連載小説
[TOP][目次]
88 二つの顔と野望の消失
〜〜〜コリン視点でスタートします!〜〜〜

「裕実…私達にも、何か出来ることはないかな?」
「……姫様が出来ることですか?それだったら、勉強がありますよ?今日はまだ勉強をしていませんし…じゃあ、早速魔算術の授業でもしましょう」
「あぁっ…勉強じゃなくて別のことで…できることがあったらいいなぁ…」

正直、私は魔算術の勉強をするのがとても嫌いだ…魔算術なんてこの世界から消えてしまえばいいのにって思ったことも何度もあるくらいだから…
なので、裕実には悪いけど、勉強するって選択肢は初めからなかったんだよね

「ふむっ…女王様からコリン様をしっかりとお守りしてくださいといわれておりますし、私達はアミルの裏切りにより負傷しておりますので…コリン様だって、魔物の驚異的回復力があったから今、行動することは出来ていますけど…それでも、あまり大変な仕事はお体に…」
「大丈夫!!まだ、キズが少し痛む時もあるけど、大体は大丈夫だから!!」
「しかしですね…コリン様、そもそも、コリン様は女王様の一人娘であり、後々には国を継ぐことになっているのですよ?おそらく、アミルはそのことも概念にいれ、コリン様を亡き者にしようかとしてきたのでしょうが…」
「……でも、私を亡き者にしても、アミルには何の得も…」
「いいえ、コリン様…コリン様がなくなられた場合、次の王位継承者は女王様に一番近い彼女ですから…女王様は間違いなく、コリン様の次に一番自分の身近な人物を選ぶはずです…そして、その身近な人物がアミルですから…彼女は国の政治を一括して仕切っていましたし、国を治める能力は0ではありませんし…私達がアミルの裏の顔を知らずに過ごしてきたのと同じように、女王様もアミルの裏の顔を知らないはずです…だから、女王様はアミルを選ぶはずです」
「でも、私は生きているよ?だったら、アミルが王位継承者になることはないよね?」
「でも、アミルはそのことを知りませんから…だからこそ、今勉学にいそしむべきなのですが…コリン様は勉学がしたくないのでしょう?」
「……そうだ!!私達でもできそうな仕事はどうかな?頑張って戦っているみんなに補給物資を届けるとか…それだったら私たちでも出来るよ」
「コリン様…あなたは次に女王となる身分の方です!そのお方がそのようなことを…」
「裕実!!私は、国民に尊敬される女王になりたい!!今のお母様みたいに立派な女王になりたい!そのためには、国民がしている作業のつらさを体験してみたりしないと、ダメだと思うの…他人に認めて貰うには、まず自分が行動しないとダメってお母様も行ってたから…」
「……コリン様…わかりました!!では、補給物資でも少量ながら、運びましょう!それでいいですね?」
「…うんっ!」

こうして、私達は前線部隊に補給物資を運び込んでいたんだけど…
結構、こうして物を運ぶだけの作業でも、こんなに大変なんだ…運び屋の方々や兵士たちもこんな大変な思いをしているんだなって思うと…
よしっ…あと少しで目的地に到達だ!!頑張らないと…

そう思いながら私達が補給物資を届けに行くと…私達は信じられない光景を見ることになったんだ…
みんなが…地面に倒れこんでいる…!?
慌てて裕実が倒れている人の近くに行って、生きているかどうかを確かめてみたところ、気絶させられているだけのようだけど…どうして、こんなことになっているのかな?
まさか…敵っ!?でも、敵の姿はどこにも…

「……まさか、生きておられるとは思いませんでしたよ…姫様…?」

……っ!?
私はこの声を聞いたとたん、思わず身をすくめてしまった…
そう、この声は……アミルだったの…
でも、どうしてアミルがこんなところに…!?まさか、こんなところで鉢合わせすることになるなんて…

「っ…あ、アミル…」
「あらあら…?そんなにお震えになられて…どうしたんですか?姫さま?」

そういいながら、ゆっくりと私の方に近づいてくるアミルは、含み笑いを浮かべながらそう言ってきたんだけど…私が…震えている…?
そう思い、私は自分の尻尾をチラッと確認してみたんだけど…確かに、私の尻尾はこれ以上ないほど震えていた…

