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一回戦

 
 
 少し前に聞いた話によると、無法国家と呼ばれるマイテミシアで舞踏会が開かれるらしい。俺もこのご時勢自分の腕を何処かの国に示して雇ってもらおうと考えている野心の一つだ。此れに出場して、優勝まではいかなくとも、何処かの御仁に目を付けられれば登用の話も自然に舞い込んでくることだろう。
 ということで此処、マイテミシアの舞踏会会場がある首都イバラクアに足を運んできた俺達。
 只、解せない事が一つあった。
(……なんで、初出場の俺が一気に本選出場なんだ?)
 実は俺、予選に出場していないのである。何故か、申請の段階で一気に本選に送られた。
 俺はこの大会に出場した事は無いし、況してや優遇される当て、つまり俺自身の名前にはまだ知名度などない筈。首を傾げつつも、俺は受付で登録を済ませた。

   エルロイ」
 ふと、背後からそう名前を呼ばれる。振り返った瞬間、思わずドキリとした。其処には、見慣れた筈の可憐さ、俺の連れであるエルフ   チェルニーが立っていた。
「おう、宿の方は取れたか? 暫く此処に滞在する事になりそうだから」
「ああ。舞踏会出場者は宿が用意されるらしくてな。貴様の付き添いだと言ったら、中々いい宿を用意してくれたんだ。……まぁ、なんか、自棄に色彩のキツイ部屋だった気がするが……」
「?」
 此処で僅かながら反応してしまった俺は、詳細を希望しているように見られたらしい。チェルニーは記憶を呼び覚ましながら、俺にきちんと伝えようとしてくれる。
「風呂も大きいし、変な置物とかが沢山あってなっ? なんか、魔力を込めたらブルブル震え始める棒みたいなものとか、水が入った大きなベッドとかあって、すっごくみょうちくりんだったぞ。部屋のライトもなんだか薄暗いし……人間の宿とは、ああいうものなのか? まぁ、部屋自体は綺麗だったし、興味深かったりはしたのだが」
「………」
 俺が予想する限りでは、どうやら余計な気を回されたらしい。そして世間知らずのこの女は、連れ込み宿   ラブホテルのこと   というものの存在を知らないようだ。ていうか、大人の玩具まで常備してやがるのか、その宿は。
「……そんなことより、大丈夫なのか?」
 そう言って柳眉を下げるチェルニー。
「何が」
「貴様の扇を使った舞は確かに流麗だ。だが私が思うに、この優遇具合は男だからじゃないだろうか。普通、踊りというのは女の方が喜ばれる事くらい私でも知っている。これは若しかしたら、男だから評価が落ちると言うハンデを事前に考慮に入れたからじゃないか?」
 そう言われてもどうしようもない。俺は頭を掻く。
「いや、でももう出場するって決めたし。大体、お前が出場しろって言ったんだろー? 今更何が『大丈夫なのか?』だ」
「うっ。(だって、エルロイが踊っている姿が見たいなんて、言えないし……っ)」
「ハンデがあってもやるっきゃないだろ? こういう場に出て、少しでも名を売らなきゃ、俺はクズ野郎のままなんだぜ?」
 俺の言葉にチェルニーが頷く。そして俺は人が蠢くドーム会場を見回し、その奥に出場者の内訳が幻影映写で掲げられているのが目に入った。
「お、あそこになんか書いてある。……そういえば、踊るのは判るけど、演目は訊いてなかったな」
「えんもく?」
「いや、普通、音楽に合わせて踊るだろ? せめて国とか地域とか、発祥が明らかで、ポピュラーなジャンルだといいんだけどなぁ。知らない曲だったら困るし」
「? 何か違いがあるのか?」
「当然だろ。テンポの速い遅いとか、曲調の明るい暗いとか、テーマは何だとか。それをちゃんと把握しきれてないと動きのキレがイマイチ、な」
 そう呟きながら、幻影映写のモニターの方に足を進める。後ろではチェルニーが重箱の隅を突くような小言を言いながら俺に付いて来る。
「全くっ。そんなに重要な事を、何故確認しておかんのだ。受付を済ました段階で、他の出場者と差がついてしまったではないか」
「あ〜もう、五月蠅ぇな。過ぎた事はいいだろー? 言わなかった受付の人が悪い   あれっ?」
 


 思わず足を止めた。目の前の白塗りの壁に掲げられる光の幻に表示されてあったのは、演目の主題でも、審査員の名前でもなかった。其処に書いてあったのは……トーナメント表。
「……? あれ? おかしいな……」
 モニターの上部には確かに、“ぶとうかいしゅつじょうしゃれんらく”と書いてある。
 舞踏会出場者連絡。俺が今回出ようとしている大会の連絡板の筈だ。
「どうしたのだ?」
 渋い顔をしている俺に、チェルニーが声を掛けてくる。俺は思わず口に人指し指の脇を咥える。
「いや、普通踊りを競うのは、一対一でやるもんじゃないんだよ……。普通、大人数で一番、目を惹いた奴が優勝っ、て感じなんだけど」
「詳しいな。こういう大会は初めてじゃないのか?」
「いや。元々、踊りの師匠がいてね。そういう大会について回っていたことがある。……出た事はねぇけど」
 チェルニーは意外そうな顔をした。
「私もよく判らんが、修行をするにしても、剣や槍でなく   扇?」
 その視線は俺の懐に差してある骨の赤い鉄扇に向けられる。俺は長年連れ添った相棒である此奴を撫でながら、こう返す。
「ああ。まぁ、間違っても戦争なんかにぁ駆り出されたくねぇからな。それに、何処ででも小金が稼げる一芸はあったほうがいいだろ?」
「……貴様は無駄に狡賢いな」
「褒め言葉と受け取るぜ」
 呆れられながらも、自分でもそう思うのも悲しい性かな。しかし、何度見直しても目の前に掲げられているのはトーナメント形式だ。これで踊りの優劣を競うのか?矢張り疑問だったが、何分此処は無法国家である。形式に拘る気質にないモノだと、勝手に納得してしまうのだった。

