連載小説
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幕間:ネオオウミシティーに影は哭く


「で、申し開きは?」
 
 姉妹の激しい攻防戦が始まって数時間後。
 俊哉が終わらない姉妹の舌戦に付き合っていたところ、夕飯の材料を買い終えた俊哉の母、近江 春海(おうみ はるみ)が帰宅し現在夕食の支度をしていた。
 それに加えて彼の父である近江 利秋(おうみ としあき)が真崎夫妻を連れて帰宅してきた。
 既に利秋と悠亜と有麗夜の父である真崎 久(まさき ひさし)は出来上がっており、久の妻である真崎 エリスティアが車を運転して連れてきた、というのが正確な説明ではあるが。
 現在奥方であるエリスティアさんは男同士積もる話もあるだろうから、とヴァンパイアという種族から想像し辛い発言を残し春海の支度を手伝っていた。

 そして今。
 冗談のようなニンジャ装束を纏って正座させられている中年達―――片方は青年のような外見年齢だが―――を前に俊哉は仁王立ちしていた。

 「いえ……」

 「ありません……」

 見ると、紅白色違いのお揃い装束の他に共通点がある。
 頭頂部の大きなたんこぶ。
 無論、作ったのは俊哉である。

 「酒が入るのは構わない、大人ですから。そういうものでしょう」

 滔々と語る俊哉の前に小さくなる大人二人。
 今俊哉の後ろの背景を現すなら、立っている姿通り仁王が睨みつけている状態である。

 「ですが、『酒は飲んでも呑まれるな』という言葉もあります。お二人は何をしましたか?」

 口調こそ丁寧なものの明らかに怒っている声。
 普段の物憂げな視線と興味のない口調だが、それが余計に圧力となっている。

 「えー……、酒を沢山飲みました……」

 「酔って暴れました……」

 「ほう」

 見ると周囲には何やら色とりどりの紙吹雪やらクラッカーやらが散乱している上、壁にぶつかったミカンの欠片やら煎餅やらの破片が散らかっていた。
 
 「それだけ、ですか?」

 異様な迫力に押され無くなってしまうのではないかという位小さくなる大人二人。
 俊哉が視界を動かすと、ソファの上に寝かされている悠亜と有麗夜が居た。
 彼女達は揃って顔を真っ赤にしながら寝息を立てている。

 「未成年への問題解決方法に飲酒を勧めるのはどうかと思うのですがねぇ……?」

 ギリッ、と奥歯を鳴らしながら頭脳は子供共を叱る俊哉。
 
 「あまつさえ、何が『忍法・滝流し』ですか?瓶ごとラッパ飲みさせる親が何処に居ますか?何考えてやがるんですかアンタ等?」

 「いや、俊哉。あの時収拾をつけるにはああするしか―――」

 「黙らっしゃい駄目親。どうせ酔い潰してなぁなぁで片付けるつもりだったんでしょう?明日の俺の苦労も知らないでね」

 実父の発言を鋭利な刃物のように切り捨てる俊哉。
 白ニンジャは、無感動と思われていた表情に青筋が立っているのを確認するとそのまま黙るしかなくなった。

 「あと」

 声に篭められた圧力に赤ニンジャがビクッと跳ねる。
 辛うじて個人を識別できる目元に、心なしか冷や汗が流れていた。

 「『忍法・乳もぎ』って何でしょうかねぇ、久さん?まさか実の娘に向かって使うつもりじゃなかったでしょうねぇ……?」

 「ア、アバババババ……」

 声にならないのか、圧力に圧されて震える中年。
 このまま放っておいたら爆発四散しそうな勢いだが、流石に見兼ねたのか救いの手が差し伸べられた。

 「その辺にしておいたら、俊哉。料理冷めちゃうわよ?」

 「私からもお願いするわ俊哉君。それ以上その人を苛めないであげて?」

 年越し前の夕飯として鍋と材料を持ってきた春海とエリスティア。
 浮かべられた慈愛に満ちた笑顔も相まって、今二人のニンジャには神にも等しい救いに見えた。

 「ほら、あの子達を起こしてあげなさい。今年はお父さんがお年玉奮発してくれるって言ってるし」

 「アイエエエエエエッ!?」

 「久さんって、大きい胸が好きだったのね……でも、おかしいわぁ。私の胸が大きくならないのは何でかしら?私のお尻が好きだって言ってくれたのに、何で娘に手を出そうとするのかしらね……?」