「しかし…姫様が生きておられるとは…このアミル、感激で言葉もでませんよ…確実にぶっ殺したはずなのに…生きているなんて空気が読めない方なんですね」
「アミルっ!!あなた…コリン様を攻撃するなんて、国に逆らったと同じなのを…わかっているのか!?今から10年前にあなたとコリン様に勉学を教えた時、国のシステムについてはしっかりと教えただろう!?」
「……あれ?裕実先生も生きているなんて…計画が狂っちゃったかなぁ?私は確実に息の根を止めたと思うんだけど…しっかり確かめればよかったか…?まぁ、いいです…次は確実にぶっ殺してあげますから…ね?もう、あなた達にキャラクターを演じる必要はないし」
「……あくまで、私のいうことに耳を傾けるつもりは…ないんだな?アミル?」
「当然ですよ先生…だって、先生をコリンの護衛をしてくれるように頼みに行ったのは、私の王位継承にコリンの次に邪魔になりそうな人物があなただったからですし?あなたは絶対にコリンが旅の途中で死んだって聞かされても、私の王位継承には賛成…しないでしょう?私は、計画の邪魔になる人物は…初めに消しておく主義でしてね?」
「つまり…この私を殺すつもりで旅に誘ったって事か!?アミル…私は昔、教育を教えたが…その勉強で知りえた知識を、アミルは国崩しに使うというのか?昔のお前は…もっと明るくて、友達思いのいい人物だと…」
「……私がキャラクターを演じ始めたのは…8歳の時ですからね?あの時から、私はこの国の女王になると決意したんだから…初めにいい人を演じているだけで私をいい人だと思うあなた達を見ているのは…滑稽だったわ」
「…他人をだますなんて…本当にそれでいいと思っているんですか!!」
「コリン…一番だましていて楽しかったのが、あなただよ?頼りになる先輩として頼ってくれている間は…本当にゾクゾクが止まらなかったわねぇ…」

そういいながら、含み笑いを浮かべるアミルを見て、私は本気で背中に寒いものが走り抜けたんだ…
アミル…本当に、キャラクターを演じていただけなのかな…?
それだったら、あの時の頼りになる先輩や、お母様が頼りにしている人物であるアミルは、私達を…だましていたのか…
もしもそうだとしたら…アミルはこれからも人々をだまして生きていくのか…
なんだか、嫌だな…そういうの…なんていうか、悲しいかな?

「もう、無駄話も飽きたから、さっさと潰してあげるわ…今度こそ、確実に死んだのを確認して去ってあげる…せめて、私をゾクゾクさせてくれる悲鳴をあげてくれるわよね?可愛いコリンと信頼はしている先生?」
「……本当に、アミルは私達全員をだまして…いたんですね?」
「当然…コレから先の人生も、だませる者達は皆、だまして生きていくつもりだからね…まぁ、私の将来のプランの邪魔さえしなければ、国民が少し苦しむ程度の負担で、国を使ってあげるわ…最高でしょ?」
「…国という物は、国民と王が互いに納得している状態で、初めて均衡が保たれる…私はそうも教えたはずだ!!アミル…それも忘れてしまったのか!?」
「納得…?しているじゃないですか先生…この私がねっ!!」

アミルはそういうと、いきなり腰につけている鞄に手を伸ばすとナイフを取り出し、こっちに投げてきたんだ…
お母様のため…そして、国民のためにも…ここで負けるわけにはいかない!
そう思いながら私も、懐にさしてある短剣を取り出し、アミルが投げてきたナイフを叩き落したんだけど…

「おやっ?もう不意打ちは通用しないんですね…面白くない…じゃあ、正面からやりあってぶっ殺してあげますよ…ほら…この剣、先がドリル状になっていて体をえぐる様にキズをつけることが出来るので…いい悲鳴が聞けそうでしょ?」
「……あの武器は…あまりに効果が酷すぎるということで、世界律で禁止になった武器…!?」
「さすがは先生…そうですよぉ?この武器は世界律で禁止されているんですよ…ですが、私の家には子供の頃、これが倉に眠ってまして…ね?使うのは初めてなんですが、多めに見てください…では…行きますよ!!」

そういうと、アミルは何か缶のようなものをこっちに投げてきたんだけど…
あれは一体……?
私がそう思い、アミルが投げてきたものに少し警戒していると、地面に当たった瞬間、私の目の前が物凄い光で埋め尽くされたんだ…

……うぅっ…眩しくて目を開けてられない…
私がそう思っていると、いきなり私の後ろから機械音が聞こえてきて、次の瞬間、私の左肩に何かが当たったんだ…
私もなにが起こったのかはわからなかった…だけど、私の左肩に物凄い痛みが走ったのと、その痛みが今まで経験していなかったものだということは、よく分かった

「ぐっ…うわぁぁぁぁぁっ…!!」
「コリン様!?くっ…待っていてください!今すぐ、回復魔法の準備をしますので…!」
「おおうっ…いい泣き声…やっぱり、コリンはいい泣き声を出すと思っていたんだ…せっかく痛みを与えたのに、治療するなんて野暮なんじゃないですか?先生?」
「スタンボムを使って視界を奪う戦法か…確かにその戦法なら、高い実用性を持っている分、戦いには効果的だが…とにかく、今はコリン様の治療をしなくては…」

