第五章 聖餐
頭の中に靄がかかっているようだった。思考を幾度となく中断させた桃色の靄からは、毎回リーズの姿が見え隠れしていた。
抱きしめたい。押し倒したい。当惑表情を浮かべるリーズに口づけしたい。閉じられていた唇を押し開き、温かい口腔内を蹂躙したい。喉の奥から吐き出されるその吐息を漏らすことなく肺に収めたい。体を弄りたい。普段身を包んでいる色気を感じさせぬ村娘の衣装を力任せに引き裂いて、穢れなき肌を目に収めたい。なだらかな曲線を描く下腹部や、女性らしくくびれている腰回りに手を這わせたい。ささやかに膨らんだ乳房を両手で鷲掴みにしたい。指の思うままに胸をこねくり回し、その柔らかさを堪能したい。掌の中で硬く隆起した突起を押しつぶして彼女を震わせたい。彼女の神聖な部分を守る様に閉じた太腿を、委細構わず開きたい。誰にも見せられることのなかったその秘裂を忘れぬよう眼に焼き付けたい。拒むように閉ざされた蕾に指を差し込み、奥から蜜を掻き出したい。指の蠢きに合わせてあふれだしてくるその蜜を、溢さぬように嘗め回したい。そして、もの欲しそうに開いた彼女の花弁に、俺の猛りを突き刺したい。神に捧げたはずの純潔を、俺の肉棒で貫きたい。蹂躙するように肉棒を突き動かして、彼女の温もりを感じたい。彼女の神聖な最奥に、俺の欲望をぶちまけたい。それでもなお彼女を蹂躙し続け、神のための無垢な顔を、快楽で緩んだ背徳の表情へ穢したい。
今まで願い続けた欲望が、願っても叶わぬと押さえつけていた欲望が、叶ってはならぬと殺し続けてきた欲望が、俺の身体を駆け巡る。募り続けた彼女への想いを燃やすように、炎のような熱が、俺の身体を彼女の下へ走らせようとする。だが、それはできない。村人たちは魔物の習性を理解していた。魔物の毒によって魔物になりつつある俺が誰も襲えぬよう、両手両足をベッドに縛り付けて抑え込んでいた。どんなに強く力をかけても、腕を縛る縄は千切れない。どんなに必死でもがこうが、脚を縛る縄は外れない。どんなに欲望をたぎらせても、それを鎮めることは決してできない。狂うような衝動の中で、俺はひたすら吠えた。喉を焼かんばかりに吠え続けた。それでも俺は全身全霊をかけてリーズの名は口にしなかった。神聖な彼女を俺の言葉で汚さぬために。心の奥で隠し続けた彼女への想いを守るために。魔物へ堕ちる俺の存在を想い残させぬように。俺はただただ苦悶の叫び声を上げ続けた。
不意に風が吹いた。柔らかに流れた風は、俺の全身を愛撫するように刺激する。それだけでも陰茎が跳ね上がる気持ちよさを感じたが、同時に漂う香りが、快楽を通り越して、呆然とさせた。鼻腔から脳にしみこむその匂いは、いつも嗅ぎ続けた少女の匂い。もはや二度と叶わぬと、叶ってはならぬと諦めようとした、想い人の香り。
俺は目を開けて部屋の入り口を見た。開け放たれたそこには、修道服姿のリーズがランプを持って佇んでいた。
これは夢か? 幻想か? 一目見たいと望みながら、望んではならぬと抑え込み続けた俺の心が生み出す幻か。黒を基調とした修道服は夜の闇に溶け込み、体の陰影を朧にさせる。ただただランプの炎が揺らめきながらリーズの顔を照らしていた。闇の中に浮かび上がったその顔は、今まで見たことがないほど綺麗で、艶めいていた。
「リーズ?」
名を呼んだだけで、俺の心は大きく跳ねた。息が詰まってこれ以上の言葉が出ない。だが、それ以上の言葉いらないとばかりに、リーズは進み出る。こつりこつりと響くリーズの足音が、リーズが近づいてくるという確かな期待が、俺の心臓を限界を超えて動かしていく。
「来ちゃ駄目だ」
肺の中の絞り出して、やっとその言葉が言えた。彼女の肌に触れたい。触れてはいけない。彼女と唇を交わしたい。交わしてはいけない。堅く抱擁したい。抱擁してはいけない。彼女の身体を弄りたい。弄ってはいけない。彼女の肉体に、俺の肉を突き立てたい。突き立ててはいけない。彼女の神性を、俺の欲望で汚したい。汚してはいけない。何よりも、彼女に愛を囁きたい。長年秘めてきた想いを彼女にぶつけたい。だが、神の道を進む聖女を、凡夫の言葉で惑わしてはいけない。
二律背反する思いが、交わることなく頭の中で渦を巻く。矛盾した思考に動く身体はリーズに飛びかかろうとするのか、それとも逃げ出そうとするのか、自分でも判別がつかない。もっとも、何れにせよ両手両足はベッドに縛られ、ただ縄をきしませるしかできなかった。
俺の必死の制止も聞かず、リーズはベッドの脇まで来た。枕元にランプを置いた彼女は、跪いて目線の高さを俺に合わせる。すぐ傍に近づいた彼女の顔に、俺の心臓は否が応にも高鳴っていく。厭らしいことだとは理解しながらも、彼女の呼気を吸っているという妄想が頭をよぎり、自身が更に興奮していくのが分かった。
だが、衝動が身体を動かそうとする中で、僅かに残った理性が微かな違和感を告げていた。俺のことをじっと見つめる彼女の瞳。いつも見ていた優しい眼差しと違うところはない筈なのに、今はなぜか官能的だった。
「今のユベールを治す方法を教えてもらったの。だから、心配しなくていいよ」
俺を治す方法だと? 長老すら匙を投げたこの毒を癒す方法方があるだと? 沸き起こる疑問に、俺は声を上げようとする。だが、それより先にリーズが動いた。突然掛け布団に手をかけたリーズは、そのまま俺の身体を隠していたこの覆いをはぎ取った。布団の下から露わになった光景に、俺は思わず目を背けた。すぐ脇からリーズの息を呑む音が聞こえる。それもそうだ。俺の股間は、今にもズボンを破りそうなほど膨らんでいたからだ。男であることをこれ程恥ずかしいと思ったことはなかった。あの白い魔物に襲われたことが恨めしかった。だが、どんなに恥じ入ったところで、この光景は、この熱をもった身体は変えることはできない。俺はただ、自分の欲望をリーズに見せつけるしかできなかった。
「ごめん」
目をそらしたまま、俺は呟いた。もはや消え入りたくなるくらい、囁くような声しか出ない。だが、視界の外からはすぐに言葉が返ってきた。それは、慈愛に満ちた優しくて、甘い囁き。
「謝らなくていいよ。大丈夫、今、楽にするから」
わずかな空気の揺らめきを帯びて、リーズが動いた。目をそらしていた下半身に何かが触れる。視線を向けるとリーズがズボンに手をかけていた。
「待って、待ってくれリーズ」
俺は制止の声を上げる。でもリーズは止まらない。下穿きごとズボンをずり下げて、最後の一線で隠していた俺の欲望を露わにした。恥辱で泣きたくなる俺の思いとは裏腹に、解放された俺の欲望は雄々しくそそり立ち、自らの存在を堂々と主張する。眼の前に飛び出した肉棒にズボンをずり下げていたリーズの手が止まった。だが、そそり立った肉棒を見つめる彼女の眼差しに、汚らしいものとして蔑む様子や、いやらしいものとして恥ずかしがる様子は見えない。ただ、雄の欲望を溜めこんで赤黒く腫れ上がった肉棒を、リーズはまじまじと見つめていた。
「これを……」
ようやく、リーズはつぶやいた。意を決したように俺の陰茎をにらむと、そろそろと手を伸ばす。俺は既に限界だった。魔物の毒の性だろう。村に着いた時からずっと陰茎は勃起していた。だが、戻ったら否やすぐさまベッドに縛り付けられて、欲求を吐き出すことはできなかった。そこにリーズが現れた。傍にいるだけで、俺の陰茎は想いで更に腫れ上がる。息の吸うたびに、彼女から漂う芳香を感じて陰茎が硬度を増していく。ずっと思い続けた彼女が俺の陰茎を見つめているという幻のような現実が陰茎をさらに膨らませる。これまで経験したことないほど、俺の陰茎は勃起していた。そこにリーズの手が触れた。
びゅるっ! 比喩ではなく、確かにそういう音が聞こえた。我慢はとっくの昔に限界を迎えており、リーズの指先が触れただけで射精してしまった。溜まりに溜まったわだかまりを吐き出す快感に、腰が抜けそうになる。快楽で明滅する思考の中、俺は歯を食いしばって正気を保った。
噴水のように噴き上げられた精液が、伸ばされていたリーズの手に降り注ぐ。白磁のように白い手を、俺の欲望が汚していく。快感で揺らぐ視界は、その光景から現実味を失わせていく。これが幻想ならどれだけよかっただろうか。淫魔の毒に苛まれる俺が作り出した妄想だったらどれだけよかっただろうか。だが、同時に沸き起こる罪悪感がそれを現実だと強く印象付ける。己の最も下劣な欲望が彼女を穢してしまったという罪の意識は、快感をなすがままに受け止めることができる夢には存在しない感覚だった。
リーズは俺の射精を驚いたように目を見開いて眺めていた。やがて精液を出し切り、白濁の噴出は止まると、リーズの目元の緊張も和らぎ、視線は自分の手にまとわりつく白い粘液に移った。その目は女性が見せてしかるべき、汚らわしいと言いたげな目ではなかった。呆然と、されどことなく見惚れているような、意識が希薄な目だった。
不意にリーズが精液にまみれた手に顔を寄せた。臭いを確かめたいのか、鼻先を近づける。その普段は見せたことのない物欲しげなリーズの姿に、どういうわけか背筋にぞくぞくとした感覚が走る。微かに空気が流れる音が聞こえた。すん、すんと調子を取って繰り返される音は、リーズが精液の臭いを嗅いでいる証だ。その光景に、俺の下腹部で熱がたぎり始めた。ひとしきり臭いを確かめたリーズは続いて口を開いた。開かれた唇の色摩から、唾液でてらてらと輝いた舌が伸びる。もしや――。リーズがやろうとすることを想像し、俺は息を呑んだ。だが、舌先が指先に絡まった白い滴に届く前に、彼女は何かに気づいたかのように目を見開いた。慌てた様子で口を閉じ、手を離したリーズは、顔をこちらに向けた。俺の事を見つめるその目には、意識がちゃんと宿っていた。
「ねえ、ユベール。これで楽に――」
リーズのしっかりした口調で俺に問いかける。だが、その途中で、何かが俺の陰茎をつかんだ。思わぬ刺激に裏返った声が出る。
「まだよ、リーズちゃん。」
