後輩をことごとくスルーする話。
さて、と、いきなり本題に入ろうか。
俺が努めているのは土木工事の仕事である。
何をしているかといえば、石どけたり森整備したりではない。
人間、力では大体魔物には到底叶わないので力仕事などは大体任せるしかないためである。
では何をしているかというと、電動ドリル磨きである。電動ドリル磨き。きゅっきゅって。
まぁ、整備士というやつなのだが。
この仕事、聞こえでは簡単そうなのだが。
無駄に綺麗にしないと怒る上司はいるわ、一日に回ってくる量は300ちょいとかで、もう、なんか、目が回る感じなのである。
そしてもちろん定時に帰りたい俺は、たかが電動ドリル磨きに超絶集中するわけである。たかが。
さらにいきなりだがたとえ話をしよう。
例えば某配管工が桃を助けるゲームで、敵キャラや邪魔なものがなければとてつもなく簡単に終わると思うのだ。
これを俺に置きかえよう。
俺がドリルを磨く仕事で、後輩さえいなければ、簡単に終わるはずなのだ。
なにが嫌かって、なにが面倒かって、それをひとつずつ区切ってお伝えしようと思う。
あと後輩ってところに釣られた人は演劇部入るといいぞ、演劇部。女子多め男子少なめだから上手くいくとハーレムになる。マジで。
青春時代をやり直せないまで育っている大きなお友達は…そうだな、近くの小学校にマスクとサングラスにフードかぶって突撃するといい。
それでは、見せ付けよう。
ーーー
まず朝、職場の扉を開けると同時に社員は皆挨拶をする。いい事だ。
その中で一人だけ挨拶をせずに無言で寄ってきてぶつかって来る奴がいる。
「あっ、すいません、見えませんでした。(棒)」
頭には触覚が生えていて、下半身は虫のそれ。
ジャイアントアント、という魔物である。
直訳すると大きなアリ。ジャイアントアントってネーミングセンスはなかなかいいと思う、ほら、ジャイアント、アントで、駄洒落というかそのすg(以下略)
いつもならグリグリでもしてやるところだが、今日の目標はスルーである。
うん。
「そうかそうか、ちっこ過ぎて俺がなんだか分からなかったんだな。」
「ちっこくないです!!先輩くらい!先輩くらいすぐ越します!!」
「あー、そう、そりゃ楽しみだ」
「うぅー!」
…これスルーできてるのであろうか。良くわかんないけど、多分大丈夫。
俺は後輩をスルーして自分の持ち場につく。
ちなみにこのジャイアントアント、ちっこいが個体的には基本的怪力なので、重機的扱いである。
ちなみにお姫さまだっこされたこともある。
死にたい。
電動ドリルが何本も回ってくるとはいえど、それは使った後の話なので基本的朝は暇である。
そんな時はコーヒーでも職員に注いでやったりもする。
あぁ、この会社、割と緩い所があるので、ノルマさえ達成できれば遊んでようが何してようが許す、という風紀なのだ。
なので、俺と同じで仕事がないと…
「…先輩いい匂いしますよねぇー」
「背中にくっつくな、暑い。」
こうなる。
十中八九こうなる。
「またまたぁ、クーラー着けてるんですから暑くないでしょうに。」
「訂正、暑苦しい。」
「性格は冷たいですね…」
後いかにも「今日」スルーしているような話をしてきたが、これを毎日である。
正直そろそろ嫌ってくれてもいいんじゃないかとすら思う。
嫌われたいわけじゃないが、好かれるのも、うん、ごめん、邪魔なのだ、俺はそもそもに人が苦手である。
年下も苦手である。
そして女子が苦手である。
虫は平気だけど。
なんでそんな苦手のエレクトリックパレードなので、どう扱っていいかわからないし、この冷たい反応のせいで傷つけて居ないかと内心ヒヤヒヤなのである。
冷たい反応をしてヒヤヒヤとはこれまた面白い言葉遊びみたいになったな、小説にでも使えるだろうか。
「…いい匂いっていうか、もうこれ女子の香りですよ、女子臭。」
「変な事言うな…そんなわけないだろ、柔軟剤だ柔軟剤。」
