chapter1-2(B) 探索
デメトリオと分かれてから、俺とドラグーンはエントランスに戻り二階の捜索をはじめたんだが…
正直、俺は自分の考えが確実に正しいとは思えない…
でも…まぁ、何も考えていないよりはいいんだが…
こんな状況だ、ほかの連中を心配させないように俺が頑張らないと…
そう思い、自分なりにリーダーっぽく振舞ってはいるが…
正直言うと、俺だって人間だから…今の状況がとても怖いことってのは分かるんだよ
この中では一番怖がっていないようにしてはいるけどな?
まぁ、こんなことを考えていても仕方が無い…
俺がこんなことを考えていて、ミーシャ達が戻ってくるわけじゃないし…
正直言うと、とても心配だ…今の状況は、どこの誰が考えたって普通じゃないからな
「なぁ、ナッカーサー…勢いよく俺達もここまできたけど、どうするんだ?今から…」
「やっぱり、行くしかないんじゃないか?こんなところで立っていてもどうにもならないだろ?」
「……それはそうだが…明かりはどうする?デメトリオたちが明かり持っていったから、俺達に明かりはないぜ?」
明かり…ねぇ…
確かに、俺達は今明かりを持っていないが…やっぱりいるか?
確かに、明かりを持っていない状況で明かりも一切無いこの廊下を移動するのは怖いな…
後ろからいきなり攻撃を食らってもたまらないわけだし…
俺がそう思いながら廊下を見ると、うっすらとだが外から月明かりが差し込み廊下が見える状態になっていたんだ
窓は一定間隔に配置されていて、外では相変わらず凄い雨…そして雷が時々なっていた…
この状況では、普通に見える景色…しかし、俺達はこの建物から出ることは出来ない…
本当に、どうなっているんだろうな…このホテル…
「ドラグーン、どうやら…大丈夫そうだぜ?明かりの心配はしなくても…」
「えぇ?それはどういう…って、あれ?思ったより明るいな…」
「これなら、しばらくは明かりの心配をしなくても大丈夫そうだが…」
「そうだな…もしもの時はたいまつでも自作するかとも思ったが…」
たいまつ…?ドラグーンのやつ、たいまつが作れるのか?
そういえば、俺と一緒で昔…戦争を経験したことがあるんだったな…
昔かぁ…俺はあまり、昔のことは思い出したくないぜ…
まぁ、忘れるつもりも無いけどさ?
そう思いながら、ドラグーンと一緒に廊下に入る俺…
さて、重要なのはここからだぜ?まず、どこを調べるのか…これが重要だろ?
俺はそう思って近くにあった扉を開けようとしたが…
ガチャッ…
ほらな?やっぱり、鍵がかかっている部屋が大半…さすがに、初めから上手くいくわけ無いさ
これだけ広い建物でも、開いている扉は少ないだろうさ…それに…
どうやら俺達がいるのは二階のほんの一部のようだ、左の窓から、別の廊下が見えるってことは、おそらくどこかで繋がっているんだろうけど…
まぁ、後になれば行く機会もあるだろ…
今はこの廊下で調べることが出来る部屋を探すことからはじめないとな…
俺はそう思うと、入ってすぐのところにある三つの扉をドラグーンと一緒に調べ始めたんだ
この三つの扉…こんなに近くに密集しているんだ、どれかひとつくらい開いてくれないと…俺としてはやってられない気持ちになるわけだが?
だが、俺はすぐに自分のこの考えが甘かったと思い知ったんだ…
そう!全部の扉は…みんなも考えただろうが、開かなかったのさ
「………あかないな、ドラグーンそっちはどうなんだ?」
「こっちもダメだ…やっぱり上手くいかないもんだな…くそっ!!」
ドラグーンがそういいながら、目の前の扉を蹴りつけ…そして次の瞬間だ
なんと、ドラグーンの蹴った扉が鈍い音を立てて壊れたんだよ!!
「ドラグーンっ!?お、お前…」
「なっ!?ちょっ…ち、違うぞ!?俺は軽く蹴った訳で…」
「へぇ〜…?」
「ナッカーサー、おまっ…信じてないな?本当に軽く蹴ったんだぞ!?」
ドラグーンは必死にそういっているが…
まぁいい…そういうことにしておいてやるかな
結果的には、少し手間が省けたわけでも…あるしな?
俺はそう思うと、ドラグーンが壊した扉を踏みつけ、部屋の中に入ったんだ…
この扉…どうでもいいが腐っていたんだな
それになんだ?この部屋は…?どの家具も高級ホテルにはふさわしくないくらいにボロボロじゃないか…
机もたんすも…椅子も…すべてが何かで切り裂かれたようにボロボロになっているこの部屋の光景…正直、不気味だな
さて、この部屋をじっくりと…調べるとするかな?
しばらく部屋の中を捜索してみて、俺にはわかったことが二つある…
まずひとつは…この部屋はホテルの外見に反し、今から数十年も昔のものらしいって事だ
どれも、俺が子供の時には家にあったが、時代が流れていくに連れてなくなっていったものばかりだった…
分かりやすくいうなら、中世か?とにかく、かなり古い
わかったことの二つ目…実際はこれがものすごく重要なわけだが…
どれだけ古めかしい造りの部屋であっても…その部屋に確実に何かが隠されているわけじゃないんだな
そう…捜索はしたが、発見は0だ
俺達が気がついたことっていったら…天井に大きな穴があいているくらいか?
「どうだナッカーサー…何か気になるものはあったか?」
「ん?気になるものねぇ…ミーシャが気に入りそうな木の根の装飾が施されたティーカップなら見つけたが?」
「そんなものを見つけたって聞きたいわけじゃないんだが?」
「まぁ…いくらこのホテルが変だっていっても、勝手に物を取るのはいけないしな…」
「……地図とか懐中電灯とか、いろいろ奪取してきたけどな…」
「ドラグーン、それは言っちゃダメってやつだぜ?」
そう言いつつ、この部屋の捜索が空振りに終わったと判断した俺は、この部屋から出ようとしたんだ…
俺が部屋から出ようとすると…
なんと、ドラグーンが自分の槍を構えて変な踊りをしていたんだよ
……俺のMP(メンタルポイント)が下がるような踊りをしやがって…
「待てよナッカーサー!上…調べないのか?」
「ん?調べないも何も、いけないじゃないかよ…それと、その変な踊りやめてくれ」
「へ、変な踊り…!?お前にはこのセンスが…まぁいい、俺だったらこの上…調べてやれるぜ?」
「どうやってだよ?」
正直、口先だけだったらむかつくわけだが…ドラグーンはどうやって上に行くつもりなんだ?
家具を積み重ねて階段を作るとか、そんなふざけた事を言い出したりしないだろうな…?
この部屋の家具はものすごくボロボロだから、上に乗ったら間違いなく壊れるんだが?
「見てな?俺のこの槍…地面に刺せば、このとおり!!伸びて上にいけるって事さ!」
「なにぃっ!?ど、どうなってるんだよ!?その槍?」
「実は俺の槍…伸びるんだよな、昔から…理由はわからないけど、これを使えば上の階を調べられるって訳さ!」
「……そうか、じゃあ頑張って来い。一応待っておいてやるから」
「分かった…じゃあ適当にそこで舞っててくれ」
……行ったか…さて、待つとは言ったが一人は暇だな…
こんな暗い部屋に一人で待機なんて…個人的にはものすごい暇であり、怖い状況じゃないか
こういった時は、動いていたほうがいいって…傭兵時代に聞いたことがあるな…
……そうだっ!!踊るか?
「るーったったー、らんたったー、フォーエヴァー、サマァーデェー♪」
「お待たせ、ナッカーサー上にあったレバーと気になったものを持ってき…」
うぉぉぉぉぉぉっ!?
いきなり降りてきたドラグーンに驚き、一瞬だが動きが止まる俺…
なんだ?なんなんだこの気まずい空気…!?いやそれより…
基本的に宿屋で同居している連中にはあまり見せないテンションを見せてしまったわけだ…
……今ならまだ、ごまかせるのか?それとももう手遅れなのか…?
いや、多分大丈夫だろう…
「ふぅっ…遅かったなドラグーン?」
「……(ポカーン)」
「ドラグーン?どうしたんだ…?いったい何があったのかを教えてくれ」
「えっ?あ、あぁ…上の部屋で、大きなレバーと珍しい銅製のオルゴールを見つけたぜ?」
「オルゴール…だと?」
「あぁ…中でメイドがくるくる動いて音がなる…いい造りのオルゴールだぜ?」
オルゴール…ねぇ…まぁ、正直言うと役に立つとは到底思えないわけだが…
せっかく見つけたんだ、あいつも結局何か拝借しているじゃないかとか心で思いつつ…
見逃してやるか…
俺はドラグーンの持っているオルゴールに冷たい視線を送りつつ、ドラグーンを先頭にこの部屋を後にしたのだった…
さて、ドラグーンは上の階でレバーを動かしたって言っていたからな…何が起こったか分からんが先に行くとしよう
そう思いながら、廊下をしばらく歩いていた時だ…
外の淡い月明かりに照らされ、進行方向に女性の影が見えたんだ
……誰だ?俺の勘がなぜか逃げろとささやいているんだが?
