最後の話 なんだかんだで大団円
メタリアはアゲートの部屋に入ると安心感から緊張の糸が切れ、その場で気を失い、身体を床にぶつかる寸前でベリルが抱きかかえてベッドの上に優しく寝かせた。
「メタリアやアゲートに迷惑を掛けたからここを出ていこうと思うの…」
メタリアの髪を手で優しく梳いて言い、アゲートはドアに鍵を掛け終わるとベリルの方を向いた。
「姐さんが出ていったって何の解決にもならないよ。それどころか……」
続きを言うのを躊躇い、そこで口を閉じた。
「解ってる。きっと外には騎士が張っているでしょうね…」
「姐さんは何も解ってない。聖女さんが命を懸けて守ったのに、何で自ら捨てるような事をするの?」
「なら他にどうすればいいの?どうしたらいいのよ!!」
怒鳴るように声を荒げて言い返し、アゲートは目を閉じ少し考えて「姐さん。私に化けれる?」突拍子もない事を聞き、ベリルはその質問を無視して部屋から出ていこうとした。
「待って。姐さんが私になりきる事で姐さん自身を守る方法だ思う」
「……私がアゲートになってアゲートはどうするの?私になって身代わりになるって言ったら、それこそバカげているわ」
「姐さんに化けるけど‥身代わりにはならないよ。まだ野望も叶えてないからね」
「野望‥まだ聞いてなかったわね‥」
「ここまできて、はぐらかしても仕方ないから…」アゲートは一呼吸置くと、覚悟した顔に変わり話を続けた。
「ここを魔物娘と人が一緒に笑って暮らせるような所にしたい。地域によっては実現している事だからここも出来ると思う」
ベリルの目を見て強い口調で言い切り「でも‥貯めたお金で具体的に何をするかはまだナイショ♪」急に戯けた口調に変わり「だから姐さんの身代わりになる気はないよ」再び真面目な目に変わった。
その変わっていく様子にベリルは言葉を失った。
「……で私に代わって具体的にどうする気なの?」
「普通に外に出たら囲まれて、剣でグサリだからただ走るだけだよ」
「走るのそれだけ?」
ベリルは素っ頓狂な声を上げた。
「これでも仕入れ、仕入れ、仕入れ……で毎日重いものを背負って歩いているから足腰に自信はあるよ。なんだったらすぐそこの廊下で一緒に競争する?」
「止めとく。疲れるのって基本的にやんないから」
「姐さんって本当にそれっぽい気がする‥」
「そんな事はいいから!本当に大丈夫なの?狸だからって皮算用にならないでしょうね?」
「人を化かすからこその狸。狸が人に化かされたらそれこそ狸の名折れ。それに行き当たりばったりの姐さんと違うから大丈夫」
ベリルは何かを言おうとしたが…言ったことに対してつっこまれると瞬時に結論を出してその言葉を飲み込んだ。
「話はこれで終わり。この話の続きは聖女さんが気が付いてからにしようと思う」
メタリアが目を覚ますまでの間、ベリルはアゲートの姿に似せようと練習を重ねて……そして完全に瓜二つまで似せる事が出来た。
「次はこれを読んで」
アゲートは分厚い本のような物をベリルに渡した。
「これは教会のシスター達に今まで売ったものを纏めたリスト。それに仕入値や売った価格も書いてあるから、不信感を抱かれないように、これを熟読して上手くやって」
ベリルはその厚さに正直、ゲンナリしていた。
「その代わり‥仕入れで街の方まで行けば精が取り放題だよ」
取り放題。この一言がベリルをその気にさせて、熱心に読み‥メタリアが目を覚まし、アゲートが色々と事情を話していた事さえ気付かなかった。アゲートがベリルに話しかけても気付かなかった事にその台帳を強引に奪い、目を向けさせた。
「聖女さんに一通り話したから後は2人で上手くやってね。あと‥2〜3日で帰ってくるからね」
アゲートはベリルに姿を変えて部屋を出て出ていき、メタリアはこの時初めてアゲートもベリルと同じ魔物娘だった事を知った。
「メタリア‥ありがとう。また助けられたね」
サキュバスへと姿を戻しお礼を言った。
「でも‥メタリア自身を犠牲にするのはもう止めてほしい。それであたしが助かっても少しも嬉しくないから…」
「ごめんなさい‥」
メタリアは涙を流して謝った。
「だから‥なんで謝るの?」
「私が‥私だけが止められたのです‥。騎士様と司祭様で魔物娘の討伐に向かった時に……止められなかったから‥ベリルさんが怪我をして……」
「あのさ…メタリア‥」
