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二回戦

 思わぬ事態にすっかり疲れ果ててしまった俺は、その晩、宿(やっぱり連れ込み宿だと判明)のベッドに潜り込むと直ぐに眠ってしまった。



――――――――――



   ……エルロイ」
 エルロイの無防備な寝顔を傍で見詰め、複雑な表情を寄せるチェルニー。今日の夕方頃、彼女の想い人は自分とは違う少女と性行為に至ったのだ。挿入などは無かったが、濃厚なキスや、フェラチオなどの行為をやってのけていたのを間近で見せつけられていたのだ。エルロイの名誉の為に、一歩譲歩して見せた彼女だったが、あんなものを見せられて内心穏やかな筈が無い。
「……クー……カー」
 いつもの粗暴な口調とは裏腹に、繊細で静かな寝息。その疲れ切った様子から、寝様も何処か開放的だ。チェルニーが魅せられた、彼女自身も持ち合わせているその傷一つ無いとも形容される白く滑らかな肌合い。それが今、彼女の目の前にあって、上下しているのだ。
「……ちょっと、ごめん」
 寝ている彼にそう謝ってから、彼の胸元にキスをした。
    静か。
「も、もうちょっと……いいかな?」
 またもや許可を取ってから、キスをする。今度はもっと上……彼の首筋だ。エルロイは少し表情を動かしたが、余程搾り取られたのか、起きる気配は無い。
「……エルロイ   
 そう小さな声で呼び掛けながら、仰向けのエルロイの体に覆い被さる……
   好きだ、からな……?」
 起きている時には確実に言えそうも無いことを今になって口にする。そして、今日別の女とキスを交わした唇に、自身のを重ね合わせる。
 僅かな間、所有権を明らかにするかのように。



――――――――――



 次の日の朝。エルロイの対戦は本日二番目であった。その開始時間は少しばかり遅く、エルロイは少し長寝をした感覚に陥りながら、時計を見る。もうじき会場に赴かなければならない。
「もうこんな時間か。よく寝たなぁ」
 呟きながら肩を回す。なにやらぽきぽきという音が鳴った。
 そんな彼の目の前では、チェルニーがなにやらそわそわしていた。エルロイが大会に出る前に、(出来れば)やっておきたい事があったのだ。
「な、なぁ。エルロイ」
「……なんだ? お前、メシ食ったのか?」
「い、いや。まだこれからだ」
 何やら様子のおかしいパートナーの姿を見てエルロイは不審がるが、チェルニーは赤面しながらもごもごと口を動かすだけだった。
「……その……ぅ」
「……なんだよ。いっつもずけずけ態度のでけぇお前が、そんな口もごもごさせてちゃ気持ち悪ぃだろ」
 エルロイがそう言った途端、チェルニーはムッとした。
「……だ、誰がっ。な、ならはっきりと言わせて貰うがなぁ……!」
「おう」
「あ、あれを、だな。やろうかなぁ〜、と……」
「……あれって?」
「あ、あれは、あれだ。その……取り敢えず、アレを出せ」
「? あれとアレは違うあれか?」
   あーもう! 面倒臭いっ」
 突然チェルニーがそう癇癪を起こして、顔を真赤にしながらエルロイにずいっと詰め寄る。

「……貴様のチ〇コを出せと言っているのだっ!」

「ぶふぅっ!?」
 噴出さずには居られなかったエルロイは、目の前で茹蛸のような色合いになっているチェルニーに動揺の眼差しを向ける。気が付けばズボンのホックが既にチェルニーの手で外されようとしていた。
「ちょ、ちょっと待て! 何をする気だ!?」
「う、五月蠅いっ。べ、別に貴様の為にするのではないぞっ。私は只、貴様に勝ってもらわねばだなぁっ!」
「だから何する気だっつってんだよっ」
「フェラだが!!?」
「正気か!? ていうか、発作か!?」
「正気だ! 発作の方がどれだけ良かったか……じゃないっ。い、今の内に貴様の精を抜いておいて、昨日のように、盛りのついた犬みたいにならぬように……だなぁっ」
 バサッ
 チェルニーの強引な引き出しでエルロイの陰茎が露わになる。
「……って、貴様……まさか、興奮してるの……か?」
「……いや、これは一種の生理現象でだなぁ」
 この世間知らずのエルフに説明するのも面倒になったエルロイは、溜息を吐いて項垂れる。其処には、皮が剥け切って赤々とした顔を出す亀頭があった。
「生理現象? よく判らんが、男が勃てているのは、女の裸を見たときだけだろう?」
「……色々細かい訂正をしてやりてぇとこだが、説明がメンドイ。ヤるなら、さっさとヤれ」
 何だかんだ言ってやる気満々のエルロイ。チェルニーも目の前で怒張する男の陰茎に目を白黒させている。だが、自分でやると言った手前、「怖くなった」などとは言えない。少しだけ、手で触ってみる。
   熱い」
 指先に伝わる血液循環に、チェルニーはそう声を漏らした。だらしなく引きあがっている陰茎の皮を下まで剥いて見る。…この赤い肉棒こそが、自分が誰よりも独占したいと願っているものなのだと思うと、つくづく可笑しな気分にもなった。

