連載小説
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前篇
放課後決闘物語

放課後のチャイムが鳴り響く。
今日も退屈な一日がようやく終わる。

ドラゴンの私にとって学校など退屈で仕方ない。勉強も、運動も楽しいと思った事などない。
まぁ、だからといって別に趣味もないが。
自分でも空虚だと思う。しかし、今まで心惹かれるものに出会えなかったのだ。
不幸とまでは思わないが、残念に思う。

さて、もう帰るか。鞄を持って教室を出ようとした時、

「さぁ、決闘するか!」
「やりますか!」

…決闘?ふむ、あの男子生徒達か、この学校にも血気盛んな奴がいたものだ。
帰ってもすることも無いし、少し見ていくかな。

「決闘するなら私も観戦するが、構わないな?」
「う、上野さん!?」
「どうぞ、自由に観戦して行ってください」

…そんなに驚かれる必要があるか?少しショックだな。
もう一人の方は妙に丁寧だ。なんか胡散臭い。

「あ、今日も決闘?」
「晴人か、今日も暇なのか?」
「うん、今日は姉さんの帰りが遅いからね」

また一人増えた。晴人とか言う男子だが、私のクラスで見たことは無いな、それより
早く決闘を始めろ

「あ、あぁそうだった」
「最高のファンサービスを見せてやるよ!」

そう言って二人が鞄から取り出したのは、何かのケースだった。
そして中からカードの様なものを出してきたが、
これが決闘なのか?

「そうだけど?」
「カードでか?」
「それ以外ないでしょう?」

胡散臭い奴から、呆れ半分と言った感じで驚かれたのには、イラッとくる。
どうやら彼らのする決闘とはカードゲームらしい。
まぁいい。どんなものか見てやろう。余り期待しないがな。
カードを切り二人が

「「決闘!!」」

と宣言した。

「先攻は俺だ」

胡散臭くない奴からゲームがスタートするようだ。

「手札から黒竜の雛を召喚!」

な、なんだ?あの可愛らしい黒いドラゴンの雛は!?
紅い眼をし、黒い鱗をしている。私と同じじゃないか。
あの男、私を扱うに足る人間かこの場で見極めてやる。…勝手に決めたが。
さぁ、次は何を見せてくれるのか…

「黒竜の雛をリリース!」

?、帰すのか?もうすでに孵っているではないか?

「来い!真紅眼の黒竜!!」

な、な、何だあれは!?さっきの雛が本当に孵ったぞ!
あのドラゴン、刺々しい体躯、荒々しい雰囲気
何よりあの絵、あのカード。ふつくしい…
まさか、学校で心惹かれるものに出会えるとは思わなかった。
輝く絵なんて初めてみた。
あぁ、あいつは…私の事をどうするつもりだ…


――――――

「真紅眼の黒竜で士郎にダイレクトアタック!」
「ま、まじか…」
「純の勝ちだね。」

決闘は私を操る男が勝った。
決闘の最中、あの男は私のことを守ったり、戦わせたり好き放題にしてくれた。
他のドラゴンを呼びだすための贄にされたのは、いつもだったら怒り狂うところなのだが
あぁ、この決闘で私の心は完全にこの男に…。

「なぁ君、名前は?」
「僕は、「お前じゃない」…。」
「お、俺は松葉純です。ていうか、同じクラスなのに上野さん名前覚えてないんだ…。」
「松葉純か、素晴らしい決闘だった。私を操る手、感服した。」
「へ?あぁ、真紅眼ね。そういえば上野さんにそっくりだよね。」
「あぁ、びっくりしたぞ。まさか私そっくりなドラゴンを操るとは思わなかった。
 しかし確信した。貴方が私の運命の人なのだと。」
「え、え?なに言ってるの上野さん!?」
「マコだ、マコでいい。純。貴方は私の事を完全に支配してしまったのだ。心も、体も。」
「待って!ちょっと待って!それは真紅眼であって上野さんじゃ、」
「マコだ。そう。だがもうダメなんだ。貴方の真紅眼を思う心、それが私にも伝わってくる。初めてだ、こんな感覚。体を優しく包むような暖かい愛情。似てるだけ
では説明つかない。私は、君に出会うために産まれてきたんだ、これが運命だろう?」
「決闘で生まれる愛か、感動的だなぁ」

後ろで何か言っているが聞こえない。今、私には松葉純という存在だけが全てだ。
あぁ、ただカードゲームの絵だというのに何故ここまで共振する?
何故ここまで愛おしいと感じている?
恐らく私の、ドラゴンの本能と、彼の真紅眼を愛する心が本物だからなのだろう。
愛が、止まらない。

「なぁ純」
「何だよ士郎。」
「僕たちはここに居ていいのかな?邪魔じゃないかな?」
「居てくれ。お願い。」
「けっ、なんでお前が告られてるところを見てなきゃなんねぇんだよ。」
「初めてなんだよぉ、女の子に告白されるなんてさぁ。」
「僕も告白されるシーンって初めてみたよ。」
「私だけ除け者にするなんて寂しいじゃないか純。」

