15.覚醒
男達に向かって放った蹴りは、あっさりと躱されてしまった。腐っても兵士か。
「ちっ…!」
「ギャハハハ!腕を封じられた状態で、何が出来る!」
「麻痺も残ってんだろ!抵抗しないでおとなしく殴られた方が良いんじゃねぇか?」
「黙れぇっ!」
「おーおー!頑張るねぇ!おらっ!」
「ぐっ……!」
くそっ……!
情けない……ッ!こんな奴らにても足も出す事が出来ない事もあるが、それ以上に―――。
「(あいつを、ロアを疑ってしまった事が何よりも情けない!)」
せめて、コイツらの気を引いてこれ以上ロアがやられないように……!
「おい、あのガキ……立ちやがったぞ?」
「なっ……!?」
もう立つな、と叫ぼうとしてロアの方を見ると、
―――何か様子がおかしい。
木剣も持たずに立っているのだが、全身から何か……、煙のようなものが上がってる。
「なんだ、あいつ?なんか変じゃねぇか?」
「ぅ……ぅ……」
「チッ、しつけぇな……」
一人の男がロアに近づき、拳を振り下ろした。
「これで、寝てろ!」
ガン!
固い音がして、ロアの顔面に男の拳が直撃した。
「へっへっへ……っ!?」
殴られたにもかかわらず、ロアはびくともせずに男の拳をつかんだ。
その時だった。
ボンッ!と言う爆発音とともに、拳をつかんだロアの腕が突然発火した。
「なっ!?」
腕がごうごうと音を立てて燃え上がる。
「な、なんだこりゃ……」
炎の色はどす黒い赤色―――まるで血のだった。
「こ、このガキ……!放せ!」
もう一方の拳でロアを殴りつけようとするが、今度は殴られる前にもう一方の腕で拳をつかむ。
それと同時に、その腕も発火する。
「ぉぁああぁああ!!!」
大声でロアが吼える。
それと同時に、男を思い切り投げ飛ばした。
壁に叩き付けられた男は、ぐぇっ、と奇妙な声を上げ、そのまま床に崩れ落ちた。
腕の炎はあっという間に体にも燃え移り、全身がどす黒い炎で覆われた。
「な……何だあいつ!」
「ば、化け物め!」
「おい、殺しちまおう!」
男達がそんな事を話している間に、ロアがうめき声を上げながら男達に近寄っていく。
「う……うぁあぁ……あ」
「こっ、殺せ!」
男達が剣を抜き、ロアに襲いかかる。しかし、さっきまで一方的に殴られていたのが嘘のように、攻撃をかわして行く。
「な、何なんだコイツ!?」
「あ、当たらねぇ……!」
……剣の動きを完全に見切っている動きだ。
一体どうやってあそこまで……。
「がぁああぁぁあぁあぁぁあ!!」
「ごぁっ!」
ロアが叫びながら腕を振り回す。
拳が直撃し、男達が壁に飛ばされる。
攻撃は腕を振り回しているだけで、決してまともな攻撃とはいえない。
それなのに、当たった男達は壁に吹き飛ばされる程の威力だ。
「ぐぅ……」
「うぅ……!」
あっという間に男達を倒してしまった。
「ぁ……ぅぁ……!」
しかし、ロアも苦しそうに呻いている。
足もガクガクと震えている。
ふらつきながらも牢に近づこうとする。
体の炎は先ほどの炎とは違い、不規則に揺らめいてきた。
牢に入ると、腕と壁をつないでいる鎖を握りしめ、思い切り力を込める。
「う……ぐ、ぅうぅう……!」
「何を……?」
ピキッと音を立てて、鎖にヒビが入った。
更に力を込めると、ぐにゃりと鎖が曲がり、腕と壁が離れる。
それと同時だった。
「………ぁ」
ロアの全身を包んでいた炎がフッと消え去り、ロアが床に崩れ落ちた。
体は小さく震えており、顔もすっかり血の気が失せている。
そして―――髪の色は真っ白になっていた。
「ロア!しっかりしろ!」
まだ痺れが残っている体を無理矢理動かし、ロアに駆け寄る。
オリビアはロアを抱き起こすと、片手で体を支えた。
「……」
返事はない、呼吸も弱っている。
くそっ!どうしたら……!?
