連載小説
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60 アヴァルの賢者と逃亡する宿屋店主
下が騒がしくなってから…俺たちはより息を潜めてバルコニーから下の部屋を見ていたんだよ…
えっと…俺のこの場所からわかるのは、あそこの壁際にラミアの女性が甲冑を着こんで立っているって事かな…?
なんて思っていると、いきなりその女性たちが中央に向かって敬礼しはじめたんだ…
で、俺たちはもっとバルコニーから下が見えやすい場所に移動し、下の様子を伺い始めたのだった…

「女王様…姫様がお帰りになられました…」
「なるほど…だからこんなに慌しいのね?まったく…あの子もそろそろ夫探しにいそしんで貰わないと困るんだけど…」
「そのことで、ノビス女王陛下に伝えたいことがございます!!」

「あっ…あれ、姉さんだわ…」

なんて、横でククリが驚いたような…しかし、小さな声でつぶやいたんだ。
な、なるほど…あの、銀色の蛇の女性…あの人がククリの姉さんなのか…
さすがは姉妹といったところか、変に真面目そうだぜ…
なんて思っていると、さっきまで話し込んでいた三人以外に、なんとこの部屋に入って来た連中がいたんだよ!!

誰かって?雰囲気で察して貰えたらうれしかったんだけど…
そう、なんとジャルジィさんとサーラ…そして、コリンとそれに絡みつかれているセムちゃんだったんだよ!!
み、見つけたぜ…まさか、こんなに楽に見つかるなんて思ってもいなかったな
だが、せっかく苦労して進入したんだぜ?そう簡単に助けに行くのは…無謀って奴だろ!?
た、ただ、怖いから様子を見ようなんて…これっぽっちも考えてないからな!?本当だからな…!?
そ、そんなことより、今は話だよ…はたして、どんな話をするのか…そっちの方が気になるだろ?

「お母様ーー!!今、帰りましたーー!!」
「ノビス様…コリン様を無事につれて帰宅することに成功しました…」
「お疲れ様サーラ…下がっていいわよ?」
「はっ…ジャルジィ…ちょっと来なさい」
「えぇーー!?わ、私…何か悪いことした?」
「コリン様の新たな獲物をGETさせてしまったことに関する反省文を書いてもらいます」
「そ、そんなぁ〜〜!?私、ただデメトリオを…はぁっ…旅の途中で寄ったこの町でアイドルとしてデビューできたのはいいけど…反省文とかを書くことになったのは面倒だよなぁ…デメトリオには逃げられたし…」
「…何かいいましたか?」
「な、何でもありません!!」

……聞こえてるんだが、ま、まぁ…事実だから突っ込まないでおくかな…
なんて思いながら、じっと聞き耳を立てていると、俺はメリィとアイネ…そしてククリが俺を冷ややかな目で見ていることに気がついたんだよ!!
な、なんで俺をそんな冷ややかな目で見るんだ…?
いや…皆まで言うな…多分、予想は出来てるぜ…
なんて思いつつ、実は何も分かっていなかったりするんだけどな?

「さぁて…サーラたちもいなくなったことだし…ココリも下がっていいわよ?」
「し、しかし…私はまだ報告することが…」
「大体わかったわよ?言わなくても…あなたは騎士長なんですから、ひよっこ兵士の彼女達に訓練してあげないと…ね?」
「…わかりました」

そう言って、ククリの姉さんがこの部屋から立ち去った瞬間、隣で安堵のため息が…ど、どれだけ姉さんのことが苦手だったんだよ…
なんて思っていると、すぐにノビスって人とコリンって人が会話を始めたんだよ!!
……どうでもいいことなんだが、あの女王の後ろにいる側近みたいな人は部屋を出たりしないんだな…なんて思ったりしてね?
そう、髪の毛をショートに纏めた四角いめがねの女性だけど…
あ、種族はエキドナな?見た目で分かる気もするんだけど…

「お母様ーー!!私、遂に理想の相手を見つけたわ!!」
「それは…もしかしてその子のことを言っているの?コリン?」
「えぇ!!可愛いでしょ!?この穢れを知らないボディにまだ発達していない胸…相手をときめかせる視線…どれを取っても完璧なの!!」
「……ねぇ、コリン?私は常に言っているでしょ?あなたはこの国の姫なのよ?私だって…後500年くらいしたら隠居したいし…分かるでしょ?」
「で、でもぉ…私は!!」
「黙りなさい!!私だって…夫とラブラブしたいのよ!!でも、一国の女王ともなれば、夫との愛の営みは自然と夜だけになるじゃないのよ!!」