こちらからは、彼女が白い服を着ているって事くらいしか判断できない…
いや、白に混じって何色か分からないがまだら模様が混ざっているな…
顔は…残念だが把握できない状況だ…
でも、彼女がもし…ほかの宿泊客だったら、俺達の捜索も無駄ではなかったってことになる
話し掛けて見るか?一か八かだが、何もしないよりはいいだろうし…
俺は心の中で自問自答を繰り返し、最終的にひとつの結論を導き出した
一回、一回だけ話し掛けて見る…もし彼女がゴーストなら…逃げさせてもらうがな?
「あの…失礼ですが、旅行客の方ですか?それともこのホテルのスタッフの人?」
「なっ!?おいナッカーサー、どういうつもりだよ!?危険だぞ!?」
「一応、聞いてみるだけだから、いいだろ?どの道、俺達は彼女の後ろに続いている廊下に行かなきゃいけないんだから」
「あら?お客さんですか…いらっしゃいませ、私はこのホテル内で庭木の手入れをしているしがないメイドでございます…」
「ってことは、このホテルの従業員の方って事でいいんですよね?ふぅっ…よかった…ちょっと聞きたいことがあるんですが…」
「私のことは気軽にシザァとでも呼んでください…ふふっ…」
「あぁ…名前ですか、これは失礼しました…俺はナッカ…」
こうやって、俺が自己紹介をしようとした時だった…いきなり、彼女の両腕から鈍い銀色の金属が姿をあらわしたのが見えたんだよ!
な、なんだ…!?とっさに反射神経だけでよけたが、ものすごく危険な感じがしたぞ!?
そう思い、思わず顔をあげて彼女の方を見た俺…
そこには、眼を細めて含み笑いを口元に浮かべている女性の姿があったんだよ!
彼女が持っているのは…巨大なハサミか?どうしてあんな巨大な危険物を…
いや…ハサミはあくまで…おまけかも知れないな…
俺はその姿を見た次の瞬間、全身の毛が逆立つようなそんな感情に襲われた
廊下の外で光った雷が彼女の姿を俺達にはっきりと見させてくれた訳だ
彼女は全身から赤い煙のような物を出しており、彼女の服の染みはどこからどうみても血の痕のように見えたんだ
俺は思わず、昔の自分と同じ考え…そして感情が心のそこから浮かび上がってくるのを感じたね…
普通に考えたら、こんな得体も知れない謎のホテルで、暗い廊下の中…血にまみれた女性が含み笑いを浮かべながらハサミを両手に持ち立っているんだぜ?
そりゃあ俺だって…怖くもなるさ…な?
「あはっ…あははははっ!!私が初めに見つけた獲物とは違いますけど…結果オーライってやつですね」
「君がはじめに誰を見つけたのかは分からないがな…その無差別に撒き散らす殺意は危険だぜ?」
「魂を奪い…体を引き裂き…切り裂くの…くふっ…あはっ…」
「おいナッカーサー…彼女はどうやらまともに話が通じる相手には見えないぜ?」
「そのようだな…彼女の発する異様な殺気…どうやら出会いたくない相手に早速…出くわしたみたいだぜ?」
「ゴーストか?しかしまぁ…この建物のゴーストは俺の知っているゴーストとはだいぶ違っ…」
ドラグーンの言葉をさえぎって、彼女のハサミが本当に不意に俺達の目の前に伸びてきた…
こ、これは!?待て待てっ!!躊躇が感じられないだと!?
初めから殺す気だと言うのか!?俺達を…!?
じ、冗談きついぞ!?マジで…
「危ねぇっ!?くそっ…なんだってんだよ!?」
「あはっ…あははははははははははははぁっ!!ハサミで切る…私が切って…心を愛して…」
「あまり、戦闘が得意そうには見えないな…ドラグーン、逃げ切れるか?」
「ギリギリといったところになるけど、不可能じゃない…ってところか?」
「だったら、無茶しても逃げるぜ…?変に戦っても勝てる気はしないからな」
「お前…デメトリオみたいなことを言うな…」
「そうか?知らねぇ間に影響…受けちまったのか?ま、別にいいか」
俺達がこんな会話を交わした時だった…彼女がいきなり目の前の視界から消えたんだよ!!
ちっ…ちょっと目を離すとすぐにこれだ、昔から進歩しないな俺は…
どこから…どこから彼女は襲ってくるつもりだ!?
ふふっ……
あは…
ちっ…あたりから彼女の笑い声が聞こえてくるだと…!?正面でもなく…といって後ろでもない…どこから聞こえてくるんだ?
まさか、下から出るなんて事できるはずないし…
そんなことできたら、初めから歩いて移動する必要は無いからな…壁をすり抜けて攻撃してくればいいんだから
って事は…姿を消せるのか?いや…それもありえない…それだったら…まさか!?
俺の考えが正しければ…彼女は上…廊下の天井にいるっ!!
そして俺は、天井に張り付いて獲物をしとめるような動きでとまっている彼女を見たんだ…
ま、まるで蜘蛛みたいだな…なんて、アラクネ種の魔物娘達が聞いたらひどい目に会う気がするので黙っておくとして…
「ちぃっ!!上かっ!!ありきたりな行動だな…ドラグーン!!」
「なんだっ!?」
「下をくぐって走って逃げるぞ!!」
俺はそういうと、即座に頭の上から振り下ろされるハサミをしゃがんで交わし、廊下の端まで走り始めたのだった…
ドラグーンも何とか追いついてきているみたいだが…初めの攻撃を交わしても、次の攻撃がかわせる保障は…無い
彼女がどれほどの速度で追いかけてくるかにもよるだろうが…結局俺達が逃げている先…行き止まりだったら終わりだからな
俺がそう思いながら走っていた数分後、俺は恐れていたことが起こったと分かったんだ…
そう、目の前には無常にも行き止まりの壁…その壁の近くには三つの扉…
一つは上の階に上る階段をふさいでいる扉で金属製…誰が見てもわかりやすいように鍵がついている
残る二つは木製…厄介なのは鍵がかかっているかどうかだ…
もしかかっていたら終わりな訳だが…
正直なところ、この運要素の強い選択で自分を危機に導きたくは無い
何か…いいアイデアは…無いだろうか?
しばらく俺はそう考えていた、この状況を一気に安全にもっていけそうな…
そんなアイデアはないんだろうか?…
そう思っていたときだ、彼女の頭上に俺は古びたシャンデリアのようなものを見つけたんだよ!
彼女はこちらに余裕を持って歩いてきている…今なら、俺のガトリングで彼女の真上にシャンデリアを落とせる…
正直彼女はゴースト…物理的攻撃は一切通用しないだろうが、何もしないよりは…やったほうがいい!
俺はそう判断し、彼女の頭上にあったシャンデリアを狙い撃った
一瞬だが、彼女の注意がそちらに向けられ、彼女が思わず後ろに飛んだ、その時だった!
俺の与えた一撃がシャンデリアと一緒に廊下の天井を崩してきたんだ!!
いや…正確に言うなら天井の一部だが…それでも、この廊下を埋め尽くせる程度には降ってきたんだ
これはラッキー…か?
素直にさっきのラッキーが喜べない俺…そりゃあそうだ
彼女がもし、もしもゴーストである種族柄、この崩れた壁をすり抜けることが出来るのなら…
追い詰められたのは俺達のほうだからな
どちらにしても、これがチャンスであることは確かだ
彼女は俺達がここで何をしようと、少しの間は俺達が見えない状況のわけだからな
「ドラグーン、お前はそっちの扉を頼む…とにかく今は、彼女から逃げる為の逃走路を確保しよう」
「ふぅん…まぁ、いいか。了解だ」
そして俺達は扉を調べ…その結果、両方の扉が開くことがわかったんだ…
片方は下の階に、もう片方は普通の部屋みたいだったんだが…そうだな
彼女がこの瓦礫をすり抜けてこられたら下に…これないならこの部屋を捜索するとしよう
それから数分、俺達は彼女の動向をうかがっていたんだが…これはそうだな…
この廊下の瓦礫の向こうから、石を金属で殴りつける音は聞こえているが…これは彼女がこっちにこれないって事になるのか?
そう判断しても…いいかも知れないな…
と思っていると、いきなり何かを切り裂くような鈍い音がして、その殴りつける音がやんだんだ
どうやら、あきらめてくれたようだな…正直、生きた心地はしなかった
さて、彼女があきらめたのなら、俺達はこの部屋を捜索するとしようかな?
俺はそう判断し、ドラグーンと一緒に部屋を捜索することにしたのだった…
俺達が訪れたこの部屋の中にいくつも並んでいるこの機械は…洗濯機か?
そう、部屋の中には三台の洗濯機が並んでいるだけ…ほかに、目に付くものは何も無くただ洗濯機が並んでいた
この部屋は洗濯をする為の部屋なのだろうか?ま、まぁ…こんな空間も必要だったんだろうとは思うが…
それにここは…ホテルな訳だしさ?
正直、もうどこが高級なのかも分からなくなってきてるわけではあるけどな?
だって…洗濯機が3台しかないっていろいろな意味でどうだ?