「やれやれ……。ずいぶんと暴れ回ってくれたものだ。」
地下牢に先ほどの騎士風の男と、奴隷証人の男、数人の兵たちが入ってきた。
「ふん。どうあがこうと貴様らは死ぬだけだ。まだわからんか?」
「もうこの際、殺しちまっていいんじゃないですか?剥製でもそれなりの値で売れますよぉ?」
「……部下が全滅してから登場か。ふざけた奴だ。」
オリビアが睨みつけるのを無視し、男は続ける。
「そうだな。隊長らしいから処刑にした方が都合が良かったが、致し方あるまい。」
騎士風の男が手を上げると、兵士達が剣を抜いた。
ふと足下をみると、そこにはロアの使っていた木剣が転がっている。
オリビアは木剣を拾い、男達に向かって構える。
「ふん。麻痺が残っているのだろう?さっさと死んだ方が楽だぞ?」
「……。」
どうする……?この状態で兵士3人と戦うのは流石に辛い。
下手に動けば私だけではなく、ロアも殺される。
どうする?どう動く……!?
「さて、それじゃあ……死んでもらおう!」
騎士風の男が指示すると、兵士達が剣を構え、牢屋に近寄ってきた。
一か八かだ。このまま突っ込むか……!?
「全員動くな!」
若い女性の声が地下牢に響く。
それと同時に、誰かが地下室に駆け込んできた。
兵士達にはそれぞれ、背中から剣が突きつけられている。
「なっ……!?」
「ひっ、ひぇぇ!?」
騎士風の男はその場に凍り付き、奴隷商人は腰を抜かしてへたり込んだ。
「ふぅ……。間に合ったみたいね。」
「き、貴様は……!?」
地下牢に入ってきたのは―――
「北方魔王軍、第7支部司令官、アネット・エルフィンストーン!」
「ア、アネット!?それに、第一部隊……!?」
「隊長!ご無事ですか?』
「セラまで……!?大丈夫なのか!?」
「はい!」
「待たせたわね。」
「アネット、大変なんだ、ロアが……!」
「外に救護班が待機しているわ。急いで運んであげて。」
「すまん!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オリビアがロアを抱えて外へとは知って行くのを見届けると、
アネットはつかつかと騎士風の男に近づくと言った。
「ここの最高責任者ね。『アベル=クレティアン』……数年前から教会の騎士としてここの司令官を務めているわね。」
アネットは杖を構えながら司令官に近づく。
「教団の中でも過激派で有名ね。私達魔物だけじゃなく……魔物派の村はもちろん、中立派の村まで襲う始末。」
アネットは淡々と続ける。
「あげくの果てに、襲った村の人間や魔物達を拉致し、処刑。もしくは剥製にして物好きな貴族に売りさばく。……ここまで来ると呆れて物も言えないわね。」
「な……!?」
「何故ここまで詳しく知っているんだ?って顔ね。簡単よ。あなたの頭の中をちょっとのぞかせてもらったの。」
「く……ば、化け物め!」
「何とでも言うと良いわ。……さて、私達は今まで、散々あなた達に和解のための条件を提示してきたわ。」
アネットは表情を変えずに続ける。
「それにも関わらず、村は襲う。拉致は続ける……。」
「黙れ!貴様らに従う道理など……」
「黙って聞きなさい。」
ぴしゃりと言われ、クレティアンは黙り込む。
「私達魔王軍には『やむを得ない場合を除き、人間・魔物を問わず、殺害してはならない。』という規律があるわ。」
そこまで言うと冷酷な目つきでクレティアンを睨む。
「あなた方がこれ以上、親魔物派、中立派の村への攻撃や拉致を続けるのなら……『やむを得ない』場合も考えなくてはなりません。……これが最終通告です。私達の提示した条件をのんでいただけますかしら?」
「……ちぃっ!」
ボンっ!
クレティアンが何かを床に叩き付けると、辺りが煙に包まれた。
「指令!煙幕です!」
「兵士達を逃がさないで!」
「しかし、それではクレティアンが!」
「構わないで!その方が都合がいいわ!」
遠ざかる足音といっしょに、クレティアンの声が聞こえてきた。
「魔物共!覚悟しておけ!いつか貴様らを根絶やしにして、我々教団が全世界を支配してみせる!それまでせいぜい足掻くのだな!」
煙幕が張れた頃には、クレティアンの姿は影も形も無かった。
「ふぅ……。完全な悪役のセリフよねー、アレ。」
「……どうする?」
「今からここの兵士達にちょっと話をしてくるわ。ここに居る兵士達をとりあえず拘束して……馬車に戻って、オリビア達に説明でもしてあげて。多分混乱してるから。」
「了解!」
「ちっ…!」
「ギャハハハ!腕を封じられた状態で、何が出来る!」
「麻痺も残ってんだろ!抵抗しないでおとなしく殴られた方が良いんじゃねぇか?」
「黙れぇっ!」
「おーおー!頑張るねぇ!おらっ!」
「ぐっ……!」
くそっ……!
