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第九話『弓兵』
 一ヵ月、キサラギは道路工事で、レムは喫茶店で地道に働いた。
 そうして、二人は中級の馬車と御者を雇えるだけの、それなりにまとまった金で皮袋をギッチギッチに膨らませる事に成功した。
 キサラギは見た目からは想像しがたい、ミノタウロスにも肩を並べられる怪力と、持ち前の速い頭の回転で、現場監督から重宝され、仲間からは妬みと尊敬を半々に集めた。
 レムは笑顔がモットーの接客にも関わらず、思う通りに笑い顔を作れずに無表情のままで接客をしたのだが、逆にそれが一部の客層に受け、それぞれの仕事を最初の契約どおりに止めるとなった時はかなり惜しまれ、引き止められた。
 また、遺跡の調査を依頼してきた王はどこで聞きつけたのか、ただのアルバイトであったキサラギが生きて帰ってきた事を知ったようで、何度か使者を彼の元に寄越して、詳しい話を聞きたがったが、その度に「俺以外の人間は全て死んだ、アレは人間が足を踏み入れていい場所なんかじゃない」と冷ややかな表情で突っ撥ねた。
 あまりにキサラギが強固な態度を取るものだから、何かを隠していると踏んだ王は彼を拉致しようと刺客も差し向けたが、ランキング入りこそしていなくても、怪我が治りかけであろうとも30位前後の実力は持っているキサラギに並みの刺客が敵う訳もなく、全て返り討ちにされるのがオチだった。
 遺跡の真実を抜きにしても、キサラギの強さは魅力的だったのか、王は自分の近衛兵団に入ってはくれないか、と誘ってきたが、武者修行の最中だからだと丁重に断った。
 幸い、見た目はごくごく一般的なゴーレムであるレムの方に王の側近は接触を図らなかったようだが、芸術の神が創ったのかと思ってしまうような「完全」に近い彼女の美貌に、男性客の多くが参ってしまったようで、かなり粉をかけていたらしい。
 レムはデートに誘われる度に、「私には既にマスターがおります。申し訳ありません」と物腰こそ柔らかく、それでいて、にべもないほどハッキリと断っていた。
 しかし、色好い返事を貰えない上に他の男の物となれば、余計に手に入れてみたくなるのが男のサガと言うものなのか、中には食い下がってくる者もいた。
 そうして、他の店員や客に迷惑をかける行為にその者が出た場合、レムの空気圧式マシンガンが火を噴いた。
 主であるキサラギに「なるべく、殺すな。殺るなら殺るで足がつかないようにしろ」と言われていたので、ゴム弾に切り替えてはいたが、貫通しないだけに当たれば、かなり痛かった。無数のゴム弾を全身に浴び、アザだらけにされた男達はこれに懲りて、レムにちょっかいを出さなくなった。それでも、三日に一度は変装をして、レムを見に来るのだから、その根性は大したものである。
 顔色一つ変えずに迷惑な客を追い出したレムの人気はますます上がっていった。
 一ヵ月後、二人はどうにか目標金額を手に入れ、旅の準備を始めた。

 テントや寝袋、ランタンなどの旅の装備と食糧で膨らんだ鞄を背負ったキサラギとレムは、小鳥達の囀りを聞きながら森の中を黙々と歩いていた。
 馬車で移動しようかとも思ったのだが、一ヶ月の間に金銭感覚が随分とシビアになったレムに万が一が多く起こる旅ですから、倹約できる所は倹約すべきです、と意見され、それもそうだと納得したキサラギは彼女と話し合い、隣の町まで森を抜けるルートで向かう事に決めた。
 「ちっと休憩すっか」
 「了解です、マスター」
 人間としては体力のある方のキサラギだが、平坦ではない道は苔に覆われている上に、太く絡み合っている根を踏みこえながら三時間も歩いていれば疲労も溜まり出していた。