「えーっ、女子臭しますよ!」
他愛もなすぎてなんか何かに申し訳なくすらなってくる。
許されてるとしても仕事をしてない罪悪感ががが。
取り敢えずこの背中にぴっとりとくっついてる後輩を引き剥がす。
「ぅぁー」
気の抜けた声を出して剥がれた。
離れた、というより剥がれた、という感じなのが状況をうまく伝えられていると思う、うん。
「なんでそんなに離れようとするんですか。」
「いや…それは…」
「なんでですか…」
苦手だから、なんて率直に言えないし、傷付けたくないから、なんて臭いセリフも言えないので、適当にあしらっておく
「職場だからな、休憩っぽい時間とはいえ、けじめだよ、けじめ。」
「じゃあ外ならいいんですか?」
…これは確実にデートの誘いに発展する流れだ、なんとか話題を逸らさねば。
「いや、そーいう問題じゃなくてな、そもそも付き合ってもない人にくっつくなという…」
「大好きなので一緒にどっか行きましょう。」
この子に聞く耳なんてなかった。
甘く見てた。舐めてた。
甘いものを舐めるのはアリの仕事だけど。
「……さて、そろそろ電動ドリルが来る頃だろうな。」
「スルーですか、スルーですかそうですか、諦めませんからね!」
頬を膨らませて、少年よ大志を抱けみたいなポーズで宣言する後輩さん。
もうね、バカかと。
バカか。知ってた。
「お前も仕事しろよ。」
「仕事したいのはやまやまなんですけど、そもそもないんですよね。もうほとんど片付けちゃって。」
「…あぁ、そう。」
「なので今日はずっと先輩の傍に居ます。」
「それは許さん。」
まぁそりゃそうなのである。
土砂崩れなんてほとんど起きないし、空間転移のような魔法が出てきていらい発破解体なんてなくなったし。
「ということでくっつきまーす!」
「させん」
「ふぐっ」
飛びついてきた蟻の顔面を手で止める。
「ぎゅー、ぎゅーっ」
バタバタと手を振って近付こうとしているがそんなもんは許さない。
ぱっと手を離すと、案の定勢いを抑えられなかった後輩は地面とキスをするハメになった。
「うぅぅ…意地悪……」
「こっちは仕事があるんだよ、とりあえず一二時間集中させてくれ。」
「それはつまり一二時間たったらその我慢しただけくっついてもいいということですよね。」
「いや違うけど。」
その後十分ちょい説得して、部屋から出て行ってもらった。
ーーー
本当の休憩時間なう。
持ち場から離れてみんなが集まっている場所へ向かおうとする。
向かおうとする。
向かおうとした。
向かえなかった。(三段活用)
「せーんぱぁーっい!!」
「うっわっ!?」
後ろから飛び付かれた、不覚だった。
今の世が戦国時代だったら死んでた。
「せんぱい…せんぱいの匂い…♥」
「流石に…ッ、気持ち悪いって…ッ」
こーいう時の魔物娘の力は凄まじいもので、朝は簡単に引き剥がせたのに、今は彼女を全く剥がすことが出来なかった。
しかし気持ち悪いは効いたらしく。
「き、気持ち悪……」
しょぼんとした感じで離れた。
「わ…悪い、言い過ぎたよ。」
「じゃあくっついていいですか…」
「それはダメ。」
半べそかいてやがる。あぁ…めんどくさい…、
「…んっ」
ぽん、と頭を撫でてやる。
「これで許せ。」
「…こんな簡単なので許すなんて思わないでくだs…ふぁ…//」
実にちょろいんである。
その後力の抜けた後輩をお姫さまだっこ(復讐もかねて)でソファまで運んでおいた。
ーーー
「…後10個くらいか…」
今日も残業前に終わりそうである。
良かった。
凄く疲れるが達成感もあるので、まぁ、恐ろしい程苦しくもない。
綺麗になるのを待っている次のドリルさんを取ろうとした瞬間、
「…疲れました…」
「ぁっ!?」
…また来た。
今度は後ろから首に手を回され、耳元で囁かれるような状態である。
集中してて全く気づいてなかったので変な声を出してしまった。
「疲れましたー…せんぱーい…」
