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第九話:前編 クエスト〜逃したニンジャを撃滅せよ!〜
 


 ここより、ニンジャ達と当たる少し前に時間は遡る。
 どう対策するかという後。
 いざ仕掛けるという前。
 俊哉の母―――春海から齎された計略の確認の段階である。

 「まず、玉砕覚悟の神風アタックは無し。ここはセオリー通り囮と本命で勝負を掛ける事にしましょう」

 春海の語った内容は俊哉とは違った面でシンプルであった。
 紅白ニンジャズに接触する人員は俊哉の言う通り俊哉、悠亜、豪の三名で行う。
 豪の特性である男女を問わない魅惑/魅了の効果で二人を弱体化させるというものである。

 「それだけでも本命になり得ませんか?これなら僕達だけで何とかなるのでは……」

 「無理。何故なら『弱体化』は出来てもまだ貴方達じゃ敵わないからよ。『無力化』出来るなら話は別だけどね」

 「春海さん、どういう意味です?」

 俊哉の唱えた異を春海が訂正し、その原因を悠亜が質問する。
 春海の回答は、俊哉達の知らない情報を含んでいた。

 「あの人達が着ている服は只の服じゃないの。能力は違うけど、両方に共通するのは『属性魔法・精神魔法に強い事』よ。エリス、久さんの着ているものの説明、お願い出来る?」

 「分かったわ。悠亜達、少し聞いてくれるかしら?」

 エリスティアは軽く咳払いをすると、自身の夫の着込んでいる装備の解説を始めた。

 「まず、久さんの着ている服は『服ではない』の。あれは本来、外套型の半自立攻性防御兵装で名称は≪紅叫(スカーレット・クライ)≫。特性は持ち主の意思に応じて千変万化する形状と、通される魔力量に比例して強い力を発揮するのが主だったものね」
 
 「何それ……、私聞いた事ないよ……?」
 
 「少しいいッスか?」

 エリスティアの説明中、唖然とする悠亜の隣で豪が気になる点があるのか手を上げて質問をする。
 エリスティアは質問を促すと、豪は疑問を口にした。

 「『強い力』って具体的にどんな能力なんですか?」

 「……文字通りね。怪力って思ってくれていいわ。下手に近付いたら豪君くらいの体格の子でもお手玉されちゃうわね」

 「規格外にも程がありませんかね……」

 「それ以外にも何か注意する点はありますか?」

 冷や汗を掻きつつ苦笑いを浮かべる豪を尻目に、俊哉は更に質問を重ねる。
 
 「一対多数に向いている事、≪紅叫≫自体の耐久力が高い事位かしら。兎に角、普通の人は近寄られたら手も足も出ないと思うわ」

 「……ありがとうございます、エリスティアさん。では母さん、この様子だと父さんも一筋縄ではいかないんでしょう?」

 「勿論」

 内心戦力比に動揺しながら、努めてそれを表に出さないようにして俊哉は春海に問うた。
 予想通りの答えに頭痛を覚えながらも、春海の説明を聞く。
 
 「じゃあ、利秋さんの着ているものも説明するわね。共通するところ以外は外側が耐刃素材、内側が耐衝撃の魔術文字が施された二重構造になってる位」

 腕を組んだまま片手の指を一つ立て、春海は説明を始めた。
 
 「……何かそれだけ聞くと大した事なさそうッスね」

 豪が小さな横槍を入れるが、春海はその発言を予想していたのか豪の発言に答えながら続ける。

 「それだけならまだ可愛げがあるわね。一番困るのは表面の部分なのよ」

 「どういう事です?」

 豪と同じような考えをしていたのか、俊哉も割って入った。

 「表面部分は周囲の魔力を蓄える働きがあるの。それに自分の魔力を加えると忍装束からは靄が発生して着ている人の輪郭をぼかすのよ。これは吸着した魔力量と混入させる魔力量で調整が利くわ」
 「発生した靄は一定の濃度で留まり続ける。同時に、発生した靄には使用者以外の方向感覚を狂わせる働きがあるのよ。これがお父さん―――利秋さんの≪白楼(はくろう)≫の能力」

