連載小説
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第3話 新しき出会い・後編
「むぅ〜…むむむ〜…」

ここは、とある屋敷の一室。
四方の壁には本を収めるための棚が隙間無く設置されており、その中の本もビッシリと置かれている。
それだけでは足りないのか、床には分厚い本が山のように積み立てられ、あるいは塔のようになっているものもあった。
そこから察するに、ここは書庫なのだろう。
部屋としては狭いが、本を全て処分でもすれば結構な広さになりそうだ。
尤も、この声の主がそのことを許す筈も無いが。

「ダメじゃ…よい資料が見つからぬ…」

バフッという本を閉じる音と同時に溜息が聞こえた。
声の主は持っていた本を近くの山の天辺に置き、考える仕草をする。

「しかし、ここにある本はあらかた読んだしの…図書館に行けばあるいは…しかしここに無いというのに街の図書館にあるとは思えぬし…」

ブツブツと何かを言っているが、そのたびに『ああではない』『こうではない』と否定的な言葉が続く。
一体なにを考えているのだろうか。
先程声の主が本の山の山頂に置いた本には、『輝きの街・アリーテの歴史』と書いてある。
アリーテとは、この土地にある街の名前…地元の歴史について調べているらしい。
だが欲しい情報は無かったようだ。
声の主は、またしばらくブツブツ呟くと、ガックリと項垂れてしまった。

『フロリスさま〜、エミィさまがお見えになりました〜』

突然、ノックの音と共にそんな声がドアの向こうから聞こえてきた。
幼い子どもの声だ。
その声に、声の主―――フロリス・ゴートレットは項垂れていた頭を持ち上げ、ドアへと視線を向ける。

「よい、通せ」

その言葉から一拍置いて、部屋のドアが開かれた。
最初に部屋には入って来たのは、フロリスと同じくらいの身長をした少女。
だが、その頭に被る帽子のおかげで幾分か高く見える。
帽子の形としては、円錐の形をしたもの。
イメージで言うならば、魔女が被るアレだ。
そう、彼女は魔女なのだ。
その魔女の後から一人、全身に黒いローブを纏ってフードを目深に被った女性が入ってきた。

「おぉ、よく来たな、エミィ」
「ふん…一体なんのようだ?大したようで無いのなら早々に帰りたいのだがな」

会話をしながら、黒いローブを着た女性―――エミィはフードを外す。
そこから出てきた顔は美女のもの。
長い金色の髪を後頭部にて花形の髪留めで抑え、肌はあまり日に当たっていないのか、白い。

「まぁそういうな、同期のよしみじゃろ」
「何年前の話をしている…それはそうと、なんだ先ほどの定例会議は。町長とあろう者が半ば上の空だったでは無いか。というか寝ていただろう」

少し怒気を含めた声で、エミィはフロリスを叱咤する。
だが当のフロリスはというと、たいして気にかける様子は無い。
まるで説教に慣れた子どものように、唇の隙間からちょっとだけ犬歯を覗かせ、笑う。

「定例会議など、ワシが居なくとも進むじゃろ」
「そういうわけにもいくまい。1ヶ月に1度の、予算や施設の建設、人口、人間禁止区域、魔物娘禁止区域…それらについての話をする会議だ。町長のお前がいなければ話にならん」
「そうは言ってもの…元々考古学者のワシからすれば、会話よりも執筆を優先してしまうんじゃ。今回の会議だって話したいことは紙に書いて各人の手元に置いておいたし、誰も否定意見など言わぬからワシ座ってるだけじゃったし…あと途中からなんか分からん黒い変なのに追いかけられてたし…」
「それは途中から夢に走ったと解釈して良いんだな!?」

エミィは呆れ顔で溜息を吐きながら、やれやれと肩を落とす。
こんなでも町長が出来ているのだから、人望及び能力はあるのだろうが…。

「それで、私を呼んだのは何故だ?」
「おお、そうじゃな。実は頼みたい事があっての…」
「…例の水晶少年か?」

ローブの中で腕を組み、少し目を細めながらエミィは視線の先にいるフロリスを見た。
フロリスは、笑っている。

「ほぉ、ご明察じゃ。さすがはエミィじゃな」
「世辞など良い…少年の事ならば一部では話題の種だ。夜型の私でも度々話を聞くほどのな。我が屋敷のメイド達も話をしているのが窺える」
「ほぅほぅ…まぁ話題にもなるか、古代遺跡から少年が発掘されたなど、話題に上らんわけが無い」
「それで、その少年がどうしたのだ?」
「うむ…あの者が何者か調べたいのじゃ」

フロリスはその場から立ちあがり、本の山から離れてエミィの足元へと移動する。

「そんなもの、本人に聞けば良いだろう」
「生憎、彼には自分と知識以外の記憶が欠如しておる。その自分の情報と言うのも、己の名前のみよ」
「…では、どうしようと言うのだ」
「…さてなぁ?」
「おい」
「まぁ、待て。彼はこの土地の遺跡で見つかった。木こりが偶然見つけねば、発見することの出来なかった遺跡じゃ」

フロリスは難しい顔をしながら、すぐ傍にある本を手に取る。
その本もまた、この土地の歴史を記すものだった。
近くにいるエミィは、その本を見下ろすように覗きこむ。

「ワシは考古学者を始めてから、この土地の暦は全て目を通しておった。様々な文献を漁っては知識として収め、活用し、その知識を他の者にも授けてきた。その歴史の中には、どこに誰の墓があり、どこに財産を隠したかも記されておったわ。ワシはそれらを見つけてきた…この土地にある、すべての遺跡を探し当てた…つもりじゃった」
「…」

フロリスは見ていた本をパタンと閉じる。
見る対象を失ったエミィが次に見るのは、フロリス。
だがそのフロリスがエミィと視線を合わせる事はない。
彼女は、下を向いているためである。
俯いている、と言った方がいいのかもしれない。

「じゃが、あのような遺跡…ワシは知らん。あれはどこの書物にも記されておらん遺跡じゃ。それとも、ワシに見落としがあったのか…はたまた、書物にすら残したくはない遺跡だったのか。だとするならば…あの少年は、何者じゃろうな」

手に持っていた歴史書を、フロリスは再び元の場所に置く。
そしてようやく、フロリスはエミィを見上げる。

「突き止めなければならぬ。ワシはあの少年が何者なのか、知る義務がある。ワシはこの街を守る長として、考古学者として、あの者がどのような存在なのか、知る義務があるのじゃ。…エミィよ、頼む。考古学者の同期であるオヌシの力が必要なのじゃ。このワシに、力を貸してくれ!」
「断る」
「あれ?」

沈黙。

「…今の空気でそれを言うのかオヌシ…」
「断ると言ったら断る。なぜ私がそのような事をしなければならない。それに、考古学者としてはもう引退した身だ。これ以上の歴史に興味は無い」
「あ、相変わらず素っ気無いのう…もうちょっと考える時間があっても良いではないか」
「調べるくらい一人でも可能だろう。どこに私の能力(チカラ)が必要になる要素がある。そもそも何故私なのだ?同期ならば他にもいるだろう」
「うぅ…だって…他の者達は急がしそうじゃから…」
「ほぅ。本音は?」
「夫とイチャラブしたいと言って手を貸してくれないのじゃ…」
「…それで、同じ独身である私に白羽の矢が立った、と」
「グゥ〜…ワシだって頼れる兄上が欲しいのじゃ〜!まだ見ぬ兄上はいづこ〜!」
「がなるな。そもそもお前の希望が高すぎる。己を超える強さを持った男など…」
「だって甘えたいではないか〜!」
「…はぁ…」

