頭痛に痛む、という言い方が有ると聞いた。
　聞いた時は言語の使い方として間違っている、と一笑に附したものだ。
　頭痛がするので痛いのであって、頭痛が痛いのであればまるで頭痛さんが痛がっているようだな、と。
　だが敢えて言おう。アレはアレで正しかったのだ。

　「うぉ……気持ち悪ー……」

　ゆっくりと上げる上体に伴って、胃の奥からも何かがせり上がってくる。
　流石に水を吐き出す獅子の像のようにはならないが、そうなってもおかしくない位に飛び出そうとしているのが分かった。

　「みず……水を、飲まねば……」

　兎に角水分を補給しなくては。
　昨日仲間内で飲んだ後からの記憶が曖昧なのだが、多分このようすだとしこたま飲んだのだろう。
　朝の日差しは白く柔らかい。
　気分は最悪だが、この日の光は幾分それを和らげてくれるようだった。
　下半身をベッドの縁に移動しながら、ゆっくりと動こうとする。
　
　
　ふにゅ


　「んん……♥」

　その動きは、ナニカ柔らかいものに触れた感触と自分ではない者の息遣いで中断された。
　恐る恐るその方向を向くと、一気に目が覚めた。
　
　病的なまでに真っ白な裸身。
　白に近い白金色の背中まである髪。
　著名な芸術家でも彫れるかどうか怪しい位に整った、彫像のような美しい顔立ち。
　目蓋は固く閉じられているが、その奥にある瞳はきっと本人同様美しいだろう事を想像させる。
　はっきり言おう。
　
　
　
　ま　る　で　記　憶　に　な　い。


　「誰ーーーーっ！！！？？？」

　
　きっと自分の今の声は、朝の鶏に負けはしまい。
　他人事のようにそう考える自分が嫌に脳裏に残った。

　そうか―――これが、現実逃避というものか。





　






　実直で職務に忠実。
　それが自分の評価であったと記憶している。
　突出して何か秀でているものがある訳ではなく、かといって大きな欠点もない。
　普段は訓練に精を出し、いざ魔物が町を襲うような事があれば皆で努力して退ける。
　週に二回の休日と仲間達との飲みを楽しみにしている、模範的とも言える教団兵士。
　それが自分、教団練兵小隊長を最近任されるようになったアルバート・スモーエである。
　間違っても記憶がないくらい飲んで酔った勢いで関係を持つような人間ではない、と自覚している。

　…………その、筈であったのだが。

　「―――ガッツリ、犯ってました」

　当初は期待していたのだ。
　例えば自分は衣服を着ていたので大丈夫だ、とか。
　彼女の方が下着を着けていたらセーフだ、とか。
　もういっそ彼女の女性器から自分から放たれたであろう白いヤツが無ければ何とでもなる、とか。
　そんな事を思っていた時が、自分にもありました。
　
　「どうしよう、俺昇進したばっかなのに…………」

　今となっては昇進祝いをしてくれた同僚が恨めしい。
　そもそも前後不覚になるまで勧めてきたのはあいつ等である。
　資料課勤めで幼馴染のブライエン。
　自分と一緒に魔物共に切り込んでいくクライブ。
　年下の自分の昇進を我が事のように喜んで、あれよこれよと勧めてきたドランク。
　気のいい奴等なのだが、今はその事は横に置きたい。
　
　とりあえず、どうしよう。

　「……と、言っても待つしかないんだがな」

　時間が経つにつれて冷静になってきて、結局彼女待ちである。
　もう何があったか聞くしかない。
　行きずりの相手であれば多少多く握らせるなりすればいいだろう。
　そうでなかった場合は怖いが。

　「しかし―――綺麗な顔だよな。どっかのお姫様って言っても通じる気がする」

　寝ている彼女の名前すら知らないのに、眺める度に惹きこまれていく。
　心地良さそうに弛緩した表情は子供のように無防備で、しかし造作はしっかりと大人の色香を醸し出している。
　先程確認した時に見たのだが、顔に釣り合う―――ある意味それ以上だが―――程豊満な身体つきをしていた。
　両の乳房は剣を握る為に大きくなった自分の手をもってしても零れんばかりであり、先端は薄い桃色の突起が小さく自己主張している。
　くびれはそれを支えにしたら折れてしまいそうだった。
　腰つきは胸に負けずと安産型のようで、先程のくびれをしっかりと抑えながら後ろから膣を突けば恐らく心地良く耳朶を打つ嬌声を――――――

