2.弄られカリスマ
三人は馬車をほかの隊員に任せ、町の中央にある城に向かった。
なんでも、総司令官はその城にいるらしい。こんなに立派なところなのか、とロアが感心していると、
「あんまり期待しないほうがいい。」と、オリビアに言われてしまった。
その時はなぜなのかわからなかったが、実際に城に入ったとこでようやく意味が理解できた。
ボロい。外見と反比例するかのようにボロかった。
手入れがされていないという感じではなく、壊れたところを何度も何度も直しているようなボロさ。
「あー…その…期待しないほうがいいていうのは…」
「うん、私たちはもう慣れたけど、外見が立派だからねぇ…。最初に来る人はちょっとがっかりするみたいなのよね」
「町の設備とか研究費用に金がかかるから、あんまり余裕がないんだ。徹底的に節約してるからなぁ…」
「あ、そうはいっても接客用の部屋なんかはきれいなのよ?割と」
城について話しながら、、三人は司令室に向かう。
燭台の数もかなり少なく、日が昇っている今は明るいが、夜には相当暗くなるだろう。
「ここが指令室。ちょっと待ってね……もしもーし、バフォ様ー!アネットでーす」
ドアをノックしながらアネットが室内に呼びかけるが、返事がない。
「バフォ様―?報告に来ましたよー!」
「……返事がないな」
何度か呼びかけるが、一向に返事は帰ってこない。
「あー、もう……。いいやめんどくさい。」
アネットは返事を待たずに扉を開けて中に入った。
オリビアとロアもそれに続き、部屋の中に入る。
「zzz…zzz…ムニャムニャ」
部屋の中にいたのは、涎を垂らしながら気持ちよさそうに眠るバフォメットだった。
机の上には書類が散乱しており、バフォメットのよだれでインクがにじんでいた。
ロアは絶句し、オリビアは頭を抱える。
「指令……!」
「相変わらず駄目ね、この人は…」
「……えっと…この方が、総司令官の……」
「ああ、」
「気持ちよさそうに寝てるわねー。起こしましょ(ちょっとムカつくし驚かしちゃえ)」
アネットはこっそりと近づき、耳元に口を寄せると、
「すぅー……おはようございまあああああす!!!」
「ぎゃあああああああああっ!?なんじゃ!?何事じゃ!?」
バフォメットは驚いて飛び起きると、あたりをきょろきょろと見回す。
少し涙目だ。
「おはようございます、司令官!お仕事が随分と忙しそうですねっ!」
「お?おお?なんじゃ?誰じゃ?」
「アネット・エルフィンストーン、および全部隊帰還しました!」
「おお?ああ……アネットか?びっくりしたぞ、全く……」
「ええ!私もびっくりですよ!呼び出されたから何かと思ったら、まさか呼び出した本人が気持ちよさそうに寝てるんですもの―!」
「うっ……」
アネットが笑顔のまま毒を吐き、その迫力にバフォメットが縮こまる。どっちが上司だかわかったものではない。
「それで、ついつい眠ってしまうくらい忙しい司令官サマ?」
「はい……」
「この子……ロアまで呼び出していったいどうしたんですか?」
「いえ……その、すいません。ちょっと、気になることがあっての……」
上司と部下というよりも、まるで親に怒られた子供のように萎縮しきっている。
もじもじとした姿からは総司令官の威厳は全く感じられない。
「その、そちらの、ロア君?……おぉ、思ったより幼い感じじゃの」
「ロアになんですか?」
「はい、すいません。オリビアの救出時の魔法らしき力に少々心当たりがありますのじゃ」
「それで?」
「いえその、そのお知らせをしようと思ったんですが、その大変失礼しましたごめんなさい……」
「仕方がないから許してあげます」
ロアはオリビアの袖をクイクイと引っ張ってたずねた。
「(あの人、本当にここの総司令官なんですか?)」
「(ああ、本当は凄いんだ。本当だ)」
「(じゃあ、その人をあんなふうにしかってるアネットさんって)」
「(あいつが化け物なだけだ……)」
気が付けば、バフォメットが正座、その正面にアネットが仁王立ちという面白い構図が出来上がっていた。
「……ベラ様、そろそろ……ロアに自己紹介をしてほしいのですが」
ほおっておくと、またしばらく説教が続きそうなので、オリビアは強引に話をすり替えることにした。
「おお、そういえば、挨拶もまだじゃったの。わしはここの司令官をしとる、ベラヘルミナ・マイヤ・ブラックバーンと言う。よろしくの」
「はい、ベラヘルミナ様!よろしくお願いします!」
「あー、そんなに堅くならんでもよい。ベラと呼んでくれてかまわんよ。」
「はい、ベラ様!」
「あっれェ……?なあなあアネット。なんでこの子こんなに堅いんじゃ?」