 「春海さん。それってどういう事になるんですか?」

 豪、俊哉も何となく掴めてきてはいるのだが、はっきりと分からない表情のままである。
 悠亜も同じ心境の様子で、二人を代表して質問した。

 「あぁ、ごめんなさい。ちょっと分かり辛かったわね。俊哉、お父さんってどう思う?」

 「変態ですね」

 にべにもなく即答する俊哉に、春海は苦笑いしながら言い換えた。

 「人間性じゃなくって、身体能力の方よ。どう思う?」

 今度は即答せず黙考する俊哉。
 数秒経過した後、彼は口を開いた。

 「……普通でない事は認めます。下手なインキュバスよりも余程強いかもしれません」

 「えぇ、そうよ。貴方は見慣れてしまったけど、実はお父さん結構強いのよ。お互いフル装備なら久さんと正面から互角に戦えるわね」

 人外の膂力を振るえる装備を持つインキュバスと互角。
 その事実は長年一緒に暮らしてきた俊哉にとっても初耳であった。

 「……成る程。身体能力で久さんに引けを取らない上に視界を塞ぐ、動きを読ませない、相手の感覚を狂わせるというアドバンテージがあちらには有る、と」

 久とは別の意味で厄介極まりない事を俊哉は理解した。
 久が正面から力で粉砕するタイプであるなら、利秋は相手を翻弄して自分の得意分野に持ち込むタイプであるという事だ。
 加えてこの境内は様々な魔物娘やインキュバスが訪れているのである。
 外からの素材調達には事欠かず、学生三人が束になって掛かっても逃げるも叩きのめすも自由という事であった。
 
 「その通り。だからまず倒すのは利秋さん。逃がすと貴方達だけでは手に負えなくなるわ」

 文字通り煙に撒いて逃げられる格上の相手は俊哉達には重荷である。
 相手がまだ余裕を見せている状態で畳み掛けろと春海は続けた。
 格上が相手であれば有効な手段だが、問題はどう隙を見つけるかである。
 先程春海は『囮と本命』と言っていた。
 ならば、どのような役割を振り分けるのか。

 「時間があんまりないからサクサク行くわね。今回の作戦、鍵になるのは豪君と有麗夜ちゃん。この二人よ」
 
 春海は役割を伝えていく。

 「囮は最初に俊哉が選んだ三人。接触時に利秋さんを無力化。次いで久さんを迎撃。本命の有麗夜ちゃんは私と一緒に移動して」
 
 「待って下さい。危ない事をさせる気じゃないでしょうね」

 日中は非戦闘員の有麗夜の参加が心配なのか、悠亜は食って掛かる。
 春海は微笑みながら答えた。

 「大丈夫よ。上手くいけば豪君のお陰で終わるだろうし、保険の意味合いでもあるわ。失敗した時での貴女達を助ける事が出来るのは有麗夜ちゃんにしか出来ないの」

 自分にしか出来ない―――その発言に、有麗夜は表情を固くして緊張する。
 先程までは自分も参加すると息巻いていたものの、それは不特定多数の予備戦力としての意識であり戦局を左右するような大事とは捉えていなかった。
 自身の両肩に掛かる責任は、見えないながらも確かな重みとなって彼女に圧し掛かった。
 一体どのような役割なのか――――――

