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第二章 友達
いつもの様に僕は変わらない早朝を迎えた。
僕が布団から身を起こすと窓から差し込む日光が眩しい。
姉さんが行方不明になる前は必ず先に起床して挨拶をしてくれた。

―「おはよう、シオン。今日も頑張ろうね」―

けど僕には、もう姉さんの朝の姿を見る事は出来ない。
朝日に輝く姉さんの美しい黒髪、綺麗な笑顔。

「はぁ…」

僕は溜め息を吐き、布団を綺麗に畳む。
そして、オカリナを手に取ると整備された屋根に上った。
そこに腰を下ろすと唇にオカリナを当てて吹いた。
さすがに僕でも朝は一日が始まる為、楽しい音色を吹く。
けど僕が吹くと楽しい音色も何故か悲しい音色になってしまう。

「姉さんの情報が少しでも分かればこんな音色にならないのかな」

僕は独り言のようにつぶやく。
すると僕の耳に、あの赤毛の青年の声が届く。

「それは心の問題じゃないかい?」
「…っ!?」

聞き間違いだろうか。

「おはよう、今日は天気が良いな」

聞き間違いではない。
それは紛れもなく昨日、僕の家に訪ねてきた旅人の声だ。
僕が視線を下に移せば重厚な鎧を身に纏う青年ソウマが居た。

「今日のオカリナも悲しいな」
「…」

僕は何事もなかった様に再びオカリナを吹く。
すると青年の口から思いがけない言葉が聞こえた。

「これはもしもの話だが…」
「〜♪……♪〜♪」
「もし、オレが君の御姉さんの情報を持っていたらどうする?」

僕は、ぴたりっとオカリナを吹くのをやめた。
そのまま視線だけを赤毛の青年ソウマに移した。

「(姉さんの情報…)」
「嗚呼、気にしないでいい。あくまでたとえ話だ」

僕は三年間、姉さんの安否をいつも考えていた。
中でも最も心配していたのは男達に変な事をされてないかだ。
姉さんは美しく、清楚な女性だ。
そのため邪な相手に変な事をされてないかが一番心配だった。

「それが本当なら…僕は姉さんの情報を知りたい。けどそれが嘘であれば僕に二度と近寄らないでもらいたい」

僕は初めて外界の旅人と口を聞いた。
昨日は一方的に相手から話しかけてきたからそれなりに対応した。
けど今日の僕は自分から相手に話をした。

「オレが…この話を持ち出した理由は君と境遇が似ていたからなんだ」
「僕と似ているとはどういう事ですか?」
「オレは姉を探す旅をしているんだ」

その後、僕は青年ソウマさんを、他人を初めて家に招き話を聞いた。
ソウマさんが語るに彼の姉さんも行方不明らしい。
彼はある国の騎士であり、姉は城下町の酒場の看板娘と言う話だ。
彼と同じ赤毛をし、髪の長い容姿の綺麗な女性だと言う。
酒場ではソウマさんの姉の姿を見ようと訪れる客が一番多い。
中には求婚を申し込んだり、付き合ってほしい等多く言われてきたとも。
しかし、彼の姉は断り続けた。
理由は"弟を養っていく為、今は誰とも付き合いません"との事。
当時ソウマさんは騎士でなく、両親は既に他界して姉弟で暮らしていた。
その為、ソウマさんの姉は酒場で早くも働いて資金を稼いでいた。
ソウマさんはそんな姉の背中を見ていつもこう思っていたと言う。
"僕が騎士になって姉さんの負担を少しでも軽くしてあげよう"
と、この辺が僕とソウマさんと異なる部分だ。

「ソウマさんの生い立ちは分かりました、僕の姉さんの事について教えてください」
「おっと、すまない。自己紹介が長くなってしまった…だがシオン、君は御姉さんの事になるとずいぶんと積極的になるんだな」

今、僕とソウマさんは畳部屋で座布団に座って話している。
この畳と座布団と言うのは東方の島国で使われている伝統的な物。
僕の村は東方の島国から移住してきた先祖がこの地にヤマトを創った。
その為、この村は東方の伝統意志を受け継ぎ、尚且つこの地も所持している。
比例すると7:3の割合だろうか…7が東方、3がこの地。

「ソウマさんより僕の方が早く姉さんが行方不明なのです。姉さんの情報を知りたいと思うのは当然でしょう」
「ま、そうだな。オレは十五歳。君は十二歳だからな」
「早く教えてください!僕の姉さんは」
「分かった、分かった…オレが知っている限りの情報を教えよう」


オレは旅の途中、傭兵の途中で得た情報を彼…シオンに全て話した。

「これがオレの知っている情報だ」
「不思議に…思わなかったのですか?」
「最初はな、だが護衛をしている内に違和感が出てきた。男二人と一緒に居たフードを深く被った女性が全くしゃべらないからな…いや、しゃべらないのではなく"しゃべる事が出来なかった"がもしかすると正しいのかもしれない」
「……何か特徴の様なものは?髪が黒いとか、長いとか…」
「悪い…そこまで傭兵のオレに知る権利はない、あくまで護衛だ」
「そう…です…よね。護衛のソウマさんが依頼主の個人的情報を知る権利はないですし…」