「……あ、見てみろ。貴様は午後の最初に出場するみたいだぞ」
 そう指摘されて見てみる。午後の部の最初を示す位置に、俺の名前が確かにあった。
「おう、ホントだ。相手は……フレデリカ? っていうのか」
 思わず口になぞると、チェルニーが異常に反応する。
「!? お、女ではないかっ」
「いや、当然だろ。踊り子っていやぁ、このご時勢、普通女の子がやるもんだって。大体お前さっき言ってただろ。踊りは女の方が喜ばれるって」
「む……」
 何、顔赤くしてるんだ。視線が落ち着きなく動き回っている中、俺はある事に気付く。
「……初演がそろそろ始まるな。取り敢えず演目を確認したいし、見ていくか」
「そ、そうだなっ。ど、どれ程のものか、見定めてやろうではないかっ」
「お前が対戦する訳じゃねぇだろうが」
 俺は様子がおかしい此奴を引き連れて、円形会場の中央へと向かう。
 だがその途中、盛況な道中の人ごみの中に、何処かで見たような“東洋人”を見掛けたのだった。
   ん?」
「……貴様も気付いたか」
 その口ぶりでは、チェルニーも気付いたらしい。だが、俺としては見間違いのような気もしたので、一先ずこう言っておく。
「……人違いじゃねぇか? 東洋人なんて、皆顔一緒だろ?」
「流石にそんな訳ないと思うが……確かに、黒髪が目立つからといって決め付けるのは早いか。それに、此処は流れ者の天国とまで言われる場所だし、東洋人は他よりも見掛ける事もあるだろうしな」
 そう確認しあって、一先ず人違いと言う事にしておいたのだった。



 が、それは間違いだったようだ

「お?」
 観客席に座った途端、何処からともなく素っ頓狂な声が聞こえたかと思えば、俺の隣の席に座っていた男が声を掛けてきたのだった。
「おお? ……やっぱりや! エルロイ……やったっけ?」
 振り帰る。其処には、以前出会いを果たし、色々と御節介を焼いてきた挙句最後の最後に邪魔をしてきた東洋人、ヴァーチャーの驚いた表情があった。何処か演技臭い気もするが、気の所為だと祈ろう。

「っ!? ああっ!」
「……人の顔見て、デビルバグが家に出たかのようなリアクション、止めてくれる?」
 あからさまに嫌な顔をするチェルニーに、この男はそうコメントした。
 チェルニーは何故かこの男を嫌っている。生理的にといえばそうかもしれないが、得体の知れない何かがそうさせるのだそうだ。チェルニー曰く「奴は人間じゃない」との事。マジなのかどうかはさて置いて、だ。
「おお、やっぱりアンタだったのか」
 俺は先程見かけた影を思い出し、目の前の男と照らし合わせる。観客が開演を今か今かと待ちわびている中、ヴァーチャーは場違いなほど気楽そうに言う。
「そうそう、出場者の中に君の名前があったから、若しかして出場してるンちゃうかと思っててんっ」
「ああ、バッチリ出るぜ」
「そうか〜」
 友好的な態度を示すこの男の瞳の奥に、その一瞬だけ得体の知れないものが光った。だがそんな事も気にせずに、チェルニーはヴァーチャーに文句を言い始める。
「ていうか、なんで貴様、声を掛けてくるんだ!? それとなく、スルーするものだろう!」
「はい?」
「いや、貴様……『自分はサキュバス化を止める鍵だから、当座の目標は俺を追い掛けてくればいい』みたいな事言っていたではないかっ。気を利かせて、どっか行けばいいのに! 気の利かん奴めっ」
「? いや、どうせ俺、サキュバス化とか、止められんし」
「ならなんであんな事言ったのだ!?」
「……話をややこしくしたかったから?」
「何なんだ貴様はっ!!?」
「(……)でも、いいんか?」
 思わず「え?」と聞き返す。この男は俺とチェルニーを見比べて、何だか納得いかなそうにしていた。
「いや、だって、彼女居る身やろ?」
「だ、誰がっっっ!!」
 頬を赤くするチェルニーの叫びが会場に木霊するが、直ぐに開演を待ちわびる人々の喚声に飲み込まれる。対して俺はそう言われてもさっぱり意味が判らなかった。
「??? ……何で? 何が?」
「いや、彼女が……心配するやろ? いや、なんて言うんやろう   
 向こうも解せないという風に首を傾げる。どうやら会話に齟齬が生じたようだ。
「え? ……ああ、こんな大会に出て、足を挫くかもって事? それとも醜態を曝すかってことか? ははん、俺を舐めてもらっちゃ困るぜ。こう見えて、この扇一本で今まで生きてきたんだ。こういう場で転んでちゃ、今頃生きてねぇってっ」
 そう言って懐の扇を開いてみせる。優雅に手首を返し宙を舞わせ、口下にぴしゃりと添える。そんな俺の言葉を聞いて、やっとヴァーチャーも納得したようだった。
「それならそれでええけど。でも、なんで態々一回戦を見にきたんや?」
「ああ、それはエルロイがやるの(演目)を聞いておく為だ。知っていないと、どうも身が締まらないらしい」
 彼女と言われて顔を真っ赤にしていたチェルニーが急に俺のスポークスマンとばかりにそう言うのを聞くと、ヴァーチャーがイマイチよく判っていないような、微妙な顔をして見せた。というより、俺達を変に思っているような顔である。
「……え、と? ああ……まぁ、いいならそれで……うん」
「???」
 なんだか話が噛みあわない。はっきり言って、不愉快だ。一体この男は何を考えているのだろうと侮蔑の感情が込み上げてくる。此奴のはっきりとしない態度に疑問を抱きつつも、周囲の温度が急に上がってくる。
 どうやらそろそろ初戦が始まるらしい。



 オオォォォ……   



「……凄まじい熱気だな。人間共がうじゃうじゃと……。これはそんなに有名な大会なのか?」
 チェルニーが周囲を見回し、青い顔になる。確かに、踊りを競うだけにしては野郎が多すぎる気がする。
 野郎の趣味のない俺にとっては、ご勘弁願いたいものだった。
「さぁ。俺もこんな所で舞踏会が開かれるなんて知らなかったしなぁ」
「まぁ、観客の大体がマイテミシアの民やしな。他国で知っている人間といえば、余程の物好きしかおらへんと思うで? 例えば北の   と、入って来たな」
 そう解説するヴァーチャーの視線が、建物の中央に開かれる舞台に注がれる。俺達も釣られて目を移すが、其処に立っていたのはマイクを片手に露出の多い衣装で着飾ったエキドナだった。その一匹の出場だけで、男達は大いに盛り上がりを見せた。