「さて、昨日のゾンビ女は、良かったか?」
 嫌味を言ってみながら、自分の細い指で彼の肉棒を扱く。赤面しながら意地の悪い目で見上げてくるチェルニーに、エルロイは思わず目を逸らす。
「ああ。でも……」
「でも?」
「……お前にしてもらいてぇ、かも」
 その一言は、チェルニーに勇気を与えた。少なくとも目の前で躍動する臓器を口の中に含ませ、思う存分に堪能する余裕さえも頭に思い浮かべられた。チェルニーは思わず少し涙ぐみながら、そっと舌を出す。
 だがそんな時に、だ。

 バタァンッ
(ビクゥッ!?)
「ど〜も〜っ♪ ルゥムサァーヴィスどぅえ〜すっ♪ お邪魔しま〜すっ」
 出入り口の扉が勢い良く蹴り開けられ、外からそんな頭のネジが飛んだような言葉を平然と吐きながら男が入り込んでくる。その漆黒の髪と切れ長の目に見間違いは無い。ヴァーチャーだ。その手にはヴェールを被った皿が据えられていた。
「あ」
「……あ」
 陰茎を曝すエルロイと、それを掴むチェルニー。二人とヴァーチャーの視線が交差した瞬間、時が止まった。



「……お邪魔しようと思ったら、ホントに邪魔だったでござる」
   殺すっっっ!!!」
「でっていう」

    ダダダダッ

 おちゃらけるヴァーチャーに対して、チェルニーは目に角を立てて弓矢で追い回す。途中何度も矢を番い放つが、その一本たりともヴァーチャーに当たる気配もないのだった。
 ところでエルロイは自分の息子をお家に帰してやり、ヴァーチャーが逃げながらさり気無くテーブルに置いた皿に目をやる。皿に盛られたものを隠す為らしいヴェールを剥がすと、其処には癖のありそうな肉料理がたっぷり盛られているのだった。

「……ヴァーチャー。何だ、これ。自棄に精の付きそうなものが多いな」
「ああ。次の対戦相手を想定した最強のメニューや」
「どういう事だよ。精なんか付けたら、相手の思う壺じゃねぇか」
「お前、どの魔物も“魅了してくるタイプ”と思ってるなら、とんだ思い違いやで?」 
 部屋の中でどたばたとチェルニーから逃げ回りながら淡々とエルロイに返答するヴァーチャー。完全にチェルニーが馬鹿をみている図だ。エルロイは絶句する。

「貴様ーっ。止まれー!」
「止まってもどうせお前の矢なんか当たらんし」
「ホント〜に殺されたいようだなぁ……!! 望みどおりにしてやるから、本当に止まれっ」
「………」
 取り敢えず、周りが騒がしいが、奴の用意した料理は食べておこう。昨日消費した分の精力を取り戻す意味でも、昨日の晩メシ食わずに寝たからスゲー腹が減っているって意味でも、エルロイは腹ごしらえを急いだのだった。



――――――――――



 ヴァーチャーが用意した“精の付く料理”を食べた俺は、いざ二回戦へと望む。目の前に立つ相手は、どうやら俺達が見た初戦に勝利したスライムだった。蒼く透き通る体、うねうねと蠢き艶めく表面。見た目上では、チェルニーに大いに欠ける胸を有している。
「ふふふ。けっこー可愛い子じゃないの……」
 なんか、俺、お眼鏡に適っているようである。後ろでチェルニーの殺気が俺に向けられている。……俺に向けるのはおかしくねっ?

「さて、ヴァーチャー。何か策があるんだろうな」
 チェルニーがそんなことをヴァーチャーに尋ねるので、俺も耳を傾ける。だがヴァーチャーは「ん?」と言葉を詰まらせる。
「……ま、なるようになるでしょ」
「お、おい、ちょっと待てよっ。お前の指示でメシ食ったんだぜ? 何か策があるんじゃねぇのかよ!」
「策が無いと不安か?」
 まるで俺を推し量るかのように一言。その一瞬の笑みは、俺とチェルニーを思わず黙らせるほど寒気を感じさせた。
「流れをひん曲げるのは華がない。川や風は流れてこそ……時流も然り」
「らしいことをいうが……貴様だから、不安なんじゃないか……」
「わお、信用ないね」
「当たり前だっ」
 最後にチェルニーが噛み付く。すると其処で観客席から文句が噴出する。
 
「おい! 彼女連れ込むんじゃねぇ! 俺らへの当て付けかっ」
「俺にも可愛いエルフ紹介しろーっ」

   なんやねん、あそこの馬鹿共」
 ヴァーチャーですら呆れるその喚声。審判であるエキドナが苦笑しながら俺を呼ぶ。
「あはは……。エルロイ選手〜?」
「あ、はいはい」
 俺はさっさとスライムと面と向かう。つくづく気に入られているのか、あのスライムの視線は真直ぐ俺の下半身に向けられていた。

   二回戦、午前の部、第二試合、エルロイ=バルフォッフ対スライムのスラリー!」
 
 オオォォォ………ッ

 あれ? 初戦ではスラリンって言ってなかったっけ? 本当に聞き間違いだったようだ。
 
 俺は鉄扇を開き、口元を隠す。まずは出方を伺う。相手はスライムだ、殴ろうが何しようが、痛くも痒くもないのだろう。そういった意味では気兼ねなく攻撃できるが、一回戦で道具を使われるという奇襲をされた以上、なるべく最初の方は回避に集中したい。
 そう思って距離を保っていると、スライムはくすくすと笑う。
「そんなに緊張しなくていいのよ? 直ぐにヨクしてあげるから……」



