第三話:夜型姉妹の攻防戦(後編)
真崎 悠亜(まさき ゆうあ)。
志磨市立第二高等学校に通う高校二年生。
特定の部活動には所属していないが、身体能力の高さから助っ人として呼ばれる事が多い。
当然友人、知人は多く交際を申し込んでくる男子も後を絶たないが全て断っている。
理由は自分でも分からない。
只、何となく違う気がするのだ。
自分の好みというか感覚というか。
そういった『クルもの』が無いのである。
下腹部に直撃するような衝撃や疼きが、自分に寄ってくる異性に一切感じられない。
それは自身が感じる空虚さにあるのでは、と悠亜は考えていた。
幼い時から優しい父と母。
ヴァンパイアとしては素直すぎる妹。
何の問題も無い、不和の無い家庭に住みながら感じる空虚は自分の種族に原因があるのでないか、と彼女は考えていた。
ダンピール。
インキュバス化していない男性とヴァンパイアの混血児。
本来ヴァンパイアからは避けられ、人間からも同族と見て貰えない魔人。
幼い時は何ら疑問を持たなかった家庭は、年齢を重ね世界を知る毎に違和感を感じるようになった。
父親はまだいい。
だが、何故母親は自分を避けないのか。何故妹は自分に懐くのか。
程度差こそあれ本能的に敵視される筈の自分が、何故こんなにも受け入れられているのか。
考えられる可能性は常に脳裏を過ぎり、しかしそれを見ない振りをする為に快活な娘を演じた。
ヴァンパイアに出来ぬ陽を歩む魔人として、求められる形に自分を嵌め込んだ。
何時からだったか。
どれだけ友人達と遊んでも心が晴れなくなったのは。
何時からだろう。
どれだけ異性が告白してくれても胸の高鳴りがなくなったのは。
何時からだろう。
―――自分が、本来ある家族を壊したのではないかという疑念に取り憑かれたのは。
そして、何時からだろう。
君の存在が愛しいと感じるようになったのは。
「私にとって有麗夜は可愛い妹だ。それはどうあっても動かない真実だね」
洗い物を済ませ、準備した緑茶を啜り悠亜は口を開いた。
「でもね。それはあくまで家族として当然の事であって、有麗夜の言動を拘束するような可愛がりはしないつもりなんだ」
「……そういう事ですか。分かりました」
悠亜の発言に得心した表情を浮かべる俊哉。
「へ?どういう事?」
対して有麗夜は追いつけない、と言わんばかりの表情で困惑している。
俊哉は溜め息、悠亜は苦笑いを浮かべ各々有麗夜を見る。
「ちょっと、何で二人だけ通じてるような表情してんのよ!教えてよ!」
「あのな、有麗夜―――」
「いや、私から話すよ。……有麗夜、少し長くなるけどいいかい?」
躊躇無く感情を爆発させる有麗夜に、悠亜は前置きをした上で説明をすると促す。
有麗夜は小さく頷くと、神妙な顔で続きを待った。
「有麗夜、まず君が俊哉君と初めて会った時の事は憶えているかな?」
「うん。こめかみに良い一撃貰って床を転がってたから。忘れられないわ」
じっとりとした視線を俊哉に投げかける有麗夜と視線を外す俊哉を尻目に悠亜は続けた。
「その前に有麗夜の背中を押したのは私だって事も憶えているかな?『やらないよりはやって後悔する方が何倍もマシだ』って」
「憶えてるわ。そのお陰で俊哉の家までこっそり着いていって夜中に襲う覚悟も出来たもの」
「そう……言ってしまえばそうなるように仕向けたのは私さ。けど、選択肢はあったろう?『やるか』『やらないか』でね」
「うん。私は『やる』方を選んだから、結果的に失敗しちゃったけど」
「だが『やらない』を選んだらどうだった?失敗しない事はまず間違いないよ?」
その発言に少しの間有麗夜は考え、口を開いた。
「ううん。確かにそれは失敗しない。けど、『成功もしない』。やる事で成功する可能性がないんだったら、やっぱり私はやるわ」
「つまり、『自分の起こした行動に関して、どんな結果でも責任を持つ事』を有麗夜は選んだわけだ。私が言いたいのはね、『有麗夜のやる事をサポートはするけど遮ったりはしないよ』という事なんだよ」
そう言われ、漸く得心が行った表情を浮かべる有麗夜。
