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初夜権は誰のもの |
「魔王軍だって!?」
無事に館に逃げ込んだ俺は、領主の言葉に声を荒げた。 「ああ。妾は魔界から恩恵を受けているのでな。緊急時には何時でも駆け付けてくれる優秀な奴が居る。態々あんな手(花火)を使うのは、奴しかいない」 「はぁー……そっか。魔物だもんな。魔界と繋がっててもおかしくねぇよ」 「ふふん。流石にそれは判ったか」 何故か胸を張る領主。虎の威を借るなんとやらか。 「しかし、大丈夫かよ。魔王軍なんかじゃ、若しかしたら皆殺しなんて……」 「それはない。魔王軍は無意味な人殺しはせん。飽くまで温和な解決をしてくれるだろう」 「……ホントかよ」 「ホントだ。まぁ、明日になってみれば判る」 実際、実感のない話だった。魔王軍と言えば、悪の象徴だろう。其れが何故温和な解決に勤しむのだろうか。 まぁ、魔界と繋がりのある土地に、平和に人間が暮らしている時点で妙な話なのだが。 そして其処でまた魔物絡みで暴動なんか、もっと滑稽な話だった。 「取り敢えず、今日の所は下僕共で館の外を固めておくとしよう。多分、取り越し苦労だが」 その自信の根拠を教えて欲しいものだ。そんなに魔王軍は強いのか? しかし、館に帰って来て思う。なんだか館の中が綺麗になっている。 初めて此処を訪れた時の廃墟一歩手前ぐらいだったものが、領主が住まうに似合う程整理整頓されている。もうすでに蜘蛛が巣を張る隙すらない。 「 そして玄関ホールを見上げる階段から、ナーシェがとてとてと降りてくる。暗がりの中ではっきりと、彼女の目が紅に光っているのに気付いた。 「……え? ナーシェ……」 「領主様もお帰りなさいませ」 「ああ」 領主は気にした風でもなく返すだけ。俺はナーシェの肩を掴み、暗い中夜目を効かせて彼女を隅々まで観察する。 「え、何、ルーゲル……」 恥ずかしがる彼女。 その体つきは、初めに領主に噛まれた時よりも更に洗練された雰囲気を醸し出し、肌や表情が艶っぽく輝いていた。 「ナーシェよ。妾は初夜権を放棄した。だから……もう好きにしてよいぞ」 領主はバルコニーへの階段を昇りながら言い捨てる。ナーシェは目をキョトンとさせてから、暫くして意味が判ったのか、俺の手を取ってピョンピョン飛び跳ねるのだった。 「あ、ありがとうございます、領主様っ。よかったね、ルーゲルッ」 「あ、ああ」 俺達の様子を一瞥した後、「ふん」と姿を消す領主。俺はその姿を気にしつつも、ナーシェの身体を受け止める。 「じゃあ家に帰りましょっ?」 ナーシェの無垢な瞳が俺を射抜く。今頃俺達の新居は燃やされているだろう。仮にそうでなくとも、今家に帰る訳にはいかない。 「いや、今日はもう遅いから、泊めてもらおう」 「お屋敷でするの……?」 恥じらいながらも、何処か期待した目で俺を見上げる。なんだか、ヴァンパイア化してから彼女は積極的になった。 「それだったら、領主様に許可をもらわなくちゃ……」 「そうだな」 俺は領主が消えていったバルコニーを見据えて頷いた。 私はルーゲルを手放した。 きっとこれでいい。これが正解だ。彼が言う、正しい領主としての正しい選択。 新婦の人柄は十分に見せてもらった。あれなら、私よりもルーゲルを幸せに出来るに違いない。 そう、少しばかり背中を押してやった今なら。 私は棺桶に横たわる。魔王軍が出張って来たならば、暴徒達も今頃鎮圧されて記憶でも消されている頃なのではないかと予想する。私はゆっくりと横になる事が出来る訳だ。何せ、普段は寝ている筈の頃に起きて、ずっと活動していたのだ。ヴァンパイアが夜眠る、十分な言い訳にもなるだろう。 しかし、胸にこびりつく執着以外に、全身、特に其処に張り付く後身全体に違和感を憶えて仕方ない。狭い棺桶に何度も寝返るが、違和感は一向に拭えない。 私は起き上り、傍に念の為置いてあるベッドに傾れ込む。 其処で気付いた。 ……私、服着たままだ。 