ロアの口調がかっちりとした敬語なままなのを聞き、ベラは首をかしげる。
といっても、ロアも好きで堅い口調なわけではない。
砦で教わった言葉がたまたま敬語であったため、ほかの言葉でうまく話せないだけなのだ。
「おかしいですよね。威厳もクソもあったもんじゃないのに」
「……オリビアぁ……アネットが酷いんじゃ……」
「では、後日またロアを連れてきます」
「無視するなよぅ……」
「あの……また来ます!」
涙目のベラを放置し、三人は司令室を出ていった。
パタン、と扉が閉まるのを見て、ベラは泣いた。
「……まあ、あんな人だが……普段はもうちょっと真面目だし、仕事はかなりできるんだ」
「実はそうなのよね。」
部屋から出たとたんに、二人がベラのフォローを始めたので、ロアは驚いて目を丸くする。
「なんていうの?内面を知れば知るほど良さがわかる……ビーフジャーキーみたいな人って言ったらいいのかしら?」
「その例えはどうなんだ?」
本人の前ではあんな様子だったが、二人とも――いや、この基地にいるほとんどの者が、内心では彼女のことを尊敬している。
そう、「内心では」。
「それにしても、やりすぎじゃなかったか?」
「からかうと面白いからついついいじめちゃうのよねぇ」
実力は認めてられているし、実際尊敬もされているが、ついついからかったりいじったりして遊ばれてしまう。
それが彼女だった。
「とりあえず、すごい人なんですね」
「そうよー。一度良さを知ったらもう戻れないわね」
「……まあ、いじられるのは愛されてる証拠だろうな」
指令室への用事も済んだので、三人は指令室を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「むぅぅ……おかしいのぅ。いつからわしはこんなキャラになったんじゃ?」
一人部屋に残されたベラがぶつぶつと愚痴る。
「それにしても……ロア、あの子はちょっと堅苦しすぎるの。もうちょっと年も上で男らしい奴じゃと思っとった。」
書類に目をやり、ため息をつく。
「さて、あと残ってるのは……」
バサリ、と書類を広げ、サインとチェックを行う。
「これと、これと、これも……」
書類に記されたのは「魔道具開発局」の文字。
「うむ……あと3日もあれば、完成するかの……」
なんでも、総司令官はその城にいるらしい。こんなに立派なところなのか、とロアが感心していると、
「あんまり期待しないほうがいい。」と、オリビアに言われてしまった。
その時はなぜなのかわからなかったが、実際に城に入ったとこでようやく意味が理解できた。
ボロい。外見と反比例するかのようにボロかった。
手入れがされていないという感じではなく、壊れたところを何度も何度も直しているようなボロさ。
「あー…その…期待しないほうがいいていうのは…」
「うん、私たちはもう慣れたけど、外見が立派だからねぇ…。最初に来る人はちょっとがっかりするみたいなのよね」
「町の設備とか研究費用に金がかかるから、あんまり余裕がないんだ。徹底的に節約してるからなぁ…」
「あ、そうはいっても接客用の部屋なんかはきれいなのよ?割と」
城について話しながら、、三人は司令室に向かう。
燭台の数もかなり少なく、日が昇っている今は明るいが、夜には相当暗くなるだろう。
「ここが指令室。ちょっと待ってね……もしもーし、バフォ様ー!アネットでーす」
ドアをノックしながらアネットが室内に呼びかけるが、返事がない。
「バフォ様―?報告に来ましたよー!」
「……返事がないな」
何度か呼びかけるが、一向に返事は帰ってこない。
「あー、もう……。いいやめんどくさい。」
アネットは返事を待たずに扉を開けて中に入った。
オリビアとロアもそれに続き、部屋の中に入る。
「zzz…zzz…ムニャムニャ」
部屋の中にいたのは、涎を垂らしながら気持ちよさそうに眠るバフォメットだった。
机の上には書類が散乱しており、バフォメットのよだれでインクがにじんでいた。
ロアは絶句し、オリビアは頭を抱える。
「指令……!」
「相変わらず駄目ね、この人は…」
「……えっと…この方が、総司令官の……」
「ああ、」
「気持ちよさそうに寝てるわねー。起こしましょ(ちょっとムカつくし驚かしちゃえ)」
アネットはこっそりと近づき、耳元に口を寄せると、
「すぅー……おはようございまあああああす!!!」
「ぎゃあああああああああっ!?なんじゃ!?何事じゃ!?」
バフォメットは驚いて飛び起きると、あたりをきょろきょろと見回す。
少し涙目だ。
「おはようございます、司令官!お仕事が随分と忙しそうですねっ!」
「お?おお?なんじゃ?誰じゃ?」