「ん? 魔物も参加出来るのか」
 チェルニーが口に出した言葉は、俺が喉まで出掛かった内容そのままだった。だがその言葉に、ヴァーチャーがまたしても眉を顰めた。
「? 当たり前やン。でもあれは審判や。一応こういうのにはルールはあるけど、基本マイテミシアは神も法もないからな。人間魔物は差別せず、近親相姦も同性愛も認められている。まぁ、流石に殺人やらは認められんけど」
「ふむ。まぁ……寛容なのは、そうなのかもな。いい事かも知れん」
 チェルニーは気にしなかったようだが、ヴァーチャーの言い回しに多少の違和感が残る。舞台に一人立ったエキドナ   審判は大いに腕を振り上げ、たわわな胸を揺らすのだった。
「一回戦、午前の部、第一試合! スライムの   
 そう言って今回の対戦カードを紹介する度歓声が上がる。そして舞台に立ち、対峙し合った両カードを見て、俺は呆気に取られた。
「え?」
 其処に出てきたのは、踊りに必要な飾りを付けるべくもなく全裸のスライム。そして対峙するのは剣で武装した若者だった。表情を隠す兜は美しさとは掛け離れている。一度目をこすってから見てみても、其処には踊りを披露する気配など、一切なかったのだった。
 ふとチェルニーの反応が気になって見てみると……
「ほうっ。スライムが踊りを披露するのか。どんなものか、気になるなっ」
 一片の疑いもないかのように、期待を持つ少女の顔が其処にあった。



 だがそう口に出したチェルニーの言葉に、ヴァーチャーが突如「ん?」と渋い表情をし、ゆっくりと此方に顔を向ける。
「……踊り……って、何の話?」
「ん? いや、舞踏会だろう? 踊りを競う大会なのだろう? 森に居た頃は、そんなもの見た事がないからなっ。どんなものなのか、楽しみだ!」
   ぶふぅっ!!?」
 それを聞いた瞬間、ヴァーチャーが猛烈に噴出した。口元を手で押さえ、必死に笑いをこらえている様子に、俺達は首を傾げる。チェルニーがそんな彼に真顔でこう尋ねる。
「……どうした? マタンゴの亜種にでも毒されたか?」
「なんやねん、そのシュールな状況……。   まぁ、見ていれば判る」
 途端にニヤニヤし始めるヴァーチャー。なんか、スゲー嫌な予感がするんだが。



「始めっ!!」



 ゴイーンッと重く鈍い音。銅鑼が鳴らされ   舞踏会に集中を乱すような大きな音は鳴らさない   、両者はじりじりと距離を詰める。
 ……って、あれっ?
「ん? 曲が鳴っていないな。何かの手違いか?」
 呑気な声を出しているチェルニーに対し、俺の全身から汗が噴出してくる。
    俺は……まさか、とんでもない思い違いをしていたのでは……っ!?

「確かに、此れはマイテミシア“だいぶとうかい”や。マイテミシア内の兵が腕を競い合う場」
「ん? 腕? 兵? ……ん!?」
 チェルニーもそこそこ気付いてきたようだが、俺は既に噴出す汗が止まらないにも関わらず、体に寒気を感じていた。
「……だから、“大武闘会”な。別にダンスを披露する高尚な場じゃないって事」
「なにぃ   っ!?」
 チェルニーの絶叫。俺も是非とも叫びたい。だがその声は周りの歓声に直ぐ掻き消される。勝負は白熱しているようだ。


 
 オオォォォ……ッ



「てことは、エルロイは踊りじゃなくて、闘わなくてはいけないと言う事か!?」
「いや、そりゃそうやろ。闘う場で踊っている馬鹿が何処に居るねん」
 淡々とそう返すヴァーチャーに腹が立ってくる反面、自らの浅はかさに呆れ果てて責任転嫁する気も起きない。
「で、ででででは、エルロイはこの大会で死ぬかもしれないと!?」
「いや、殺しは反則負けや。さっき言ったやろう。殺人は認められんと」
「そ、そうか」
 それを聞くと胸を撫で下ろすチェルニー。それでも戦闘など御免被りたい俺は顔が真っ青なままであった。
 そんな俺達の様子を訝しげに見詰め、ヴァーチャーが一言……
「ていうか、知らなかった?」
 ギクッ
 なんか、横でそんな音が聞こえた気がする。その途端、チェルニーが取り乱す。
「そ、そんな訳ないだろうっ。わ、私は気付いておったぞ!?」
「……開会式の時点で気付いとけよ。大体、ルールとかそういうの、説明していたんやから、ちゃんと聞いておかないと」
 チェルニーの言葉を無視してそう呆れるヴァーチャーの言葉に驚いて、俺は顔を上げる。
「え!? 開会式とか、あったの!?」
「……お前等、なんで此処におるんや?」
 すっかり呆れられた様子の俺達は、肩身を狭くして席に座りなおす。ヴァーチャーは続ける。
「開会式なら、初戦の前日(つまり昨日)に開かれたやろー? 出場予定者は皆舞台に立って……ていうか、そういえばお前、確かにおらんかったな……。まぁ、開会式に顔を出していなくても出場は出来るんやケド……」
「うう……」
 泣きたい。逃げたい。そんな想いに狩られるまま俯く。だがその横でチェルニーは俺にこう言葉を掛けるのだった。
「だ、大丈夫だっ。寧ろ、良かったではないか! 武闘会なら、貴様の武を示せばいいのだ! ……まぁ、示すものは違ったが、貴様なら問題ないっ。わ、私を助けてくれた時みたいに、だな……っ」
 そうやって、不器用ながらに励ましてくれるこのエルフ。本当は悪い奴ではないことは判っている。
 ……俺も、腹を括ることにしよう。

「……そうだな。有難う、チェルニー。   よっしゃぁ、やってやるぜぇっ!」
 このままうじうじしているのはもう止めよう。何より、みっともない。俺の顔を見てチェルニーは素っ気無く顔を背けるが、いつもの照れ隠しなのは判っている。俺は彼女を可愛く思いながら、舞台の方に目を向ける。
 其処には信じられない光景が広がっていた。



   あ、ふぅ……♪ 貴方、中々強いのねぇ……いちおー、私の夫候補に入れておいてあげる」
「う、くぅ……で、出る……っ」
「いいわよ……? 中に一杯……」
 ビュクッ ビュルルル…ッ
「あぁ……♪ 元気なのが来てるぅ♪」



 舞台の上では何時の間にか剣士の上にスライムが跨り、性交を行っている風景が目に飛び込んでくる。剣士がイッた瞬間、会場は最高の盛り上がりを見せる。



 オオォォォ…ッ



 暫くこの状況を理解できていなかった俺とチェルニーは唖然としてしまう。だがそれでも続くスライムと剣士の情事に、遂にチェルニーが顔を真っ赤にして俺をキッと睨む。

   どういうことだっ!!? 説明してもらおうかっ!! エルロイッッッ!!?」

 そう怒鳴ると俺の胸倉を掴んで力いっぱい揺さぶる。真赤な顔にくっ付いた鋭い眼光には、涙が光っていた。が、そろそろ命の危機を感じ始めた俺は、彼女を宥めに掛かる。
 だが……

メキメキメキッ
「ちょっ、まって……っ!! く、び……っ!首がぁぁ……っ!!?」
 満足に声も捻り出せぬ状況、宥めるどころではない。横目でヴァーチャーに助けを求めるが、この野郎、完全に他人の振りに徹してやがる。
「必殺、たにんのふりー」
 口に出しやがったし。テメェの血は何色だっ。