「だからって俺の所に来るなよ…後シャワー浴びてこい、シャワー、湿っぼい」
「えーっ…それすらめんどくさいです…」
汗をかいている状態で抱きつかれる、臭くはないし、どらかといえば甘い香りすらしているのだが、しかし、こう、生理的な問題というか。
一番の問題は…
「…いや、マジで、お前の汗媚薬みたいな効果あるんだろ…」
「あ、バレてたんですかー…?」
確信犯だった。
「ふふ…抵抗できませんよね…せんぱい…」
「……」
「私疲れちゃったんです…癒してくれますよね…?」
「………」
引き剥がすことは多分出来ないので、無理やり堪えて電動ドリルをウォッシャーすることにした。
「せーんぱーい……反応してくださいよぅ…」
今日も天気がいいなぁ。
「無視ですか…虫だけに無視ですか…?」
あっ、これ本気で疲れてるぞ、大丈夫かこいつ。
「いいです…話を聞いてくれないのなら…」
そう耳元で囁いた後、
「ぁむ…っ」
後輩は俺の耳にカプリと噛み付いた。
「ぅぁっ」
「…すきれふ…せんぱい…」
そのまま愛を囁かれる、恥ずかしいなんてもんじゃない、心をくすぐられているようだ。
後輩はぎゅうと抱き締めたまま、耳の穴へと舌を這わせて来る
「ん…じゅる…」
「っ、ぁ、ぅ…」
大丈夫、なんとかなる、後五本くらいだ、逃げきれる。
「ん…強情ですね…堕ちちゃっていいんですよ…?」
「…うるせぇ…どっか行け…」
「…ほんと冷たいですねぇ。」
耳を舐めるのでは堕ちないと判断したのか、今度は首筋に噛み付いて来た
「ぅっ…」
「せんぱい…せんぱいの匂いする…♥」
ねっとりと首筋を舐め上げられ、徐々に力が抜けていくのが分かった。
快楽を逃がそうにも、手に掴んでいるのは電動ドリル。
もしも振り回して怪我でもさせてしまったら最悪である。
この磨いているのが石ころかなにかならいくらでも振り払えるのに。初めて電動ドリルの事を恨んだ。
「はむ…んん…っ」
捕食するように俺の首筋を味わう後輩さん。
段々とまだ隙間があった体と体の隙間が、ひっつかれて無くなっていく。
密着して漂う彼女の匂いに、もう目眩すら覚えるレベルだった。
これ以上はやばい、堕ちる、しょうがない、上司には怒られるとしよう。
最後の一本をおざなりに終わらせて、ガッと天高く腕を突き上げる。
秘技、バンザイポーズである。
「終わったァ!!!」
「きゃぅっ!?」
当然後ろにひっついてた後輩は転がった。
「ぅー…今日こそ落とせると思ったのに…」
「お前なんかに堕ちてたまるか。こんなのへでもない。」
「むぅぅ…」
ウソデス、カナリアブナカッタデス。
ーーー
そして無事仕事が終わり、職場にお疲れ様ですと挨拶して帰る。
お疲れ様ですと言うとちゃんとお疲れ様ですと帰ってくるあたり、とても雰囲気のいい会社である。
余談だがあの後最後の一本もちゃんと綺麗に洗っておいた。
「せーんぱぁーっい!!」
「…」
「せーんーぱーーーい」
「…先輩!!!」
「うるせぇ!!」
何か来た。
いや、もう、一瞬で誰か分かったが。
「無視は行けませんと何度も言ってるじゃないですか!!傷つきますよ!!」
「あー…ごめんて…」
あくまで適当にあしらう。
「あのですね、社長からこんなもの貰ったんですよ。」
「あん?」
「じゃーっん!!」
後輩のてにはショーへのチケットが二枚握られていた。
「いやぁ、私これすっごく見たかったんですよねぇ」
「あぁそう」
「ここに二枚のチケットがあるじゃないですか!なんですかその俺関係ねぇみたいな反応は!」
「俺関係ねぇもん。」
休日は家ですごしたいのだ。
許せ。
後輩に背を向けて家に帰る。
「いやいやいや、可愛い後輩の頼みが聞けないんですか!?」
「自分の事可愛いとか言うなよ。」
「事実ですし。」
まぁ、可愛いんだけど。
「とりあえずポケットの中にチケット忍ばせておいたんで!開演に合わせてきてくださいねっ!」
「なっ!?」
しまった、油断していた!