耳を嘗め回されるような、ぞくぞくとした快感とともに女の言葉が響く。こんな淫靡な声を持つ女を俺は一人しか知らない。視線を向けると、赤い瞳がこちらを見つめていた。人狼に襲われた山道で見たものと瞳。俺の身体に猛りの毒を仕込んだ淫魔がそこにいた。
「イナン――」
頭を持ち上げて名前を呼ぼうとするが、イナンナにこりと笑うと、途端に喉が詰まり声が出なくなった。不思議と通る息だけが、ひゅうひゅうという風の音を鳴らす。
「ほら、見てごらんなさい。まだおチンポがこんなに腫れているわ」
視線をリーズに向けてイナンナが囁く。彼女の言葉通り、俺の陰茎は一度射精したとは思えないほどの硬さを保っていた。
「だから、こうやってシコシコしてザーメンを絞り出してあげなくちゃ」
その言葉とともに陰茎を握るイナンナの手が上下した。途端に走る快感に、俺は思わず声を上げる。四肢を縛る縄を軋ませ、悶える俺を、リーズは呆然と見つめていた。
「ほら、リーズちゃん。あなたも扱いてあげて。おチンポをいっぱいシコシコしてあげて、ザーメンをいっぱい出してあげて、キンタマに溜まった毒をいっぱい出してあげなくちゃ」
リーズに向けて囁きながらイナンナは陰茎から手を離す。リーズは魅入られたかのように、拒むことなく俺の陰茎を掴んだ。彼女の手に包まれた。そう思うだけで俺の陰茎はびくんと跳ねた。リーズは突然の脈動に少し驚いたようだったが、直ぐに気を取り直してゆっくりと手を動かし始める。温かくて柔らかい指が、竿の部分を上下に撫で上げる。その快楽に俺は喘ぎ声を上げないのが精いっぱいだった。
快感に悶えながら、俺はリーズの奇行の原因を悟った。同時に、山道で俺が見逃された理由も分かった。俺は餌にされたのだ。捕らえない代わりに毒で苦しませた状態で放置する。慈悲深いリーズなら、必ず助ける手立てを探すはずだ。やがて彼女は解毒方法を知る人――それが毒を仕込んだ張本人だとしても――を頼る。その時にさもこれが唯一の解毒方法だと騙くらかすことで、神の道を歩む聖女を背徳の道に誘うつもりなのだ。
騙されている、とリーズに伝えたかった。だが、その声は喉の奥に詰まって出てこない。これもこの淫魔の仕業だ。傍らで愉悦そうに笑うイナンナを憎しみを込めて睨んだ。でも、それは本当なんだろうか。心の奥で何かが囁く。本当は自分が言いたくないだけじゃないのか。だって、こんなに気持ちいいのだから。俺の中の声が言う通り、リーズに陰茎を扱かれているというのは、抗いがたい快感があった。リーズに真実を告げたら、この快感が終わってしまうのではないか、という危惧は確かに俺の心の奥底に存在した。
「滑りが足りないかしら。濡らさないとね」
しばらくリーズの手淫を見ていたイナンナが何かに気が付いた風に呟いた。思わせぶりな笑みを浮かべて陰茎に顔を寄せてくる。顔が陰茎に触れるか触れないかといったところで、唇を開いて唾液を垂らし始めた。温かい粘液が亀頭に降りかかる。これも淫魔の毒だろうか。唾液が触れたところが焼けつくような熱を持つとともに、敏感になっていくのを感じた。
「これで動かしやすくなったわ。ほら、リーズちゃん。動かしてみて」
「はい」
イナンナに誘われて、リーズがまた陰茎をしごき始めた。上下に波打つその刺激は、それだけでも腰が抜けるほど気持ちい。だが、先ほど垂らされた唾液がリーズの手の動きに合わせて刷り込まれて、陰茎が更に敏感になっていく。もはや風ですら感じるほど敏感になった陰茎をリーズは容赦なく扱きあげる。手が上下に動くたびに、陰茎が脈動し、下半身に欲望が集まっていく。もう堪えられなかった。
限界を感じ取ったのだろう、イナンナはにやりと笑うと、リーズの手ごと陰茎を強く握ってきた。一際強い刺激に俺の我慢は決壊した。下半身に溜まっていた熱が噴出する。陰茎の中から迸る精液のうねりが、内側から刺激する。その脈動がリーズの掌の存在を認識させ、更なる快感を生む。思考が何も考えられない白で染まっていく。
このまま消失しようとした意識をリーズの声が繋ぎ止めた。でもそれは優しい声でも、甘い声でもない。悲鳴に似た小さな叫び。取り戻した視界では、リーズの顔に向けて精液が噴出していた。
堅く目を閉じて、リーズは吹き付けられる白濁に耐えている。俺の欲望が、手だけでなく、顔まで穢してしまった。その光景に、たちまち罪悪感が沸き起こってくる。それ以上に、リーズの怯えたような姿が射精の快感すら雲散霧消させる。出し切れないと感じながらも、精液の噴出は急速に衰えて、止まった。
今度こそ謝らなければ。喉の奥で引っかかる謝罪の言葉を何とか吐き出そうと、俺は口をパクパクさせる。だが、俺が声を出す前にリーズの様子が変わった。耐えるように堅くなっていた彼女の表情が急速に和らいでいく。眉間の皺が解消され、頬は平静を通り越して、幸せそうだと思えるほど弛緩する。やがて開いた目には恐怖の色はなかった。何かに酔いしれた様な、心地よさげな色が、その瞳に宿っていた。
だらしなく彼女の口が開かれる。緩み切った頬から、口に向けて精液が流れ始めた。だが精液は躊躇するように唇の上で止まる。滴を作る白濁を、彼女は舌で舐めとった。舌先に乗った精液を口に含むと、彼女の顔は美味しいと言いたげに綻んだ。
汚い筈の精液を蕩ける顔での舐めとり、喉を鳴らす光景に、倒錯した快感が俺の背筋を走った。下腹部で残っていた欲望の一部が隙を見つけたとばかりに尿道を駆け上る。それは白濁となって、先ほどと同じくリーズの顔へ跳躍した。顔で受け止めるリーズもまた先ほどと同じく声を上げた。だが、今度は悲鳴じゃない。甘く蕩けた、ため息のような声が、口から漏らす様に吐き出された。
リーズは顔にまとわりつく精液を手で掬い取ると、掬い取った端から舐め始めた。浅ましさを感じるほど精液をすするリーズの姿を呆然と見つめていると、何かが亀頭に触れた。新たな刺激に思わず目を向けると、イナンナが亀頭に口づけしていた。赤く艶やかな彼女の唇の感触は、それだけでも腰砕けになるほど気持ちいい。だが、そのあとに続いた刺激に俺は情けない喘ぎ声を上げた。かすかに、ちゅう、と音を漏らして、彼女は陰茎を吸い上げたのだ。尿道に残った精液の残滓をも欲するように、彼女は俺の陰茎を吸引する。内側から受ける刺激に俺は身をよじって悶える。精嚢の奥で吐き出されずに燻っていた欲望の残りが熱を持ち始める。それが沸騰し、外に噴出しようとしたところで、彼女は唇を離した。先ほどとは打って変わった生殺しの行い。思わず彼女に目を向けると、彼女は意味ありげに唇を釣り上げてから、リーズの方を向いた。指先に残った精液すら惜しいとばかりに、自分の指をしゃぶっていたリーズは、彼女と目が合うと、つまみ食いを見咎められた子供の様に背を正した。
「リーズちゃん、ここにまだ残っているわよ」
イナンナが俺の陰茎を指し示す。精液にまみれてそそり立つ肉棒を見てリーズはにんまりと笑った。そのままリーズは躊躇うことなく亀頭に口づけした。それだけで俺の腰は跳ね上がった。お預けされていた下腹部の疼きが尿道を駆け上る。ようやく解放されてた欲望の残滓がリーズの口の中に飛び込んだ。脈動とともに咥内に噴出する精液を、リーズは舌で喉の奥に導いていく。その度に舌先が亀頭を舐め上げ、腰が浮くほどの刺激が走った。
やがて精嚢の中が本当に空になってしまったのか、俺の射精はようやく止まる。それでも尿道に残るものを絞り出そうとリーズは陰茎を手で扱き始めた。それでも出ないことを悟ると、今度は陰茎に滴っていた精液をまだ足りないとばかりに舐めとり始めた。
ふと、いつもの彼女の姿を思い出した。穏やかに見下ろす聖像に傅いて祈りの言葉を唱える彼女の姿が。穏やかに目を閉じて祈る姿は静謐そのものだ。静かに動く唇からは神聖な語句が漏れている。それが今はどうだろうか。陰茎に舌を這わす彼女の瞳は、極上の甘露を嘗め回す子供のように蕩けている。唇は涎を垂らしながらも、舌先を淫らな動きで出し入れしつつ、陰茎にまとわりついている精液を溢すことなくすすっている。そこに神に祈りを捧げてる禁欲的な彼女の姿はなかった。淫らな雌の姿がそこにはあった。
己の欲望によって彼女を穢してしまった罪悪感が心臓を締め付ける。だが、理性とは裏腹に、穢してしまったという背徳感が、下半身を熱くする。空っぽになったはずの精嚢が滾り、新たな精子が生産されているかのように疼き始める。リーズに啄まれている陰茎が一際大きな脈動とともに硬さを増した。
「また出るんですね。いいですよ。いっぱい出してください。全部吸い出しますから。今度はお口全部で」
陰茎がまた猛り出したのを察したのだろう。リーズは誘いの言葉を述べると、恍惚とした表情で陰茎を銜えなおす。今度は大きく口を開くと、亀頭を銜えこみ、そのまま根元まで飲み込んだ。口腔内の温もりが陰茎全体を包み込む。舌で裏筋を舐め上げられるたびに、ぞくぞくとした快感が襲ってきた。彼女が頭を振るたびに、唇が射精を急かす様に陰茎を愛撫した。
ぐっぽぐっぽという空気の音を鳴らしながら陰茎をしゃぶるリーズの姿は信じられないほど淫らだった。左手で陰茎の根元を支えて頬張っている。あれ、右手は――。快感に喘ぎながら目を凝らすと、彼女の右手は自分の股間に伸びていた。リーズは自分を慰めている。それに気づいたとき、がつんと殴られたような衝撃を感じた。俺の中で抱いていたリーズへの幻想が完全に壊れた瞬間だった。夜ごと自分を邪な妄想で慰めてもなお守り続けた清らかな彼女の幻想が、陰茎をしごかき、顔に精液をまみれさせ、蕩けた顔で陰茎をしゃぶりながら、それでもなお抱き続けた美しい彼女の幻想が、音を立てて崩れ去った瞬間だった。
丈の長い修道服のスカートを捲り上げて、リーズは股間に伸ばした腕を動かしている。口淫の音の隙間から卑猥な水音が聞こえるようだった。いや、確かに聞こえてきた。座っていられないのか、彼女は腰を持ち上げて腕の動きを激しくする。いつの間にか陰茎を銜える彼女の表情も、甘露を舐める蕩けた表情から、何かを我慢する苦悶の表情に変わっていた。陰茎を頬張る頭の動きは激しさを増し、さらに高まった快感に俺もまた限界を迎えつつあった。
