連載小説
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ただいま。
「お、お兄様。」

「何?キス?」

「なんで私の時だけすぐ気付くんですかっ!!」

ーーーー

いやだってそりゃあ、他の二人がこの短期間でキスしてって言ってきてるならばこんなモジモジ妹から発せられるのはどう考えてもキスだろう。

そのくらいわかる。
というかコイツに関しては実の妹なわけで、気張る必要もない。
いいかっこする必要がないのだ。

一言で言えば楽。

「いやいやいや、もっとこう、鈍感を貫くべきじゃあないんですか?それでは世界チャンピオンは狙えませんよ?」

「なんの世界チャンピオンだよ、それ。
いいか?他の奴はまだしも、お前は実の妹だろう?」

「えぇまぁ、実の妹ですね、嫁ですね。」

「とりあえず実の妹の意味を加味して欲しいんだけど。」

なんだろう、この、やるせない気持ちは。
いや妹はこんなんではなかったはずなのだ、こう、ごく普通の妹というか。
反抗期はちゃんと来ていたというか。

兄を、嫌っていたというか。

「嫌ってなんていませんよ、むしろ大好きでした。」

「お前、俺の服と一緒に洗濯することさえ嫌がってたじゃないか。」

「えぇそりゃ、お兄様の匂いが私の服に付いていると思うと興奮しちゃって行動出来なくなりますからね。フェロモンパラライズ。」

こんなキャラでは…なかったはずなのだ…。

とりあえず義妹に関してはまだ義理なので、キスやらしてもいいかな?とか、兄だからしょうがないなんてこじつけていやらしい事をしてもいいかな、なんていう気がないわけでもない。

いや、ないけど、そんな気はないけど、理解ができないわけではない。

だが実の妹、てめぇはダメだ。
まず一番に恋愛対象にはどうやっても見れない。

実の妹だぜ?ずっと一緒に居た家族だぜ?

大好きで、一緒に居ると落ち着いて、ぶっちゃけ最愛ではあるけれどそれは家族としてであり。

仲のいい友達や、好きな女の子、という意味での愛情を注ごうと思いすらしたことがない。

「私はしょっちゅうおもってましたけどね、レンにぃ大好きって。」

「それはきっと家族愛を取り違えたんだ、今ならまだ間に合う。」

「いえ、間に合いませんよ。」

「えっ?」

ニッコリと微笑み、何を言い出すのかと思えば、まぁ、それは至極当然な事だった。

「だって憑いたじゃないですか、それでもうお兄様と私は愛の契約で結ばれているわけですよ。」

「…お、おい、じゃあ。」

「えぇ、私はいつでもお兄様の事を襲えますよ。」

…とんでもない事実が発覚した。

ーーーー

どうやら襲うと俺は完全にサヤの虜になってしまうし、それをすると妹達の仲が悪くなってしまうからしない、という話であった。

「ただまぁ。ほんとにお兄様が誰かのところに行きそうになったらしますけどね。」

とだけ付け加えてはいたが。

思えば生前のサヤには、ほとんど何をしてやれていなかったと思う。
たまに一緒に遊んでやって、たまに家事を手伝って、程度。

というかずっと一緒に居るものだと思っていたから、きっと俺は安心しきっていたのだと思う。

今やらなくても、別にまだ時間はあるだろ。

みたいな。

それは親父にも言えることであり、まぁ、俺は家族団欒を一瞬にして無くしている。

今はなんか家族団欒っていうか、家族散漫…いや、家族淫乱…いやなんでもない、なんでもないです。

とりあえず衝撃だったのは、あいつが生前から俺を好きだった、ということである。

嫌われてると思っていた。

というか、現に一度大嫌いって言われたことがあった。

シチュエーションは忘れてしまったが、言われたことがある。
それ以来避けてしまっていたのかもしれない。

さて、そんな自分語をしつつどこへ向かっているのかといえば、自分の部屋である。

あの後サヤに

「私は実の妹とか!!家族とか!!すっとばして魔物なんです!!キスくらいさせてくださいよ!!あぁこんな大好きなお兄様と何もないままずっと一緒にいたら発狂ものですよ!!あいらびゅー!!」