「妙やな」
 チェルニーの傍で、あのスライムの言動を観察していたヴァーチャーが呟く。チェルニーがそんなヴァーチャーの言動を訝しがる。
「また適当な事を」
「気付かんか? あのスライム、感情が豊か過ぎる。それに、言動からして知能は人並みのようや」
「それがどうしたのだ?」
「あのスライムが、只のスライムじゃないって事や」
「……それは、まさか   っ」
 ヴァーチャーの鋭く尖った視線の先。チェルニーは彼の推測を察し、エルロイに叫ぶ。
「気を付けろ、エルロイ! 相手は只のスライムではない!    クイーンスライムだっ」
「んだとっ」
 セコンドであるチェルニーの警告が舞台に響く。その途端、興醒めしたかのように不機嫌に椅子(状に形成した体)に凭れてみせるスラリー。
「あーあ。折角梃子摺りそうな男の子の為に隠しておいたのにぃ。ばれちゃったか」
 警戒を強めて益々手を出す気配を失くすエルロイだったが、その様子を見て悪魔的に微笑する。
「でも、残念。貴方の事、気に入っちゃったし。どっちにしろ、全力で行く気だったんだ」
「全力……?」
 一歩も動く気のなさそうなスラリーにエルロイが首を捻ると、突如として足に何かが巻きついてきた。一瞬でぬめぬめとした感触が服に染み渡り、エルロイの素肌を駆け回る。
「しま……っ」
 相手の様子ばかり伺っていて、足元を留守にしていた事をエルロイは後悔した。
 スラリーから触手は伸びていない。だが、エルロイの足を掴んでいるのは紛れも無くスライム質。但しそれは舞台に組まれた石畳の隙間から這い上がってきたものだった。

「なんだ!? 地面からスライムが湧き出て……っ」
「クイーンスライムは本来突然変異で生まれた魔物。幾ら栄養を溜め込もうと、分裂する機構を失っているため、肥大していく一方の筈や。そもそも、あんなにコンパクトな方がおかしい」
 エルロイがテンポ良く動かしていた足が封じられていても、ヴァーチャーは冷静に魔物をアナライズする。
「恐らく、地面に根を張るようにして浸透させるか、目に見えないほどに薄く引き延ばしていたかのどちらかやろう。それとも、圧縮していたか。どちらにせよ、クイーンスライムの中でも特別器用な個体のようやな」
「冷静に分析してくれるのは有難いが、このままじゃ、エルロイがぁぁ……」
 悲観的な表情で落ち込むチェルニーだが、ヴァーチャーはそれでも風に吹かれているように涼しい顔をしていた。
「何、心配要らんって。後はエルロイの精力次第やけどな」
「うぅ……何を企んでいるのだ、貴様」
「さぁ? 何でしょう」
 ヴァーチャーが不敵に笑んだところで、足を封じられたエルロイにゆったりと近付くスラリー。そしてそのぬめぬめの食指をエルロイの頬に伝わせる。
「真っ白な肌。綺麗ね」
「く……」
 エルロイは鉄扇でスラリーを薙ぐ。だが蒼い飛沫が飛んだだけで、直ぐに形は元に戻る。対するスラリーは活きの良さそうな獲物を捕獲できて、満悦していた。
「元気ね。これから何されるか、判る?」
「うるせぇっ。生憎だが、俺のお姫様が拗ねちまうんでね。ご遠慮頂きたいんだよっ」
 エルロイはそう気合を入れると、再び鉄扇を縦にしてスラリーを払う。面積の広い方で打たれた以上、飛沫といわずにスラリーは上半身を吹き飛ばされる。だがそれはまた直ぐに集合して、元の堆積に戻り、元の姿に戻るのだった。
「無駄か。ちっ」
「ウフフ。思ったよりも一途なのね。いいわ……貴方の恋人の前で、貴方を寝取ってあげる」
   !?」
 スラリーは舞台の脇に佇むチェルニーに挑発的な目線を飛ばす。丁度そのとき、スラリーが見詰める前で、エルロイの下半身を彼女の体が覆い被さったところだった。
「どう? 私に包まれている感触。無駄に体が大きい訳じゃないのよ? 貴方を包み込める……」
「遠慮するぜ」
 エルロイは咄嗟に下半身に纏わり付くスライムを払うが、服の中に入り込んで素肌をうぞぞぞと撫ぜる感触には流石に背筋を震わせた。その反応が楽しくて仕方なさそうなスラリーは、続けてその手でエルロイの股間を弄り始める。
「あら? 此処、浸透が甘いわね。一番重要なところなのに、大変」
「! うわっ。馬鹿、止めろ!」
「止めろ? ふふふ、こんなに興奮してるくせに。スライムなんかで興奮しちゃうなんて、変態さんなのね」
 スライムの感触が肉感質になり、それが自由自在にエルロイの陰茎を、布地越しにこねこねと蹂躙する。そして其処すらも覆い隠すぐらい服の下にスライム質を浸透させた後、スラリーは一旦撫でるのを止める。
「ふふ、いいわよ。見ててあげるから。   私でイッて……っ?」
「く……」
 エルロイは気付く。自分の肌を今まで撫で回していたのは、感覚を強烈にする為の下準備だったのだと。そして、浸透を促していた愛撫が終わった時、エルロイの陰茎に残っていた感触は、スラリーの、スライムの自由自在の残滓だった。
 ヌチュ、ヌプゥッ
   ! くぅぁ、ぁ……っ」
 観客の目にとって、スラリーは哀れな生き物を見ているかのようにエルロイを観察しているだけである。だが実際エルロイのびしょ濡れのズボンの中では、スライムの肉体による壮絶な蹂躙が行われているのである。
 チュッ、チュッ、ヌプッ、クパッ
「あぅ……ぅ……あっ、くぅ……   っ」
 次第に蕩けていくエルロイの瞳。喘ぎ声にも強気は失われていく。
 その時は近かった。