 暫くして、決着が着いた。勝敗は、スライムの勝ち。剣士は搾り取られながらも、何処か満足そうな表情で担架に乗せられていった。司会進行役のエキドナは、頬を染め、ニヤニヤしながらスライムの方に手を差し伸べ、こう宣言する。

   勝者、スライムのスラリン!」


 
 オオォォォ……ッ



 何処かで聞いたことがある名前のような気がしたが、そんな事はなかったぜ!
 兎も角そのスライムも満足そうな表情で舞台を降りていく。俺とチェルニーはこの一試合だけでかなり疲れてしまったのだった。
「……どうなってんの」
「ん?」
「これ、武闘会だろ? なんで舞台の上で公開痴態ショーしてる訳よ? 夢……?」
 へらへら笑っているヴァーチャーに問うと、こんな返事が返ってきた。
「……今のは剣士の方が反則負けになった訳やけど、元々は“こういうこと”が起こらない為のルールやったんやで」
「え? 男の方が反則負けなのか?」
「ああ。昔は悪い男も居てな。倒した女を舞台上で……その、無理矢理する事があったんや。それを防ぐために置かれたのが『競技中、猛った男根を相手の膣に挿入したものは反則負け』っていうルールなんや」
「どうでもいいが、そんな事よく真顔で説明できるな、アンタ」
「まぁ、元々魔物が気軽に参加出来たこの大会は、今では魔王が魔物を女の子にした所為で、どっちかっていうと体の良い婿探し兼大食い大会になった訳やけど。……ケド、不健全な大会に成り果てたお蔭で真面目に腕試ししにくる男は減ってもうてな。もしかして、書類選考で本選まで来た?」
「あ、ああ……」
「やっぱり。実は婿探し兼食事感覚で来ているだけの女の子同士やったら、まともに戦ってくれないんや。それじゃあ話にならないから、なるべく男が尽きないように、運営委員は一週間掛けて、其処等をほっつき歩いているニー、じゃなくて冒険者達を攫ってきて“誠実な説得による同意を取り付けた上”で出場させているんやで。まぁ、君みたいに自分から参加しようとする男は、全員喜ばれて本選に送られる訳やけど」
「………」
 その話を聞いて、絶句してしまう。只の武闘会ならまだしも、そんな頭おかしい(←強調)大会に、俺は出場すると思うと!?
 いや、待て。さっき決断したところじゃないか。例え示すものが違えど、此処で俺の名を世間に知らしめれば、お喋りクズ野郎から脱却できるのだ! 此処は、男の見せ所じゃないのか!? いや、性的な意味ではなくて。
「チェルニー。俺、この大会で……」
 兎に角だ、俺は此処で引き下がる訳にはいかない。なんとしても、この大会で名を馳せてみせる。そう再度誓った後、チェルニーに声を掛けようとする……と?

 ガシッ



   棄権するぞっっっ!!!」



「……えぇっ!!?」
 そしてそのままチェルニーに腕を引っ張られて会場を出て行く。引き摺られて去っていく俺を見詰め、ほくそ笑んだヴァーチャーの顔が、妙に記憶に残ったのだった……。



――――――――――



   なんだとぉぉぉぉっ!!?」
 チェルニーの絶叫。流石に受付の周りがざわつく。俺は周囲の目を気にしながら、それとなく彼女を宥めるが、俺も動揺が隠しきれていなかった
「落ち着け! 周りに迷惑だぞっ」
「うう……」
「……で、なんで棄権出来ないんですか?」
 すると受付の女性……まぁ、彼女は人間なのだが、丁寧な口調で俺にこう教えてくれる。
「はい。確か、エルロイ様は前日の開会式に出席なさりませんでしたよね?」
「……はい」
「開会式にお出になられなかった方には、ペナルティとして棄権“権”が剥奪されます。それでもやむを得ない事情があれば……此れ程の違約金が発生しますが」
 そう言って受付係は数字を提示する。残念、見たことのない数字だ。
 だって知らなかったんだし、仕方ないだろ!? と心の中で叫ぶが、口には出さない。連れが散々騒いでいる以上、これ以上うっとうしいコンビに見られたくないのだ。

 だがそんな時……
「えぇえぇぇっ!? 棄権出来ないんですかぁっ!?」
 そんな叫び声が会場に響き、俺達の注目が逸れる。俺もチラリと横目で見ると、其処には受付の女性に涙目になって食い下がる、身なりの良い、謂わばお嬢様風の少女が居た。
「はい、ルピーニエ様は前日の開会式に出席なされませんでしたので、棄権する権利を剥奪されております。それでも止むを得ないというのでしたら、これ程の違約金が……」
「うぅ……優勝賞金目的で参加したのに、違約金なんか払えませんよぅ……」
 見ると気弱そうでたおやかな娘である。少なくとも、こういう大会だと判って参加する類には見えない。とすると、多分、彼女は同類   
 同じ間違いを犯した人を見ると、何処か安心してしまうのがウジムシ根性である。



