連載小説
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12.疑惑
朝。準備は整った。
今回の任務では機動力重視のため、馬車ではなく隊員一人一人が馬に乗っている。

「それじゃ、行って来る。」
「油断はしちゃ駄目よ。」
まだ朝早いせいなのか、見送りにはアネット一人だけが来ている。
「(天気が怪しいな…雨が降り出す前に村に着きたいが…)」
空は今にも雨が降り出しそうな、分厚い雲が浮かんでいる。
「隊長、いつでも行けます!」
「よし……では、カナック村へ向かうぞ!」
「了解!」
手綱を引き、馬を走らせる。カナック村までの距離はそう遠く無い。馬を使えば1時間もあればたどり着ける。

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馬の走る足音が森に響く。
曇っているせいで周りは薄暗い。森を通っているせいでよけいに暗い。
「(空気が湿ってきた…雨が近いかもしれん…)」
「隊長!」
馬を走らせていると、隣に居たセラが話しかけてきた。
「どうした?」
「あの…あいつは大丈夫なんですか?」
「あいつ?」
あいつ……。
「あぁ…アネットか?まぁ、あいつはなんだかんだでやる時はやるだろ。」
「違いますよ!いくら何でも上官をあいつ呼ばわりしまんよ!」
それもそうか。
「じゃあ、誰だ?」
「あいつです!あの小僧です!」
「小僧…?あー、ロアか。」
セラは今年で十九歳になるが、見た目はロアとあまり変わらないように見える。
そのせいで「小僧」が一瞬誰だかわからなかった。
「大丈夫だろう。あいつは頭も良いし、アネットが面倒を見てくれる。多分。」
「そうじゃなくて!あいつはカナック村の人間では無かったんでしょう?」
「ああ、村人でやつを知っているものは居なかった。」
「だったら、教会の人間だと言う可能性もあるんじゃないんですか!?」
一瞬、教会のスパイの話が頭を過った。
「…いや、それならアネットの魔法で最初にバレたはずだ。」
言葉がわからない振りなんてしていたならすぐにバレる。
「う〜…でも〜…なんか気に入らないんですよ〜!」
「?」
オリビアが訳が分からずに首を傾げていると、後ろからマールが笑いながら話しかけてきた。
「隊長!セラのやつ、最近隊長が構ってくれないって嘆いてたんスよ!」
「ちょ、マールさん!」
「なるほど、それで隊長が面倒見てるロアが憎い、と」
「わー!わー!フィルさんまで!やめて下さいよう!」
「…?何だ、あいつが居るから遠慮してたのか?別にそんな気にしなくても…」
「…うぅ…隊長……!」
「…な、何で涙目になってるんだ?」
「た…隊長の…バカぁ〜!」
「!?な、何!?何なんだ!?」
「…(相変わらず、何と言うか…)」
「…(朴念仁と言うか…)」
「おい!お前らなんで笑ってる!?一体何なんだ!」
「あ、ホラ!カナック村が見えてきましたよ!はやく行きましょう!フィルさん!マールさん!」
「さ、行こうぜ。」
「ああ。」
「ちょ、おい!待て!何なのか説明しろっ!」

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「よし…それじゃ、調査を開始する。」
少し不機嫌そうにそう言うと、オリビアは桃色をした小さな石を取り出した。
「…これは?」
「本部で開発された、魔法が使用された後の魔力に反応して光る石らしい。」
人数分の石を全員に渡して行く。
「この意志が強く光った位置と、そこの部分の破壊された痕跡を調べてくれ。」
「了解!」

10分後。

「……」
「隊長!」
「マールか。どうだった?」
「破壊された民家を確認した所、反応がありました。」
「そうか。破壊された民家の様子は?」
「焦げ付いたような後がありましたので、火炎系の魔法かと思われます。」
マールに続き、フィルが戻ってきて言った。
「あっちにもあったっス!向こうのは破壊された他には特に痕跡がないんで、衝撃系の魔法か、凍結系の魔法かと!」
「そうか。私も見つけた。おそらく電撃系の魔法だ。」
「それにしても、この石…大した性能ですね。」
「後はセラですね。」