町長としての尊厳が失われて行く気がする。

「…それで、その少年の名は?」
「む、興味を持ったか?まさか手伝ってくれるのか!?」
「名前を聞くだけだ」
「ぶ〜…」
「頬を膨らませたってダメだ。…それで、名は?」
「…彼の名は―――」

 * * *

「ジンくん!ジンくんてば!」
「ぅぅ…」
「さっきから唸るだけだな…」

ここはとある住宅の一室。
部屋の真中に敷かれている布団を取り囲むように、魔物娘等は立っていた。
その布団で寝そべっているのは、少年―――ジン・ブレイバーである。
彼女等は心配そうな面持ちで、彼を見つめ続けていた。
ジンのすぐ横で彼の名を呼び続けるのは、ジャイアントアントのレイル。
先ほどから何回か名を呼んでいるが、反応は薄い。

「よっぽど強く打ったようどすなぁ…」
「あぅ〜…ごめんなさ〜い…」
「あはは〜、お兄ちゃんオネンネだ〜」

独特な喋り方をするナギの言葉に、先ほどジンが気絶する原因を作った女性が反応した。
罪悪感からか、その顔は俯き気味だ。
そんな彼女を傍目に、フヨフヨと宙を漂う掌に乗りそうな子ども、ケセランパサランのポムが能天気にそう言った。
…彼が気絶する一端はポムにもあるのだが…。

「で、コイツどうすんだ?」

寝ているジンの枕元に立っているマリィが、誰と無く尋ねてみる。
実際、ジンがすぐに目覚めるという保証は無い。
もしかしたら目覚めるのは数時間後かもしれないのだ。
その問いに、ナギが答える。

「分かってまへんなぁ、マリィちゃん」
「ちゃん付けんな」
「殿方が寝てる間にする事なんて、1つでっしゃろ?」

ニヤッとナギが犬歯を覗かせて笑う。
これは、何かを企んでいる顔である。
その笑みに、この場に居る皆が『ああ』と納得した。
…思えば、ここにいるのは魔物娘のみ。
裏を返せば、人間の男はジンのみである。
1人が実行に移せば、芋蔓式に他の者も実行に移すだろう。
で、人間の男性であるジンに行為が集中するわけで…。

「うわぁ!!?」
「きゃ!?おっ、起きたのジンくん!?」
「いっ、今背筋に悪寒が…!?」
「生存本能やね」

少し顔を青白くしながら起きたジンは、落ちついて状況を把握し始める。

「えっと…ここは…?」
「ここはウチの部屋どす。そんで、ウチの使ってる布団どすえ」

ナギの自室。
そう聞いたジンは、改めて周りを見渡す。
自分を囲むようにして並ぶ彼女等の向こうには、純和風な置物が沢山置いてあった。
箪笥や、掛軸…床はジパング特有の、畳と言う代物。
そして手元と見てみれば…ナギの布団。

「うわわ!すっ、すみません!」

ジンは、ハッとして布団から飛び出た。
女性の布団に入っていた事に驚きと途惑いと、どことなく心から湧いてくる罪悪感があった。
加えて、(気絶していてよく分からないが)今は朝方だ。
先ほどまでナギがこの布団で寝ていたかもしれない…そういう事実を、布団から来る良い香りが実感させる。
腰を90度ほど折り曲げ、ほぼ直角にジンは頭を下げた。
そんな彼を見て、ナギはフフフと笑う。

「気にせんといて下さいな。わてもそないな細かいこと気にしまへん」
「で、でも…」
「良いんどす」
「…すみません、ありがとうございます」
「ん、よろしおす」

ナギは満足そうに笑みを浮かべる。
それに連られてジンも笑みを浮かべるが、ふと、視界にとある人物が入りこんだ。
その人物は、言うまでも無いだろうが魔物である。
白い髪の間から伸びる、黄色い角。
人間の耳にあたる部分には、まるで牛のように毛で覆われた長い耳。
その少し下を見れば、オロオロとうろたえている、綺麗な顔。
そして…男なら誰もがご満悦な笑みを浮かべるかもしれない、大きな胸。
服装は水色のオーバーオールに、白いTシャツ。その上に、黒いパーカーを羽織っている。
そういった服の上からだというのに、胸の大きさは主張を止めていない。
彼女の下半身を見てみれば、それはまるで牛の足。
白い毛に、黒い斑点を伴ったフサフサとした足だ。
足の先端には黒い蹄が備わっており、光に反射して黒くテカテカと光っていた。
ジンはここまで彼女の外見的特徴を確認した後、思慮に浸る。
…どこかで、見たような…?

「…あの」

ジンはナギの後に居る女性に声を掛けてみた。
何の事は無い、普通に出した声だったのだが、女性はビクッと身体を震わせる。
怯えているわけでは無いようだが…間違い無く、ジンに反応している。

「…あの〜?」

再びジンは女性に向けて声を出す。
彼女は、大きく身を震わせた。
というか、確実に1歩後に下がっている。
ちょっとショックだ。
だが、それ以上に不思議という想いが込み上げてきている。
ジンは逃げ腰の彼女に、負けじと声を掛けてみた。

「あの、あなたは」「すっ、すみませんでしたー!!」

話しかけた彼の声を遮り、彼女は即座に頭を下げた。
もちろん、急に謝られたジンは面食らっている。
『僕、なにかされたっけ?』と。

「そのっ…受け止めたのまでは良かったんですが〜…えと…男性に揉まれるのは初めてで〜…」

顔を赤くしモジモジしながらも、女性は頭を下げつづける。
だがジンには、まだワケがわかっていない。
なんで、この人は頭を下げているんだろう?
というか、『揉まれる』?

「あっ、お怪我…タンコブとか出来ていませんか〜!?」

ハッとして顔を上げた女性は、ジンに駆け寄り、彼の側頭部を触ってみる。
それに対し、ジンは至って痛がるような素振りを見せなかった。
とりあえず、コブは無いようだ。
女性は一先ず安心した。
その間、ジンの頭の中ではある事が起こっていた。
“記憶の模索”
どこか…どこかでこの女性を見た。
そして、この女性は自分の、今彼女が撫でている所を一度触った事がある…はず…。
次に浮かぶのは、彼女が言った、

『タンコブとか出来ていませんか〜!?』

という言葉。
…はて…タンコブが出来るような事があっただろうか…。
…なんだか、この感覚は…そう、思い出したくない思い出を呼び起こそうとしているような…?