明るい表情は自分の言葉で理解できた姉の愛情を噛み締めているからである。
「じゃあ、これからも悠姉は私の味方って事なのね!」
「当然じゃないか。可愛い妹だもの。……でも、そろそろ傍観者も飽きてきちゃったんだ」
不穏当な発言をする悠亜に固まる有麗夜。
改めて妖しく俊哉を流し見る悠亜。
聞いていない振りをする俊哉。
三者三様の中、先に口を開いたのは悠亜だった。
「そんな訳で。今日から僕も本格的に参加するよ、俊哉君♪」
その発言に硬直していた有麗夜が声を張り上げて異を唱える。
「異議あり!悠姉に参加されたら私勝ち目ないじゃない!私の味方じゃなかったの!?」
「味方だよ?今まで通りアドバイスや背中の後押しなんかも変わらずやるさ。只、私は私でそれを踏まえた上で俊哉君を墜とさせて貰うだけだよ。言うなれば姉の特権、かな?」
「裁判長!それは横暴!権力の横暴であります!即刻取り止めて頂きたいと切に願います!権利とは皆に等しく与えられるものであり、特権階級のみが許される免罪符ではないでしょう!!!」
「却下します。皆に等しく与えられるなら、特権階級もまた対象となります。でも……そんなに取られるのが嫌なら、自分で作戦でも考えたらどうだい?」
「うわあぁぁん!姉が無茶を言ってくるよう、助けてトシえも〜〜んっ!!」
三人集まらなくても姦しい。
俊哉は飲み頃より幾分温くなった緑茶を口に運びながら、ふと外を見た。
陽光は暖かく部屋を照らし、寒風が少し強いのだろう。木の葉が数枚視界を流れていった。
そして、未だ口論とも言えぬじゃれ合いを尻目に目を細める。
―――もう、この喧しさには慣れてしまったな。
きっと自分はもう恋愛感情を抱かずに生きる事は出来まい。
けれどまだ。今はまだ。
俊哉は口に広がる温度のような温さに浸っていたかった。
初めて会ったのは妹の尻拭い、もとい妹の回収をした時だった。
無気力を前面に押し出したような光の無い眼。
妙に枯れたような印象の雰囲気。
どう見ても少年なのに、何故か達観した老人のような佇まい。
少なくとも自分の周りにいる活力に溢れる人物達と比較すると異質な存在が目の前にいた。
―――アンタ、誰?
少年の問いは佇まいと同じ、心底興味が無いという声音だった。
足元ではまだ妹がうんうん転がっている。
私が妹の首に手刀を当てると、妹はそれきり静かになった。
―――止めか?
只、した事への確認。
その程度の事しか興味が無いのか、と逆に驚いた。
他の異性はもっと外見を褒めちぎったり自分に興味を向けようと躍起になっていた。
それに自分で言うのも何だが体型にはかなり自身がある。
お陰で顔と胸への視線が半々くらいなのだ。
だが目の前の少年はじっと、こちらの眼と体全体の動きを追っている。
要するに今私は異性としてより不審者として警戒しかされていないのだ。
私は俄然興味が湧いてきた。
―――いや、気絶させただけ。この子は私の妹だよ。迷惑を掛けたようで済まなかったね。
妹の体を担ぎ侵入したであろうサッシから外へ出ようとする。
しまった……今気付いたが土足で入ってしまった。
妹ですら靴を脱いでいるのにこれでは、姉の威厳が……。
―――重ねて済まない。私も土足で入ってしまったね。このお詫びはまた後日、明るい内にでもさせて貰うよ。
名残惜しいがここは退こう。
土足で入っておきながら雑談など人間の感覚から言っても失礼だしね。
そう言って帰ろうとした矢先、あろう事か彼から話し掛けられた。
―――そんなに気にする事じゃない。失敗は、誰にでもある。
驚いて後ろを振り返ると、少年は変わらずそこに居た。
相変わらずの無気力な眼でこちらを眺めていた。
だからだろうか。
路傍の石のように私を見る彼になら、両親に心配をさせまいと、友人の和を崩さないようにと。
斯く在るべしと作ってきた自分の鋳型を外した本音を話せるのではないかと思ったのは。
―――取り返しのつかない失敗だってあるだろう?そしてそれは何がそうなのか、当事者でないと分からない。
―――だから私は君に詫びた訳だが、君にとって失敗とは何だって許せる範疇の事なのかな?
