
それも一人用のベッドしかない所から察するに特別医務室といったところか。
なにか夢を見ていたような………ああだめだ、思い出せない………。
「ああ……、大丈夫だ。痛みも疲れた感じはない」
「そうですか、それはよかった」「それなら私たちも安心です」
「お前たちは……まぁ聞かずとも予想もつくか」
「はい、私どもはキャスリン将軍の命にて貴方様を看護しておりました」
その二人のダークプリースト、姉妹なのだろうか?
息も合っている上、顔が非常に良く似ている。
一応魔物にも図鑑とは違って、其々にも顔の特徴などで多少の違いはあるが
この二人はまるで鑑あわせしたかのように瓜二つだ。
私は自身の手を見て、握り開いたりを繰り返し、体の完治を再度確認し、
二人に聞いたところ、あの森での戦いから二日ほどが経ったらしい。
いや、戦いの最中に夜二十四時は確実に経過していただろうから
約一日といったほうが正しいかもしてれん。
しかしそれでもそんな永いこと寝込んでいたこととなる。
私は部屋の窓から空を見た、太陽の位置から時刻は昼時だと伺える。
「そうだ………ほかの…私の隊員たちは?」
「命に別状はございません」「みなさん別室で元気にしています」
「ただ、リザードマンのお方…」「そしてワーウルフとアラクネのお方…」
「サキサたちがどうかしたのかっ?」
「この三名は戦闘での出血による貧血気味」
「およびアラクネのお方が過度の魔力放出」
「「多少の休養を用いる必要があるでしょう」」
姉妹が交互に言葉を並べ(一々目線切り替えるのが正直メンドクサイ……)
二人して両手を合わせ握り、ダークプリーストらしい祈りを示している。
「そうか……だが命に別状はないのであれば安心か………
ここでの治療はお前たちダークプリーストが専門なのか?」
「はい、こちらの拠点での医療担当です、ですが………」
「なにも私たち、ダークプリーストだけというわけではございませんよ♪」
すると部屋の扉が開き、入ってきたのは数人の魔女たちであった。
その手には私の黒軍服があった………………んっ?
「………………………………」
私は自身の格好を確認する、傷の名残で包帯を巻いていて気づかなかった。
上半身裸………ズボンは……患者用のズボンがはかされているだけマシか…。
「傷は完治しておりますから…」「包帯をお取りしますね?」
「あ、ああ…」
言わなくてもいいことだろうがあえて言おう…………嫌な予感しかせんぞ。
ダークプリーストは禁欲的な男に襲い掛かる傾向が強いからな………
いやいやいや、別に私はそこまで禁欲的というわけではないぞ!?
この間、リゼッタと体を交えたばかりだし…………まぁそれ以前は……
少なからずシュザントに来てその手の自慰行為は控えてはいたが………
あれっ、これって……案外やばいのでは………?
いやいやいや、だが待て……向こうはあくまで介護士としての仕事で
私に付き添っているのだ。キャスリン将軍の命ならば仕方のないこと。
第一、いくら魔物だからといって私と彼女達の関係は軍人の上司と部下だ。
軍人なら当然それぐらいは弁えているだろう。
自己思案解決を済ませるとすぐにその姉妹は私の包帯を丁寧に取り除いた。
その後ろでは数人の魔女達が私の服を持って待機しており、
包帯をすべて取り除き終わると前に出た。
「「軍服の方はこちらで洗浄させていただきました」」
「おお、それは助かる……ここのところそういった余裕がなかったからな…」
「お役に立てれば光栄です♪」「ではどうぞこちらへ……」
二人が私の軍服をそれぞれ持ち、私に傍に来るように煽る。
「…………さすがにズボンはまずかろう……自分で着替える【ガシィッ!】
……ぅおぉい、貴様ら何突然人様のズボンに掴みかかっとるか…」
「遠慮しないでくださいな♪」「お気になさらずにぃ♪」【ぐぐぐぐっ】
力ずくで私のズボンを下げようとする姉妹たちに必死で抵抗する。
後ろにいた魔女たちも興奮しているんだか緊張しているんだか、
両手で赤くした顔を覆い隠しながらも指の隙間からこちらを見ている。
…………というか見てないで助けろ…。
「貴様ら……仮にも私は上司だぞ…? 軍人としての弁えが……」【ぐぐっ】
「「私たちはそれ以前に魔物ですからぁ♪」」【ぐぐぐぐぐっ】
「…………………」
コラ、画面の前の君、ですよねーとか言わない…。
「……………ふんっ!」【ブンッ】
「「きゃあぁ〜♪」」
「お〜〜〜〜!」
私が力ずくで二人を振り払うと、後ろの魔女たちがなぜか感心の声を上げ、
ダークプリースト姉妹もなぜか遊ばれたような声を上げている。
とりあえず私は早急に二人から軍服を取り上げ、急ぎ足でその場を後にした。
「あ〜あ逃げられちゃいましたねぇ〜♪」「そうですねぇ〜♪」
【バタンッ!】
「「……あらら?」」
私は超早急に軍服に着替え、再び部屋に戻り周囲を見渡した。
「あ、剣ならこちらです」
魔女の一人が持っていた私の愛剣を受け取り、
再び逃げるように部屋を後にした。……そうだよ忘れてたのだよ悪いかっ!?