不便だと俺は思うが…でもまぁ、もうそんな次元の話をしている状況じゃないな
さて、無駄だとは思うが一応…この部屋の捜索をしておかなければいけないな…
といっても、どこを調べるか…
「さて、何か探すとするか…といっても、あまり期待は出来なさそうだが…」
「じゃあ、俺は適当にこの部屋の端っこにある箱でも調べる…洗濯機をしらべてくれ」
「わかった」
こうして、ドラグーンと話し合った俺は洗濯機を調べることになったんだが…
中に入っているのは案の定…服だけだ
しかも、女性用の下着が大半を占めている状況だ…
「この中を調べるのか…俺が…」
正直、心のそこからうれしさ…そしてそれと同等の罪悪感がおしよせる…
状況が状況…仕方が無いとはいえ、この俺が女性物のパンツを掻き分けるわけだ
ミーシャがこれを知ったら、俺はどんな目に合わされるか…
くそっ…しかし、これはある意味ではチャンスかも知れないな
今まで、女性物の下着をあまり見てこなかった人生だ、おかげで…ミーシャのランジェリーを買いに言った時…ものすごい恥もかいた
この機会に眼にしっかりと焼きつけておいて…これはかわいいと思える下着の研究をするのもありかもしれない
……こんな時、俺は変にまじめなところがあるからなぁ
デメトリオだったらこんなことも迷わずに……いや、あいつも無理だな…
よく考えたら、宿屋にいる男達にそんな勇気がある奴…いねーや
ある意味では、男として残念だともいえるのか…?
こんなことを考えながらも、俺は洗濯機の中を調べ始めたんだ…
それから数分…結局俺は何も見つけることは出来なかったわけだけどな?
そりゃあそうだろ…だって、洗濯機だしさ
「どうだナッカーサー?何かあったか?」
「いや…お前は?」
「ただの漂白剤が入っていた箱の中に、手がかりなんてあるわけ無いな」
「……そうだよな、残り二つの洗濯機もおそらくはずれなんだろうし…」
そういいつつも、俺達はそれぞれ洗濯機の前にたって、洗濯機の中を調べる準備をしているわけなんだがな
だって、せっかく来たんだ…俺達が無いだろうって調べなかった洗濯機の中に何かあったら馬鹿馬鹿しい
それに…はずれだったとしても数分のロスで済むんだから安いものだ
でも欲を言えば…少しは何か見つけたいものだな
あいつらの中でリーダーの振りをしている以上、俺が何かを見つけないと話しにならない
それに…ここで結局何も進展が無かったら…俺達は一生この謎のホテルに囚われの身って事になる
ミーシャやサリィ…俺やデメトリオたちの嫁だって戻ってきていないわけだし
少しでも…前に進まないと話にならないだろ?
なんて心の声はかっこつけてるだけで、根拠は何も無い
そして、結局何も見つからないだろうって気持ちで洗濯機を開けた時だった!
俺の空けた洗濯機の中にはなんと…なんとっ!!
上で口が縛られている謎の袋がはいっていたんだ
この明らかに怪しい袋…結局ドラグーンの調べたほうは男物の下着しかなく、俺達二人はこの袋の前に立っている
この袋が俺達にいったいどんな影響を及ぼすか…それがまったく予測できないってのがつらくて仕方が無い
もし、これほど警戒して袋の紐を解いているのに、中に何もはいっていなかったり、俺達に関係ないものがはいっていたら…
スカだったら俺は多分、本気でキレるんだろうけどな
っと、こんなことを思っていると、ようやく固かった紐がゆるくなってきたな…
さぁ、袋の中の物とご対面だ!!
そして…俺の紐を解ききった時、袋の中にはいっていたのは…!!
男だった、しかも…あきらかに旅行客って感じの服装の男が寝ている最中にぐるぐるに縛られたといった状況で中にはいっていたんだよ!
これは…明らかに俺達以外の旅行客だろうが、どうしてこんな袋の中にいるんだ…?
いや、もうそんなことはどうでもいいことか…そこを追求したら、どうしてこのホテルにゴーストが巣食っているのかの説明をするのさえ難しくなる
俺にはその理由は説明できないんだがな
「おい、あんた…おきろ」
「うぅ…って、な、なんだこれはっ!?」
「気が付いたか…?また、面白いくらいに寝てたが…」
「貴様達…これがどういうことか、当然説明はあるんだろうな?」
「え?説明…だって?」
「そうだ、いくらお前達が複数で私を自室から拉致しようと…私は貴族なのだ、私が助けを呼べばすぐに貴様らなど…」
……また、変な奴を助けてしまったかもしれないな
どうでもいいが、俺はこういった自分の権力をたいした実力も俺達に証明していないのに威張る奴は嫌いだ
まぁいいさ、俺達はこの旅行客に聞きたいことがあるんだからな…
なんて思っていると、いきなりドラグーンがその貴族の男の近くに行って話しはじめたんだ
「あんたさ、権力ってのに縛られるのやめたらどうだ?弱者の俺より弱者に見えるぜ?」
「なっ…!?き、貴様ぁっ!!出会って早々、ずいぶんな物言いだなっ!!ええい、なぜ指を鳴らしても誰もこんのだ!?」
「それは単純さ、誰も来ないんじゃない…おそらくは来れないんだろうさ」
「なんだと?なぜだ?なぜ貴様にそのようなことが…」
「それはこっちが聞きたい、あんたは俺たちとは違う目的でこのホテルに泊まったんだろ?」
「ふん、そうだが?」
「あんたの身に何が起こったか、それを説明してもらおうか?」
「だったら簡単だ…変な男二人に寝ている間に拉致された、以上」
なるほど、それは確かだ…って、待て待て
このまま深い事情を説明せずに話しをしていると、誤解だけが膨らんでいくな…
ここで彼にも、少し事情を説明したほうがよさそうだ…
「ドラグーン、ちょっと俺が彼にこれまでのいきさつを説明する、下がっててくれ」
「んっ…まぁ、いいけど…むかついたらそいつ、一回なら殴ってもいいぞ?俺が許す」
殴る許可とかもらっても、正直困る…
さて…長くなるが、説明はしっかりとしておいたほうがよさそうだな…
そう思い俺は、今まで俺たちに起こった状況を彼に詳しく説明した訳だ
何もかも、つつみかくさずな?だって、隠したって結局、彼も俺達も戻れないって事は事実なんだから
「つまり、このホテルは何かおかしいから、協力して脱出しようと…そういうことか?」
「そう、話が早くて助かるぜ…」
「ふんっ!!そんなもの…貴様らだけでやればよいだろうが!!この貴族たる私が協力など…」
俺はこいつがそう言った次の瞬間、この貴族野郎の頭を一発殴っていたんだ
こいつ、協力しないと全員がどうしようもない状況だと言ったのが聞こえなかったのか?
それとも何か?自分は貴族であり、庶民とは違うから一緒に行動などしたくないと?
そんな考えだから、貴族を嫌いな平民が増えるんだよ
「き、貴様っ!!私を誰だと…」
「誰だよ?言っておくが、お前が誰でどれだけの権力者でも…ここから帰れないぞ?権力なんて今は無駄な物だ」
「そりゃあそうだなナッカーサー、だって…権力ってのは人が勝手に決めた身分だ、その枠組みが無くなったら、こいつはただの生意気な男にすぎない」
「それと、もう一つ…俺達がその縄を解かなければ、お前はどうあがいても自由には動けない」
「…っ!!」
どうやらこの馬鹿にもわかったみたいだな、自分の今の状況が…
そう、こいつをここから助けてやるのも見殺しにするのも俺達の自由だって事にさ
俺だって完全な悪者じゃない、好き好んでこんなことをしたいわけではないんだぜ?
だが、もしも俺達に協力しないのなら、その時は彼はこの洗濯室に一人でいてもらうつもりだ
それに、彼にも教えたほうがよさそうだしな、この建物の中には…ゴーストがいるって
「後、一つ教えてやる、このホテルにはゴーストが出るんだ」
「それがどうかしたか?今の世の中、ゴーストなら我が領内にも出る」
「ただのゴーストじゃ無い…彼女は物凄い狂気に満ちていたからな…」
「脅しているのか?私を…」
「違うさ、いくらあんたがこのホテルの外ではえらくても、ホテル内ではぜんぜんえらくないって分かってほしい」
「ぐっ…し、仕方あるまい、認めよう」
「本題は…俺達は脅しているわけではない…協力してくれといっているだけだ」
……そんなことを言ったが、正直に言うと、これはれっきとした脅しだ
だって、この俺達の話を聞かなければ、お前は死ぬって言っているようなものなんだからな
そして、おそらくはこいつもそのことに気がついているだろう…
まぁ、人間なんだ…多少なりとも疑いの心はもったほうがいいさ
そして、それからしばらくの時間が経過した時だ…そいつがいきなり俺達に話し掛けてきたんだ
ついに協力するって決心したか?それとも違うのか…はっきりしてもらわないとな
「お前達が合ったゴーストについて、もう少し聞かせてくれ、それで決める」
「いいだろう、実はこのホテルの中で俺たちは…ハサミを振り回す女性のゴーストに出会ったんだ」
「それで?ほかに特徴は?」
「特徴…そういえば、あんたの服装とよく似た、独特的な服装だったな…血まみれだったけど」
と、ドラグーンが言うと、いきなり彼は何かを考え込み、俺達に向かって変にまじめに話し始めたんだ
いきなり手のひらを返したように態度を変えるのは…どうかと思うが、いったいなぜだ?