情けない……ッ!こんな奴らにても足も出す事が出来ない事もあるが、それ以上に―――。
「(あいつを、ロアを疑ってしまった事が何よりも情けない!)」
せめて、コイツらの気を引いてこれ以上ロアがやられないように……!
「おい、あのガキ……立ちやがったぞ?」
「なっ……!?」
もう立つな、と叫ぼうとしてロアの方を見ると、
―――何か様子がおかしい。
木剣も持たずに立っているのだが、全身から何か……、煙のようなものが上がってる。
「なんだ、あいつ?なんか変じゃねぇか?」
「ぅ……ぅ……」
「チッ、しつけぇな……」
一人の男がロアに近づき、拳を振り下ろした。
「これで、寝てろ!」
ガン!
固い音がして、ロアの顔面に男の拳が直撃した。
「へっへっへ……っ!?」
殴られたにもかかわらず、ロアはびくともせずに男の拳をつかんだ。
その時だった。
ボンッ!と言う爆発音とともに、拳をつかんだロアの腕が突然発火した。
「なっ!?」
腕がごうごうと音を立てて燃え上がる。
「な、なんだこりゃ……」
炎の色はどす黒い赤色―――まるで血のだった。
「こ、このガキ……!放せ!」
もう一方の拳でロアを殴りつけようとするが、今度は殴られる前にもう一方の腕で拳をつかむ。
それと同時に、その腕も発火する。
「ぉぁああぁああ!!!」
大声でロアが吼える。
それと同時に、男を思い切り投げ飛ばした。
壁に叩き付けられた男は、ぐぇっ、と奇妙な声を上げ、そのまま床に崩れ落ちた。
腕の炎はあっという間に体にも燃え移り、全身がどす黒い炎で覆われた。
「な……何だあいつ!」
「ば、化け物め!」
「おい、殺しちまおう!」
男達がそんな事を話している間に、ロアがうめき声を上げながら男達に近寄っていく。
「う……うぁあぁ……あ」
「こっ、殺せ!」
男達が剣を抜き、ロアに襲いかかる。しかし、さっきまで一方的に殴られていたのが嘘のように、攻撃をかわして行く。
「な、何なんだコイツ!?」
「あ、当たらねぇ……!」
……剣の動きを完全に見切っている動きだ。
一体どうやってあそこまで……。
「がぁああぁぁあぁあぁぁあ!!」
「ごぁっ!」
ロアが叫びながら腕を振り回す。
拳が直撃し、男達が壁に飛ばされる。
攻撃は腕を振り回しているだけで、決してまともな攻撃とはいえない。
それなのに、当たった男達は壁に吹き飛ばされる程の威力だ。
「ぐぅ……」
「うぅ……!」
あっという間に男達を倒してしまった。
「ぁ……ぅぁ……!」
しかし、ロアも苦しそうに呻いている。
足もガクガクと震えている。
ふらつきながらも牢に近づこうとする。
体の炎は先ほどの炎とは違い、不規則に揺らめいてきた。
牢に入ると、腕と壁をつないでいる鎖を握りしめ、思い切り力を込める。
「う……ぐ、ぅうぅう……!」
「何を……?」
ピキッと音を立てて、鎖にヒビが入った。
更に力を込めると、ぐにゃりと鎖が曲がり、腕と壁が離れる。
それと同時だった。
「………ぁ」
ロアの全身を包んでいた炎がフッと消え去り、ロアが床に崩れ落ちた。
体は小さく震えており、顔もすっかり血の気が失せている。
そして―――髪の色は真っ白になっていた。
「ロア!しっかりしろ!」
まだ痺れが残っている体を無理矢理動かし、ロアに駆け寄る。
オリビアはロアを抱き起こすと、片手で体を支えた。
「……」
返事はない、呼吸も弱っている。
くそっ!どうしたら……!?
