戻る / 目次 / 次へ

2話

【善意の代償】



   そろそろ時間だな」
 時計を見上げ、そう告げる。思ったとおり、掌に収まる指輪の宝石が光り始める。
 だが決戦に望む前に、目の前で一際身を乗り出し母親に童話の続きをせがむ、それのように不満を訴えるリザードの少女を宥めなければ成らない。
「え? まだ話は途中でありまする!」
「ああ。何、道中話す」
 なんだか、昔話をしていると懐かしい気分になる。それと同時に、過去に犯した自身の愚行が胸を締め付ける。
 だが、彼等にあの男の本心……痛みと苦悩を理解してもらいたいと思うのは、本当の気持ちだった。





――――――――――





 あの仕事を終えてから、俺達は親しい間柄になった。といっても、奴と組まされる事が多々あって、話をすることが多くなったというだけの事だ。
 奴は、俺が尋ねるすべての問い掛けに誠実な返答が出来る唯一の男だった。
 だから、俺は自分の為に、此奴の傍に居続けるのも悪くはないと思っていた。


 奴は読書家で、教団の資料室に入り浸っているのは有名な話だった。
 只、奴が読んでいるのは術に関するものではなく、ロマンスや冒険物といった、御伽噺などがメインだった。
 俺は其れが解せずに、こう尋ねた事がある。
「何故そんなものを読むのだ」
 すると、人の質問が聞こえなかったかのように、いつも独り言を返してきた。
「文字は不思議や。只の無意味な序列かとも思えば、皮肉なほどに意味を持つ事がある。しかも、それは言葉なんかよりもずっと理解が容易い。文字は、時に言葉以上に想いを届けるに適している場合があるんや。それは、一体何故なのか? 今の俺の研究課題は其処」
 そう言いながら奴は本を閉じ、徐に俺にそれを渡す。
 俺は知っている。此れは、奴が何処からか持って来ては、勝手に資料室に置いたものだ。
 そして、未だ嘗てヴァーチャー以外が手に取った事は無い。
「いやぁ、やっぱり憧れるね。やっぱり愛、愛だよ! 愛だよねっ。……え、愛?」
「何がだ、気持ち悪いッ! ……で? 何故俺にその本を差し出す?」
「俺のおススメ。騙されたと思って、一回読んでみ?」
 表題に目を遣る。   『ロミエとジュリオット 〜愛の悲劇〜』
 正直、何処かの名作を堂々とパクったような題名に読む気もクソも起きなかったが、俺が断ると決まって奴は夜になってから「愛はじゃすてぃす」とかなんとか叫びながら俺の安眠を邪魔してくるのだ。



―――――



 そんなある時、何の前触れもなく奴の部屋に呼び出された。
「なんだ? 俺もそこそこ忙しいんだが」
 ヴァーチャーからコンタクトを取ってくることは珍しい。奴は殆どの時間を自分一人に使っていて、誰にも何をしているのか気取らせなかった。
 自室には強力な結界を張り、その周囲には監視魔法まで掛けている念の入れよう。流石にそのセキュリティには教団幹部も手も足も出せなかった。
 だが今は其処へすんなりと入られる。新鮮な気持ちだった。
 俺が奴の部屋の前に立つと、目に見えていた結界がすっと消えた。恐る恐る扉をノックしてそう声を掛けたが、中から反応は無い。
 不審に思っていると……


   悪かったな。忙しい、つっても、どうせ教団の仕事やろう?」
「のわぁっ!?」
 突然背後から肩を掴まれ、飛び上がってしまう。密偵が後ろを取られるなんて不覚だ。振り向いた先には、俺のリアクションにご満悦なヴァーチャーの顔があった。
「驚きすぎ……もしゃもしゃもしゃ」
「貴様、人を呼んでおいて出掛けていたのか?」
 容赦なく人の癇に障ってくる奴を睨み付けるが、奴の口には妙なものが咥えられていた。
「……なんだ、それは?」
「ちくわ」
「……」
 ぼよぼよした棒状のもの。まぁ、興味は無いのだが、ヴァーチャーは手元に抱える紙袋から一本を取り出し、俺の口下にそれを差し出す。
「食う?」
「いらん」
「美味いのに」
 残念そうに呟いてその一本を咥える。
 本当に何なんだ、此奴は。と思ったとき、ふと視線を横に向けてみれば、其処には何故かオンナの姿があった。
「……。   
「……?」
 真っ白で穢れの無い肌が目に付いた。光に舞う衣。白麗なる長髪は地面まで垂れ下がる。
 年の頃は十五程だろうか。他に俺の周りで攫われたオンナ達と思い比べてみても、何処か違う雰囲気を纏わしていた。
「……何処で拉致してきた?」
「お前、人をなんやと思ってんの? もしゃもしゃもしゃ」
 物食いながら自分の潔白を主張する奴があるか。
「そもそも、なんなのだ? そのオンナは」
 其処で恋人か? などと思い付く事は無かった。
 本来、教団の駒達は欲望などに薄くなっている筈だった。自我を徹底的に排他する事で、忠実な道具にするという教団の方針の為だ。当然、それは色欲も食欲も然り。
 だがヴァーチャーだけは教団の教育の影響を受けていなかったらしい。平然とちくわを頬張るという食欲を示しながら俺の顔を伺ってくる。
「オンナ……ねぇ。感想はそれだけ?」
「なんだ。何か言って欲しい事でもあったか」
「まぁ、そりゃぁ……可愛いとか、綺麗だとか、極端に言うと抱きたいとか、男やったら思うやろ? この娘はかなりの美人やで?」
 頬をリスの様に膨らませて尋ねてくるが、教団の教育が効いているらしい俺にはピンと来ない話だった。直ぐに興味を失せる。
「……所で、その話は長くなりそうか?」
「そこそこかな? ……まぁ、中に入るか? 茶の一杯は振舞うけど」
   そうだな」