　「はっ！？お、俺は今何を！？」

　寸でのところで我に返る。
　馬鹿な……今俺は女性の顔を眺めて、何を思ったのだ？
　頭を振って立ち上がる。
　このような邪念は文字通り水に流してしまおう。
　もう一度顔を洗ってスッキリとするのだ。
　それから彼女の分も朝食を準備して、なるべく穏便に事の経緯を聞き出そう。
　その前に彼女の顔をもう一度見ておこう。

　そう考えてその場から一度下がろうと彼女を見る。
　落ち着いた朝の光は白んだ輝きがなりを潜ませ、物体そのものの色を表すようになっていた。
　清潔そうだったシーツの白も昨日の情交後を物語るかのように、変色した精液と愛液が交じり合ったような跡を現す。
　周囲を良く見ると、片付け損ねたであろう私物の服が散らばったまま残っていた。
　そんな中、彼女の身に着けていたであろう修道服が目に付く。
　途端、頭の中で何かが引っ掛かった。

　「いや、いやいやいやいや。ないない、絶対無い」

　確かに最近シスターが教会に赴任した。
　何処ぞのお嬢様だったのかあまりに世間知らずだったのでつい見兼ねて手助けした時が有った。
　その時間近で見たら想像以上に美人だったので心の中で有頂天になっていた。
　それ以降何故か他の修道女達と一緒に屯所に差し入れをしてくれたり休暇で街中で会う時が多かったが、彼女の立場と偶然によるものだと考えていた。
　時折同僚に冷やかされたりしたが、自分のような面白みの無い奴にわざわざ会いに来てくれるなんてまず無いと、勘違いは一切しなかったつもりだ。

　恐る恐るベッドの上で横たわる彼女を見る。
　先程から同じ姿勢で微動だにしていないが、弱い光に照らされて尚病的なまでに白い肌色のその顔は、漸く自分の記憶に合致する人物を弾き出した。

　「シスター・アリエル……？」

　返事が無い。
　余程深い眠りなのか、修道女である彼女が起きる時間はとうに過ぎているのに一向に目を覚まさない。
　いや、それ以前に――――――

　「―――呼吸を、してない？」

　服や布で誤魔化せる範囲ではない。
　通常であれば微弱でも乳房―――ゲフン、胸部の上下動はある筈なのだ。
　それが無い。
　それに先程から気になっていたが、普通人間がここまで血の気の引いた白さを体現出来るものなのだろうか。
　この白さはまるで
　

　「死んでる……だと……？」

　
　死体のそれではないか？
　

　念の為ベッドに近寄ってみる。シスター・アリエルは全く反応しない。
　脈を計る為に腕を取る。氷のように冷たい。
　最早意味も無いだろうが掌を口元へとかざす。当然のように空気の流れが無い。

　
　天井を仰ぎ見る。
　目に映るのは見慣れた所々変色している木製の面だ。
　見ようと思えば天井に使用された木材の年輪すら見る事が出来る。
　だが今の自分はその物的な部分を通り過ごし、遠い追憶すら目蓋の裏に上映できる。

　振り返れば今年で24歳。
　思えば魔物を追い払う仕事ばかりだった。
　言われるがままに命を懸けて、魔物達に連れ去られる仲間を歯噛みしながら見捨てた事だった何度もあった。
　明日は我が身と覚悟を決めて、恋人を作らず妻を娶らず。
　若者らしいトキメキを最後に体験したのは何時だったろうか。

　確かにちょっと自分は羽目を外したかも知れない。
　仲間達としこたま飲んで、気付けば有頂天になっていた相手とベッドインしていたらしいのも想像に難くない。
　だが


　
　ヤ　ベ　ェ　本　当　に　ど　う　し　よ　う




　これ、もう犯っちゃたというか殺っちゃってませんかね！？
　寧ろ犯っちゃて殺っちゃったの！！？？
　それとも殺ってから犯っちゃたの！！！？？？
　
　動機は分からないけど、動機と思われる記憶も酒の力で綺麗さっぱり！
　下手すると無理矢理連れ込んで勢い余って殺っちゃったのか俺！？
　ああああぁぁぁぁ、どっちにしろ終わりだ。昇進から一転、一気に犯罪者だぁ…………。