 「気持ちのいい場所だな」とアルラウネの蜜を溶かした水を飲んだキサラギは周囲の木々を見回し、穏やかな面持ちで呟いた。
 「はい、良質の魔力で満ち溢れています」
 「だろうな、ほとんどの木が樹齢百年を超えている。
 アルラウネやらドリアードには棲みやすそうな場所なんだろう」
 近隣の村に住むの人間が恐れ敬って、特別な祭事の時以外は入って来ない、この深い森を進む自分たちの様子を窺っている視線を四方八方から感じていたキサラギ。
 キサラギがぐるっと周囲を見回すと、急いで気配を隠す者もいれば、彼が気付いてくれた事を喜んで投げキッスを送ってくる者もいた。
 十年近く、魔物娘の中で暮らし、何百回も交わった末に、魅力(チャーム)に対抗術も展開させないで抵抗できる体質になっていなかったら、目を蕩けさせて彼女達に近づいてしまっていただろう。
 苦笑いを漏らし、さりげなく拒むようにヒラヒラと手を振り返すキサラギ。 そんな態度で、ますます彼に興味を持ったらしく、アルラウネは彼に自身の蜜で光る蔦を伸ばしてきたが、素早く立ちはだかったレムはそれを手刀で弾いてしまう。
 睨み合うレムとアルラウネの少女。宙で殺意すら滲んだ視線がぶつかり合って、青白い火花が飛び散る。
 アルラウネは一見して、レムがゴーレムだと悟って麻痺作用のある蜜は効くまいと、彼女に叩き落された蔦を素早く引っ込め、すぐにびっしりと棘で覆われた蔦を伸ばし出し、自分の身を守るようにドーム状に絡め出す。堅固な守りをアルラウネが作り出したのを見たレムは左手に仕込んでいる、超高速振動ナイフを抜く。
 「おいおい、人が折角、静かな時間を満喫してるのに、ドンパチは止めてくれよ?」
 「・・・・・・それは相手の出方によります」
 無機質な声で返してきたレムにキサラギは小さく肩を竦め、サンドイッチを齧ろうとした。
 だが、サンドイッチを口に入れる寸前でキサラギは手を止める。食べようとしたサンドイッチから毒の気配を感じた訳ではない。これは自分達が作った物で、今の今までキサラギの膝の上に乗せられていたのだから、周囲にいる魔物娘達が麻痺毒を密かに混入させる隙もなかった。
 (何だ・・・・・・)
 刀を掴んで立ち上がったキサラギはサンドイッチを口の中に押し込みながら、剣呑な面持ちで四方八方に尖った視線を走らせる。彼の眼に、先程とは打って変わって、危険な光が灯ったのを見たドリアード達は震え上がり、自分が宿る樹木の中に引っ込んでしまう。レムと対峙していたアルラウネは自分の手には余りすぎる男だと肌で感じたのか、花弁を宙に派手に散らしてレムの視界を覆った隙に逃げてしまった。
 (空気が震えている・・・・・・しかも、この震え方は闘争のそれじゃない)
 キサラギが何らかの危険を察知し出しているのに気付いたレムも、高感度のレーダーを展開させる。
 「!!」
 キサラギとレムが同じ方向を勢いよく向いたのは、ほぼ同時であった。
 数秒後、木の間から、胸の中に何かを大事そうに抱えた、随分と小汚い風貌の少女が飛び出してきた。そうして、間髪入れずに放たれた矢が、半瞬前、彼女が蹴った根に深々と突き刺さる。
 「助けてー」
 少女は彼等に気付いて、引っ繰り返った声で助けを求めながら走ってくる。
 その間にも、数え切れないほどの矢は逃げてくる少女の背中に向かって次々と撃たれる。小柄な体に見合って反射神経はそれなりに良いのか、少女はどうにか矢を避けながら走ってはいるが、耳のすぐ横を殺意の篭もった矢が通り過ぎていく音で顔色は真っ青だ。
 「助けてー、あっっ」
 苔で滑ったのか、複雑に絡み合っている根の隙間に足を取られたか、少女は転んでしまう。地面を転がりながらも抱えている何かを決して落とさない。余程、大事な物と見える。