「意外とおっちょこちょいさんですねぇ♪」「うふふ、か〜わいぃ〜♪」
…………聞こえんわ…。
さて、いつもの私に切り替えねばっ………。
日頃シュザント拠点にて職務を果たしている私にとって
このような別地の拠点に訪れる機会など滅多にない。
その為、この拠点は非常に私の興味意欲を誘うのだった。
シュザントとはまた違った建物の作りや
外部からの敵軍を迎え撃つ為の軍事設備、いやはや興味が尽きないものだ。
しかしやはりと言うべきか………、人魔一体のシュザントとは違い、
ここは純粋に魔物だけしかいない拠点の為、道行く先にいる魔物たちが
必ずというほど私を見てくる。それほど人間の軍隊長が珍しいのだろうか?
「あの………っ!」
「?」
廊下を歩いている最中、突然声を掛けられ振り向いてみると、
そこにいたのは一人のゴブリンの少女だった。なぜか顔が赤いな?
「なにか用かね?」
「あ…いえ…その、お礼が言いたくて…っ!」
「礼…?………ああ、お前は確か昨日の戦いで……」
「はい!お兄さんのおかげで……その、あたしたち助かったから…それで……
あの、これ!よかったらどうぞっ……!そ、そんじゃっ!!」
そのゴブリンは私に小さな箱を渡すと、
早足で廊下の曲がり角へと消えていった。
そこからやたら「キャーキャーッ」と騒いでいる声が聞こえてきた為、
どうやらこのお礼というべき箱の中身は、
あのゴブリンだけではなく複数人からによるものらしい。
「ふふふっ、さーすがザーン隊長モテモテね♪」
「キャスリン将軍………」
後ろから声を掛けられ、振り向いてみればキャスリン将軍がそこにいた。
「もう体は大丈夫なの?」
「ええ、一日ゆっくりと休ませていただいたおかげでこの通りです」
「そう、ならよかったわ。どうやら傷もほとんど治ってるようね。
まぁ、なんたってウチの医務室にいる医療班は優秀ですもの」
「ダークプリーストは勘弁してほしいですがね……魔女はともかくとして…」
「あら、お気に召さなかったかしら?」
「傷が癒されても、精神が持ちませんな………。
隙さえあらば襲い掛かってこられてはこちらもたまったものではありません
一日無傷で休めたのが不思議なくらいだ」
「さすがに怪我人を襲うような無神経さは教えていないわよ、
怪我さえ治れば別だけど………♪」
ため息が出そうになるな、以前から思っていたことだが
本当にデュラハンなのかこの方は?
「そう言えば隊員のみんなは大丈夫なの?」
「キリアナ、シウカ、ノーザはそれぞれ自由行動をとらせていますが
サキサとリゼッタ、ヴィアナの三名は今だ休養をとっているそうです」
「そう、あの三人には随分無茶してもらったから仕方ないわね………
でもうちの医療班の治療技術ならどんな傷だってへっちゃらよ。
魔力を大量に消費しちゃったヴィアナとかには、
性のつく魔界の果実を食べさせてあげてるし、あっという間に回復するわ」
「なにからなにまで申し訳ありません将軍」
「何言ってるのよ、同じ軍に所属する仲間じゃないの
それに私達は貴方たちのおかげでこの間の戦いに勝てたのよ?
それなのにお礼もしないようじゃ、逆に私の騎士としての誇りが廃るわ。
さっきのゴブリンやほかの魔物たちだって、みんな貴方に感謝してるのよ?」
そう言って将軍は私の手に持つ小箱を指さすのだった。
(そうだな……少なからず、サキサたちは頑張ってくれたんだ。
それを拒むというのは将軍にも悪ければ、みんなにも悪いだろう……)
私はそう自分に納得させ箱を開けた。
「これは……」
「へぇ、あの娘たちにしちゃあ随分と洒落たプレゼントじゃない♪」
箱の中身にあったプレゼントは白手であった。
君たちの世界で言うと、タクシーの運転手などが着けている
ああいった感じの手袋だ。
私はゴブリンが立ち去った曲がり角のほうを見る。
「きゃっ!?///」「わっ、こっち見た///」「気に入ってくれるかなぁ///」
なんともまぁ微笑ましいものだ、
本人たちは隠れてこちらの様子を伺っているつもりなんだろうがな。
「ザーン隊長、着けてあげたら?」
「もとよりそのつもりですよ」
私はそのまま迷うことなく、その白手袋を装着した。
そしてゴブリンやオークたちのいるところまで歩み寄った。
「え、…えぇっ!?」「わわっ、こっち来たぁ…」「お、怒られるっ!?」
「………お前たち」
『は、はいっ!?』
「ありがとう、非常に気に入った。大切にさせてもらう…」
『////!!!??』
彼女たちは顔を赤くすると、
まるで逃げるかのように走り去ってしまった。
「……怖がらせてしまったのだろうか…?」
「ふふっ馬鹿ね、そんなんじゃないわよアレ」
「? どういう意味ですか将軍」
「さぁってねぇ〜、それくらい自分で考えてみたら?」
…よくわからんな。
「あ、そうだザーン隊長。よかったらお願いがあるんだけど………」
…………?
