連載小説
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14.監禁


「………。」
地下牢につれてこられてから、どれぐらいの時間が経ったのだろうか。
日の光が差し込まないので全くわからない……。
……それにしても、何故教会に今回の作戦がバレたのだろうか?
今回の任務の内容は、他の兵士達には内密に行っていたはずだったが……。
任務の内容を話したのは、司令官であるアネット、第一部隊のセラ、フィル、マールの3人。
「(あいつらが裏切るとは思えないな……)」
第一部隊の連中とは付き合いが長い。魔王軍の方針もしっかりと理解し、その上で軍に所属している。
アネットが教会に寝返るとも思えない。子供の頃からの付き合いだ。
だとしたら……やはり、スパイか?だとしたら……誰が……?
頭の中で必死に考えを巡らせていると、どこかからかすすり泣くような声が聞こえてきた。
「……っ……っ……」
「(……他の捕虜か……?)」
どうしようか迷ったが、ひとまず声をかけてみる事にした。
「……誰だ?」
ひっ、と息をのむ音が聞こえ、その後は黙ってしまった。
しまった。もう少し優しく聞けば良かった。
「私は魔王軍の者だ。私も檻に入れられている。危害を加えるつもりは無い。」
「………」
返事は無い。そう簡単に信用しろと言う方が無理だろうが……。
「(ふぅ……相手を信用させるっていうのは、やはり難しいな…)」
ロアのときには食料を渡したが…….

……待てよ……?

そうだ、ロアにも任務の内容を話したんだった!
……考えてみれば、一番怪しいのはロアだ。記憶が無いと入っているが、本当かはいまいちわからない。
わざと記憶が無い振りをしている可能性だって十分にあり得る。
そうやって私達に近づき、情報を流していたとしたら……?
ということは……まさか、あいつがスパイなのか……?
だが、他に心当たりはない……。クソッ!だとしたら舐められたものだ……!

「おい、てめぇら!何をゴチャゴチャ話してやがる!」
隣の牢の捕虜が息を飲む音が聞こえた。
「おーおー……さっき連れて来られた奴じゃねえか。」
門番か……?ガラの悪い奴だ。
「残念だったなあ!お前らのたまり場には俺たちのスパイが紛れ込んでるんだよ!」
それは知っている。アネットはもうスパイを見抜いているかもしれない。
「お前らの司令官が用件を飲まなければ、お前らはその場で処刑だ!条件をのんだ所で、お前らは奴隷商人に売りさばかれるんだよ!」
やはりな。軍には「解放した」と言っておいて、実際は奴隷商人に売りさばく。
軍に私が戻らなくても、知らぬ存ぜぬを通すつもりなのだろう。
「その後はどうなるかしってるか?」
知っている。魔王軍が裏で手を引いている奴隷市場では、大抵性交のために買われる。
そのため、結果的には両者が結ばれる事になる。しかしコイツらの場合は……
「剥製にされるか、見せしめに処刑されるか……どっちにしろお前らは死ぬしか無いようだな!」
そう言うと、門番は笑いながらどこかへ歩いて行った。

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「……あ、あの……。」
門番がどこかへ言った後、他の捕虜が小さな声で話しかけてきた。
「本当に……魔王軍の人、なんですか……?」
声を聞く限り、まだ幼い子供のようだ。サバトの魔物じゃないなら。
「……ああ。魔王軍で部隊長を務めている。」
「じゃあ……さっきの話も……本当、なんですか……?」
さっきの話……
「ああ、そうだ。このままだと殺られる。」
ヒュッ、と息をのむ音が聞こえた。
「そんな……嫌……!嫌だ……!」
しまった。はっきり言い過ぎた。
「いや、多分軍から救助が来るはずだから大丈夫だ。」
「死にたくない……!死にたくないよぅ……!」
いかん……。またやってしまった。どうしようか……。
「おい!何を喋ってやがる!」
「ひっ……」
いつの間にか門番が戻ってきていたようだ。
「まだ殴られ足りないようだなぁ。あん?」
「や……嫌ぁ……!」
「おい!やめろ!」
オリビアが叫ぶと、門番がオリビアの牢を開いて中に入ってきた。
「まだ自分の立場がわかってねぇ様だなぁ、おい?」
そう言うと、布を取り出してオリビアの口を塞いだ。
「むぐっ……!」
「抵抗するなよぉ?抵抗したら隣の牢の捕虜もただじゃすまねぇからな!」
オリビアの口を塞ぎ終わると、門番はいきなり腹を殴りつけてきた。
ズンッ!と腹に衝撃が走る。
「ぐっ!」
先ほどとは違い、腹直筋に力を込める事が出来るおかげでそこまでのダメージは無い。
「やめて……!やめてよぉ……!」
隣の捕虜は状況がわかっていないせいで、半ばパニックになっているようだ。
さて、どうしたものか……。
バキッ!
今度は何か固いもので殴りつけたような音だ。
……痛みは無い。
ドサッ、と言う何かが倒れるような音が聞こえた。
首をあげると、そこに居たのは――。