やがて彼女は弾かれたように腰を跳ね上げた。微かなうめき声とともに、頭の動きが止まる。代わりとばかりに陰茎を締め付ける唇の力が強くなった。一際強まった刺激に、俺もまた達してしまった。
力が抜けてしまったのか、リーズは持ち上げていた腰を落とす。首を支えるのも億劫なのか、俺の又坐に頭を乗せた。それでも陰茎は頬張り続けて、恍惚の表情で咥内に注がれる精液を嚥下していく。リーズがごくりごくりと喉を鳴らすたびに、舌が蠕動して陰茎を舐め上げる。その刺激に俺はさらに射精した。
三度目の射精だというのに、一度目と変わらないほどの精液を俺は射精していた。いや、精嚢が作る端から精液を吸い出されるような感覚と、下半身を融かされるような快感、それに伴う虚脱感はこれまでより大きい。俺が脱力の息を吐いて、射精を終えるまでどれくらいの時間がかかったのかわからなかった。
名残惜しげに鈴口を吸い上げていたリーズも力なく陰茎を吐き出した。心地よい咥内から追い出され、冷ややかな風が陰茎を撫でる。ここに至るまで三度の射精を行い、絞り粕すら残らないほど、精液を吸い取られていた。俺自身、これ以上ないほど疲労を感じていた。にも拘らず、俺の陰茎は屹立していた。
息も絶え絶えといった様子で俺の内腿に頭を乗せていたリーズが、それでもなおそそり立つ陰茎に恍惚のため息を漏らす。
「見て。毒はまだ溜まってるみたいよ。リーズちゃんはどうすればいいと思う?」
半ば存在を忘れていたイナンナがリーズに顔を寄せてきた。意味ありげに微笑みながらリーズに問いかける。
「質問を変えましょう。リーズちゃんはどうしたいと思っているの?」
「私のしたいこと……」
イナンナに視線だけ向けたリーズは、そう呟きながら俺の陰茎に視線を戻す。だらしなく口を開けたまま陰茎を見つめていた彼女は、やがて俺の方に視線を向けた。
「あった。私のしたいこと」
依然として顔を蕩けさせながらも、しっかりと俺を見据えて、リーズは言った。その言葉を聞いてイナンナは満足気に微笑んだ。
もぞもぞと体を動かしたリーズは、片足をひっかけてベッドの上に転がり込んだ。そのまま四つん這いになって、俺の方に這い進んでくる。
「ねえ、ユベール。私ね、知ってるんだよ。さっきまでしてたことが何なのか」
近づいてくる彼女の顔は今まで見た事のない笑みを湛えていた。念願だった玩具を手に入れた子供のような歓喜に満ちた笑み。体面を気にすることなく吐露された狂喜の表情。そして何よりも、繁殖期を迎えて発情しきった雌の貌がそこにはあった。
「毒を癒す方法だって聞いたけど、それだけじゃないってことは知ってるんだよ」
彼女が近づくたびに、彼女が纏う修道服が俺の肌を撫でる。まるで彼女の手で愛撫されたようで、俺の身体はその度に震えた。
「騙されてることも知ってるんだよ。でもそんなの関係なかった。だって――」
ついにリーズが覆いかぶさった。顔をずいと寄せてリーズは俺に問いかけてくる。頬を紅潮させた彼女の顔を見れは続く言葉は分かっていた。
「――ユベールのことが好きだから」
予想していてもなお、覚悟していてもなお、その言葉は俺の思考をガツンと打った。俺も好きだ。それを言うことができればどれだけよかっただろうか。
俺が言葉を失っていると、リーズは顔を離した。膝立ちになって彼女は俺を見下ろす。不意に彼女の手が俺の股間に伸びた。依然として屹立する俺の陰茎を掴むと修道服のスカートの中に導いていく。亀頭に何か柔らかいものが触れた。粘性の液体で塗れた何かが啄むように亀頭を挟んでいる。リーズは小さく甘い吐息を吐くと、にこりと笑って俺を見つめた。
「もうどっちでもいい。私はもっとしたい」
そう言って、リーズは修道服のスカートをたくし上げた。露わになった彼女の下腹部では、屹立した俺の陰茎に彼女の秘裂が押し当てられていた。このまま俺の陰茎が彼女を貫けば、最後の一線を越えてしまう。もっとも馬乗りにされたこの状況でその決定権はリーズにあった。彼女がが一度体重をかければ、容易くその一線を破ることができる。だが、どういうわけかリーズは秘裂を押し付けるだけで、そこから動こうとはしなかった。
「ユベールさん、気づいていない様だから教えてあげる」
耳元でぞくぞくとする吐息を吐きながらイナンナが囁いてきた。
「あなたを縛る縄は解いたわ。あなたはもう自由よ」
その言葉にハッとして腕を動かす。彼女の言葉の通り、腕は繋ぎ止められておらず、自由に動かすことができた。
「嫌なら嫌って言っていいのよ。リーズちゃんを止めてもいいの」
確かに、自由を取り戻した今なら、腰の上にまたがるリーズを突き飛ばすことができる。未だに残る最後の一線を守り通すことができる。
「でも、これだけは聞かせてちょうだい」
声が更に近づいた。吐息が耳を嘗め回しているようで、身体の芯まで浸みるような快感が走った。
「あなたは、リーズちゃんのことをどう想ってるの?」
耳元で問いが投げかけられる。俺の答えは決まっている。だがそれを言えばどうなるかも分かっていた。俺の秘め続けた想いをぶちまけることこそ、この淫魔の姦計であることは明らかだ。言ってしまったら最後、淫魔の思惑通りリーズは堕落への最後の一線を貫くだろう。
だが、それを理解していても、俺の心は嘘の言葉を許さなかった。ここで嘘をつけばリーズのことを完全に拒絶したことになるからだ。リーズを拒絶するなんてできる訳なかった。
「ユベールは、私のこと、好き?」
答えに窮している俺を見て、今度はリーズが問いかけてきた。いつの間にやら蕩けた表情をしまい込んで、じっと俺を見下ろしている。その不安げな瞳に、真剣に見つめるその瞳に嘘などつける訳がなかった。
その先に何が起こるか理解して、それでも俺は口を開いた。しまい込んでいた彼女への想いを絞り出す。こんな形でしか伝えられなかったことが恥ずかしくて、悲しくて、悔しかった。
「――――好きだ」
俺が呟くと、リーズは幸せそうに微笑んだ。
「じゃあ、いいよね」
言うが早いか、リーズは腰を落とした。柔らかく温かいリーズの蜜壺が俺の陰茎を包んでいく。カリ首や裏筋の区別なく全体を撫で挙げられる快感はこれまで経験したことがない。あっという間に限界になったところで亀頭が蜜壺の最奥を叩いた。腰を落とし切ったリーズが悲鳴に似た甘い声とともに跳ねる。同時に陰茎を包む肉襞が急に窄まる。全体を絞られ、俺も達してしまった。
脈動を伴いながら吐き出される精液に、リーズは体を震わせて喘ぎ声を上げる。その度に彼女の肉襞はさながら射精をせがむように蠢いた。俺は望まれるまま射精した。無尽蔵と思えるほど、射精し続けた。
「いっぱい貰っちゃった」
力の入らない瞳で俺を見つめながら、ようやく彼女は呟いた。緩んだ笑みを浮かべながら、彼女は腰を持ち上げる。引きあがっていく肉襞が射精したばかりで敏感な陰茎を撫で上げ、ぞくりとした快感が走った。
結合部を見せつけるようにリーズはスカートをたくし上げる。秘裂からぎりぎりまで抜き出された陰茎は、白と赤のまだら模様の液体でぬらぬらと輝いていた。赤は彼女の純潔を奪った証。白は彼女を欲望で穢した証。それは守り続けていた最後の一線が突き破られた証拠だった。最早過去に戻ることはできない。栄達が約束された修道女と、ただの田舎の猟師との、もどかしくも、どこか心地よかったあの関係は二度と取り戻せないのだ。まざまざと見せつけられた現実に、覚悟をしていても尚、目の前がくらくらした。俺が言葉も失い、呆然と見つめていると、リーズが何かに気づいたようにつぶやいた。
「でも、まだ硬い」
そう、リーズの中に想いを注ぎ込んでもなお、俺の欲望はまだ硬いままだった。もう何度射精したかわからないというのに、俺の陰茎は未だ熱を持って彼女を持ち上げていた。
リーズは笑った。全てが融け堕ちたような蕩け切った微笑みで。正気を全て失ったような狂気に満ちた微笑みで。
「だったら、ちょうだい。もっとちょうだい。いっぱい気持ちよくするから」
そう言って、彼女はまた腰を落とした。また陰茎全体を肉襞が包み込む。流石に今回は果てずに耐えきった。だが彼女の動きも一度では終わらない。彼女はすぐに腰を持ち上げると、二度、三度と止めることなく腰を上下させる。その度に肉襞が陰茎を舐め上げ、融かされるような快感が襲う。下腹部の衝動が勢いよくせりあがっていく。同時に俺の思考も快感で塗りつぶされていった。
腰が深く落ち込むたびに、亀頭が彼女の最奥を突き上げる。その度に彼女は甘美の声を上げて微かに身体を震わせる。これが極上に心地よいのか――心地よいのだろう、彼女は腰を持ち上げると、また勢いよく腰を落として最奥を刺激させた。
淫らな水音が響き、肉同士がぶつかり合う音が繰り返す。快楽で朦朧とする意識の中で、リーズの声も聞こえた。一心不乱に腰を打ち付け、最も神聖な部分が蹂躙される悦楽を貪る彼女の声は、淫靡な嬌声を上げていた。
口から涎を垂らし、悦びで蕩けた顔はあまりにも淫らだった。黒い修道服をたくし上げ、何度もかき混ぜられて泡立った精液にまみれた結合部を見せつけるこの姿はあまりにも冒涜的だった。そして、男の上にまたがり、止めることなく腰を打ち付けるリーズの姿はあまりにも――
「……綺麗だ」
――綺麗だった。思わず声が出るほどに、俺の身体の上で乱れるリーズの姿は美しかった。
いつの間にか俺は泣いていた。滲む彼女の姿をはっきり見ようと念ずれば念ずるほど、涙があふれ出てきた。
俺は間違っていたのだ。今まで間違ったことを信じてきたのだ。性欲は悪だと信じていた。女性への想いは下心が先立つ邪念だと思っていた。子をなす際の悦びは、堕落へ誘惑だと考えていた。
だが、本当にこれは悪なのか? 俺の上で腰を振るリーズのこの美しさは卑しいものなのか?