「まぁ、仕方ないさね。折角やし、ハーレムを満喫しては如何ですかな?」
 不意にそうへらへらと声を掛けてきたのは、ヴァーチャーだった。その手には、何時手に入れたのか、ワインらしきものが注がれたカップが握られている。ところでその中に差し込まれている穴の空いた棒状のものはストローではなく、まさかちくわではないだろうな。
 だがヴァーチャーの言葉に尖った耳をピクリと動かすチェルニーは判り易く突っ掛かるのだった。
「! ななな、何がハーレムだっ。そんなものの為に、誰が出るものか!」
「? まぁ、ハーレムっていっても、一人とあれにマラすれば負けで其処までやし。確かにハーレムではないか?」
「そ、そういうことを問題にしているんじゃないっ。あと、マラとか……普通に言うな!」
 またそうムキになるチェルニー。受付のお姉さんもクスクスと笑っている。俺は兎も角、出場の意思をはっきりとさせておく必要があると踏んだ。
「仕方ないだろ? 出るしかない」
「エルロイ!?」
「違約金も払えねぇし。……そもそも開会式に出なかった俺等が悪い。腹、括ろう」
 昔と比べれば、俺も随分大人に成ったもんだ。何かあれば直ぐ人の所為にしていた俺が、こんな風に考えられるとは。これも、目の前のこの理不尽なエルフのお蔭か。
 そんな風に思っている最中、チェルニーはまた騒ぎ出した。
「で、でも! 相手はお前を篭絡しようとする薄汚いサキュバスモドキ共だ! そんなのにお前を……」
「もう餓鬼じゃないんだ。納得しろよ」
 若干イライラしながらそう言うと、チェルニーはまた涙目になって怒り出す。
「いいや、納得できん! どうせ貴様も頭の中では女の股の事しか考えていないんだろうっ。なのに、どうしてこんなに一緒に居る私を――抱かないのだっ!?」
「ぶふぅっ!?」
 チェルニーの叫びが、建物に響く。丁度ワインらしきものを口に含んでいたヴァーチャーが赤を噴出す。周囲の人の目が、俺達に集まる。
「君等、あんだけお膳立てしたのに、まだヤッてないんか?」
 凄まじい呆れを込めた一言に、チェルニーが透かさずこう返す。
「! き、貴様があの時……無意味な再登場を果たすからだなぁっ!?」
「はぁ!? あれからいくらでもヤッていただければ良いんとちゃいますかぁ!? 人の所為にすんなっ」
「ほぅ、言ってくれるな! だがああいう機会がそう何度もあると思うのか!?」
「それぐらい自分でなんとかして作れよっ。男を襲う勇気もなくて尻込みしているのを俺の所為にすんなと言っているんや!」
「なっ!? な、なんだとぅ……!! わ、私だってなぁ……いろいろと考えて、だなっ」
「ほうほう。どんな考えがあるんや? 愛しの彼氏と宜しくやるいい考え、今後の参考に聞かせてもらいましょ? 未経験のエルフから聞けることなんて精々アレを何処にぶち込めばいいかぐらいやろうけど」
「! ……き、貴様ーっ!!」
「お、おいっ。幾らなんでも、人の目があるんだから……!!」
 流石にこれ以上騒ぐと追い出される。俺は止めに入るが、二人の言い争いは激しくなっていく一方。終いにはチェルニーは弓を構え、ヴァーチャーは腰の剣を抜かないものの、両腕をゆらりと前に構えた。

「あーもう! 貴様と喋っていると本気でムカつくわ!! 此処で息の根を止めてやる!!」
「ほぉ、弓矢を向けるとは……。覚悟出来ているんやろぉなぁ? 念の為訊くけど、その口は腕の一本も折れば黙れるんやろうな? なんやったら、思い切って全身の骨、折って悲鳴でも叫ばせてやろうか?」
 二人の殺意が頂点に達し、火蓋が切って落とされそうになる。
 そんな時だった。

 〜♪……♪…〜♪

 何処からともなく、竪琴の音が耳に入ってくる。そうした瞬間、目に見えて二人の間を包む殺気が消え去っていく。
「……?」
   喧嘩は駄目ですよ。お二方」
 そう言って俺達に近付いてきたのは、目深な帽子を被る吟遊詩人。そして、二匹のミノタウロスであった。その姿を認めたヴァーチャーは潔く腕を下ろす。
「ふぅ、吟遊詩人に諌められるとはな。俺も精進が足りんな」
 早々に闘志を引いたヴァーチャーに対してチェルニーも弓を下ろす。
「む……まぁ、こんなところで争っていては、周りの迷惑だしな。すまないな、吟遊詩人とやら」
「いや、別に吟遊詩人という名前ではないのですが……」
 戸惑う吟遊詩人。ほんっとに世間知らずなエルフだな。改めてそう思う。
 ふと、吟遊詩人の方がヴァーチャーに目を向け、驚いた表情をする。ヴァーチャーも彼を見返してから一瞬他人の振りをしたが、気にも留めず吟遊詩人はヴァーチャーに駆け寄った。
「お久し振りです。確か、ヴァーチャーさん、でしたよね?」
「ああ。しかし、誰やったかな……名前を聞いていたっけ?」
 その一見正直過ぎる反応に、吟遊詩人は微笑む。
「いえ。ゼルと申し上げます。貴方は一方的に名乗っていかれましたので……」
「ゼル。ああ、奇遇やな、こんな所で」
 当たり障りない返事を返すヴァーチャー。その様子を見て、ゼルの背後のミノタウロスの一人が、暫く目を細めてから、こう喚き始めるのだった。
「あっ。此奴!」
「? ケイフちゃん、知ってるのー?」
「……誰だっけ?」
「………」
 見事に話の腰を追ってくれたミノタウロス。ヴァーチャーはゼルに苦しい笑顔を見せてから手を叩き、こう提案したのだった。
「あ、そうや。此処で会ったのも何かの縁。一緒に昼食でもどうかな?」
「おっ。なんか判んねぇが、話の判る奴だぜっ。気に入った!」
「ケイフちゃーん。結局この男の人、だれなのー? 判んないの? 判ったの? どっちー?」
「………」

 結局、ついでに俺とチェルニーも昼食をヴァーチャーに奢って貰うことになったのだった。



――――――――――



 昼食をヴァーチャーに奢ってもらった俺は、午後の部の最初の試合に出るのだが。

   あー……」
「………」

 ――相手はゾンビかよっ。
 いや、確かに見た目は反則並みに可愛いし、破れた服から覗くシルエットを見れば、スタイルだって大いにそそられる! だが、だがっ。流石に俺は冷たい体よりも暖かい体を抱く方が断然良かったのだっ。
 い、いや! もしの話だぞ? もし、みすみす犯されるような事があった場合に備えての願望だからな? け、決してチェルニーが抱かせてくれないからこの機会を大いに満喫しよう……だなんて、微塵も考えてないんだからねっ。
   エルロイ」
「ごめんなさいっ」
 背後からのチェルニーの呼びかけに、それはそれは見事な土下座をかましたエルロイ。チェルニーは咄嗟に謝った彼を訝しげに見詰める。
「? どうしたのだ?」
「い、いえ……蹴られるかと」
「はぁ? どうして私が貴様を蹴らなければならんのだ。寝惚けているのか?」
 腰に手を当ててエルロイに向くチェルニー。真っ白な傷一つない脚と腕。そして小さな顔と胸元。エルロイは其れを見て、気合を入れなおす。
「……よし。(大丈夫だ。ゾンビには勃たないぜっ。例え押し倒されても、勃たなければこっちのもんだ!)」

 ところで、舞台に立つエルロイの背後には、チェルニー以外の人物も居た。その人物はチェルニーの一歩後ろに立ち、エルロイにこう声を掛ける。
「おーい。気をつけろよー?」
 妙な笑みを零すヴァーチャー。エルロイは振り返って眉を顰める。
「今気付いたけど、お前等其処に居ていいの?」
 二人が居る位置は観客席ではなく、本当に舞台の傍なのだ。観客はこの遣り取りも目にしている。ヴァーチャーは上からの幾万の視線を気にする様子なく語る。
「飯食いながら粗方説明したやろ? セコンドは直接手を出さなければ原則何人でもオーケーって」
「チェルニーは判る。でもなんでヴァーチャー、お前まで居る?」
 びしっとヴァーチャーを指差すエルロイ。
「へ? いや、目の前で彼女持ちの男がレ〇プされる所なんて、滅多に見られないからさぁ。是非とも間近で拝もうかと」
「「帰れ!!」」
 ヴァーチャーは二人の怒号に怯まずに笑った。
「冗談や。俺はこの大会のルールとか知っているからな。この大会を“男が”勝ち抜く秘訣も判っている。居ても損はないと思うけど?」
「……本当に、役立つ情報教えてくれよ?」
「大会が終わったらな」
「「やっぱ帰れ!!」」

