連載小説
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三番目の話 そういえば‥ここって混浴?それでも禁欲を貫ける男がいるなら完全に賢者の域ね
ベリルは誰もいない浴場で湯船に浸かり、未だ結論の出ない考えに耽っていた。
「あれ?姐さん1人?聖女さんはいないの?」
考えを邪魔された事でアゲートを軽く睨み「そんな怖い顔をしないで。ケンカとかしたの?」溜め息と共に思案するのを諦め、同時に1つの案が頭の中に生まれた。
「ねぇ‥惚れ薬とかそんな感じのヤツ扱ってる?」
「扱ってないよ。姐さんでも堕とせない男がいるの?いるなら薬に頼っても効果は限りなく0に近いと思う」
「あたしが使うんじゃないわよ。ただ……」ベリルは名を挙げずにそこで口を閉じた。
「姐さんが使わないとすれば‥誰のため?ってのは野暮な質問だね。でも‥仕入れるためにここを離れると困る人が出るから‥仕入れは出来ないよ」
「そう‥」溜め息混じりで返事をし、そしてすぐに別の話を始めた。
「なら‥精を得られるような薬みたいのはある?」
「そんな都合の良い物はない。でもなんで?姐さんなら10人切り、20人切りと簡単に達成しそうだけど」
「そうよね‥。そんなに都合よくないわよね…」
ベリルは再び溜め息を吐いた。
「神父から精を取りにってメタリアに言ったら激しく止められて…だから今、どうしようかなって考えてるの」
「メタリア‥?聖女さんの名前?」
「あれ?知らないの?」
「長いこと教会にいるけど‥周りの人が聖女様。聖女様って呼ぶから私も聖女さんって呼んでるだけだよ」
「そう‥ならアゲート。あなたの知っている人で快く精を提供してくれる人はいないの?このままの生活が続いたらあたしが別の意味で飢え死にしそう…」
「野望を達成するまで男は要らないと誓っているからそれも無理」
アゲートは言い切った。
「野望?お金を溜め込んで何をするつもりなの?」
「ナイショ♪」
ベリルはアゲートを軽く睨み「はぁ……。どこかにいい男いないかしら?」溜め息を思わず漏らした。


身体を洗い終えてアゲートと浴場で別れた直後。
(神父の精を取らないってメタリアと約束したけど……でも、これってあたしの死活問題だから‥ちょっとくらいのつまみ食いなら大丈夫よね?)
ベリルは誰もいない事を確認すると顔や体型を少し変え、更には用心のために声を変え神父のいる場所へと向かった。




ベリルは満足した足取りで部屋に戻ると、メタリアはイスに座って帰ってきたベリルに気づく事なく熱心に祈りを捧げており、ベリルはその様をずっと見ていた。


(………。ほんとに長いわね‥実は寝てるとか?そんな事ないわよね?)
そして痺れを切らせて話し掛けようとした矢先、メタリアはイスから立ち上がり「ねぇメタリア。そんなに祈って楽しい?」
メタリアは顔を不機嫌に変え「今のシスターらしくないです‥。私は慣れました。ですが‥他の方には絶対に言わないで下さいね」
「は〜〜〜い」
やる気のない返事をしたことで、更に呆れた視線で返され、慌てて違う話題に変えた。
「ねぇメタリア?この部屋ってベッドが1つしかないんだけど…どうする?」
「イスか床で寝ますから、ベリルさんはベッドを使って下さい」
ベリルはこの申し出を受ける事が出来ず、暫くベッド会議を開き、2人で一緒に寝るとの結論に至ったが‥2人で寝るには狭いために面積を少なくするために背中合わせで寝ることになり、ベリルはベッドに入ると今日の疲れですぐに寝てしまった。

そして‥
「あの‥ベリルさん?」
確認するように声を掛け‥様子を窺うも反応が無く、静かにベッドを出てベリルと向かい合うように床に座り顔を見た。
(話に聞いていた魔物娘よりもベリルさんはずっと穏やかな方‥。それに話し合うことも出来るのに‥なぜ私達は争って……)
メタリアはベッドからはみ出ているベリルの手を取って胸元に当てて祈り


「ベリルさんお休みなさい」
一言告げ、はみ出た手をベッドの中に入れるとベッドに入り眠りについた。



そして空が曙色に染まる頃。メタリアはベリルを起こさないようにそっとベッドから出ると静かに部屋を出て外の聖母の像に祈りを捧げ、空が完全に明るくなる頃には部屋に戻っていた。
「ベリルさん。いつまで寝ているのですか?早く起きないと朝のお祈りの時間が無くなってしまいます」
ベッド上で大の字で寝ているベリルを揺らして起こし「あームリムリ‥。今日、重い日だから動きたくない。パス」ベッドに身を沈めたまま嘘をついて力なく手を振った。
「重い日?何が重いのですか?」
直球な質問を返され、通じなかった事に諦め、そして‥(全員で祈るならどうせ誰も見ていないでしょ?だから寝てしまおうかしら?)この結論に達し、ダルい身体を起こした。
「メタリア。ホント早起きね。そんなに早く起きて眠くならないの?それともホントは祈っている時に寝てるとか?」
「ベリルさん‥。シスターになったのですから言葉を選んで言って下さい。本当に他の方の前で言わないで下さいね」
「は〜〜い」
ベリルは適当に返事をしながら姿を人に変えて修道服を着た。