オレは先程、黒い瞳に希望の光を得たシオンが沈む気配を感じた。
そうだ、オレは依頼主の個人情報を得ることなどできはしない。
円滑に依頼主を目的地まで護衛する事がオレの今の仕事だ。
傭兵をしてれば姉の情報が必ず得られると信じて…。
罪悪感に駆り立てられたがこればかりはどうする事も出来ない。
だからオレは俯く黒髪の少年に謝る。

「すまない」
「いえ…その情報から手掛かりを少しでもつかめると思います」

シオンは強いな、オレと三つしか歳が離れてないのに。
そう言えばライカ村長が昨日言ってたな…しっかりしていると。
もしオレがシオンと同じ歳で姉が行方不明になったらどうしてただろうな。
何も情報の無い三年間…十五歳の少年にどんな影響を与えるのだろうか。

「どうかしましたか?ソウマさん」
「え?あ…いや、何でもないさ…それよりシオン」
「何でしょう?」
「その…他人行儀はやめてくれないか?」
「え?」


僕は赤毛のソウマさんの言葉にきょとん、とした。
"他人行儀をやめてくれ"
何故、と口を開く前にソウマさんに言われた。

「オレとシオンは既に知り合いになった」
「い、いや…情報を得ただけですからそこまで…」
「これから先オレはシオンに情報を少しでも与えるのにか?」
「は?」

僕はまぬけな声を上げたと思う。
"これから先、僕に情報を与える?"意味が分からない。

「言ったはずだ…オレが知っている情報だと」
「た、確かに言いましたが…」
「オレは今、傭兵をしながら姉の情報を見つけている」
「…」
「そうすれば自ずとシオンの御姉さんの情報も得ると思う」

ああ…全てが一本の線に繋がった。

「オレは少しでもシオンの情報を与える」

ソウマさんは自分の姉を探しながら僕の姉さんを探してくれるんだ。

「どうだろうか?」
「お願いしても…?」
「言っただろう。オレとシオンは既に"友達"だ」

その時、僕の瞳から久しぶりに涙があふれた。
姉さんが行方不明になって泣かないと誓った。
けど情報の無い三年間は心細かった。

「気丈に振る舞い過ぎだ」
「その時は…オカリナを…吹いていたから…」
「そうか…だからオカリナの音色が悲しかったんだ」

早朝に起きた僕だったが"ソウマ"が訪れた時は既に昼時だった。
そして、彼の生い立ちや僕の姉さんの事を聞いていたら太陽は沈んでいた。
何故かその日…ライカさんは僕の家に訪ねてこなかった。
あとから理由を聞くとライカさんはソウマに言われたらしい。
"私の持っている彼の御姉さんの情報を教える。だからライカ村長達は今日、彼の家に訪ねてこないでほしい。彼とオレは似ているから"




〜♪…〜♪〜♪

「やほー、今日も音色が綺麗だね」
「ハピィか、どうしたんだ?」

"俺"が腰を下ろす隣に羽毛を舞い散らせる"一匹"の鳥が舞い降りた。
だがそれは普通の小鳥と全く異なっている。
一つ小鳥はしゃべる事が出来ないが"彼女"は違う。
二つ彼女は人間でない…鳥人族と言われるハーピーだ。
彼女は普通に人語を理解し、人と意思疎通する事が出来る。

「あの人から手紙だよ♪」
「おぉ、新たな情報か…どれどれ」

ハピィは慣れた手つきで腰にあるポーチから俺に手紙を渡す。
俺は彼女から手紙を受け取ると文面を読む。
達筆な、癖のある書き方につい笑みがこぼれてしまう。

「なーに笑ってるのよ」
「悪い悪い、相変わらずだなと思ってな」
「なにが?」
「何がって手紙に決まってるだろう」
「ふーん…シオンってそういう趣味?」
「んなわけあるか!」
「あははっ♪冗談冗談♪」
「ったく…冗談に聞こえないんだよ。ハピィが言うと」

彼女達ハーピーは陽気な性格が多く、人との交流がとても良好な種族だ。
その為、荷物を運送、手紙を郵送する仕事など幅広くを請け負っている。
だがここで一つ重要な問題がある。
彼女達は発情期に入ると気に入った男性を巣に連れ去ると言う傾向がある。
何故かって?子孫を残す為なんだと。
俺が生まれる前の混沌時代から魔王が世代交代した為、女性型のみになった。
これはハーピーだけに限らず、最も知るスライム、他の魔物も同じだ。
彼女達は子孫を残す為に男性が必要だと言う。
まぁ、ある意味で言えばハーレム…男の楽園だろう。
だが理想と現実は違い、一方的に男性が何と言うか犯される…みたいな。
へ、変な眼で見るな!実際そうなんだから仕方ないだろう。
え?俺か?俺はどちらかっていうと…って何を言わせる!

「おっと代金、はい」
「まいど〜♪」

そのままハピィは大空に飛翔した。
彼女は多くの仕事を請け負っているらしく長居は出来ない。
だがそれでも俺に配達した後どんなに忙しくても最低10分は居るみたいだ。
前に一度聞いてみた所―「シオンのオカリナの音色が聞きたくて…かな」―
その時、俺は彼女の顔が赤い事を不思議に思っていた。
13/05/01 01:38更新 / 蒼穹の翼
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■作者メッセージ
久しぶりの投稿です。やっと出ました魔物娘!どうでしたか?
結構書いてみると魔物娘の設定は難しいものですね。
いやはや…回想モードが思ってた以上に長くなりました。
次は主人公シオンがヤマトから旅立ちます。

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