 しかし、少女を追っている何者かも少女が後生大事そうに抱えているそれが目当てらしい。
 倒れ伏した少女に向かって、容赦なく矢を放ってきた。
 幸い、少女が転倒したのと同時に飛び出したキサラギが飛んできた矢を指二本で挟んで止めたので、少女は怪我をせずに済んだ。
 「あ、ありがとうございます」
 キサラギは声を震わせながら礼を口にした少女に言葉を返すどころか、一瞥すらしなかった。
 そんな余裕は無さそうだったからだ。
 (今の矢、確実に息の根を止めようとしてやがった)
 動きを止める為に足を打ち抜くなら、まだしも、こんな少女の命を躊躇なく狙ってくるとは、少女を森から生かして出す気がないのか。
 (それとも、出す訳にはいかない、か)
 指で挟んだまま、二つに折った矢を捨てながら、キサラギは矢が飛んできた方向を睨むが、既に射ち手の気配はそこから消えてしまっている。
 レムも少女を庇うように立ちながら、周囲を見回す。
 その時だった、また、矢が飛んできた。しかも、今度は少女ではなくキサラギの後頭部に向かって。
 「マスター!!」
 その声で、キサラギはすぐさま体を屈めた。一瞬後、矢はキサラギの残像の頭を貫いて、地面に深々と突き刺さる。
 「よくも、マスターを!」
 レムは右手の肘から先を回して外し、内蔵しているライフルの銃口をそちらへと向け、奥歯をグッと噛み締めた。瞬間、周囲の木々から鳥たちが一目散に逃げるほどの轟音が上がったものの、放たれた銃弾は虚空を貫いただけであった。
 三本目の矢を危なげなく掴んだキサラギは舌打ちを一つ漏らして、自分達の間で小さく丸めた体を恐怖で震わせている少女に、なるべく穏やかに声をかけた。
 「おい」
 少女は耳を掌で塞いでしまっており、キサラギのイラつきを抑えた声は入らなかったようだ。今一度、大きな舌打ちを漏らしたキサラギは、少女が丸めている背中を矢の尖端で軽く突いた。
 「おい」
 「ヒャアアア」
 途端、矢が刺さったと勘違いした少女は悲鳴を上げた。
 「耳障りな声を上げるんじゃねぇ」
 一瞬でも周囲への警戒を怠れば、今度こそ頭か心臓を貫かれてしまうと解っているキサラギはガタガタと震えている少女を見ないまま、声を荒げる。
 「てめぇが持ってる物は・・・一体、何だ?」
 ストレートすぎる質問に顔色を変え、少女はそれをギュッと抱きしめ直し、その場から逃げようとしたが、彼女の動きよりもキサラギの足がマントを踏む方が速かった。つんのめった少女はまたもや、無様に転んでしまう。
 「レム、そいつ、何を持ってる? 取り上げなくていいから見ろ」
 「了解」とキサラギに索敵を任せたレムは少女の傍らにしゃがみこみ、自分を恐怖で潤んでいる瞳で睨んでくる彼女の腕の隙間からそれの正体を確かめる。
 「壷のようです」
 「壷? どんな?」
 「彫ってある文字は七割が解読不能です。恐らくは、独特の文化で形成されてきた文字だと思われます。
 大きさや形状、読める単語から推測するに恐らく、中身は塗り薬、もしくは飴状の飲み薬かと」
 その瞬間、キサラギは矢を自分たちに向かって撃ってくる者の正体を察した。
 「エルフか!!」
 町の人間は、この森の奥にはエルフ達が小さな集落を作っているらしい、と言っていた。
 人間に対し、高圧的な態度を崩さない彼女等と余計な争いになるのはマズいか、と考えていたキサラギは情報から予想できる集落がありそうな場所に近づかないルートを選んだのだが、まさか、あちらから襲ってくるとは予想もしていなかった。
 「・・・・・・お前、それ、盗んできたんだな、エルフの集落から」