「大丈夫ですか?」

ロアだった。
「無事で良かった……。ちょっと待っててください、今手錠の鍵を……」
訓練用の木製の鎧と木剣を身につけている。
一体何をしにきた?スパイだとしたら目的がわからない……。
「……もって無いみたいです。どうしましょうか……」
「おい!何者だ貴様!」
「!」
「侵入者だ!来い!こっちだ!」
地下牢に屈強な男達が入ってきた。
「何だぁ?彼奴か!?」
「まだガキじゃねぇか!」
「いや、待て!見ろあの鎧!」
「ま、魔王軍の紋章だ!」
「殺せ!」
「殺せ!殺せ!」
ロアは男達に向かって木剣を構えた。手が小さく震えている。
……演技だとしたら大したものだ。
「ぅうああああぁぁああぁあ!」
叫びながら剣を真上に振りかぶり、敵に向かって突っ込む。
「おっと!」
「ハハハ!何だ、そりゃ!?」
あっさりと躱されるものの、すぐに体勢を立て直し、剣を横一文字に振り払う。
「だぁっ!」
ガッ!と鈍い音を立てて、男のこめかみの当たりに剣が直撃した。
……が、
「……ってぇな、野郎!」
「うっ…!」
飛び掛かったロアの腕をつかみ、腹のちょうど鎧で守られていない部分を膝で蹴り付けた。
「かっ…はっ……!」
「ちっとは剣術を使えるようだが……。そんな腕で何が出来ると思ってんだ!?」
床に崩れ落ちたロアを再び蹴り着ける。
「弱ぇくせに、粋がりやがって!」
「う、あっ……!」
「おい!お前らもやっちまえ!このガキに強さって奴を教えてやろうぜ!」

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何なんだ……一体……。

「おら、さっきまでの威勢は、どうしたっ!」
「あぐっ…!」
胸ぐらをつかみ、何度も何度も殴りつける。
「おい、殺すなよ?簡単に殺っちまったらつまんねぇからな!」
「おお!たっぷりいたぶってやろうじゃねえか!」
「おい、俺にも殴らせろ!」
もう一人の男がロアに手を伸ばすと、ロアが勢い良く男の手に噛み付いた。
「痛ってぇ!この、ガキが!」
地面に思い切り叩き付けられる。
「っ……!ぁ……!」
背中から行った。呼吸が出来ずに苦しそうにしている。

何でそこまでする?

「ギャハハ!見ろよ!コイツ泣いてやがるぜ!」
「この程度で泣くか!情けない奴だぜ!」
涙を流しながら、それでも牢に近づこうとする。

スパイなら早く白状すれば良いだろう……。

「ぅ……げぇ……っ!」
「うわっ!吐きやがった!」
吐き出した吐瀉物は赤く染まっている。
内臓に傷がついたのかもしれない。
「ぅ……ぅ……」
傷だらけにされて、ボロボロになっても、必死に手を伸ばし、牢に這ってでも近づこうとする。

何でそんなに傷だらけになって……。

「ちっ……。なんかもう飽きたなぁ……。」
「あぁ、こんなガキ痛めつけても面白くも何ともねぇ。」
「じゃ、やっぱ向こうの魔物にするか?」
「おお、良いねぇ!」
「ゃ……やめ、ろ……ぉ!」

もう、やめろ……それ以上……無茶をするな……!

「待、て……!」
「邪魔、すんなっ!」
止めようと足にしがみついたロアを男が思い切り踏みつける。
ゴッ!と鈍い音が響いた。頭が床に思い切りぶつかったようだ。
腕から力が抜け、パタッ、と床に沈む。
「さぁ〜て……次はお前だ……!」
「へっへっへ……」
……クズ共が……!
「猿轡は外した方が良いんじゃないか?その方が良い声で鳴くかもしれねぇぜ!」
「おお!そうだな!」
猿轡が外される。
……もう、我慢できん……!
「貴様らァッ!」
まだ麻痺は残っているものの、多少は回復してきている。
幸い足は拘束されては居ない。
ジャンプして体を浮かせ、男達に蹴りを浴びせる。
「私の家族に手を出して、ただですむと思うなァッ!」

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「(ああ……悔しいな……)」

力が入らない。

「(せっかく……助けにきたのに……)」

地下牢に向かって、男達が近づいて行く。

「(アネットさんも……心配、してるだろうな……黙って、来てしまったし……)」

何も出来ない自分が情けなくて仕方が無い。

「(弱いな……)」

弱い……。


弱い……!



弱い!弱い!弱い!

何のためにここまで……!
助け出せなければ……意味が無いのに……!


「貴様らァッ!私の家族に手を出して、ただですむと思うなァッ!」


オリビアの怒号が地下牢に響いた。

「(……オリビアさん……あんなに怒っているの初めて見た……。)」

「(……オリビアさんは……見ず知らずの私を助けてくれた……だから……)」

「(今度は、私が……!)」

「(彼女を、私を家族と読んでくれた彼女を……!)」

「(守るんだ……!私の、命を懸けてでも!)」
12/01/10 18:37更新 / ホフク
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■作者メッセージ
よぉぉし!1ヶ月以内に更新できた!
明けましておめでとうございます。ホフクでございます。

さて、ちょっとスパイが誰なのか言葉を濁し続けましたが、どうでしょうか?
真実は次回!
実はこの続きも結構できていたんですが、ちょっと長かったので分けます。
何でこの続きは今月中に投稿したい……!

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