転校初日C
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
ノートに数式を書きつけていた手を止めて、時計を見る。
16時30分。
学校ではちょうど放課後に突入した頃だろうか・・・。
なんとなく嫌な予感がして左手の糸をたどると、玄関のドア方向をしっかりと指していた。
…居留守だな。
最強の断り文句『ごめん、寝てた』を明日どのように使うか考えていると、頭の中にストリーの声が響いた。
(くだらないこと考えてないで開けなさい。…ぶち犯すわよ)
ガチャリ
可能な限りのスピードでドアを解錠する。生まれて初めて聞いたぶち犯す、という単語は意味がわからないながらも自分にこの上ない恐怖をもたらした。
ガチャ
次いでドアを開ける。
するとそこにいたのは、不機嫌な顔をした悪魔そのものだった。
〜〜〜〜〜
『…はいこれ。今日配られたプリント』
なぜまた来たのかを訪ねると、そう言ってストリーは鞄から何枚かのプリントを取り出した。
まだ、頬はふくれている・・・。
『…ありがとう』
受け取りつつ、どうしたものか考える。
ぶっちゃけていえば、気まずいのだ。
今日一日という短期間で自分の相当奥深くまで入り込んで来た少女。
これまで特に女性との深い関わりを持ったことは無く、朝や昼のような突発的なやりとりならまだしも、こうしたいつ終わるともしれないやりとりは苦手だ。
…相手が機嫌悪いのも含めて。
とりあえず…
『お茶でも出すよ、座って』
『あら、そう。お構い無く』
〜〜〜〜〜
コクリ
ストリーの喉が動く。
自分の手元には同じ緑茶。
食卓にはおせんべい。
…今更ながら緑茶で良かったんだろうか。
いつもの感覚で結構渋めでいれてしまった。
ストリーのいた世界ではどんな飲み物があったんだろうか。
好みでも聞いておくべきだったな…。
落ち着こうと自分もお茶をあおる。
コトリと湯のみを下ろしたのは二人同時だった。
すると次の瞬間、膨れていた頬からは空気が抜け、ストリーが吹き出した。
『あなた、考えすぎ…』
『え…?』
何がおかしいのか、しばらくストリーは笑い続けた。
〜〜〜
『はぁ…ごめんなさい。あんまりおかしかったから』
そう言うと、ストリーはおせんべいをパリパリと食べ始めた。
『そんなにダメだったか…?結構ショックだぞ…』
つられて自分もおせんべいに手を伸ばす。
『そうじゃないわ。むしろ逆…良すぎるのよ。そんなに気を張らなくてもいいじゃない』
『そうは言ってもな…不機嫌な女子の来客とか初めてなんだよ』
『不機嫌は余計でしょう…この童貞』
『やめろ、その言葉は俺に効く…』
『大体、あなたを簡単に嫌うような女の子ならわざわざ家まで訪ねて来ないでしょう』
『…!』
その言い方は卑怯。
『…』
『…』
しばらく、お互いのぱりぱりとせんべいをかじる音が響く。
『…お茶、淹れ直すよ』
『・・・意気地なし』
放っとけ。
湯のみを受け取って、こぽこぽとお茶を注ぐ。
『…ストリーの世界のこと、教えてくれないか』
そう切り出したのは、多分不自然ではなかったと思う。
…今はこれが精一杯。
『…及第点ね』
残念ながら、見透かされていた。
…まぁ、当たり前といえば当たり前。
及第点ならいいや。
〜〜〜〜〜
『それでね!私はいいって言ったのにお姉様がね…』
すでにお茶を淹れ直すこと12回。
急須のお茶を入れ替えること6回。
時刻は19時30分を回った頃で、リビングの電灯は生き生きとしたストリーの顔と、かなりの疲れが見える自分の顔を照らしていた。
…いや、面白いよ?