……そして、しばらくの間、なぜか親子喧嘩(?)が続き、ずっとこのまま親子喧嘩っぽい事が続いたら…なんて思っていた時だった…
いや…別に俺は続いてくれていてもよかったんだけどね?普通に聞いている立場からしたら楽しかったりするし…
でも…ずっとそんな話が続くわけがないって言うのが現状って奴だな…うん。

「……お母様にはこのセムちゃんの美しさが分からないの!?」
「可愛いとは思うけど…」
「でしょ!?だったら…良いじゃない!!結婚しても!!」
「……それとこれとでは話が別よ…結婚なんて、許せるわけがないでしょう!!それに、その子も旅の人なんだから、行くべきところがあるでしょ?ここにずっといるわけじゃないんだから…」
「嫌だ!!絶対…絶対にお母さんの言うことでもそれだけは聞けない!!もしダメっていうなら…かけおちしてやるーー!!」

……で、ちょうどこのタイミングでメリィがセムちゃんを助けるために動いたんだよ!!
な、なんでこんな中途半端なタイミングでセムちゃんを助けに行くんだ…?
なんて思いながらも、俺もそっとはしごを伝って下に降りていったのだった…
さ、さすがにメリィやアイネみたいにかっこよく飛び降りたりなんて、怖くて出来ないしな?俺は安全に行動させてもらうぜ…?
そして残り三段くらいになって…俺はこのタイミングでかっこよさを演じようとしたんだ!!さ、三段くらいなら間違って落ちても大事にはならないだろ?
まさに…俺の計画は完璧って奴さ!!はっはっはーー!!
そして、俺はかっこよくジャンプしたんだ!!地面に足をつけた瞬間…前のめりに倒れなかったらかっこよさも一押しだったと思うぜ…?
かっこ悪いとか思うのは…やめてくれよ?な?

そして、コリンちゃんとセムちゃんも俺達のことに気がついたみたいなんだよ!!ま、まぁ…ばれるよなぁ…普通なら…
でも、こんないきなり…しかも派手に現れてセムちゃんを取り返してここから去るんだろ?この場合…隠し通路からそっと進入する必要は無かったんじゃないか?なんて…非常に突っ込みたくなったぜ…
えっ?突っ込んだら負けだって……?じゃ、じゃあ、俺は負けたくないから突っ込まないぜ!!

「り、リーダー!!それに…デメさん!!た、助けに来てくれたんですね!?」
「…当然よ、デメトリオは私が無理やり連れてきたんだけどね?」
「……やっぱりですか…」

そして、セムちゃんはすこしだけがっかりした表情を浮かべたんだ!!
な、なんでそんな表情を浮かべるんだよ!?俺、ちゃんと助けに来たんだからいいじゃないか!!
……これだけ正論を主張しておけば、俺に対する風当たりも少しは弱まるだろ!本当は怖いから行きたくなかったって事実も、否定できたしな?
だが、この部屋にいるのは俺やメリィやセムちゃんだけってわけではないわけで…なんと、ノビスさんもコリンさんも二人して一斉に兵士を呼んだんだよ!
手に持っているベルを鳴らすだけで兵士が集まるなんて…どんなシステムなんだ?

「……セムちゃんは、絶対にあなた達には渡さないわよ?」
「ひゃうっ!?」

そういいながら、セムちゃんの体に手を伸ばすコリン…なんていうか…卑猥だ
いや…手つきがな?
だが、メリィはそんな事を気にすることも無く、無言でセムちゃんのところに歩いていき、セムちゃんを目にもとまらぬ速さで取り返したんだよ!!
いや…本当に、余りの速さに驚愕を隠し切れないって…本当におもったね…

「セムちゃんは返してもらったわよ?」
「み、みんな!!セムちゃんを取り返して!!」
「はっ!!」

そう…のんびりしていると、一気に兵士が大勢この部屋の中に入ってきたんだよ!!こ、こんなに大勢…逃げれる気がしないじゃないか!!
それに…メリィが物凄い速さでセムちゃんを取り返した後に、俺はある疑問にたどり着いたし…
どうやって逃げるつもりなんだ?よく考えたら、俺達が侵入した経路は…進入は出来ても、脱出は出来ないじゃないか!!
なんて思いながらメリィたちの後ろで突っ立っているといきなりメリィが俺に話しかけてきたんだよ!!

「デメトリオ…あなたは今からセムちゃんを連れて正門から脱出しなさい!私達は…少ししたら行くわ…」
「だ、脱出しろって…城の中をどう移動したら正門にたどり着くのか…それすら分からないのに無理だよ!!」
「……いいから、逃げなさい!!あなた…逃げるの得意でしょ!?」

……そ、そうかな?逃げるの…得意に見えたのかな?
だ、だったら仕方が無いぜ…見せてやろう!!俺の逃げる強さを!!
俺は心の中でやる気をためると、一気にセムちゃんを連れて走りだしたんだ!