いつも寝る時は寝巻を着て眠るのだから、普段からの服を着ていて眠れる訳がない。 私は前のボタンを外し、外套を床に放る。もう整理が面倒だ。兎に角煩わしい服を全て取っ払うと、私は下着姿のままベッドに再度倒れ伏す。 柔らかく包み込む感触。確かに何時も私は棺桶で眠るが、別にベッドでは眠れないという訳ではない。棺桶の中だと、光が徹底的に遮断されて気持ちよく眠る事が出来る。それだけだ。 今は包み込んで欲しい気分だった。どうしようもなく。 「……ん、はぁ……はぁっ」 そして ルーゲルの家で、私は彼に限界を告げた。だけど、あれは疲れたとかという意味じゃない。 理性を……欲情が抑えられない、そう言う意味だった。 にんにくの臭いで頭はクラクラし、そんな所に真水が私の下半身を撫でた。胸の鼓動は抑えられず、ルーゲルに襲いかかった。 ……寧ろ、あの場はよくあの程度で収まったものと思う。実際、今もこうやってしぶとく尾を引く欲望の炎。 私は柔らかく包まれながら自身の指を下着の上から秘所に宛がう……。 布の擦れる感触。直ぐに指先に湿った感触が纏わりつく。 クロッチを退け、直接触れる。身体の芯が一気に熱くなるのを感じた。 「はぁ、う……ふぁ……っ」 激しく中指と薬指を合わせて突き立てる。自分でも知らない程粘っこい愛液が指に絡み付き、引き抜く度に巻かれ散る。クリトニスを摘み、捻じりながら、もう一方で胸を揉みしだく。 頭の中に思い浮かべる相手。それは決まっている。 彼の声、彼の臭い、彼の肌、彼の温度。全てが今日共に居て感じ取った事、どんな瑣末な事ですらも頭の中に思い浮かべ、より忠実な彼を作り上げる。そんな彼は唯一私の思い通りだ。 「ひくっ。……ん、んぁ……はぁぁ」 口に頬張った彼の怒張。それが果てた瞬間の勢いを、此処に受け止めたらどんなことになってしまうだろう。若しかしたら、私は壊れてしまうのではないか。そんな風に夢想した…… 「ん 一際深く突き入れた指……。いとも容易く興に達した私は、身体を内側に丸めながら、静かに歓喜を吐き出した。 「 足りない。身体がそう訴え掛ける。 私は何にも抗わず、湧きあがる情欲に身を任せ、また蜜壺に指を滑り込ませる。先程以上にぬめりが増し、まるで自分のモノとは思えない化け物となっていた。 爪で粘膜を傷つけないようにだが、激しく中に擦りつける。 此処はダメ、此処は物足りない。そんな風に潜り込ませていったその時、何者かの視線に気付き、咄嗟に身体をシーツで隠しつつ声を挙げる。 「誰だっ! ……出て来ぬというのなら、引き摺り入れてくれようぞ」 気配は部屋の扉の方から。目を凝らし、構えていると、外からはおずおずとルーゲルとその妻が入ってくるのだった。 「……その、悪い」 何故か開口一番謝るルーゲル。 「だ、だからノックしてから入ろうって言ったのよぅっ」 気不味そうに責め立てるナーシェ。 「貴様等……! い、今のを見て……!?」 こう声を掛けた時点で、もうすでに私の中には烈火に燃ゆる感情が渦巻いている。 それなのに、奴等は目線を逸らして嘯く。 「さ、さぁ。何の事だろう」 「惚けるな。ナーシェがノックしてから云々と言ったのは、妾の……その、を、見たからであろう」 「そんな事、言いましたっけ? ヤダなぁ領主様ったら、うふふ……」 なんだその気色悪い笑みは。それで誤魔化せると思ってるのか、此奴等は。 妾は、確実に妾の恥を見たであろう此奴等を見据る。奴等は挙動をおかしくしながら、明らかに話を変えようと妾に語りかける。 「あのさ、あんな事があった以上、俺達、村に戻れないんだ。それで、今晩泊めてもらおうかと思って」 誤魔化し序での様な気がしないでもなかったが、それは確かにそうだ。今、村に戻れば八つ裂きが関の山だろう。 しかし、自身の秘め事を見られておいて、これ程までに違和感をもって誤魔化されるとなると……素直に頷く者などいないだろう。 「ふむ、そうだな……ならば泊って行くがよい」 「ありがとう、助かるよ」 「 私は語気を荒げる。 「此処で一晩過ごせ」 「……はぁ?」 呆気にとられる両人。 