 「ナンデ!?ナンデ吸血!?」

 優しさとは、決して甘やかす事とは異なるものなり。
 夫婦の絆を確かめた俊哉はその優しさに倣い人生の先達に対し呼び掛けた。

 「カイシャクしてやる。ハイクを詠め」

 「「年の瀬にお酒に呑まれインガオホー」」

 息をぴったりに涙を流して頭を垂れる紅白ニンジャ達。
 オメデタイ連中の処理を任せ、俊哉は二人を起こそうとペチペチと軽く頬を叩くが脱力した彼女達は呻くだけで一向に目を覚まそうとはしなかった。

 「……起きないんですが母さん?」

 「キスでもしたらどう?ビックリして起きるかもしれないわよ?」

 「出来るか!?親御さん居るんだぞ!?」

 良識のある親であるならばそんな事は許すまい。
 事実、彼女等の両親もその一言で三人目を作らんとする共同作業を中止していた。

 「別に構わないよ?我々もそんな感じの事を今からするところだったしね」

 「娘達も貴方の事慕ってるみたいだし、私達の事は気にしないで頂戴♪」

 あくまで―――良識のある『人間の』親であるならば、だが。
 
 「ふふふ……息子よ。何を怖がっている?ぶちゅっとやれぶちゅっと」

 「父さんは自分の家で何されそうになっているのか、しっかりと把握して下さい」

 既に母親の手中にある財布を必死に取り戻そうとしながら、決して届かないよう顔を押さえつけられた情けない格好で白ニンジャ―――もとい父・利秋が俊哉に発破を掛ける。
 俊哉としてはその発言に乗る意味は全くなかった。
 踵を返して自室へ戻ろうとする。
 
 「あら、俊哉。何処へ行くの?」

 「自室へ戻ります。頭が痛くなってきた……」

 「あら、じゃあ客間に布団を敷いてあげて。二人をここで寝かせたままには出来ないでしょう?」

 利秋の攻め手を完全に制しながら笑顔で指示を出す春海。
 尚も諦めない利秋に、更に春海は言い放った。

 「貴方も遊んでないで手伝って上げて下さい?客間を二つ、一部屋は布団一つに枕二つで結構ですから」

 「いや春海、流石にお年玉奮発すると僕の今月の小遣いがレッドゾーンに……」

 「手伝ったらお年玉の話、毎年通りに戻してあげますから」

 その一言に利秋の瞳に希望の光が灯った。
 即座に俊哉の隣に並ぶと、肩に腕を回して同行させようとする。

 「さぁ、さっさと済ませるぞ息子よ。うら若き乙女を放っておいては我々ニンジャの廃れだ」

 「さらりと一緒にしないで下さい。まぁ……運ぶまで手伝ってくれるのは助かりますが」

 白ニンジャはやる気に満ちた背中を見せ、意気揚々と客間へ進んでいった。
 
 ―――夕食を食べる気にはならないな。

 全て終わったら自室で横になろうと固く誓い、俊哉は年の瀬最後の慎ましい仕事をこなす事にした。


14/01/01 17:38更新 / 十目一八
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■作者メッセージ
元ネタの小説は少し見た後そっと閉じました。十目です。
今回ははっちゃける父親達が書きたかったのですが、今の自分の技量では難しいようです。
また、SSとして見ても大分短いので言ってしまえば“箸休め”といったところでしょうか。

年末用に書き溜めていた分は次回で終了。
三賀日内に年始ネタまで書ければなぁと考えています。
次回も宜しくお願い致します。

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