本来ある家庭を壊したかもしれない責任。
それは私の生まれて初めての取り返しのつかない『失敗』だった。
確認する術がない以上空論かもしれないが、状況証拠が揃い過ぎているのだ。
そう、考える以外無いくらいに。
少年に分かる訳はない。
彼は当事者ではないのだから当然だが、何故か、この少年は私に答えをくれそうな気がした。
―――許せる。
その発言に、私の全身が衝撃を受けたような錯覚を覚えた。
―――そういう風に相手の事を考えて言える奴は同じ失敗をしない。しないように気をつけられる。
―――相手の事を考えて、言って、動ける以上俺は許せる。
―――それが当事者からの答えだが、納得したか?
きっと何を言っても許されないと思っていたのに、ずっと欲しかった言葉がここで聞けた。
少年は当事者ではない。私の事情も、内心も知る由は無い。
だが、それでも。
―――そうか、君は優しいな。
その言葉は私に圧し掛かっていた罪と向き合う勇気を、少しだけ与えてくれた。
―――また、会いに来るよ。妹も一緒にね。
そう言い残し、去る。
夜のヴァンパイア程ではないが私だって魔物娘だ。
体重の軽い妹一人担いで全力疾走なんて訳もない。
頬を濡らす夜露を感じながら、私はまた彼に会える日を楽しみにしていた。
志磨市立第二高等学校に通う高校二年生。
特定の部活動には所属していないが、身体能力の高さから助っ人として呼ばれる事が多い。
当然友人、知人は多く交際を申し込んでくる男子も後を絶たないが全て断っている。
理由は自分でも分からない。
只、何となく違う気がするのだ。
自分の好みというか感覚というか。
そういった『クルもの』が無いのである。
下腹部に直撃するような衝撃や疼きが、自分に寄ってくる異性に一切感じられない。
それは自身が感じる空虚さにあるのでは、と悠亜は考えていた。
幼い時から優しい父と母。
ヴァンパイアとしては素直すぎる妹。
何の問題も無い、不和の無い家庭に住みながら感じる空虚は自分の種族に原因があるのでないか、と彼女は考えていた。
ダンピール。
インキュバス化していない男性とヴァンパイアの混血児。
本来ヴァンパイアからは避けられ、人間からも同族と見て貰えない魔人。
幼い時は何ら疑問を持たなかった家庭は、年齢を重ね世界を知る毎に違和感を感じるようになった。
父親はまだいい。
だが、何故母親は自分を避けないのか。何故妹は自分に懐くのか。
程度差こそあれ本能的に敵視される筈の自分が、何故こんなにも受け入れられているのか。
考えられる可能性は常に脳裏を過ぎり、しかしそれを見ない振りをする為に快活な娘を演じた。
ヴァンパイアに出来ぬ陽を歩む魔人として、求められる形に自分を嵌め込んだ。
何時からだったか。
どれだけ友人達と遊んでも心が晴れなくなったのは。
何時からだろう。
どれだけ異性が告白してくれても胸の高鳴りがなくなったのは。
何時からだろう。
―――自分が、本来ある家族を壊したのではないかという疑念に取り憑かれたのは。
そして、何時からだろう。
君の存在が愛しいと感じるようになったのは。
「私にとって有麗夜は可愛い妹だ。それはどうあっても動かない真実だね」
洗い物を済ませ、準備した緑茶を啜り悠亜は口を開いた。
「でもね。それはあくまで家族として当然の事であって、有麗夜の言動を拘束するような可愛がりはしないつもりなんだ」
「……そういう事ですか。分かりました」
悠亜の発言に得心した表情を浮かべる俊哉。
「へ?どういう事?」
対して有麗夜は追いつけない、と言わんばかりの表情で困惑している。
俊哉は溜め息、悠亜は苦笑いを浮かべ各々有麗夜を見る。
「ちょっと、何で二人だけ通じてるような表情してんのよ!教えてよ!」