「アネット・エルフィンストーン、および全部隊帰還しました!」
「おお?ああ……アネットか?びっくりしたぞ、全く……」
「ええ!私もびっくりですよ!呼び出されたから何かと思ったら、まさか呼び出した本人が気持ちよさそうに寝てるんですもの―!」
「うっ……」
アネットが笑顔のまま毒を吐き、その迫力にバフォメットが縮こまる。どっちが上司だかわかったものではない。
「それで、ついつい眠ってしまうくらい忙しい司令官サマ?」
「はい……」
「この子……ロアまで呼び出していったいどうしたんですか?」
「いえ……その、すいません。ちょっと、気になることがあっての……」
上司と部下というよりも、まるで親に怒られた子供のように萎縮しきっている。
もじもじとした姿からは総司令官の威厳は全く感じられない。
「その、そちらの、ロア君?……おぉ、思ったより幼い感じじゃの」
「ロアになんですか?」
「はい、すいません。オリビアの救出時の魔法らしき力に少々心当たりがありますのじゃ」
「それで?」
「いえその、そのお知らせをしようと思ったんですが、その大変失礼しましたごめんなさい……」
「仕方がないから許してあげます」
ロアはオリビアの袖をクイクイと引っ張ってたずねた。
「(あの人、本当にここの総司令官なんですか?)」
「(ああ、本当は凄いんだ。本当だ)」
「(じゃあ、その人をあんなふうにしかってるアネットさんって)」
「(あいつが化け物なだけだ……)」
気が付けば、バフォメットが正座、その正面にアネットが仁王立ちという面白い構図が出来上がっていた。
「……ベラ様、そろそろ……ロアに自己紹介をしてほしいのですが」
ほおっておくと、またしばらく説教が続きそうなので、オリビアは強引に話をすり替えることにした。
「おお、そういえば、挨拶もまだじゃったの。わしはここの司令官をしとる、ベラヘルミナ・マイヤ・ブラックバーンと言う。よろしくの」
「はい、ベラヘルミナ様!よろしくお願いします!」
「あー、そんなに堅くならんでもよい。ベラと呼んでくれてかまわんよ。」
「はい、ベラ様!」
「あっれェ……?なあなあアネット。なんでこの子こんなに堅いんじゃ?」
ロアの口調がかっちりとした敬語なままなのを聞き、ベラは首をかしげる。
といっても、ロアも好きで堅い口調なわけではない。
砦で教わった言葉がたまたま敬語であったため、ほかの言葉でうまく話せないだけなのだ。
「おかしいですよね。威厳もクソもあったもんじゃないのに」
「……オリビアぁ……アネットが酷いんじゃ……」
「では、後日またロアを連れてきます」
「無視するなよぅ……」
「あの……また来ます!」
涙目のベラを放置し、三人は司令室を出ていった。
パタン、と扉が閉まるのを見て、ベラは泣いた。
「……まあ、あんな人だが……普段はもうちょっと真面目だし、仕事はかなりできるんだ」
「実はそうなのよね。」
部屋から出たとたんに、二人がベラのフォローを始めたので、ロアは驚いて目を丸くする。
「なんていうの?内面を知れば知るほど良さがわかる……ビーフジャーキーみたいな人って言ったらいいのかしら?」
「その例えはどうなんだ?」
本人の前ではあんな様子だったが、二人とも――いや、この基地にいるほとんどの者が、内心では彼女のことを尊敬している。
そう、「内心では」。
「それにしても、やりすぎじゃなかったか?」
「からかうと面白いからついついいじめちゃうのよねぇ」
実力は認めてられているし、実際尊敬もされているが、ついついからかったりいじったりして遊ばれてしまう。
それが彼女だった。
「とりあえず、すごい人なんですね」
「そうよー。一度良さを知ったらもう戻れないわね」
「……まあ、いじられるのは愛されてる証拠だろうな」
指令室への用事も済んだので、三人は指令室を後にした。
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「むぅぅ……おかしいのぅ。いつからわしはこんなキャラになったんじゃ?」
一人部屋に残されたベラがぶつぶつと愚痴る。
「それにしても……ロア、あの子はちょっと堅苦しすぎるの。もうちょっと年も上で男らしい奴じゃと思っとった。」
書類に目をやり、ため息をつく。
「さて、あと残ってるのは……」
バサリ、と書類を広げ、サインとチェックを行う。
「これと、これと、これも……」
書類に記されたのは「魔道具開発局」の文字。
「うむ……あと3日もあれば、完成するかの……」
13/08/17 14:11更新 / ホフク
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