ベリルは息を吐き出すとメタリアの方を強く見た。
「あたしはメタリアが止めなくて良かったと思う。だからメタリアに会えて、それに‥メタリアのような人がいるんだって思えたから‥剣が身体に刺さる寸前まで人を恨むことが無かったんだと思う」
ベリルは急に背中を向けて「メタリアはあたしにとっての本当の意味で聖女様なんだと思う。だから……メタリア。ありがとう‥」
「私もベリルさんと会えてよかったです。ベリルさんと生活をして、話に聞いていた魔物娘と違う事が分かりました」
2人は暫くの別れを惜しむように話し……メタリアが出ていくとベリルは姿をアゲートへと変え、教会の中でアゲートとして振る舞った。あまり好きではない祈りの時間は無くなったものの、メタリアと会って話せない事の方が何よりも退屈な時間へとなっていった。
そして夕食を終えて‥
シスターを対象とした商いの中、メタリアは広げてある商品の1つ‥小さな小物入れを手に取った。
「聖女さん」
ベリルの口から直に言われ、メタリアの表情は曇り、ベリルはその表情を見て心を痛めた。
「その小物入れを上げる。それと‥ちょっと待って」
ベリルは自らの思いを書き綴った紙を小物入れの中に入れた。
「あの‥」
「いいよ。いいよ。私の気持ちだから取っておいて」
メタリアが言うであろう言葉を封じるように先に言い、メタリアの手を握りその指の中に包むように小物入れを手渡した。
メタリアは部屋に戻るとその手紙を読み、返事を小物入れに入れて渡し手紙のやりとりで互いの事を伝えあっていき……3日が過ぎた。
そして‥その日の昼。
教主と共にベリルに化けたアゲートが教会を訪れた。
メタリアに神父、騎士に司教と1つの部屋に集められ‥「この者の無実は私が保証する」この一言が動揺を産んだ。
「教えに殉ずるのもいいが‥殉ずるあまり視野を狭めていったのが‥この事の原因と思う。そこで、視野を広げる意味で今まで敵視していた魔物娘と親交を深めていこうと思うのだが……」
それから教主の長い長い新たな教えが説かれ………
長い話が終わり、アゲートはベリルを連れてメタリアの部屋に入り、要点だけを伝えた。
「これで姐さんの命が狙われる事がもうないよ。でも‥サキュバスの姿で歩くのは止めてね。今日から魔物娘と親交を深めましょうってなっても、価値観は急に変わらないから、戸惑う人もいると思う」
「アゲート。ありがとう」
「礼はいいよ。私も人と良き隣人として付き合っていきたいって思ってたから、それに…」
アゲートが話を続けて言おうとしたその時、ドアからノックする音が響き、メタリアがドアを開けるとベリルに剣を突きつけた騎士が立っていた。
「この前は済まない事をした。謝って済まされる事ではないと思う」
騎士は剣を抜くとその束をベリルに握らせ「ベリルが私の事を許せない気持ちが強いなら、この剣で私がしようとしたように心臓を突き刺してほしい」
ベリルは騎士の勢いに戸惑いを覚えつつも‥
「そうね‥。命をかけて償うつもりがあるなら……」
そこで黙り騎士の顔をよく見た。
「意外に良い男だから、一生を私に捧げなさい。それで許してあげる」
ベリルの答えに騎士が逆に戸惑った。
「少し言い換えるわ‥。あたしに同じことが起きても、あなたにはあたしの事を守ってくれる騎士でいて欲しいの」
騎士はベリルの意図を理解するとその場で跪き、忠誠を誓った。
(あたしが誓って欲しいのは忠誠じゃないんだけど‥でもお堅い騎士なら仕方ないか。それに時間を掛ければ忠誠が愛情に変わっていくと思うから)
強引に騎士を引っ張り、部屋を出て行った。
「親交を深めていこうとする中で価値観の塗り替えよりも、男が喜ぶ事が早かったりしてね」
アゲートが独り言のように呟くとメタリアにはその意味が全く解らなかった。
「そだ。聖女さん。これあげる」
透明の液体の入った小瓶をメタリアに渡した。
「これは‥なんでしょう?」
首を傾げて答えを求めた。
「効果てきめんの惚れ薬♪姐さんに頼まれた物。1滴飲ませるだけで男が簡単に自分の物に出来るよ。でも‥聖女さんの告白の方がある意味で惚れ薬よりも強い効果を生むかも知れないね。でも、その薬を使うか使わないかは聖女さんに任せるとして……」
アゲートは言いたい事だけ言うとメタリアに背中を向けて手を振って部屋から出て行った。
顔を真っ赤になったメタリアは小瓶を机の上に置き、部屋を後にした。