『きゃあああああああああああああああああ!!?』

…そう、悲鳴…その声の主はこの人だった気がする…で、悲鳴の直後に…。
あ。

「あ、あ〜…あはははは…」

そうだ、思い出した。
ジンが頭の中でこの女性が自分に何をしたのかを思い出したのと、女性から逃れるように1歩下がるのは、ほぼ同時だった。
もちろん1歩下がれば、いま彼の側頭部を撫でている手から離れる事にもなる。

「ムースはん、引かれましたな」
「うぅ〜…ごめんなさい〜…」
「えっ、ああっ、いや、大丈夫です!はい!」

『傷つけちゃったかな!?』とジンは心配するが、当の女性―――ムースはジンの体調を気遣っていて、それどころではなかった。

「でも気絶するほど強く打ったんだろ?ロスから一発食らった時も見事にコブ作って寝たしなぁ…」
「えぇ〜っ!?やっ、やっぱりコブが…!?」

マリィの指摘に反応したムースが、更にジンへと詰め寄る。
が、ジンの頭の中では既にムースは恐怖の対象だ。
詰め寄られた分だけ、ジンは下がる。

「い、いえ、本当に痛くありませんので!」
「じゃ、じゃあ傷の具合だけでも〜!」
「よしんさい、ムースはん…心配する気持ちは分かりおすが、今は逆効果どす」

更に詰め寄ろうとしたムースを、見兼ねたナギが静止した。
このままでは逃げるジンと追うムースの追いかけっこが完成しそうと踏んだのだろう。
ナギは両者の間に入り、ムースの行く手を阻んだ。

「あう〜…」
「ジンはんも、そない露骨に避ける事ないでっしゃろ?」
「す、すみません…」
「まぁ第一印象が“あんな”じゃ逃げる気持ちも分からなくもないけどねぇ」
「ううっ…ホントにすみませんでしたぁ〜…」
「シェインはんも余計な事言わんと…話がややこしくなるでっしゃろ」

胸の前で腕を組んでジンとムースを眺めていたシェインは、面白そうな顔で呟いた。
すかさず注意したのは、ナギ。
これ以上ムースを煽れば、本当に追いかけっこになってしまいそうだ…それだと面倒な事に成りかねない。

「えっと…ムース、さん?本当にコブは出来ていませんので、安心してください」
「本当ですかぁ〜?痛みとかありませんかぁ〜?」
「はい、本当にありません」

ジンは、未だにナギを挟んでこちらを心配そうな目(うっすらと涙付き)で見ているムースを安心させるように、言葉をかける。
確かにムースは恐怖対象かもしれないが、少なくとも彼女は今自分の身を案じているのだ、安心させなくてはなるまい。
その手段として、ジンは先ほど殴られたと思われる箇所をポンポンと叩いて見せる。
ムースはその姿を見て、とりあえず安心して良いものと判断したようで、ホッと息を吐いた。

「ふ〜…良かったです〜…」
「なに?もう仲直りしたの?つまんないわねぇ…もっと面白くなると思ったのに…」
「シェインはん、そういうこと言わんと…」

残念そうに肩を落とすシェインに、ナギが再び注意をする。
そんなナギを余所に、ムースは『あっ』と声を出して何かを思い出したような表情を作る。

「そういえばお名前〜…」
「あ、僕はジン・ブレイバーって言います。今日からここに住む事になりました」
「そうだったんですかぁ!?う〜…やな印象残っちゃったなぁ〜…」
「だっ大丈夫ですよ!そ、それより名前…」
「あ、えっと…私はホルスタウロスのムース・ホルムスターって言います〜。よろしくお願いしますね〜」
「? ホルスタウロス?」
「あれ〜、知りませんか〜?私みたいな特徴を持った魔物の事を言うんですよ〜」
「特徴ですか?」
「はい〜、特徴です〜」

そう言われたジンは、改めてムースの体を見てみる。
髪の毛の隙間から伸びた2本の角…牛を彷彿とさせる蹄の足…あとは、白と黒の模様か。
あとは…。

(…いや、そんなまさかな。きっと、ムースさんだけ特別なんだ)

頭の中に浮かんできた1つの考えを、ジンは否定した。
それは何もムースだけに言える事では無いし、特徴と言えるような事では無い。
そう、いくら今まで見てきた中でデカくても。

「このおっぱいもよ!」
「ひゃん!?」

いつの間にかムースの背後に移動していたシェインは、彼女の大きな胸を横からぐにゅっと鷲掴んだ。
シェインの気配に気づけなかったムースは、簡単に胸を揉みしだかれる。
彼女の手に収まらないほどに大きな胸は、揉んでいる手の形に合わせて形を変え、その柔らかさを証明した。
そんな光景を目の前に捉えたジンは目を丸くして驚くが、次の瞬間には顔を真っ赤にして彼女等から視線を外してしまった。

「なにしてはりますのや」
「あだっ」

ペチン、とシェインの頭をナギか軽く叩く。
その瞬間にムースの胸を揉む手が緩みんだ。
ムースはその瞬間を逃さずにシェインから離れ、すぐ近くにいるナギ後ろへと逃げ込む。

「んもうっ、冗談なのに〜」
「実際に行動に移したらに冗談じゃなくなりまっしゃろ…」

呆れたような口調でナギはシェインを窘めた。
当の本人に反省の色はないようだが。
ナギの後ろに隠れたムースは、未だに顔を真っ赤にして胸元を抑えている。

「はぁ…羨ましいなぁ」
「あん?なんだよレイル、またその話か?」
「だって羨ましいじゃん、あんなに大きなおっぱい」
「何言ってんだよ。俺なんてこの間計ったらAAだったぞ?それに比べりゃマシだろが」
「いや比べられても…」

マリィは無い胸を張りながら、レイルと胸についての談義を繰り広げていた。
だがドワーフの胸と比べられても、元よりそういう種族であるのだ、比べられても困る。
ちなみに、レイルの胸は小さいわけでもないが大きいわけでもないという、中間あたりの大きさである。

「大体、その胸じゃ不満か?」
「不満じゃないけど…もうちょっと欲しいかなって」
「それが贅沢だっての!なぁジン!」
「そこで僕に振りますか!?」

会話の内容は耳に入っていたものの、突然同意を求められたジンはうろたえた。
それも、胸の話題についてである。正直気まずい。
だが…要はレイルの胸の大きさについてどうか、というものだろう。
レイルの胸は…ジンから見ても小さくはない。だが、大きくもない標準なもの。
だがどちらであろうと内容が内容だ。
ジンは少し言いにくそうに答えた。

「えっと…僕から見てもレイルさんの…その、胸は充分だと思いますよ」
「ほらな?」
「え〜?そうかなぁ…」

ジンとマリィの意見に、レイルは納得していなさそうな顔をした。
女性としても大きい方が良いのだろうか?
そんなことをジンが考えていると、レイルからの視線に気付く。
その視線の元であるレイルに目を向けてみると、彼女と目があった瞬間に質問された。

「ジンくん…ジンくんはさ…私のこの胸でいいと思う?」
「はい?」
「ねぇ、どう?」

少し上目使い気味に、レイルは両腕で下から胸を持ち上げながらジンに問う。
彼女が着ているシャツの上からでも分かるくらいに強調された胸の谷間は、ジンの視線を釘付けにした。
そのまま魅入ってしまいそうなジンだったが、すぐに我を取り戻して彼女の胸から視線を外す。