違う。彼女が腰を打ち付けるたびに、彼女の想いが伝わるのを感じた。最奥を突き上げるたびに俺の想いが伝わったのを感じた。彼女の肉襞が俺の陰茎を撫でて、俺の陰茎が彼女の肉襞をこするたびに今まで隠し続けていた想いが、今まで抱いてきた愛が混じり合うのを感じた。
天と地が分かれたとき、人もまた男と女に分けられた。本来だったら決して混じることのないこの二人が混じることのできる唯一の方法。互いの想いを交わしあい、互いの愛を確かめ合う。そして一つの子供を築き上げる。この行為のどこが卑しいというのだろうか? これ以上に尊い行為がどこにあるというのだろうか?
俺が回心の涙を流していると、リーズの周囲で桃色の燐光が瞬いた。幻想じみたその輝きは、悦びに満ちたリーズの姿を更に美しく、更に淫らに照らしていく。増え続けていく燐光は、特にリーズの背後で一際強く輝く。刹那、彼女の背後から何かが広がった。それは翼だった。羽根の色は欲望の黒。下卑されて続けた色欲を誇るように、気高く淫らに周囲の燐光を反射する。
無垢の白ではなく、淫猥な黒い翼を湛え、清らかな修道服に身を包みながら、蕩けた顔で性の悦びを貪るリーズの姿あまりにも矛盾している。だが、そう思えるのは俺が旧い訓えに惑わされているだけだからだ。そこにいるのは新たな道に身を奉じた存在。男と女を一つに繋げ、互いの想いを伝える術の求道者。愛を尊ぶ聖職者の姿がそこにはあった。
俺は体を起こした。もう我慢できなかった。我慢する必要などないのだ。驚きで腰を止めるリーズを抱き締める。
「好きだ。ずっと、ずっと前から」
改めて俺の想いをリーズに伝えた。答えなんて分かってる。既に想いは交わしている。それでも俺は言った。言わずにいられなかった。これは誰かに聞かれたからじゃない。誰かに言わされたからじゃない。これは俺が言いたいと思ったから。俺が伝えたいと思ったから。
「好きだ。好きだ」
もう一度。もう一度。今までのすれ違いを取り戻すように、俺は何度も言った。リーズは俺の耳元に口を寄せて囁いてきた。
「私も好き」
答えとともにリーズは俺の背中に手をまわして抱きしめてくる。俺もまたリーズを抱きしめる腕に力を込めた。柔らかいリーズの身体のわずかな隙間すら惜しかった。互いを隔てる修道服がもどかしい。それでも身体を弄りあって限界まで密着させる。リーズの身体の柔らかさが、リーズの身体の温かさが俺の身体と混じり合うのが分かった。
抱き合ったまま俺はリーズを押し倒した。顔の両脇に手をついて、リーズを見つめる。顔を紅潮させて俺を見上げていたリーズは、やがて目を閉じた。微かに顎を持ちあげて待ち望む彼女に、躊躇うことなく口づけした。唇をぶつけるような不器用な口づけ。それでも彼女は柔らかく受け止めて、俺の唇に吸い付いてくる。ちゅっ、ちゅっ、と音を鳴らしながら口を啄む。その度に唾液が燐光に照らされて煌めいた。
リーズの手が頬に添えられ、僅かな別れも惜しむよう俺を引き寄せる。俺は抗うことなく唇を押し付けた。俺の唇を覆うように彼女は口を開く。開かれた咥内に向けて俺は舌をねじ込んだ。唇を内側から刺激し、歯を嘗め回して彼女の口の中を蹂躙する。彼女もまた舌を絡めて受け入れた。互いの粘膜を絡めあい、互いの吐息を吹き込みあう。唾液の一滴も、息の一吹きも、余すことなく彼女と一つになりたかった。
甘いリーズの唾液を舐めとり、その吐息を胸に吸い込んでいると、思い出したように下半身がうずき始めた。依然として繋がったままだからか、彼女も察した様に顔を離すと、にこりと微笑んだ。俺は身体を起こした。上半身が空気に晒されて熱を奪われていく。それと反比例するように、結合部の熱が増していく。俺は彼女の腰を掴んだ。
「いいよいっぱい来て。いっぱい出して」
その言葉を合図に、俺は腰を打ち付けた。しっかりと彼女の腰を把握し、奥深くまで陰茎を打ち込んでいく。力任せの律動だったが、それでも彼女は感じているようだった。始めは苦悶の吐息を漏らしていたが、一突き、二突きするたびにその吐息は甘い嬌声に変わり、やがてそれも抑えることのないよがり声に変わった。
腰を振るたびに肉襞が蠕動して、俺の陰茎を撫でまわす。最奥まで突き込むたびに、子宮口が亀頭に吸い付いてくる。下腹部からせりあがる蕩けるような刺激に、俺自身もまた喘ぎ声を上げそうになる。高まる快感に歯を食いしばって出そうになる声をかみ殺した。
快楽で視界を朧げになっていく。代わりに冴えわたる耳がリーズの喘ぎ声を伝えた。俺の欲望を打ち付けられて甘く響くその声は脳髄を溶かすようにしみ込んできた。意識が動物的な本能によって掻き消されていく。
「リーズ! リーズ!」
「ユベール! ユベール!」
かすかに残った理性を守るように、俺はリーズの名を叫んだ。リーズもまた俺の名を呼ぶ。彼女の声が霞む意識を明瞭にさせる。寸での所で明らかになった視界に、悦楽で蕩けたリーズの顔があった。俺の顔も彼女みたいに蕩けているのだろうか。腰を振るたびに、蠕動する彼女の肉壁が、陰茎とだけでなく、俺の思考すら削っていく。一突きするたびに滾る衝動が、俺の意識を溶かしていく。俺はひたすら彼女を想い、名を呼び、腰を振り続けた。下腹部から沸き起こる衝動はもう限界まで高まっていた。
衝動の赴くままに陰茎を限界まで奥に突き立てた。中に入らんばかりまで子宮口を突き上げる。彼女の体が跳ね上がり、陰茎が一際強く締め付けられた。視界が快感で白く染まる。最早止める術もなく、俺は彼女の膣内に射精した。
陰茎が脈動し、精液を彼女の最奥に注ぎ込む。今まで溜め込んでいた想いを注ぐように、尿道を駆ける精液のうねりは止まることがない。意識を打ち砕く爆発的な快感に、俺は声にならない喘ぎ声をあげた。
リーズの中に吐き出される精液は、同時に俺の身体から力を奪っていく。ようやく想いを出し切ったときには、身体を支えることはできず、リーズの上に倒れこんだ。そんな俺を、リーズは優しく抱き留めてくれた。柔らかな彼女の胸に抱かれ、あやす様に髪を撫でられると、全身が蕩けるような虚脱感と多幸感が湧いてくる。このまま融けてしまいたい。彼女と一つに混じり合いたい。疲労の中でそうぼんやりと考えるが、弛緩した身体とは裏腹に、股間の一部だけは、ここまで来てもまだ硬いままだった。
「まだ、元気……」
膣内で陰茎が硬度を保っていることを感じたのだろう。リーズはうっとりとした口調で言った。ここまで絶倫になれるのも、あの淫魔の毒の性だろう。始めは恨みしか出なかったが、こうしてリーズが悦んでくれるなら、有り難いばかりだ。
重くなった自分の身体を持ち上げて、腰を一突きするとともにリーズの唇を奪った。ぐもった嬌声とともにリーズは身体を震わせる。唾液の橋を作りながら顔を離して、俺はリーズを見つめた。
「もっとリーズとしたい」
「私も、もっとユベールとしたい」
俺はまたリーズの上に倒れこむと、腰だけを振って彼女の膣内を突いた。彼女は離れたくないとでもいうように、俺の腰に脚を絡めてくる。さらにベッドの上で広がっていた翼が俺を覆うように包み込んだ。ランプの光すら届かない暗闇で、桃色の燐光だけがリーズの顔を淫靡に照らしている。黒い羽根で閉ざされたこの空間は俺とリーズの二人だけの世界だった。気にするものが何一つ存在しないこの世界で、俺は一心不乱に腰を振った。そして唇を交わせあい、四肢を絡ませあい、身体を抱きしめあい、自分たちの想いを混じり合わせ続けた。
抱きしめたい。押し倒したい。当惑表情を浮かべるリーズに口づけしたい。閉じられていた唇を押し開き、温かい口腔内を蹂躙したい。喉の奥から吐き出されるその吐息を漏らすことなく肺に収めたい。体を弄りたい。普段身を包んでいる色気を感じさせぬ村娘の衣装を力任せに引き裂いて、穢れなき肌を目に収めたい。なだらかな曲線を描く下腹部や、女性らしくくびれている腰回りに手を這わせたい。ささやかに膨らんだ乳房を両手で鷲掴みにしたい。指の思うままに胸をこねくり回し、その柔らかさを堪能したい。掌の中で硬く隆起した突起を押しつぶして彼女を震わせたい。彼女の神聖な部分を守る様に閉じた太腿を、委細構わず開きたい。誰にも見せられることのなかったその秘裂を忘れぬよう眼に焼き付けたい。拒むように閉ざされた蕾に指を差し込み、奥から蜜を掻き出したい。指の蠢きに合わせてあふれだしてくるその蜜を、溢さぬように嘗め回したい。そして、もの欲しそうに開いた彼女の花弁に、俺の猛りを突き刺したい。神に捧げたはずの純潔を、俺の肉棒で貫きたい。蹂躙するように肉棒を突き動かして、彼女の温もりを感じたい。彼女の神聖な最奥に、俺の欲望をぶちまけたい。それでもなお彼女を蹂躙し続け、神のための無垢な顔を、快楽で緩んだ背徳の表情へ穢したい。
今まで願い続けた欲望が、願っても叶わぬと押さえつけていた欲望が、叶ってはならぬと殺し続けてきた欲望が、俺の身体を駆け巡る。募り続けた彼女への想いを燃やすように、炎のような熱が、俺の身体を彼女の下へ走らせようとする。だが、それはできない。村人たちは魔物の習性を理解していた。魔物の毒によって魔物になりつつある俺が誰も襲えぬよう、両手両足をベッドに縛り付けて抑え込んでいた。どんなに強く力をかけても、腕を縛る縄は千切れない。どんなに必死でもがこうが、脚を縛る縄は外れない。どんなに欲望をたぎらせても、それを鎮めることは決してできない。狂うような衝動の中で、俺はひたすら吠えた。喉を焼かんばかりに吠え続けた。それでも俺は全身全霊をかけてリーズの名は口にしなかった。神聖な彼女を俺の言葉で汚さぬために。心の奥で隠し続けた彼女への想いを守るために。魔物へ堕ちる俺の存在を想い残させぬように。俺はただただ苦悶の叫び声を上げ続けた。