 「あぁ、緊張しないで。この通りにしてくれれば良いから」

 既に用意していたのか、上着のポケットから紙片を取り出す。
 有麗夜はそれを手に取り開くと、思わず目を見開いてしまった。

 「……あの、春海さん。私本当にこんな事だけでいいんですか?もっと他にやる事なんて……」

 「無いわ。それに、上手に出来たらいいものあげるわよ?」

 その言葉に有麗夜の背中でピコン、と動くものがあった。
 上着に隠れている小さくしている翼が出てきたのである。

 「……お義母様、ちなみにどんなのか聞いても良いですか?」

 「いいわよー」

 何やらそわそわと落ち着きの無い様子の有麗夜に春海は耳打ちをした。
 途端、有麗夜の目が大きく開かれたと思うと春海に向かって背筋を正して敬礼をする。

 「不肖、この有麗夜!全力を持って任務に当たりますっ!!」

 「お願いねー」
 
 「何て言われたんだ、有麗夜?―――あだっ」

 にべにも無く告げる春海を他所に、俊哉が近寄ろうとする。
 しかしそれは文字通り母の手によって遮られてしまった。
 
 「駄目よー?俊哉。女の子の秘密を知ったら極刑ものよ?」

 「チョップは要らないので口で言って下さいよ……」
 
 「私は聞いてもいいですよね?春海さん」

 「いいわよー、ちょっと耳貸してね……ふっ

 「はい……わひゃあ!?」

 耳を寄せた途端に息を吹きかけられ、悠亜はくすぐったさに離れる。
 その様子をニマニマと笑いながら春海は見ていた。

 「……人の娘で遊ばないで頂戴」

 「あー、ごめん。何か悠亜ちゃんって苛めたくなっちゃうのよねー、普段そんなキャラじゃないから隙を突きたくなるのよ」

 エリスティアの半眼をいなしつつ呑気に答える春海。今度はやる気は無いのか、もう一度悠亜を呼ぶ。
 悠亜は警戒しながらも、再度春海に耳を貸した。
 途端、先程の有麗夜と同じように目を見開くと姿勢を正して敬礼をする。

 「全力を持って任務に当たります!お任せ下さい、マムっ!!」

 春海は満足げに頷くと、今度は豪に向かって話し掛けた。

 「じゃあ豪君。貴方には少し危険かもしれない事をして貰うのだけど、これも貴方が頼りなの。頼めるかしら?」

 「了解ッス。任せて下さい!」

 「せめて内容を聞いてから判断しなよ、豪……」

 俊哉の突っ込みは横に置かれ、春海の説明が続く。

 「豪君、俊哉から聞いたけど、貴方本当にユニークだわ。生まれつきリリムの魔力を持ってるインキュバスなんて聞いた事ないわよ」

 「まぁ、そうッスよね。生まれつきのインキュバスってだけでもレアですし、プラスして親譲りの魅了って反則持ちですし。でも結構苦労してるんスよ?」

 まるで人生の輝きを脳裏に思い起こしている老人のように、豪は遠くを見ながら語り出した。

 「何も知らない昔は良かったッスよ……子供でしたし何か好かれるなー、で済んでましたしね。今や常時貞操の危機ッスわ」

 「例の薬でも抑えられなくなってきたのか?」

 俊哉の指摘に溜息を吐きながら豪は答えた。

 「いんや、バッチリ効いてる。今日は飲み忘れただけだしなー、それがこうして役立つんだから人生何が役に立つか分からんよな」

 「薬?」

 有麗夜の疑問に、豪は向き直りつつ回答する。

 「あぁ、代謝を落とす薬なんだよ。俺インキュバスだけど取り分け身体能力も高くてな。それに比例してフェロモンみたいに魅了を撒いちまうらしいんだ」
 「親も色々やってくれたみたいなんだが、結局一部だけ抑えようとすると体に障るらしくてな?なら全体的に抑えようって話で落ち着いたらしい」
 「ちなみに個人製作の未認可薬だと。保険利かねーけどかなり効くんで助かってる」

 懐から見るからに体に悪そうな蛍光ピンクの錠剤が入ったシートを出しながら苦笑いで豪は締めくくった。
 話が落ち着いたところで春海は豪の隣に詰め寄った。

 「さて、そんな歩く18禁な豪君に耳寄りな情報です。ちょっとおねーさんに耳を貸してね?」
 
 「え?あ、はいッス」

 豪が屈んで春海の身長に合わせると、何やら耳打ちを始める。
 初めは神妙に聞いていた豪も時間が経過するにつれてその表情から真剣な感情が失われていった。

 「……冗談、ッスよね……?」

 「本当よ。冗談だったらナイスバディのお姉さんを紹介してあげる
 
 「全力で信じます、マム。なので冗談じゃなくても紹介して下さいッス

 「あれだけ沢山居てまだモテたいのか、君って奴は」

 外野となっていた俊哉から入った突っ込みに豪は反射的に異を唱えた。

 「馬鹿野郎っ!俺の好みはボンキュッボンの優しいお姉さんだっ!!