―――――



 こうして教団内の誰も入った事のない、開かずの扉の内に入る事が適う訳だが。其処は、教団内にある魔術施設のそれよりも珍妙な品々が置かれてあったのだった。
「これは?」
「ああ、趣味で集めている魔道具達や。……あげないよ?」
「ああ。そもそも、使い方も想像できんな」
 そう返しながら、妙に持ちづらい構造の黒いオブジェ(?)を手に取って見る。形状から、全く使用法が判らない。属性もなんなのかさっぱりだ。
 何時もの事ながら、ヴァーチャーの事はほとほと理解出来ない。なんでこんな、言葉に表せないような形の物ばかり集めるのかも疑問である。
 そんな風に思いながら、折角だからとこの部屋をぐるりと見回していると、ふと大きなものに目が往く。
 俺は、思わずそれを口になぞっていた。
   ガーゴイル?」
 其処には丁度人と同じぐらいに仕上げられた石像があった。
 聖なる鎖で封印されているところを見れば、ガーゴイルらしい事は判るが、何故この時代に悪魔の姿を模さずに女の裸体を造形しているのかは理解に苦しむ   旧時代において、既に女性の姿をしたガーゴイルはこの時、初めて見たのだった   
 これも何処かから集めて来たのだろうか? ふとそんな疑問が湧いて来た時だった。


 コトッ
 そんな物音に気付いた俺がふと視線を遣ると、其処には白無垢のテーブルと三脚の椅子があった。その一つにヴァーチャーが座り、その右手にさっきの白無垢のオンナが座る。
 俺は妙な居心地の悪さを感じながら、そのテーブルに置いてあるティーカップの前に座る。
「さてさて、砂糖は入れるかな?」
 自身のティーカップの中をスプーンで掻き混ぜながらヴァーチャーは言った。
 茶を嗜む習慣などなかった俺は、何時か見た教団幹部がやっていたように、優雅らしくカップに口を付ける。
 舌に広がる不快感、思わず眉を顰めた。
「はっ、ノンシュガーじゃきついやろう?」
「……良く飲めるな、こんなもの」
 俺は水しか飲んだ事がない。水ならば泥水まで啜った事があるが、これはそれに劣る。カップを置き、口を拭う。ヴァーチャーは苦笑いした。
「砂糖を入れないからやろ? 俺のはたっぷりと入れてある」
「……砂糖を入れて、何か変わるのか?」
   
 不意にヴァーチャーは視線を落とす。
 この男が俺と話しているとき、時たまにそんな表情を見せることがあったのには気付いていた。だが、俺はその意味するところをよくは知らない。只、俺が何か言ったとき、それがよく、教団の指針に関するものが暗に関わっている時にそういう表情をするのだ。
 やがてヴァーチャーはカップを乾かす。
「砂糖を入れると、甘くなる」
「甘く、ねえ」
 俺は試しに入れてみた。奴がどのくらい入れるのかは知らないが、一応一匙入れてみよう。
 スプーンにサラサラと盛られた白い結晶は、パラパラとカップの褐色の中に吸い込まれていく。
 そうしてから掻き混ぜた後、口に少しばかり流し込んでみた。
「……!」
「一匙で判るか?」
「ああ」
 味は劇的に変化した。それは、さっきまでは泥水に劣ると思っていたが、砂糖を入れれば水よりも欲しくなる。不思議な感覚。
 俺の表情を伺って、ヴァーチャーはポツリと俺の名前を言った。
「ゲーテ」
 此奴が俺の名前を呼ぶ事は先ずない事。そもそも、此奴が他人を名前で呼んだところなど、見た事が無い。俺は内心驚きながら返す。
「なんだ? そういえば、話があるのだったな」