「聞こえなかったか。此処で一晩過ごせというのだ」 「な、なんでだよ。そ、そんなの……なぁ?」 ルーゲルが新婦に語りかける。 「どうした? 妾の事は気に掛けずともよいぞ。遠慮せず初夜を過ごすとよい」 「あ、あのなぁ。意味判って言ってんのか?」 「当然。それとも……貴様等の初セックスを妾に見せろ、とはっきり言えばよかったか?」 新郎新婦の顔が赤くなる。面白い反応だ。 「な、なんで見せなきゃならないんだよっ」 「そうですっ。初めては神聖で、誰かに見てもらうものじゃありませんっ」 「拒否するか」 案の定だが。 「だが忘れてもらっては困る。初夜権は失えども、妾がナーシェの支配権を握っている事を、な」 そう。ナーシェは私の眷属だ。支配権そのものは徐々に薄れ、命を賭して私の命に従うと言う訳でもないが、魔物の性分には抗えまい。 私はナーシェに、その表情をじっと窺いながら言葉を連ねる。 「ナーシェ。今日、妾の館を掃除していておかしいことはなかったか……? 例えば、拭き掃除などしている最中……」 「!」 表情が驚きの色を帯びる。 「その場で慰めたか? それとも……いまも、耐え忍んでいるか?」 「う……ル、ルーゲル……」 段々と涙目になってくる。そうだろう、初めてヴァンパイアとして水に触れれば、身体が快楽に溺れ、耐えられたものではない筈。 もうすでに新婦は此方側の存在なのだ。 「 言われるがままに、彼女は私の元に来る。腕を引っ張って、ベッドの中に沈める。私は彼女を後ろから抱き締め、彼女の衣類の全面を開け広げる。 美しい身体だ。元の素質も良かったが、ヴァンパイアになってから其れが一層輝いた。ルーゲルの目も、もう彼女の艶やかな肢体に釘付けになっている。 そして私は彼女に囁いた。 「ルーゲルに、貴様が今、どんな気持ちでいるか、見せてやれ……」 私は先程まで自分に向けていた指先を、ナーシェの下腹部に潜り込ませる。予想通り、ナーシェの中心はだらしなく濡れそぼり、私の指に吸い付いてくる。 「ひぅっ……りょう、しゅ、さま……」 私の腕を掴むナーシェ。抑え込もうとしているのだろうが、その力は弱々しい。 私は構わず、ナーシェの下着を剥ぎ取った。 「 彼女の花弁がルーゲルの目の前に曝される。彼は今まで、新婦のその場所を見た事はなかっただろう。 ナーシェは顔を覆う。私はまた囁いてやる。 「何故顔を覆う。こんなにも美しくなった貴様を、新郎に見てもらわねば」 「そ、そんな……ま、まだ心の準備が」 「そんな事を言って、此方の準備は整って居るではないか」 「ん……はぁ……ぁっ」 意地の悪い言葉を囁いてやりながら、ナーシェの秘裂を弄ぶ。その度、すっかり発情しきった彼女は、身体を魚の様に跳ねるのだ。 「さぁ。昨晩教えてやった、淑女の嗜みと言う奴をルーゲルにも見てもらおう」 「そんな……あ、あんな事、彼の前で……」 ルーゲルの視線は僅かにもぶれない。 「……見せてやれ。あんなに興味津々に見ているではないか」 「! ち、ちがっ」 慌てて目をそらす。全く、なんて可愛らしい新郎新婦だろうか。 ナーシェは息を荒げながら、ルーゲルを見据える。 「……ルーゲル」 「なんだよ」 「……見たい?」 思わず笑ってしまう。ルーゲルの反応はというと、顔を真っ赤にして、前屈みになってしまっている。 「見たいそうだぞ」 「テメェ、そんな事一言も……!」 「では、見たくないのか?」 「……」 その沈黙は、答えている様なものだ。 「見たいそうだ」 再び嗾けると、ナーシェはそっと自分の手で秘裂を刺激し始める。 とろとろになっている其処を不器用に、只快楽に忠実に弄って行く。 「はぁ……んっ」 逐一声を漏らしながら、黙々と自分を慰めるナーシェ。一方、ずっと視線を逸らしていたルーゲルも、ちらちらとナーシェの行為を盗み見ていたのだった。 「ほら、ルーゲル」 声を掛けると、判り易く耳を動かした。 「襲ってやらんか」 「ばっ……! 何言ってんだよ、テメェ!」 真っ赤な顔で怒鳴るルーゲルに、私は呆れた振りをする 「ここまでして、寂しい、と訴え掛けておるのだぞ? 