連載小説
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3.二刀

「さて、と……次だ。お前の暮らすところだが……」
「あら、もう決まっているわよ?」

適当な部屋を借りようか、などと考えていたオリビアは驚いた。
アネットは「当然でしょ?」と言わんばかりの表情だ。

「……いつの間に」
「あたしを誰だと思ってんの?」

グータラするのが大好きで、少しでもいいから楽をしたいというアヌビスらしからぬ性格のアネット。
彼女は楽をするために、面倒なことは片っ端から徹底的につぶしている。
それが結果的に「他者が考える前に行動を終わらせる」というトンデモ特技を生み出すようになった。
オリビアもその特技は知っているが、いまだに慣れない。

「……それで、ロアはどこに住むんだ?」
「あなたの部屋よ。オリビア」
「……えっ?」
「……何だとっ!?」
「わお、息ピッタリね」
 
ふたりが驚いているのをみて、アネットは楽しそうにケラケラと笑う。
楽をしたいのではなく、今回は二人をからかうつもりだったのかも知れない。

「いや、待て待て!砦でも私と一緒の部屋だっただろ!」
「あら、ロアと一緒じゃいやかしら?」
「そういう訳じゃないが……!」
「なら問題ないじゃない」
「そうじゃなくてだな!ロアのために部屋を用意してやったっていいんじゃないのか!?」
「ロア、オリビアと一緒は嫌かしら?」

オリビアを無視してアネットはロアに話を振る。

「え!?いえ、そんなことありませんよ!」
「ほら、全く問題ない」
「だから!……っ!……いや、もういい……。」
「わかってくれてうれしいわ。実はもう家具なんかも運んでもらっちゃったし」
「……す、凄いですね、アネットさん……」
「フフフ、もっと褒めなさい、おだてなさい、奉りなさい!さあ、オリビアの部屋に行くわよ!」
「(もう、何も言うまい……)」

一人はドヤ顔、一人は何かを諦めた表情で、そしてもう一人は若干引いた様子で道を歩んでいった。

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「ここが、今日からあなたの部屋よ。」

アネットに部屋に連れてこられたものの、オリビアが非常に不機嫌そうなので、ロアは不安そうにしている。

「……あの、オリビアさん、そんなに嫌なら、他の場所に……」
「大丈夫だ。お前がここに住むのは全く嫌じゃない。砦と同じだからな」
「で、でも……」
「私の機嫌が悪い原因はアネットだ。お前に非は全くない。大丈夫だ」
「な、なら良かったです……いえ、別に良くはないですね。……すいません、ちょっとトイレに行ってきます」

場の空気に耐えられなかったのか、ロアはトイレに向かった。
ロアがいなくなったのを見計らって、オリビアはアネットに詰め寄る。

「おい、なんだこれは」
「見ての通り、あなたの部屋よ」
「それは知ってる!何だってこんなに物が増えているんだ!」
「だって殺風景だったんだもん。監獄じゃあるまいし。ベッドと机以外に何が置いてあったか覚えてる?」

あたりまえだ、と言い返そうとしたが、オリビアは他に何が置いてあったのか全く思い出せずに言葉に詰まる。

「……」
「ほらみなさい。……これくらいはあった方がいいわ。もうちょっと楽しく過ごせる部屋にしなきゃ。ロアのためにも、あなたのためにも」
「だからといってこれは……」

なんということでしょう。ベッドと机の他にはほとんど何も置かれていなかった部屋には、本棚、タンス、ソファーなどの普通の家具が置かれたうえに、花瓶に花が飾られている。
……いたって普通だった。

「タンスもないなんて驚いたわ。あなた服はどうしていたのよ?」
「必要最低限のものがあるだけだったから、これと言って……」
「……あなた、伝記とか読むの好きだった気がしたけど、その類は?」
「図書館で読んでいたから、自分で買ったことはないな」
「ところで、ベッドはまだなんだけどどうする?ダブルにする?」
「バカを言うな!シングルをもう一つ増やすに決まっているだろ!」
「あら、前にロアと一緒に寝ていた人が何を言って」
「うわあああうるさい黙れ!忘れろ!あれは事故なんだ!」
「あなたには珍しく幸せそーに寝てたわよ。ロアを抱きしめて」
「やめてくれ!頼むから!私が悪かった!」

オリビアは顔を真っ赤にして懇願する。

「ふふん、わかればいいのよ。これを機にもうちょっとまともな生活をしなさい。任務をしっかりやるのは良い事だし、訓練も確かに必要だわ。だけどね、そればっかりじゃ体を壊すわよ。メリハリよメリハリ」
「むぅ……」
「ロアが来るまで、あなた表情は硬いし、愛想も悪かったし……。あなたが”目指す人”はそんなだったかしら?」
「……」
「砦に行ってる間の”縛り”ももう終わりでしょ?もうちょっと生活を楽しみなさいな」
「……そう、だな」

オリビアの表情が少し暗くなったのを見て、アネットは少し言い過ぎたかな、と少し後悔する。
ガチャ、と扉の開く音を聞き、二人が振り返ると、ロアが目をキラキラさせて立っていた。