不意に風が吹いた。柔らかに流れた風は、俺の全身を愛撫するように刺激する。それだけでも陰茎が跳ね上がる気持ちよさを感じたが、同時に漂う香りが、快楽を通り越して、呆然とさせた。鼻腔から脳にしみこむその匂いは、いつも嗅ぎ続けた少女の匂い。もはや二度と叶わぬと、叶ってはならぬと諦めようとした、想い人の香り。
俺は目を開けて部屋の入り口を見た。開け放たれたそこには、修道服姿のリーズがランプを持って佇んでいた。
これは夢か? 幻想か? 一目見たいと望みながら、望んではならぬと抑え込み続けた俺の心が生み出す幻か。黒を基調とした修道服は夜の闇に溶け込み、体の陰影を朧にさせる。ただただランプの炎が揺らめきながらリーズの顔を照らしていた。闇の中に浮かび上がったその顔は、今まで見たことがないほど綺麗で、艶めいていた。
「リーズ?」
名を呼んだだけで、俺の心は大きく跳ねた。息が詰まってこれ以上の言葉が出ない。だが、それ以上の言葉いらないとばかりに、リーズは進み出る。こつりこつりと響くリーズの足音が、リーズが近づいてくるという確かな期待が、俺の心臓を限界を超えて動かしていく。
「来ちゃ駄目だ」
肺の中の絞り出して、やっとその言葉が言えた。彼女の肌に触れたい。触れてはいけない。彼女と唇を交わしたい。交わしてはいけない。堅く抱擁したい。抱擁してはいけない。彼女の身体を弄りたい。弄ってはいけない。彼女の肉体に、俺の肉を突き立てたい。突き立ててはいけない。彼女の神性を、俺の欲望で汚したい。汚してはいけない。何よりも、彼女に愛を囁きたい。長年秘めてきた想いを彼女にぶつけたい。だが、神の道を進む聖女を、凡夫の言葉で惑わしてはいけない。
二律背反する思いが、交わることなく頭の中で渦を巻く。矛盾した思考に動く身体はリーズに飛びかかろうとするのか、それとも逃げ出そうとするのか、自分でも判別がつかない。もっとも、何れにせよ両手両足はベッドに縛られ、ただ縄をきしませるしかできなかった。
俺の必死の制止も聞かず、リーズはベッドの脇まで来た。枕元にランプを置いた彼女は、跪いて目線の高さを俺に合わせる。すぐ傍に近づいた彼女の顔に、俺の心臓は否が応にも高鳴っていく。厭らしいことだとは理解しながらも、彼女の呼気を吸っているという妄想が頭をよぎり、自身が更に興奮していくのが分かった。
だが、衝動が身体を動かそうとする中で、僅かに残った理性が微かな違和感を告げていた。俺のことをじっと見つめる彼女の瞳。いつも見ていた優しい眼差しと違うところはない筈なのに、今はなぜか官能的だった。
「今のユベールを治す方法を教えてもらったの。だから、心配しなくていいよ」
俺を治す方法だと? 長老すら匙を投げたこの毒を癒す方法方があるだと? 沸き起こる疑問に、俺は声を上げようとする。だが、それより先にリーズが動いた。突然掛け布団に手をかけたリーズは、そのまま俺の身体を隠していたこの覆いをはぎ取った。布団の下から露わになった光景に、俺は思わず目を背けた。すぐ脇からリーズの息を呑む音が聞こえる。それもそうだ。俺の股間は、今にもズボンを破りそうなほど膨らんでいたからだ。男であることをこれ程恥ずかしいと思ったことはなかった。あの白い魔物に襲われたことが恨めしかった。だが、どんなに恥じ入ったところで、この光景は、この熱をもった身体は変えることはできない。俺はただ、自分の欲望をリーズに見せつけるしかできなかった。
「ごめん」
目をそらしたまま、俺は呟いた。もはや消え入りたくなるくらい、囁くような声しか出ない。だが、視界の外からはすぐに言葉が返ってきた。それは、慈愛に満ちた優しくて、甘い囁き。
「謝らなくていいよ。大丈夫、今、楽にするから」
わずかな空気の揺らめきを帯びて、リーズが動いた。目をそらしていた下半身に何かが触れる。視線を向けるとリーズがズボンに手をかけていた。
「待って、待ってくれリーズ」
俺は制止の声を上げる。でもリーズは止まらない。下穿きごとズボンをずり下げて、最後の一線で隠していた俺の欲望を露わにした。恥辱で泣きたくなる俺の思いとは裏腹に、解放された俺の欲望は雄々しくそそり立ち、自らの存在を堂々と主張する。眼の前に飛び出した肉棒にズボンをずり下げていたリーズの手が止まった。だが、そそり立った肉棒を見つめる彼女の眼差しに、汚らしいものとして蔑む様子や、いやらしいものとして恥ずかしがる様子は見えない。ただ、雄の欲望を溜めこんで赤黒く腫れ上がった肉棒を、リーズはまじまじと見つめていた。
「これを……」
ようやく、リーズはつぶやいた。意を決したように俺の陰茎をにらむと、そろそろと手を伸ばす。俺は既に限界だった。魔物の毒の性だろう。村に着いた時からずっと陰茎は勃起していた。だが、戻ったら否やすぐさまベッドに縛り付けられて、欲求を吐き出すことはできなかった。そこにリーズが現れた。傍にいるだけで、俺の陰茎は想いで更に腫れ上がる。息の吸うたびに、彼女から漂う芳香を感じて陰茎が硬度を増していく。ずっと思い続けた彼女が俺の陰茎を見つめているという幻のような現実が陰茎をさらに膨らませる。これまで経験したことないほど、俺の陰茎は勃起していた。そこにリーズの手が触れた。
びゅるっ! 比喩ではなく、確かにそういう音が聞こえた。我慢はとっくの昔に限界を迎えており、リーズの指先が触れただけで射精してしまった。溜まりに溜まったわだかまりを吐き出す快感に、腰が抜けそうになる。快楽で明滅する思考の中、俺は歯を食いしばって正気を保った。
噴水のように噴き上げられた精液が、伸ばされていたリーズの手に降り注ぐ。白磁のように白い手を、俺の欲望が汚していく。快感で揺らぐ視界は、その光景から現実味を失わせていく。これが幻想ならどれだけよかっただろうか。淫魔の毒に苛まれる俺が作り出した妄想だったらどれだけよかっただろうか。だが、同時に沸き起こる罪悪感がそれを現実だと強く印象付ける。己の最も下劣な欲望が彼女を穢してしまったという罪の意識は、快感をなすがままに受け止めることができる夢には存在しない感覚だった。
リーズは俺の射精を驚いたように目を見開いて眺めていた。やがて精液を出し切り、白濁の噴出は止まると、リーズの目元の緊張も和らぎ、視線は自分の手にまとわりつく白い粘液に移った。その目は女性が見せてしかるべき、汚らわしいと言いたげな目ではなかった。呆然と、されどことなく見惚れているような、意識が希薄な目だった。
不意にリーズが精液にまみれた手に顔を寄せた。臭いを確かめたいのか、鼻先を近づける。その普段は見せたことのない物欲しげなリーズの姿に、どういうわけか背筋にぞくぞくとした感覚が走る。微かに空気が流れる音が聞こえた。すん、すんと調子を取って繰り返される音は、リーズが精液の臭いを嗅いでいる証だ。その光景に、俺の下腹部で熱がたぎり始めた。ひとしきり臭いを確かめたリーズは続いて口を開いた。開かれた唇の色摩から、唾液でてらてらと輝いた舌が伸びる。もしや――。リーズがやろうとすることを想像し、俺は息を呑んだ。だが、舌先が指先に絡まった白い滴に届く前に、彼女は何かに気づいたかのように目を見開いた。慌てた様子で口を閉じ、手を離したリーズは、顔をこちらに向けた。俺の事を見つめるその目には、意識がちゃんと宿っていた。
「ねえ、ユベール。これで楽に――」
リーズのしっかりした口調で俺に問いかける。だが、その途中で、何かが俺の陰茎をつかんだ。思わぬ刺激に裏返った声が出る。
「まだよ、リーズちゃん。」
耳を嘗め回されるような、ぞくぞくとした快感とともに女の言葉が響く。こんな淫靡な声を持つ女を俺は一人しか知らない。視線を向けると、赤い瞳がこちらを見つめていた。人狼に襲われた山道で見たものと瞳。俺の身体に猛りの毒を仕込んだ淫魔がそこにいた。
「イナン――」
頭を持ち上げて名前を呼ぼうとするが、イナンナにこりと笑うと、途端に喉が詰まり声が出なくなった。不思議と通る息だけが、ひゅうひゅうという風の音を鳴らす。
「ほら、見てごらんなさい。まだおチンポがこんなに腫れているわ」
視線をリーズに向けてイナンナが囁く。彼女の言葉通り、俺の陰茎は一度射精したとは思えないほどの硬さを保っていた。
「だから、こうやってシコシコしてザーメンを絞り出してあげなくちゃ」
その言葉とともに陰茎を握るイナンナの手が上下した。途端に走る快感に、俺は思わず声を上げる。四肢を縛る縄を軋ませ、悶える俺を、リーズは呆然と見つめていた。
「ほら、リーズちゃん。あなたも扱いてあげて。おチンポをいっぱいシコシコしてあげて、ザーメンをいっぱい出してあげて、キンタマに溜まった毒をいっぱい出してあげなくちゃ」