「あのな、有麗夜―――」
「いや、私から話すよ。……有麗夜、少し長くなるけどいいかい?」
躊躇無く感情を爆発させる有麗夜に、悠亜は前置きをした上で説明をすると促す。
有麗夜は小さく頷くと、神妙な顔で続きを待った。
「有麗夜、まず君が俊哉君と初めて会った時の事は憶えているかな?」
「うん。こめかみに良い一撃貰って床を転がってたから。忘れられないわ」
じっとりとした視線を俊哉に投げかける有麗夜と視線を外す俊哉を尻目に悠亜は続けた。
「その前に有麗夜の背中を押したのは私だって事も憶えているかな?『やらないよりはやって後悔する方が何倍もマシだ』って」
「憶えてるわ。そのお陰で俊哉の家までこっそり着いていって夜中に襲う覚悟も出来たもの」
「そう……言ってしまえばそうなるように仕向けたのは私さ。けど、選択肢はあったろう?『やるか』『やらないか』でね」
「うん。私は『やる』方を選んだから、結果的に失敗しちゃったけど」
「だが『やらない』を選んだらどうだった?失敗しない事はまず間違いないよ?」
その発言に少しの間有麗夜は考え、口を開いた。
「ううん。確かにそれは失敗しない。けど、『成功もしない』。やる事で成功する可能性がないんだったら、やっぱり私はやるわ」
「つまり、『自分の起こした行動に関して、どんな結果でも責任を持つ事』を有麗夜は選んだわけだ。私が言いたいのはね、『有麗夜のやる事をサポートはするけど遮ったりはしないよ』という事なんだよ」
そう言われ、漸く得心が行った表情を浮かべる有麗夜。
明るい表情は自分の言葉で理解できた姉の愛情を噛み締めているからである。
「じゃあ、これからも悠姉は私の味方って事なのね!」
「当然じゃないか。可愛い妹だもの。……でも、そろそろ傍観者も飽きてきちゃったんだ」
不穏当な発言をする悠亜に固まる有麗夜。
改めて妖しく俊哉を流し見る悠亜。
聞いていない振りをする俊哉。
三者三様の中、先に口を開いたのは悠亜だった。
「そんな訳で。今日から僕も本格的に参加するよ、俊哉君♪」
その発言に硬直していた有麗夜が声を張り上げて異を唱える。
「異議あり!悠姉に参加されたら私勝ち目ないじゃない!私の味方じゃなかったの!?」
「味方だよ?今まで通りアドバイスや背中の後押しなんかも変わらずやるさ。只、私は私でそれを踏まえた上で俊哉君を墜とさせて貰うだけだよ。言うなれば姉の特権、かな?」
「裁判長!それは横暴!権力の横暴であります!即刻取り止めて頂きたいと切に願います!権利とは皆に等しく与えられるものであり、特権階級のみが許される免罪符ではないでしょう!!!」
「却下します。皆に等しく与えられるなら、特権階級もまた対象となります。でも……そんなに取られるのが嫌なら、自分で作戦でも考えたらどうだい?」
「うわあぁぁん!姉が無茶を言ってくるよう、助けてトシえも〜〜んっ!!」
三人集まらなくても姦しい。
俊哉は飲み頃より幾分温くなった緑茶を口に運びながら、ふと外を見た。
陽光は暖かく部屋を照らし、寒風が少し強いのだろう。木の葉が数枚視界を流れていった。
そして、未だ口論とも言えぬじゃれ合いを尻目に目を細める。
―――もう、この喧しさには慣れてしまったな。
きっと自分はもう恋愛感情を抱かずに生きる事は出来まい。
けれどまだ。今はまだ。
俊哉は口に広がる温度のような温さに浸っていたかった。
初めて会ったのは妹の尻拭い、もとい妹の回収をした時だった。
無気力を前面に押し出したような光の無い眼。
妙に枯れたような印象の雰囲気。
どう見ても少年なのに、何故か達観した老人のような佇まい。
少なくとも自分の周りにいる活力に溢れる人物達と比較すると異質な存在が目の前にいた。
―――アンタ、誰?