   教団を、どう思う?」

 それは、この男から漂う妙な感覚を一層強めた発言だった。
 だがその時の俺は、単に此奴が叛逆の意思を見せている事ぐらいにしか感じ取れない。俺は覚悟のようなものを決める。
「どう思う? そうだな。どうも思わんよ」
「何故」
「何故? どうも思わない事に、理由は無いと思うが?」
「……それもそうやな」
「? どうしたのだ? 話は……それだけか?」
 なんとも呆気ない。思わず話の続きを催促すると、奴はティーカップを再び潤してから、砂糖を何匙も入れて、掻き混ぜ、口に運ぶ。
 ヴァーチャーは、暫く余韻に浸った様子で宙を仰ぎ、そっと瞳を閉じた。


「なぁ、俺達って、これでいいのかなぁ」
 そんな事を口走るヴァーチャーを、俺は嘲笑する。
「なんだ、突然」
「普通の人間っていうのは、さ。もっとこう、平和的な考え方を持っているものなんや。人なんて殺す機会なんてないものなんや。もっと、他人に優しく出来るものなんや」
 奴はティーカップを降ろす。乾いた其れを見て、少女が注ごうと気を利かせたが、それをヴァーチャーは断る。
「それに比べて、俺達はどうや? その気があれば簡単に人間が殺せるやろう」
「まぁ、それが仕事だしな……」
「それじゃ駄目なんや。……なんて言えばいいのかなぁ」
 ヴァーチャーは頭を掻く。
「そうやなぁ……。   人間らしく。そう、人間らしく生きていきたいんや」
「はぁ?」
 言いたい事が言えたと言わんばかりに機嫌よく振舞うヴァーチャー。
「でも、俺達は所詮この手を血に染めた悪人や。今更、人間面するなんて、無理があるのかもしれない。でも、此処から抜け出せば、今からでも普通の人間として生きられるんじゃないかと思うんや。人を殺さずに、自分の好きなように生きていられる……やり直せる。そんな気がする」
 そう言い終わった後に、暫く奇妙な舌触りの沈黙が流れる。


