第三章 旅立ち
俺はハピィから受け取った手紙を折りたたむと屋根から地面に向けて勢いよく飛び降りた。
子供の頃、高かった場所も今じゃ楽に移動できたり、飛び降りれる。
あの日、俺は"ソウマ"から姉さんの情報を得て、五年間で変わった。
村の人も姉さんの情報をソウマから得て、その日…村のある一角の住宅で"ある物"が発見された。
「まさか…こんな近くに情報があったとは…」
「私も気付きませんでした…よく自室で話し声など聞こえていたのですが…」
「いえ、我々も極力考えないようにしていたことです」
「しかし、それが実際起こってしまった…」
「本当に…私達がもう少し、しっかりしていればこんな事には…」
「過ぎた事を悔やんでも仕方ありません」
"ある物"…それは俺の姉さんが行方不明になった当日の全てが書かれている日記だった。
ところどころ破けてたり、蟲に喰われてたりするがきちんと読める。
「私の息子がまさかシオンのお姉さんを…」
ライカ村長は日記を広げて既に読み始めてた。
「これを見る限り…親の様にシオンとカレンの生活が手に取るようにわかる」
そこには俺と姉さんの日常的な情報など様々な事があった。
朝起きてから事件が発生するまで、それもきめ細かく記されていた。
「ふむ…貴方方二人の息子さんジンと、その友の犯行でしたか…」
ジン…多くの男性が姉さんに求婚し、断り続けられて皆が諦めた。
けど、このジンと言う男は他と全く違った。
彼はしつこく何度も付きまとい、その度に姉さんを困らせていた。
ヤマトには立派な宿屋があり、姉さんがそこで働くようになってから多くの旅人や冒険者など訪れるようになった。
他に鍛冶屋などもあるが一番は姉さんを一目見ようと訪れる者達が多い。
話が逸れてしまった…兎に角、そこの看板娘になってから異常なまでにジンという男は姉さんに対する執着が恐ろしいほど付いた。
そして、俺と姉さん…村人や親、ライカさんにも気付かれない様ジンは観察していた。
…と、などなど日記には色々と記されていた。
「言い方が悪いけど厄介な方にカレンは目をつけられてしまったね…シオン」
「…」
俺は頭を振り、村の一番奥に構えてあるライカ宅へ向かう。
村でも一際大きく、また頑丈な造りをしたライカさんの扉を叩く。
しばらくして木材の扉が横に開かれ、若紫の着物を着た美しい女性が現れた。
「あら、シオンちゃん?」
「その"シオンちゃん"て言うの止めてもらえないでしょうか…」
着物を着た女性は口元に手を当てて、くすくすと妖艶に微笑む。
俺は彼女の姿を直視できない…何故か、それは彼女の着物が問題だ。
いや…着物自体は問題ではなくその着衣の仕方に問題がある。
「ねぇ〜…話す時は"人"の顔を見るものでしょう?」
彼女は着物を肩から故意に着崩し、豊かな胸を強調する着方をしている。
俺は一度だけ、その着方を注意した事がある
だが逆に力説され、黙ってしまった。
「そもそも"人"じゃないですよね…百合さん」
「失礼ねぇ…どこからどう見たって"人"でしょ?」
「擬人を…いえ、そもそも人の女性なら着物をそのように着ません」
「こ、この着方は"あの方"を誘惑する事であって別に…」
「百合さん、本音が出てます、まだ日は昇ってますよ?」
「も、もう!シオンちゃんだったから解くわ」
「だからシオンちゃんは…」
言うや否や着物を胸元まで下げた女性は擬人を解いた。
すると先ほど二足歩行は短い二本と長い六本の合計八本の脚になった。
そう彼女の本当の姿は東方の島国に生息するはずの女郎蜘蛛と言う魔物だ。
昼と夜の顔があり、日が昇っていれば大人しく沈むと凶暴になるという。
凶暴と言っても人を殺傷するのではなく、"あっち"の方面が特に凄いらしい。
え?"あっち"とは何か気になる?
気にしないでいいよ…え?気になるから教えろ…お、俺の口からは…。
わ、わかった!わかったから!石を投げるな!
ふぅ…"あっち"とはつまり、男女のイトナミだ。
え?それじゃ、わからないからもう少し詳しく教えろ?
だーかーら!男女のイトナミとは互いに契りを交わす事!つまりセックス!わかった?