「わかった、協力しよう…いや、協力させてくれ…実は、私がこのホテルに来た理由とそのゴーストは関係あるかもしれん」
「えぇっ!?い、いきなりの展開だな…どうしてそういえるんだ?」
「この手紙…我が屋敷になぜか入っていた手紙で、差出人も不明ではあるのだが…見てくれ」
彼はそういうと、自分の懐部分をちょっと指差したんだ…
そこには、確かに変に赤黒い色の封筒が入っていたんだ
この色…まさか血じゃないだろうな?まぁいい、とにかく彼の言った手紙とやらを見てみよう
このタイミングで、彼から情報を得ることが出来るようになるとは正直、思ってもいなかったな
俺達の捜索もここにきて、ようやく少しは意味を持ってきたように思える
『親愛なるガドラス様へ
本日、私がこのお手紙をお送りしたのはほかでもありません、実は最近…私の身に面白いことが起こりまして
そこで、それをあなたに見てもらいたく…この手紙の最後に地図が同封されておりますので、どうかお越しください…
最高級のおもてなしをホテルでいたしますから…
絶対にきてくださいね…?まぁ、来なければ別に…それはそれでいいのですけれど
追伸 今宵も私のハサミは良く切れますわ…ふふっ…
ガドラス様の"元"庭師 シザァ=アルティール』
この手紙に…どこかおかしいところがあるって言うのか…?
ぱっと見た限りでは、おかしなところなど見つけられないが…
俺はそう思うと、手紙を彼に返したんだ…結局、この手紙でわかったことといったら一つだけ…
彼の名前がガドラスって事くらいだな…
「この手紙の…どこがおかしいんだ?確かに、封筒に差出人が書かれていないのはおかしいと思ったが、手紙の中にちゃんと差出人の名前もあるじゃないか」
「そう…そこだ、すでにそれがおかしいのだ…お前達は私に確か先ほど…こう言ったな?私の服に良く似た服を来た女性に合ったと…」
「あぁ、俺もドラグーンもそれは見ている…なんせ、衝撃的だったからな…」
「そうそう、あの時は俺も死ぬかと思ったぜ」
「で、それがどうかしたのか?」
「大いに関係ありだ、この私の着ている服…これは私の領土の特産品だからな…今はまだ、外の世界には出回っていない」
なんだと…?だが、それだけで手紙とあのゴーストの女性を結びつけるのには少々無理があるんじゃないか?
確かに偶然にしては少々出来すぎている気もするが…可能性は低いと思う
もっと別の…俺でも納得できるような意見が聞きたいな…正直なところ、まだまだ情報不足だ
「他に…何かこの手紙について…怪しいことは無いのか?」
「私の話をちゃんと聞きもせずに…まぁいい!!彼女…この手紙の差出人は…すでにこの世にはいないのだ…どこにもな」
「「なっ…!?」」
俺達は一瞬だが、自分の耳を疑ったんだ、彼女はすでにこの世にいない…?
待て待て…それだと話が少々…いやだいぶややこしいことに…
つまり、分かりやすくまとめると彼のところに来た手紙は死者から送られてきたって事になる!
そんな馬鹿な話が…ありえるのか?いや…確かにこのホテルはもう普通じゃない…
確実にそんなことはありえないとはいえない状況だと俺はしつこいくらい言ってもいるが…
「つまり、この手紙は私の屋敷に届くはずが無いものなのだ!!なので…初めはいたずらだろうと思いもしたんだが…」
「したんだが…って事は、結局はそうしなかったって事なのか?それはいったいなぜだ?」
「妙な胸騒ぎがしてな…今年は私にとっては厄年だった、近年稀にみる大飢饉だったからな…」
「ってことは、フェルス興国より南部の方にある大陸の出身か…?新聞で少々見たが…」
「そうだ、この際だから言わせてもらうが…私はその中でも物凄く小さい領土の領主だ」
それなのに…あれほど威張っていたのかよこいつは…
だが、それがここに来るのとどんな関係を…?
「この手紙の差出人がこの世界からいなくなって13年…昔から13は不吉な数字だと聞く…だからな、嫌な予感がしたのだ」
「だから…このホテルに来たと?」
「そうだ、このホテルに来れば、誰が私にこのような手紙を書きよこしたのかが分かると思ったからな!!だが結局は…」
「洗濯機の中に寝ている間に袋に入れられて押し込められたと…」
「そういうことになるな…」
それにしても…あの手紙に書かれていた差出人の名前…妙にどこか引っかかるんだよな
最近…本当に最近どこかで…あの名前にそっくりな名前を聞いたような気がするんだが…俺の気のせいなのか?
そう思いつつもう少しの時間、彼女の名前を考えていた時だ…俺はふと、この名前をどこで聞いたかを思い出したんだ!
この部屋に来る前に出会った彼女…確か、俺の記憶違いじゃないなら彼女は自分の名前を名乗っていたはずだ!
シザァと…ふむ、この二つの出来事…どうやら俺の中では繋がったな
この問題も含めて…どうやらこのホテルでまだまだ調べなければいけないことが増えたみたいだな…
「で…彼女はどうしてなくなったんだ?病気か?」
「それは…言えんな」
「なぜだ?別に死因くらいは聞いてもいいと思うが…」
「私だって思い出したくないことの一つや二つはある…そういうことだ」
……今ひとつ、俺はどこかで彼を信用できないが…まぁいい…
他の宿泊客を見つけることが出来たんだ、他の旅行客も彼のようにつかまっている可能性もある
ここはいったん、ロビーに戻ってみんなと対策を練ったほうがよさそうだな
俺はそう思うとドラグーンにその考えを言って、ロビーに戻ることにしたんだ…
で、いざ廊下に出て俺はあることを思い出した…
この廊下…彼女から逃げる目的で天井を落としたから、彼女もこっちにこれない代わりに俺達も通れない状況になっているんだ
「このこと、忘れてたな…どうする?ナッカーサー…」
「そうだな…そういえば、もう一つの階段があったな…あそこから、どうにかしてロビーにいけないか?」
「まぁ…悩んでいても仕方が無いしな…いくか」
そして、明らかに二階よりも暗い一階に下りていく俺達…
デメトリオたちが明かりを持っていったのは正解だったな…まったく、何も見えないぞ…
階段の段も見えないのはさすがにどうかと思うんだが…
そうぼやきつつ、一段一段を丁寧に俺は降りていく、ここは…部屋か?何も見えないからいまいち分からないが…
「ナッカーサー!これ…ろうそくじゃないのか?」
「ろうそく?これはまた…いいものを見つけたじゃないか!早速、使わせてもらうとしよう…」
都合よく、ろうそくを見つけることが出来た俺達…正直、こんなに都合よく物事が進むのに、若干嫌な予感を感じるぜ…
などと思いつつ、俺はポケットの中に入れてあったマッチをこすって、ろうそくに火をともしたんだ…
初めからマッチを持っているなら、それを使えばよかったじゃないかって思う奴もいるかもしれんが…
マッチだって、長時間火で辺りを照らしてくれるわけじゃない…それなら、こんな感じのろうそくやランプのようなものを見つけたときに使うほうがいい
こんな状況だ、資源は出来る限り大切に使わないとな…
「なぁ、ナッカーサー…この部屋、捜索しておくか?」
「いや、今はまだいいだろう…一階の捜索は本来、デメトリオたちの仕事でもあるわけだ、変に部屋を荒らさないほうがいい」
「それも…そうだな…」
「ちょっとよいか?さっきから貴様たちが話しているデメトリオという人物は誰なのだ?」
「あぁ…まぁ、会ったらわかる…」
俺はそう答えると、そそくさと出口であろう扉に手をつけたんだ…が
なんだ?これは人の気配か…?この扉の向こう側から…二人ほどの人の気配がする
ちょっと様子を見たほうがいいだろうか?
俺はそう考え、ドラグーンとアイコンタクトを取ったんだ…
初めはドラグーンも何がなんだかわからないって顔をしていたが、だんだん分かってくれたようだからひとまずはよしとしよう…
そして、ドラグーンが答える前に、向こうのほうがこの扉を開けてきたんだ…
こうなったら、仕方が無い…先に行動される前に、先手を打っておくか…
そういうと、腰につけていたナイフに手を伸ばしたんだ…
このナイフ…装飾が見事だろ?って、文章だとどんなナイフかわからんよな、すまん
「動くなっ!!」
「ひぃぃぃぃぃっ!?な、なんだぁっ!?」
んっ…?デメトリオ…?そうか、この部屋の階段は下の廊下と二階の廊下をつないでいたのか…
とにかく、ここでデメトリオに出会えたのはよかったな…デメトリオにもロビーに戻って話し合う必要があるってことを伝えておかないと…
そう思って、俺はデメトリオに話し掛けてみたが…どうやら、デメトリオもこの部屋を調べたらロビーに戻るつもりだったらしい…
だったらちょうどいい…ここでひとまず、ロビーに戻るとするか…
こうして俺達は、ロビーに戻って行ったのだった…
chapter 1-2(B) END
正直、俺は自分の考えが確実に正しいとは思えない…
でも…まぁ、何も考えていないよりはいいんだが…
こんな状況だ、ほかの連中を心配させないように俺が頑張らないと…
そう思い、自分なりにリーダーっぽく振舞ってはいるが…
正直言うと、俺だって人間だから…今の状況がとても怖いことってのは分かるんだよ
この中では一番怖がっていないようにしてはいるけどな?