「それは…こいつの事かな?」

ふいに、低い男の声が聞こえた。
「誰だ!?」
振り向くと、セラが真っ白な服を来た男に縛り上げられていた。
「セラ!」
首が外されている。魔力が流れ出してしまったのか、自力で拘束を解くことは出来なそうだ。
外された首にはナイフが突きつけられ、セラは悔しそうに顔を歪めている。
「魔王に従う魔物共に告ぐ。仲間の命が惜しければ、我々の命令に従え。」
男の背後から、同じような
おそらく教会の人間だろう。
「…人質と言う事か?」
オリビアがそう聞くと、男は鼻で笑い、答えた。
「はっ!貴様らのようなクズ共には本来、交渉など必要ないのだがな…。喜べ。神は寛大だ。」
「…命令と言うのを聞かせてもらおう。」
オリビアがそう聞くと、男はにやりと笑い、言った。
「我らの城には、他にも魔物に組する者共が捕らえてある。奴らの命が惜しければ、三日以内に砦から撤退しろ。」
砦からの撤退。それはこの辺り一帯の魔物、親魔物派の村・町の壊滅を意味する。
そう簡単に撤退するわけにはいかない。かといって捕まっている魔物や、親魔物派の人間達、何よりも、目の前で捕まっているセラをを見捨てる訳にも行かない。
「…わかった。しかし、我々だけで判断は出来ない。ひとまず砦に戻り、司令官の意見を聞きたいのだが。」
「ふん、好きにしろ。……いや、待て。この中で、最も地位が高いのはどいつだ。」
「魔王軍には基本的に位などは存在しないが…この部隊の責任者は私だ。」
「そうか…。なら、こいつの代わりに我々と来てもらおう。」
「何?」
「地位が高い者が捕えられている方が、司令官とやらも正しい判断が出来るだろうよ。」
オリビア達からすれば、全く検討はずれな考えだが、へたに刺激する訳にも行かず、黙って話を聞いていた。
「…隊長、どうします?」
フィルが苦々しい顔で聞いて来た。
「言っておくが、貴様らに選択肢は無い。断ればこいつを殺す。」
「くっ…卑怯者め…!」
「わかった。私が代わりになろう。」
「隊長!?」
「ほう、聞き分けが良いな。」
「さあ、セラを放せ。」
「先にこっちに来い。まずは武器をこちらに投げろ。…ゆっくりな。」
腰に付けていた長剣を外すと、男の方に放った。
「…両手を上に上げて、こっちに来い。」
男の声に従い、ゆっくりと近づいて行く。
「両手を前に出せ。……よし、手錠をかけろ!」
ガチャン!と音を立てて、オリビアの両手に手錠がかけられた。
「よし、この娘は…解放してやる!」
男はそう言うと、セラの体を突き飛ばし、頭を乱暴に投げつけた。
「くっ!貴様!」
間一髪の所でフィルが頭を受け止めた。
「いいか、期限は三日だ。少しでも期限を過ぎたら…どうなるかわかっているな?」
男はそう言うと、オリビアを連れて去って行った。

「(何故だ…?私たちの部隊がここに来る事がわかった…?まさか…情報が漏れていたのか…?だとしたら、一体どこから…?)」
「さて…それじゃ、少し眠ってもらうぞ。」
「何…」

ガッ!

「っ!…っぐ…!ぅ…!」

男に背後から頭を殴られ、オリビアの意識は遠のいて行った。

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その頃。

「ロア〜?居る〜?」
訓練場に入ると、オリビアに命じられた通りに訓練をしていた。
「あ、アネットさん。どうしたんですか?」
「訓練中に悪いんだけど…ちょっと良いかしら?」
「?…はい。」
部屋からロアを連れ出すと、無言のまま歩く。
ロアを連れて行ったのは、司令室だ。
「さ、入って!」
「…はい。」
中に入ると、扉を閉めてから鍵も閉めた。
「ちょっと、待ってね〜」
部屋の四隅に何かの札を貼付けると、
「さて、と。今日はちょっと、あなたに聞きたいことがあるの。」
「はい。何ですか?」
ロアを椅子に座らせ、自分は向かいの椅子に座る。
「最近、ここの砦にスパイが居るって噂…聞いた事ある?」
「…いえ、初耳です。」
「そう。それでね、どうもその噂、本当みたいなのよね。」
アネットは司令室の中をゆっくり歩き回りながら続ける。
「中々考えにくいのよ。大抵の兵士はその基地とか、砦の責任者が、教会の人間かどうか…いろいろと質問をしたりして教会の人間かどうか確認するの。」
「……」
ロアは黙ったまま話を聞いている。
「だから…スパイが居るとしたら、そこでよほど上手く嘘をついたか…もしくは砦の誰かと入れ替わったか…どっちだと思う?」
「……よくわからないです。」
「まあ、そうよねー。あ、そう言えばあなたはやってなかったわね。」
そう言うと、ロアの目の前でにっこりと笑う。
「まあ、私はあなたを信用してるから、今更必要ないかしら?」
「……」
「あ、そうそう。今日は地学の勉強よ。丁度良いからカナック村の位置も教えてあげるわ。」
そう言うと、窓際に立ち、窓の外を指差した。
「向こう、この砦から北東にまっすぐね。…あら?あなたは知っていたかしら?」
「いえ、知りませんでした。……ごめんなさい、ちょっと気分が悪くて…今日は部屋に戻って、休んでも良いですか?」
「あら、大丈夫?ゆっくり休むと良いわ。」
「……失礼します。」
パタン
ロアは静かに扉を閉め、部屋の外へと出て行った。
「……あの子、役者になれるわね…。」
11/10/25 07:31更新 / ホフク
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■作者メッセージ
よおおおし!一ヶ月以内に投稿に成功したぞおおおお!
という、作者のテンションとは裏腹に、作中の雰囲気はとんでもない事になっております。

「え?何?裏切り?あいつ主人公じゃなかったの?」
「まさかの主人公の裏切り?何のフラグ?」
「え?この後どうなるの?これは絶対に続きも読まなきゃ!」

みたいな風になったら、いいな〜。
ならないかな〜。無理かな〜……。

クスン…。

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