「……みんな!!あの男を止めて、セムちゃんを取り戻して!!あの男のことはどう扱っても構わないわ!!」
「そ、それではコリン様…あの男を私物化しても宜しいということですね?」
「当然よ!!」

……な、なんだ!?いきなり部屋中の視線を感じるようになったんだが…
なんて思っていると、部屋にいた兵士が皆俺の方に向かって走ってきたんだよ!
な、なんでこっちに来るんだよ!?俺のような地味な男を追いかけてもいい事なんて無いだろ!?なぁ!?
俺の計画では、誰も俺とセムちゃんのことに気がつくことも無く、メリィたちがおとりになってくれている間に脱出できるって計画だったのに…
いや…こんなことを思っていても仕方が無いよな…とにかく、どんな状況になっても、俺が取るべき行動は変わらないんだからさ…
さぁて…逃げさせて貰おうか!?

俺は、メリィたちが引き止めてくれることを信じて逃げ始めたんだ!
それで、さっきの部屋を出てすぐなんだが…なんていうか、分かりやすいな…
俺は、即座にどこに向かえばいいのかを判断できたんだ!!
いや…階段をひたすら降りたら、既に正門へ通じる扉があるって…ここから見えてるからさ…
だが、逃げようとすると…後ろの方から大勢の兵士がこっちに向かって這ってくるのが見えたんだよ!!
……さすがに、メリィたちでも全員を食い止めることは出来なかったって事か…いや、後ろから追いかけているなら、まだ逃げれる可能性は…ある!

「セムちゃん、全力で走るから…いいかい?」
「…はい」

よし…行くぞーーーーーー!!
そう心で叫びつつ、俺とセムちゃんは走り始めたのだが…
気がつくと、全力で走っているセムちゃんは階段の下の方まで移動しており、同じく全力で走っているはずの俺は…まだ階段を10段くらいしか降りていなかったんだ。
だ、だって…階段を走ると、こけた時とかに危ないんだぜ?
えっ?こんな時にそんな事を言っている場合じゃないって?
そ、それはそうだけどさぁ…

そして、セムちゃんが正門に通じる扉についた時…なんと俺は兵士に捕まってしまったんだよ!!
……ま、まさか捕まってしまうなんて…一体誰が予想しただろうか?
たぶん…読者のみんなも予想していなかったに違いないぜ…
って、こんなに落ち着いている場合じゃない!!
だって…捕まったんだからな!!

「捕まえましたよ侵入者さん…」
「み、見逃してくれませんか?」
「それは無理な相談ですねぇ〜〜…」
「で、ですよねーー…」
「だって、あなたは王女様と姫様の謁見の間に無断で侵入したのですから…これは国の法律の3条に違反しますし…いくら旅の方といっても、見逃せません。それに…あなたを自由にしてもいいとコリン様から言われましたので…今すぐあなたを兵舎に連れて行き、誰の所有物になるかをくじ引きで決めますので…」

……し、所有物!?最近なんだか、こんな扱いを受けることが多くなった気がするんだけど?これは、罠か!?罠だというのか!?
なんて事を内心考えていた時、俺はあることを思い出したんだ!
確か、コリンさんと兵士が話し合っていた時、俺を自由にしてもいいって条件には、セムちゃんを捕まえた後って条件が含まれていたはずだ!!
で、今はまだセムちゃんは捕まっていないって事は…俺をまだ捕まえることは出来ないってことになる!!捕まえても自由には出来ないんだよ!
俺はそのことに気がつき、それを兵士の女性に告げたんだ!!

「……でも、俺を所有物化するにはある条件があったはずですよ?確か、セムちゃんを捕まえないといけないんでしょ?だったら、俺を今捕まえても何の役にも立たないじゃないですか!!」
「あっ……そう言われれば…確かに…」
「でしょう?だったら、こんなところで俺を捕まえるよりもやることがあるはずです!!なるべく急がないと、逃げ切ってしまいますよ?セムちゃんを捕まえる命令がコリンから下っていることを知っているのは、謁見の間に偶然来たあなた達だけなんですから…正々堂々逃げることが出来るってやつです」
「…そうか、こうしてはいられないわね…行くわよ!!」

……そうして、全員がセムちゃんを追いかけていき、一人階段の端で倒れていた俺はそっと立ち上がったんだ…
ふっふっふ…か、完璧な作戦だぜ!!
見たか読者諸君!!これが…主人公的行動って奴さ!!
改めてデメトリオという人物のことを見直しただろ!!
俺はそう思いながら、そっとその場を去ろうとしたんだ…したんだけど…
なんと、いきなりすぐ右前の扉が開き、ククリの姉が姿を現したんだよ!!
あぁっ!!全く…なんでこんなに都合よく現れるんだよ!?えぇっ!?
なんていうか…文句が言いたい気分だぜ…はぁっ…

