18.生還
「ぁ……」
なぜか絶句したセラに気づかず、二人はエルフの少女に話しかける。
「おー、可愛い女の子だ。」
「君がここに捕まっていた捕虜?」
少女は小さく頷く。
「それじゃ、馬車に乗って。セラ、案内……」
ふとセラの方を向くと、なぜか鼻血をたらしている。
「セ、セラ?」
「(やだ何この子凄く可愛いちょっとサイズが大きい服とか怯えた表情とかなにもうかわいい抱きしめて頬ずりしたい)」
「おい、セラ?」
フィルが話しかけるが、セラは少女を凝視したまま動かない。
「……」
「フィル、どいて。」
マールはセラに近づくと、頭が落ちない程度に拳骨を食らわせた。
「きゃん!?……あ、あれ?私は何を……」
マールはセラにヒソヒソと話しかけた。
「……セラ、またいつもの癖が出ていた。」
「え!?や、やだ……!私ったら……」
「ふぅ……フィル、その子を馬車に乗せよう。」
「あ、ああ……。」
フィルが少女の手を引いて、馬車へと連れて行く。
「(あぁ、私が手をつなぎたかったのに……!)」
「……」
「きゃん!」
考えを読まれたのか、無言で殴られた。
馬車に乗り込むと、マールが落ち着いた声で少女に話しかけ始めた。
「君、名前は?」
「……イライザ、です。」
「(イライザたん……)」
「……セラ。」
「はっ!?……い、いい名前だね!」
「……さて、君はちょっと怪我もしてるし、一度私達の砦に……」
「怪我!?怪我してるの!?大丈「うるせぇぞセラ!」いいい痛い痛い痛い!グリグリしないでください!」
「……一度、私達の砦に来てもらうよ。そこで手当を受けて、後の事はその後考えようか。」
「……はい。」
砦に戻るまでの間、隊員達が声をかけてもオリビアはロアの傍を離れようとしなかった。
輸血用の血液も器具も無い状態では何も出来ず、目を覚まさないロアの手をしっかりと握りしめ、一刻も早く砦に着く事を祈っていた。
ロアは青白い顔のまま、ぐったりとして動かなかった。
砦に着いた頃には、既に空が赤く染まっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『大丈夫?』
………誰、ですか。
『んー……ちょっと言えないかな?』
………言えない?
『ひょっとしたら、そのうち思い出すかもね……』
…思い出すって……?
『ま、今はどうだっていい事かな?』
……そう、ですか。
『……聞き返さないんだね。』
……なんか、もう、眠くて……
『そう……でも、ダメだよ。今君に眠られたら困るんだ。』
『……君を待っている人も居るしね。』
待っている、人……
『あ……いや、人じゃなかったね。』
……オリビアさん……
『そ。早く戻ってあげないと。』
……あなたは……
『……じゃあ、またね。』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……」
目を開けると、眩しさに目がくらんだ。
徐々に目が慣れると、そこは砦の医務室だとわかった。
「……!ロア……!?」
横に首を向けると、オリビアが驚いた表情で座っていた。
「……オリビア、さん?」
オリビアの表情は今にも泣きそうな顔になると、
「っ……このっ……馬鹿者がっ!」
「ゎうっ!」
ロアの頭をひっ叩いた。
「単独で敵の中に突っ込むなんて何考えてる!馬鹿者!」
「うぅ、痛い……」
「大体、訓練用の木剣で何をするつもりだった!?お前の腕じゃ真剣を使ったってまともに戦えるかわかったもんじゃないのに!!」
「ご、ごめんなさい……。でも、その」
「なんだ!」
「その、オリビアさんが、心配で……!」
「だから何だっ!」
とうとうオリビアの目から涙がこぼれ落ちた。
「私なんかにっ……お前の事を疑った私なんかの為に!お前が死んだら、どうするつもりだったんだっ……!」
ぼろぼろと涙を流しながらオリビアが怒鳴る。
「私なんかにっ……私なんかのために命をかけないでくれ……っ」
「オリビアさん……」
「私に……そんな資格なんて無いんだ……!」
「オリビアさんっ!」
ロアが体を起こし大声を上げる。
「あ……ちょっと、待ってください、目眩が」
「ば、馬鹿!まだ寝ていろ!急に起き上がったら……」
「ご…ごめんなさい……」
ロアは横になると、幾分か落ち着いた様子で言った。
「オリビアさん、そんな風に言わないでください……。疑われても仕方が無かった状況だった事くらいは理解しています。」
ロアはあくまでも淡々と語る。
「無断で教会に向かった事も……身勝手で、無謀な事でした。」
「……」
「でも……、オリビアさんを助ける事が出来たんです。……オリビアさんは、私の命を救ってくれました。私に知識と剣術を与えてくれました。」
オリビアをまっすぐに見つめて言う。
「貴女がいなければ、私は……今、ここには存在しませんでした。」
「……」
「私にとって、オリビアさんは……」
ガタンッ!!