 倉皇言っている内に、会場に不穏な空気が漂う。早く始めろと観客が騒ぎ始めているのだ。
「何時まで駄弁ってんだよぉ! 早く始めろー!」
「金返せ、コノヤロー!」
「……あの、エルロイ選手? そろそろ始めてもらっても?」
 司会進行役のエキドナが慌ててエルロイに催促する。エルロイは「あ、ああ」と頼りなく返しながら、舞台の中央、既に待機しているゾンビのフレデリカに対峙するのだった。

   一回戦、午後の部、第一試合、エルロイ=バルフォッフ対ゾンビのフレデリカ!」
 
 オオォォォ………ッ



 俺はゾンビの前で鉄扇を開く。少なくとも、性交に持ち込むまでは何かしらの攻撃がある筈だ。それは殺す目的ではなく、足止め要素。鉄扇なら、払い除けるのに打って付けだ。
 俺は鉄扇を手首で返し、口元を隠す。相手の出方を伺っているのだ。例え武闘会でも、女の子に怪我をさせるのは俺の流儀に反する。キングオブクズ野郎にはなりたくない。出来る事ならば、首筋を一打ちして昏倒させるくらいで終わって欲しいと願う。
 だがそんな時、ゾンビのフレデリカは徐にボロボロの衣装の中に手を突っ込んで、何かを引っ張り出す。見るとそれは何かの玉のようだが。
「あー……」
 ビュオンッ
 呻き声を挙げながらトルネード投法で俺に投げつけてきた。なんだ、その理不尽な程の機敏な動きは!?
 俺は払い除ける為の準備をしていたため、例えどんな球でも……じゃない、どんな攻撃にも反応出来た。鉄扇を翻し、その玉を鉄扇の腹で捉えた。
 ……筈だったのだが、その玉は脆く粉々に成ってしまった。
 パリィンッ
「なっ」
 砕けた玉の中に詰めていたらしい妙な液体が、俺の顔に、体に飛び散る。その液体から不思議な臭いが辺りに立ち込めてくるのだった。
「な、なんだ? あれは」
「(クンクン)……ああ、あれはアルラウネの愛液や」
「そうか。   はっ?」
 背後でそう語ったヴァーチャーの言葉には驚いた。振り向いて、視線で真意を問おうとするが、奴のニヤニヤ顔を拝んだところで、もうすでに体に異変が起こり始めていた。

 ドクンッ

   !」
 う、スゲー下半身が疼く。顔に掛かった妙な液体から発せられる香りが、段々と俺の頭を蕩けさせていく。終いには何処かボーっとしてしまいがちになり、気付けば顔に掛かったこの“汁”が無性に愛しくなり始め……自慰に耽る様に指で掬って舐め始めてしまっていた。

 ピチャッ レロ……クチュ…ッ

「ん……はぁ   っ」
「っ!? ちょっと待て! アイテムとか使っていいのか!?」

    なんだか後ろの方でチェルニーが騒いでいる。それにヴァーチャーが素っ気無く返すが、今の俺には余り興味の無いことだ。

「勿論」
「聞いていないぞっ!」
「訊かれてないから?」
「くぅ……エルロイッ!!」
   っ!」 

 チェルニーの声でふと我に帰ると、俺はゾンビに押し倒されていた。そして、冷たい指でズボンのホックを丁寧に外されて、熱く猛るそれを、衆目に明らかにされる。

 オオォォォ………ッ

 横を見ると、審判のエキドナが俺の逸物をじっと眺めてニヤニヤしている。そしてその逸物の先には、ゾンビ   いや、フレデリカの熟した恥裂が据えられていたのであった。
 ボロボロに破かれた服。其処に隠されていたこの麗しい花弁。ゾンビとはいえ、男を誑かす魔物の一だ。その魅力的な肉の隙間に、俺は吸い込まれそうになっていた。
「はぁ……はぁ……♪」
 フレデリカは行為の良さを知っているらしく、餌を貪るというよりは、どちらかといえば行為を楽しむ姿勢を見せる。冷たい息を荒げ、生気の無い肌で精一杯女の色香を放ち、俺を挑発する。それとも、焦らしているのか?どっちにしろ、ゾンビの癖に…生意気だ。
「エルロイっ」
 俺はフレデリカの腰を掴む。そしてそのままゆっくりと下へ   



   駄目っ!!」


 突然響いた声が、会場を静まらせた。各言う俺もハッとなって、手を止める。フレデリカは悲しそうな目で俺を見下ろすのだった。
「うぅ、ばかものぉ……っ。私以外の女を愛するなんて……許さんぞぉ……っ」
 頭の先からすすり泣く声が聞こえる。紛れも無い、チェルニーの声だ。頭を傾けてみると、チェルニーが両手首で必死に目を擦っている様子が伺えた。
「ひぐ……エルロイ……お願いだから   っ」
 そう言って、泣き腫らした目を俺に向ける……って、マジ泣きかよっ!?
「……あー?」
「く、悪いなっ」
 俺はフレデリカを押しのける。彼女は驚きつつも舞台にお尻を付くのだった。其れを見てから俺はすぐさま逸物を仕舞いこみ、チェルニーに向く。其処には、したり顔のチェルニーとヴァーチャーが並んでいた。
 未だに状況が飲み込めない俺に、ヴァーチャーはすっとその手を持ち上げる。其処には液体の入った小瓶が抓まれていた。それは目薬……って。
   嘘泣きかよっ!?」
「にやにや」
 な、なんて奴等だ。真剣に信じて煩悩を打ち砕いた気概を見せたこの俺に、「かかったなアホめっ」ばりのしてやったり顔を二人して見せて来やがるっ。
「チクショーっ。二人して俺を……! ていうかお前等、仲良いのか悪いのかどっちだよ!?」
 将に外道とはこの事だ。兎に角俺は何か言ってやりたい気持ちになったが、踏みとどまってフレデリカに向く。どうやら媚薬の効果は顕在らしいが、それとフレデリカを抱くかどうかは別の話だ。