慰めてやるのが男だろう」 「……なんでテメェに指図されなきゃ……」 そう文句を垂れながらも、静かに此方に寄ってくる。其れを見たナーシェが身じろぎ、手を止めたので再度促す 「手を止めるな……」 「は、はいっ……ん」 再び水の音が響く。 足を広げて見せるナーシェの前に、ルーゲルが這い寄って来た。どうやら完全にその気になったらしい。もうすでに下半身の怒張を自ら曝け出している。 「ナーシェ……そんなトコじゃなくて、此方に来い」 私はナーシェに許可を出して、彼の元に行かせる。 彼は彼女を強く抱き締め、口付けした。そしてまるで自然にその手が動いたかのように、彼は彼女の臀部を揉みしだく。荒い息を漏らしながら、二人は倒れ込んだ。 「やっと、結ばれるんだな」 「……うん」 ナーシェに覆い被さるルーゲル。奴等の気持ちに立ってみれば、成程、此処まで来るのはやっとの思いであっただろう。 結婚式から3番目の夜。本来気持ちの高ぶりのまま初夜を迎える予定が、こんなにもズレ込んでしまったのだから。 「足、開け」 そう促すルーゲル。 「……優しくしてね」 涙目で告げるナーシェ。ルーゲルは鷹揚に頷く。 そして彼女に宛がわれた怒張が、ゆっくりと蜜壺に飲み込まれていく…… 「んっ、くぅぅ……っ」 彼女の苦悶の表情。二人が繋がった間から、甘美そうな赤が零れる。思わず舌で掬いたくなったが、それが許される空気ではなかった。 「 相手の頬を撫でながら心配して見せるルーゲル。 「はぁ、はぁ……ん、はぁっ。……だ、大丈夫……ちょっと、痛かっただけ……」 息を弾ませながら、彼女の目から一筋の涙が流れる。 「おい、ホントに大丈夫か? 泣いてるぞ」 「大丈夫……でも、嬉しくって……」 成程。喜びの涙と言う奴らしい。 「えっと、動けばいいんだよ、な」 独り言のように呟くルーゲル。そうして一人でに腰を振り始める。 普通は女が落ち着いたのを見計らってから動くものだろうが、私達のような魔物には余り気にしなくても良い事だろう。破瓜の痛みでさえ、官能に感じるものだ。 「あぁっ。んっ……く、ふぁ……ぁ」 ほら。今にも浮き上がってしまいそうな表情。もう彼と呼吸を合わせ、楽しみ出している。 「ん……あ、なんか、来る、よぉっ……ルーゲル、ルーゲル……ッ」 「ああ……イくぞ」 そう言った直後、彼は宣言通りに果てた。 ……漏れ出た白濁液が、ナーシェの肌を伝う。 「あ……ルーゲルが、きてる……」 夢見心地で呟いた言葉。 「ああ」 「……子供、出来たかな」 ドキッとしたようだ、ルーゲルは。私の方もクスクスと笑ってしまうが、お邪魔だったらしく彼に睨まれてしまった。 ナーシェは彼に甘ったるくキスをする。キスした後、徐に首筋まで舌をなぞって行き、そのまま牙を突きたてた。 「……じゅるる」 「お、おわ……!」 吸血の際の快感に表情が溶け出すルーゲル。其れに反比例して陰茎は力強く持ち上がるのだった。 「 今度はナーシェがルーゲルに覆い被さった。 そして彼の怒張を自ら秘裂へと誘う…… 「ん……ほら見て、ルーゲル。私の中、ルーゲルで一杯だよ……」 ルーゲルはその時点で必死の形相をしていた。白濁液をだらしなく垂らしている結合部から目を逸らす様で、どうも見てしまう。そんな動作を繰り返している。 不意に、ナーシェが私の方を見てほくそ笑む。どうやら、私に対して当て付けているらしい。そういえば、私は彼女の前でルーゲルのペニスをモノにしていたな。その恨みだろう。 「さっきはルーゲルが頑張ってくれたから、今度は私が頑張るね」 囁く様な声でそう告げると、彼女はゆっくりと腰を動かし始めた。 パン、パンと規則正しい音が響きつつ、二人は呼吸を上手く合わせていく。やがて彼女は不規則に腰を動かし始め、ルーゲルの裏をかくようになる。そうして段々と、着実に動きが激しくなっていく。 「はぁ、はぁ、はぁ」 「く、うく」 まるで、男の方が女に犯されている様だった。 もうルーゲルは彼女の腰遣いになす術もなく、只、抗う方法も思いつかぬまま果てたのだった。 