「メタリアやアゲートに迷惑を掛けたからここを出ていこうと思うの…」
メタリアの髪を手で優しく梳いて言い、アゲートはドアに鍵を掛け終わるとベリルの方を向いた。
「姐さんが出ていったって何の解決にもならないよ。それどころか……」
続きを言うのを躊躇い、そこで口を閉じた。
「解ってる。きっと外には騎士が張っているでしょうね…」
「姐さんは何も解ってない。聖女さんが命を懸けて守ったのに、何で自ら捨てるような事をするの?」
「なら他にどうすればいいの?どうしたらいいのよ!!」
怒鳴るように声を荒げて言い返し、アゲートは目を閉じ少し考えて「姐さん。私に化けれる?」突拍子もない事を聞き、ベリルはその質問を無視して部屋から出ていこうとした。
「待って。姐さんが私になりきる事で姐さん自身を守る方法だ思う」
「……私がアゲートになってアゲートはどうするの?私になって身代わりになるって言ったら、それこそバカげているわ」
「姐さんに化けるけど‥身代わりにはならないよ。まだ野望も叶えてないからね」
「野望‥まだ聞いてなかったわね‥」
「ここまできて、はぐらかしても仕方ないから…」アゲートは一呼吸置くと、覚悟した顔に変わり話を続けた。
「ここを魔物娘と人が一緒に笑って暮らせるような所にしたい。地域によっては実現している事だからここも出来ると思う」
ベリルの目を見て強い口調で言い切り「でも‥貯めたお金で具体的に何をするかはまだナイショ♪」急に戯けた口調に変わり「だから姐さんの身代わりになる気はないよ」再び真面目な目に変わった。
その変わっていく様子にベリルは言葉を失った。
「……で私に代わって具体的にどうする気なの?」
「普通に外に出たら囲まれて、剣でグサリだからただ走るだけだよ」
「走るのそれだけ?」
ベリルは素っ頓狂な声を上げた。
「これでも仕入れ、仕入れ、仕入れ……で毎日重いものを背負って歩いているから足腰に自信はあるよ。なんだったらすぐそこの廊下で一緒に競争する?」
「止めとく。疲れるのって基本的にやんないから」
「姐さんって本当にそれっぽい気がする‥」
「そんな事はいいから!本当に大丈夫なの?狸だからって皮算用にならないでしょうね?」
「人を化かすからこその狸。狸が人に化かされたらそれこそ狸の名折れ。それに行き当たりばったりの姐さんと違うから大丈夫」
ベリルは何かを言おうとしたが…言ったことに対してつっこまれると瞬時に結論を出してその言葉を飲み込んだ。
「話はこれで終わり。この話の続きは聖女さんが気が付いてからにしようと思う」
メタリアが目を覚ますまでの間、ベリルはアゲートの姿に似せようと練習を重ねて……そして完全に瓜二つまで似せる事が出来た。
「次はこれを読んで」
アゲートは分厚い本のような物をベリルに渡した。
「これは教会のシスター達に今まで売ったものを纏めたリスト。それに仕入値や売った価格も書いてあるから、不信感を抱かれないように、これを熟読して上手くやって」
ベリルはその厚さに正直、ゲンナリしていた。
「その代わり‥仕入れで街の方まで行けば精が取り放題だよ」
取り放題。この一言がベリルをその気にさせて、熱心に読み‥メタリアが目を覚まし、アゲートが色々と事情を話していた事さえ気付かなかった。アゲートがベリルに話しかけても気付かなかった事にその台帳を強引に奪い、目を向けさせた。
「聖女さんに一通り話したから後は2人で上手くやってね。あと‥2〜3日で帰ってくるからね」
アゲートはベリルに姿を変えて部屋を出て出ていき、メタリアはこの時初めてアゲートもベリルと同じ魔物娘だった事を知った。
「メタリア‥ありがとう。また助けられたね」
サキュバスへと姿を戻しお礼を言った。
「でも‥メタリア自身を犠牲にするのはもう止めてほしい。それであたしが助かっても少しも嬉しくないから…」
「ごめんなさい‥」
メタリアは涙を流して謝った。
「だから‥なんで謝るの?」
「私が‥私だけが止められたのです‥。騎士様と司祭様で魔物娘の討伐に向かった時に……止められなかったから‥ベリルさんが怪我をして……」
「あのさ…メタリア‥」
ベリルは息を吐き出すとメタリアの方を強く見た。
「あたしはメタリアが止めなくて良かったと思う。だからメタリアに会えて、それに‥メタリアのような人がいるんだって思えたから‥剣が身体に刺さる寸前まで人を恨むことが無かったんだと思う」