   グスッ。すまん……フォローしてくれて。ズルッ」
「はっ、見栄っ張りやなぁ。ほんと(まぁ、そんなところ含めて眺めていて面白いんやけど)」
「……正直、今回の事で貴様の事、塵の一つ分見直したぞ」
「……俺は一体どれくらい見損なわれていたんやろう?」



 背後で何かごそごそと話す彼奴等の会話は聞き取れなかったが、後で訊くとしよう。取り敢えず今は目の前の相手に集中だ。フレデリカは作戦が失敗したと見るや否や、身に纏う衣類を脱ぎ捨てた。ゾンビのストリップショーだ。あどけない乳房の癖に艶かしいその腰のラインに、会場も盛り上がる。俺の股間も盛り……。
「ゴホンッ」
 失礼。俺は気がどうにかなるまえにフレデリカから目を逸らす。
 兎に角だ。これ以上彼女の裸を見ていたら、理性が吹き飛ぶ。彼女を見てはいけない。だが俺に相手を見ずに叩き伏せるなんて技量は無い。下手すれば無駄に傷付ける結果にもなる。それはいけ好かない。   俺、攻撃手段なくない?
「あー……」
 そんな時、フレデリカが呻き声を挙げながらてちてちと襲い掛かってきた。足音で近付いてきたのが判ると、俺は慌てて彼女の足元を見るようにして躱す。俺に体当たり(?)を躱されて背後を見せるフレデリカ。よしっ、背後ならば意識せずに攻撃できる、と思ったのだが。う、真っ白で小振りな尻が目に付く。ヤバイ。女の子の背中見て一瞬理性が揺らぐとは、アルラウネの愛液恐るべし。ていうか、このアングルは横乳を期待しても……いや、目にしたらアウトだ。今の俺にとって、横乳は地獄への片道切符に他ならないだろう。
 背中を見せた敵にも、結局攻撃しあぐねている俺に、ばっちり彼女の前面を拝む位置にいるヴァーチャーが突然声を掛けてくる。
「エルロイ」
「……な、なんだテメェ! 誰がエロイだと!? お、俺は別に背中見たくらいじゃあ理性はまだまだ……!!」
「……末期やな。目がイってんで。   それより、いい作戦を思いついたでー」
 切羽詰っている俺に、呑気にそんなことを言い出すヴァーチャー。テキトーなこと抜かしたら殺してやろうと思いながら縋る。
「なんだっ!?」
「ゾンビは性交で魔力を補給する魔物や。充分な魔力を補ってやれば、向こうから棄権してくれる筈」
「それはそうかもだけど! 俺、魔力扱うスキルねぇし!」
「いや、そんな器用なことやらんでも   君にはち〇こがあるじゃないかっ!」
 ……殺してやろう。俺に向かって親指をビシリと立てるヴァーチャーを見て、そう決心した俺はこう言い返す。
「ち〇こを翼みたいに言うんじゃねぇっ。ていうか、気絶させればいいんだろっ」
「おいおい、相手はゾンビやでー? その鉄扇で急所殴っても、気絶するとは思えんけどなー」
 言われて見ればそうである。ゾンビは意外とタフだ。一度死んでいる分、意識を維持する事に関しては堅牢。仕損じれば、俺は理性を失うだろう。もし、理性を失ったのならば、無様な負けだけではなく、後にチェルニーの嵐のような蹴りを浴びせられる事だろう。俺はその事態を想像し、身震いする。
「(ブルブルッ)てか、ヤったところで反則負けって言ったの、アンタだろ!? 忘れたのかっ」
「いやいや。俺は『猛った男根を相手の“膣”に挿入したものは反則負け』と言っただけや」
「はぁっ?    まさか」
 俺は奴の不敵な笑みに、眉を顰める。
「ホントか?」
「ああ。但し、お姫様が許す範囲でやれよ? ぐっどらっくー」
 そう意味深に微笑んだヴァーチャーの隣では、チェルニーがきつい目をして俺を睨み付けていた。
「……チェルニー?」
「誓え   
「?」
 突然そう宣言され、身構えてしまう。だが次に彼女の口から出た言葉に、俺はちょっとときめいてしまうのだった。
「その……ほ、本番は許さんぞっ? だ、だが……馬鹿な事を考えないと誓うなら……べ、別に、多少の事は目を瞑ってやるっ」
 馬鹿な事とは、恐らく俺の心変わりの事だろう。可愛い懸念だ
「……完璧に誓う」
   よしっ」
 顔を赤くしながらチェルニーがちょっと笑う。俺はちょっと噴出してしまいそうになるが、まぁそれはいいだろう。俺は改めて心構えを変えると、フレデリカの姿を直視した。我慢しなくて良い分、理性を治めるのも穏やかになったらしい。いい加減苦しくなってきた息子を外に出してやる。すると、フレデリカは嬉しそうに呻いた。
「あー……♪」
 フレデリカの視線が俺の息子に釘付けになる。見られていると思うと、興奮してきてしまう。いずれにしろ、俺はフレデリカを挑発し返してやる。
「ほら、来い……」
「あー……」
   
 お許しは頂けたが、チェルニーは目を逸らしていることだろう。俺はフレデリカに組み敷かれると、そのまま熱い逸物を冷たい唇に宛がった。   冷たい挨拶。
 目の前に目当てのものが現われたフレデリカは、トロンとした瞳のまま俺の熱い竿を細い指で掴み、あ〜んと口を開く。…だが途端に俺の顔を見上げ、眉を下げると、急に俺の上体に這い上がってきては俺の首に腕を絡みつかせる。目の前に真っ白な乳房が宛がわれる。
 もしかして挿入する気かと思いきや、俺の雄蕊に雌蕊をすりすりと擦り付けるだけだった。そして俺を刺激し続けた後、そっと顔を近付けてくる。何事かと思って身を引くと、何時の間にか“ちくわ”を手にしているヴァーチャーが声を掛けてくる。
「キスしたがっているだけや。避けるのは可哀相やぞ?」
「……あー?」
 どうやらヴァーチャーの言う通りらしい。俺が避けたと感じると、フレデリカは生気の無い瞳に僅かながら悲しみを溜めた。そして今度はもっと強引におねだりしてくるのだ。仕方ない、と俺は応えてやる。冷たい唇が絡み合い、いやらしい音を立てる。
 冷たい体。冷たい唇。冷たい舌。冷たい息。冷たい髪。冷たい香り。そのどれもが抱いているという感触を与えなかったが、目の前に居るこのゾンビから感じられたのは、只の食事としてではなく、愛の伴う行為そのものだった。だって、魔力の補給ならキスなんかより、挿入の方が断然早いだろう。それに…キスが終わり掛ける度に名残惜しそうに唇を重ねようとするのを見ても、そう感じる。
 俺は何時まで経ってもキスに耽っていそうな彼女に、優しくこう促す。
「ぷはっ。なぁ……そろそろ、俺のをどうにかしてくれないか?」
「……あー」
 返事をするように呻くと、フレデリカは体を引き下げ、再び俺の逸物にキスをした。そして、あ〜んと大袈裟に口を開いて……
    かぷっ
「! ……」
 口の中に入ったと思った瞬間、熱く滾った竿が急激に冷やされる。彼女の冷たい口の中で、俺の先走った汁はうねうねと動く舌に絡め、掬われ、そして喉の奥へと送られる。しかし、冷たい感触に蹂躙される感覚は、どちらかと言えば自慰をしている気分にもなる。
「フェラはセーフですよね?」
 念の為に審判に尋ねると、エキドナは顔を赤くしながらうんうんと頷いた。
「ええ。全然オッケーですよっ。はぁっ、はぁっ」
「……息を荒げて此方見んな、審判」
「ちゅぷ……くちゃ……っ」
 彼女は口の中に納めた逸物を飴のように舐めている。俺は奇妙な感覚に曝されながらも、暴発する事はないと考えていた。
 だがそんな矢先に。