----------------------------------------------------------------------
≪魔王軍キャスリン拠点:中庭訓練場≫
【ギンッ ガンッ ギギィンッ】
「はぁっ!」
「それぇっ!」
【ギィンッ……】
「くっ……この攻撃も通じないなんて………さすがにやるわねザーン隊長」
「お褒めに預かり恐縮限り、だがこちらも同じセリフで返しましょう将軍」
キャスリン将軍からの要望は私との手合わせだった。
とはいっても、互いに病み上がりの為、
体が鈍っていないか確かめる程度のものだ。
「では次はこちらから……………ふッ!」【ヒュンッ】
「………っ!?ふふっ、さすがにはやいじゃない!」【ガガガガガガンッ】
一息入れると同時に、将軍の懐まで一気に入り込み、
手足の関節部分を狙った連続攻撃をした。
しかしさすがかな、将軍も己の剣を巧みに動かしそれを防ぎきっている。
【ガガガガ】「ハアァッ!!」【ガンッ!】
(うおっ………)
さらには私の剣撃を上に跳ね返した。
これにより私に大きな隙が生まれ、将軍は即効で仕掛けてきた。
だが私も即座に剣を持つ手に力を入れ将軍とほぼ同じタイミングで仕掛けた。
【ピタッ…】
そしてお互い、相手の首元に剣が直前に止まった状態で
決着がついたのだった。
「………引き分けですかな」
「………ふっ、どうやらそのようね」
互いに剣を首元から外し、剣を鞘に納めると一礼をした。
『きゃああああああああああっ!!//////』
「!?」【ビクゥッ】
不覚にも体が反応して驚いてしまった、
周囲を見渡してみると、響き渡る声の正体は
ここの拠点の大勢の魔物たちであったことを確認した。
…………以前もあったなこのシチュエーション、デジャヴというやつか。
「すごい、将軍と互角だなんて……」
「昨日アタシ、あの人の戦いぶり見てたけど凄かったわよぉ〜」
「確か最近話題のシュザントの隊長なんでしょう?」
「人間なのにあんなに強いなんてかっこいいわぁ〜〜…」
「やっぱやっぱぁ、ああいう人と恋がしたいなぁ私///」
「さっきも〜、私たちのプレゼント喜んでくれてたよぉ〜」
「ふふっ、私の拠点人間の男がいないから仕方ないわねこれは」
周囲を見渡している私の心情を察したのか、将軍がそう言った。
「しかし、男の軍人がそんなに珍しいものですかね?」
「…貴方って軍人としては優秀だけど、そういうのには疎いわねぇ」
「…?先程も似たようなことを言っていましたが、どういう意味です?」
「さあってね、私が言ったって仕方がないもの。
それぐらい自分で理解することね、人間として男としてね」
「……しかし…」
『ねぇねぇシュザントの隊長さんっ!』【グイッ】
「おぉっ?」
突然私の腕を強く引っ張ってきたのは人だかりの
ところにいた魔物たちの内のホーネットたちだった。
『この後お暇でしたら私たちの訓練に付き合ってくれませんか!?』
「う、うむ。私でよければ構わないが………」
『やった♪それじゃあよろしくお願いします♪』
「……やれやれ」
私は溜め息を吐きながらホーネットたちに腕をつかまれていった。
私の後に続くかのようにオークやゴブリンたちが着いてきたので
これは最悪砦にいる全員の訓練に付き合わされるな……。
「がんばりなさいなザーン隊長、期待してるわよぉ〜」
………できれば助けて欲しかったというのが本心ですがな将軍殿。
≪シュザント:サキサ視点≫
太陽の光に満ちた空の下で、私は木陰から遠目で隊長を見ていた。
大勢のホーネットたちのスピアランスと対峙し、
自身の剣で其れを受ければそれぞれの悪い点を指摘する。
近くで素振りをしているゴブリンやオークたちにも力の入れ方を指摘し、
時にはその腕に触れ判りやすく指摘する。
当然その魔物の顔は赤く染まり、
隊長に対して尊敬以上の恋焦がれたような目を向けている。
「やっぱあの人かっこいいよねぇ〜♪」
「うんうん!クールだし、ちょっと見た目は怖いけどとっても優しいし♪」
「訓練での教え方もすごくわかりやすい………」
「夕食に誘っちゃおっかなぁ〜……」
「あ、こら!抜け駆けするんじゃないぞっ!」
「ふん!早い者勝ちよーだっ!」
隊長から指導を受けた魔物兵士たちが
集団を作り、隊長に聞こえないところから小声で騒いでいる。
私はリザードマンの、リゼッタほどではないが多少優れた聴覚力で
其の会話を聞き取った。
----ズキンッ
まただ……、今日の私はなにかがおかしい……
隊長がほかの魔物に触れるたび、親しそうに話しているたびに心が痛む。
こんな痛み私は知らない、いかなる戦で体を傷つけてきたが
このような痛みを私は味わったことがない……。
最初この痛みを味わったのは目が覚めてから……
隊長とは別室の医務室のベットで昨日のことを思い返してからだった…。
人間離れしたマスカーの嫡子が率いる軍隊との戦闘、
その戦いの後の私たちを強襲した特殊部隊とダヴァドフ……、
そして……私にあそこまで言ってくれた隊長……。
休養を取らなければいけない筈なのに、
私は隊長の事を思い出すたびになぜか落ち着いていられなかった。
そして今こうして訓練場に生えている木影から隊長を見ている。
原因はわかっているんだ、
昨日………突然の事態に取り乱した惨めな私を叱ってくれたあの時……
あの男はこう言ってくれた。
『お前は私の自慢の部下だ………』
「……………………〜〜〜〜〜/////♪」【ジタバタ】
両手で頬をおさえて私は頭を何度も横に振った。
「自慢の部下♪………自慢の部下♪……素晴らしい戦士♪……えへへ」
…………ハッ!?、いかんいかん思い出すだけで
口元がものすっごいニヤけてしまう、
これじゃあ私が変人みたいじゃないかっ!?