「……何が言いたい?」
 やがて、口を開くのは俺の方。結果を出し惜しみされている気がして、背中がむず痒くなったのだ。
「もう、限界なんよ、俺は」
 ヴァーチャーはそう言いながら上着を脱ぐ。
 血色が良かった筈の顔とは裏腹に、ヴァーチャーの体は不健康そのものに白い。その素肌に傷が生々しく残るのが見えたが、何より酷いと思ったのは背中の傷だった。
 奴は赤黒くグチャグチャに形を変えてしまっている背中を自嘲する。俺が嘗て見た鞭打ちの場面を思い出したのは言うまでも無い。
「周りの奴等は皆教団の教育で人間性を抜かれた人形になっている。人の痛みが判らない。命の価値が判らない。そんな馬鹿ばっかりの環境。……いい加減、俺達が人間性を求めたっていい頃やと思うんよ。折角、大人に成り掛けてるんやから」
 大人……ね。所詮十五や其処等の時分で何を言っているのか、此奴は。
「判らんな。その話を何故俺に? 俺だって、教団の人間だぞ」
 無暗に教団を批判するのは得策ではない。言外にそう意味を込めれば、此奴は大袈裟にこう返す。
「心の友だからじゃないか!」
 ……当然、此方の対応はポカン、だ。
 ヴァーチャーが、閑話休題とばかりに言い直す。
「それはさておき。……ジョークが、通じたからや」
 そう言われてもピンと来ない。貴様の頭が愉快なのはモグラに聞いても頷く筈だ。
「ほら、ゾンビの腕立て伏せ」
 成程、あの時の事かと思いだす。確かに此奴が見せたゾンビの腕立て伏せに、俺は笑った。
 そういえば、あの時が初めてだ。笑うのは。其れを見て奴は驚いていたかな。
「あの時、俺はお前が他の人形共とは違うと思った。まだ人間としてやり直せると思った」
「やり直せる……なぁ」
「何せ、笑顔はもっとも人間らしい表情やそうやからなっ」
 誰が言ったのだ、そんな事。ヴァーチャーに妙な事を吹き込んで……一発殴ってやりたい気分になった。
「ゲーテ、俺は教団を抜けるよ」
 ぼんやりしている内に突然告げられた叛逆の意志。準備していた筈のナイフを抜けなかった。
 ……密偵失格だな。俺は今更抜くのも諦める。
「正気か?」
「言ったやろ。俺は好きなように生きたいんや。教団なんかに縛られず、自由に」
 ヴァーチャーはその言葉に端を発して、淡々と語る。
「此処は言わば檻、や。小さくて小さくて仕様のない、な。其れに対して俺はそんなものには収まらない、規格外の存在。鉄格子が体に食い込んで、窮屈で仕方ない。だから、俺は外に出て、自分がやれる精一杯の人生を送ってみようと思うんや。商人でもいい、料理人でもいい、学者でも、美術家でもいい。船に乗って、世界を回ってみるのもいいな。兎も角、暗殺者とか密偵なんていう、異常な存在から遠ざかりたいんや。   人殺しは、ホント、楽しくないから」
「……」
 奴の目には光が宿っていた。みちみちと溢れる、見た事のない光だ。ランプに灯された火の様であって、力と躍動を感じさせてくれた。
 そんなヴァーチャーは嬉しそうに笑って、こう続けた。
「其処で、俺は初めて出来た“お友達”の君に、置き土産を置いて行く事にした」
「置き土産?」
 そう尋ねると奴は椅子から立ち上がり、徐にあのオンナの肩に手を置いた。
 奴は妙な表情をしていた。自信に充ち溢れながらも、その矛先がつまらない悪戯に向いているような、そんなような時の顔だった。
   この娘を、君のパートナーにしてやってほしい」
「!!?」
 ガタッ、と俺は思わず立ち上がる。いや、何故こんなに驚いたのか自分でも判らない。嬉しい訳でも無い。寧ろ、足手纏いがこれから付くとなれば……って、何故承諾前提でものを考えているのだ、俺は!?
「断るっ」
「却下」
「何の権限だ!?」
「足手纏いになるからとか言う理由で断るのは却下」
 そう改めて言うと、俺が「何故だ」と問う前にこう続けた。
「この娘には教団の書庫に収められている魔術書すべての魔法程式と魔法陣をインプットしてある。下手すりゃお前よりも魔法使える。足手纏いになるとするなら、命令をキチンとしなかったお前が悪い事になるからな」
「何故そう……ん? インプット? まさか、そのオンナ   っ!」
 改めてよく見てみると、そのオンナの白い体の一部、首筋の僅かなスペースに岩のような部分があった。其処には緻密にルーンが刻まれている。
 俺は其処で初めてコイツの正体に気付いた。
「……ゴーレムか?」
「ああ。女の子に似せて作ってみた。……俺的にはドツボなんやけどなっ?」
 餓鬼みたいに興奮して彼女を指差すヴァーチャー。俺は、ゴーレムと言えばこの時代、角張ったものしか見た事が無かったのだった。
「なんというか……何処からどう見ても、オンナにしか見えない」
「オンナって言い方デリカシーないと思うぞ?」
 そう言われて、軽く思案して見る……。
「メス」
「もっとあかんわっ」
 そう注意された時、此奴のペースに乗せられている事に気付く。
「……っ! じゃないっ! そもそも、このオンナ、言葉が判るのか!?」
「当然」
「なら、何か喋らせて見ろ」
   お父様。出会ったばかりの女の子をメス呼ばわりとは、随分と無礼な男ですね死ねば良いのに」
 ヴァーチャーが喋らせる素振りを見せることなく、余りにも自然にゴーレムは口を開いた。俺は一瞬呆気に取られてしまう。
「そうやぞ? 死ねば良いのに」
「其処まで言われるのか!?    じゃない! 貴様、このゴーレム、誰が作ったのだ?」
「俺やけど」
「嘘を付け! 此れだけ繊細に動くゴーレムが作れるなど、何処かの高名な技師か魔術師ぐらいだぞ」