「いや、その…はい、良いと思いますよ。その…魅力的ですし」
「ホントに?」
「はい、本当です」

確かめるように聞いてくるレイルに、ジンは胸から外していた視線を彼女の眼に合わせ、確信を持たせるようにハッキリと、なるべく胸を視界に入れないようにしながら答える。

「そっか、魅力的かぁ…えへへ…」
「?」

どうやらレイルは納得したようだが、なにやら頬を染めながらジンをチラチラ見て、ブツブツと何かを呟いている。
そのチラチラ見られている視線は、もちろん真正面にいるジンは容易に感じられた。
しかしその理由については分からず、ジンは首をかしげた。

「そういえば〜、先程皆さん揃って降りてきましたが…どうしたんですかぁ?」

思い出したように、間延びした声でムースが尋ねてきた。
どうやら、こういった口調は彼女の特徴であるらしい。
その彼女の声に、ナギも思い出したように声を出す。

「あぁ、せやったせやった…使われとらん家具をジンはんの部屋に運ばなあかんねや…」

その言葉に、ムースとポムを除く全員が当初の目的を思い出した。
皆、ジンが殴られて気絶したインパクトによって忘れていたらしい。

「えぇと、これから家具取りに行きまっけど…ジンはん、どもないどすか?」

そう聞かれたジンは、自身に何も異常がないことを確認してみる。
…やはり、どこも痛くないしどこも悪くない。
ムースにも先程言った通り、殴られた事による痛みは完全に癒えていた。
しかし、寝てる間に治るとは…よほど手厚い看病を受けたのか、それとも回復する魔法を使ってもらったのか…どちらにせよ、感謝せねばなるまい。

「なんともないみたいです。看病ありがとうございます」
「ふふ、大したことしてまへん。元気みたいで何よりどす」

ナギはそう言って踵を返し、薄茶色の尾を振りながら部屋を後にした。
その後に続こうとジンは一歩前に踏み込むが、突然目の前に白い何かが視界を遮った。
驚いて一歩後ろに下がってみると、その正体はケセランパサランのポムであった。

「お兄ちゃん、だいじょうぶ〜?」

顔は笑顔のまま、ポムが気遣う言葉をかけてきた。
そうだ、階段から落ちる切っ掛けはこの子にあるのだった。
だが、何の能力かわからなかったとはいえ、不用意に尋ねた自分にも非はあるだろう。
それに、ジンには怒る気などなかった。

「うん、大丈夫だよ」
「よかった〜。今度は階段じゃないところでやってあげるね〜」
「ぇ…は、はは…」

若干トラウマであるというのに、あの粉をまた…いや、言うまい、この子は善意で言ってくれているのだ。
あの気分自体は良いものであるし、確かに場所を考えて使えば良いでものある。
少なくとも、悪いことにはなるまい。
ジンがそう思っていると、いつのまにか視界からポムが消えていた。
どこへ行ったか探そうとした途端、頭の上にフワッと軽い何かが降り立った。
なんだろう、と思って頭に意識を向けてみると…。

「よーし!れっつごー!」

と、そんな元気な声が聞こえた。
その声の主はポムである。
どうやら頭の上に乗っかっているらしい。

「早速懐かれたみてぇだな、ジン。何よりだぜ」

頭の上からの次は、足元から声がする。
そちらに目を向けていると、歯を見せながらニヤニヤしているマリィが居た。
…こちらは特に何かをした覚えはない…単にポムが人懐っこいだけなのではなかろうか。
まぁ、懐かれて悪い気はしない。
ジンはマリィに軽く会釈をし、ナギの後を追う。

「ここどす」

ナギが案内したのは、今居た部屋から少し離れた部屋だった。
中は薄暗く、少し湿気があるような感じがする。
部屋のタイプは洋風…なのだが、中にある家具はどれも和風のもの。
それもただの和風というわけではない。
いくつもの引き出しのある大きなタンス、4人ぐらい囲って座れるちゃぶ台、部屋の隅っこに折り畳められた布団、などはまだいい。
その布団の隣にあるのは、ピラミッド状に積み上げられた巻物。
同じくその隣に積み上げられた木材。組み木にも見える。
すべて同じ方向を向いているコケシ。
神棚の上に置かれた和服の人形。
壁に飾られ、列となっている複数の御面…。
元々この部屋に住んでいた者には悪いが…気味が悪い。

「大丈夫どす、なにも憑いてあらへんえ」

ジンの胸中を察したのか、ナギは言うがそう…目の前に広がる光景はそれを否とさせる。
というか、これらが自室の家具になるのか?

「さて、とりあえず…タンスと布団と机と…人形も運びまひょ」
「人形はお願いですからやめてください」

ナギの提案を全力で拒否したジンは、早速家具を運ぼうと部屋の中に入る。
やはり、ここは男である自分が重たい物を持つべきだろうと、タンスの元へと歩む。
が、

「あ、ジンはん、ちょいと待ちぃ」

とナギに止められた。
なんだろうとジンが振り返ると、すぐそこまでシェインが来ていた。

「ここはお姉さんに任せなさい♪」

一瞬なんのことか分からなかったが、すぐにタンスのことであると分かった。
だがまたすぐに疑問符が浮かび上がる。
『一緒に運びましょう』なら分かるのだが、彼女が言ったのは『私に任せて』、つまり自分一人でどうにかするという意味として受け取れる。
目の前にあるタンスの高さはジンと同じくらいの高さで、背伸びしてやっと最上段の引き出しの中が見れるくらい。
横幅ときたらジンが両手を広げて、指の先がやっと端に届くぐらいだ。
見た目の重量感も抜群である。
これを一人で運ぼうというのだろうか?
だとするなら、どうやって運ぶのだろうか?
ジンは興味深そうにタンスのすぐ近くまで寄ったシェインを見るが、彼女はタンスを見ているだけで特に運ぼうという動作は見られない。
タンスを見ながら何かを考えている、という風にも見える。
シェインが動き出したのは、そのままの状態で2分は経った頃だろう。
しかし、ただ右手をタンスに向かって突き出しただけ。
それと同時にタンスが浮いた。
…え?浮いた?

「ほっ」

ジンが呆気にとられている間に、シェインが腕を振り上げる。
それに応じて、タンスも上へと動く。
だがここは部屋で、天井がある。
こんな所でタンスが上に向かって動けば、天井にぶつからずに通り抜けた。
…え?あれ?

「よし、完了」

とうとう状況が飲めなくなったジンの前で、シェインは軽い作業を終えたような感じのある声を出した。
彼女がくるりと後ろを振り返ってみると、そこには目を丸くして口を半分開いた状態のジンがいた。
それが可笑しかったのか、シェインはくすくすと笑う。

「今のは浮遊魔法と透過魔法ですよ〜」
「え…魔法…?」

背後のムースから声をかけられて我に返ったジンは、彼女が言ったことを復唱してみる。
浮遊と透過…その言葉のとおり、物体を浮かせる魔法と、物体をすり抜けさせる魔法だろう。
だが魔法と一言で片付けられても、魔法というものを初めて目の当たりにしたジンには納得ができなかった。

「えっとですね〜、この上って実はジンさんの部屋なんですよ〜」
「そ、そうなんですか?」
「はい。初めて見たジンさんには少しイメージしづらいかもしれませんが、構造上そうなっています」