 俯いていた少女の顔から一気に汗が「ドッ」と言う音が聞こえるほど、一気に噴き出したのを見たキサラギは自分の言葉が間違っていない事を悟り、頭を抱えたくなった。
 エルフが優れた腕を持っているのは弓術だけではない。薬を作る事にも長けているのだ。
 森の奥に住まう彼女たち、エルフ族は生えている場所などの関係で、普通の人間が手にいられない貴重な薬草を惜しげもなく使い、ありとあらゆる病を治し、傷を癒す霊薬を作り出せる。そして、その霊薬はエルフ族の秘宝として扱われ、よほど大きな戦が起こらない限りは集落の祠に厳重に封印されている、と聞く。
 また、霊薬とまでは行かなくても、エルフ達が訓練や狩りで負った傷に使う、日常使いの薬も相当の効果があるらしく、冒険者の中にはエルフが作る薬を盗もうとする者も少なくないらしい。何せ、大匙一杯の飲み薬ですら、エルフが作った本物だと確認されれば、市場で上質の砂金1kgと同等の値段がつけられても不思議じゃないのだから。
 一見しただけでは、この少女は冒険者などではなく一般人であるように思える。健康的に焼けている小麦色の肌や、壷を抱えている手の荒れ方からしても近くの農民か。
 高度な教育を受けられる環境にいそうにない、普通の農民が高度な魔術を使える訳がないだろうから、彼女が盗んだのであろう壷の中身は祠の中に封印をされていた霊薬ではないだろう。
 しかし、元々、エルフは人間嫌いな魔物娘だ。
 集落に近づいただけでも威嚇してくるのに、物を盗んだとなれば腕の一本でも切り落としかねない勢いで襲ってくるだろう。しかも、この少女が盗んでしまったのは、エルフ達が苦労して作っている薬である。
 今は気配をわずかに感じられるだけで姿が見えないエルフ(達?)が、この少女を殺そうとしているのも解る。
 (だが、いくら盗みを働いたとは言え、こんな十にも満たなそうな娘を殺そうとするのには納得がいかねぇな)
 「盗んだ物なんだな?」
 「は、はいっ」と少女は恐る恐ると頷き、自分に背を向けたままのキサラギを恐怖が滲んだ瞳で見上げる。
 「金目当てか?」
 「違うっす!!
 いや、でも、お金は必要なんすけど、まずはこの薬がいるんす」
 激しく首を振る少女。
 「兄貴が大怪我をしてしまったんす」
 「お兄様を助ける為に、薬を盗んだのですか? エルフの家から」
 「本当は頭を下げてお願いするつもりだったんす。
 でも、エルフは人間嫌いで話なんて聞いてくれないって、大人達が言ってたから・・・」
 「だからと言って、盗むのはよろしくねぇだろ」
 「あっ」
 キサラギは少女の手から壷を取り上げる。慌てて、少女は取り返そうと彼に飛び掛ろうとしたが、目配せを受けたレムに羽交い絞めにされてしまう。足をバタバタとさせるも、成人男性以上の腕力を持つレムの腕から、年端も行かない少女が逃れられる筈もない。
 「エルフ!! そこにいるんだろう!!」
 キサラギは、軽く20mは超えているであろう木の枝に向かって、無造作に拾い上げた小石を振りかぶって投げつけた。
 幹に小石が当たって跳ね返り、あらぬ方向に飛んでいったのと同時に、気配を隠していたエルフが枝の上から飛び降りてきた。彼女は着地の瞬間に、風属性の魔法を使って衝撃を和らげる。
 「アンタ一人かい?」と尋ねたキサラギは、他の追跡者がいない事に既に気付いていた。矢が飛んでくる方向こそ変わったが、放たれた矢の数は常に一本であった。複数の追跡者がいるのなら、異なる方向から三人を挟み込むようにして、同時に攻撃を仕掛けている。
 「貴様、何者だ?」
 自分では完全に隠れられていたと思っていたのか、翡翠色の美しい髪を一つに束ねているエルフの顔は苦々しい。