「いやぁ。其処まで褒められると照れますなぁ」
   ッッ!!」
 ゼェハァと肩で息を切らす。俺とした事が、つい取り乱してしまったようだ。この瞬間以外でもよく此奴と話しているとイラつく事があるのだが、俺のそんな様子にヴァーチャーは何時だって満足げなのが更に腹が立つ。
「俺が作ったのは本当や。流石に五つの年を経て作ったが、品質はゴツイのよりかは大分良い筈。コンパクトやしな」
「そ、そうなのか……?」
 其処まで言うのならば本当なのだろう。全く、この男は何処まで理不尽な才能が続いているのだか。
 俺はなんとか理由を付けて、押し付けがましいプレゼントを突き返そうとする。
「……動力源は? 補給が面倒なら俺は   
「この五年間で完全永久機関を発明してなぁ。この子はゴーレムなのに、眠って動力を作り出せるんや。これは後にも先にもソニアだけ! あ、でも先の事は判らんか。序でに他人の魔力で補給出来る機能もあるで?」
「どうやって?」
 ヴァーチャーは少し照れをみせながらも悪戯っぽく言い放つ。
「セックスで。最近流行し始めた機能らしくてな? 俺の見立てでは、後世では主流になる機能と踏んで取り入れてみた! あ、でも性欲の薄いお前には無意味やったか?」
 話を聞いていて、いい加減疲れてきた。
「……お前と話していると、つくづく、頭が痛くなる」
「それは大変。早速SO-NEAR(ソニア)の出番か?」
 ヴァーチャーが誘導するように言うと、そのゴーレムは椅子から立ち上がり、俺の前に立つ。
 奴がコンパクトと言ったのは事実で、俺よりも一回りほど背が小さい。この時代では余り見られないサイズだ。
「な、何をする気だ……?」
「ふふふ……」
 ヴァーチャーの不敵な笑みに気を取られて隙を見せてしまったらしい。ゴーレムの手が俺の顔に伸び   目の前のゴーレムは俺の額にそっと手を当てる。
「???」
<彼の者、聖者に洗礼されし子羊なりて、蝕む者共から息を奪わさん>
 ゴーレムが、鈴の鳴るような声でそう詠唱すると、当てられた額がスッとなるのを感じた。治癒魔法を掛けられているらしい。
   回復系の術式は一通りマスター。攻撃系は近距離から遠距離まで。どっちかっていうと近距離が得意かな? それでも魔力遮断や探知魔法も使えるし、お前の仕事の邪魔にはならん筈や。特に、性格の割りには迂闊な行動が多いお前には、回復役は重宝する筈やで? おまけに一緒に敵中突破も夢ではない」
「……」
 言われたとおりであれば、願ったり叶ったりだった。今までの仕事で死に掛けたのは、殆んどの場合直ぐに治癒出来ない状況下にあったから。回復役の重要性は身に染みて判っていた頃だった。
「判った。次の仕事に使わせてもらおう」
「ちっちっちっ」
 指を振ってそう音を鳴らすヴァーチャー。
「SO-NEAR(ソニア)は物じゃないぞっ」
「ふん、此奴を人間と同じように扱えと?」
 そう鼻で笑うが、不覚にも今の此奴にそれは失言を呈したに他ならなかった。痛烈にこう言い返される。
「そうや。まぁ、俺にとってはお前等の方が人間とは掛け離れていると思うけど」
「俺は違うのだろう?」
「そう願いたいな。SO-NEAR(ソニア)を保身の為に見捨てない限りは」
「……ふん」
 俺はもう一度、宛がわれたゴーレムを見下ろす。
 こんな無感情の女と比べられる人間の気持ちにもなってもらいたいと思うが、役に立たないよりマシか……。
「ところで、ゴーレムに名前まで付けたのか?」
「ああ。SO-NEAR(ソニア)っていうんや。……SO-NEAR、挨拶しなさい」
 するとこのゴーレムは少しだけヴァーチャーの方を意識しながら、俺に頭を下げる。
「どうも、SO-NEAR(ソニア)と申します。気障ったらしい貴方のお名前をメモリーする領域が勿体ないですが、お父様の命令により仕方なく問います。貴方様のお名前はなんですか?」
「……ヴァーチャー。設定、間違っていないか? 特に口の利き方の」
「気の所為」
 返答になっていないぞ、全く。まぁ、製作者がこんなのだから、期待はしていないが。
「判らないな、貴様は。何故“自由”という奴の為に、其処までして教団と決別しようとする。……兵隊になってから、指令に赴いたのは最初の一年だと聞くぞ。それとも、“人間”の貴様には教団が許し難い悪に見えるか?」
 ヴァーチャーは狐に摘まれた様な顔をした。
「悪? そんな事、どうでもいい。   俺はどんなものにでも心は宿ると思っているんや」
 そして、静かに彼の元に戻ってきたソニアの頭を、本当に敵意無く撫でた。その行為は、まるで虚空の彼方にある父親と娘の関係が其処に見えた気さえした。
「……ソニアにもそれは宿る。ずっと、心の失せた人間共の中に居たんや。人間が、人間から心を奪えるなら、逆に人間以外に心を与える事も出来る。そう、思って作ったのがこのソニアや。……我ながら、馬鹿馬鹿しい発想やとは思うが、な」
 奴はにししと笑ってみせる。何故か少し嘘臭い。だが、成程、此奴が冗談なしにそう考えているとしたら、恋愛小説などというものを読む理由は判った。
 ただ、此奴の考え方を支持する気はない。……何故か否定する気も起きなかったが。
「俺は此処十年間、人間が持つ“心”というものを知りたかった。その一心で死体を弄り、錬金術の秘法に触れて来た。教団が悪かどうかなんて、俺に取っちゃどうでもいい。いうなれば、知的好奇心とその場の気分こそが俺の全てやな」
「成程。それも教団内にはない娯楽的な感情だな」
「そうやな。でも、ゲーテにも何れ判る時が来る。   もっと、良い事が」