…となると、要は浮かしたタンスを透過させて2階の自分の部屋に移動させた、ということだろう。
なんとも便利なものである。

「さて、次は布団どすな。布団は…いっぺん洗った方がええどすか?」

ナギの視線の先には、部屋の隅に畳まれた布団があった。
そのままでも大丈夫なような気もするが、それでは少し気持ち悪いだろうというナギの配慮である。
ジンからすれば、いつから放置されていて誰が使ったのか分からないような布団なので、その方がありがたい。
…の、だが…。

「洗うのはありがたいんですが…間に合わないんじゃ…?」

そう、これ以外に代わりはないのだから今洗ってしまえば、夜に間に合わなくなる。
そうなると固い床で寝ることになるので、それは遠慮したい。
だがナギは問題ないというような感じだ。

「心配あらへんえ。その時はウチの布団貸しはります」
「え?でもそれだとナギさんはどこで…」
「もちろん、ジンはんと同衾しますえ」
「どっ…!?」

まさかの提案に、ジンは驚くとともに赤面した。
対するナギと言えば、余裕のある笑みを浮かべている。

「あらあら、顔真っ赤にしはって…可愛らしょうおすなぁ」
「やっ、やめてくださいよそういう冗談は!」

照れ隠しを含め、少し語気を荒くしてジンはナギに抗議するが、本人はその姿さえ面白いという風に見ている。
もう、ジンではこの人には敵わない気がする。いろんな意味で。

「まぁ冗談はさておき…あんま気にせんでも大丈夫どす」
「え?」
「記憶の無いジンはんは分からんかもしれんけど、この町は“太陽の恵み”と“風の祝福”がありますさかい、洗濯物も早く乾くんどす」
「えぇっ!ジンさん記憶ないんですか!?」

ジンが“太陽の恵み”と“風の祝福”について聞こうと思ったら、突然ムースが驚きの声を上げた。
そういえば、ムースにはジンが記憶喪失であるということは知らせていなかった。
…ん?では何故ナギはジンが記憶喪失であるとことは知っているのだろうか。
それは後で聞くとして、今はとりあえずムースの疑問を解決しよう。

「えっと…はい、そうみたいです」
「…」
「? ムースさん?」
「…この場合って、なんて言えばいいんでしょうか…」

少々思いつめるような表情でムースは言う。
彼女は今、ジンに掛けるにはどんな言葉が適切なのかで悩む。
『大変ですね』か?それではあまりに他人事すぎる。
それとも『かわいそう』か?
ダメだ、どれもしっくりこないとムースは首をひねって考えるが、やはり良い言葉は上がってこない。

「べ、別にそんな深く考えなくても良いですよ?」
「…ジンさん…今、辛いですか?」
「え?」
「記憶なくて、辛いですか?」

聞き返したジンに、ムースは真面目な顔でじぃっとジンを見つめる。
美人にマジマジと見つめられて些か照れるが、質問の答えはというと…実のところ、悲しくはない。
というか、記憶をなくしたという実感がないのだ。
ジンにも、この場合には何が適切なのかはわからない。

「ジンさん」
「え、あ、はい」

何と言おうか悩んでいたジンに、ムースは近づきながら声をかける。
そしてあと一歩で触れ合うというところでムースは止まり、徐にジンの右手を掴む。

「…無理、しないでくださいね。私に出来ることなら、なんでもやりますから!」

ジンの右手を自身の胸元まで運び、両手でギュッと包み込みながら、ムースは一際真面目な顔で言う。
その顔は、先程までののほほんとした顔とは与える印象が違っている。
一方、視線の先にいるジンはどこかムズ痒さを覚えていた。
先程も言った通り、記憶がないのであまり悲しさや悲壮感というものが湧いてこないのだ。
だが、ジッと見つめてきている彼女の眼は本気だというのは伝わってきた。
その気持ちを無駄にすまいと、ジンは彼女の手を握り返し、頷く。

「おい、良い雰囲気になってるところ悪いが、はやく布団洗おうぜ」
「え、あっ…」

ジンの足元にいるマリィの声に、ムースは今自分が何をしているのかを理解した。
改めて感じると急に恥ずかしくなったのか、顔を赤くして、両手で掴んでいるジンの右手をパッと離す。
そして顔を少し赤くしたまま俯き、小さな声で『すみません』と呟いた。
同時にジンも、今何をすべきなのかを思い出す。
そうだ、布団をどうにかしなければならないのだった。

「えっと、お布団のお洗濯なら、私がやりますよ〜」
「い、いや、いいですよ、僕がやります」
「いえ、私がやりますよ〜、殴っちゃったお詫びです〜」

自分が寝るものだから、自分で洗うべきだとジンはムースの提案を断ろうとするが、彼女は『私がやります』といって譲らない。
『殴ったお詫び』ということは、まだ先程の事に負い目を感じているようだ。
しかしジンだって自分のすべきことを他人にやらせることに負い目を感じる。
それに先程のだってシェインに運んでもらっているのだ、ここで自分が率先して動かなければもっと負い目を感じることになる。
だが、ジンの足元にいるマリィは、

「ここはムースに任せとけよ、ジン」

と彼を制止する。
もちろん、その案にジンは不満を言った。

「なんでですか、マリィちゃん」
「『ちゃん』付けっ…まぁいい…とにかく、ここは慣れてるムースに任せとけよ」

怒鳴ろうと構えたマリィは思い留まり、冷静を取り戻して人を諭す。
確かにムースはここに元々住んでいて慣れていたとしても、それでもジンの中にある責任感が彼を駆り立てる。

「でもっ」
「でもじゃねーだろ。お前どこで布団洗うとか洗う時にどの道具使うのかとか分かんのかよ」
「う…教えてもらえれば…」
「ンなもん一々やってたらオメー、マジでナギと同衾することになんぞ」
「うっ…」

その言葉で、ジンは何も言えなくなった。
確かにそうだ…ナギが言ったことが本当であれ冗談であれ、これで最終的に布団が乾かなければ本当にゆめじ壮の誰かと同衾する事になるかもしれないのだ。
それを回避するためにも、迅速に洗い、迅速に干さなければならない。
ここに初めて来たジンには勝手がわからず手間取ってしまうのは火を見るより明らかだ。
その点、ムースならば何の問題もなくこなせるだろう。
ジンはとうとう観念した。

「すみません…ムースさん、お願いします…」
「は〜い!任せてください!」

許可を得たムースは、部屋の隅に置いてある布団まで近寄り、ジンにとって少し手こずるくらい重そうな布団をヒョイッと軽く持ち上げた。
ジンはその光景に驚くが、部屋の出入り口に向かって歩き始めたムースを見て、『自分は今、彼女の進行方向にいる』と理解した。
ムースの邪魔になるまいとジンはそこを退くと、彼女は道を空けた彼に対して『すみません』と一言小さな声で呟くと、そのまま尻尾をフリフリと振りながら部屋を出て布団を洗いに行ってしまった。
なお、同衾するしないの話で名前の挙がったナギは『そんなに嫌か』と不満げである。

「そんなに働きてぇなら、オレの手伝え」

ジンの気持ちを察してか、いつのまにか組み木の山の手前まで移動していたマリィがジンを呼ぶ。
なんだろうと近寄ってみると、マリィは着ている繋のポケットからプラスドライバーを取り出し、組み木の組み立てに取り掛かった。