そう言って私は爪で傷つけないよう、細心の注意を払いながら、彼を抱きしめた。

「うう、上野サン!?なにを!?「マコだぞ」」
「でも、そんな馴れ馴れしくないですか?呼び捨てなんて」
「私が呼んで欲しいんだ。文句は言わせないぞ。あと敬語もだ。貴方のものなのに堅苦しいだろう」
「いつから!?」
「今日。今、この瞬間からだ。それとも呼び方に不満があるのか?言ってくれ。どんな呼び方にも応えてやろう。ご主人様とかがいいのか?」
「いやいやいや、呼び方とかじゃないから。何でそんな、いきなり告白なんて」
「愛に時間は関係ないだろう?好きになってしまったんだ。仕方ないだろう。それとも何か?既に貴方には心に決めた存在がいるとでも?」
「居ないけどさぁ、俺にも心の準備ってものが。」
「必要か?いらないだろそんなもの。愛されているんだ、ただそれに応えてくれ。
 私の愛に。」

純の背中に回していた両手を彼の頬に持っていき、その唇を奪おうとしたその時。

「純、遅くなったな。帰るぞ……」

扉を開けて入ってきたのは、ドラゴンだった。赤と黒が入り混じった鱗を持ち、ギラギラ輝く双眸を持つドラゴン。私が彼女を見た瞬間。

「貴様ぁ!!アタシの純に何をしている!!答えろ!!」
「いきなり襲い掛かるとはな、だがそんなことはいい。だがな、アタシのとは何だ?
 詳しく聞かせてもらおうか」
「レモン!?いきなり襲い掛かるなよ!!」

レモンとかいうドラゴンは事もあろうか、いきなり私に襲い掛かってきた。私の怒りを呼び覚ますほどの言葉とともに。
彼女の爪の払いのけ、双方睨み合う形となった。

「純はアタシのものだ!アタシだけのものだ!」

私はその言葉に対して思わず手を出してしまった。仕方ないだろう。そんなことを言われたら。

「ふん、アタシに偉そうな事を言った奴とは思えないほど手が早いなぁ!」
「黙れ。誰がお前のものだ。純が言ってたぞ、心に決めた相手はいないと!」
「何!?」
「言ったよな純?」
「ふぇ!?」

可愛らしい声を上げながら彼は応えた。あぁ、コイツさえ邪魔しなければ今頃彼と…。

「純言ってやれよ。なぁ?」
「純。二人とも待ってるよ?」

純の友人二人が彼を急かせる。
そう急かせなくても私を選ぶに決まっているだろうに。

「え、えっと、……強制脱出装置!!」
「純!?」
「待て!」

彼は、扉を勢いよくあけ脱兎の如く駆け出した。
しかしドラゴン二匹に敵うはずも無く、廊下に出た瞬間捕まった。

「バウンス無効とかすげぇな。」
「凄いスピードだったね…。」
「純を離せ貴様ぁ!!」
「その言葉、そっくりお前に返す」
「ぐぬぬぬ!!」

純を捕まえたのは良いのだが、この女と一緒とは。
思わず掴む腕に力が入る。

「あだだだだだだ!!痛いって二人共!腕!腕!痛い!!」
「ほら、純を離すんだ馬鹿力」
「貴様こそ純を離せ!」
「挟み撃ち」
「古いカードだね」

いちいち大声を出さないと気が済まないのか?この女は。
純が可哀想だとは思わないのか。というよりそもそも。

「そもそもお前は純の何だ?お前のものは認めないぞ」
「ふん、アタシは純の幼馴染だ!ぽっと出の貴様とは、触れ合った時間が違うのだ!」
「その割には、純のハートを射止めることができてないじゃないか。程度が知れるな。」
「貴様ぁっ!!」
「超痛い!!離してお願い!」
「悪夢の拷問部屋だ」
「二枚発動してるね」
「だと、離してやれ」
「貴様が離したらそうする!」

埒があかない。仕方ない、

「純、どちらが離すべきだと思う?」
「純!どっちだ!?」
「苦渋の選択」

一々うるさい。

「二人とも!二人とも一旦離して!バーンダメージ凄いから!!」

純が言うならしょうがない。だが以外なのは、あの凶暴トカゲが素直に離したことだ。

「うぉぉ、体中が痛い…」
「ご隠居いっとくか?」
「楽になるかもよ?」
「有難迷惑だちくしょう…」
士郎とか言ったか、胡散臭い方が純にエナジードリンクを差し出していた。
もう片方、晴人か?は純を真面目に心配していた。

「さぁ純!アタシとこの女どちらがオマエの女に相応しい!?」
「愚問だな私に決まっている。」
「貴様は黙ってろ!」
「やかましい、一々叫ぶな」
「何だと貴様!!」

短気すぎやしないかこの女。

「レモン、」
「なんだ純!?アタシか?アタシなんだな!?」
「いや、レモンって俺のこと好きだったの?」
「なっ……!?」
「だって、レモンが俺の事好きなんて素振り見たことないから。」
「あ、アタシにだって恥ずかしことはあるんだぞ…?
 だが話してやろう。どれくらいオマエのことが好きか…」
「思い出ブランコ」
「僕は、強敵手の記憶」

騒音トカゲが初めてしおらしい態度をとった瞬間だった。

15/05/04 17:42更新 / 空我
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■作者メッセージ
決闘シーンは丸々カットです。

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