 その言葉とソニアを残し、奴は教団から……俺の前から、姿を消した   



―――――



 奴が去ってから、三年の月日が流れた。
 俺は十九の年となるが、今でも俺に付き従っているこのゴーレムは見た目を変えていない。
 兵隊である以上、ゴーレムなどを引き連れているとなると嫌でも注目を浴びるが、あらかじめ奴の入れ知恵を働かせておいた御蔭で、立場を悪くすることはなかった。
 ……ああ、立場は悪くない。
 だが、三年もこのゴーレムと共に死地を脱してきたとなると、驚くものがある。高が人形だと思っていたのだが、このゴーレムは自分で状況を判断して動くのだ。
 そして、俺に嫌味まで口にしてくる。
 整備の仕方も判らない俺はずっと点検をしないでいたのだったが、ソニアが自分で整備をしていることに最近気付き、改めて驚かされた。さっさと使い物にならなくなるものと踏んでいたが、完全に見込み違いだった。
 ヴァーチャーは一体何処の悪魔と契約したのだろうか? 是非とも紹介してもらいたい。
 思い返せばヴァーチャーとソニアに出会ってからの三年は、酷く駆け足で過ぎ去って行ったなと思う。季節の移り変わりに見せる花の色も、もうこれで四度目だ。
 最近は密偵の仕事も少なく、どちらかと言えば   
 そう。平和、だった。
 だが自分が身を置いているのは邪神教と言うオカルト集団だし、汚い仕事を請け負っているのも知っている。平和といえども、いつでもそれが脅かされる要素は背中合わせなのだ。それを肝に銘じておかねばならない。
 しかし平和の前では考えも変わる。何時の間にか今の俺にとって教団とはどうでもいい存在と成り下がった。無論、何時かのように奴等の為に命を懸けようとは思わなくなっていたのだ。


 カチャッ
 寝起きの一杯。
 といっても今は朝ではなく、夜中。密偵は夜行性なのだ。
 砂糖を一匙入れて掻き混ぜ、香りを楽しみ、口に含む。これがないと、一日が始まる気がしない。周りを見回してみると、各地で集めた魔道具が所狭しと並べられている。最近、魔道具収集に凝っているのだ。
「マスター。相変わらず冴えないお顔をしていますね」
「……」
 カップを降ろした瞬間、其処に居たソニアが言い放つ。このゴーレム、絶対設定を間違えている。特に口の利き方の。
 だがこんな時間こそが、俺の心という奴に青空が広がる気分にさせてくれる。矢張り、雨が降っているよりも太陽が顔を出している方が心地よい。こう考えるようになったのは、認めたくは無いがヴァーチャーとこのゴーレムの存在の所為だっただろう。
 そういえば、このゴーレムとパートナーを組んでから、妙に周りが明るくなった気がする。いや、本当に明るいかどうかは別として、今まで見えなかったものが見えるようになった気がするのだ。
 例えばどんなものかといえば、攫われた子供が密偵に仕立て上げられていくプロセスを風が吹く程度にしか捉えていなかったのに、今では酷く抑圧的に見えたのだ。
 教団の教育に従い密偵や暗殺者となり、使い捨てられていくことに何の疑問も抱かない子供達。俺はそれを目の当たりにする度に、ヴァーチャーの言う事がどういう意味を持つか長い時間思慮したりするのだった。
 だが俺も暇では無い。教団とは縁を切っていない以上、兵隊としての役割は果たさなければならない。何時も答えが出る前に気持ちを切り替えるのだった。


   今日の予定は?」
「今日は明け方より集会となっております」
「そうか」
 ソニアは無表情だが、其処から何かしらの思念を感じさせてきた。寝起きのディナーに与ろうと、皿の上に並べられているサンドイッチに手を伸ばす俺だったが、それを中断してソニアに顔を向ける。
「どうした?」
「いえ。お父様の見込み違いだと」
 お父様……ああ、ヴァーチャーの事か。俺は三年前に何処かに消えうせた変人の顔を頭の中の引き出しから取り出す。
「見込み違いとは、どういうことだ?」
 白無垢の肌に浮かぶ、薄桃色の唇が上下する。
「三年前、お父様がマスターに言った言葉。あれは、マスターもいずれ教団と縁を切ると見越して、道筋を示しておいた物なのです。なのに、三年経っても、マスターは相変わらず引き籠ってばかり……」
「成程。それはとんだ見込み違いだな」
 話半分で聞き及んで、サンドイッチを口に放る。ソニアが溜息を吐く。
「マスター。ちゃんと聞いて下さい。お父様は、このままではマスターに不利益が生じると考えて……!」
「聞いているさ。貴様が何時も私に投げ掛ける嫌味もしっかりとな」
「マスターがリアルにヘタレだからです。それよりも、教団との縁を……」