「やれやれ……。ずいぶんと暴れ回ってくれたものだ。」
地下牢に先ほどの騎士風の男と、奴隷証人の男、数人の兵たちが入ってきた。
「ふん。どうあがこうと貴様らは死ぬだけだ。まだわからんか?」
「もうこの際、殺しちまっていいんじゃないですか?剥製でもそれなりの値で売れますよぉ?」
「……部下が全滅してから登場か。ふざけた奴だ。」
オリビアが睨みつけるのを無視し、男は続ける。
「そうだな。隊長らしいから処刑にした方が都合が良かったが、致し方あるまい。」
騎士風の男が手を上げると、兵士達が剣を抜いた。
ふと足下をみると、そこにはロアの使っていた木剣が転がっている。
オリビアは木剣を拾い、男達に向かって構える。
「ふん。麻痺が残っているのだろう?さっさと死んだ方が楽だぞ?」
「……。」
どうする……?この状態で兵士3人と戦うのは流石に辛い。
下手に動けば私だけではなく、ロアも殺される。
どうする?どう動く……!?
「さて、それじゃあ……死んでもらおう!」
騎士風の男が指示すると、兵士達が剣を構え、牢屋に近寄ってきた。
一か八かだ。このまま突っ込むか……!?
「全員動くな!」
若い女性の声が地下牢に響く。
それと同時に、誰かが地下室に駆け込んできた。
兵士達にはそれぞれ、背中から剣が突きつけられている。
「なっ……!?」
「ひっ、ひぇぇ!?」
騎士風の男はその場に凍り付き、奴隷商人は腰を抜かしてへたり込んだ。
「ふぅ……。間に合ったみたいね。」
「き、貴様は……!?」
地下牢に入ってきたのは―――
「北方魔王軍、第7支部司令官、アネット・エルフィンストーン!」
「ア、アネット!?それに、第一部隊……!?」
「隊長!ご無事ですか?』
「セラまで……!?大丈夫なのか!?」
「はい!」
「待たせたわね。」
「アネット、大変なんだ、ロアが……!」
「外に救護班が待機しているわ。急いで運んであげて。」
「すまん!」
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オリビアがロアを抱えて外へとは知って行くのを見届けると、
アネットはつかつかと騎士風の男に近づくと言った。
「ここの最高責任者ね。『アベル=クレティアン』……数年前から教会の騎士としてここの司令官を務めているわね。」
アネットは杖を構えながら司令官に近づく。
「教団の中でも過激派で有名ね。私達魔物だけじゃなく……魔物派の村はもちろん、中立派の村まで襲う始末。」
アネットは淡々と続ける。
「あげくの果てに、襲った村の人間や魔物達を拉致し、処刑。もしくは剥製にして物好きな貴族に売りさばく。……ここまで来ると呆れて物も言えないわね。」
「な……!?」
「何故ここまで詳しく知っているんだ?って顔ね。簡単よ。あなたの頭の中をちょっとのぞかせてもらったの。」
「く……ば、化け物め!」
「何とでも言うと良いわ。……さて、私達は今まで、散々あなた達に和解のための条件を提示してきたわ。」
アネットは表情を変えずに続ける。
「それにも関わらず、村は襲う。拉致は続ける……。」
「黙れ!貴様らに従う道理など……」
「黙って聞きなさい。」
ぴしゃりと言われ、クレティアンは黙り込む。
「私達魔王軍には『やむを得ない場合を除き、人間・魔物を問わず、殺害してはならない。』という規律があるわ。」
そこまで言うと冷酷な目つきでクレティアンを睨む。
「あなた方がこれ以上、親魔物派、中立派の村への攻撃や拉致を続けるのなら……『やむを得ない』場合も考えなくてはなりません。……これが最終通告です。私達の提示した条件をのんでいただけますかしら?」
「……ちぃっ!」
ボンっ!
クレティアンが何かを床に叩き付けると、辺りが煙に包まれた。
「指令!煙幕です!」
「兵士達を逃がさないで!」
「しかし、それではクレティアンが!」
「構わないで!その方が都合がいいわ!」
遠ざかる足音といっしょに、クレティアンの声が聞こえてきた。
「魔物共!覚悟しておけ!いつか貴様らを根絶やしにして、我々教団が全世界を支配してみせる!それまでせいぜい足掻くのだな!」
煙幕が張れた頃には、クレティアンの姿は影も形も無かった。
「ふぅ……。完全な悪役のセリフよねー、アレ。」
「……どうする?」
「今からここの兵士達にちょっと話をしてくるわ。ここに居る兵士達をとりあえず拘束して……馬車に戻って、オリビア達に説明でもしてあげて。多分混乱してるから。」
「了解!」
12/01/29 18:17更新 / ホフク
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