メタリアに連れられて礼拝堂に入り………ベリルは祈る振りをして眠っていた。


礼拝の時間も終わり、自室に戻ろうと礼拝堂を出た矢先‥3人の騎士と会った。
(あの3人の内、真ん中にいるのがあたしに切りかかった騎士。ここで会うなんて最悪ね‥)
「見ない顔だな」
騎士を避けようとして‥一番話しかけられたくない真ん中の騎士に話しかけられ「昨日から教会に身を寄せる事になりましたベリルという者です」
「そうか」
騎士はそのまま礼拝堂に入っていった事でベリルは肩を撫で下ろし、メタリアを見ると騎士の方を熱い視線でずっと見ていた。

メタリアの部屋に戻り‥
「ねぇメタリア?もしかしてさっきの騎士の誰かに好意を持ってるの?」
質問に対してメタリアは誰が見ても分かるような反応を見せ、そして意を決して言おうとしたその矢先‥
「今の反応でわかるから、言わなくていいわ。でも‥その騎士とはどこで会ったの?」
「部屋の窓から……その‥騎士様の訓練が見えて……その…」
メタリアは顔を真っ赤にして俯いて言い、ベリルは自然と窓から外を見た。
(あたしが落ちた樹に騎士がかなり集まっているんだけど……これってかなりマズイ状況?でも‥今から逃げても怪しまれるだけよね‥?)
ベリルはメタリアに余計な心配させないためになるべく表情には出さない事を決め、そして‥時間が経ち、昼食後に神父に呼ばれたためにその場でメタリアと別れ別室へと入った矢先……
予め部屋にいた2人の騎士はベリルが逃げられないように取り押さえ、1人の騎士がベリルの方へと歩き出した。
「ベリルと言ったな?1つ確認するが‥この近辺でベリルという名の女は存在していない。それに男から逃げてきた女も当然いない。ならお前はどこの誰だ?」
ベリルは言い逃れが出来ないことを悟り、半ば諦めに近い感情で何も答えなかった。
「お前がこの教会のシスターになった日にこの近辺に1匹の魔物が逃げたとの報告を受けた。先の事も含めて偶然にしては出来すぎている。そう思わないか?」
騎士は剣に手をかけた。
「人に化ける魔物がいる。その話を聞いたことがある。なら‥この剣でお前の心臓を刺したらお前の姿はどうなるのだろうな?」
剣をゆっくりと抜き、ベリルの胸元の方へと向けていき…
「止めて下さい!!」
メタリアの悲鳴に近い叫ぶような声。そしてすぐさまベリルと騎士の間に割り込むように入り「騎士様。ベリルさんの罪を問うのでしたら‥それは教会に招き入れた私に非があります」
騎士の剣を握り自身の胸元に誘導し「私はこの剣で胸を貫かれても構いません。代わりに‥ベリルさんの命は奪わないで下さい」涙ながらに訴え、ベリルが口を開けたその瞬間、「ちょっと待って」アゲートの大きな声が響いた。
一瞬、その声で誰もが動きを止め、アゲートはそのまま歩き出し……「ベリルは私が商品を仕入れている時に行き場がないって事で連れてきた人。その人を何と間違えて疑っているか分からないけど‥その人を疑うって事は連れてきた私を疑うって事と同じって思うけど?」
騎士は突然の事に困惑した顔を見せ、アゲートは更に続けた。「商売ってお互いの信頼関係が重要だと思う。相手に疑われたまま商売を続けるのは無理だと思う。だから‥私は今後一切、教会側と取引しない。これでいい?」
教会の維持に関わる物もアゲートから品物を買い入れている以上、騎士達にはその選択の余地は無く、剣を納めるとすぐその場を出ていった。
「聖女さんも剣を素手で掴むなんてムチャするね。傷薬を塗るから手を出して」
傷薬を塗り終え、周りを見渡し‥「ここで話すよりも、私の部屋に行って話そうか」
アゲートはベリル、メタリアを自分の部屋へと案内した。
12/05/14 01:24更新 / ジョワイユーズ
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■作者メッセージ
アゲート
「アゲートです。次の話が最終話です。


同レベルの争いを繰り広げてようやく和解しかけたと思われた2人。そして2人の前に新たな女王が!?最終話ニセ予告『女王の座?そんなものお金で買ったわ』



そういえば‥
『繰り広げる』を『クリ拡げる』に変換しないで下さい‥」

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