 此処最近、矢鱈とソニアが教団との縁を切るように勧めて来る様になった。恐らく、ヴァーチャーがそれとなく示すように言って置いていたのだろう。
 だが、俺には首を縦に振るつもりなど欠片もなかった。
「いつも言っているだろう。教団内で育ってきた俺にとって、今更縁を切るにはかなり勇気が要るのだ。それに、幹部クラスの私が抜けるとすれば、口封じに俺達は狙われる事になるのだぞ? 奴等の兵隊は優秀だ。勇者の傍まで逃げても追って来る。それでは本末転倒ではないか」
 そう言い返してやるとソニアは黙りこくってしまう。
 俺は捲くし立てた手前、気不味くなってしまい、苦し紛れに皿の上に乗せられているサンドイッチをソニアに一つ放り投げた。
「?」
「貴様も食べろ。俺だけ食っているのは心地が悪いではないか」
「あ、いえ。私はゴーレムですので、食べなくとも大丈夫です」
 困ったようにそう返してくる。ずっと連れ合ってきた筈なのに、根本的な事を忘れてしまっていた自分に自分で驚いてしまった。
「! あ、ああ……そうだったな」
 恥を忍んでサンドイッチに手招きするが、なんだか頬を染めた様子のソニアは両手でそれを持って、静かに首を振った。
「……いいえ。いただきます」
 ソニアはチロチロと不慣れにサンドイッチを齧っていく。
「ゴーレムなのに、物を食えるのか?」
 ソニアは一旦口元からサンドイッチを離し、照れているような素振りを微かに伺わせながら応える。
「そのように作られましたから」
 今考えても、ヴァーチャーがソニアを作った意図が読めない。心を知りたいから、作ったとは言っていたが、人間に似せて動いているだけではないのか? ものを食う事にしても、寝る事にしても。
 だが、いまこうして食事をしているソニアを眺めていると、酷く落ち着く自分が居た。立場を逆転してみれば、もしかしてソニアもこんな気分に浸っていたのではないのかと思う。
 ……いや、それはない。相手は高が、人形だ。
「さて、と。目を開けて眠る練習でもしようか……」
 俺は明け方の集会に備え、そっと腕を組み、瞼を下ろす。