「!?」
「誰だ!?」
背後で聞こえた物音に驚いて、二人が振り返ると、
「あっ、馬鹿!お前が押すからバレちまった!」
「何言ってる。私は知らないぞ。」
「うう!お、重いです!どいてくださいぃ!」
「もう、いい所だったのにぃ!」
そこに居たのは、第一部隊の隊員たちと、アネット。
「何をしてる、お前ら……」
「え?あはは、いやぁ!もうちょっとだったのに!惜しかったわ!」
「いや、その、これは、あの……」
「あ、隊長!こんちゃース!」
「どうも、隊長。」
オリビアが体をプルプルと震わせている。
「あぁぁもぉぉー!二人のイチャイチャ見たかったのになぁぁー!」
「な!何言ってんです!隊長は私と……!」
「こら、セラ。またお前は……」
「まーバレちまったんだからしょうがないじゃないっすか。それより隊長!飲みましょうや!」
オリビアを無視してぎゃあぎゃあと騒ぐ隊員達。
「……で」
「で?」
「出て行けぇぇ!!この馬鹿者どもおおおおおお!!!」
扉の外に全員を叩き出した。ガチャリ、と鍵を閉める。
『隊長!隊長ぉー!』
『あっ、鍵閉めたわね!この!』
閉め出されてもなお騒ぎ続ける隊員達。
「……まったく、あいつらはッ……!」
「……なんだか私、死にかけていたのが信じられないです」
「……まぁ、あいつらの様子を見たら、そう思ってもしょうがないか……」
「……でも、」
ロアはかすかに微笑みながらぽつりと言った。
「……帰ってこれた、って感じがします」
「帰って来れた……そうか……確かにそう」
「……おかえり、ロア」
「はい、ただいま戻りました。オリビアさん!」
―――ひとまず、この少年に関するレポートはこれで終わりとする。
保護したばかりと比べ、かなり成長したのが見て取れた。
この後彼をどうするのかは未定だが、私にとって彼は大切な存在だ。
……私は強くなった。何があっても、私は彼を守る。弟子であり、友人であり、弟のようでもある――そんな彼と、私はともにありたい。
そう思った。
なぜか絶句したセラに気づかず、二人はエルフの少女に話しかける。
「おー、可愛い女の子だ。」
「君がここに捕まっていた捕虜?」
少女は小さく頷く。
「それじゃ、馬車に乗って。セラ、案内……」
ふとセラの方を向くと、なぜか鼻血をたらしている。
「セ、セラ?」
「(やだ何この子凄く可愛いちょっとサイズが大きい服とか怯えた表情とかなにもうかわいい抱きしめて頬ずりしたい)」
「おい、セラ?」
フィルが話しかけるが、セラは少女を凝視したまま動かない。
「……」
「フィル、どいて。」
マールはセラに近づくと、頭が落ちない程度に拳骨を食らわせた。
「きゃん!?……あ、あれ?私は何を……」
マールはセラにヒソヒソと話しかけた。
「……セラ、またいつもの癖が出ていた。」
「え!?や、やだ……!私ったら……」
「ふぅ……フィル、その子を馬車に乗せよう。」
「あ、ああ……。」
フィルが少女の手を引いて、馬車へと連れて行く。
「(あぁ、私が手をつなぎたかったのに……!)」
「……」
「きゃん!」
考えを読まれたのか、無言で殴られた。
馬車に乗り込むと、マールが落ち着いた声で少女に話しかけ始めた。
「君、名前は?」
「……イライザ、です。」
「(イライザたん……)」
「……セラ。」
「はっ!?……い、いい名前だね!」
「……さて、君はちょっと怪我もしてるし、一度私達の砦に……」
「怪我!?怪我してるの!?大丈「うるせぇぞセラ!」いいい痛い痛い痛い!グリグリしないでください!」
「……一度、私達の砦に来てもらうよ。そこで手当を受けて、後の事はその後考えようか。」
「……はい。」
砦に戻るまでの間、隊員達が声をかけてもオリビアはロアの傍を離れようとしなかった。
輸血用の血液も器具も無い状態では何も出来ず、目を覚まさないロアの手をしっかりと握りしめ、一刻も早く砦に着く事を祈っていた。
ロアは青白い顔のまま、ぐったりとして動かなかった。
砦に着いた頃には、既に空が赤く染まっていた。
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『大丈夫?』
………誰、ですか。
『んー……ちょっと言えないかな?』
………言えない?
『ひょっとしたら、そのうち思い出すかもね……』
…思い出すって……?