裕実がそう言っていると、私はいきなり後ろに引っ張られたんだ…
まだ左肩は痛いし…引っ張る行動をとられたときに物凄い響くんだけど…
そう思っていると、閃光が収まり、私はアミルに後ろの服を持たれていたのが見えたんだ…
痛む左肩を見てみると、そこは物凄く酷いキズができていたから、あの武器の凶悪性がよく分かる…

「コリン様っ!!」
「おっと…待ってください先生?それ以上近づいたら、お姫様にキズがついてしまいますよ?私は今、テンションが非常にハイなので、もしかしたらお姫様を傷物にしてしまうかも…ふふっ…」
「ぐっ……」
「そうそう…そうやって悔しそうな表情で私を見ていてください…その屈辱に歪んだ先生の顔は好きですよ?さぁて…先生…先生は自分の命とコリンの命…どちらをとりますか?」

裕実はアミルにそういわれて、本気で悩んでいるようにも見えたけど…
私は、自分と裕実の命を彼女が天秤にかけたら…裕実には私を犠牲にする選択肢を取って欲しいな…

私は内心そう思うと、痛みをこらえながら裕実にこう叫んでいた…

「裕実っ!!私のことはいいから…アミルを倒して、彼女に自分を偽らない生き方を教えてあげて!!」
「……ぎりっ…コリンに発言権を与えてはないんだけど…?もっと攻撃を受けたいのかしら?ぐりぐり…痛いでしょ?痛いっていったら、少しは軽くしてあげてもいいわよ?」
「うわああぁぁぁぁぁっ…!!だ、誰が…うぐぅっ…言うかぁっ!」
「今、自分が置かれている立場を理解したほうがいいですよお姫様?私が少しでもこの剣を右にずらして切れば…そこであなたの人生は終わりですからねぇ?」
「私は…私はお母様の娘で、後に王女となる人物です!ここであなたに殺されても、私は国民の為に、アミルに国は渡せない!」
「そう…先生?今から10カウントを数えますから、それまでに決めてください?もし数えても答えなければ、コリンちゃんの体から綺麗な血が噴出すことになりますよ?ふふっ…あはははははっ!!」
「……わかった、私の命を賭けよう…」
「ひ、裕実っ!?早まっちゃいけない!!」
「コリン様…あなたは王女になるお方です…他人の為に自分を犠牲にする…その考えもいいですが、自分を犠牲にするのは…本当に大事な時だけです…覚えて置いてください!!」
「えっ…?それは…どういう…」
「おっと、お別れの時間は終了だよ…?死ぬって決めたなら早く…死んでもらわないとねぇっ!!先生…あの世で会いましょう?【プレゼント・ダイナマイト】」

そして、アミルが道具袋から取り出した爆弾は一直線に裕実のところに飛んでいき…物凄い轟音をあげて爆発した…
裕実の体が爆風に打ち上げられて飛んでいるのが、ここからでも見える…
う、うぅ…裕実…裕実ぃーーーーっ!!

「ふふっ…綺麗な爆発ねぇ…先生にしては、いい最後だったかな?」
「アミル、あなたは先生に…何をしたか分かっているの!?命を…なんだと思っているの!!」
「愚問ですねぇ…そんなの、私の人生の道を構成する取るに足らないその辺の物に決まっているじゃないですか…」
「命は…物じゃない!!裕実はあなたの人生の為に死ぬ命じゃない!!そんな命なんてこの世の中に存在しな…」
「いいえ…そんな命は世の中に存在しますよ?現に、この世界のいたるところで秘密裏に行われている可能性だってあるじゃないですか…まぁ、安心してね?コリンもすぐ、裕実の後を追うからね?さびしくなんてないよ…?むしろ安心して死んでくれるよねぇっ!!」
「……断る!!」

私はアミルにそういうと、痛みをこらえながらもアミルの横から移動したんだ
負けられないんだ……彼女の考え方を、正してやるんだ!!