終わりか。そう思って見ていると、ナーシェはまた彼に口付けし、そっと首筋に顔を埋める。 「 口元を血で濡らしながらも、まるで女神の様に微笑んだ。ルーゲルの方も抗う気力もない様だ。 この夜は只、身も心も魔物となった彼女に蹂躙され続けるだけであろう。 無論、此処までの行為を見守って来て私の身体も熱くなりはした。しかし、眠気を前にしてはそれも静まる。 私は静かにベッドから降りた。 「では、妾は先に寝るからな」 そう告げた時にはもう三回目に突入していた。 私の存在などとうの昔に気にしなくなっている二人に呆れつつ、私は棺桶の中に入り、蓋を締める。完全なる暗闇。私の唯一落ち着く空間。瞼を閉じ、更に深い闇の中に安息を探す。 ……が、急に蓋が開いたと感じ取り、目を覚ます。 直後、私に何者かが覆い被さって来た。 「!?」 目を開けると、其処にはさっきまで新婦に手篭めにされていた筈のルーゲルが、私の顔を覗き込んでいるのだった。 「な、なんだっ。貴様」 不意に身の危険を感じる。 するとルーゲルの後ろから、ナーシェが顔を見せるのだった。 「彼に聞きました。領主様、彼の事好きだったんですね」 「……!」 ルーゲルを睨む。此奴は何とも言えないような顔を返してきた。どうやら、行為の最中に私と過ごした今日の事を根掘り葉掘り聞き出されたらしい。 それは兎も角、ナーシェは何故か嬉しそうにしていた。 「だ・か・ら。領主様にも、彼の味を知ってもらおうと思って」 背筋がゾクリとした。こんなにもこの娘が、魔物……というより、サキュバス寄りに覚醒するとは。 「ちょっと待て。妾にも心の準備が……!」 そう言い終わらない内に冷たい感覚が全身を覆った。 「 全身を駆ける快感。寝ている間にでも用意したのだろう。真水を大量に掛けられたのだ。 「はぁ……っ! いや……ッ」 「ふふ、領主様のお身体は、もう準備万端じゃないですか……」 凄い量……こんなに掛ったら、全身がもう性感帯になってしまっている。もうすでに掛けられただけだというのに、失禁したように愛液が大切な部分から溢れ出してくる。 因みにルーゲルにも容赦なく掛けられている。彼は私の頬を包んだ。それだけで、私は絶頂に達しかけてしまう。 「あ、はぁ……くぅ」 「……なぁ」 「んんっ……な、なん、だ……」 どうにかはしたない結果を招かずには澄んだ様だった。だが、ルーゲルは熱い視線で私を射抜いて来て……それで、また身体が熱くなってしまう。 「……抱いて、いいか?」 「はぁ、はぁ……」 本当なら、例え好意のある男でも、此処は「妻が居る癖に図に乗るな」と拒絶するところだろう。 だが、私の身体が彼を求めてやまないのだ。 これも真水を掛けられた所為だろうか。それとも…… 彼は私の返答を聞かずに、私の内腿に手を滑り込ませる。 その時点でもう、私は抵抗するのを諦めた。 ルーゲルの手で、重たく湿ったベビードールを脱がされる。すぐに下着も奪い去られ、生まれたままの姿にされる。 棺桶の中で足を広げられ、秘所を指で……ん。 「大丈夫か」 私の其処は、彼の指をすんなりと受け入れる。全身が性感帯となっている今の私の身体で、本来が性感帯である其処はこの世の中で最も繊細となっている。 「ホントに……する、のか……?」 「ああ」 即答だった。 そしてすぐに行動に移す。私の柔らかい部分に硬い感触が当たる。 「あ、いや、待って 制止も虚しく、彼の怒張が私の中に侵入する。擦れた部分から痺れが広がって行く。やがてそれが、すぐに快く感じてしまう。 そして奥に達した瞬間、込み上げてくる劣情が脳を突きあげ、体を仰け反らせた。 「ん、ひぁっ、んく……あぁぁ……っ」 思わず、彼の身体にしがみ付いて、声を漏らしてしまった。 ……私は、挿入された刺激だけで絶頂に達してしまった様だ。 「はぁ、はぁ、はぁっ……ん、はぁ……」 息が整えられない。胸が苦しい程躍動している。 どうにか……なってしまいそうだ。 「大丈夫か」 心配そうに声をかけられる。癪に障る程、この男は冷静だった。