　
　全身から力が抜ける。
　もうどうにもならないところに踏み込んでしまったという諦めが立つ気力すら体から奪っていく。
　背を預けた椅子は固く、軋みを上げて自分の体重を受け止めてくれるが世間様はこうはいかないだろう。
　
　シスター・アリエルの死体が自分の部屋にある。
　
　しかも明らかに性交を行った形跡があり、それは前後不覚な昇進したばかりの青年小隊長の自宅ででだ。
　酒が抜け始めても、悪い酔いは絶賛営業中である。
　醒めないこの不安定さは地面が揺れているのか自分が揺れているのか。
　力無く、かつてシスター・アリエルだったものを眺める。
　死して尚美しさを保つその姿は、格好も相まってまるで自分を誘っているようでもあった。

　「……そうだな、どうせ捕まるんだ。最後に」

　抱いてみるか。
　その言葉を飲み込んだのは、自分に残っている良識だったのだろうか。
　既に性交後とはいえ、それは正に生者を冒涜。
　物言えぬ姿となった女に、まだ女を求める一方的な排泄だ。
　
　女の死体を犯す。
　何ら生産性の無いこの行為は、人一人の尊厳を踏みにじって漸く得られる快感だろう。
　見つかればその猟奇的な行動は言うに及ばず、精神性すら疑われる事は想像に難くない。
　だが、目の前の目覚める事の無い美女はとても只の死体とは思えない。
　死して尚男を誘う魔性である。

　……そういった思考に至った時点で、もう自分は正常な判断は出来ていないのだろう。
　後ろめたさからか、踏み出す足には余計な力が入り僅かな音すら敏感に反応してしまう。
　高々数ｍの距離がまるで死刑場への道のりのように感じた。
　そうした苦労を経て、今自分は抜け出してきたベッドに戻ってきたのだ。
　
　「シスター・アリエル……」
　
　半ば組み伏せるように彼女だったモノを下に敷く。
　美しさにも様々な種類があると思うが、ここまでとは思わなかった。
　生命を失う事で初めて得られる、背徳的な美しさ。
　形だけがその場に残り、ただそれだけにのみ彼女の価値が集約されている。
　今正に目の前の彼女を独占出来ている、という奇妙な安堵とこれから行う人間として最も下劣な類の行為を行う事に不覚ながら心臓が破裂しそうな高揚と興奮を覚えている。
　これからこの雌は、いや、雌だったものは自分の為すがままなのだ――――――

　「愛してるよ、アリー……」

　この期に及んでまだ『愛している』と嘯ける自分が滑稽でならなかった。
　罪の意識を愛の告白を行う事で少しでも薄めようとする自分を笑いながら、ゆっくりと彼女の裸身を晒していく。

　「嬉しい……私も愛してますよ。アル」

　「へ？」

　間の抜けた声で彼女を改めて見る。
　そこにははっきりとこちらを見つめる真紅の両眼が有った。
　
　「私の一方的な愛情か、と思っていましたが杞憂だったようですね。安心しました♥」

　嬉しそうに表情を崩す彼女はとても魅力的であり、こちらを見る瞳の光はこれから自分に行われるであろう行為を想像してか蠱惑的な輝きを覗かせる。
　その様子を見て自分は――――――

　「ｷｪｪｪｪｪｪｱｧｧｧｧｧｧｼｬｧﾍﾞｯﾀｧｧｧｧｧｧｧ!!!」

　「きゃ！？もう、何ですかいきなり。変な声出さないで下さい！」

　
　　――――――暫くの間、現実を受け入れられないで居た。











　「つまり、シスター・アリエルは魔物だと？」

　「正確にはアンデッド、それも上級のワイトですよ♪」

　現状を要約すると、自分は今【E：ぬののふく】だけでラスボスを相手にしているようなものだと分かった。
　なので抵抗は一切が無駄であると予め釘を刺されている。

　「すみません、シスター・アリエル。何故俺の家に居たんですか？正直その辺りの記憶も曖昧なんですが……」

　「もう、私の事は先程呼んで下さった『アリー』で結構ですよ♥。でないと私もアルバートさんの事を『アル』って呼べないじゃないですか♪」
　「そうですね、酒場で盛り上がっていらっしゃった貴方方から貴方だけ拝借したんです。『個人的に彼をお祝いさせて下さいません？』ってお願いしましたら、皆さん快諾して下さいました♪」