 どうやら地雷だったらしい。
 踏み抜かれて爆発した豪に、春海はペースを崩さず話し掛ける。

 「はいはいじゃれない。それじゃ、豪君にはちょっと紹介したい人が居るの。手短に済ませるからね?……エリス、あの子来てるー?」

 「はいはい、一緒に居るわよ。……手間を掛けて申し訳ないのだけれど、自己紹介お願いね?」

 門構えの中は関係者用の通路になっていたらしく、エリスティアと沙耶、それと見慣れぬ巫女装束の女性が一人連れられていた。

 「初めまして、皆さん。私(わたくし)、東雲(しののめ)と申します。お見知りおきをお願いしますね」

 上品に挨拶をする彩度の薄い赤毛の女性は丁寧に腰を折りお辞儀をする。
 体つきは悠亜に近く、出る所が出て引っ込んでいる所は引っ込んでいるメリハリの大きい肉付きの肢体である。
 年齢は外見で判断するなら恐らくエリスティア以下春海と同程度というところだが、年下の俊哉達に対しても礼儀正しく接する姿は外見以上の落ち着きを見せていた。
 
 「東雲さんは私のバイト先であるこの神社の巫女さんなんです。まさか春海さんやエリスティアさんと知り合いとは思いませんでした」

 東雲のやや後ろに影のように控えていた日籐 沙耶(ひとう さや)が付け加える。
 春海は東雲に近寄ると、俊哉と豪の前に連れて行く。

 「東雲、この子が例の役をやるの。息子を含めて手を貸して欲しいんだけれど頼めるかしら?」

 「あら、この方が……大役ですね。私で宜しければお手伝い致しましょう。少しお顔を拝借しますね?豪さん」
 
 垂れた目尻に穏やかな微笑を浮かべながら東雲は豪に話し掛けた。
 柔らかな口調で呼び掛けられる豪だが、反応がない。
 また微妙な空気が流れ始めるのを感じ、俊哉は豪の前で手を振った。

 「豪、帰ってこーい」

 「はっ!俺は一体?!ここは誰だ?」

 抜けていた魂が戻ったように目の焦点を合わせる豪。
 その様子が可笑しかったのか着物の袖で口元を覆いながら東雲は小さく笑った。

 「個性的な方ですね……豪さん。貴方の方が少し時間を頂くので、先に俊哉さんの方を終わらせてしまいますね?」

 そう言うと東雲は豪と俊哉の二人に近寄り、着物の袖から数枚の紙を取り出した。
 紙には複雑な紋様や達筆な文字が書かれており、物々しい雰囲気を醸し出している。

 「俊哉さんにはこれを。物の作用を強める符です」

 「……ありがとうございます。しかし自分は一般人ですので、もし身体能力を底上げするような代物なら豪に渡すのが良いと思いますよ?一番戦力になります」

 一応の礼を言いながらも受け取ろうとしない俊哉に気分を害さず、東雲は返答する。

 「いえ、これは『物の作用を強める』物ですから。春海さんから投げたり撃ったりするのが得意だと聞きました。今日も水鉄砲を忍ばせていると伺っておりますが、違いましたか?」

 「え゛?」

 その発言に耳聡く有麗夜が反応した。
 次いで、俊哉に食って掛かる。

 「まだそんなの持ってたの?!ていうか何で持って来てるの?!」

 「いや、普段から持ってるぞ?ヴァンパイアの襲撃が多いから必須アイテムなんだ。今回は真水にニンニクエキス配合の特別仕様」

 「やだ……私の信用度低すぎ……」

 絵に描いたように衝撃を受けてふらつく有麗夜を尻目に、俊哉は東雲に尋ねる。

 「『物の作用を強める』、ですか?具体的にはどう使うんです?」

 「……そうですね、実際に使って頂いた方が分かり易いでしょうか。ちょっとその符を水鉄砲の銃身に巻きつけてくれますか?」

 言われた通りに一枚受け取り、水鉄砲に巻き付ける俊哉。
 東雲は次の指示を飛ばす。

 「はい、終わりましたね。ではあの辺りの地面で良いので撃ってくれますか?」

 言われるがままに俊哉は引き金を絞ると、いつも通りの手応えで水が噴出される。
 狙う先は地面というよりは石畳であり、普段であれば水はそのまま直撃して石畳を濡らすだけに留まる筈だった。
 だが、その結果は俊哉の予想を大きく超えていた。

 「……加減って効きますか?コレ」

 直撃した石畳の表面に罅が入っている。
 軽さ、手応えは元々持っていた水鉄砲である為、威力だけが異様に強化されているこの状態は俊哉をして加減を要求するものであった。

 「春海さんからは『なるべく威力を高めるものを用意して欲しい』と言われていたのですが……やっぱり強すぎましたか?」

 渡した手前このような事態になる事は予想していたのだろう。
 罰の悪そうな表情を浮かべる東雲に、俊哉は何故か彼女に垂れた耳と尻尾があるような幻覚を見た。
 見間違いかと瞬きをした次の瞬間、東雲の傍らから声が上がる。