擬人を解いた女郎蜘蛛の百合さんは二年前、ヤマトに現れた。
当時、きれいな顔以外は酷い怪我や傷を負い大変だった。
聞いた話によると海を越えてやってきたという。
また外の世界には親魔物派と反魔物派の二つあり、ここに到着するまで苦難があったとも語ってくれた。
話を戻そう。
百合さんが全身ぼろぼろで手当てをしたのがライカさんだ。
そして、その時、手当てをしてもらった百合さんはライカさんに惚れた。
ライカさんも奥さんが他界し、独り身になり、百合さんの好意は受け取っているが結婚までは未だに結び付いていない。
「ライカ様って結構、防御が固いのね…」
ライカさんは奥さんが亡くなってから女性とあまり親しくしてない。
交流はあるが深い関係にまでは繋がらないようにしている。
「まぁ、ライカさんをいつか落とせるといいですね」
「そうね、二年間ライカ様の関心を惹きつけているのだけど中々…」
「あのな…そうやって彼女に焚き付けるな、シオン」
声の主に百合さんは背後を振り向くと美しい顔を綻ばせる。
まさに恋する乙女の様に頬を朱に染め、そそくさと奥に消えた。
「ははっ、けど百合さんの気持ちも分からなくないですけど」
「それは私も彼女…百合が嫌いなわけじゃない」
「なら、どうしてですか?」
「彼女と私は種族が違う…その為、私が先に死んでしまうだろう?」
そうライカさんが結婚を切り出さない理由…それは寿命の関係だ。
ライカさんは百合さんを人として見るから俺も人として"彼女"と表そう。
彼女とライカさんは言ったように種族が全く異なり、寿命も違う。
その為、奥さんを亡くしたライカさんは失う悲しさを理解している。
自分が亡くなり、百合さんだけ残る事を心配しているわけだ。
「確かに我々の寿命は短いですが…その一分一秒を大切にするべきでは?」
「それはそうかもしれないが…ってそのような理由で訪ねてきたのか?」
「質問を質問で返さないで下さいよー、ライカさん」
「……いずれ百合と話をするさ、今は保留にしておいてくれ」
「わかりました、本題ですが俺は今日"彼"が暮らす国へ向かいます」
「ふむ…カレンの何か情報を得たのか?」
「はい」
「わかった…シオンも五年間オカリナだけを吹いてたわけじゃないからな」
そうだ…俺は姉さんの情報を入手し、オカリナだけでなく心身共に鍛えた。
最後の滞在日に"彼"から剣術を学び、その後は独学で剣の腕を磨いてきた。
村の外に出た事がない俺には外界は未知の領域。
"彼"が滞在期間を終え、再び旅に出る前に教えられた。
―「外の世界は危険が多くある、心身共に鍛えて旅立て」―
その言葉を胸に秘め、父さんの剣術に関する書物を沢山読んだ。
また独自で編み出した剣術でライカさんと何度も実戦演習を行なった。
そして、最後の最後…俺はやっとライカさんから一本を取れた、あの日。
―「これでシオンも一人前だ、だが驕るな。外界は常に死と隣合わせだ」―
この言葉も俺は心に深く刻み込んだ。
「行ってきます!ライカさん」
「ああ、行って来い…我が息子よ」
俺はヤマトから"彼"の住まう都市国家ライブラへ向かった。
子供の頃、高かった場所も今じゃ楽に移動できたり、飛び降りれる。
あの日、俺は"ソウマ"から姉さんの情報を得て、五年間で変わった。
村の人も姉さんの情報をソウマから得て、その日…村のある一角の住宅で"ある物"が発見された。
「まさか…こんな近くに情報があったとは…」
「私も気付きませんでした…よく自室で話し声など聞こえていたのですが…」
「いえ、我々も極力考えないようにしていたことです」
「しかし、それが実際起こってしまった…」
「本当に…私達がもう少し、しっかりしていればこんな事には…」
「過ぎた事を悔やんでも仕方ありません」
"ある物"…それは俺の姉さんが行方不明になった当日の全てが書かれている日記だった。
ところどころ破けてたり、蟲に喰われてたりするがきちんと読める。
「私の息子がまさかシオンのお姉さんを…」
ライカ村長は日記を広げて既に読み始めてた。
「これを見る限り…親の様にシオンとカレンの生活が手に取るようにわかる」
そこには俺と姉さんの日常的な情報など様々な事があった。
朝起きてから事件が発生するまで、それもきめ細かく記されていた。
「ふむ…貴方方二人の息子さんジンと、その友の犯行でしたか…」
ジン…多くの男性が姉さんに求婚し、断り続けられて皆が諦めた。
けど、このジンと言う男は他と全く違った。
彼はしつこく何度も付きまとい、その度に姉さんを困らせていた。
ヤマトには立派な宿屋があり、姉さんがそこで働くようになってから多くの旅人や冒険者など訪れるようになった。
他に鍛冶屋などもあるが一番は姉さんを一目見ようと訪れる者達が多い。
話が逸れてしまった…兎に角、そこの看板娘になってから異常なまでにジンという男は姉さんに対する執着が恐ろしいほど付いた。
そして、俺と姉さん…村人や親、ライカさんにも気付かれない様ジンは観察していた。
…と、などなど日記には色々と記されていた。
「言い方が悪いけど厄介な方にカレンは目をつけられてしまったね…シオン」
「…」
俺は頭を振り、村の一番奥に構えてあるライカ宅へ向かう。
村でも一際大きく、また頑丈な造りをしたライカさんの扉を叩く。
しばらくして木材の扉が横に開かれ、若紫の着物を着た美しい女性が現れた。
「あら、シオンちゃん?」
「その"シオンちゃん"て言うの止めてもらえないでしょうか…」
着物を着た女性は口元に手を当てて、くすくすと妖艶に微笑む。
俺は彼女の姿を直視できない…何故か、それは彼女の着物が問題だ。
いや…着物自体は問題ではなくその着衣の仕方に問題がある。
「ねぇ〜…話す時は"人"の顔を見るものでしょう?」
彼女は着物を肩から故意に着崩し、豊かな胸を強調する着方をしている。
俺は一度だけ、その着方を注意した事がある
だが逆に力説され、黙ってしまった。
「そもそも"人"じゃないですよね…百合さん」
「失礼ねぇ…どこからどう見たって"人"でしょ?」
「擬人を…いえ、そもそも人の女性なら着物をそのように着ません」
「こ、この着方は"あの方"を誘惑する事であって別に…」
「百合さん、本音が出てます、まだ日は昇ってますよ?」
「も、もう!シオンちゃんだったから解くわ」
「だからシオンちゃんは…」
言うや否や着物を胸元まで下げた女性は擬人を解いた。
すると先ほど二足歩行は短い二本と長い六本の合計八本の脚になった。
そう彼女の本当の姿は東方の島国に生息するはずの女郎蜘蛛と言う魔物だ。
昼と夜の顔があり、日が昇っていれば大人しく沈むと凶暴になるという。
凶暴と言っても人を殺傷するのではなく、"あっち"の方面が特に凄いらしい。
え?"あっち"とは何か気になる?