「この組み木はなんなんですか?」
「こいつァベッドだ。こいつの上に今洗ってる布団を敷いて寝る」
「え、別にいいですよ、そんなわざわざ…」

別に布団を直に床に敷いて寝ても問題はない。
それにベッドに布団敷こうが床に敷こうがどちらでも違いはない。
ジンはそう思いマリィの手間を省こうとしたが、マリィは依然として組み木の前から胡坐をかいて座ったまま動かない。

「良いんだよ。個人的な意見だが、床に敷いて寝るよりベッドの方が寝心地いいからな」
「そうなんですか?」
「おう。それにソファの代わりにもなるし、部屋は狭く感じるかもしれねぇが布団の片付けがいらねぇから疲れた時なんぞはそのまま飛び込めるんだぜ」
「へぇ〜、そんな利点が…」
「納得したか?そんじゃ、その組み木の山の下にある絹の袋取ってくれよ」

マリィは積み上げられた組み木の下に置いてある小さな絹の袋を指さす。
彼女曰く、あの中にボルト等の金具が入ってるとのこと。
ジンは言われた通りマリィの手元に絹の袋を置いた。

「よし、そんじゃその長い組み木を持ち上げてくれ」
「え、ここで組み立てるんですか?」
「おうよ」
「それだと持ち運びが大変なんじゃ…」
「あん?オメー今の見てなかったのかよ。タンスが上に消えてったろ」
「ああ、あれと同じようにやるんですか?でもシェインさんは大丈夫なんですか…?」

ジンはシェインを心配するような目でチラッと横目で見てみる。
魔法の事については殆ど知識はないが、あれだけ重量のあるものを運んでなんのリスクもないとは限らない。
だが今のシェインはこれといって疲れたという感じはない…とりあえずタンス一つを運ぶくらいは平気らしい。
ジンの視線に気づいたシェインは、柔らかい笑みを浮かべる。

「あら、心配してくれてるの?優しいわねぇ」
「い、いえ、全然そんな事は…」
「でもそうねぇ、魔法って便利な割に燃費がちょっと悪いのよねぇ〜」
「? 燃費?」
「そう、ね・ん・ぴ♪だからちょ〜っと燃料が必要なのよ〜」
「はぁ…燃料ですか…?」
「そ。だから、調達はジンくんに手伝ってもらわないと」
「? 僕に?」
「そう、君が必要なの。手伝ってくれる?」
「構いませんが…何をするんですか?」
「簡単簡単♪私とセッ」「ベッドは私が運ぶよジンくん!」

少しうっとりした顔でシェインはジンに“ある事”を頼もうとしたが、突然誰かに遮られてしまった。
ジンとシェインの間へ、声と一緒にレイルが割り込んできたのだ。
若干アタフタとしているように見えるレイルは、早口にジンへ『私が運ぶ』と告げる。

「はは〜ん、なるほどねぇ」
「え、何がなるほどなんですか、シェインさん」
「ん?いいえ、なんでもないわ。私は別にかまわないわよ〜」

何かをシェインは納得したようだが、ジンは全くついていけていない。
シェインからの許可を得たレイルは嬉しそうだ。
だがついていけてないジンからすれば、明らかにシェインに運んでもらった方が楽である。
それに自分が燃料とやらの手伝いをすれば丸く収まるのだ。

「え?でも…」
「ほ、ほら!私だってジンくんの役に立ちたいし!」
「それはありがたいですが…きっと重たいですよ?」
「大丈夫!何でもいいから重いもの運びたい気分だし巣の方でもこんな感じの荷物はよく運ぶから!」
「(巣…?)でもシェインさんに任せた方が早いですし…」
「それも大丈夫!絶対シェインさんより早く運べるから!」
「それは物理的に無理な気が…」

中々引き下がらないレイルに、ジンは小首を傾げる。
『なんでこんなに運びたがるのだろう?それも突然…』
頭に疑問符が浮かぶばかりだが、彼女は頑なに運ぶと言って聞かない。
先程のムースとのやり取りと比べて少々強引に押してきているのがよく分かる。
それだけ運びたいというのだから運んでもらうのが筋だが…さすがに苦ではなかろうか。
まだ組み立てられていないのでベッドの全貌は分からないが、病院で計ったジンの身長は166pだったので恐らくベッドはそれ以上の大きさとなる。
横幅は…たしか病院で使っていたものが85pほどなのでそれくらいだと仮定しよう。
…暇を持て余していたのだ、他にやることなど天井のシミを数えることくらいの病院生活を送っていたジンの気持ちを分かってあげてほしい。
まさかこんな所で役立つとは思ってもみなかったが…。
とにかく、それ等に比例して重量は増すもの。
重いものをいつも実家の方で運んでいるとはいえ、やはり酷ではないだろうか…。

「ほな、ジンはんも一緒に運んどったらええやないどすか?」

困っている風のジンに、ナギが声をかける。
その提案に対して、ジンは『その発想は無かった』という顔だ。
ちなみに、レイルも同じような顔である。
ベッドが重くても、二人なら大丈夫だろう。
妥協案の存在を知ったジンは、早速それを採用した。

「…そうですね、じゃあ、ベッドは僕とレイルさんで運びましょう」
「あん?なんだ、結局2人で運ぶことになったのか?まぁ良いけどよ…ほれ、はやく手伝ってくれよ」

そう言ってまたマリィは黙々と組み木を繋げ、ボルトを締めたりネジを回したりの作業を続行し始めた。
1本のボルトを締めたかと思えば次の組み木に手を伸ばし、これはドコの部分なのかを瞬時に見極め、これに合うであろう組み木を見つけては手元に寄せ、繋ぎ合わせて金具を締める。
そのテキパキとした姿にジンは一瞬呆けるが、すぐにマリィの手伝いをすべく彼女の隣へと移動した。レイルもまた同じように。
マリィは手元にある工具を持ちながらネジなどを締めては組み立てを進めていき、1人では難しいと判断した場合には2人に指示を出して手伝って貰う。
そうやって見る見るうちにベッドは形を成していき、ベッドは完成していた。
ジンとレイルの手伝いもあったからだろうが、さすがは手先が器用なドワーフ、仕事が早い。

「すごい手先が器用なんですね…」
「ヘッ!こんなモン朝飯前だぜ!」

マリィは小さな体で胸を張り、満足げな笑みを浮かべた。
その顔は歳相応…否、見た目相応というべきか。
とても可愛らしいため、少々和む。
こんなことを本人に言ったら怒られそうなものだが。

「よ〜し!じゃあ運ぼっか、ジンくん!」

そう言いながら、レイルは腕を回したり背中の筋を伸ばしたりしながらストレッチを始める。
家でこういったものをよく運ぶとはいえ、やはり準備運動は大切なのだろう。
ジンもそれにつられてレイルの真似をしながらストレッチを始めた。

「それじゃ、私が前持つから後ろお願いね!」

先にストレッチを終わらせたレイルは、ベッドに背を向ける形で、背負うようにベッドを持ち上げる。
もちろん、彼女が持ち上げているのは前方だけなので必然的にベッドは斜めの状態になった。
ジンもワンテンポ遅れて彼女が持っている方とは反対側である後方を持ち上げ、今度こそ完全にベッドは床から離れた。
しかし二人掛かりとはいえ、さすがに重いか…特に、ジンが持つ後方ではプルプルと震えている。

