連載小説
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蒼き翼と黒き翼
「けど美代」
「なに?」
「誓約と言っても直ぐに可能なのか?」
「ううん…時間が掛かるよ」
「どれくらい必要になる?」
「十五分位…『誓約(エンゲージ)』自体は直ぐ可能だけど」
「なら俺が囮になるから、その間に術式の構築を頼む」
「ダメ!危険よ」

背中を合わせた俺と美代は顔を合わせず迫り来る闇の魔物を迎撃する。
会話をする余裕があるのは俺達が互いに信頼している証拠だ。

「だがこのままでは勝てないぞ」
「それは分かってる…けど貴方を失うわけにはいかないの」
「俺も同じだ、それに美代だけじゃない」

闇の魔物は尚も凄まじい攻勢で俺達の護りを崩す。

「この国の国王様や王妃様、国民や友人を死なせるわけにはいかない」
「私だって城下町で知り合った友人達(魔物娘)を護りたい」
「なら俺が囮になるしかないだろ?」
「それでも!」

美代の気持ちは痛いほど分かる。
この状況を打破する最善の策は俺が囮にならなければ勝てないだろう。

「この護り陣形が崩されたら、それこそ大変な事になるんだ」
「分かってる…分かってる…けど!」
「(このままでは仮に『誓約』出来ても戦闘を継続できないな…どうする)」

その時だ。

「その役目」
「我等にも、お任せ下さい」

現れたのはライブラの騎士、ラルフ=ゼルガとアルス=ザルド。
見れば二人の腹部に深い傷が数ヵ所あり、応急手当をしている。

「暗殺者はどうしたんだ?」
「片付けました」
「かなり苦戦を強いられましたけど」
「そうか」
「ソウキ殿、私達二人も囮になります」
「その傷では無理だ!危険だ!下がれ!」

王者としての風格…と言った方が良いのだろうか。
ソウキ殿は威厳に満ち溢れている…しかし我等も騎士。

「いいえ、退けません」
「何故だ?」
「この身例え朽ち果てようとも主の城を護らなければならない」
「そうです…主と城を護るのが我等が騎士の役目」
「騎士道か…」

騎士道…それは彼等騎士達の精神的支柱となった気風。
同じ意味合いで武士道というものもあるが、これはジパングだ。

「ならば尚の事だ、お前達は城の外で陛下を護れ!命を散らすな」
「それだけではありません!」
「我等が『友』ソウキ殿を護るのも我等が役目です」

彼等二人の瞳からは決意と覚悟が、はっきりと分かる。
その目を見た俺は不甲斐ない自分の心を鼓舞し、両親の言葉を思い出す。

―「諦めるな、どんな逆境にも負けず立ち向かって未来を切り開け」―

単純で何の飾りも無い言葉…だが単純だからこそ確実に伝わる思い。
そして美代と背中を合わせているからこそ数年の付き合いだからこそ伝わる俺の弱気な心…いつから美代を不安にさせていたのだろうか…ごめんな。

「(不屈の魂か…忘れてた)美代」
「な、なに?」
「(美代も不安だったんだよな…よし)"俺は大丈夫"だ」
「っ…!?」
「"だから美代は誓約の儀式の準備を頼む"」
「分かったわ、任せて!」

"俺は大丈夫"この言葉を私は待っていた。
どんな逆境にも困難にも立ち向かう勇気と闘志。
自分より周囲の人達を第一に気遣う優しい心を持つ蒼輝が私は好き。
最初、王妃様達を避難させる時の蒼輝に直ぐ従う事が出来た。
けど合流してから直ぐに蒼輝が普通じゃないって分かった。
彼の言葉の一つ一つが弱気でいつ命を落としても良いんじゃないかってくらい不安で怖かった。背中を合わせた時も彼の不安が手に取る様に分かった。
でも、さっき、この状況下で騎士二人の安否を確認する彼に胸が躍った。
そこで私は悟った…今の彼なら絶対に大丈夫、私は己が使命を全うする。