「それでは!お疲れ様でした!!」
「あっ、お、おいっ!!」
こうして、誰かさんのせいで二三倍近く感じた仕事が終わり、うるさくも愛しい後輩のせいで、休日は潰れたのだった。
俺が努めているのは土木工事の仕事である。
何をしているかといえば、石どけたり森整備したりではない。
人間、力では大体魔物には到底叶わないので力仕事などは大体任せるしかないためである。
では何をしているかというと、電動ドリル磨きである。電動ドリル磨き。きゅっきゅって。
まぁ、整備士というやつなのだが。
この仕事、聞こえでは簡単そうなのだが。
無駄に綺麗にしないと怒る上司はいるわ、一日に回ってくる量は300ちょいとかで、もう、なんか、目が回る感じなのである。
そしてもちろん定時に帰りたい俺は、たかが電動ドリル磨きに超絶集中するわけである。たかが。
さらにいきなりだがたとえ話をしよう。
例えば某配管工が桃を助けるゲームで、敵キャラや邪魔なものがなければとてつもなく簡単に終わると思うのだ。
これを俺に置きかえよう。
俺がドリルを磨く仕事で、後輩さえいなければ、簡単に終わるはずなのだ。
なにが嫌かって、なにが面倒かって、それをひとつずつ区切ってお伝えしようと思う。
あと後輩ってところに釣られた人は演劇部入るといいぞ、演劇部。女子多め男子少なめだから上手くいくとハーレムになる。マジで。
青春時代をやり直せないまで育っている大きなお友達は…そうだな、近くの小学校にマスクとサングラスにフードかぶって突撃するといい。
それでは、見せ付けよう。
ーーー
まず朝、職場の扉を開けると同時に社員は皆挨拶をする。いい事だ。
その中で一人だけ挨拶をせずに無言で寄ってきてぶつかって来る奴がいる。
「あっ、すいません、見えませんでした。(棒)」
頭には触覚が生えていて、下半身は虫のそれ。
ジャイアントアント、という魔物である。
直訳すると大きなアリ。ジャイアントアントってネーミングセンスはなかなかいいと思う、ほら、ジャイアント、アントで、駄洒落というかそのすg(以下略)
いつもならグリグリでもしてやるところだが、今日の目標はスルーである。
うん。
「そうかそうか、ちっこ過ぎて俺がなんだか分からなかったんだな。」
「ちっこくないです!!先輩くらい!先輩くらいすぐ越します!!」
「あー、そう、そりゃ楽しみだ」
「うぅー!」
…これスルーできてるのであろうか。良くわかんないけど、多分大丈夫。
俺は後輩をスルーして自分の持ち場につく。
ちなみにこのジャイアントアント、ちっこいが個体的には基本的怪力なので、重機的扱いである。
ちなみにお姫さまだっこされたこともある。
死にたい。
電動ドリルが何本も回ってくるとはいえど、それは使った後の話なので基本的朝は暇である。
そんな時はコーヒーでも職員に注いでやったりもする。
あぁ、この会社、割と緩い所があるので、ノルマさえ達成できれば遊んでようが何してようが許す、という風紀なのだ。
なので、俺と同じで仕事がないと…
「…先輩いい匂いしますよねぇー」
「背中にくっつくな、暑い。」
こうなる。
十中八九こうなる。
「またまたぁ、クーラー着けてるんですから暑くないでしょうに。」
「訂正、暑苦しい。」
「性格は冷たいですね…」
後いかにも「今日」スルーしているような話をしてきたが、これを毎日である。
正直そろそろ嫌ってくれてもいいんじゃないかとすら思う。
嫌われたいわけじゃないが、好かれるのも、うん、ごめん、邪魔なのだ、俺はそもそもに人が苦手である。
年下も苦手である。
そして女子が苦手である。
虫は平気だけど。
なんでそんな苦手のエレクトリックパレードなので、どう扱っていいかわからないし、この冷たい反応のせいで傷つけて居ないかと内心ヒヤヒヤなのである。
冷たい反応をしてヒヤヒヤとはこれまた面白い言葉遊びみたいになったな、小説にでも使えるだろうか。
「…いい匂いっていうか、もうこれ女子の香りですよ、女子臭。」
「変な事言うな…そんなわけないだろ、柔軟剤だ柔軟剤。」