「じ、ジンはん大丈夫どすか?震えてはりまっけど…」
「だ、大丈夫です……」

ナギが心配そうな顔でジンを気遣うが、彼は平気そうに振る舞う。
だがどう振る舞おうと重いことに代わりはなく、誰が見ても少々無理しているだろうと見抜けるだろう。

「しゃーねぇ…俺が下潜って真ん中持ってやる」
「あ、ありが…ってえぇ!?危ないですよ下に潜り込むなんて!」

いきなりとんでもないことを言ったマリィは、ジンの静止も聞かずにサッサと持ち上げられたベッドの下へと潜り込んでしまった。
これでもしジンが手を離してしまえば、マリィはたちまちベッドに押し潰されるだろう。
それを危惧してか、ジンは慌ててマリィをベッドの下から出そうと試みる。

「危ないですって!本当に潰れちゃいますよ!?」
「あん?オメェが手ェ離さなきゃいい話だろ?」
「それはそうですけど…」
「なぁに、オレだってこんな小せぇナリしちゃいるが、力はあるほうなんだぜ?タダじゃ潰されねぇよ」

ケタケタと笑いながら、マリィは自身の真上に位置するベッドの底を両手で持ち上げる。
するとどうだろう、ジンの腕から振動がピタリと止まった。
つまり、マリィがベッドの底を持ちあげる力が、ジンが使うべき力を削減しているからに他ならない。
急にベッドを持つ腕が楽になったという現実を目の前に、ジンは驚嘆する。
自分よりも(外見上は)幼いマリィが大きな力を発揮したのだ。
こんな小さな体のどこにこんな力があるのかと疑いたくなる。

「オラ、ジン、ボーッとしてんなよ」
「もういい?行くよー?」

意外なマリィの力に驚いていたジンは、ハッと目の前の作業へ意識を戻す。

「す、すみません。大丈夫ですので行きましょう」
「よっし、じゃあ遅れずに着いてきてねー」

そうジンに言ったレイルは、6本の足で歩きだした。
彼女が重たい物を運ぶことができるのは、6本の足がしっかりと体を支えているからなのかもしれない。
そんなことを考えていると、その考えを中断させるようにベッドを引っ張られ、そのままジンもつられて動き始める。
ベッドの動きに合わせてマリィも移動を始めた。

「足元に気を付けてね〜」

シェインからの忠告を背中に受け、3人はそのまま部屋を出て階段へと歩いて行った。

 * * *

あの薄暗い部屋から出て、十分程経った。
ジン達は特にアクシデントもなく、無事にジンの部屋の前へと辿り着いていた。
途中の階段で転ぶことも、壁にぶつかることもなく、だ。
それらは先を歩く彼女の的確な指示があったからこそだといえる。
また、運んでいる途中でベッドが軽く感じたことも要因の一つだ。
何故かはわからないが、マリィかレイルか、あるいは2人が持つ力を更に上げたからかもしれない。
本当にありがたい。ありがたいのだが…。

(…やばい…やばいよコレ…)

なぜか、ジンは少し多めの汗をかいていた。…下半身を気にしながら。
その一点をよくよく見てみれば、股間の所に少し小山ができていた。
…もしかしなくても、アレである。

(なんで…!?なんでこんな時に…!?)

訳が分からないジンは1人頭の中で問答する。
気付いたのは階段を上り始めてから。
なんだかこう、言いようのない不思議な匂いが鼻に入った瞬間、股間に違和感を感じはじめたのだ。
それからずっと股間を気にしている。
やましい気持ちは一切なかったはずなのに、なんでか勃ってしまった。
隠したい気持ちも強いが、手を離すわけにもいかないのでそのまま運び続ける。
幸いもう少しで自分の部屋だ…ベッドを置いてからバレないように隠そう。

「さて、着いたよ!」

先頭に立つレイルが閉じてあったジンの部屋の扉を開けながら言う。
その時に片手を離して扉を開けたが、ベッドの重さに変わりはなかった。
…片手でも力を損なうことがないとは、かなりの怪力である…。

「ちょっと縦にするよー」

そういいながらレイルはベッドの持ち方を変える。
今まではベッドに背を向けながらの運び方だったが、今度はベッドの方を向きながらの体制となった。
横のままじゃジンの部屋の扉につっかえて入れないため、縦…つまり、地面と垂直にする必要がある。
そう理解したジンは腕に力を込めたまま、レイルと同じ動作でベッドを縦にする。
正直、こっちを向いたレイルが股間の状態に気付くんじゃないかと気が気じゃないが、それは頭の隅に追いやる。
ベッドの真下にいたマリィは一旦離れ、ベッドが完全に垂直になったことを確認して、現在ベッドの下となっている淵の部分を再び持ち上げた。

「前に進むよー」

レイルの声を合図に、3人はジンの部屋へと入っていく。
入口にベッドをぶつけないよう、ゆっくりと進む。
その間でも、ジンは股間を気にしながら歩く。
しかし股間は一向に収まりを見せない。

(こんなトコ見られたら恥ずかしいなんてもんじゃない…!)

そんな危機感を覚えはしても、やはり股間は動じない。
一体どうしてしまったというのか…。
結局思い当たる節もなく、ベッドを降ろす位置まで着いた。
部屋の中を確認してみると、先程シェインが魔法で移動させたタンスが部屋のど真ん中に置かれていた。
ここまで運んでもらえれば、あとは手作業でどうにかなるだろう。
まぁ、まずはベッドをどうにかしなければならない。
タンスと同じように部屋のど真ん中に置くわけにもいかない為、ベッドは部屋の隅に置くとしよう。

「ジンくん、ベッドどこに置く?」

同じことを考えてい居たのか、レイルが場所を聞いてきた。
『そういえば考えてなかったな』とジンは慌てて思考を巡らせる。
窓の傍へ平行に…いや、それだと雨が降った時に濡れてしまいそうだ。
いらん心配だとは思うが、念のため。
では、窓と垂直に、壁の端っこに置くとしよう。

「そ、そこにしましょう」

両手を話すことができないジンは、顎で場所を示す。
そのジェスチャーを理解したレイルは軽く頷き、すぐに移動を始めた。

「よ〜し、降ろすよ〜」

ジンの指定した位置に着き、レイルはジンに合図を送るとともに、マリィをベッドの底から出るように指示する。
マリィが底からテトテト歩き出てきたのを見計らい、ジンとアイコンタクトを取りつつベッドを床に置いた。
あとは微調整を済ませればベッドの配置は完了である。
レイルは少し腰を低くし、ベッドと同じ高さまで屈んだと思うと、そのまま腰に力を入れてグイッとベッドを壁へと押し出す。
ピッタリと壁にくっついた事を確かめると、レイルはベッドから手を離し、

「うん、これでよし!ベッドの移動完了!」

と満足げに頷く。
その光景を見守り、運び終わったことを改めて感じたジンは『ふぅ』と息を漏らした。
と同時に、股間に感じる違和感がまだ張っていることを思い出す。
…もう一体どうしたらこの愚息は治まるのだろうか…。
その事も含めて再び『ふぅ』と息を吐く。
すると、レイルがこちらを向いているのに気付いた。
だが何やら彼女の目線が低い…。