はたから見たら絶対引かれるぞこれっ!?
落ち着けぇ〜、落ち着けぇ〜私の心臓ぉ〜〜、深呼吸だ〜深呼吸ぅ〜〜…
ふぅーーっ………よし、だいぶ落ち着いたな……………。
「サキサ」
「うひゃああぁぁっ!!?」
【ビクッ】「…………あースマン、驚かせたか?」
「たっ!?た、たたたたいたいたいたたた隊長ぉっ!!?」
なんと目を瞑り深呼吸をし、再び瞼を開けた先には隊長が立っていた。
隊長も手を組んだまま体を飛び跳ねていたが、ビックリしたのは私のほうだ!
その証拠に未だ心臓がドキドキッ言ってるぞ…………、
うん、驚いたからだぞ………?………そうだろ私の心臓?
「サキサ、体のほうは大丈夫なのか?」
「え…あ、ああ!問題ないぞ!ここの医療班はなんとも優秀だなっ!
そ、そういう隊長こそどうしたんだ?彼女たちとの訓練は?」
私は隊長の後ろを見てみると
遠くで魔物兵たちがその場に座り込みくつろいでいる
そうか………休憩時間というわけか……。
大方、隊長は私の姿に気付いて逃げるようにあそこから退いたのだろう……。
------さわっ
「うっひゃあっ!?」
な、なななななななんで隊長いきなり私の背中を触っているんだッ!?
「……………ふむ、傷はちゃんと塞がっているようだな」
「えっ……?あ、そ…そうか確認……、
あ…ああ!だから問題ないって言ったではないかっ!」
「フッ、そうだな…余計な世話だったかもしれん。
だがなサキサ、無理はしないことだ………
先の戦いではいろいろと無茶をさせたからな…………」
「な……なにを言っているんだ隊長っ!!!」
「!?」
隊長の発言に私は思わず怒鳴ってしまった………だが構うものかっ!
「隊長こそわかっているのか!?倒れたのだぞッ!?
私のことじゃない!隊長がだ!!無理をしているのはそっちのほうだっ!!」
私は心の感情のままに隊長の胸倉を掴むように引き寄せた。
私のその手は僅かに震えてしまっている……。
「隊長………もっと自分の体を大切にしてくれ………
私たち第四部隊のみんなは隊長が必要なんだ………、
隊長は………私にとってまさに理想の隊長だ……みんなのために気遣い、
厳しく…昨日だって混乱していた私を叱ってくれた………」
私は隊長の顔を見ることができなかった、
顔をうずくめ、目から熱いものが頬につたるのを感じてしまう………。
「……私はぁ…ひっくっ……こんなにも…泣き虫で………弱い女だ……
いつも……意地を…張っていても…、どんなに…強がっても………
ヒックッ…本当は…怖くてたまらないだ………
でも……でも……隊長の役に立てるなら…私は…頑張れるんだ……」
「………………………」
ああ……いつの間にかこの男が私の体を優しく抱きしめてくれている……
あったかい……この男の腕の中でならこんなにも安心するんだ……………。
「私……私は…っく、…頑張るから……隊長の為の強い女でいるからぁ……
だから……隊長も…私のことを信じて…少しでも休んでくれ……頼む……」
「………サキサ…」
すると互いに密着していた状態から、
隊長が私の両肩を掴み、互いとの距離を引き離し、私の顔をじっと見た。
「………………すまなかった…」
「………………えっ?」
そしてなんと、隊長は私の両肩を掴んだまま頭を下げてきたのだ。
「私は……自分が無理をしてでも頑張れば
お前たちを救えるとずっと考えていた………だが……間違いだったな……
こんなにも…お前に頼られていると同時にこんなにも心配させていたなど……
私は不甲斐無い隊長だ………」
「そんなことッ……!」
するとそこで、隊長はもう一度私の体を強く抱きしめてくれた……。
今度はさっきのような慰めのような抱擁じゃない、
男らしく…力強く……その身に責任感を感じているようなものだった……。
「ありがとう………お前は私に重要なことを気付かせてくれた……
これからはお前をより理解し、お前に相応しき隊長であることを約束する…
だからお前も強くいてくれ……強く…誇り高きリザードマンとして……
そして…その強き心でどうか私を支えてくれないだろうか……?」
ああ……この男はなんてまっすぐな意志を持っているんだろうか……、
嬉しくてたまらないこの想い……、抱きしめられたその体を隊長に預け、
自身の顔を隊長の胸元に沈めている………。
だが私はゆっくりと隊長から離れると、
たぶん今までにない穏やかな顔でこう言った。
「ならば………今夜、時間を頂けるか……?」
≪主人公:ザーン視点≫
日時が明日にならんとする手前の夜……。
拠点からの部屋の明かりが徐々に薄れていくのを私は
そこから少し離れた草原の丘の上から無心に眺めていた。
いつもと同じ軍服を纏い、肌寒い風を感じながら
傍に生えている唯一一本の木の隣で私は昼間のサキサとの会話を思い出す。
「信じる…か、そうだ……私は彼女を…彼女たちを能力の高さだけでしか
視ていなかったのかもしれない……それなのにシュザントの隊長気取りか…
ふん、とんだ御笑い種というわけだ……情けない……
これでは一体何のためにあの演習をしたのかわかったものではないな……」
私は右手を見ると、握り締めを数度繰り返し、
新しく装着した白手の馴染み具合を確認した。
うむ、昼間にみなと訓練しただけありだいぶ馴染んできたな。
この肌寒い夜に対しては防寒にもなれば、
剣を持つ際にもそれなりに様になる。
なぜこんな話をしたか…?