 「ただの旅行者だ」
 「・・・ただの旅行者が、アタシの矢を止められるのか?」
 「まぁ、俺の正体はこの際、どうでもいいのさ。
 薬は俺が買うから、この娘は見逃してやって欲しい」
 「えっ」と少女は驚くが、エルフは「駄目だ」と冷たく切り捨てる。
 「・・・・・・では、壷は返すから、娘を許してやって欲しい。
 せめて、鞭打ち10回程度で。
 あと、俺が鞭打ち50回を受けるから、この娘の兄貴を助ける為に薬を使わせて欲しい」
 自分たちはただの旅行者だと言ったのに、見ず知らずの自分を、そして、自分の兄を助けたいと言い出したキサラギに少女は驚きを通り越し、嬉しさで涙が溢れてきた。
 だが、エルフの答えは変わらず、その上、更に冷たさと鋭さを増していた。
 「駄目だと言っている。
 アタシ達、エルフの掟、『盗みは死罪、盗まれた物が何であろうと、盗んだ者が誰であろうと』は絶対だ。
 それに、盗人娘の兄など、どうせ、くだらない人間に決まっている。
 そんな者を助ける為に、私達の薬を使えるか。
 むしろ、妹の悪行を止められなかった愚かな兄の命を奪ってもいいくらいだぞ」
 「兄貴はくだらなくなんかないっす!!
 村長さんの娘さんを助けて、大猪の牙に脇腹を抉られて、その傷から毒が広がっちゃったんすっっ!!
 だから、兄貴は殺さないで欲しいっす!
 私なら潔く死ぬっすから?!」
 唐突に、少女の口を塞ぐキサラギ。
 キサラギの目は依然、穏やかなままだった。しかし、彼の近くにいるレムと少女には解ってしまう。
 (お、怒っている)
 「交渉決裂か」
 「あぁ、元々、人間ごときと交渉する気など微塵もないがな。
 さぁ、薬壷を返し、その娘をこちらに渡せ。
 そうすれば、素直な態度に免じて命だけは獲らないでやる」
 彼等に向かって右手を伸ばすエルフ。
 「お優しいこった。だが、断る」
 そうして、キサラギは手にしていた壷を泣きじゃくっている少女の手の中へと戻す。
「何をしている? お前も死にたいのか?」
 「お、お兄さん?」
 「レム」
 「はい、マスター」
 「そのお嬢ちゃんとこの薬壷を、死に掛けてるっつう兄貴の元まで届けてやれ」
 「了解です」
 娘を連れて逃げろと言う『命令』に一瞬の逡巡すら見せず、首を縦に振ったレム。
 マスターはどうするつもりなのですか、と言う馬鹿らしい質問など、彼女は口には出さない。
 頬も口の端も痙攣一つ起こしていなかったが、レムはまるで動かないキサラギの横顔から、彼の腸が煮え繰り返っている事は十二分に読み取れていたからだ。そして、キサラギがここに残って、自分とこの少女を逃す為にエルフを、たった一人で足止めする気でいる事も。
 キサラギと自分の二人がかりで攻めれば、エルフを倒す事はさほど難しい事ではない。しかし、少女を抱えたままでは不利になる。かと言って、下ろしてしまえば楽にはなるが、エルフに一瞬の隙を突かれて少女の心臓を射られてしまう。
 なら、自分が一番にすべきは、足手まといになるこの少女を一刻も早く、この場から避難させることだ、と論理的に判断したレム。
 「お嬢さん、舌を噛まないで下さいね」
 少女が返事をしたか否かのタイミングで、レムは彼女をギリギリで振り落とさない速度で走り出した。あまりのスタートダッシュに、エルフは唖然としてしまった。
 「んなっ!! ま、待て!」
 それでも、人間よりも遥かに速く我に返ったエルフはレムの背に向かって矢を放ったものの、キサラギがそれを鞘で防いでみせた。
11/11/03 08:51更新 / 『黒狗』ノ優樹
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