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閑話その1「まもむすどうわ」
 これは、瑠璃のお誕生日パーティでのひと幕。
 トランプのババ抜きが終わって、メイド服姿のキキーモラ娘イツキはすっと立ち上がった。

「……どうしたの? イツキおねえちゃん」

 見上げてくるパーティの主役に微笑み、車座になった子どもたちをぐるりと見渡すと、

「それじゃあ今から、みんなに私たちの世界のお話を聴かせたいと思います」
「おはなししてくれるの?」「やったぁ!」

 瑠璃たちが口々に喜ぶ中、ショゴス娘のリッカが(文字通り)流れるような動きで隣にきた。

「リッカさん、お願いしますね」
「お安い御用ですわ」

 前もって打ち合わせていた彼女はイツキに軽くうなずき返すと、両の手のひらを前に向けた。そして手首から先をモーフィングさせ、ハンドパペット──手ぶくろ人形を作り出す。
 デフォルメされた、女の子と男の子の人形。子どもたちは一瞬驚いて息をのんだが、すぐに「リッカおねえちゃんすごーい」「てじなみたい」と口々に騒いで手を叩いた。

「何が始まるんだ?」
「人形劇、かな?」
「如何わしい展開になったら速攻で止めるからなっ」

 パーティの手伝いに来ていたゲイザー娘のナギとサイクロプス娘のホノカが顔を見合わせ、お目付役と称して(呼びもしないのに)ついてきたヴァルキリーのルミナがいきり立つ。
 もうひとり──人間のクラスメイトである文葉は、ちっちゃい子たちに混じって興味津々聴く気満々だ。
 両手の人形と一緒に、観客にぺこりとお辞儀するリッカ。イツキも前に向き直って一礼すると、

 むかし、むかしの、ずーっとむかし──

 ……静かな口調で語りだした。

 一番目の神様は、戦争ばかりしている人間たちをこらしめようと、力の強いけものたちに闇の力を与えて、魔物を生み出しました。

 ……だけど人間たちは、武器を工夫し魔法をおぼえて魔物たちを追い払うと、その力を使って、また人間同士で戦争をはじめました。

 たくさんの人が傷つき、たくさんの街や村が焼け落ち、たくさんの国が滅びました──


 目を伏せ胸に手を当てて、イツキは語り続ける。

 二番目の神様は、こりずに戦争ばかりしている人間たちをもう一度こらしめようと、魔物たちの中で一番強いものに、さらなる力と知恵を授け、魔物たちの王様──魔王を生み出しました。

 ……すると魔王は、その力で自分と同じ知恵を持つ魔物をいくつもつくり出し、自分たちが人間と戦争をはじめてしまいました。

 たくさんの人と魔物が傷つき、たくさんの街や村が焼け落ち、たくさんの国が滅びました。


 イツキの語りに合わせ、リッカは両手の、そしていくつも生やした触手の先のデフォルメ人形の姿を次々に変えていく。白い髭をたくわえた神様、毛むくじゃらの魔物、禍々しい旧時代の魔王、互いに争い合う人たち──
 子どもたち、そしてナギもホノカも文葉もルミナも、二人が紡ぐ物語に引き込まれていく。

 三番目の神様は、力をつけ過ぎた魔王と魔物たちをおさえるために、人間たちの中から、火のように強く、風のように素早く、水の流れのように自在で、大地のようにたくましい者が生まれるようにしました。

 ……そして、光の加護を受けて「勇者」と呼ばれるようになった彼らは、人々を守るため、魔王やその手下たちと戦い続けました。

 たくさんの人と魔物と勇者が傷つき、たくさんの街や村が焼け落ち、たくさんの国が滅びました。


 リッカの両手にある手ぶくろ人形が、また別の姿に変わった。
 今度はツノと羽根と尻尾が生えた女の子と、鎧を着て剣と盾を手にした男の子──

 そんな時、魔物の女の子と勇者の男の子が出会いました。
 二人は互いに身構えましたが、やがてどちらからともなく剣を下ろしました。

 相手が人間だから、魔物だから戦え──誰かさんが勝手に決めたことに従うことが、ばかばかしくなっていたのです。


「これは……まさか魔物娘誕生の物語か?」
「今ごろ気づいたのかよ」

 寄り添う二体の人形を見てつぶやくルミナに、ナギが小声で横からツッコんだ。
 魔物が全て魔物娘と化して幾星霜。第二世代である彼女たちにとって、魔物娘の祖である魔王さまやレスカティエのリリム・デルエラなどは、もはや伝説上の人物である……存命しているけど。