まぁ、こんなことを考えていても仕方が無い…
俺がこんなことを考えていて、ミーシャ達が戻ってくるわけじゃないし…
正直言うと、とても心配だ…今の状況は、どこの誰が考えたって普通じゃないからな
「なぁ、ナッカーサー…勢いよく俺達もここまできたけど、どうするんだ?今から…」
「やっぱり、行くしかないんじゃないか?こんなところで立っていてもどうにもならないだろ?」
「……それはそうだが…明かりはどうする?デメトリオたちが明かり持っていったから、俺達に明かりはないぜ?」
明かり…ねぇ…
確かに、俺達は今明かりを持っていないが…やっぱりいるか?
確かに、明かりを持っていない状況で明かりも一切無いこの廊下を移動するのは怖いな…
後ろからいきなり攻撃を食らってもたまらないわけだし…
俺がそう思いながら廊下を見ると、うっすらとだが外から月明かりが差し込み廊下が見える状態になっていたんだ
窓は一定間隔に配置されていて、外では相変わらず凄い雨…そして雷が時々なっていた…
この状況では、普通に見える景色…しかし、俺達はこの建物から出ることは出来ない…
本当に、どうなっているんだろうな…このホテル…
「ドラグーン、どうやら…大丈夫そうだぜ?明かりの心配はしなくても…」
「えぇ?それはどういう…って、あれ?思ったより明るいな…」
「これなら、しばらくは明かりの心配をしなくても大丈夫そうだが…」
「そうだな…もしもの時はたいまつでも自作するかとも思ったが…」
たいまつ…?ドラグーンのやつ、たいまつが作れるのか?
そういえば、俺と一緒で昔…戦争を経験したことがあるんだったな…
昔かぁ…俺はあまり、昔のことは思い出したくないぜ…
まぁ、忘れるつもりも無いけどさ?
そう思いながら、ドラグーンと一緒に廊下に入る俺…
さて、重要なのはここからだぜ?まず、どこを調べるのか…これが重要だろ?
俺はそう思って近くにあった扉を開けようとしたが…
ガチャッ…
ほらな?やっぱり、鍵がかかっている部屋が大半…さすがに、初めから上手くいくわけ無いさ
これだけ広い建物でも、開いている扉は少ないだろうさ…それに…
どうやら俺達がいるのは二階のほんの一部のようだ、左の窓から、別の廊下が見えるってことは、おそらくどこかで繋がっているんだろうけど…
まぁ、後になれば行く機会もあるだろ…
今はこの廊下で調べることが出来る部屋を探すことからはじめないとな…
俺はそう思うと、入ってすぐのところにある三つの扉をドラグーンと一緒に調べ始めたんだ
この三つの扉…こんなに近くに密集しているんだ、どれかひとつくらい開いてくれないと…俺としてはやってられない気持ちになるわけだが?
だが、俺はすぐに自分のこの考えが甘かったと思い知ったんだ…
そう!全部の扉は…みんなも考えただろうが、開かなかったのさ
「………あかないな、ドラグーンそっちはどうなんだ?」
「こっちもダメだ…やっぱり上手くいかないもんだな…くそっ!!」
ドラグーンがそういいながら、目の前の扉を蹴りつけ…そして次の瞬間だ
なんと、ドラグーンの蹴った扉が鈍い音を立てて壊れたんだよ!!
「ドラグーンっ!?お、お前…」
「なっ!?ちょっ…ち、違うぞ!?俺は軽く蹴った訳で…」
「へぇ〜…?」
「ナッカーサー、おまっ…信じてないな?本当に軽く蹴ったんだぞ!?」
ドラグーンは必死にそういっているが…
まぁいい…そういうことにしておいてやるかな
結果的には、少し手間が省けたわけでも…あるしな?
俺はそう思うと、ドラグーンが壊した扉を踏みつけ、部屋の中に入ったんだ…
この扉…どうでもいいが腐っていたんだな
それになんだ?この部屋は…?どの家具も高級ホテルにはふさわしくないくらいにボロボロじゃないか…
机もたんすも…椅子も…すべてが何かで切り裂かれたようにボロボロになっているこの部屋の光景…正直、不気味だな
さて、この部屋をじっくりと…調べるとするかな?
しばらく部屋の中を捜索してみて、俺にはわかったことが二つある…
まずひとつは…この部屋はホテルの外見に反し、今から数十年も昔のものらしいって事だ
どれも、俺が子供の時には家にあったが、時代が流れていくに連れてなくなっていったものばかりだった…
分かりやすくいうなら、中世か?とにかく、かなり古い
わかったことの二つ目…実際はこれがものすごく重要なわけだが…
どれだけ古めかしい造りの部屋であっても…その部屋に確実に何かが隠されているわけじゃないんだな
そう…捜索はしたが、発見は0だ
俺達が気がついたことっていったら…天井に大きな穴があいているくらいか?
「どうだナッカーサー…何か気になるものはあったか?」
「ん?気になるものねぇ…ミーシャが気に入りそうな木の根の装飾が施されたティーカップなら見つけたが?」
「そんなものを見つけたって聞きたいわけじゃないんだが?」
「まぁ…いくらこのホテルが変だっていっても、勝手に物を取るのはいけないしな…」
「……地図とか懐中電灯とか、いろいろ奪取してきたけどな…」
「ドラグーン、それは言っちゃダメってやつだぜ?」
そう言いつつ、この部屋の捜索が空振りに終わったと判断した俺は、この部屋から出ようとしたんだ…
俺が部屋から出ようとすると…
なんと、ドラグーンが自分の槍を構えて変な踊りをしていたんだよ
……俺のMP(メンタルポイント)が下がるような踊りをしやがって…
「待てよナッカーサー!上…調べないのか?」
「ん?調べないも何も、いけないじゃないかよ…それと、その変な踊りやめてくれ」
「へ、変な踊り…!?お前にはこのセンスが…まぁいい、俺だったらこの上…調べてやれるぜ?」
「どうやってだよ?」
正直、口先だけだったらむかつくわけだが…ドラグーンはどうやって上に行くつもりなんだ?
家具を積み重ねて階段を作るとか、そんなふざけた事を言い出したりしないだろうな…?
この部屋の家具はものすごくボロボロだから、上に乗ったら間違いなく壊れるんだが?
「見てな?俺のこの槍…地面に刺せば、このとおり!!伸びて上にいけるって事さ!」
「なにぃっ!?ど、どうなってるんだよ!?その槍?」
「実は俺の槍…伸びるんだよな、昔から…理由はわからないけど、これを使えば上の階を調べられるって訳さ!」
「……そうか、じゃあ頑張って来い。一応待っておいてやるから」
「分かった…じゃあ適当にそこで舞っててくれ」
……行ったか…さて、待つとは言ったが一人は暇だな…
こんな暗い部屋に一人で待機なんて…個人的にはものすごい暇であり、怖い状況じゃないか
こういった時は、動いていたほうがいいって…傭兵時代に聞いたことがあるな…
……そうだっ!!踊るか?
「るーったったー、らんたったー、フォーエヴァー、サマァーデェー♪」
「お待たせ、ナッカーサー上にあったレバーと気になったものを持ってき…」
うぉぉぉぉぉぉっ!?
いきなり降りてきたドラグーンに驚き、一瞬だが動きが止まる俺…
なんだ?なんなんだこの気まずい空気…!?いやそれより…
基本的に宿屋で同居している連中にはあまり見せないテンションを見せてしまったわけだ…
……今ならまだ、ごまかせるのか?それとももう手遅れなのか…?
いや、多分大丈夫だろう…
「ふぅっ…遅かったなドラグーン?」
「……(ポカーン)」
「ドラグーン?どうしたんだ…?いったい何があったのかを教えてくれ」
「えっ?あ、あぁ…上の部屋で、大きなレバーと珍しい銅製のオルゴールを見つけたぜ?」
「オルゴール…だと?」
「あぁ…中でメイドがくるくる動いて音がなる…いい造りのオルゴールだぜ?」
オルゴール…ねぇ…まぁ、正直言うと役に立つとは到底思えないわけだが…
せっかく見つけたんだ、あいつも結局何か拝借しているじゃないかとか心で思いつつ…
見逃してやるか…
俺はドラグーンの持っているオルゴールに冷たい視線を送りつつ、ドラグーンを先頭にこの部屋を後にしたのだった…
さて、ドラグーンは上の階でレバーを動かしたって言っていたからな…何が起こったか分からんが先に行くとしよう
そう思いながら、廊下をしばらく歩いていた時だ…
外の淡い月明かりに照らされ、進行方向に女性の影が見えたんだ
……誰だ?俺の勘がなぜか逃げろとささやいているんだが?