「凄いですね!ここのトイレ、水洗式ですよ!前に、本で見たんですけど、本当に水で流れるんですね!」
「あ〜……そういえば、砦は汲み取り式だったわね。」
「はい!臭いもあんまりしないし、すごくきれいです!」

二人からすれば別に何でもないことだったが、この少年の目には何もかもが新鮮に映っているようだった。

「ほら、少しはこの子を見習いなさい。毎日すごく楽しそうでしょ?」
「そうだな……うん、よし!ロア!訓練に行くぞ!」
「え?今からですか!?」
「そうだ!砦で見せた大剣を使う戦い方は、私の本当の戦い方じゃないんでな!”本物”を見せてやる!」
「ちょっと、オリビア!あたしの言ったこと聞いてたの!?」
「聞いていたさ!生活を楽しめというなら、今はとにかく体を動かしたい!ロア、付き合ってもらうぞ!」
「わ、わかりました!わかりましたから引きずらないで下さい!」

ロアはオリビアにズルズルと引きずられていった。
二人が見えなくなると、アネットはふぅ、とため息をつく。

「全く……誰に似たのやら、不器用な娘よね」

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「よし、準備はできたか?」
「で、できましたけど……オリビアさん、その装備は……」

オリビアの装備は、砦の時とは打って変わり、非常に軽装だ。防御よりも機動性を重視した鎧を身に着けているほか、武器も大剣ではなく片手剣と短剣の二振りの剣だ。(もちろん両方とも訓練用の木剣である)

「言っただろう。大剣は私の本来の武器じゃない。……今まで教えた全部を使ってかかってこい。」

片手剣を順手に、短剣を逆手に持ち、姿勢を低く構える。
相手を倒すための構えとは打って変わって、今まで見たことがないくらいに活き活きとした表情でオリビアは言う。

「わかりました……。行きますッ!」

ロアもオリビアから教わった通りの構えをとる。両手で剣を頭の上に振りかぶると、一気に突っ込む。
しかし、オリビアはピクリとも動かない。

「っ!」

思わずロアは剣を止める。剣はオリビアに届くずっと前で止められていた。

「……どうした?なんで止める」
「いや、だって……このまま振り下ろしたら……」
「ああ……心配するな。降り下ろせ。そうじゃないと私の「技術」を見せられない」
「でも」
「いいから。それとも私が信用できないか?」

早く技を見せたい、だから早く来い、とでも言わんばかりにまくし立てる。

「いえ……。わかりました……では、もう一度行きますッ!」

ロアはその場から小さくバックステップを踏むと、もう一度、大きく振りかぶり、オリビアに向かって一気に振り下ろした!

「はあっ!」

頭上に振り下ろされた剣に対し、オリビアは左手に持った短剣を沿わせ―――

「っ!?」

次の瞬間には、ロアの喉に片手剣が突きつけられていた。

「ふふ……」
「(す、すごい……全く見えなかった!)」
「ふふふ!これだ……!この感覚だ!」

嬉しそうに笑うオリビアは、まるで子供のように無垢だった。
ロアも驚いたものの、オリビアの”技術”がいったい何なのかが気になっていた。

「あの!今のどうやったんですか?全く分からなかったんですけど」
「ん、そうか。じゃあ、もう一回。今度はゆっくりと振り下ろしてみてくれ」
「はい!」

すぅ、とロアが剣を振り上げ、今度はゆっくりと振り下ろす。

「お前の剣に対し、この短剣を……剣の通り道に置くんだ」

コツ、と小さな音を立てて剣同士がぶつかる。

「そのまま、ほんの少し……ほんの少しだけ力を込めて、お前の剣の軌道をずらす。そうすると、短剣に沿って少しだけ向きが変わる。少ししか変わらないから、お前はそのまま振り下ろしたような感覚になるが、私には当たらない。振り下ろした時にできた隙をついて―――」

そのまま体制を崩したロアの首に、片手剣の切っ先を持っていき、ぴたりと止める。

「相手に攻撃を仕掛ける。―――これが私の戦い方だ。正面からぶつかって戦うのは得意じゃないから……相手の技を”いなして”隙を作り、そこを攻撃するんだ」

へー、とロアは感心した様子だったが、ふと何かに気が付いた様子で尋ねる。

「正面からぶつかるのが得意じゃないって……」
「そうだ。私は……他のリザードマンよりも力が弱いらしい。だから力を使わずに……こうやって戦うように教わった。柔術とかに近い技術らしい」
「じゅうじゅつ?」
「ジパングの体術だ」
「じぱんぐ?」
「……そのあたりは、また今度教えてやる」

その後、1時間ほど訓練を行った後、二人は部屋に戻ることにした。

13/09/29 14:48更新 / ホフク
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■作者メッセージ
寒くなってまいりましたね。ホフクでございます。
1か月に1話投稿をキープしたいこの頃であります。
さて、前作の複線みたいなものをちょこちょこ拾い始めましたよー
……なんですが、ひょっとするととんでもない矛盾とかをやっちゃってるかもしれません……
ここおかしいよ!みたいな指摘、誤字脱字のご報告、感想などいただけると非常にありがたいです。


アネットの特技がどこぞのエピタフとかいってはいけない。

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