 「流石ね、これなら利秋さんでも通じるわ。東雲、いい仕事するじゃない♪」

 「あ、ありがとうございます///」

 まるで小さい子供にするように頭を撫でる春海に、東雲は真っ赤になって俯いてしまう。
 その姿は、尻尾が着いていれば千切れんばかりに振っているような錯覚すら見ているものに与えていた。
 微笑ましいといえるその光景の中、俊哉は一人苦い顔をする。

 「母さん、流石にこれは……万一があれば父さんが死にかねないのではないでしょうか」

 不安げに語り掛ける俊哉に、春海は意外そうな顔を浮かべる。
 その表情はまるで『コイツ何言ってんだ』と呆れているようでさえあった。

 「万一も無いわよ。大丈夫、間違ってもその程度じゃお父さんは死なないから思いっきりぶちかましちゃいなさい」

 「しかし―――」

 尚も言い募ろうとする俊哉だが、意外な人物が口を挟んだ。
 
 「大丈夫ですよ、俊哉さん。どちらかといえばそれは俊哉さんの身の安全の確保の為なんです」

 東雲である。
 今の彼女は先程の撫でられて恥ずかしがっていた表情が鳴りを潜め、出会った頃の穏やかさな微笑が浮かんでいた。
 
 「豪さんは強力なインキュバス。悠亜さんは魔物娘。その中に変哲の無い人間である俊哉さんが入ると、失礼ですがどうしても戦力的に偏ってしまいます」
 「人間は足りない部分は道具で補います。俊哉さんのお父さん―――利秋さんもそうです。それに相手から身を守る手段を持つという事は、相手と対等な立場になるという事でもあります」
 「春海さんは少しでも貴方と利秋さんが話し合える状況を作る為に、私にこれを用意するよう頼まれたと私は考えています。受け取って下さい、俊哉さん」

 「それは本当ですか?母さん」

 「ぇ?えぇ、そうね。そうよ、うん」

 話を急に振られて狼狽する春海。
 そこまで考えていなかったのか、若干視線が泳いでいる。
 
 「―――分かりました。有り難く頂戴します」
 
 符は数枚と言わず厚みのある束で渡された。
 預かったそれを数枚取り出すと、上着の内ポケットから取り出した予備の水鉄砲に貼り付ける。
 それが終わるとまた別の水鉄砲を取り出し貼り付け、また取り出しては貼り付けを繰り返していく。
 
 「いくつ持ってるんだお前……」

 その光景を見た全員の気持ちを代弁しながら豪は呻く。
 
 「では豪さんはこちらへ」

 「行きましょう、豪。鼻の下が伸びていましたので、貴方はその顔面をまず隠すべきです」

 東雲が自分に着いてくるよう声を掛けると、沙耶がそれに応えるように無理矢理に引っ張っていく。
 予想以上に力が強いのか、身長差もあり豪は何度も転び掛けたのだが、沙耶は豪の姿勢に気付かず引っ張っていってしまった。
 
 余談だが、三人が溶けていった闇の中から数分後。
 姿を現した時の豪の姿に東雲を除く一同は必死で笑いを堪え―――豪が動く度に沙耶が拍子木を打ち鳴らしたのも原因だが―――俊哉、豪、悠亜の三人が春海の指示通りに行動を開始した。



14/02/19 00:35更新 / 十目一八
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■作者メッセージ
長らく留守にしておりました。十目です。
忙しく、他の方のSSを読めても感想も書けず当方のSSも進まずの状況が続いた為暫くビネガ断ちをしておりました。
結果SSを書くのは以前よりも捗ったのですが、書いては消して書いては増えてを繰り返し無駄に時間が掛かってしまった次第です。
バレンタインSSも書きたかったですが、当方が遅筆のチッヒーである為敢え無く断念となりました。
せめて来月のホワイトデーは書きたいです。

それと、今回の有麗夜、悠亜、豪の三人の褒章は別途使用予定です。
有麗夜と悠亜は『親公認、俊哉君一日独占権(邪魔者排除・安心ニンジャサポート付き)』が贈られます。
俊哉がその気にならないとあんまり意味が無いのが珠に瑕ですが、使用期限はありません。

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