 オオォォォ……ッ



――――――――――



 無残にも、恋人の前でスライムと大勢の男達に視姦されながらズボンの股をスライムとは違う液体で濡らしてしまったエルロイ。其れを見て、チェルニーは少なからずショックを受けているようだった。
「エルロイ」
 だが一度イッた程度で身も心も支配されはしない。只でさえ今は精気が漲っているのだ。エルロイは強くスラリーを睨み返す。
「……はっ。こ、この程度で終わりかよ!」
 強がる理由は、エルロイなりの計算だ。挑発に乗ってエルロイの拘束を解いた瞬間、あわよくばこの拘束から抜け出そうという算段だ。だが、その目論見もあっさりと敗れ去った。
「あら? もっと欲しいのかしら?」
「っ。い、いえ……いりません!」
「あらあら、遠慮しなくていいのに」
「いや、やめ   くあぁ……っ!!」

「……あれは自業自得やぞ」
「一々、言わんでくれ」
 目を手で覆い隠して、二人は呟いた。哀れにも二回目のお漏らしを衆目に曝されてしまったエルロイに、ヴァーチャーがやっと助言を与えるのだった。
「……エルロイ、あと五発耐えろ」
「はぁ、はぁっ。   はぁ!? 何言ってんの、お前!? ごはっ、五発っ!?」
 連続二発にすっかり息も荒げて疲労しているエルロイ。だがヴァーチャーは真面目な顔を向ける。
「五発耐えろ。そうすれば、勝機が見える」
「はぁ、はぁ……。も、もう俺にはお花畑が見えるがな……?」
「……貧弱もやし」
「テメェ、マジ、後で憶えとけよ」

「ふ〜ん。この状態からまだ勝つ気でいるのね。じゃあ、一緒に気持ちよくなることしか考えられなくしてあげる……」
 スラリーは今の遣り取りを聞き届けると、徐にエルロイのズボンのホックを外し、未だ怒張の収まらぬ陰茎を衆目に曝した。…白濁液が先端からだらしなく漏れだして、地面に垂れ下がった。エルロイはその途中に必死にでもがくが、この一言でされるがままになる。
「服、溶かしちゃ困るでしょ?だから、じっとしてて」
「………」
「エルロイ!!」
 チェルニーが目に角を立てて怒鳴るが、ヴァーチャーはそれとなく諭す。
「……エルロイ。今は好きにさせておけ。時が来たら知らせる」
「え……? ちょっと、いいのかよっ」
 ヴァーチャーの指示に不安を示すエルロイ。何故なら自分は今スライムに囚われて、その怒張する逸物を女の股に誘われている最中なのだ。
「ふふ、ほら。そんなにビクビクしないの。……やん、大きいっ」
「テメェ、スライムなんだから、でかいもくそもねぇだろ!?」
「……こういうのは、雰囲気なのよ? 坊や。こうやって口で責めていると、大抵の男の子は“出”がよくなるから」
   ヴァーチャー! 早く指示してくれー!」
 このままでは絞り尽くされてしまう。ていうか、恋人の居る前で本番を迎えて、哀れな失格負けを喫してしまう。エルロイは必死になって叫ぶが、ヴァーチャーは涼しい顔をしていた。
「な、何をしているのだっ。は、早くエルロイを」
「……何を焦っている?」
「いや、ほ、本番はアウトだろうが!」
「? なぁ、チェルニー」
「な、なんだっ。改まって」



   スライムに、“膣”なんてある?」



――――――――――



 ちゅぷっ
   っ。くぅぅ……!」
 エルロイの情け無い声が舞台上に響く。チェルニーが見遣ると、其処ではスラリーとエルロイが深々と繋がっているのだった。
「!! エ、エエエエ、エルロイーッ!!?」
「チェルニー! 読者には判らんが、顔っ。顔がヤバイっ!! クロス先生の作画が崩れて、見事に著者の描いた感じになってきている!」
   知るかぁぁーっ」
 ゲシッ
「ほごぁっ!?」
 (著者が描いた感じの)チェルニーに顎を蹴り上げられて地面に倒れるヴァーチャー。チェルニーは赤面し、蒸気を頭から吹き上げながら舞台に上がろうとし始めた。会場がざわつく。
「なんだ、あのエルフ。著者が描いた感じになってるぞ」
「ホントだ。パーツのバランスがグダグダだ」
「止めるんだ、観客席! 話をこれ以上カオスにするな! ……チェルニーも戻れっ」
 直ぐに立ち上がったヴァーチャーは、舞台に上ろうとするチェルニーを引き摺り降ろす。その顔は涙と鼻水でくしゃくしゃになっていた。 
「うぎゅぅ……っ。エルロイがぁぁ、エルロイが他の女とぉ……」
「……何処から『うぎゅぅ』なんて音、出した? じゃなくて、ほら、顔拭いて。そんな顔してたら、折角の美人が台無しや」
「著者が描いた的な意味でか?」
「その“くだり”、もう終わらない?」
 ヴァーチャーとチェルニーがコントをしている頃、エルロイは放って置かれながらなんやかんやあって(←重要)果てた。