「えーっ、女子臭しますよ!」
他愛もなすぎてなんか何かに申し訳なくすらなってくる。
許されてるとしても仕事をしてない罪悪感ががが。
取り敢えずこの背中にぴっとりとくっついてる後輩を引き剥がす。
「ぅぁー」
気の抜けた声を出して剥がれた。
離れた、というより剥がれた、という感じなのが状況をうまく伝えられていると思う、うん。
「なんでそんなに離れようとするんですか。」
「いや…それは…」
「なんでですか…」
苦手だから、なんて率直に言えないし、傷付けたくないから、なんて臭いセリフも言えないので、適当にあしらっておく
「職場だからな、休憩っぽい時間とはいえ、けじめだよ、けじめ。」
「じゃあ外ならいいんですか?」
…これは確実にデートの誘いに発展する流れだ、なんとか話題を逸らさねば。
「いや、そーいう問題じゃなくてな、そもそも付き合ってもない人にくっつくなという…」
「大好きなので一緒にどっか行きましょう。」
この子に聞く耳なんてなかった。
甘く見てた。舐めてた。
甘いものを舐めるのはアリの仕事だけど。
「……さて、そろそろ電動ドリルが来る頃だろうな。」
「スルーですか、スルーですかそうですか、諦めませんからね!」
頬を膨らませて、少年よ大志を抱けみたいなポーズで宣言する後輩さん。
もうね、バカかと。
バカか。知ってた。
「お前も仕事しろよ。」
「仕事したいのはやまやまなんですけど、そもそもないんですよね。もうほとんど片付けちゃって。」
「…あぁ、そう。」
「なので今日はずっと先輩の傍に居ます。」
「それは許さん。」
まぁそりゃそうなのである。
土砂崩れなんてほとんど起きないし、空間転移のような魔法が出てきていらい発破解体なんてなくなったし。
「ということでくっつきまーす!」
「させん」
「ふぐっ」
飛びついてきた蟻の顔面を手で止める。
「ぎゅー、ぎゅーっ」
バタバタと手を振って近付こうとしているがそんなもんは許さない。
ぱっと手を離すと、案の定勢いを抑えられなかった後輩は地面とキスをするハメになった。
「うぅぅ…意地悪……」
「こっちは仕事があるんだよ、とりあえず一二時間集中させてくれ。」
「それはつまり一二時間たったらその我慢しただけくっついてもいいということですよね。」
「いや違うけど。」
その後十分ちょい説得して、部屋から出て行ってもらった。
ーーー
本当の休憩時間なう。
持ち場から離れてみんなが集まっている場所へ向かおうとする。
向かおうとする。
向かおうとした。
向かえなかった。(三段活用)
「せーんぱぁーっい!!」
「うっわっ!?」
後ろから飛び付かれた、不覚だった。
今の世が戦国時代だったら死んでた。
「せんぱい…せんぱいの匂い…♥」
「流石に…ッ、気持ち悪いって…ッ」
こーいう時の魔物娘の力は凄まじいもので、朝は簡単に引き剥がせたのに、今は彼女を全く剥がすことが出来なかった。
しかし気持ち悪いは効いたらしく。
「き、気持ち悪……」
しょぼんとした感じで離れた。
「わ…悪い、言い過ぎたよ。」
「じゃあくっついていいですか…」
「それはダメ。」
半べそかいてやがる。あぁ…めんどくさい…、
「…んっ」
ぽん、と頭を撫でてやる。
「これで許せ。」
「…こんな簡単なので許すなんて思わないでくだs…ふぁ…//」
実にちょろいんである。
その後力の抜けた後輩をお姫さまだっこ(復讐もかねて)でソファまで運んでおいた。
ーーー
「…後10個くらいか…」
今日も残業前に終わりそうである。
良かった。
凄く疲れるが達成感もあるので、まぁ、恐ろしい程苦しくもない。
綺麗になるのを待っている次のドリルさんを取ろうとした瞬間、
「…疲れました…」
「ぁっ!?」
…また来た。
今度は後ろから首に手を回され、耳元で囁かれるような状態である。
集中してて全く気づいてなかったので変な声を出してしまった。
「疲れましたー…せんぱーい…」
「だからって俺の所に来るなよ…後シャワー浴びてこい、シャワー、湿っぼい」
「えーっ…それすらめんどくさいです…」