少年の問いは佇まいと同じ、心底興味が無いという声音だった。
足元ではまだ妹がうんうん転がっている。
私が妹の首に手刀を当てると、妹はそれきり静かになった。
―――止めか?
只、した事への確認。
その程度の事しか興味が無いのか、と逆に驚いた。
他の異性はもっと外見を褒めちぎったり自分に興味を向けようと躍起になっていた。
それに自分で言うのも何だが体型にはかなり自身がある。
お陰で顔と胸への視線が半々くらいなのだ。
だが目の前の少年はじっと、こちらの眼と体全体の動きを追っている。
要するに今私は異性としてより不審者として警戒しかされていないのだ。
私は俄然興味が湧いてきた。
―――いや、気絶させただけ。この子は私の妹だよ。迷惑を掛けたようで済まなかったね。
妹の体を担ぎ侵入したであろうサッシから外へ出ようとする。
しまった……今気付いたが土足で入ってしまった。
妹ですら靴を脱いでいるのにこれでは、姉の威厳が……。
―――重ねて済まない。私も土足で入ってしまったね。このお詫びはまた後日、明るい内にでもさせて貰うよ。
名残惜しいがここは退こう。
土足で入っておきながら雑談など人間の感覚から言っても失礼だしね。
そう言って帰ろうとした矢先、あろう事か彼から話し掛けられた。
―――そんなに気にする事じゃない。失敗は、誰にでもある。
驚いて後ろを振り返ると、少年は変わらずそこに居た。
相変わらずの無気力な眼でこちらを眺めていた。
だからだろうか。
路傍の石のように私を見る彼になら、両親に心配をさせまいと、友人の和を崩さないようにと。
斯く在るべしと作ってきた自分の鋳型を外した本音を話せるのではないかと思ったのは。
―――取り返しのつかない失敗だってあるだろう?そしてそれは何がそうなのか、当事者でないと分からない。
―――だから私は君に詫びた訳だが、君にとって失敗とは何だって許せる範疇の事なのかな?
本来ある家庭を壊したかもしれない責任。
それは私の生まれて初めての取り返しのつかない『失敗』だった。
確認する術がない以上空論かもしれないが、状況証拠が揃い過ぎているのだ。
そう、考える以外無いくらいに。
少年に分かる訳はない。
彼は当事者ではないのだから当然だが、何故か、この少年は私に答えをくれそうな気がした。
―――許せる。
その発言に、私の全身が衝撃を受けたような錯覚を覚えた。
―――そういう風に相手の事を考えて言える奴は同じ失敗をしない。しないように気をつけられる。
―――相手の事を考えて、言って、動ける以上俺は許せる。
―――それが当事者からの答えだが、納得したか?
きっと何を言っても許されないと思っていたのに、ずっと欲しかった言葉がここで聞けた。
少年は当事者ではない。私の事情も、内心も知る由は無い。
だが、それでも。
―――そうか、君は優しいな。
その言葉は私に圧し掛かっていた罪と向き合う勇気を、少しだけ与えてくれた。
―――また、会いに来るよ。妹も一緒にね。
そう言い残し、去る。
夜のヴァンパイア程ではないが私だって魔物娘だ。
体重の軽い妹一人担いで全力疾走なんて訳もない。
頬を濡らす夜露を感じながら、私はまた彼に会える日を楽しみにしていた。
14/01/01 17:37更新 / 十目一八
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