こちらからは、彼女が白い服を着ているって事くらいしか判断できない…
いや、白に混じって何色か分からないがまだら模様が混ざっているな…
顔は…残念だが把握できない状況だ…
でも、彼女がもし…ほかの宿泊客だったら、俺達の捜索も無駄ではなかったってことになる
話し掛けて見るか?一か八かだが、何もしないよりはいいだろうし…
俺は心の中で自問自答を繰り返し、最終的にひとつの結論を導き出した
一回、一回だけ話し掛けて見る…もし彼女がゴーストなら…逃げさせてもらうがな?
「あの…失礼ですが、旅行客の方ですか?それともこのホテルのスタッフの人?」
「なっ!?おいナッカーサー、どういうつもりだよ!?危険だぞ!?」
「一応、聞いてみるだけだから、いいだろ?どの道、俺達は彼女の後ろに続いている廊下に行かなきゃいけないんだから」
「あら?お客さんですか…いらっしゃいませ、私はこのホテル内で庭木の手入れをしているしがないメイドでございます…」
「ってことは、このホテルの従業員の方って事でいいんですよね?ふぅっ…よかった…ちょっと聞きたいことがあるんですが…」
「私のことは気軽にシザァとでも呼んでください…ふふっ…」
「あぁ…名前ですか、これは失礼しました…俺はナッカ…」
こうやって、俺が自己紹介をしようとした時だった…いきなり、彼女の両腕から鈍い銀色の金属が姿をあらわしたのが見えたんだよ!
な、なんだ…!?とっさに反射神経だけでよけたが、ものすごく危険な感じがしたぞ!?
そう思い、思わず顔をあげて彼女の方を見た俺…
そこには、眼を細めて含み笑いを口元に浮かべている女性の姿があったんだよ!
彼女が持っているのは…巨大なハサミか?どうしてあんな巨大な危険物を…
いや…ハサミはあくまで…おまけかも知れないな…
俺はその姿を見た次の瞬間、全身の毛が逆立つようなそんな感情に襲われた
廊下の外で光った雷が彼女の姿を俺達にはっきりと見させてくれた訳だ
彼女は全身から赤い煙のような物を出しており、彼女の服の染みはどこからどうみても血の痕のように見えたんだ
俺は思わず、昔の自分と同じ考え…そして感情が心のそこから浮かび上がってくるのを感じたね…
普通に考えたら、こんな得体も知れない謎のホテルで、暗い廊下の中…血にまみれた女性が含み笑いを浮かべながらハサミを両手に持ち立っているんだぜ?
そりゃあ俺だって…怖くもなるさ…な?
「あはっ…あははははっ!!私が初めに見つけた獲物とは違いますけど…結果オーライってやつですね」
「君がはじめに誰を見つけたのかは分からないがな…その無差別に撒き散らす殺意は危険だぜ?」
「魂を奪い…体を引き裂き…切り裂くの…くふっ…あはっ…」
「おいナッカーサー…彼女はどうやらまともに話が通じる相手には見えないぜ?」
「そのようだな…彼女の発する異様な殺気…どうやら出会いたくない相手に早速…出くわしたみたいだぜ?」
「ゴーストか?しかしまぁ…この建物のゴーストは俺の知っているゴーストとはだいぶ違っ…」
ドラグーンの言葉をさえぎって、彼女のハサミが本当に不意に俺達の目の前に伸びてきた…
こ、これは!?待て待てっ!!躊躇が感じられないだと!?
初めから殺す気だと言うのか!?俺達を…!?
じ、冗談きついぞ!?マジで…
「危ねぇっ!?くそっ…なんだってんだよ!?」
「あはっ…あははははははははははははぁっ!!ハサミで切る…私が切って…心を愛して…」
「あまり、戦闘が得意そうには見えないな…ドラグーン、逃げ切れるか?」
「ギリギリといったところになるけど、不可能じゃない…ってところか?」
「だったら、無茶しても逃げるぜ…?変に戦っても勝てる気はしないからな」
「お前…デメトリオみたいなことを言うな…」
「そうか?知らねぇ間に影響…受けちまったのか?ま、別にいいか」
俺達がこんな会話を交わした時だった…彼女がいきなり目の前の視界から消えたんだよ!!
ちっ…ちょっと目を離すとすぐにこれだ、昔から進歩しないな俺は…
どこから…どこから彼女は襲ってくるつもりだ!?
ふふっ……
あは…
ちっ…あたりから彼女の笑い声が聞こえてくるだと…!?正面でもなく…といって後ろでもない…どこから聞こえてくるんだ?
まさか、下から出るなんて事できるはずないし…
そんなことできたら、初めから歩いて移動する必要は無いからな…壁をすり抜けて攻撃してくればいいんだから
って事は…姿を消せるのか?いや…それもありえない…それだったら…まさか!?
俺の考えが正しければ…彼女は上…廊下の天井にいるっ!!
そして俺は、天井に張り付いて獲物をしとめるような動きでとまっている彼女を見たんだ…
ま、まるで蜘蛛みたいだな…なんて、アラクネ種の魔物娘達が聞いたらひどい目に会う気がするので黙っておくとして…
「ちぃっ!!上かっ!!ありきたりな行動だな…ドラグーン!!」
「なんだっ!?」
「下をくぐって走って逃げるぞ!!」
俺はそういうと、即座に頭の上から振り下ろされるハサミをしゃがんで交わし、廊下の端まで走り始めたのだった…
ドラグーンも何とか追いついてきているみたいだが…初めの攻撃を交わしても、次の攻撃がかわせる保障は…無い
彼女がどれほどの速度で追いかけてくるかにもよるだろうが…結局俺達が逃げている先…行き止まりだったら終わりだからな
俺がそう思いながら走っていた数分後、俺は恐れていたことが起こったと分かったんだ…
そう、目の前には無常にも行き止まりの壁…その壁の近くには三つの扉…
一つは上の階に上る階段をふさいでいる扉で金属製…誰が見てもわかりやすいように鍵がついている
残る二つは木製…厄介なのは鍵がかかっているかどうかだ…
もしかかっていたら終わりな訳だが…
正直なところ、この運要素の強い選択で自分を危機に導きたくは無い
何か…いいアイデアは…無いだろうか?
しばらく俺はそう考えていた、この状況を一気に安全にもっていけそうな…
そんなアイデアはないんだろうか?…
そう思っていたときだ、彼女の頭上に俺は古びたシャンデリアのようなものを見つけたんだよ!
彼女はこちらに余裕を持って歩いてきている…今なら、俺のガトリングで彼女の真上にシャンデリアを落とせる…
正直彼女はゴースト…物理的攻撃は一切通用しないだろうが、何もしないよりは…やったほうがいい!
俺はそう判断し、彼女の頭上にあったシャンデリアを狙い撃った
一瞬だが、彼女の注意がそちらに向けられ、彼女が思わず後ろに飛んだ、その時だった!
俺の与えた一撃がシャンデリアと一緒に廊下の天井を崩してきたんだ!!
いや…正確に言うなら天井の一部だが…それでも、この廊下を埋め尽くせる程度には降ってきたんだ
これはラッキー…か?
素直にさっきのラッキーが喜べない俺…そりゃあそうだ
彼女がもし、もしもゴーストである種族柄、この崩れた壁をすり抜けることが出来るのなら…
追い詰められたのは俺達のほうだからな
どちらにしても、これがチャンスであることは確かだ
彼女は俺達がここで何をしようと、少しの間は俺達が見えない状況のわけだからな
「ドラグーン、お前はそっちの扉を頼む…とにかく今は、彼女から逃げる為の逃走路を確保しよう」
「ふぅん…まぁ、いいか。了解だ」
そして俺達は扉を調べ…その結果、両方の扉が開くことがわかったんだ…
片方は下の階に、もう片方は普通の部屋みたいだったんだが…そうだな
彼女がこの瓦礫をすり抜けてこられたら下に…これないならこの部屋を捜索するとしよう
それから数分、俺達は彼女の動向をうかがっていたんだが…これはそうだな…
この廊下の瓦礫の向こうから、石を金属で殴りつける音は聞こえているが…これは彼女がこっちにこれないって事になるのか?
そう判断しても…いいかも知れないな…
と思っていると、いきなり何かを切り裂くような鈍い音がして、その殴りつける音がやんだんだ
どうやら、あきらめてくれたようだな…正直、生きた心地はしなかった
さて、彼女があきらめたのなら、俺達はこの部屋を捜索するとしようかな?
俺はそう判断し、ドラグーンと一緒に部屋を捜索することにしたのだった…
俺達が訪れたこの部屋の中にいくつも並んでいるこの機械は…洗濯機か?
そう、部屋の中には三台の洗濯機が並んでいるだけ…ほかに、目に付くものは何も無くただ洗濯機が並んでいた
この部屋は洗濯をする為の部屋なのだろうか?ま、まぁ…こんな空間も必要だったんだろうとは思うが…
それにここは…ホテルな訳だしさ?
正直、もうどこが高級なのかも分からなくなってきてるわけではあるけどな?
だって…洗濯機が3台しかないっていろいろな意味でどうだ?