――――――――――



「あふ……あ……。すご……一杯、出た……」
「くぅ……。ここまでか」
 エルロイは避けられぬ脱力感に苛まれながら、悔しそうな表情を見せる。だが目の前のスライムは、エルロイを解放してくれそうにはなかった。
「……此処まで? 何言ってるの? 私は貴方を絞り尽くすまでするわよ……?」
「……え?」
 キョトンとして審判のエキドナの方を見るエルロイ。試合を止めてくれるかと期待したのだが、残念ながら特等席で楽しんでいる者こそこのエキドナだった。男が蹂躙されている様子を見て息を荒げ、手に持ったマイクは危険な位置に宛がわれている。
   って、こら! マイク何処にあててんだよっ。審判っ」
「はぁ、はぁ……っ。だってぇ……、我慢出来ないんだもの……。こんなに良さそうなプレイ見せ付けられて……興奮しない方がおかしい……っ」
「ふふ、ありがと」
 最早目がイってしまっている。舌をだらしなくたらし、甘い吐息に身を震わせていた。そんなトチ狂った状況の中に居るエルロイは敏感に危機を感じ、こう抗議するのだ。
「な、なぁ! 俺、反則負けなんだけど……? つ、次の試合も詰まっていることだし、早く切り上げねぇかな……!?」
「反則負け? なんの事です?」
   は?」
 エルロイが拍子抜けした声を発すると、審判のエキドナの代わりにヴァーチャーが答える。
「……相手がスライムに属す女性器が不明確な魔物の場合、膣に挿入して反則負けのルールは適応されないんや。つまりは   絞りつくされて気絶するまで、勝負は続く!!」
「おいーっ!!? 聞いてねぇぞー!!」
「訊かれてないから?」
「お前は基本、自分から説明しようとしねぇだろ! 訊く以前の問題だ!」
「其処まで言うなら、今質問があれば答えるけど?」
「状況、見やがれーっ」
 エルロイの現在の状況。試合中、スライムのスラリーと繋がり、身動きがとれない程ぬめぬめに取り浚われてしまっている。

「てかお前此奴の試合の時、あの男は膣に挿入したから反則負けだ〜とか言ってたじゃねぇか!」
「あれは一般ルールや。例外を先ず最初に話すと、話がややこしくなる」
「充分ややこしいわっ。挙句ピンチじゃねぇか!」
「大丈夫、相手はクイーンスライムやから、子供は出来ん! これ以上、子供を認知するだとか父親は誰だとか、養育費は幾らだとか親権はどっちかとか、ややこしい話にはならんっ」
「お前等、ホント死ねぇーっ」
「生きるっ」
 舞台上のエルロイとも漫才を繰り広げるヴァーチャーに、チェルニーは眩暈がした。



――――――――――



 舞台の傍でチェルニーからヴァーチャーが逃げ回っている頃、スラリーはエルロイとの二人の時間に飽きてしまったようだ。一度、中には精を放っただけで、もう離れてしまう。
   貴方のを咥え込んでいるのもいいんだけど、折角だから奥の手もみせてあげる」
 すると舞台の石畳の隙間から蒼いスライムが一斉に湧き上がり、本体とは様子が違う二体がエルロイに対峙したのだった。
「!? おい、卑怯だぞっ。これは一対一のルールじゃねぇか……」
「あら、残念だけど、この子達も私の体の一部よ。ねぇ、審判さん。これからもっといい事したいんだけどぉ………いいわよね?」
「規約上、オーケーです。ていうか、今オーケーにしました」
「今!?お前の一存で!!?」
 審判が鼻血を垂らしてニヤニヤしている。駄目だ、此奴。審判失格だ。エルロイはほとほと呆れてしまう。

「……旦那様」
「お兄ちゃんっ」
 そう呼び掛けられて、エルロイは二体に振り向く。其処に蠢いていたスライムは、何時の間にか片方がメイド服を着飾る十八そこらの少女へと姿を変え、もう片方はそれよりも幼く一回り小さい姿となっていたのだった。
    嫌な予感。

 案の定、身動きが取れないままのエルロイを前後で囲む二人。その様子を見てくすくすと笑うスラリー。
「言うなれば、人形劇ってところかしら? 存分に二人と愉しんでね?」
「旦那様……。旦那様が気持ちよくなることこそが、わたしの喜びです……。どうか、わたしの中へ……」
「え? え!?」
 メイドの恰好をしたスライムが、エルロイを抱き締め、後ろに引き倒す。いや、自ら押し倒されたともとれるだろう。そうして自ら下になったメイドは、自然に自分の中に入っていく一物に艶っぽい声を出す。
「ふぁ、ぁ……っ」
「うあ……」
 うめき声を上げるエルロイ。自身の逸物を覆うスライム質が、うぞうぞと蠢いて激しく愛撫しているのだ。終いには、お互い気分が乗ってキスまで交わす。エルロイの口から、スライム質が垂れて落ちる。
「わぁ。お兄ちゃん、すごぉい……。メイドさん、すっごく気持ち良さそうだよ?」
 そんなエルロイの耳元でそう囁く幼いスライム。エルロイは図らずも怒張を強めた。
   ひゃう!? ま、また大きくなりましたね……? 旦那様……」
「お兄ちゃん……つぎはわたしのばんだからね……?」
 強引に顔を向けられて、小さなスライムとキスを交わす。エルロイの目は、催眠術にでも掛かったかのように虚ろになってしまっていた。