なぁに、気付いている者は気付いていよう……、
サキサがわざわざ私をここに呼び出した理由に…………。
「待たせてしまったか?」
おっと、上手いタイミングでサキサがやってきたか。
私は丘を登ってくる彼女を見下ろした。
「月が真上に上る時……、丁度いい時間帯だ。私もついさっき来たばかりだ」
「それならいい、私も呼び出しておいて待たせてしまうなど
みっともないことはしたくないからな。
すまない隊長、わざわざこんな時間に付き合わせてしまって……
抜け出すのに苦労したんじゃないのか?」
「一人…見回りのオークに見つかったが適当に言葉を交えてどうとでもした。(なぜ会話の最中に顔を赤らめたのかはわからんがな……)」
「ふふっ、隊長らしい………」
丘を登りきったサキサだったが、そのまま私を通りすぎると
丘の向こう側………拠点より反対側を眺めていた。
「隊長……少し私の昔話を聞いてくれないか……?」
その言葉に私は沈黙という承諾をするのだった…。
「私は……メリサ平原という地で遊牧民として
同じリザードマンたちと暮らしていたんだ…」
メリサ平原……この大陸の中央付近に位置する大平原だ……。
…………まて、確かあそこは……。
「隊長も知っているだろう、あそこは今………マスカー領なんだ」
「……………………」
そう、シュザントが結成される数ヶ月程前、
マスカー軍の侵略に魔王軍が大規模な国境戦を繰り広げたのだ。
先ほども言ったとおり、メリサ平原は大陸中央付近に位置する広大な大平原。
広大なだけあり、かつて互いの国境線がその平原に中途半端な位置に
引かれていたが、マスカーの大規模な侵略により、
今ではメリサ平原全体がマスカー領として
完全に飲み込まれた土地となってしまった。
シュザントが結成される前に起こった国境戦………、
そしてそこに暮らしていた………、これだけでも私は十分な予想ができた。
「サキサ………お前は…」
「さすがに予想もできるだろう?
メリサ平原に暮らしていた魔物はあの戦いに巻き込まれて大勢犠牲になった、
私たちリザードマンも……例外じゃない……ということだ……
そう…、忘れもしない……あれは今から丁度半年前だ……」
サキサは私に背を向けながら離しているが、
なんとなく今の彼女が悲しそうな顔をしているであろうと予想が浮かんだ…。
今のサキサの声色がとても低く力ないものだったのだからな……。
「私たちメリサ平原のリザードマンは
互いに協力し各地を回りながら生活をしてきた集団的なリザードマンだった。
マスカーから身を守るために結成された集団だ、
時には野生動物を狩り獲物を競い合い、親魔物派の町や村に訪れては
獲物から剥いだ毛皮などを売るなどをして生計を立てていた。
ふふっ、もうずっと前の事だというのについこの間のように感じるな……
ああ……賊などを退治して報酬を貰ったこともあったかな…………」
話の最後の声が少し震えているような感じがした、
…………思い出して話すだけでも悲しいということだろう……。
私は一瞬、無理に話す必要もないとも思った……。
しかし彼女が自ら私を呼び出し話している……、そう考えると、
自分の過去を私に話しているのも彼女なりの決断とも思えた。
だから私は聞く側の義務として、彼女の過去を聞き入れることにした。
「私も遊牧民になる前はちゃんとした村で両親と一緒に暮らしていたんだ…
だが…ある日マスカーの侵略を受けて父上が死んでしまったんだ……。
幼かった頃の私も、母も死ぬ物狂いで逃げた……、
侵略してきたマスカーに太刀打ちすらもできなかった……」
「リザードマンの遊牧民になったのはその後か……」
「ああ…、私と母は自分の身は自分で守り、
大切な人を守るという信念を持っていた。父が殺されたときのような
悲しい思いは二度としたくないと誓って………。
メリサ平原のリザードマン遊牧民は村にもよく訪れて親交があったからな…
みんな、私と母を歓迎してくれた………。
彼女たちも私たちと一緒だった…、大切な家族を奪われ、
屈辱的な敗北を味わっている……。
だからみんなで力を合わせて生きていこうとも誓った…………。
今思えばあの時が、リザードマンとして……戦士として……
私が一番充実していた時期かもしれない………」
「………………………」
「母やみんなも厳しかったが優しかった……、
私にあらゆる戦闘術を教えてくれて……私を立派な戦士にしようとしてくれた
みんなが私の家族のようなものだった………なのに……ッ……うっ…うぅ…」
サキサが片腕で顔を覆い始めた。
「……サキサ、辛いのならば…」
「とめないでくれ……話させてくれ………今話さなければ絶対だめなんだ…」