汗をかいている状態で抱きつかれる、臭くはないし、どらかといえば甘い香りすらしているのだが、しかし、こう、生理的な問題というか。
一番の問題は…
「…いや、マジで、お前の汗媚薬みたいな効果あるんだろ…」
「あ、バレてたんですかー…?」
確信犯だった。
「ふふ…抵抗できませんよね…せんぱい…」
「……」
「私疲れちゃったんです…癒してくれますよね…?」
「………」
引き剥がすことは多分出来ないので、無理やり堪えて電動ドリルをウォッシャーすることにした。
「せーんぱーい……反応してくださいよぅ…」
今日も天気がいいなぁ。
「無視ですか…虫だけに無視ですか…?」
あっ、これ本気で疲れてるぞ、大丈夫かこいつ。
「いいです…話を聞いてくれないのなら…」
そう耳元で囁いた後、
「ぁむ…っ」
後輩は俺の耳にカプリと噛み付いた。
「ぅぁっ」
「…すきれふ…せんぱい…」
そのまま愛を囁かれる、恥ずかしいなんてもんじゃない、心をくすぐられているようだ。
後輩はぎゅうと抱き締めたまま、耳の穴へと舌を這わせて来る
「ん…じゅる…」
「っ、ぁ、ぅ…」
大丈夫、なんとかなる、後五本くらいだ、逃げきれる。
「ん…強情ですね…堕ちちゃっていいんですよ…?」
「…うるせぇ…どっか行け…」
「…ほんと冷たいですねぇ。」
耳を舐めるのでは堕ちないと判断したのか、今度は首筋に噛み付いて来た
「ぅっ…」
「せんぱい…せんぱいの匂いする…♥」
ねっとりと首筋を舐め上げられ、徐々に力が抜けていくのが分かった。
快楽を逃がそうにも、手に掴んでいるのは電動ドリル。
もしも振り回して怪我でもさせてしまったら最悪である。
この磨いているのが石ころかなにかならいくらでも振り払えるのに。初めて電動ドリルの事を恨んだ。
「はむ…んん…っ」
捕食するように俺の首筋を味わう後輩さん。
段々とまだ隙間があった体と体の隙間が、ひっつかれて無くなっていく。
密着して漂う彼女の匂いに、もう目眩すら覚えるレベルだった。
これ以上はやばい、堕ちる、しょうがない、上司には怒られるとしよう。
最後の一本をおざなりに終わらせて、ガッと天高く腕を突き上げる。
秘技、バンザイポーズである。
「終わったァ!!!」
「きゃぅっ!?」
当然後ろにひっついてた後輩は転がった。
「ぅー…今日こそ落とせると思ったのに…」
「お前なんかに堕ちてたまるか。こんなのへでもない。」
「むぅぅ…」
ウソデス、カナリアブナカッタデス。
ーーー
そして無事仕事が終わり、職場にお疲れ様ですと挨拶して帰る。
お疲れ様ですと言うとちゃんとお疲れ様ですと帰ってくるあたり、とても雰囲気のいい会社である。
余談だがあの後最後の一本もちゃんと綺麗に洗っておいた。
「せーんぱぁーっい!!」
「…」
「せーんーぱーーーい」
「…先輩!!!」
「うるせぇ!!」
何か来た。
いや、もう、一瞬で誰か分かったが。
「無視は行けませんと何度も言ってるじゃないですか!!傷つきますよ!!」
「あー…ごめんて…」
あくまで適当にあしらう。
「あのですね、社長からこんなもの貰ったんですよ。」
「あん?」
「じゃーっん!!」
後輩のてにはショーへのチケットが二枚握られていた。
「いやぁ、私これすっごく見たかったんですよねぇ」
「あぁそう」
「ここに二枚のチケットがあるじゃないですか!なんですかその俺関係ねぇみたいな反応は!」
「俺関係ねぇもん。」
休日は家ですごしたいのだ。
許せ。
後輩に背を向けて家に帰る。
「いやいやいや、可愛い後輩の頼みが聞けないんですか!?」
「自分の事可愛いとか言うなよ。」
「事実ですし。」
まぁ、可愛いんだけど。
「とりあえずポケットの中にチケット忍ばせておいたんで!開演に合わせてきてくださいねっ!」
「なっ!?」
しまった、油断していた!
「それでは!お疲れ様でした!!」
「あっ、お、おいっ!!」
こうして、誰かさんのせいで二三倍近く感じた仕事が終わり、うるさくも愛しい後輩のせいで、休日は潰れたのだった。
15/06/24 04:49更新 / みゅぅん