とか、なんとか、もうすでに発狂されたので仕方なくキスを受理してしまったのだ。

嫌なわけではない。
別に家族間のキスだと思えば平気だし、恋愛対象としては見れないだけでくどいようだけど俺はあいつのことは好きだ。

「…お邪魔します。」

「どうも、お兄様。」

自分の部屋なのにお邪魔します、というのもいささか変な話ではあるけれども。

こんなファンタジーの魔王よろしくデーンとど真ん中に佇まれてはこう言わざる負えなかった。

「まぁまぁ、とりあえず一緒に寝ましょうよ、話はそれからなんです。」

「寝る?お前の望みはキスをすることじゃなかったのか?」

「あぁもう任せてくれればいいんですよ、ほらっ、どうぞどうぞ。」

グイグイと俺をベッドに連れていく。
半ば押し倒される感じでベッドに寝転がると、透ける体を有効活用して俺の布団に入ってきた。

布団に上から入る奴初めて見たわ。

「ふふ、思い出しますねぇ…雷の日でしたっけ、怖くて一緒に寝た時ありますよねぇ…」

「そうだっけか?」

「そうですよ…その時は、優しく優しく可憐な私を撫でてくれたものですけれど、今の他の妹に鼻の下を伸ばしている愚かなお兄様はしてくれないんですかね?」

「酷い言いようだな…わかったよ、してやるよ。」

素直に撫でてくれとは言えないのか
なんて言うのはやぶへびである。

気持ち良さそうに俺の胸に体を預け、そのあまり力の入っていない半透明の体を俺に巻き付けてくる。

柔らかいな、魔物になっても、こいつは全然変わらないじゃないか。

「…おやすみなさい、お兄様。」

「…おう、おやすみ。」

その日は睡眠導入剤を使ったかのように、すんなりと寝付くことができた。

ーーーー

白い空間。
に、ベッドがポツリ。

なんだ?どこだ、ここは。

「あ、やっと起きましたね、ねぼすけ。」

「…デジャブだな。」

仰向けに寝ていた俺の上に、またがるようにして居たのはサヤだった。

「えへへ、お兄様、好きです。」

「…なんだよ急に。」

抱き着かれた。

ぎゅう、と、確かに感触を感じる。

違和感。
ゴーストにはこんなちゃんとした、しっかりとした感触はないはず。

「これは夢です。」

俺の胸に抱き着いたまま、サヤはそういった。

あぁ。夢か、なるほど。

夢だと思った途端、いつもの、いや、昔の風景の俺の部屋がその真っ白な空間に映し出された。

「…あぁ、やっぱりしっかりくっつける方が落ち着きますね。お兄様。」

すりすりと俺に頬擦りをしてくる。
さながら小動物のように。

そのくすぐられるような感触が、何故かとても心地よかった。

「…お兄様大好き。」

「…俺も大好きだよ。」

そうだ、どうせなら聞いてしまおう。
覚えてないなら覚えてないでいいし、ただの反抗期ならそれでいい。

「なぁ、お前、俺に大嫌いって言ったことなかったか?」

「え、えーと…あぁ、あります、一度だけ。」

「やっぱり」

あるらしい、俺の思い違いではなかったようだ。

「でも些細なコトですよ、お兄様に、ゲームで何回も何回もコテンパンにされただけです。」

「んぁ、そんだけ?」

「我ながら子供っぽい理由でした。今思うと。
その時からお兄様は私の中でチャンピオンになったんですけれどね。

服従すべき存在。」

「なんだよ、それ。」

だからか。
だから、家事も、なにもかも、率先してやってくれていたのか。

「そういえば、まだその分の給料を貰ったことなかったですよね?」

にやりと小悪魔的笑みを浮かべながらさらに俺に体を密着させてきた。

妹じゃなかったらやばかったかもしれない。

「給料、下さい、ここに。」

さっきまでの密着から一転、すっとベッドの上で立ち上がり、服をめくった。

「な、何してんだお前っ!」

「下さいよ、給料。あ、腰に抱きついてもらっても構いませんよ?」

にひひ、といった笑い声をあげ、服をさらにまくる。
もう上半身は半分以上見えてしまっている、恥じらいなどは、まるっきりなさそうだけれど。

「…わ、わかったよ、尽くしてくれたもんな、そこでいいなら、いくらでも…」

「あとやっぱり抱き着いてもいい、ではなく抱き着いてくれませんかね。
しっかりとお兄様の感触を味わえる機会、そうないですし。」

俺が決心した所で、相手は少し頬を染めてそういった。

「…じゃあ。」

相手の腰に腕を回し、腹にぴったりと頬を付ける。

「んっ…」

若干甘い声を漏らした彼女を尻目に、言われたとおりに。

「…お兄様、ただいま。」

相手の小さなへそに、キスをした。

ーーーー

「…………………」

「おかえり…」

正直言って大成功でした。
腹にキス、回帰的な意味があるのですが、まぁ、帰ってきた的な意味で使ってもいいでしょう。

というか使わせてください。

「キス、してもらえた?」

「えぇ、そりゃ、濃厚なやつを。」

「ん、待って、お兄さんとどんなキスをしたの?」

「秘密ですぅー。」

嘘は言っていません。
たった一回のキスに濃厚な思いが詰まっていたはずなので。

シズクさんが頬を膨らませていますが、まぁ問題ないでしょう。

…今度また、添い寝しに行っちゃいましょうかね。
15/10/16 00:17更新 / みゅぅん
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■作者メッセージ
はい、キスパート終わりました。
今回はシズクはおやすみです。

あと3000文字程度書いたのが保存せず終了してパーになったとき、連載やめてやろうかと本気で考えました。

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