「それじゃ…」

俺達は防御陣を解くと同時に二人の騎士と連携をはかる。
そして闇の魔物の一瞬の隙を突き、決定打を打ち込む。

「(ここだ!)『雷龍・紫電一閃』」

刀身を帯電させ、神霊刀『神威』に雷を纏った俺は斬撃を与える。
思わぬ反撃を受けた闇の魔物は防御体勢に入ったが後方に吹き飛ばされる。
直ぐに俺は二人の騎士に指示を与えた。

「ラルフとアルス、背中を合わせて相手の反撃に備えろ!」
「ソウキ殿は?」
「俺は問題ない、ラルフとアルスは極力被害を最小限にするんだ」
「了解した」

二人は直ぐに背中を合わせた。

「お前とこうして背中を合わせるのは何年ぶりだろうな」
「そうだな…我等が入団して直ぐに隣国の襲撃を受けた時以来かもな」
「あの時は大変だった…しかし、その御蔭で国王直属の騎士になれた」
「それから間もなくか…共に戦う機会もなくなった」
「しかし、こうしてまたお前と共に戦える日が来ると嬉しいものだ」
「ああ…『双壁の守護神』と言われた我等の護りを見せよう」

『双壁の守護神』…それは数年前、二人が国王から授かった異名である。
当時、親魔物派の小国だったライブラは反魔物派の隣国から襲撃を幾度か受けていた。親魔物派の小国とは言え、この国は資源が豊富で多くの行商人が行き来してた為、それに目を付けた他の国が我先にとライブラを手中に収めようとしていた。それは勿論、光の教団も一緒だった。
その為、騎士達は疲弊し、まともな訓練を受ける事も出来ず彼等は戦場で多くの命を散らした。そんな折、当時、見習い騎士の二人に転機が訪れる。
それはライブラが何度目かの襲撃を受けた時の事。
壊滅状態に近いライブラ王国騎士団が撤退する時である。
二人は総崩れした騎士団部隊を撤退させる為、団長から殿を任された。
ほとんどのケースが殿(しんがり)は戦死し、戻る事は無いと言われている。
ましてや敵国はライブラを撃退して士気が盛んである。
そんな所に行くなど死にに行く様なものである。
しかし二人は無事生還を果たして『双壁の守護神』の異名を貰った。
その後、隣国の襲撃がぴたり、と止み現在に至るまで大国となった。

「あの時、我等に殿を任せた団長に感謝しなくてはならないな」
「あの団長は今頃、何をやっているのだろうか」
「故郷に帰って親孝行してるかもしれんな」
「かもしれない…来るぞ!」

闇の魔物は四本の腕に魔力を込めてラルフ=ゼルガとアルス=ザルドに迫る。
二人は長年培った経験を基に闇の魔物の攻撃に耐える。
数年前、殿を務めた時の敵国より闇の魔物の攻撃が激しいのは当然の事。
何故なら闇の魔物の方が圧倒的な力があり、彼等もまた暗殺者との戦闘で少なからず被害を受けている。ましてや二人は生身の人間の為、蒼輝や美代の様に、魔力に対抗する術(すべ)を持ち合わせていない。少しの油断が命取りとなる。

「あの時より、きついかもしれないな」
「我等は古代神魔時代の産物…闇の力と戦っているわけだからな」

俺は、はっきり言ってラルフとアルス…二人を見くびっていた。
しかし、彼等の戦い方を見れば、その護りは凄まじいものだ。
だがそれはあくまで対人や戦であり、闇の力との戦闘は、やはり無理がある。彼等も彼女達と交流を深め、関係を築けば力が覚醒するかもしれない。

「(だが今は、そんな事より二人を"護る"事が先決だ)」

しかし、数分も経過しない内に二人の顔色が徐々に悪くなる。

「先の戦いで血を流し過ぎた…な」
「頭が、くらくらしてきた…」

二人の会話を聞いたからか…最初から分かっていたのか。
闇の魔物は不気味に笑うと四本の腕を高く振り上げる。

「(…っ!?まずい!)」
「ガァアアアアッ!!!」

そのまま闇の魔力を込めた四本の拳を容赦無く振り下ろす。

「「…!?」」

二人は成す術も無く闇の魔力が込められた渾身の一撃を受ける。
そのまま城内部の城壁が崩れ落ち騎士二人は石壁の下敷きになる。

「(こいつは危険だ…)」

俺は身に宿る魔力と霊力を融合させた。
現在この能力は未完成の為、最大稼働時間も限られている。

「行くぞ…闇の盟主!」

闇の盟主は魔素で編み込んだ武器を形成する。
四本の腕にはそれぞれ長剣・戦斧・大剣・盾がある。
右手には戦斧と大剣、左手には長剣と盾。
俺は怯む事無く抜刀術の構えのまま相手の懐に飛び込む。