妻に散々絞られて、玄人ぶっているのか? 腹の中の感触から重大な事に気付いた私は、二人を交互に睨みつけた。 「はぁ、はぁ……き、貴様等、憶えて」 だがそんな事もお構いなしに、この男は動き出す。 「 宣言もなしに動かれて、驚くやらナニやら。此方は絶頂の余韻に浸っている最中だと言うのに。それに、心の準備もまだ…… いい加減腹が立ってしまっているが、こうして自分の中を掻き混ぜられていると、どうでもよくなってくる。ゆっくり、しっかり掻き混ぜる。グポッ、だとか、そういった下品な音が響いて恥ずかしいが、それすらも脳裏に掠めるだけで素通り。 うぅ……また、イきそうだ。 「ひ、ん、あぁっ、んあっ、んふぁ……ぁ」 全身に虚脱感。こんな短時間に二回イってしまうなんて、身が持たない気がした。 しかも、この男は私が限界に達したというのにまだ腰を振っている。無理矢理自分を落ち着かせてみると、耳に体がぶつかり合う音が響いて来る。 本当に、いやらしい音だ。この音が、私とルーゲルの間から生まれているのか……。そう思うと、なんだか聞いているだけで劣情が戻ってくる。 やがて、また彼の動きに魅了されていくようになるのだ。 「……イくぞ」 彼が囁く。もしかして遠慮なしに中に出すのかと思ったが、どうせこの男の事だ。セックスは中に出せばいいと思っているのだろう。 全く、繊細さのない男だ。 やがて急に私にも限界が近くなってくる。ルーゲルも動きを速める。 ルーゲルが止まった。不意に陰茎が中で大きくなったかと思うと、ドクンドクンと強く脈打った。どうやら本当に許可なく中に出したらしい。 「中に……出したのか?」 「ああ」 当然だろ? というような顔をされた。 「子供が出来たらどうするのだ……」 「……あ」 其処でようやっと、考えが及んだらしい。まぁ勿論、外に出しても孕む時は孕むのだが。 「……退け、グズが」 二回もイかされた身でそんな口を叩いてみる。ルーゲルはすごすごと退く。私達が繋がった所は、赤が微かに混じる精液溜まりがあったのだった。 それを見たナーシェは目を丸くする。 「え……!? りょ、領主様、もしかして……」 「……ふん」 そう、私は処女だった。 今まで、私は夫にすると決めた相手以外には手を出さなかった。そして夫にしても良いかな、と初めて思った相手が、ルーゲルなのだ。 「よくも、妾の初夜を奪ってくれたなぁ……?」 ニヤニヤと笑いながら、私を犯した張本人とそれを嗾けた張本人をベッドに追い詰める。 別に本気で怒っている訳ではない。別に……寧ろ、恋しい相手に奪ってもらえた事で胸の中は幸せで一杯だった。 「償いもなしに家に帰す訳にはいかん……。一生此処で家畜として働いてもらう、からな」 「そんなっ、ちょ……!」 往生際の悪いこの男の首筋に牙を突きたてる。溢れる甘美な血が、犯し尽くされた私の身体を癒してくれる。 「そうだね、ルーゲル。領主様の初めてを奪っちゃったんだから……仕方、ないよ」 「ちょっと……待て……」 お前が嗾けたんだろう、とでも言いたかったんだろう。だがその前にナーシェの唇が彼の口を塞ぐ。息を混ぜ合い、舌で互いを感じ合った後、すぐに私と反対側の首筋に顔を沈めた。 「 ルーゲルの声にならない声。何せ、左右からヴァンパイアに吸血されているのだ。普段吸血で感じる快感の二倍、いや、二乗であろう。 「ぺちゃ、ぺちゃ……んちゅ」 「れろぉ……ん、ちゅ、むちゅ」 「く、はぁぁぁ……!?」 そして吸血しながら、ルーゲルのペニスを扱いてやる。直ぐにナーシェもその悪戯に加わり、二人で彼を絶頂へと導いた。 「ん、くはぁ……はぁ、はぁ」 彼が力尽きた後、私とナーシェは目線を合わせてウィンクし合った。 計画通り。 今夜からこの男は、私達二人の共有財産となる。私達が欲する時に血と精と愛を提供する家畜となるのだ。 「 「 「え……ま、待って……」 問答無用とばかりに、彼に牙を突き立て、また彼に跨る私達。甘ったるい臭いが包む中、夜が明けて塞がれた窓から光が漏れるまで、私達は夜を満喫するのだった。 |