リーズに向けて囁きながらイナンナは陰茎から手を離す。リーズは魅入られたかのように、拒むことなく俺の陰茎を掴んだ。彼女の手に包まれた。そう思うだけで俺の陰茎はびくんと跳ねた。リーズは突然の脈動に少し驚いたようだったが、直ぐに気を取り直してゆっくりと手を動かし始める。温かくて柔らかい指が、竿の部分を上下に撫で上げる。その快楽に俺は喘ぎ声を上げないのが精いっぱいだった。
快感に悶えながら、俺はリーズの奇行の原因を悟った。同時に、山道で俺が見逃された理由も分かった。俺は餌にされたのだ。捕らえない代わりに毒で苦しませた状態で放置する。慈悲深いリーズなら、必ず助ける手立てを探すはずだ。やがて彼女は解毒方法を知る人――それが毒を仕込んだ張本人だとしても――を頼る。その時にさもこれが唯一の解毒方法だと騙くらかすことで、神の道を歩む聖女を背徳の道に誘うつもりなのだ。
騙されている、とリーズに伝えたかった。だが、その声は喉の奥に詰まって出てこない。これもこの淫魔の仕業だ。傍らで愉悦そうに笑うイナンナを憎しみを込めて睨んだ。でも、それは本当なんだろうか。心の奥で何かが囁く。本当は自分が言いたくないだけじゃないのか。だって、こんなに気持ちいいのだから。俺の中の声が言う通り、リーズに陰茎を扱かれているというのは、抗いがたい快感があった。リーズに真実を告げたら、この快感が終わってしまうのではないか、という危惧は確かに俺の心の奥底に存在した。
「滑りが足りないかしら。濡らさないとね」
しばらくリーズの手淫を見ていたイナンナが何かに気が付いた風に呟いた。思わせぶりな笑みを浮かべて陰茎に顔を寄せてくる。顔が陰茎に触れるか触れないかといったところで、唇を開いて唾液を垂らし始めた。温かい粘液が亀頭に降りかかる。これも淫魔の毒だろうか。唾液が触れたところが焼けつくような熱を持つとともに、敏感になっていくのを感じた。
「これで動かしやすくなったわ。ほら、リーズちゃん。動かしてみて」
「はい」
イナンナに誘われて、リーズがまた陰茎をしごき始めた。上下に波打つその刺激は、それだけでも腰が抜けるほど気持ちい。だが、先ほど垂らされた唾液がリーズの手の動きに合わせて刷り込まれて、陰茎が更に敏感になっていく。もはや風ですら感じるほど敏感になった陰茎をリーズは容赦なく扱きあげる。手が上下に動くたびに、陰茎が脈動し、下半身に欲望が集まっていく。もう堪えられなかった。
限界を感じ取ったのだろう、イナンナはにやりと笑うと、リーズの手ごと陰茎を強く握ってきた。一際強い刺激に俺の我慢は決壊した。下半身に溜まっていた熱が噴出する。陰茎の中から迸る精液のうねりが、内側から刺激する。その脈動がリーズの掌の存在を認識させ、更なる快感を生む。思考が何も考えられない白で染まっていく。
このまま消失しようとした意識をリーズの声が繋ぎ止めた。でもそれは優しい声でも、甘い声でもない。悲鳴に似た小さな叫び。取り戻した視界では、リーズの顔に向けて精液が噴出していた。
堅く目を閉じて、リーズは吹き付けられる白濁に耐えている。俺の欲望が、手だけでなく、顔まで穢してしまった。その光景に、たちまち罪悪感が沸き起こってくる。それ以上に、リーズの怯えたような姿が射精の快感すら雲散霧消させる。出し切れないと感じながらも、精液の噴出は急速に衰えて、止まった。
今度こそ謝らなければ。喉の奥で引っかかる謝罪の言葉を何とか吐き出そうと、俺は口をパクパクさせる。だが、俺が声を出す前にリーズの様子が変わった。耐えるように堅くなっていた彼女の表情が急速に和らいでいく。眉間の皺が解消され、頬は平静を通り越して、幸せそうだと思えるほど弛緩する。やがて開いた目には恐怖の色はなかった。何かに酔いしれた様な、心地よさげな色が、その瞳に宿っていた。
だらしなく彼女の口が開かれる。緩み切った頬から、口に向けて精液が流れ始めた。だが精液は躊躇するように唇の上で止まる。滴を作る白濁を、彼女は舌で舐めとった。舌先に乗った精液を口に含むと、彼女の顔は美味しいと言いたげに綻んだ。
汚い筈の精液を蕩ける顔での舐めとり、喉を鳴らす光景に、倒錯した快感が俺の背筋を走った。下腹部で残っていた欲望の一部が隙を見つけたとばかりに尿道を駆け上る。それは白濁となって、先ほどと同じくリーズの顔へ跳躍した。顔で受け止めるリーズもまた先ほどと同じく声を上げた。だが、今度は悲鳴じゃない。甘く蕩けた、ため息のような声が、口から漏らす様に吐き出された。
リーズは顔にまとわりつく精液を手で掬い取ると、掬い取った端から舐め始めた。浅ましさを感じるほど精液をすするリーズの姿を呆然と見つめていると、何かが亀頭に触れた。新たな刺激に思わず目を向けると、イナンナが亀頭に口づけしていた。赤く艶やかな彼女の唇の感触は、それだけでも腰砕けになるほど気持ちいい。だが、そのあとに続いた刺激に俺は情けない喘ぎ声を上げた。かすかに、ちゅう、と音を漏らして、彼女は陰茎を吸い上げたのだ。尿道に残った精液の残滓をも欲するように、彼女は俺の陰茎を吸引する。内側から受ける刺激に俺は身をよじって悶える。精嚢の奥で吐き出されずに燻っていた欲望の残りが熱を持ち始める。それが沸騰し、外に噴出しようとしたところで、彼女は唇を離した。先ほどとは打って変わった生殺しの行い。思わず彼女に目を向けると、彼女は意味ありげに唇を釣り上げてから、リーズの方を向いた。指先に残った精液すら惜しいとばかりに、自分の指をしゃぶっていたリーズは、彼女と目が合うと、つまみ食いを見咎められた子供の様に背を正した。
「リーズちゃん、ここにまだ残っているわよ」
イナンナが俺の陰茎を指し示す。精液にまみれてそそり立つ肉棒を見てリーズはにんまりと笑った。そのままリーズは躊躇うことなく亀頭に口づけした。それだけで俺の腰は跳ね上がった。お預けされていた下腹部の疼きが尿道を駆け上る。ようやく解放されてた欲望の残滓がリーズの口の中に飛び込んだ。脈動とともに咥内に噴出する精液を、リーズは舌で喉の奥に導いていく。その度に舌先が亀頭を舐め上げ、腰が浮くほどの刺激が走った。
やがて精嚢の中が本当に空になってしまったのか、俺の射精はようやく止まる。それでも尿道に残るものを絞り出そうとリーズは陰茎を手で扱き始めた。それでも出ないことを悟ると、今度は陰茎に滴っていた精液をまだ足りないとばかりに舐めとり始めた。
ふと、いつもの彼女の姿を思い出した。穏やかに見下ろす聖像に傅いて祈りの言葉を唱える彼女の姿が。穏やかに目を閉じて祈る姿は静謐そのものだ。静かに動く唇からは神聖な語句が漏れている。それが今はどうだろうか。陰茎に舌を這わす彼女の瞳は、極上の甘露を嘗め回す子供のように蕩けている。唇は涎を垂らしながらも、舌先を淫らな動きで出し入れしつつ、陰茎にまとわりついている精液を溢すことなくすすっている。そこに神に祈りを捧げてる禁欲的な彼女の姿はなかった。淫らな雌の姿がそこにはあった。
己の欲望によって彼女を穢してしまった罪悪感が心臓を締め付ける。だが、理性とは裏腹に、穢してしまったという背徳感が、下半身を熱くする。空っぽになったはずの精嚢が滾り、新たな精子が生産されているかのように疼き始める。リーズに啄まれている陰茎が一際大きな脈動とともに硬さを増した。
「また出るんですね。いいですよ。いっぱい出してください。全部吸い出しますから。今度はお口全部で」
陰茎がまた猛り出したのを察したのだろう。リーズは誘いの言葉を述べると、恍惚とした表情で陰茎を銜えなおす。今度は大きく口を開くと、亀頭を銜えこみ、そのまま根元まで飲み込んだ。口腔内の温もりが陰茎全体を包み込む。舌で裏筋を舐め上げられるたびに、ぞくぞくとした快感が襲ってきた。彼女が頭を振るたびに、唇が射精を急かす様に陰茎を愛撫した。
ぐっぽぐっぽという空気の音を鳴らしながら陰茎をしゃぶるリーズの姿は信じられないほど淫らだった。左手で陰茎の根元を支えて頬張っている。あれ、右手は――。快感に喘ぎながら目を凝らすと、彼女の右手は自分の股間に伸びていた。リーズは自分を慰めている。それに気づいたとき、がつんと殴られたような衝撃を感じた。俺の中で抱いていたリーズへの幻想が完全に壊れた瞬間だった。夜ごと自分を邪な妄想で慰めてもなお守り続けた清らかな彼女の幻想が、陰茎をしごかき、顔に精液をまみれさせ、蕩けた顔で陰茎をしゃぶりながら、それでもなお抱き続けた美しい彼女の幻想が、音を立てて崩れ去った瞬間だった。
丈の長い修道服のスカートを捲り上げて、リーズは股間に伸ばした腕を動かしている。口淫の音の隙間から卑猥な水音が聞こえるようだった。いや、確かに聞こえてきた。座っていられないのか、彼女は腰を持ち上げて腕の動きを激しくする。いつの間にか陰茎を銜える彼女の表情も、甘露を舐める蕩けた表情から、何かを我慢する苦悶の表情に変わっていた。陰茎を頬張る頭の動きは激しさを増し、さらに高まった快感に俺もまた限界を迎えつつあった。
やがて彼女は弾かれたように腰を跳ね上げた。微かなうめき声とともに、頭の動きが止まる。代わりとばかりに陰茎を締め付ける唇の力が強くなった。一際強まった刺激に、俺もまた達してしまった。
力が抜けてしまったのか、リーズは持ち上げていた腰を落とす。首を支えるのも億劫なのか、俺の又坐に頭を乗せた。それでも陰茎は頬張り続けて、恍惚の表情で咥内に注がれる精液を嚥下していく。リーズがごくりごくりと喉を鳴らすたびに、舌が蠕動して陰茎を舐め上げる。その刺激に俺はさらに射精した。