「……ならばゆっくりでいい…、夜は永い…私はいくらでも待つ…」
「ありがとう…隊長……」
片腕で顔を抑えたまま、サキサは体を震わせながら
悲しさからの声を漏らしていた。
【ぎりっ…】
それを見ているうちに私は歯を噛む力と拳を握る力が
無意識に強くなっていた。
だが同時に安心もしたかもしれない………、
少し不安だった……、先ほど私は彼女たちを能力でしか視ていないと自覚した
……だが…この胸の内にある彼女たちに対するこの想い……
これだけは本物なのだなと……再び自覚できたのだからな……。
サキサの体の震えが落ち着いてきた…。
「そして半年前…忘れもしないあの日………
メリサ平原でいつものように狩りをしているときだった、
私たちはマスカー軍の攻撃を受けたんだ……、
メリサ平原に侵略してきた時……
奴等が真っ先に攻撃を仕掛けてきたのは私たち………、
わかるか隊長…?やつらは私たちを………
魔王軍の武装兵団と勘違いして攻撃してきたんだ………」
「……………ッ!」
「私たちは……恨んでこそはしていたが…逆襲しようなんて思ってなかった…
ただ自分たちの身を守り、生きたかっただけだったのに………
ただみんなとの幸せが得たいだけだったのに………
私たちももちろん対抗はした………だが…あんなの……あんなものは……
戦士としての戦いじゃない………ッ!
私たちを囲み、長槍や弓を使った遠距離攻撃………
疲労をしたリザードマン一人を複数人でのリンチ攻撃………
串刺しにされて状態で死体を次々と掲げられる地獄絵図……」
サキサが両腕を押さえて震えている…、
私はそっと彼女の肩に手を添えた……やがて徐々に震えが収まる。
「戦いというかりそめの虐殺のなか……私は……生き延びた…
母が……自分の身を挺して………私を逃がしてくれた……、
母は…体中に矢を浴びながら、戦いの負傷で気絶した私を抱えて……
やってきた魔王軍に私の身柄を預けようとしたんだ……、そこで私は……
目を覚ました……でも…そこにあったのは……私とは逆に、
目を閉じ…冷たくなりながらも…私を抱えていた母の姿……
仲間たちの全滅という……残酷な知らせだった……」
「…………………………」
「そして私は…軍人になった………
元々腕にはそれなりに自信はあったからな…、死んだみんなのおかげで……
士官学校に入って間もない私に……上の連中がシュザントの件で
私をスカウトしてくれた………」
「そんな短期間で…か、よほど腕を買われていたということか………
(或いは…彼女の境遇に同情した上の連中の配慮か……。
だがそれはそれで……こいつにとっては地獄でしかないかもしれない…、
しかし………私の部下である限りそんな思いは絶対にさせんぞ…ッ!)」
「ふふっ……、シュザントに入って色々なことがあった……、
一番驚いたのは…キリアナとの再会だったな……」
「キリアナとの……?」
「言ってなかったか?私とキリアナは同じ村の出身なんだ……」
「……………」
私はそれ以上、キリアナについては聞かないことにした。
キリアナのことは……またいつか知るときがあるだろう………。
「ふふふっ……」
「………………なにがおかしい?」
「そのままの意味だ…、なぁ隊長……私がシュザントに配属されて
一番嬉しいと思ったことは何だと思う………?」
ここでサキサがはじめて背を向けていたところから顔をこちらに向けてきた。
「…………貴方と出会ったことだ」
「……………!」
「貴方が私たちの隊長になったときは色々あったなぁ………、
実は言うと、あの時の私は人間に対して不信を抱いていたんだ、
私たち魔物は人間と共存する為にこの姿があると母は言った。
…でも、家族を人間に殺されたのに、その人間を信用できるのか不安だった
その上、私たちの隊長が人間であると聞いた時は不安でいっぱいだった…
だが、隊長を見ている内に……ふふっ、いつの間にかそんな不信感も
どこかへと消え去っていった………」
目を閉じながら……彼女が浮かべている笑みは…私の心を痛くした……。
「ああ……話してよかった、大分スッキリしたぞ隊長…」
「……………それだけの為に呼び出したわけではあるまい…」
「…ははっ、参ったな。全部お見通しか………、
私たちに相応しい隊長であることを約束する、隊長が言った言葉だ……、
今一度確認したい……、その言葉に偽りはないな…?」
「ない、一度口にした言葉に責任を持つ覚悟はある」
「即答…か、ならば隊長…剣を抜け。
私も隊長にこう言った、貴方の為に強い女でいる……と」
「『戦士』としてではなく…か?」
「ああ、『女』としてだ…。だから今一度……この手で…
この剣で……隊長と勝負がしたいッ!!