『ま、今はどうだっていい事かな?』
……そう、ですか。
『……聞き返さないんだね。』
……なんか、もう、眠くて……
『そう……でも、ダメだよ。今君に眠られたら困るんだ。』
『……君を待っている人も居るしね。』
待っている、人……
『あ……いや、人じゃなかったね。』
……オリビアさん……
『そ。早く戻ってあげないと。』
……あなたは……
『……じゃあ、またね。』
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「……」
目を開けると、眩しさに目がくらんだ。
徐々に目が慣れると、そこは砦の医務室だとわかった。
「……!ロア……!?」
横に首を向けると、オリビアが驚いた表情で座っていた。
「……オリビア、さん?」
オリビアの表情は今にも泣きそうな顔になると、
「っ……このっ……馬鹿者がっ!」
「ゎうっ!」
ロアの頭をひっ叩いた。
「単独で敵の中に突っ込むなんて何考えてる!馬鹿者!」
「うぅ、痛い……」
「大体、訓練用の木剣で何をするつもりだった!?お前の腕じゃ真剣を使ったってまともに戦えるかわかったもんじゃないのに!!」
「ご、ごめんなさい……。でも、その」
「なんだ!」
「その、オリビアさんが、心配で……!」
「だから何だっ!」
とうとうオリビアの目から涙がこぼれ落ちた。
「私なんかにっ……お前の事を疑った私なんかの為に!お前が死んだら、どうするつもりだったんだっ……!」
ぼろぼろと涙を流しながらオリビアが怒鳴る。
「私なんかにっ……私なんかのために命をかけないでくれ……っ」
「オリビアさん……」
「私に……そんな資格なんて無いんだ……!」
「オリビアさんっ!」
ロアが体を起こし大声を上げる。
「あ……ちょっと、待ってください、目眩が」
「ば、馬鹿!まだ寝ていろ!急に起き上がったら……」
「ご…ごめんなさい……」
ロアは横になると、幾分か落ち着いた様子で言った。
「オリビアさん、そんな風に言わないでください……。疑われても仕方が無かった状況だった事くらいは理解しています。」
ロアはあくまでも淡々と語る。
「無断で教会に向かった事も……身勝手で、無謀な事でした。」
「……」
「でも……、オリビアさんを助ける事が出来たんです。……オリビアさんは、私の命を救ってくれました。私に知識と剣術を与えてくれました。」
オリビアをまっすぐに見つめて言う。
「貴女がいなければ、私は……今、ここには存在しませんでした。」
「……」
「私にとって、オリビアさんは……」
ガタンッ!!
「!?」
「誰だ!?」
背後で聞こえた物音に驚いて、二人が振り返ると、
「あっ、馬鹿!お前が押すからバレちまった!」
「何言ってる。私は知らないぞ。」
「うう!お、重いです!どいてくださいぃ!」
「もう、いい所だったのにぃ!」
そこに居たのは、第一部隊の隊員たちと、アネット。
「何をしてる、お前ら……」
「え?あはは、いやぁ!もうちょっとだったのに!惜しかったわ!」
「いや、その、これは、あの……」
「あ、隊長!こんちゃース!」
「どうも、隊長。」
オリビアが体をプルプルと震わせている。
「あぁぁもぉぉー!二人のイチャイチャ見たかったのになぁぁー!」
「な!何言ってんです!隊長は私と……!」
「こら、セラ。またお前は……」
「まーバレちまったんだからしょうがないじゃないっすか。それより隊長!飲みましょうや!」
オリビアを無視してぎゃあぎゃあと騒ぐ隊員達。
「……で」
「で?」
「出て行けぇぇ!!この馬鹿者どもおおおおおお!!!」
扉の外に全員を叩き出した。ガチャリ、と鍵を閉める。
『隊長!隊長ぉー!』
『あっ、鍵閉めたわね!この!』
閉め出されてもなお騒ぎ続ける隊員達。
「……まったく、あいつらはッ……!」
「……なんだか私、死にかけていたのが信じられないです」
「……まぁ、あいつらの様子を見たら、そう思ってもしょうがないか……」
「……でも、」
ロアはかすかに微笑みながらぽつりと言った。
「……帰ってこれた、って感じがします」
「帰って来れた……そうか……確かにそう」
「……おかえり、ロア」
「はい、ただいま戻りました。オリビアさん!」
―――ひとまず、この少年に関するレポートはこれで終わりとする。
保護したばかりと比べ、かなり成長したのが見て取れた。
この後彼をどうするのかは未定だが、私にとって彼は大切な存在だ。
……私は強くなった。何があっても、私は彼を守る。弟子であり、友人であり、弟のようでもある――そんな彼と、私はともにありたい。
そう思った。
13/06/02 17:24更新 / ホフク
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