三度目の射精だというのに、一度目と変わらないほどの精液を俺は射精していた。いや、精嚢が作る端から精液を吸い出されるような感覚と、下半身を融かされるような快感、それに伴う虚脱感はこれまでより大きい。俺が脱力の息を吐いて、射精を終えるまでどれくらいの時間がかかったのかわからなかった。
名残惜しげに鈴口を吸い上げていたリーズも力なく陰茎を吐き出した。心地よい咥内から追い出され、冷ややかな風が陰茎を撫でる。ここに至るまで三度の射精を行い、絞り粕すら残らないほど、精液を吸い取られていた。俺自身、これ以上ないほど疲労を感じていた。にも拘らず、俺の陰茎は屹立していた。
息も絶え絶えといった様子で俺の内腿に頭を乗せていたリーズが、それでもなおそそり立つ陰茎に恍惚のため息を漏らす。
「見て。毒はまだ溜まってるみたいよ。リーズちゃんはどうすればいいと思う?」
半ば存在を忘れていたイナンナがリーズに顔を寄せてきた。意味ありげに微笑みながらリーズに問いかける。
「質問を変えましょう。リーズちゃんはどうしたいと思っているの?」
「私のしたいこと……」
イナンナに視線だけ向けたリーズは、そう呟きながら俺の陰茎に視線を戻す。だらしなく口を開けたまま陰茎を見つめていた彼女は、やがて俺の方に視線を向けた。
「あった。私のしたいこと」
依然として顔を蕩けさせながらも、しっかりと俺を見据えて、リーズは言った。その言葉を聞いてイナンナは満足気に微笑んだ。
もぞもぞと体を動かしたリーズは、片足をひっかけてベッドの上に転がり込んだ。そのまま四つん這いになって、俺の方に這い進んでくる。
「ねえ、ユベール。私ね、知ってるんだよ。さっきまでしてたことが何なのか」
近づいてくる彼女の顔は今まで見た事のない笑みを湛えていた。念願だった玩具を手に入れた子供のような歓喜に満ちた笑み。体面を気にすることなく吐露された狂喜の表情。そして何よりも、繁殖期を迎えて発情しきった雌の貌がそこにはあった。
「毒を癒す方法だって聞いたけど、それだけじゃないってことは知ってるんだよ」
彼女が近づくたびに、彼女が纏う修道服が俺の肌を撫でる。まるで彼女の手で愛撫されたようで、俺の身体はその度に震えた。
「騙されてることも知ってるんだよ。でもそんなの関係なかった。だって――」
ついにリーズが覆いかぶさった。顔をずいと寄せてリーズは俺に問いかけてくる。頬を紅潮させた彼女の顔を見れは続く言葉は分かっていた。
「――ユベールのことが好きだから」
予想していてもなお、覚悟していてもなお、その言葉は俺の思考をガツンと打った。俺も好きだ。それを言うことができればどれだけよかっただろうか。
俺が言葉を失っていると、リーズは顔を離した。膝立ちになって彼女は俺を見下ろす。不意に彼女の手が俺の股間に伸びた。依然として屹立する俺の陰茎を掴むと修道服のスカートの中に導いていく。亀頭に何か柔らかいものが触れた。粘性の液体で塗れた何かが啄むように亀頭を挟んでいる。リーズは小さく甘い吐息を吐くと、にこりと笑って俺を見つめた。
「もうどっちでもいい。私はもっとしたい」
そう言って、リーズは修道服のスカートをたくし上げた。露わになった彼女の下腹部では、屹立した俺の陰茎に彼女の秘裂が押し当てられていた。このまま俺の陰茎が彼女を貫けば、最後の一線を越えてしまう。もっとも馬乗りにされたこの状況でその決定権はリーズにあった。彼女がが一度体重をかければ、容易くその一線を破ることができる。だが、どういうわけかリーズは秘裂を押し付けるだけで、そこから動こうとはしなかった。
「ユベールさん、気づいていない様だから教えてあげる」
耳元でぞくぞくとする吐息を吐きながらイナンナが囁いてきた。
「あなたを縛る縄は解いたわ。あなたはもう自由よ」
その言葉にハッとして腕を動かす。彼女の言葉の通り、腕は繋ぎ止められておらず、自由に動かすことができた。
「嫌なら嫌って言っていいのよ。リーズちゃんを止めてもいいの」
確かに、自由を取り戻した今なら、腰の上にまたがるリーズを突き飛ばすことができる。未だに残る最後の一線を守り通すことができる。
「でも、これだけは聞かせてちょうだい」
声が更に近づいた。吐息が耳を嘗め回しているようで、身体の芯まで浸みるような快感が走った。
「あなたは、リーズちゃんのことをどう想ってるの?」
耳元で問いが投げかけられる。俺の答えは決まっている。だがそれを言えばどうなるかも分かっていた。俺の秘め続けた想いをぶちまけることこそ、この淫魔の姦計であることは明らかだ。言ってしまったら最後、淫魔の思惑通りリーズは堕落への最後の一線を貫くだろう。
だが、それを理解していても、俺の心は嘘の言葉を許さなかった。ここで嘘をつけばリーズのことを完全に拒絶したことになるからだ。リーズを拒絶するなんてできる訳なかった。
「ユベールは、私のこと、好き?」
答えに窮している俺を見て、今度はリーズが問いかけてきた。いつの間にやら蕩けた表情をしまい込んで、じっと俺を見下ろしている。その不安げな瞳に、真剣に見つめるその瞳に嘘などつける訳がなかった。
その先に何が起こるか理解して、それでも俺は口を開いた。しまい込んでいた彼女への想いを絞り出す。こんな形でしか伝えられなかったことが恥ずかしくて、悲しくて、悔しかった。
「――――好きだ」
俺が呟くと、リーズは幸せそうに微笑んだ。
「じゃあ、いいよね」
言うが早いか、リーズは腰を落とした。柔らかく温かいリーズの蜜壺が俺の陰茎を包んでいく。カリ首や裏筋の区別なく全体を撫で挙げられる快感はこれまで経験したことがない。あっという間に限界になったところで亀頭が蜜壺の最奥を叩いた。腰を落とし切ったリーズが悲鳴に似た甘い声とともに跳ねる。同時に陰茎を包む肉襞が急に窄まる。全体を絞られ、俺も達してしまった。
脈動を伴いながら吐き出される精液に、リーズは体を震わせて喘ぎ声を上げる。その度に彼女の肉襞はさながら射精をせがむように蠢いた。俺は望まれるまま射精した。無尽蔵と思えるほど、射精し続けた。
「いっぱい貰っちゃった」
力の入らない瞳で俺を見つめながら、ようやく彼女は呟いた。緩んだ笑みを浮かべながら、彼女は腰を持ち上げる。引きあがっていく肉襞が射精したばかりで敏感な陰茎を撫で上げ、ぞくりとした快感が走った。
結合部を見せつけるようにリーズはスカートをたくし上げる。秘裂からぎりぎりまで抜き出された陰茎は、白と赤のまだら模様の液体でぬらぬらと輝いていた。赤は彼女の純潔を奪った証。白は彼女を欲望で穢した証。それは守り続けていた最後の一線が突き破られた証拠だった。最早過去に戻ることはできない。栄達が約束された修道女と、ただの田舎の猟師との、もどかしくも、どこか心地よかったあの関係は二度と取り戻せないのだ。まざまざと見せつけられた現実に、覚悟をしていても尚、目の前がくらくらした。俺が言葉も失い、呆然と見つめていると、リーズが何かに気づいたようにつぶやいた。
「でも、まだ硬い」
そう、リーズの中に想いを注ぎ込んでもなお、俺の欲望はまだ硬いままだった。もう何度射精したかわからないというのに、俺の陰茎は未だ熱を持って彼女を持ち上げていた。
リーズは笑った。全てが融け堕ちたような蕩け切った微笑みで。正気を全て失ったような狂気に満ちた微笑みで。
「だったら、ちょうだい。もっとちょうだい。いっぱい気持ちよくするから」
そう言って、彼女はまた腰を落とした。また陰茎全体を肉襞が包み込む。流石に今回は果てずに耐えきった。だが彼女の動きも一度では終わらない。彼女はすぐに腰を持ち上げると、二度、三度と止めることなく腰を上下させる。その度に肉襞が陰茎を舐め上げ、融かされるような快感が襲う。下腹部の衝動が勢いよくせりあがっていく。同時に俺の思考も快感で塗りつぶされていった。
腰が深く落ち込むたびに、亀頭が彼女の最奥を突き上げる。その度に彼女は甘美の声を上げて微かに身体を震わせる。これが極上に心地よいのか――心地よいのだろう、彼女は腰を持ち上げると、また勢いよく腰を落として最奥を刺激させた。
淫らな水音が響き、肉同士がぶつかり合う音が繰り返す。快楽で朦朧とする意識の中で、リーズの声も聞こえた。一心不乱に腰を打ち付け、最も神聖な部分が蹂躙される悦楽を貪る彼女の声は、淫靡な嬌声を上げていた。
口から涎を垂らし、悦びで蕩けた顔はあまりにも淫らだった。黒い修道服をたくし上げ、何度もかき混ぜられて泡立った精液にまみれた結合部を見せつけるこの姿はあまりにも冒涜的だった。そして、男の上にまたがり、止めることなく腰を打ち付けるリーズの姿はあまりにも――
「……綺麗だ」
――綺麗だった。思わず声が出るほどに、俺の身体の上で乱れるリーズの姿は美しかった。
いつの間にか俺は泣いていた。滲む彼女の姿をはっきり見ようと念ずれば念ずるほど、涙があふれ出てきた。
俺は間違っていたのだ。今まで間違ったことを信じてきたのだ。性欲は悪だと信じていた。女性への想いは下心が先立つ邪念だと思っていた。子をなす際の悦びは、堕落へ誘惑だと考えていた。
だが、本当にこれは悪なのか? 俺の上で腰を振るリーズのこの美しさは卑しいものなのか?