――――――――――



「これはひどい」
 ヴァーチャーがポツリと言った言葉に、チェルニーが怒りを通り越して逆に泣いてしまいそうになる。
「うぅ。貴様がぁ……貴様が悪いんだぞぉ……っ」
「う」
 返す言葉のないヴァーチャー。舞台の上では、エルロイの方から腰を振るようになってしまっていた。
「はぁっ、んはぁ……。もう、俺……イクぜ……?」
「はぁん……旦那様……。きて……くださいっ」
 ドクッ ビュルルゥッ、ビュルッ

 スライムの体の中に白が混入されると、独りでにそれは渦を巻き、青色へと混ざり消えてしまった。暫しの余韻に浸りながら、エルロイは額に伝う汗も拭かずに押し倒している彼女にキスをした。
    ちゅっ
「はぅ、旦那様ぁ……」
「あら、随分とお気に召したようねぇ。くすくす。私の夫になれば、いつでも愉しめるわよぉ……?」
「……はぁ……はぁ……っ」
 唇が離れると、エルロイとスライムとの間に糸が光る。それが繋がった証のような振りをして、チェルニーの目に焼きつくのだった。
「エルロイッ」
 チェルニーはショックだっただろう。今のは明らかに、エルロイからのキスだ。チェルニーの中で、エルロイが遠くなっていく。
「ぐすっ」
 再び涙が込み上げてくる。だがそんなチェルニーにヴァーチャーはこう声を掛ける。
「大丈夫や。エルロイは君しか愛さない」
「でも、今こうやって別の女と……」
「男って都合のいい生き物でな。好きな女を抱けないと、別の女に代わりを求めるんよな」
「じゃ……じゃあ、あれは……わ、わわ私の……代わり?」
「そ、代わり。オナホとヤっていると思って見てろ。気が楽やぞ?」
 悪戯っぽく笑うこの男は気に食わない適当な部分があると思っているが、案外とそれは人間くささによるものである事はチェルニーも判っていた。現に、今のはチェルニーの心に余裕を保たせてくれた。

「もうすぐや。もうすぐ、勝利の女神が見えてくる」
 今のこの一言だけが、チェルニーにとっての救いだった。



――――――――――



「はぁ……。お兄ちゃん、今度はわたしのばん〜」
 妹にせがまれるようにしながらメイドと離れて、エルロイは床に倒れる。正直、限界が間近らしい。だがそんな空気も読まずに股間の紳士は自己主張が激しいのであった。そしてその先端に、幼い恥裂が宛がわれる。
「ん、あぅ……。入るかな……?」
「はぁ、はぁ……」
    ずにゅ…ぷっ
「はぁぁ……♪ ぜ、ぜんぶはいったよ……? お兄ちゃん」
「くぁぁ……っ」
 エルロイの紳士を此れ以上なく締め付ける感触。先程までのスライム質とは違う、この幼いスライムの中は肉感質で、先程のスライムとは全く違う様相を呈していたのだった。
「はぁ……!? すげっ、キツイ……っ」
――その子は圧縮しているの。スライムの組成自体は私とそう変わらないけどね」
 エルロイが悶絶する様を、情け無い顔をして見詰めるスラリー。だが情け無い顔といえば、自分より一回りも小さいスライムの強引な腰使いに体全体を使って反応しているエルロイだろう。
 ズップ…ッ、ヌップ…ッ、ペチャッ 
「くあ……っ。はぁぁ……っ」
「はうっ、んっ! 気持ちぃ? お兄ちゃん……、わたし、お兄ちゃんのセーエキいっぱいほしいな……♪」
 ズプッ、ジュプッ…ジュップ、ジュプッ
「ひぐぅ……っ。あうぅ……っ!?」
「旦那様。わたしもほしいです……。旦那様の熱いのが」
「お兄ちゃん♪ イクときはいってね? 一滴もこぼさないようにぃ……もっと圧縮してあげるから♪」
 幼いスライムに強引に犯されながら、耳元や体はメイドスライムに愛撫される。情け無い顔を腕で覆い隠すエルロイだったが、その情け無い喘ぎ声だけは隠せなかった。
「あっ。や、やめろ……ひゃぁ……い……、イク……っ」
    ドプッ

 オオォォォ……ッ



 エルロイとスライムの体が大きく弓形に反ると、幼いスライムの体に白が立ち上り、渦となって消える。その様子を見た観客席から歓声が上がる。これで通算六回もイってしまったエルロイに対し、スラリーは満足気に笑んだ。
「ふふふ。沢山イッたわね。でも、まだ気絶してないみたいだし……。じゃあ、次は十回まで粘ってみようかしら」
 エルロイに纏わり付く二体のスライムに加わり、スラリーがエルロイの体にくっ付く。本当にエルロイが気に入っているようだが、当のエルロイは何処か遠くを見詰めていたのだった。

「ヴァーチャー! 言われてから五回イッたぞっ。早くエルロイを……!」
「……もう少し待て」
「なんなんだ! 貴様は何を待っているのだ!?」
「さっきから言っているやろう?    勝利の女神、や」
「……どういう……?」
 含みのある言い方を返すヴァーチャー。チェルニーは苛立ちながらも、今はこの男の策を信じるしかないということを改めて自分に言い聞かせた。