「アミルっ!!私は…あなたを正す!」
「あらあら…痛そうですねぇ…?痛いんですか?痛いんですよねぇ?そんなダメージを受けている状態で、あなたが私を正すことが出来るとでも?諦めればいいと思いますけどね?」
「…諦めない!!」
「……もぅ、いろいろめんどくさくなってきたなぁ…遊びは終わりね…」

アミルはそういうと、私の左肩の怪我しているところを狙ってきたんだ…
それを、ギリギリの所で受け流すんだけど…
ナイフとドリルブレイドが当たるたび、私の怪我に電流が走ったかのように痛みが走るんだ…

「……やっぱりですかぁ…コリン、正直に言いますよ?今のあなたに私を倒すことは出来ないわよ?武器が当たるだけで動きにずれが出来るくらいなんだからねぇ?」
「ぐっ……そんな事は…ないっ!」
「虚勢を張っちゃって…可愛くないなぁ…じゃあ、一思いに…」

アミルはそういうと、私のナイフを持っている武器ではじいてきたんだ…
はじかれたナイフは金属音を立てながら飛ばされ、私は次の瞬間…怪我をしている左肩を攻撃され、痛みで動けなくなったんだ…
うぅっ…あんな台詞を言った後なのに…情けない…

そしてその後すぐ、私はアミルに押し倒されたんだ…マウントポジションを取られて、立場的には圧倒的に不利か…
くぅっ…結局、何も出来なかった…何も…

「くふふっ…蛇の体で上にのっかかるって絵柄が物凄いシュールなんだけど、そんなのは別にどうでもいいことだし…それより、痛い?左肩…痛いかなぁ?」
「ぐあぁっ!!」
「ふふっ…いい声だなぁ…さぁ、死になさい!!」
「まだ、まだ負けられない…負けられないんだぁっ!!」

そう言いながら、私はアミルに剣を振り下ろされる直前に腰に持っていた、もう一本の短剣を思いっきりアミルにたたきつけた!

「っ…ていっ!!」
「ぐぅっ!?目が…目がぁっ…ちぃっ…可愛げの無い…!!わざわざのんびりと殺してあげようと思っていたのに…いいわ…今すぐ死ねぇっ!!」
「きゃあぁっ!!かはっ…うぅっ…」
「まだ息がある…?右目を突かれて少し狙いがずれたか…?でも、虫の息か…ほっておいたら勝手に死ぬわね…でも、そんなのは面白くない…私が私の手で殺さないと…意味がないからねぇ!!」

やられる…!?
私はとっさにそう思うと、体を動かすことは出来なかったけど身構えたんだ…
そして、首筋に冷たい物が当たると同時に、首筋を液体が流れ落ちるのを感じたんだ…
結局、裕実を見殺しにしてしまったのかなぁ…?

ヒュッ…トスッ…

「こ、これは…!?コリンの短剣…?ちぃっ…誰だ…?私の邪魔をするのは!」
「……私だ」
「っ!?馬鹿な…!?なぜ…なぜ…王女様がここにいる!?あなたは城にいるはずだ…こんなところにいるはずがないっ!!」
「おやっ…?姉と私の区別もつかないのか…?いや、右目が見えなくなっていては分からないかもな…」
「…まさか、イグジア?女王の影武者がここになぜ来ている…!?」
「なぜだろうな?姉さんが私に指示したからじゃないか?やっぱり、3人じゃ心配だったみたいでね?遅れて追いかけたら、こんな場面に出くわして…内心ではびっくりしているよ…」
「ならば…私の道の邪魔になるあなたも…消す!」
「おやおや…そんなに殺気立っても無駄だよ?だって…もう足、動かないだろ?」
「なにっ…?はっ…まさか…」
「そう、あんたの毒だよ…あんたの部屋から偶然見つけてね…?この毒を使ってどうするつもりだったのか…とにかく、話は牢獄で聞こうか?」
「ちぃっ…動け…私の計画はこんなところで終わらない…終わるはずがない!」
「……残念ながら、終わりだよ…色々な意味でね?」

ドコッ…

「ぐはっ…!?ふっ…ふはははははっ…あはははははっ…こんなことで、私は自分の道を諦めない…覚えておいてね?最後に笑うのは…この…わ…たし…」
「気絶させただけだ、コリンも裕実もかろうじて息はあるみたいだしな……安心しろ、アミル…お前は城の一番奥深くに幽閉させて貰うからな…お前が最後に笑うことは無い」

私は、アミルを倒したお母さんの妹で、おばさんでもあるイグシアさんの声を聞いた後…寒さを感じながら意識を手放したのだった…
正直にいえば…援軍が来るなんて思わなかったな…ははっ…
でも…次回は…ないんだろうな…って思うと、複雑な気分だよ
12/09/17 20:26更新 / デメトリオン
戻る 次へ

■作者メッセージ
どうも!!

さて…物語は終わりに向かって相変わらずのスローペースで進んでおりますが、これからものんびりと見てやってください…
そして、メガロス帝国内の戦闘まで…あと2回です…
デメトリオの出番も…もう少しですね…ふっふっふ…

とにかく、のんびりと見てくださるとうれしいです!!
ありがとうございましたーー!!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33