違う。彼女が腰を打ち付けるたびに、彼女の想いが伝わるのを感じた。最奥を突き上げるたびに俺の想いが伝わったのを感じた。彼女の肉襞が俺の陰茎を撫でて、俺の陰茎が彼女の肉襞をこするたびに今まで隠し続けていた想いが、今まで抱いてきた愛が混じり合うのを感じた。
天と地が分かれたとき、人もまた男と女に分けられた。本来だったら決して混じることのないこの二人が混じることのできる唯一の方法。互いの想いを交わしあい、互いの愛を確かめ合う。そして一つの子供を築き上げる。この行為のどこが卑しいというのだろうか? これ以上に尊い行為がどこにあるというのだろうか?
俺が回心の涙を流していると、リーズの周囲で桃色の燐光が瞬いた。幻想じみたその輝きは、悦びに満ちたリーズの姿を更に美しく、更に淫らに照らしていく。増え続けていく燐光は、特にリーズの背後で一際強く輝く。刹那、彼女の背後から何かが広がった。それは翼だった。羽根の色は欲望の黒。下卑されて続けた色欲を誇るように、気高く淫らに周囲の燐光を反射する。
無垢の白ではなく、淫猥な黒い翼を湛え、清らかな修道服に身を包みながら、蕩けた顔で性の悦びを貪るリーズの姿あまりにも矛盾している。だが、そう思えるのは俺が旧い訓えに惑わされているだけだからだ。そこにいるのは新たな道に身を奉じた存在。男と女を一つに繋げ、互いの想いを伝える術の求道者。愛を尊ぶ聖職者の姿がそこにはあった。
俺は体を起こした。もう我慢できなかった。我慢する必要などないのだ。驚きで腰を止めるリーズを抱き締める。
「好きだ。ずっと、ずっと前から」
改めて俺の想いをリーズに伝えた。答えなんて分かってる。既に想いは交わしている。それでも俺は言った。言わずにいられなかった。これは誰かに聞かれたからじゃない。誰かに言わされたからじゃない。これは俺が言いたいと思ったから。俺が伝えたいと思ったから。
「好きだ。好きだ」
もう一度。もう一度。今までのすれ違いを取り戻すように、俺は何度も言った。リーズは俺の耳元に口を寄せて囁いてきた。
「私も好き」
答えとともにリーズは俺の背中に手をまわして抱きしめてくる。俺もまたリーズを抱きしめる腕に力を込めた。柔らかいリーズの身体のわずかな隙間すら惜しかった。互いを隔てる修道服がもどかしい。それでも身体を弄りあって限界まで密着させる。リーズの身体の柔らかさが、リーズの身体の温かさが俺の身体と混じり合うのが分かった。
抱き合ったまま俺はリーズを押し倒した。顔の両脇に手をついて、リーズを見つめる。顔を紅潮させて俺を見上げていたリーズは、やがて目を閉じた。微かに顎を持ちあげて待ち望む彼女に、躊躇うことなく口づけした。唇をぶつけるような不器用な口づけ。それでも彼女は柔らかく受け止めて、俺の唇に吸い付いてくる。ちゅっ、ちゅっ、と音を鳴らしながら口を啄む。その度に唾液が燐光に照らされて煌めいた。
リーズの手が頬に添えられ、僅かな別れも惜しむよう俺を引き寄せる。俺は抗うことなく唇を押し付けた。俺の唇を覆うように彼女は口を開く。開かれた咥内に向けて俺は舌をねじ込んだ。唇を内側から刺激し、歯を嘗め回して彼女の口の中を蹂躙する。彼女もまた舌を絡めて受け入れた。互いの粘膜を絡めあい、互いの吐息を吹き込みあう。唾液の一滴も、息の一吹きも、余すことなく彼女と一つになりたかった。
甘いリーズの唾液を舐めとり、その吐息を胸に吸い込んでいると、思い出したように下半身がうずき始めた。依然として繋がったままだからか、彼女も察した様に顔を離すと、にこりと微笑んだ。俺は身体を起こした。上半身が空気に晒されて熱を奪われていく。それと反比例するように、結合部の熱が増していく。俺は彼女の腰を掴んだ。
「いいよいっぱい来て。いっぱい出して」
その言葉を合図に、俺は腰を打ち付けた。しっかりと彼女の腰を把握し、奥深くまで陰茎を打ち込んでいく。力任せの律動だったが、それでも彼女は感じているようだった。始めは苦悶の吐息を漏らしていたが、一突き、二突きするたびにその吐息は甘い嬌声に変わり、やがてそれも抑えることのないよがり声に変わった。
腰を振るたびに肉襞が蠕動して、俺の陰茎を撫でまわす。最奥まで突き込むたびに、子宮口が亀頭に吸い付いてくる。下腹部からせりあがる蕩けるような刺激に、俺自身もまた喘ぎ声を上げそうになる。高まる快感に歯を食いしばって出そうになる声をかみ殺した。
快楽で視界を朧げになっていく。代わりに冴えわたる耳がリーズの喘ぎ声を伝えた。俺の欲望を打ち付けられて甘く響くその声は脳髄を溶かすようにしみ込んできた。意識が動物的な本能によって掻き消されていく。
「リーズ! リーズ!」
「ユベール! ユベール!」
かすかに残った理性を守るように、俺はリーズの名を叫んだ。リーズもまた俺の名を呼ぶ。彼女の声が霞む意識を明瞭にさせる。寸での所で明らかになった視界に、悦楽で蕩けたリーズの顔があった。俺の顔も彼女みたいに蕩けているのだろうか。腰を振るたびに、蠕動する彼女の肉壁が、陰茎とだけでなく、俺の思考すら削っていく。一突きするたびに滾る衝動が、俺の意識を溶かしていく。俺はひたすら彼女を想い、名を呼び、腰を振り続けた。下腹部から沸き起こる衝動はもう限界まで高まっていた。
衝動の赴くままに陰茎を限界まで奥に突き立てた。中に入らんばかりまで子宮口を突き上げる。彼女の体が跳ね上がり、陰茎が一際強く締め付けられた。視界が快感で白く染まる。最早止める術もなく、俺は彼女の膣内に射精した。
陰茎が脈動し、精液を彼女の最奥に注ぎ込む。今まで溜め込んでいた想いを注ぐように、尿道を駆ける精液のうねりは止まることがない。意識を打ち砕く爆発的な快感に、俺は声にならない喘ぎ声をあげた。
リーズの中に吐き出される精液は、同時に俺の身体から力を奪っていく。ようやく想いを出し切ったときには、身体を支えることはできず、リーズの上に倒れこんだ。そんな俺を、リーズは優しく抱き留めてくれた。柔らかな彼女の胸に抱かれ、あやす様に髪を撫でられると、全身が蕩けるような虚脱感と多幸感が湧いてくる。このまま融けてしまいたい。彼女と一つに混じり合いたい。疲労の中でそうぼんやりと考えるが、弛緩した身体とは裏腹に、股間の一部だけは、ここまで来てもまだ硬いままだった。
「まだ、元気……」
膣内で陰茎が硬度を保っていることを感じたのだろう。リーズはうっとりとした口調で言った。ここまで絶倫になれるのも、あの淫魔の毒の性だろう。始めは恨みしか出なかったが、こうしてリーズが悦んでくれるなら、有り難いばかりだ。
重くなった自分の身体を持ち上げて、腰を一突きするとともにリーズの唇を奪った。ぐもった嬌声とともにリーズは身体を震わせる。唾液の橋を作りながら顔を離して、俺はリーズを見つめた。
「もっとリーズとしたい」
「私も、もっとユベールとしたい」
俺はまたリーズの上に倒れこむと、腰だけを振って彼女の膣内を突いた。彼女は離れたくないとでもいうように、俺の腰に脚を絡めてくる。さらにベッドの上で広がっていた翼が俺を覆うように包み込んだ。ランプの光すら届かない暗闇で、桃色の燐光だけがリーズの顔を淫靡に照らしている。黒い羽根で閉ざされたこの空間は俺とリーズの二人だけの世界だった。気にするものが何一つ存在しないこの世界で、俺は一心不乱に腰を振った。そして唇を交わせあい、四肢を絡ませあい、身体を抱きしめあい、自分たちの想いを混じり合わせ続けた。
16/07/31 21:13更新 / ハチ丸
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