   ジュルルル……ッ!」
「のほぉっ!?」

 急に凄い吸引力で一気に先走りを吸い取られる。そしてその後からフレデリカは本気と言わんばかりに刺激を開始する。
「ジュポッ、ジュルルルゥッ、チュッ、クチャ……ペチッ」
「く……っ!!」
 吸い付かれる拍子に、逸物は歯にぶつかって火花を散らし、しなやかな指で根元をきつく扱かれる。痛みが伴うが、それ以上に激しさを増す責めに、俺は我慢も出来ずに激情を込み上げる――っ!
 


――――――――――



   ♪」
 下半身の躍動が治まった頃、フレデリカの口元は白く穢れてしまっていた。しかしながら俺の息子にはまだ冷たい感触が覆い被さっており(厳密には自分の放った熱も絡んでいて複雑な感触なのだが)、うねうねと残滓を掬っては喉に通していた。まだ年麗らかな少女、例えゾンビ相手でも、この体中を奮い立たせるような背徳感は麻薬のように感じた。
「はぁっ、はぁっ」
 俺は一度出したにも関わらず、まだまだいけそうな気がした。自身の男根は未だ萎えない。フレデリカは俺のブツの熱を奪い続けながら、上目遣いで俺を見る。息を荒げてどんな顔をしているか想像に難しくないが、フレデリカは嬉しそうに笑んだ
 そして、ねとりとした糸を引いてフレデリカは俺を咥えるのを止めた。俺の顔の近くで、自分の顔を汚す精液をチロリと舌で拭い、口の中に溜め…ゴクリと飲み込んでみせる。再び愉悦の表情を見せ、俺の方をガシリと掴んだ。何をする気かと思えば、グイッと腰を近付けてきて   受け入れ態勢の整った花弁に雌蕊を押し付けた。
「!」
 咄嗟の判断で突き飛ばす。フレデリカは非力に地面に倒れた。頭を打ったように見えたが、平気そうに立ち上がろうとする。すると其処へヴァーチャーのアドバイスが飛ぶのだった。
「ゆけっ、エルロイ。今こそ69の時っ」
「……え?」
 69。その御姿からしていやらしい想像をした青少年は数知れないだろう。ああ、そうだ。お互いの淫らな部分をお互いの口で刺激しあう、あの体勢である。咄嗟にチェルニーの方を見るが、チェルニーはどうやら何も判っていない様子。俺がやると決めた後、ずっと後ろを向いているのだ。
「しっくす……ないん? なんだそれは」
「お互いの違う部分(性器)を(お口で)愛でる行為だよっ♪」
「? なんだかよく判らんが、遣りすぎるなよ、エルロイ」
 ヴァーチャー。その説明、凄く語弊がある気がする。あと、その行為自体もうすでにある種遣り過ぎている。
 所で俺は観客に見られている事などすっかり忘れ、もう一度フレデリカに向く。彼女は少し眉を顰め、怒っているようだった。だがそんな事は構うものか。すぐさま俺はフレデリカを引き倒し、素早く体位を変える。動きの遅いゾンビでは、俺の動きに付いては来れない。かくして俺の目の前には股がある訳だが、それを開くと其処には間近に花弁が蜜を溢れさせて居たのだった。
「あー……♪」
 どうやらこのゾンビは本格的に性交の味を覚えているらしい。この体勢に文句の一つも言わない。黙って冷たい口の中一杯に俺の熱い逸物を咥え込む。歯に当たったり粘液が絡みついたりと相変わらず刺激的な行為だが、俺も返さなければならない。…舌の先を彼女の恥裂に触れさせる
   っ」
 一瞬ピクリとした瞬間、蜜の量が増えた。その反応は、可愛い。俺はその蜜を舐めながら、自身の腰を彼女に押し付ける。彼女は俺の腰を抱いて、貪りつくように舌を絡めさせていた。時折強烈な吸い込みがくる。そのときは容赦なく放射するのだった。



――――――――――



 やがて、だ。昼間に行われた試合は夕方まで続く。後にやる予定だった試合を延ばしに延ばし、やっとフレデリカは俺から離れた。その顔面のみならず、髪や胸元まで俺の白い分身たちによって穢されてしまっていたが。突然立ち上がり、ずっとはぁはぁ言っているエキドナのところに言って、こう告げたのだった。
   お腹一杯」
 その一言で自分が解放された事に気付き、漸く一息吐く事が出来る。俺は結局何回イかされたんだ?もう途中から数えるのを諦めてしまった。競技場の中心で大の字で倒れこむ。空は確かに夕焼け色だったのを確認して、俺は眠りこけてしまったのだった……。

 








    二回戦に続く

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【メモ-その他】
“マイテミシア大武闘会”

遥か昔からマイテミシアにおいて最大の娯楽とされている大会。昔から魔物の参加も有りだった。その所為で、魔王が世代交代を果たしてから魔物たちの目的が変わっていき、婿探し兼大食いの場となってしまった。
お陰で風格も地に堕ち、参加者が魔物以外に居なくなってしまったが、その魔物すらいなくなってしまってはかなわないと、大会運営は其処等辺を歩いている魔物が好きそうな冒険者を半ば強引に参加させている。
運営の間ではそういう冒険者を生けに…ゲストと呼んでおり、自主的に参加の意思を示す人は心おきなく予選すっ飛ばして本戦に送る。

今ではこの大会も只の公開痴態ショーになってしまっているが、毎回観客席は(野郎と魔物で)埋まり、大盛況となっている。

この国の民はもう手遅れである。

09/12/25 23:58 Vutur

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