不便だと俺は思うが…でもまぁ、もうそんな次元の話をしている状況じゃないな
さて、無駄だとは思うが一応…この部屋の捜索をしておかなければいけないな…
といっても、どこを調べるか…
「さて、何か探すとするか…といっても、あまり期待は出来なさそうだが…」
「じゃあ、俺は適当にこの部屋の端っこにある箱でも調べる…洗濯機をしらべてくれ」
「わかった」
こうして、ドラグーンと話し合った俺は洗濯機を調べることになったんだが…
中に入っているのは案の定…服だけだ
しかも、女性用の下着が大半を占めている状況だ…
「この中を調べるのか…俺が…」
正直、心のそこからうれしさ…そしてそれと同等の罪悪感がおしよせる…
状況が状況…仕方が無いとはいえ、この俺が女性物のパンツを掻き分けるわけだ
ミーシャがこれを知ったら、俺はどんな目に合わされるか…
くそっ…しかし、これはある意味ではチャンスかも知れないな
今まで、女性物の下着をあまり見てこなかった人生だ、おかげで…ミーシャのランジェリーを買いに言った時…ものすごい恥もかいた
この機会に眼にしっかりと焼きつけておいて…これはかわいいと思える下着の研究をするのもありかもしれない
……こんな時、俺は変にまじめなところがあるからなぁ
デメトリオだったらこんなことも迷わずに……いや、あいつも無理だな…
よく考えたら、宿屋にいる男達にそんな勇気がある奴…いねーや
ある意味では、男として残念だともいえるのか…?
こんなことを考えながらも、俺は洗濯機の中を調べ始めたんだ…
それから数分…結局俺は何も見つけることは出来なかったわけだけどな?
そりゃあそうだろ…だって、洗濯機だしさ
「どうだナッカーサー?何かあったか?」
「いや…お前は?」
「ただの漂白剤が入っていた箱の中に、手がかりなんてあるわけ無いな」
「……そうだよな、残り二つの洗濯機もおそらくはずれなんだろうし…」
そういいつつも、俺達はそれぞれ洗濯機の前にたって、洗濯機の中を調べる準備をしているわけなんだがな
だって、せっかく来たんだ…俺達が無いだろうって調べなかった洗濯機の中に何かあったら馬鹿馬鹿しい
それに…はずれだったとしても数分のロスで済むんだから安いものだ
でも欲を言えば…少しは何か見つけたいものだな
あいつらの中でリーダーの振りをしている以上、俺が何かを見つけないと話しにならない
それに…ここで結局何も進展が無かったら…俺達は一生この謎のホテルに囚われの身って事になる
ミーシャやサリィ…俺やデメトリオたちの嫁だって戻ってきていないわけだし
少しでも…前に進まないと話にならないだろ?
なんて心の声はかっこつけてるだけで、根拠は何も無い
そして、結局何も見つからないだろうって気持ちで洗濯機を開けた時だった!
俺の空けた洗濯機の中にはなんと…なんとっ!!
上で口が縛られている謎の袋がはいっていたんだ
この明らかに怪しい袋…結局ドラグーンの調べたほうは男物の下着しかなく、俺達二人はこの袋の前に立っている
この袋が俺達にいったいどんな影響を及ぼすか…それがまったく予測できないってのがつらくて仕方が無い
もし、これほど警戒して袋の紐を解いているのに、中に何もはいっていなかったり、俺達に関係ないものがはいっていたら…
スカだったら俺は多分、本気でキレるんだろうけどな
っと、こんなことを思っていると、ようやく固かった紐がゆるくなってきたな…
さぁ、袋の中の物とご対面だ!!
そして…俺の紐を解ききった時、袋の中にはいっていたのは…!!
男だった、しかも…あきらかに旅行客って感じの服装の男が寝ている最中にぐるぐるに縛られたといった状況で中にはいっていたんだよ!
これは…明らかに俺達以外の旅行客だろうが、どうしてこんな袋の中にいるんだ…?
いや、もうそんなことはどうでもいいことか…そこを追求したら、どうしてこのホテルにゴーストが巣食っているのかの説明をするのさえ難しくなる
俺にはその理由は説明できないんだがな
「おい、あんた…おきろ」
「うぅ…って、な、なんだこれはっ!?」
「気が付いたか…?また、面白いくらいに寝てたが…」
「貴様達…これがどういうことか、当然説明はあるんだろうな?」
「え?説明…だって?」
「そうだ、いくらお前達が複数で私を自室から拉致しようと…私は貴族なのだ、私が助けを呼べばすぐに貴様らなど…」
……また、変な奴を助けてしまったかもしれないな
どうでもいいが、俺はこういった自分の権力をたいした実力も俺達に証明していないのに威張る奴は嫌いだ
まぁいいさ、俺達はこの旅行客に聞きたいことがあるんだからな…
なんて思っていると、いきなりドラグーンがその貴族の男の近くに行って話しはじめたんだ
「あんたさ、権力ってのに縛られるのやめたらどうだ?弱者の俺より弱者に見えるぜ?」
「なっ…!?き、貴様ぁっ!!出会って早々、ずいぶんな物言いだなっ!!ええい、なぜ指を鳴らしても誰もこんのだ!?」
「それは単純さ、誰も来ないんじゃない…おそらくは来れないんだろうさ」
「なんだと?なぜだ?なぜ貴様にそのようなことが…」
「それはこっちが聞きたい、あんたは俺たちとは違う目的でこのホテルに泊まったんだろ?」
「ふん、そうだが?」
「あんたの身に何が起こったか、それを説明してもらおうか?」
「だったら簡単だ…変な男二人に寝ている間に拉致された、以上」
なるほど、それは確かだ…って、待て待て
このまま深い事情を説明せずに話しをしていると、誤解だけが膨らんでいくな…
ここで彼にも、少し事情を説明したほうがよさそうだ…
「ドラグーン、ちょっと俺が彼にこれまでのいきさつを説明する、下がっててくれ」
「んっ…まぁ、いいけど…むかついたらそいつ、一回なら殴ってもいいぞ?俺が許す」
殴る許可とかもらっても、正直困る…
さて…長くなるが、説明はしっかりとしておいたほうがよさそうだな…
そう思い俺は、今まで俺たちに起こった状況を彼に詳しく説明した訳だ
何もかも、つつみかくさずな?だって、隠したって結局、彼も俺達も戻れないって事は事実なんだから
「つまり、このホテルは何かおかしいから、協力して脱出しようと…そういうことか?」
「そう、話が早くて助かるぜ…」
「ふんっ!!そんなもの…貴様らだけでやればよいだろうが!!この貴族たる私が協力など…」
俺はこいつがそう言った次の瞬間、この貴族野郎の頭を一発殴っていたんだ
こいつ、協力しないと全員がどうしようもない状況だと言ったのが聞こえなかったのか?
それとも何か?自分は貴族であり、庶民とは違うから一緒に行動などしたくないと?
そんな考えだから、貴族を嫌いな平民が増えるんだよ
「き、貴様っ!!私を誰だと…」
「誰だよ?言っておくが、お前が誰でどれだけの権力者でも…ここから帰れないぞ?権力なんて今は無駄な物だ」
「そりゃあそうだなナッカーサー、だって…権力ってのは人が勝手に決めた身分だ、その枠組みが無くなったら、こいつはただの生意気な男にすぎない」
「それと、もう一つ…俺達がその縄を解かなければ、お前はどうあがいても自由には動けない」
「…っ!!」
どうやらこの馬鹿にもわかったみたいだな、自分の今の状況が…
そう、こいつをここから助けてやるのも見殺しにするのも俺達の自由だって事にさ
俺だって完全な悪者じゃない、好き好んでこんなことをしたいわけではないんだぜ?
だが、もしも俺達に協力しないのなら、その時は彼はこの洗濯室に一人でいてもらうつもりだ
それに、彼にも教えたほうがよさそうだしな、この建物の中には…ゴーストがいるって
「後、一つ教えてやる、このホテルにはゴーストが出るんだ」
「それがどうかしたか?今の世の中、ゴーストなら我が領内にも出る」
「ただのゴーストじゃ無い…彼女は物凄い狂気に満ちていたからな…」
「脅しているのか?私を…」
「違うさ、いくらあんたがこのホテルの外ではえらくても、ホテル内ではぜんぜんえらくないって分かってほしい」
「ぐっ…し、仕方あるまい、認めよう」
「本題は…俺達は脅しているわけではない…協力してくれといっているだけだ」
……そんなことを言ったが、正直に言うと、これはれっきとした脅しだ
だって、この俺達の話を聞かなければ、お前は死ぬって言っているようなものなんだからな
そして、おそらくはこいつもそのことに気がついているだろう…
まぁ、人間なんだ…多少なりとも疑いの心はもったほうがいいさ
そして、それからしばらくの時間が経過した時だ…そいつがいきなり俺達に話し掛けてきたんだ
ついに協力するって決心したか?それとも違うのか…はっきりしてもらわないとな
「お前達が合ったゴーストについて、もう少し聞かせてくれ、それで決める」
「いいだろう、実はこのホテルの中で俺たちは…ハサミを振り回す女性のゴーストに出会ったんだ」
「それで?ほかに特徴は?」
「特徴…そういえば、あんたの服装とよく似た、独特的な服装だったな…血まみれだったけど」
と、ドラグーンが言うと、いきなり彼は何かを考え込み、俺達に向かって変にまじめに話し始めたんだ
いきなり手のひらを返したように態度を変えるのは…どうかと思うが、いったいなぜだ?