　当時の事を思い出したのだろう。
　嬉しそうに頬を紅潮させ、少し斜め下にシスター・アリエルは視線を外した。

　「皆さん『頑張れよ』って応援までして下さって……本当に良い方達ですね」

　いやんいやん、と言わんばかりに両手を自分の頬に添えると首を左右に振るシスター・アリエル。
　いや可愛いんだけど、結局自分はどうなったのか。

　「取り敢えず貴方を自宅までお連れしましたが、その時は既に大分飲まれていたようで。潰れられても困りますし、持参したまといの野菜をおつまみにして陶酔のワインで飲み直しました」

　酔わせて襲われたらしい自分に頭を抱えた。
　取り敢えず大まかな経緯は分かったのだが、確認が一つ。疑問が三つほどある。

　「……魔物が人を襲わなくなったというのは本当ですか？」

　「えぇ、今の魔物に雄は居ません。魔物にとっても人間、取り分け男性は貴方方が考えているように捕食対象ではないのです。寧ろ必要不可欠な伴侶ですよ？」

　この話は本当らしい。
　彼女達は数ヶ月前から新顔として編入してきたが、配属された資料課や救護課、配膳課等では人間と大差ない常識で行動していた。
　中央の教団上層部が言うような獰猛な姿は一度として見ていない。
　尚、戦闘に直接参加するところには編入しなかったらしい。
　理由としては、今回は攻めてくる兵士を堕落させるのではなく国ごと親魔物領に作り変えるのが目的だったからだとか。

　「……俺が帰った後、アイツ等ってどうなりました？」
　
　「分かりません。私は貴方が他の娘に取られない様に彼等から引き剥がすのが目的でしたから。でも資料課に配属されたリッチは貴方の幼馴染がお気に入りのようでしたし、救護課に配属されたデュラハンはあの白髪の青年がお好みのようでしたね。悪いようにはされていないと思いますよ？」

　さらば、ブライエン。そしてクライブ。
　お前達の雄姿は忘れない。
　
　「どうしてここを攻め落とそうと考えたんですか？」

　「理由はいくつか有りますが、大きなのはまず貴方方の居るこの国は魔物を追い払う事は有っても殺そうとはしなかった事ですね。私達を伴侶に持った貴方方の同僚のお話からだと攻め込む事も出来る練度なのに、それをしませんでした。潜入して様子を見てもやはり攻め込む様子はありませんでしたから素養はあるのかな、と思いまして」

　素養というのは反魔物領から親魔物領になるものだろう。
　元々ここは地方という事もあり現場判断が多い。
　中央の使者でも来れば遠征の一つもあるだろうが、現在中央の方はガチガチに防備を固める準備をしており地方に人員を割く様子は一切無かった。
　結果として地方は余計な損耗を抑える為、専守防衛深追いせずが基本となっている。
　そう考えていると、シスター・アリエルは更に続けた。

　「それと、この国の上層部は前々から私達と交流を持ちたいと極秘裏に使者を送られていました。ただ立場上大手を振って受け入れられないので連れ去る形を取り、親魔物領化もあくまで『抵抗空しく攻め落とされた』体を取りたいとも伺っております」

　自分、初耳なんですけど。
　
　「残るは国民の体質ですが、どうやら私達魔物娘も問題なく受け入れて下さるようで、ホラ」

　スパーン、とシスター・アリエルが窓を開くと、途端に外から嬌声やら甘酸っぱい匂いやらが入り込んでくる。
　俺は居たたまれずそっと窓を閉じた。
　シスター・アリエルは何か施していたのだろう。静寂がまた戻ってくる。

　「凄い状況ですね、シスター。何ていうか……阿鼻叫喚？」

　「アリーですよ、アル？それとこの場合は酒池肉林です。性的な意味で」

　見知った笑顔を崩さずにシス……いや、アリーは答える。
　違うよ？名前予備し損なったら出てきた異様な迫力になんて負けてないよ？

　「質問は以上ですか？それでは……」

　先程の淫猥は光を宿してアリーがにじり寄って来る。
　犯すつもりが何時の間にか犯される側になっているが、その前にどうしても聞いておきたい事がある。

　「―――最後に。どうして俺だったんです？」

　「どうして、ですか。困りましたね」

　ピタリと止まって、その場で考え出すアリー。ちなみに身体は全裸である。俺が手を伸ばせば届く範囲に極上の女体があるのだ。
　前言撤回、聞かなきゃ良かったと後悔している。