手合わせとしてではなく、純粋な勝負で…隊長を確かめたい…ッ!!」
「……………………」
迷いのない目で、剣を抜いたサキサを見て
私はゆっくりと剣を鞘から抜くことによって、意を決するのであった。
リザードマンである彼女との『勝負』…………
それはどういう意味を指すのかを理解して………。
「………………………………」
「………………………………」
沈黙……今、私もサキサもその肌には夜風よりも
冷たいものを感じているだろう…。
そして私たちの傍に聳え立つ唯一一本の木から葉が落ち、
互いの間を落下した瞬間、それが開始の合図となった。
【ガァアンッ!】
それなりの間隔があった互いの距離が一瞬で目の前にあり、
刃と刃がぶつかり合った大きな音を夜の草原へと響かせた。
「…………ッ!」
「………………」
私は攻撃を相殺されてはにかんだサキサの目を見て確信した………。
……本気だ…、以前の手合わせとは比べ物にならないほどの
殺気が私の全身を強く刺激していた。
だが私もそれに押されるわけにはいかない、
振り切った剣を持つ手に再び力を込め、∞字を描くように剣を振り
容赦なしの連撃を仕掛ける。
【ガガガガガガッ!】
この攻撃は体の筋肉構造上、鍛錬の成果もあり
相手に反撃の隙を与えないほどの連撃を叩き込める。
事実、サキサは防戦一方…………【スパァンッ】……なにっ!?
「ぐあっ!?」
いつの間にか私は地面に倒れていた、
だが足に伝わるこの痛みが、その理由を教えてくれた。
(尻尾で足を払ってきたか……ッ)
「せやぁっ!!」
(………ッ!考える暇も無しかッ…。いや……この勝負に思考は不要か…
ただ……リザードマンでいう……本能で戦うのみ……ッ!)
私は追撃していたサキサの剣撃を剣で振り退けたが
続けざまにきた尻尾による攻撃はとても対処できなかった。
【ズガンッ】
「ゴッ……ホォッ……!」
衝撃と口からの血の味、しかしこれは甘んじて受けざる得ない……。
だがこれで剣と尻尾の攻撃手段は使い切った。
私はサキサが攻撃態勢を取り戻す前に、
剣を持っていないもう片方の手で地面から体を押し上げ
彼女の腹に足蹴りを放った。
「ぐああぁっ…!」
衝撃からサキサが後方へと吹っ飛んだが、このチャンス逃す手は無し。
私は体を起き上がらせ、その勢いのままサキサへと駆けていった…。
「……ッ!…まだだぁっ!!」【ガァンッ】
するとなんということだ、サキサも地面に尻尾で衝撃を与え、
空中で体を一回転させ瞬く間に体勢を取り戻した。
しかしここまでくれば私も止まれない…ッ、
剣を構え、サキサに向けて走りの勢いを乗せた突きを放った……。
【ギィィンッ!!】
この時、私はあることを思い出した……。
以前行ったサキサの手合わせ……あの時サキサは両腕で剣のグリップを握り、力任せで剣もろくに固定できていない防御をしていた。
だが今目の前では、片手でグリップを強く握り、
もう片手は刀身を抑えることで固定するという完璧な防御ができていた……。
これには少し感動を覚えてしまった………。
しかしそれもつかの間……、
次に私が見たのは、私の剣が持ったまま上に弾かれ………
逆に剣を上に掲げて、刀身から……
鮮やかの薄緑のオーラを放たせていたサキサの姿だった。
「 『リザード・ライン』ッ!! 」
その瞬間、夜の平原に鮮やかな薄緑色の一本筋が描かれた。
10メートルほどの距離までその筋は伸び……魔力の光が消えると、
そこには痕跡のように残った一本の裂け目が出来上がっていた…………。
≪シュザント:サキサ視点≫
リザード・ライン………、
私が母から伝授された唯一の魔剣技。
我が愛用のブロードソードに魔力を鋭く乗せ、
振り下ろすと同時に、前方に向かって可能な限り魔力の斬撃を伸ばす……。
私が今、唯一使うことができる必殺技……、
同族以外の他人に見せたのは……これが初めてかもしれない………。
私にとってはこれが最高の技………だが…ふふっ、認めたくないものだ……
舞い上がる砂煙の中……私の喉元には以前と同じく剣が突き付けられていた。
そして当然、その剣を持つ先には隊長がいた。
私が作り上げた裂け目の僅か横で………。
「そういった技は距離をとって放つことだ……、
あんな大振りでは隙を生みすぎてしまう……、重力系が相手ならまだしも、
私のような素早いタイプには通用しないと思え…………
だが私も咄嗟だったからな……どちらかといえば私は運がよかった……
お前のその魔剣技……感服したぞ…」
ふふっ、己が勝利を宣言するより私に対する助言か…………。
本当……この男らしい………、
私は自然とこぼれた小さな笑みと一緒に、自分の剣を納めるのだった。
それを見た隊長も剣を鞘へと納めたその瞬間だった……、
私は隊長に強く抱きつき、そのまま押し倒した。
「ありがとう隊長……これで私は…本物の…立派な女となれる……」
ああ、もう我慢することができない………する必要もない。
さっきの戦いで………いいや……もしかしたらそれよりもずっと前…
私は気付いてしまったんだ…この気持ちに……この想いに…。
私はこの男がこんなにも好きだったんだ……。
だれがどう否定しようと……これはもう確実だ…。
胸の鼓動の高鳴りが今にも私の心臓を抉りそうだ……、
ああ……ほしいっ!ほしいっ!私を倒したこの男がほしいッ!!