「…おや?旅の方ですか?私の名はココリと申します…以後、お見知りおきを…」
「あ、はい…ご丁寧にどうも…」
「…それにしても、今日の担当の兵士は何しているのかしら…私はあの子達を仕事中に無断で行動するようにしつけた覚えは無いんだけど…」
「そ、そうなんですかー…で、では、俺はこれで…」

……俺はこの瞬間、ある事実が分かったんだよ…
どうやら、ココリさんは今現在俺が逃げている立場だって事が分かっていないようなんだよ!!
神はまだ…俺に逃げるチャンスを与えていてくれるって事か…
願わくば、俺と同じくらい逃げるチャンスをセムちゃんにも分け与えてくれるといいんだがなぁ…
なんて思いながら、ココリさんの横を通って、俺も正門の方に行こうとしたときだった…

「デメトリオーー!!謁見の間の兵士はある程度気絶させ…って、セムちゃんは?」

なんと、そんな事を言いながらククリとメリィとアイネが歩いてきたんだよ!!
……本当、バトルスペックが高いよなぁ…モンスターラグーンのかたがたは…
一般ピーポーの立ち居地にいる俺からしたら…本当に彼女達は凄いと思うよ?

「……!?く、ククリじゃないの!?あなた…戻ってきてたの?」
「げっ……ね、姉さま…」
「げっ…って何よ?あなた…6年前に家出してからというもの…一体どこで何をしていたの?私があなたを見つけるためにどれだけ人を集めても、見つからなかったというのに…」
「そりゃあ…すぐにカレドニア大陸の方に渡ったから見つかるわけないじゃない…」

……えっと、長くなりそうなんで俺は先に正門の方へと移動させて貰いますよ?
えっ!?聞けよって?いやいや…のんびり聞いている間に捕まったりとかしたら嫌だし…こういったイベントが発生した場合って、ほとんどの確立で酷い目に会ったりするからな…
俺は…逃げさせて貰いますよ?

そう思った瞬間だった…
なんと、謁見の間の方からコリンと、一緒にいたアミルって名前の札を首から下げている女性が来たんだよ!!
ほらな!?言ったとおりだろ!?絶対に来ると思っちゃったんだよ俺は!!

「ココリ!!そこにいる男を捕まえなさい!!」
「ちょっと何言ってるのよアミル!?あんな男よりもセムちゃんを捕まえるのが先でしょ!?」

おっ!?いい事言うな…そのままその理屈で話が進んでくれたら、俺の身の安全は100%保障されたようなもんだぜ…
しかも、セムちゃんはもう、別働隊のメンバーと合流しているだろうしな!!
俺はそう思いながら、メリィたちと合流しつつ、正門に向かって行く…
だが、俺の考えどおりに物事は進んでくれなかったんだよ!!

「コリンさま…あそこにいるデメトリオという人物を守るためにセムは動いたのではなかったですか?それなら、単純に考えてもデメトリオを捕獲しておけばセムは自分からこちらに来るはずです…」
「な、なるほど…」
「それに、交渉に乗った振りをして、二人とも捕らえてしまうことも出来るし、わが国の社会問題の一つ、少子化対策にも頑張ってもらえたりするし…どう転んでも、デメトリオを手中に収めておくことはいいことなんですよ?」
「さすがはアミル…アヴァルの賢者と呼ばれた知識は伊達じゃないわね!!」
「いえいえ…賢者と呼ばれてはおりますが、婚期を逃した一人の女性ですよ」
「だったら、後でデメトリオを夫にすればいいじゃない!」
「私、将来のことを考えると弱者の血を子供に受け継がせたくありませんので…結構でございます」

……だったら、俺のことなんてほっといてくれよ…
なんて内心では思いながらも…これって、ココリさんが俺を捕まえるって方向で話が進んでいるんじゃないのか…?
……ふっ、そう簡単に俺を捕まえられると思わないことだな!!
俺は心の中でそう思いつつ、メリィたちの後ろに隠れたのだった…
いやぁ…まさか、街中で戦う事になるなんてなぁ…
え?当然、俺は戦ったりはしないわけですけど…ね?
12/06/24 18:55更新 / デメトリオン
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■作者メッセージ
どうも!!

……予想以上にアヴァル洞窟城の話が長引いたりしたのですが…
次回、ようやくデモンスタワーに戻ります!!
果たして…デメトリオたちを待ち受ける罠とは!?
なんて言ってみたり…ま、まぁ…とにかく、よろしくお願いしますねー!!
次回も…のんびりと見てやってください!!
ありがとうございましたーー!!

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