「『雷龍・疾風迅雷』」

俺は疾風の如く刀を鞘から抜き、雷の如く強力な一撃を放つ。
すると煌めく白銀の刃が雷を帯びて闇の盟主の腹部を捉える。
だが闇の盟主は俺の斬撃を左手に装備した盾で受け止める。

「(しまっ…)」

闇の盟主はもう一方の左手の長剣で俺の脇腹を狙う。
回避は無理と判断して腰から鞘を外すと防御体勢に入る。
さいわいにも俺の反応速度の方が速い為、防御が間に合った。
だがこれで相手の追撃は終わらない。
続いて二本の右手が持った大剣と戦斧が振り下ろされる。

「(魔素を編み込んで形成した武器でも受けると危険だ)」

俺は後ろに飛び退く。
すると振り下ろされた大剣と戦斧が石畳を砕く。

「(それにかなり質量のある魔素だな)」
「ガァアアアアッ」

だが闇の盟主の追撃は、これだけでは終わらなかった。
相手は短距離瞬間移動を使って背後に回る。
俺は素早く背後を振り返るが間に合わず左肩から斜めに斬られる。

「ぐっ…長剣は本物と同等の密度もあるのか」

素早く体勢を立て直すが闇の盟主の腕が先に伸びて俺を捕らえる。
そのまま握りつぶすかのようにぎりぎり、と締め上げてくる。

「あがぁああっ」

そのまま闇の盟主は締め上げた腕で俺を城の壁に投げ飛ばす。
俺は満足な受け身も取れずに城内部の壁に背中を激突する。

「あぐっ…」

闇の盟主は素早く俺に近付くと腹部に掌を添える。
そして至近距離から高密度に圧縮された特大の放出系魔法を放った。

「ぐぅっ」

まるで大砲の砲弾が着弾した様な一撃を腹部に受けた。
しかし敵の追撃は、それだけでは終わらなかった。
次に四つの拳に魔力を集中させると動けない俺に更なる追撃を掛ける。
容赦無い嵐の様な闇の盟主の追撃を俺はその身に受ける。
俺を追撃する敵の姿は、まるで破壊と殺戮を好む邪神そのものだ。
暫らくすると闇の盟主は左手で俺の頭を掴み、軽々と持ち上げる。
俺の身体は既に満身創痍で所々は骨が折れ、砕け、きしみをあげている。
また左肩から斜めにかけて斬られた場所から血を流し過ぎた為、抗う力をほとんど失っている。
しかし、それでも敵がとどめを刺さない理由は恐らく俺に絶対的な力の差と絶望感を与える為だろう。だが、なぶり殺しも飽きてきたのか魔素で編み込んだ密度の高い長剣を形成すると俺の喉元に構える。

「この…」

俺は掴み上げられたままの状態で刀を逆手に持つと攻撃を仕掛ける。
だが相手は左手に形成した盾で防御した後、他の拳で腹部を殴打する。

「がふっ」

何度も何度も相手は無防備な俺の腹部を殴打する。
俺は何度も意識を失いかけそうになったが目を覚ました。
俺が倒れれば次に狙われるのは国王様と王妃様。その後は…。

「(こんなところで死ぬわけにはいかない)」

俺は鞘を左手に刀を右手に持つと、どちらも逆手に構える。

「そ…『双龍・烈風迅雷閃』」

すると左手の鞘には風が纏われ、右手の刀には雷が纏われる。
俺は斜め十字を描く様に鞘と刀を斬り上げた。

「ガァアアアッ…」

思わぬ反撃に油断した相手は俺の頭を掴んでいた左手を放す。
その場で解放された俺は距離を取る為、素早く後ろに飛び退いた。
だが、その直後、激痛が走り俺の身体は悲鳴を上げる。