おそらく今の私は堪らなくなって
見るに耐えないみっともない顔をしているだろう。
隊長の背中を木に凭れさせて彼をジッと見た。
互いに見つめ合って……、どちらも口を開こうとしなかったが、
なんと…隊長が両手を私の頬に添えて、ゆっくりと自分の顔に近づけてきた!
「リザードマンであるお前との真剣勝負だ………
私も示しはついている…………。(許せ、リゼッタ……)」
「ふふっ……んっ……はぁ……んぅ……♪」
反則的なまでに官能的なキス……、
ゆっくりと唇を離すと同時に、隊長が私の体を力いっぱい抱きしめてくれた。
私にとって堪らない行為だった………。
事実こんなに密着されては、アソコがうずきまくってたまらない……。
「サキサ……過去を忘れろとは言わん…、
だが…今を幸せに生きるというのであれば……私はお前への慰めを施そう
戦士として……女として……リザードマンとして……
魔物としての幸福を私は約束しよう………」
「〜〜〜〜〜〜〜ッ/////
ああ…好きだ隊長っ! 堪らなすぎる!幸福すぎるッ!!
私の全身の血がこんなにも興奮している……ッ!!」
私の顔が限界まで赤く染まっているのがわかる……。
でも我慢なんてする必要はどこにもない…っ!
彼の顔に無数のキスの雨を降り注ぎ、この幸福を共有しようと
服も乱暴に脱がしにかかる。そしたら彼も私の服を脱がしにかかってくれた。
これだけでも私は嬉しくて堪らなかった。
「ああっ、隊長ぉ……少し脱がし方荒いぞぉ……あぁっ…♪」
ふふふっ…黙れとでも言いたいのか?
そんな乱暴に私の胸を攻めて………あぁんっ、乳首がぁ……♪
たいちょ………予想以上に……うまいぃ…♪
「…………綺麗なものだな…」
「ふぇっ…………?」
「いやっ……なんでもない……んっ…」
「んんぅ………んぁっ…れろぉ……♪」
彼の舌が私の舌を正確に犯し始める…、
さすがは隊長…、こんなところでも巧みなのだな…♪
【ぐいっ】
「きゃぁっ!?」
すると先ほどまで木に体を預ける形だった隊長が
逆に私を押し倒し、今度は私の体全体に体を預けてきた。
そしてそこからさらに私の首筋を言葉にできない舌使いでキスしてきた。
「ひゃぁっ……ああぁっ……たいちょっ…そこはぁ……♪」
「だったら手っ取り早く挿れてイかせてやろうか……?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ/////」【ぞくぞくぞくっ】
耳元に囁かれたその言葉に
全身に恥ずかしさからの震えと嬉しさからの震えが駆け巡る。
「ふん、可愛いやつめ…」
私の前髪を掻き分けると、そのまま私の額に軽くキスをし、
私の体はまた強く反応した。
「〜〜〜〜〜〜っ///♪♪」【ビクンッビクンッ】
体が反応するがままに、私は隊長の背中に両手を回し、
心から愛おしいと想えるこの人を離したくないと、ホールドするのだった。
「なら望みどおり挿れてやる。力を抜け……出来る限り優しくする……」
「………はぃ…♪…………ザーン……隊長ぉ…♪」
私は体を僅かに震わし、隊長に抱きついたまま
自分の陰部に彼の肉棒が入り込んでくるのを実感した。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ/////♪♪♪!!!!♪♪♪」
声にならない悲鳴を上げ、私は今まで味わったことのない
初めての快感に、目を大きく見開かせ、下品に舌を出した。
「んっ♪〜〜〜ッんぅぁ……はゃんっ…♪」
しかしその舌すらも、あっという間に彼の舌に犯されている……。
私の体全部がこの男に犯されつくされている……。
そう想うだけで…………ッ、無意識にあそこが締まってしまうぅ…ッ!
「ッ!……うおぉっ…!」
それが隊長にはそうとう応えたのだろう、
体を敏感に反応させ、顔が僅かに歪んだ。
「そろそろだサキサッ……!」
「はいっ!ザーン隊長っ……だしてくれぇっ!!
私の膣に貴方という痕跡をっ……私に…私にぃぃぃぃっ!!」
互いに力いっぱい抱き合い、唇を重ね合い、私たちは絶頂に達した。
私は自分の中に、愛している男の痕跡が注がれているのを実感しながら、
魔物としての最高の幸福の中、彼の胸に体を預けたのだった。
「はぁっ♪………はぁっ♪…はぁっ…♪…………大好きっ……♪」
二人だけの夜……私はこの時だけ…、
今この瞬間を心から永遠に続いてほしいと願ったのだった………。
ああ……これからはこの人の為に全力を尽くそう…
この人だけの戦士として……この人だけのリザードマンとして………
女として頑張っていこう。
貴方は私が守るから、無理をせず…やれるだけのことをやればいい……
それを支えるのが私の……ううん、第四部隊みんなの役目……
そうだろう……ザーン隊長…♪わたしの愛しき人……♪
11/12/29 23:22更新 / 修羅咎人
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