気にしないでいいよ…え?気になるから教えろ…お、俺の口からは…。
わ、わかった!わかったから!石を投げるな!
ふぅ…"あっち"とはつまり、男女のイトナミだ。
え?それじゃ、わからないからもう少し詳しく教えろ?
だーかーら!男女のイトナミとは互いに契りを交わす事!つまりセックス!わかった?
擬人を解いた女郎蜘蛛の百合さんは二年前、ヤマトに現れた。
当時、きれいな顔以外は酷い怪我や傷を負い大変だった。
聞いた話によると海を越えてやってきたという。
また外の世界には親魔物派と反魔物派の二つあり、ここに到着するまで苦難があったとも語ってくれた。
話を戻そう。
百合さんが全身ぼろぼろで手当てをしたのがライカさんだ。
そして、その時、手当てをしてもらった百合さんはライカさんに惚れた。
ライカさんも奥さんが他界し、独り身になり、百合さんの好意は受け取っているが結婚までは未だに結び付いていない。
「ライカ様って結構、防御が固いのね…」
ライカさんは奥さんが亡くなってから女性とあまり親しくしてない。
交流はあるが深い関係にまでは繋がらないようにしている。
「まぁ、ライカさんをいつか落とせるといいですね」
「そうね、二年間ライカ様の関心を惹きつけているのだけど中々…」
「あのな…そうやって彼女に焚き付けるな、シオン」
声の主に百合さんは背後を振り向くと美しい顔を綻ばせる。
まさに恋する乙女の様に頬を朱に染め、そそくさと奥に消えた。
「ははっ、けど百合さんの気持ちも分からなくないですけど」
「それは私も彼女…百合が嫌いなわけじゃない」
「なら、どうしてですか?」
「彼女と私は種族が違う…その為、私が先に死んでしまうだろう?」
そうライカさんが結婚を切り出さない理由…それは寿命の関係だ。
ライカさんは百合さんを人として見るから俺も人として"彼女"と表そう。
彼女とライカさんは言ったように種族が全く異なり、寿命も違う。
その為、奥さんを亡くしたライカさんは失う悲しさを理解している。
自分が亡くなり、百合さんだけ残る事を心配しているわけだ。
「確かに我々の寿命は短いですが…その一分一秒を大切にするべきでは?」
「それはそうかもしれないが…ってそのような理由で訪ねてきたのか?」
「質問を質問で返さないで下さいよー、ライカさん」
「……いずれ百合と話をするさ、今は保留にしておいてくれ」
「わかりました、本題ですが俺は今日"彼"が暮らす国へ向かいます」
「ふむ…カレンの何か情報を得たのか?」
「はい」
「わかった…シオンも五年間オカリナだけを吹いてたわけじゃないからな」
そうだ…俺は姉さんの情報を入手し、オカリナだけでなく心身共に鍛えた。
最後の滞在日に"彼"から剣術を学び、その後は独学で剣の腕を磨いてきた。
村の外に出た事がない俺には外界は未知の領域。
"彼"が滞在期間を終え、再び旅に出る前に教えられた。
―「外の世界は危険が多くある、心身共に鍛えて旅立て」―
その言葉を胸に秘め、父さんの剣術に関する書物を沢山読んだ。
また独自で編み出した剣術でライカさんと何度も実戦演習を行なった。
そして、最後の最後…俺はやっとライカさんから一本を取れた、あの日。
―「これでシオンも一人前だ、だが驕るな。外界は常に死と隣合わせだ」―
この言葉も俺は心に深く刻み込んだ。
「行ってきます!ライカさん」
「ああ、行って来い…我が息子よ」
俺はヤマトから"彼"の住まう都市国家ライブラへ向かった。
10/03/04 18:47更新 / 蒼穹の翼
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