「?」

気になったジンは彼女の目線の先を追いかけてみる。
すると、その視線は、一直線に愚直へと走っていた。

「!?」

ジンは慌てて股間を両手で覆うが、もう遅い。
既に股間に起きている現象はレイルの眼にしっかりと残ってしまった。

「…」

2人の間に沈黙が生まれた。
『あぁ、もう変態確定だ…』
そうジンが絶望したその時、レイルが妖しい笑みを浮かべながら近づいてきた。
彼がレイルの動きに気づいた時には、既に彼女はジンのすぐ傍、触れるか触れないかの位置まで来ていた。
レイルはジンの耳元まで口を近づけると、甘い声で囁く。

「ねぇ、ジンくん…」

吐息を含めたような甘く囁くレイルの声に、ジンは震える。
ただ名前を呼ばれただけなのに、まるで誘っているような甘い声。
しかし、別に理性が壊れたわけではない。
少し動揺しながらも、ジンはレイルと話をする。

「な、なんですか?」
「明日さ、私の巣に来ない?」

またしてもレイルの甘い声が頭に響く。
ただの声、のはずなのに…。
平静を装っていたジンだが、2回目とあって今度はさすがに動揺が顔に出てしまった。
だがすぐに平静の顔に戻し、話を続ける。動揺は治まってはいないが。

「す、巣…?」
「そう、巣。マイホーム。種族柄、そう呼んでるの」
「でっ、でもどうして…?」
「理由なんかないよ?ただ、招待したいだけ」

そこまで言うと、レイルはジンにしな垂れかかる様に体重を預ける。
もちろん倒れるわけにはいかないと、ジンもその場で踏ん張って持ち応えるが、そこに再びレイルが追い打ちをかけるように耳元でささやく。
甘く、誘惑するように。

「ねぇ、良いでしょ…?」
「〜っ!」

このままでは理性が持たないと判断したジンは、その場から後ろへ素早く離れた。
その行動によってジンの体に体重を預けていたレイルは、突然体重を支えるものを失いバランスを崩してコケるが、すぐに体制を整える。

「もうっ、そんな逃げることないじゃん」
「にっ、逃げますよそりゃあ!」

顔を赤くしながらレイルから逃げたジンは、彼女が囁いた耳をさすりながらも彼女に抗議する。
だが、不服なのはレイルも同じである。自分に出せるだけの甘い声を出したつもりだったのに、それで逃げられて不服じゃないという者は居まい。
しかしそういった初心なところも可愛いなと思えてしまうのも本音だ。
気を取り直して、彼女は問う。

「で、どうなの?来る?来ない?」

レイルは再び甘さを含んだような声でジンに聞く。
内容は言うまでもないだろう。
対するジンは、少し迷う。
彼女はジンの目が覚めてからの2日間というもの、本当に仲良くしてくれていた。
人間的年齢が近いというのもあるだろうが、今ジンが感じる中では一番の仲の良い魔物である。
だが、所詮は2日間という短い期間での交流でしかない。
こういうのはもうちょっと交友を深めてから招くものでは…?
家に連れ込んでどうこうするというワケでもないだろうが…。
行くべきかどうか悩むジンに、近くで様子を伺っていたマリィが口を出す。

「別に行っても損はねぇと思うぜ」
「! マリィちゃん」
「よし、次『ちゃん』付けたらブン殴る」
「うっ…」
「レイルの巣にゃおれも行ったことあるけどよ、中々快適だったぜ?親御さんも隣近所も優しいし、こいつの部屋は広いしベッドはフカフカだし、飯も美味いしな」
「へぇ…でも…」
「悩むほどの事じゃねぇだろ?別にとって食いやしねぇって。それに、もっと仲良くなるチャンスだぜ?」

もっと仲良く…か。確かに、仲良くなれるのならそれに越したことはないだろう。
だが急過ぎやしないだろうか?
先程も言った通り、こういうのはもう少し仲が良くなってから行うべきだ。
ジン本人としてもギクシャクして逆に居辛い気もする。
そういう事もあって首を縦に振りにくいのだ。
それに2日間やそこらで仲良くなったような男を家(巣)に上げるのは軽率ではなかろうか?
だがそんな軽率だと思えることも、第3者という達観した視点からモノを見ることが出来るであろう立場にいるマリィは、レイルを諭すどころかジンに『行って来い』というような事を言う。
これは信頼している…という事なのだろうか。

「ダメ…かな?」

レイルは少し下を向きながらもジンを上目づかいに見る。
その表情には『困らせちゃったかな』と心配するような、だが来てほしいという期待が含まれている複雑な表情であった。
しかしその表情には艶があり、まるで誘惑しているようにも見て取れた。
その姿にドキッとしてしまったジンは少しばかりその顔に見惚れかけるが、どうにか持ち直して平静を保つ。
先程から我慢ばかりが続いて変な気持ちだ…。
それに、あのような顔で言われたら断りづらい…。
…まぁ、そんなに悩むような事ではないかもしれない。
マリィの言うとおり、取って食われるワケではないだろうし、なんとかなるだろう。

「…分かりました。では明日、お邪魔させていただきます」
「ホント!?やったー!絶対だよ!?絶対来てね!?」
「はっ、はい」

レイルの迫力に押されながらも、ジンは答える。
なんでそんなに喜ぶんだろう…。
そんな疑問が頭の中に浮かんだが、考える必要はないかとその思考を打ち切る。
彼女が喜ぶ理由を知ったところでどうにかなるようなものでもない、詮無きことである。
そこで、ふと下に目を向けてみると、足元にいたマリィがジンの足をポンと触った。

「頑張れよ」
「え!?なにが!?」
「とにかく頑張れ。あとでニンニクとか色々持ってきてやる」
「あ、ありがとうございま…じゃなくて!なんで!?なにがあるんです!?」
「今は言えねぇ。だが頑張れ」
「なんですかそれ!?気になるじゃないですか!」
「気にしなくていいんだよ!明日になりゃどんな意味か分かるんだから!」
「それでも気になりますよ!そんな意味有り気なこと言われたら!」
「おら!まだ運ぶもんあるんだからサッサと下行くぞ!」
「あっ!ちょっと!待ってくださいよー!」

マリィは半ば逃げるように部屋を出ていき、そのすぐ後をジンが追いかける。
だが思いのほかマリィはすばしっこいらしく、廊下を出てから階段を下る間にも走る音が聞こえてくる。
部屋に残ったのは、レイルのみ。
しかし動く気配はなく、今の彼女の顔は喜びの余韻に浸っているようにも見える。
よほど彼が巣に来てくれるというのが嬉しいらしい。
頬は上気し、胸の鼓動はは自身でもよく分かるぐらい高鳴っている。

「明日かぁ…楽しみだなぁ…♪」

彼女のその呟きは誰の耳にも届くことなく、ただ空間を漂って消えたのだった。
12/08/24 22:31更新 / BLITZ
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■作者メッセージ
更新半年も遅れちゃった…もっと早く書き上げられるように頑張らないと…待っていたという方、申し訳ありませんでした…orz

本当はもうちょっとストーリーを進めたかったんですが、色々書き足していってたら前回の話の延長になってしまいましたので、この度は前回のサブタイトルと今回のサブタイトルを同一にし、前篇・後編とで分けることにしました。

相変わらずの遅筆が続くかもしれませんが、長い目で見守っていてください!><

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