幼馴染のヴァンパイアとの決闘だとか、
ドラゴンとの飛行高度の限界チャレンジだとか、
リッチやバフォメットを率いた『跳ね返せ!隕石大作戦』だとか、etcetc...。
ちなみに、今の話は『ええっ!なんで私がアイドルに!?〜お姉さまが勝手に応募して〜』だ。
ただちょっと連続3時間は…。
そう思っていると、
ぐぅ〜
お腹がなった。
…どっちのお腹かは言うまい。
はっとした表情でストリーが話を切り上げる。
『…ご飯にしましょうか』
…あの、ここ…僕の家なんですけど・・・。
〜〜〜〜〜
『それで、エリーザちゃんが分身を選挙の過半数を占めるように増やして・・・』
手元の食後のお茶が冷めきり、ストリーの話が『クイーンスライムとのたのしい建国〜そして、侵略へ〜』に差し掛かったころだろうか。
自分の頭は船を漕いでいた。
自分なんかに話して何が楽しいのか知らないが、ストリーはひどく上機嫌だ。
・・・家に女の子は招くべきじゃないな。
ぶっ通しで何時間もおしゃべり。普段の自分からは考えられないことだ。
・・・ただまぁ、たまにはいいか。
そんなことを最後の思考にして、とうとう自分のまぶたは睡魔に屈した。
チャイムが鳴った。
ノートに数式を書きつけていた手を止めて、時計を見る。
16時30分。
学校ではちょうど放課後に突入した頃だろうか・・・。
なんとなく嫌な予感がして左手の糸をたどると、玄関のドア方向をしっかりと指していた。
…居留守だな。
最強の断り文句『ごめん、寝てた』を明日どのように使うか考えていると、頭の中にストリーの声が響いた。
(くだらないこと考えてないで開けなさい。…ぶち犯すわよ)
ガチャリ
可能な限りのスピードでドアを解錠する。生まれて初めて聞いたぶち犯す、という単語は意味がわからないながらも自分にこの上ない恐怖をもたらした。
ガチャ
次いでドアを開ける。
するとそこにいたのは、不機嫌な顔をした悪魔そのものだった。
〜〜〜〜〜
『…はいこれ。今日配られたプリント』
なぜまた来たのかを訪ねると、そう言ってストリーは鞄から何枚かのプリントを取り出した。
まだ、頬はふくれている・・・。
『…ありがとう』
受け取りつつ、どうしたものか考える。
ぶっちゃけていえば、気まずいのだ。
今日一日という短期間で自分の相当奥深くまで入り込んで来た少女。
これまで特に女性との深い関わりを持ったことは無く、朝や昼のような突発的なやりとりならまだしも、こうしたいつ終わるともしれないやりとりは苦手だ。
…相手が機嫌悪いのも含めて。
とりあえず…
『お茶でも出すよ、座って』
『あら、そう。お構い無く』
〜〜〜〜〜
コクリ
ストリーの喉が動く。
自分の手元には同じ緑茶。
食卓にはおせんべい。
…今更ながら緑茶で良かったんだろうか。
いつもの感覚で結構渋めでいれてしまった。
ストリーのいた世界ではどんな飲み物があったんだろうか。
好みでも聞いておくべきだったな…。
落ち着こうと自分もお茶をあおる。
コトリと湯のみを下ろしたのは二人同時だった。
すると次の瞬間、膨れていた頬からは空気が抜け、ストリーが吹き出した。
『あなた、考えすぎ…』
『え…?』
何がおかしいのか、しばらくストリーは笑い続けた。
〜〜〜
『はぁ…ごめんなさい。あんまりおかしかったから』
そう言うと、ストリーはおせんべいをパリパリと食べ始めた。
『そんなにダメだったか…?結構ショックだぞ…』
つられて自分もおせんべいに手を伸ばす。
『そうじゃないわ。むしろ逆…良すぎるのよ。そんなに気を張らなくてもいいじゃない』
『そうは言ってもな…不機嫌な女子の来客とか初めてなんだよ』
『不機嫌は余計でしょう…この童貞』
『やめろ、その言葉は俺に効く…』
『大体、あなたを簡単に嫌うような女の子ならわざわざ家まで訪ねて来ないでしょう』
『…!』
その言い方は卑怯。
『…』
『…』
しばらく、お互いのぱりぱりとせんべいをかじる音が響く。
『…お茶、淹れ直すよ』
『・・・意気地なし』
放っとけ。
湯のみを受け取って、こぽこぽとお茶を注ぐ。
『…ストリーの世界のこと、教えてくれないか』
そう切り出したのは、多分不自然ではなかったと思う。
…今はこれが精一杯。
『…及第点ね』
残念ながら、見透かされていた。
…まぁ、当たり前といえば当たり前。
及第点ならいいや。
〜〜〜〜〜
『それでね!私はいいって言ったのにお姉様がね…』
すでにお茶を淹れ直すこと12回。
急須のお茶を入れ替えること6回。
時刻は19時30分を回った頃で、リビングの電灯は生き生きとしたストリーの顔と、かなりの疲れが見える自分の顔を照らしていた。
…いや、面白いよ?
幼馴染のヴァンパイアとの決闘だとか、
ドラゴンとの飛行高度の限界チャレンジだとか、
リッチやバフォメットを率いた『跳ね返せ!隕石大作戦』だとか、etcetc...。
ちなみに、今の話は『ええっ!なんで私がアイドルに!?〜お姉さまが勝手に応募して〜』だ。
ただちょっと連続3時間は…。
そう思っていると、
ぐぅ〜
お腹がなった。
…どっちのお腹かは言うまい。
はっとした表情でストリーが話を切り上げる。
『…ご飯にしましょうか』
…あの、ここ…僕の家なんですけど・・・。
〜〜〜〜〜
『それで、エリーザちゃんが分身を選挙の過半数を占めるように増やして・・・』
手元の食後のお茶が冷めきり、ストリーの話が『クイーンスライムとのたのしい建国〜そして、侵略へ〜』に差し掛かったころだろうか。
自分の頭は船を漕いでいた。
自分なんかに話して何が楽しいのか知らないが、ストリーはひどく上機嫌だ。
・・・家に女の子は招くべきじゃないな。
ぶっ通しで何時間もおしゃべり。普段の自分からは考えられないことだ。
・・・ただまぁ、たまにはいいか。
そんなことを最後の思考にして、とうとう自分のまぶたは睡魔に屈した。
16/03/24 19:36更新 / 島眠
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