   ふふ、もうへとへとね。じゃあ、今度は三位一体で、一気に四回絞りとるわよ……?」
「はい、じょおうさま」
「わかったー」
 今将にスライム達がエルロイにトドメ(?)を刺そうとしたとき、遂にヴァーチャーがエルロイに叫んだ。



「エルロイ! や れ ぇ   っ」



   !」
 会場を静まらせるほど気迫のこもった一声で、エルロイの瞳に生気が戻る。そしてすっかり油断していたスライム達の拘束を振り解き、扇で一閃した。
「!? キャァッ」
 パシャァンッ
 悲鳴を挙げて、スライム達が飛沫を上げて飛び散る。だが、それだけでは最初と同じパターンにしかならない。直ぐに彼女達(厳密には一体)は元の姿へと復元される。
「まだそんなに動けるのね。楽しみだわ……♪」
「旦那様ぁ……」
「お兄ちゃん……」
「………」
 正気を取り戻し、立ち上がるエルロイ。五回も搾り取られて足もおぼつかないが、しっかりと両の足で立ち上がるその姿には、観客席からも称賛の拍手が送られた。
「ヴァーチャー! それで、どうすればいいんだ」
 エルロイがスライム達を睨み付けて声を張り上げる。だがヴァーチャーから帰ってきたのは、予想外の言葉だった。



   ゲームセット」

 ヴァーチャーは徐に舞台に飛び乗って、エルロイの肩を叩く。
「良くやったな。お前の勝ちや」
「え? ちょっと?」
 状況が飲み込めないエルロイと、対峙するスライム。それどころか観客の誰一人としてもこの一人の男が何を言っているのか判らない様子だった。
「ちょっと、どういうことっ。勝手に上がってきて、私の夫を取らないで!」
「誰の夫だと、貴様っ」
 スラリーの言動にチェルニーも舞台に這い上がる。だがヴァーチャーは勝ち誇った顔でスラリーに向き合うのだった。
「こういうルールがある」
「……?」
   『競技中、審判に触れたものは失格とする』」
 声寶かに、ヴァーチャーはそう言った。スラリーとエルロイは何の事か判らないでいたが、観客席にはその意味に気付いた者達がちらほらと驚嘆の声を挙げていた。

「ちょっと審判、邪魔がはいったんだけ……ど……。   !?」
「……あ。   
 スラリーが抗議しようと審判の方を不機嫌そうに向く。すると其処には、エルロイが吹き飛ばしたと思しきスライム質に塗れたエキドナの姿があった。
   ……」
「………」
「……っ」
 審判のエキドナは、ぬめぬめした体のまま、エルロイに近付いていき、強引に腕を取る。そして……



「……審判に自身の体を大量にぶっ掛けたスライムのスラリー選手は反則負けとし、この試合、勝者は   エルロイ=バルフォッフ選手!」

 オオォォォ……ッ

 この日のエルロイの大逆転劇は、夕刊の一面を華々しく飾るのだった。



――――――――――



   判らないな」
 興奮冷めやらぬ会場、選手退場口でチェルニーが呟いた。すっかり疲労困憊してしまっていたエルロイは杖を突いて歩いていた。

「なんだよ、藪から棒に」
「何故、態々時を待つ必要があったのだ? スライムを審判にぶつけるくらい、最初から出来た事だろう」
 チェルニーの疑問を聞いて、エルロイは確かにと頷く。
 その横では、あの濃厚な痴態ショーを見た後だというのにちくわを美味しそうに頬張るヴァーチャーの姿があった。彼は二人が疑惑の目で自分を見詰めて居る事に気付くと、歯型の付いたちくわを口から出す。
「ああ、それは、審判にちょっとした罠を仕掛ける為や」
「罠?」
「『審判に触れた者は失格』なんてルールは、確かに審判を守るものかもしれないけど、下手すれば審判の一存で勝者をえり好み出来てしまう危険性を孕んでいる。やから、審判は選手に触れないように配慮しなければならない、というのは暗黙のルールや」
「だけどかなり近付いて来ていたよな、あの審判」
「魔王の影響で審判もサキュバス化してしまって、この大会をセックスをタダで見れる痴態ショーと勘違いしている節があるのは確かやな。でも、それはエルロイが相手と性行為に耽っている最中に限ってのことやろ」
「ああ」
「性行為中に大きな動きをするとは思えないから、警戒が薄いんや。やけどそれ以外、特にスライム相手では(飛び散る粘液とかで)触れる可能性が大きくなるから、大分遠くまで距離を取っていた。だから、上手くエルロイが性行為状態にない時に、審判を引き付けられているタイミングは、恐らく五回目と踏んだんや」
「なんで?」
「言ったやろ。審判はこの大会を間近で見られる痴態ショーやと勘違いしている。出来るだけ、近くで見たいと思うよな? だったら、触れる可能性のないギリギリの距離を取ろうとする筈や。やけど、興奮しすぎてエルロイの精液を吸ったクイーンスライムが大きくなっていることには気付かなかった」
「! 成程。俺が急に復活した所為で、慌てて逃げようとしたけど、大きくなっていたスラリーを計算に入れてなかった所為で回避が間に合わなかったのか」
「そゆこと。流石エキドナ、効率のいい行動パターンやが……いかんせん、見て興奮する変態であることが失態の要因やったな」
 まるで自分は別の物を敵として相手していたかのように笑うヴァーチャー。少なくともこの演出を全て計算していたらしいこの男の方こそ、エルロイ達の舌を巻いたのだった。