「ぐ……っ……!?」

既に身体の到る所は限界を越えている。当たり前だ…いくら鍛練を行ない、魔力を体内に宿しているとは言え、所詮は生身の人間。今の俺の力量では到底、闇の魔力に精神も肉体も蝕まれた大臣には敵わない。しかし、それでも俺が立ち上がる事が出来るのは護りたい大切なものがあるからだ。

「ハァ……ハァ……」

だが視界は既に霞み、目標をあまり認識できない。

「グガアアアアアッ」

すぐさま体勢を立て直した大臣は、とどめを刺すため迫る。
俺は迎撃に入るが、グラリッと足元がふらつき、態勢が崩れた。

「(血を…流し…過ぎた…か)」

俺は相手の攻撃を受け流す構えを取る。

「(くっ……間に合わない……)」

迫り来る長剣・大剣・戦斧の刃。

「(や、やられる…!?)」

万事休すと思った、その時…俺の周囲に半球形状の多重物理防護障壁が展開され、三つの刃は寸前の所で防護障壁によって阻害される。

「(この障壁は…)」
「蒼輝を死なせはしない」
「美代…」
「間に合ってよかった…」
「儀式は…どうし…たんだ?」
「大丈夫、蒼輝の御蔭で成功よ」

美代を見れば淡い光が優しく包み込んでいる。

「蒼輝…『誓約融合(エンゲージ)』して倒しましょう」

美代は半球型の防護障壁に入って俺と口づけを交わす。
その際、俺達は手と手を合わせ、互いの掌を絡め合わせる。

「(なんだろうか…この不思議な感覚)」

口づけを通して美代の魔力と霊力と魂が流れ込んでくる。
身体を重ね合わせた時とは、また違う別の感覚。
まるで俺と美代それぞれ別々の魂が一つになる感覚。

「(これが『誓約融合(エンゲージ)』なのか?)」

次の瞬間、半球型の防護障壁が強い光を放つ。

「『稲荷』美代の名の下…我ら二人の魂を一つに…」

徐々に二人の身体が一つに同化する。

「『誓約融合(エンゲージ)』」

目も眩む様な閃光が迸り、その中から一人の青年が姿を現す。
光り輝く銀髪に陰陽対極図の様な紋章を瞳に宿す彼の背中には蒼い翼があり、衣服は白い胴着に白いズボン状の袴を着衣している。その彼の右手には先程よりも刀身が伸びた身の丈ほどの太刀が握られていた。

「オオオオッ…」

だがその圧倒的な存在感の前に闇の盟主となった大臣は怯む事無くむしろ歓喜の雄叫びを上げ、再び戦闘態勢を取った。

俺は今、自分の身に起こった現状を整理する。
先程まで瀕死状態だった筈だが"誓約融合"を行なった途端、砕かれた所々の骨は完全に元通りに治った。他にも左肩から斜めの斬り口の傷は止血され、不思議な事に流れ出てた血も完治した。今では戦う前の状態に完全に戻った。

「凄いな…身体中から力が溢れてくる」

―私と蒼輝の身体の相性が、ぴったりな証拠よ―

「美代…君は何処に居るんだ?」

―貴方の心の中よ―

「俺の心の中…?」

―うん…貴方の心の中で貴方の優しさ・温かさを感じているよ―

「戻って来れるのか?」

―当たり前じゃない、今は『誓約融合(エンゲージ)』で私が今まで培ってきた力を一時的に貴方に預ける形になってるの―

「そうか…けど、どうして俺が?」

―蒼輝の方が武器や身体能力を最大限に活用できるでしょ?―

「え…それだけの理由なのか?」

―それだけじゃないわ…―

少し恥ずかしそうに美代はうつむく。実際に美代がどんな行動をとっているのかは定かではない。ただ不思議と美代の気持ちが手に取る様に分かると言う事くらいだ。

―貴方と肌だけでなく心も身体も一つになりたかった…かな―

「そうか…俺も美代と本当の意味で一つになったのが嬉しい」

―ばか…―

「よし!この敵を倒してライブラに秩序をもたらそう!美代!」

―うん!二人でこの敵を倒しましょう…蒼輝!―

瞬間、爆発的な波紋が広がる。そして一つの身体に二つの心を宿す"俺達"は瞬く間に相手の懐に飛び込んで抜刀する。

「『雷龍・疾風迅雷【雷光】』」

身の丈ほどある太刀を音速で抜刀し、煌めく白銀の刃が腹部を捉える。
例え相手がどんな姿になっていようとも不殺を貫く俺は抜刀する直前、鞘の反り部分を上にして刀を抜き、刀の峯部分が相手に当たるよう持ち替えた。