「わかった、協力しよう…いや、協力させてくれ…実は、私がこのホテルに来た理由とそのゴーストは関係あるかもしれん」
「えぇっ!?い、いきなりの展開だな…どうしてそういえるんだ?」
「この手紙…我が屋敷になぜか入っていた手紙で、差出人も不明ではあるのだが…見てくれ」
彼はそういうと、自分の懐部分をちょっと指差したんだ…
そこには、確かに変に赤黒い色の封筒が入っていたんだ
この色…まさか血じゃないだろうな?まぁいい、とにかく彼の言った手紙とやらを見てみよう
このタイミングで、彼から情報を得ることが出来るようになるとは正直、思ってもいなかったな
俺達の捜索もここにきて、ようやく少しは意味を持ってきたように思える
『親愛なるガドラス様へ
本日、私がこのお手紙をお送りしたのはほかでもありません、実は最近…私の身に面白いことが起こりまして
そこで、それをあなたに見てもらいたく…この手紙の最後に地図が同封されておりますので、どうかお越しください…
最高級のおもてなしをホテルでいたしますから…
絶対にきてくださいね…?まぁ、来なければ別に…それはそれでいいのですけれど
追伸 今宵も私のハサミは良く切れますわ…ふふっ…
ガドラス様の"元"庭師 シザァ=アルティール』
この手紙に…どこかおかしいところがあるって言うのか…?
ぱっと見た限りでは、おかしなところなど見つけられないが…
俺はそう思うと、手紙を彼に返したんだ…結局、この手紙でわかったことといったら一つだけ…
彼の名前がガドラスって事くらいだな…
「この手紙の…どこがおかしいんだ?確かに、封筒に差出人が書かれていないのはおかしいと思ったが、手紙の中にちゃんと差出人の名前もあるじゃないか」
「そう…そこだ、すでにそれがおかしいのだ…お前達は私に確か先ほど…こう言ったな?私の服に良く似た服を来た女性に合ったと…」
「あぁ、俺もドラグーンもそれは見ている…なんせ、衝撃的だったからな…」
「そうそう、あの時は俺も死ぬかと思ったぜ」
「で、それがどうかしたのか?」
「大いに関係ありだ、この私の着ている服…これは私の領土の特産品だからな…今はまだ、外の世界には出回っていない」
なんだと…?だが、それだけで手紙とあのゴーストの女性を結びつけるのには少々無理があるんじゃないか?
確かに偶然にしては少々出来すぎている気もするが…可能性は低いと思う
もっと別の…俺でも納得できるような意見が聞きたいな…正直なところ、まだまだ情報不足だ
「他に…何かこの手紙について…怪しいことは無いのか?」
「私の話をちゃんと聞きもせずに…まぁいい!!彼女…この手紙の差出人は…すでにこの世にはいないのだ…どこにもな」
「「なっ…!?」」
俺達は一瞬だが、自分の耳を疑ったんだ、彼女はすでにこの世にいない…?
待て待て…それだと話が少々…いやだいぶややこしいことに…
つまり、分かりやすくまとめると彼のところに来た手紙は死者から送られてきたって事になる!
そんな馬鹿な話が…ありえるのか?いや…確かにこのホテルはもう普通じゃない…
確実にそんなことはありえないとはいえない状況だと俺はしつこいくらい言ってもいるが…
「つまり、この手紙は私の屋敷に届くはずが無いものなのだ!!なので…初めはいたずらだろうと思いもしたんだが…」
「したんだが…って事は、結局はそうしなかったって事なのか?それはいったいなぜだ?」
「妙な胸騒ぎがしてな…今年は私にとっては厄年だった、近年稀にみる大飢饉だったからな…」
「ってことは、フェルス興国より南部の方にある大陸の出身か…?新聞で少々見たが…」
「そうだ、この際だから言わせてもらうが…私はその中でも物凄く小さい領土の領主だ」
それなのに…あれほど威張っていたのかよこいつは…
だが、それがここに来るのとどんな関係を…?
「この手紙の差出人がこの世界からいなくなって13年…昔から13は不吉な数字だと聞く…だからな、嫌な予感がしたのだ」
「だから…このホテルに来たと?」
「そうだ、このホテルに来れば、誰が私にこのような手紙を書きよこしたのかが分かると思ったからな!!だが結局は…」
「洗濯機の中に寝ている間に袋に入れられて押し込められたと…」
「そういうことになるな…」
それにしても…あの手紙に書かれていた差出人の名前…妙にどこか引っかかるんだよな
最近…本当に最近どこかで…あの名前にそっくりな名前を聞いたような気がするんだが…俺の気のせいなのか?
そう思いつつもう少しの時間、彼女の名前を考えていた時だ…俺はふと、この名前をどこで聞いたかを思い出したんだ!
この部屋に来る前に出会った彼女…確か、俺の記憶違いじゃないなら彼女は自分の名前を名乗っていたはずだ!
シザァと…ふむ、この二つの出来事…どうやら俺の中では繋がったな
この問題も含めて…どうやらこのホテルでまだまだ調べなければいけないことが増えたみたいだな…
「で…彼女はどうしてなくなったんだ?病気か?」
「それは…言えんな」
「なぜだ?別に死因くらいは聞いてもいいと思うが…」
「私だって思い出したくないことの一つや二つはある…そういうことだ」
……今ひとつ、俺はどこかで彼を信用できないが…まぁいい…
他の宿泊客を見つけることが出来たんだ、他の旅行客も彼のようにつかまっている可能性もある
ここはいったん、ロビーに戻ってみんなと対策を練ったほうがよさそうだな
俺はそう思うとドラグーンにその考えを言って、ロビーに戻ることにしたんだ…
で、いざ廊下に出て俺はあることを思い出した…
この廊下…彼女から逃げる目的で天井を落としたから、彼女もこっちにこれない代わりに俺達も通れない状況になっているんだ
「このこと、忘れてたな…どうする?ナッカーサー…」
「そうだな…そういえば、もう一つの階段があったな…あそこから、どうにかしてロビーにいけないか?」
「まぁ…悩んでいても仕方が無いしな…いくか」
そして、明らかに二階よりも暗い一階に下りていく俺達…
デメトリオたちが明かりを持っていったのは正解だったな…まったく、何も見えないぞ…
階段の段も見えないのはさすがにどうかと思うんだが…
そうぼやきつつ、一段一段を丁寧に俺は降りていく、ここは…部屋か?何も見えないからいまいち分からないが…
「ナッカーサー!これ…ろうそくじゃないのか?」
「ろうそく?これはまた…いいものを見つけたじゃないか!早速、使わせてもらうとしよう…」
都合よく、ろうそくを見つけることが出来た俺達…正直、こんなに都合よく物事が進むのに、若干嫌な予感を感じるぜ…
などと思いつつ、俺はポケットの中に入れてあったマッチをこすって、ろうそくに火をともしたんだ…
初めからマッチを持っているなら、それを使えばよかったじゃないかって思う奴もいるかもしれんが…
マッチだって、長時間火で辺りを照らしてくれるわけじゃない…それなら、こんな感じのろうそくやランプのようなものを見つけたときに使うほうがいい
こんな状況だ、資源は出来る限り大切に使わないとな…
「なぁ、ナッカーサー…この部屋、捜索しておくか?」
「いや、今はまだいいだろう…一階の捜索は本来、デメトリオたちの仕事でもあるわけだ、変に部屋を荒らさないほうがいい」
「それも…そうだな…」
「ちょっとよいか?さっきから貴様たちが話しているデメトリオという人物は誰なのだ?」
「あぁ…まぁ、会ったらわかる…」
俺はそう答えると、そそくさと出口であろう扉に手をつけたんだ…が
なんだ?これは人の気配か…?この扉の向こう側から…二人ほどの人の気配がする
ちょっと様子を見たほうがいいだろうか?
俺はそう考え、ドラグーンとアイコンタクトを取ったんだ…
初めはドラグーンも何がなんだかわからないって顔をしていたが、だんだん分かってくれたようだからひとまずはよしとしよう…
そして、ドラグーンが答える前に、向こうのほうがこの扉を開けてきたんだ…
こうなったら、仕方が無い…先に行動される前に、先手を打っておくか…
そういうと、腰につけていたナイフに手を伸ばしたんだ…
このナイフ…装飾が見事だろ?って、文章だとどんなナイフかわからんよな、すまん
「動くなっ!!」
「ひぃぃぃぃぃっ!?な、なんだぁっ!?」
んっ…?デメトリオ…?そうか、この部屋の階段は下の廊下と二階の廊下をつないでいたのか…
とにかく、ここでデメトリオに出会えたのはよかったな…デメトリオにもロビーに戻って話し合う必要があるってことを伝えておかないと…
そう思って、俺はデメトリオに話し掛けてみたが…どうやら、デメトリオもこの部屋を調べたらロビーに戻るつもりだったらしい…
だったらちょうどいい…ここでひとまず、ロビーに戻るとするか…
こうして俺達は、ロビーに戻って行ったのだった…
chapter 1-2(B) END
13/05/06 00:21更新 / デメトリオン
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