ベリルは急に背中を向けて「メタリアはあたしにとっての本当の意味で聖女様なんだと思う。だから……メタリア。ありがとう‥」
「私もベリルさんと会えてよかったです。ベリルさんと生活をして、話に聞いていた魔物娘と違う事が分かりました」
2人は暫くの別れを惜しむように話し……メタリアが出ていくとベリルは姿をアゲートへと変え、教会の中でアゲートとして振る舞った。あまり好きではない祈りの時間は無くなったものの、メタリアと会って話せない事の方が何よりも退屈な時間へとなっていった。
そして夕食を終えて‥
シスターを対象とした商いの中、メタリアは広げてある商品の1つ‥小さな小物入れを手に取った。
「聖女さん」
ベリルの口から直に言われ、メタリアの表情は曇り、ベリルはその表情を見て心を痛めた。
「その小物入れを上げる。それと‥ちょっと待って」
ベリルは自らの思いを書き綴った紙を小物入れの中に入れた。
「あの‥」
「いいよ。いいよ。私の気持ちだから取っておいて」
メタリアが言うであろう言葉を封じるように先に言い、メタリアの手を握りその指の中に包むように小物入れを手渡した。
メタリアは部屋に戻るとその手紙を読み、返事を小物入れに入れて渡し手紙のやりとりで互いの事を伝えあっていき……3日が過ぎた。
そして‥その日の昼。
教主と共にベリルに化けたアゲートが教会を訪れた。
メタリアに神父、騎士に司教と1つの部屋に集められ‥「この者の無実は私が保証する」この一言が動揺を産んだ。
「教えに殉ずるのもいいが‥殉ずるあまり視野を狭めていったのが‥この事の原因と思う。そこで、視野を広げる意味で今まで敵視していた魔物娘と親交を深めていこうと思うのだが……」
それから教主の長い長い新たな教えが説かれ………
長い話が終わり、アゲートはベリルを連れてメタリアの部屋に入り、要点だけを伝えた。
「これで姐さんの命が狙われる事がもうないよ。でも‥サキュバスの姿で歩くのは止めてね。今日から魔物娘と親交を深めましょうってなっても、価値観は急に変わらないから、戸惑う人もいると思う」
「アゲート。ありがとう」
「礼はいいよ。私も人と良き隣人として付き合っていきたいって思ってたから、それに…」
アゲートが話を続けて言おうとしたその時、ドアからノックする音が響き、メタリアがドアを開けるとベリルに剣を突きつけた騎士が立っていた。
「この前は済まない事をした。謝って済まされる事ではないと思う」
騎士は剣を抜くとその束をベリルに握らせ「ベリルが私の事を許せない気持ちが強いなら、この剣で私がしようとしたように心臓を突き刺してほしい」
ベリルは騎士の勢いに戸惑いを覚えつつも‥
「そうね‥。命をかけて償うつもりがあるなら……」
そこで黙り騎士の顔をよく見た。
「意外に良い男だから、一生を私に捧げなさい。それで許してあげる」
ベリルの答えに騎士が逆に戸惑った。
「少し言い換えるわ‥。あたしに同じことが起きても、あなたにはあたしの事を守ってくれる騎士でいて欲しいの」
騎士はベリルの意図を理解するとその場で跪き、忠誠を誓った。
(あたしが誓って欲しいのは忠誠じゃないんだけど‥でもお堅い騎士なら仕方ないか。それに時間を掛ければ忠誠が愛情に変わっていくと思うから)
強引に騎士を引っ張り、部屋を出て行った。
「親交を深めていこうとする中で価値観の塗り替えよりも、男が喜ぶ事が早かったりしてね」
アゲートが独り言のように呟くとメタリアにはその意味が全く解らなかった。
「そだ。聖女さん。これあげる」
透明の液体の入った小瓶をメタリアに渡した。
「これは‥なんでしょう?」
首を傾げて答えを求めた。
「効果てきめんの惚れ薬♪姐さんに頼まれた物。1滴飲ませるだけで男が簡単に自分の物に出来るよ。でも‥聖女さんの告白の方がある意味で惚れ薬よりも強い効果を生むかも知れないね。でも、その薬を使うか使わないかは聖女さんに任せるとして……」
アゲートは言いたい事だけ言うとメタリアに背中を向けて手を振って部屋から出て行った。
顔を真っ赤になったメタリアは小瓶を机の上に置き、部屋を後にした。
12/05/17 01:57更新 / ジョワイユーズ
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