「グォオッ」

闇の盟主にも捉える事の出来ない神速の刃は見事、腹部に直撃する。そのまま盟主は後方に大きく吹き飛ばされ、石の城壁に激突する。俺は横一文字に抜刀した大太刀を素早く鞘に収めると次の反撃に備えた。

「(闇の盟主の事だ…これくらいでは…)」

―ええ…気をつけましょう―

まさに、その時、短距離瞬間移動を使った盟主が俺の背後に回る。
だが誓約融合した俺の目には相手の動きが手に取る様に分かる。
俺は背後を振り返らず回避行動に移り、逆に背後に回る。

「雷龍・紫電一閃【轟雷】」

先程と同じく斬撃を与える前に掌の上で素早く刃を峯に持ち替える。
そのまま刃の峯を振り下ろして一撃を加えた後、素早く相手の懐に入る。

「天龍・翔龍斬【飛龍】」

大気の渦が発生し、そこから天空を翔る龍の如く刀を峯にして斬り上げた。
既に城内の天井は完全に大破していた為、上空に吹き飛ばされた盟主は、まるで竜巻に巻き込まれた様に打ち上がる。
俺は更なる追撃をかける為、蒼い翼を広げて飛翔する。
その際、大太刀と鞘を逆手に持ち替えた。
再び死角に回り込んだ俺は斜め十字を描く様に斬撃と打撃を与える。

「双龍・烈風迅雷閃【風雷】」

再び地上へ打ち落とされた盟主は城壁を突き破って見えなくなった。

「どうだろうか…」

―このまま油断せずに様子を見ましょう―

城壁の噴煙が上がっている為、地上の様子は分からない。
俺は美代の言うとおり油断する事無く蒼い翼を広げたまま滞空する。
だがその時、異様な気配を背中に感じた俺は素早く背後を振り向く。
そこには大きく開いた胸元から腹部にかけて肌を露出した女性がいた。その女性の大胆な衣服から大きな乳房が覗いている。また下半身は下着が見えるほど深い切れ込みの入った長い下衣を着衣している。

「(女の人?)」

俺が驚いたのはそれだけじゃない。
女性の背後を見れば漆黒の翼が四枚あった。

「やってくれたわね…」
「なっ!?」

―「そ、そんな…」―

声は女性のものだが女性特有の優しい声ではない。
声の主は巨大な鎌を肩に担いだ"死神"だった。
俺は素早く相手との距離を空けた。

「もう少し遅かったら倒されてたわね」
「(ま、まさか…闇の力の正体が)」
「死神だった?と、そういう顔ね?」
「っ!?」

その時、全身に圧倒的な威圧感がビリビリ、と伝わった。

「正確に言うなら私は死神であって死神ではないわ」
「どう言う意味だ?」
「言葉通りの意味よ、私は古代神魔時代…その初代魔王の片割れよ」
「なにっ!?」
「勿論、片割れでも歴代魔王より強い力を持っているわ」

言うや否や初代魔王の片割れの女性は巨大な鎌を構える。

「でも残念ね…」

次の瞬間。

「私の力を見せる前に貴方は」
「っ!?」
「この場で死ぬのよ」

既に初代魔王の片割れの女性は俺の懐に入っていた。

「『ソニックムーブ』」

防御体勢に入るが間に合わず無音の刃に切り裂かれ

「『グラビティクラッシュ』」

受け身も取れず城の石畳に背中から激突し

「これで終わり…」

素早く滑空した彼女は腹部に掌を添え

「さようなら…」

高密度に圧縮した"複数"の射撃魔法を

「『サウザンドスラスト』」

零距離で放った

「『エンド』」











後に残ったのは

無残にも

魔力の刃で

腹部を

貫かれた

蒼輝の

姿だった
12/06/03 12:06更新 / 蒼穹の翼
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