    だがその瞬間、背後に妙な気配を感じた。 

   !」
 ガタンッ
 咄嗟に腰のダガーを抜き、背後に振り返る。
 其処には意外な人物の姿があった。



―――――



   よぉ、久し振り」
 低い声を発した男。漆黒の髪に、低い鼻、暗い瞳に鋭い目付き。背格好を変えはしたが、確かに其処にいたのは三年前に姿を消した……
 ヴァーチャーその人だったのだ。
「貴様、ヴァーチャー!?」
「おいおい、判ったんなら物騒なもん下げてくれんかなぁ?」
 俺は首を振る。それはできない。奴はまた何時かみたいに満足げに笑う。
「……そうやな。偽者かもしれない」
「そうだ。そもそも考えてみれば、教団から追われる身の貴様が、態々教団本部に潜り込む意味が判らん。大人しく正体を現せ」
「やれやれ。場数を踏むと、頭が固くなるんやな。逆に考えて誰が俺に変装して利益があるんや? 下手したら狙われ   っと、そんな話をしている場合やないんやった」
 途端にヴァーチャー(偽者かもしれない)は真剣な表情で俺を見詰める。嘗てこの表情を見た後には、いつも死体の山が積み重なっていたように思う。
 そして人殺しの表情を挺したまま、俺にこう促すのだ。
「ゲーテ、早く此処から逃げろ」
「!? ……何を言い出すかと思えば」
 俺が一笑に伏す。信用出来ない相手がさっきのソニアの言葉と似た様な事を言い出した事が、何処か非現実的な冗談   つまり集団で俺を填めようとしているような   のように感じられたのだ。
 だがソニアは俺の背後で一人淡々と言葉を呈す。
「マスター。あの方の魔力はお父様に間違いありません。刃を下げてください」
「ふん……貴様も、この三年間で何を知ったような口を」
「どっちでもいいから話を聞け! 俺は三年間世界を放浪して、自分が何処から攫われたのか調べていたんやっ」
 そう語り始めるヴァーチャーと思われる男。俺はダガーを構えて警戒したまま耳を傾ける。少なくとも、興味がそそられる話だし、奴の話に矛盾があれば、容赦なく切り捨てる理由も出来るのだ。
 奴は急ぐような素振りで俺を迂回し、机の前に立つ。
「無論、各地にある教団の施設も忍び込んで調べていた。其処で見付けたのが……これや」
 ばんっと机に叩き付けられた石版。蝋燭の明かりに照らされて、其処には文字が刻まれていた。随分と古いものだが、奴はそれを指で弾いて俺に渡す。
 俺は奴と石版に目を行き来させた。迂闊に手を伸ばせば、此奴への注意が散漫に成る。考えあぐねてソニアに指示を出す。
「ソニア。声に出して読んでくれ」
「了解、マスター」
「……」
 俺がソニアをキチンと扱っている事に安堵の表情を浮かべるヴァーチャー。それとも、命令の仕方が柔和だったからか。どちらにせよ、奴はヴァーチャーらしい態度を今も取り続けていた。
   本教団、即ち我々には崇高なる目的がある。それはこの世を治めるに相応しい魔王様の下僕となり、手足となって働くことである。だがその為に必要な事は……」
「……どうした? ソニア、続きを」
 急にどもるソニアにそう促すと、渋々といったふうにソニアは続ける。
「……だが、その為に必要な事は   人間を如何にして魔物と成すか、である」
「何だと?」
 思わず奴から視線を逸らしてソニアに問い直す。聞き間違いかと思いたかった。だがヴァーチャーは俺に対して念を押すのだった。
「それは邪神教皇専用の私書室に保管されていたものや。つまり、本部である、此処。信憑性はある」
「そもそも貴様の言葉に信憑性があるのか疑問だがな」
「く……相変わらず、頭が固い奴め。時間がないんやっ。SO-NEAR(ソニア)! 早く続きを読んでやれ!」
「了解しました、お父様」
 ソニアの奴、俺に対するのとは態度が打って変わるな。後、お父様と業とらしく口走ったのは俺に対する当て付けだろう。
 其処までソニアが自信を持つとなると、此奴は本物かもしれないと思うが、警戒を解くほど確信する要素はまだ無い。ソニアだって勘違いする事があると思ったのだ。
 ……いや、俺が無理にそう思おうとしているのか。
 ソニアは石版の文字を読み続ける。
「魔王様にお仕えするには、魔王様の魔力に感応しなければならない。よって、自らの身を魔に委ねる事が肝心……」
「其処は飛ばせ! あ〜……下から五行目から読め!」
「了解。その為に、東洋から攫ってきた王の子と、西洋から攫ってきた王の子。この才能ある血筋の両者をまずこの計画の最初の検体とし、人間の魔物化への第一歩と成さん」
「其処までや   っ」
 本当に焦っているらしい。ちらりと見た、石版に書かれてある内容の五分の一もまだ読んではいない筈だ。
 あの天地がひっくり返ってもへらへら笑っていられる男が、今焦りを見せている。妙な気もするが、それだけ重要な事なのかも知れない。
「それがどうしたのだ」
「何?」
「教団は元々、魔王崇拝の為に組織されたものだ。魔王の為に人間を魔物化させる事の何がおかしい。寧ろ、アサシンギルドの真似事をしている事の方がよっぽど疑問だったぞ」
「判らないか!? 話の流れが!」
 俺が反論した途端、突然苛立ちを見せてくるヴァーチャー。焦りが堪忍袋を小さくさせていたらしい。
「東洋の王の子とは、即ち俺の事! 西洋の王の子とは、即ちお前の事や! 奴等のシナリオで、まず初めに魔物化の犠牲になるのは、俺とお前なんや!」
 それを聞いて、背筋がゾッとした。教団が何をしようと興味はないが、自分がおぞましい魔物になるというのなら、話は違ってくる。
 だが、目の前で俺に不安げな表情を見せてくる此奴の事を……偽者かそうでないかに関わらず、信用が出来なかった。
 いや、理屈なしに信じようとしてしまう自分に腹が立ったのだ。
「……根拠は?」
「まだそんな事! むぅ……確かに話が飛躍しているから信じられないのは判る。やけど、俺は世界を回って来た! 西洋で、丁度お前の年と同じ位前に魔吼王の息子が誘拐された!」
「知らんな」
「当たり前や。やけど教団の施設に置かれていた資料にその子が教団に攫われたと書いてあった。その子は本部に置かれて、今はゲーテと名乗っている旨もな」
「だから、貴様の言葉を信用する根拠を示せと言っているのだ! そもそも、今のは全て貴様の口から語られた事だろう!? 貴様が嘘を吐いているのなら……」
   ゲーテ」


 奴が焦燥感を一気に拭い去り、静止する水の如く落ち着いて放った俺の名。
 そして続けざま、奴は静かに俺に問う。
「……教団が敢えて俺達を組ましたのも、暫く一緒に行動させたのも、思えば……“この為”だったのかもしれないな」
「……? 何の事……?」
 奴は突然“訛り”を捨てて語った。俺には何の事かさっぱり判らなかったのだが、直に判る事となる。





戻る / 目次 / 次へ

【メモ-人物】
“エルロイ、チェルニー、ヘザー”〈鶴鳴の歎〉〈どきっ!?〜〉より

現在Lv3である踊り子のエルロイと、エルフのチェルニー、武闘会の後その二人の間に割って入ってきたダークエルフのヘザーの組み合わせ。ヴァーチャーとはエルロイとチェルニーが出会った際、また武闘会にてヘザーの協力者として関わった。
ヴァーチャーとはどちらかと言えば友好な関係者だが、よく知っているとも言えない。

今回ではゲーテが一方的に見込んで、頼みこんだ結果、渋々参じた。

10/07/15 17:25 Vutur

top / 感想 / 投票 / RSS / DL

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33