　「そうですね。強いて言えば優しかったからでしょうか」
　「予備知識はありましたが、実際にやってみると上手く行かない事が多々ありました。その度に貴方は自身の職務時間を割いてでも私に歩み寄ってくれた。困っているけれど言えない私を率先して助けてくれましたから」

　アレはどっちかというと美人と話したかっただけなんだけどなぁ。
　でも確かに他に話しかける奴を見なかったな。
　高嶺の花過ぎて近寄り辛かったとか、そんなんだろうが。

　「遠巻きに見ているだけで近寄れない方々を卑下するつもりはありませんが、その方々と比べるとどうしても物怖じせず近づいてくる貴方の方が頼りがいがありました。そして段々と貴方の事だけを考えるようになったのです」
　「昼も夜も、主に夜も。貴方とずっと一緒に居られればと考えるようになりました。最初は何となく良いな、位でしたが次第に貴方が自分の傍に居なくては我慢出来なくなったのです」
　「だから、他の娘に取られる前に貴方の一番になりたかった……貴方、私達の間では結構競争率高かったのですよ？」
　
　何故夜が二回あったのだろう。
　アリーの話では、既に彼女が派遣されていた教会を中心に周囲は魔物の魔力を浸透させており何時でも住民の魔物化は可能であったとの事だった。
　いきなりそれをしなかったのは、この国の上層部との約束がある事に加えて男の方のインキュバス化も目論んでいたからだとか。
　どうせ時間が掛けざるを得ないのであれば、最後にお互いが気持ち良くなる準備を済ませてしまおうという事だったらしい。

　アリーの掌が自分の肌に触れる度、脳を焦がすような快楽が走る。
　一瞬で消えては与えられるソレは、まるで強い静電気のようだ。
　爆ぜては消えて余韻を残し、また爆ぜてはを繰り返す。

　「さぁ、教団防衛線部隊小隊長アルバート。私からの問いです。死すら忘れる快楽の世界を、私と愉しみません？」
　
　崩壊寸前なのは国だけではない。
　彼女の中で既に答えは決定されており、それが覆る事が無いのはまずないだろう。
　だが、それで尚答えを求めるのは自分に選ばせる為だ。
　
　恭順か、抵抗か。

　だがそれすらも本当は意味が無いのではないかという考えが脳裏を過ぎる。
　何度消えても繰り返し与えられる衝撃で、彼女は飽きる事無く俺を攻めるのだろう。
　俺が人間として死に、彼女に相応しい存在となって生き返るまで。
　永々と。







　―――――――――ふふふ、急がなくていいのですよ……？
　






　何時の間に変わったのか。

　夜が染めたような片隅が見えぬ部屋の中で
　白く染まる脳裏の中で
　




　―――――――――迷い、悩みなさい。　
　




　彼女の声だけがいやに




　―――――――――時間はたっぷり、ありますからね♥



　
　はっきりと、聞こえた。

■作者メッセージ
毎度のお目汚し。久しぶりの投稿となりました。十目です。
勝手なイメージですが、良家の淑女ってミッション・スクールに通うイメージが付き纏いませんでしょうか。
ワイトさんは淫ら、そして清楚→清楚はお嬢様の代名詞→良家のお嬢様→ワイトさんという図式が成り立ちました。
決して　お○ボクを久々にプレイしたからではありません。

エロなしですがギャグ風味を目指して一気に書き上げました。
そしてあらぬ方向に逸れました。
気を抜くとすぐシリアスモドキさんが出しゃばってくるので、初志貫徹で書き抜くのは大変と、改めて痛感します。

遅筆故きょうせいが進まず、進まないストレスが別の逃げ道を探すという悪循環。
当方、頑張ります故生温かい目でお付き合い頂ければ幸いです。


余談ですが、最後にシスター・アリエル使用した魔法は【黒部屋（ブラックルーム）】というオリジナルです。
メラとファイアの関係と言いましょうか、万魔殿のアンデッド専用部屋みたいなものとお考え頂ければ分かり易いかも知れません。
効果は万魔殿の一室とほぼ同じで、異空間ゆえ時間経過がありません。