 二人は魔物と人間がなかよく幸せに暮らせる場所を探して、世界中を旅しました。そして、いつまでもいつまでも続く戦いに、みんなも疲れ果てていることを知りました。

 なお、一番目二番目三番目の神様──という表現は、何か下手を打つたびに代替わり≠キる主神様を皮肉ったものだとかなんとか。

「あと、ひと柱だと自作自演のやらせだったってコトになるからな〜」
「うるさい」

 イツキが手にした、旧魔王に見立てたソフビ人形(某「無愛想な宇宙人と思われたくない」とか言ってた光の巨人と戦った幻影宇宙大王の人形)に、リッカの両手にあるサキュバスと勇者の人形が戦いを挑む。瑠璃たちは両手を握りしめ、その動きを食い入るように見つめた。

 魔物の女の子は勇者の男の子と協力して魔王の力を奪い取り、新しい魔王さまになりました。

 魔王さまと勇者さまがキスをすると、なんと世界中の魔物たちは、みんな人間の女の子に似た姿に変わって、人間たちとなかよくしはじめました。

 一番目の神様はそのことにびっくりして、他の神様が止めるのも聞かずに、あわてて地上へと降りてきました。

「何をやっているのだ魔物たちよ。おまえたちは人間をこらしめるために生まれたのだぞ」


 触手の先に生えた神様の人形が、イツキの台詞に合わせて口をパクパクさせ、リッカの右手にあるサキュバス──魔王さまの人形に詰め寄った。

 だけど、魔物を魔物娘に変えた魔王さまと勇者さまの力に巻き込まれ、一番目の神様も可愛い女神様になってしまいました。

 白髭の老人から金髪の女の子へと変化して右往左往する神様の人形。その動きに笑い声を上げる瑠璃たち。

「ぅおいっ──もががっ!?」

 いくら脚色されたおとぎ話≠ニはいえ、さすがにそこはツッコまずにいられない。しかし、思わず声を上げそうになったルミナの口を、文葉があわてて両手で塞ぐ。

「みんな楽しそうに見てるのに、邪魔しちゃダメでしょがっ」
「うぐ……」

 耳元にドスの効いた小声で囁かれ、戦天使は言葉を詰まらせた。

 二番目と三番目の神様は、ほら言わんこっちゃないとばかりに肩をすくめると、大きな鏡の前で「こ、これが私?」とつぶやく一番目の神様を引きずって、天に還っていきました。

 ちなみにこのシーン、三番目の神様が降臨してくる別バージョンもあり、その場合は勇者に向けて「何をやっているのだ勇者よ。おまえは魔物を倒すことが使命なのだぞ」というセリフになるのだそうだ。そのあとの展開は変わらないが。

 もう誰も争わず、誰も傷つかず、たくさんの国が平和になりました。

 妖精たちも精霊たちも、深い深い海の底や地の底にすむ混沌たちも、神様に頼まれて様子を見に来た天使たちも、魔物娘と人間たちがなかよくしているのをうらやましく思い、一緒に暮らすようになりました。

 だけど、まだまだ世界中が幸せになったわけではありません。魔物は悪いやつだ人間の敵だとずっと言い続けて、引くに引けなくなった人たちが、未だに戦争をやりたがっているのです。


 そしてリッカは両手の人形を主役の二人に戻すと、ここで初めて口を開いた。

「魔王さまと勇者さま、そして魔物娘たちと人間たちは、今日も愛し合っています」
「いつか神様から独り立ちして、世界中のみんながなかよく笑顔になる日まで……」

 おしまい──と締めくくり、イツキは瑠璃たちに向かってにっこりと微笑んだ。

「おもしろかった!」
「もういっかいやって〜」

 子どもたちは歓声と拍手を送り、メイドコンビは片足を後ろに引いて腰を軽くかがめ、カーテシー(スカートの裾を持ち上げお辞儀する挨拶)でそれに応えた。








































「つまり、主神様は史上初のアルプだったんだよっ!!」
「「「な、なんだってー!?」」」
「それは本当かキバヤ
──じゃなくてお前らいい加減にしろっ!」

 結論、主神様はイジってナンボ(笑)。
18/08/12 04:57更新 / MONDO
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■作者メッセージ
 当初は第06話、瑠璃のお誕生日パーティーのいちシーンとして用意したお話でした。書いているときは「おー劇中劇っぽい」とか思ってたのですが、いつの間にかこの部分だけ長くなってしまい、本筋からも浮いたような気がしてきたので、ばっさりカット。独立した閑話≠ニして書き直してみました。
 イツキとリッカが語ったものは、あくまで神話(健康クロス様の基本設定)をアレンジした子ども向けのおとぎ話です。主神様のTSネタは完全に作者の趣味ですが。

文葉「ところでアルプって何?」
リッカ「アルプとは『Altersex with Lapse Phenomenon=堕落(魔物化)に伴う性転換』の頭文字をとった、元男性のレア度五つ星サキュバスを指す種族名ですわ」
文葉「へ〜そんなオトコの娘(こ)な魔物娘もいるんだ…………って、ちょっと待った。なんでリッカたちの世界に英単語があるのよ?」
リッカ「さ、さあ──(汗)」

 ……そ、それではまた。

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