「因みに、露骨に審判に相手の体を触れさせる行為は逆に反則負けに成っていた。今回の策は、相手がクイーンスライムで、審判が欲望に忠実である、という二つの要因が重なって出来た勝利や。……二度は使えんぞ。勝ち進む気ならな」
「ああ」
「……ま、頑張れよ」
 ヴァーチャーがそうエルロイに友好的な姿勢を示すが、チェルニーはまだ何処か納得がいっていない様子だった。
「むむぅ」
「どうした、チェルニー。まだ何か気になる事でも?」
「うむ。だとすれば、朝にヴァーチャーが邪魔しに来たのもこの為なのかと思ってな」
「ええ?」
「だって、貴様の精力に頼った作戦だったではないか。朝に……その、していれば、きっと貴様は今頃……」
「まぁ、本当に寝取られていたかもな」
 ヴァーチャーの一言に、チェルニーの顔が真っ青になる。だがエルロイの方は軽く笑っただけだった。
「でも大丈夫だっただろ?」
「ああ……。   ん、待てよ?」
 其処で“ある事”が引っ掛かり、チェルニーは足を止める。
「……あの瞬間、意図的に邪魔して来た……という事は……! 貴様、まさか私達の部屋を覗いてたんじゃっ!?」
「なんだと!?」
「なんやと!?」
「いや、貴様だ、貴様っ。振り向いても誰もおらんわ!」
「……覗きじゃないし。盗聴やし」
「同じようなもんだ、馬鹿者っ。目を逸らすな!」
「だって、次の対戦相手を考えたら遠慮してもらいたい事やったし、ばれなきゃそれに越したことないと思ってですね……」
 そう語るチェルニーの脳裏に、更に別の事が思い浮かぶ。
   ! いや、待てっ。まさか……まさか貴様、昨日の晩も……!!」
「へ? 昨日の晩?」
 そう返した後、ヴァーチャーは顎を押えて思い出すそぶりを見せる。
「……ああ。寝ているエルロイに   
「わぁぁーっ!!?」
 チェルニーが赤面して叫んだ声に、ヴァーチャーの声がかき消される。よく聞こえなかった様子のエルロイは不思議そうに首を傾げる。
「? なんだ? 昨日の晩……寝ている俺が、どうしたって?」
「ああ、エルロイが起きている時には絶対言わなそうな事を」
「ひゃうあっ。ちょ、ちょっと待て……! ヴァーチャー、いや、今回は助かったぞー。ところで、話があるんだがちょっとこっちに来てくれないかていうか来いこら」
 がばっとヴァーチャーの服を掴んで物陰へと引っ張り込むチェルニー。次に見せた表情は、修羅そのものだった。

   言ったら、殺す」
「な、何をでしょうか……?」
「昨日の晩の、私の言動だ。あ、あれはなかった事にする」
「エルロイの事を好きって言ったこと? 無しにしていいの?」
「ほ、本当に無しにするんじゃなくて……そう言った事を、だな……」
「う〜ん。ま、判った。黙っとく」
「ああ、宜しく頼む」 
 どうやら話が纏まったらしく、二人はエルロイの前に出て行く。エルロイは二人がこそこそしているのが気に食わず、眉を潜めていた。
「……何の話をしていたんだ?」
 「うっ」と言葉に詰まって恥ずかしそうに俯くチェルニーの代わりにヴァーチャーが快活にこう答えた。
「ああ、昨日の晩寝ているお前に好きだって言った事を言わないでおいてくれって頼まれた」

   っ ! ! ! ! 」
 


――――――――――



    ズガッ、ガスッ、メゴッ、ドゴォッ

 チェルニーにぼこぼこにされる寸前のヴァーチャーの言い訳。「だって昨日の晩の口止めはされたけど、今の話の口止めはされてない」
 それがヴァーチャーのユーモアなのだろうが、それが更にチェルニーを怒らせた事は言うまでもなかった。
 そして最後に、目の前に横たわる血達磨(ヴァーチャーの馴れの果て)に向かって、チェルニーの口からこんな台詞が叫ばれるのだった。

   もう貴様の力などには頼らんっ。クビだ、クビ! 次の試合は、私の采配で勝ってやるからなぁっ」
「チェ、チェルニー!? そ、それで大丈夫なのか……?」
「なんだ、貴様まで! 私が采配してやると言っているのに、不満があるのか?」
「そりゃあ……」
(ギロッ)
   自分は異存ありませんっ。参謀総監殿」
「よしっ、という訳で、次回は貴様の登場はなしだ。残念だったな、アーッハッハ」
 唖然とするヴァーチャーを尻目に、チェルニーはエルロイを引き摺りながら、勝ち誇った笑みを見せて歩き去るのだった……。



「……へぇ。ま、お手並み拝見と行きましょうかね」
 最後に血達磨は床に這い蹲って、ほくそ笑むのだった。










    三回戦に続く

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【メモ-人物】
“スラリー”

二回戦のエルロイの相手。スライムのふりをしていたが、実際はクイーンスライム。知能は並み以上で、自分の体積を隠すなどかなり器用な部類。
メイドやロリなど、マニアックな分身を使ってエルロイを絞りつくしたが、公私混同甚だしい審判と自分の体積が仇となって逆転負けを喫した。

09/12/25 23:58 Vutur

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