見つめ合うと素直にお喋りしちゃう
「……なるほどなぁ、それはご苦労さんやねぇ、ほれ、茶ぁ入ったで」
「あ、これはどうも……ああ、美味しい……生き返りますね」
差し出された暖かいお茶の、
ほのかな甘みを感じる安らぐような風味にほっと息をつく。
「ありがとうございます、私のような何処の者とも知れない旅人にこんなに親切にして頂いて……」
「ああ、そういう堅苦しいのはええのええの、困った時はお互い様や」
……なんだか不思議な人だ、誰かの世話になるつもりは無かったのに、
大きく、吸い込まれそうな瞳をスっと細めて見つめられると、
引き込まれるというか、それを見つめ返すことで頭がいっぱいになって、
見とれているうちに話が進み、一泊の恩にあずかることになってしまったのだ。
「こんな山奥まで歩いてくるんはしんどかったやろ、疲れもとらな魔物の村も探せへんよって、ああ、秘密なんやっけ?」
「ええ、探っていることを魔物に気取られないよう、秘密裏に……秘密……に?」
私は……この辺りに魔物の集落ができたという噂を、確かめるように密命を受けて、
それで、旅人のふりをして……私は、なんでこんなことを喋って……?
「ふふ、気にしちゃあかんよ、ほれ、うちの目ぇ、見てみ?」
「え……あ……ああ……あ……」
目を見る……目を見る……
吸い込まれる……引き込まれる……
「うちにはなんも隠せない、気にせず何でも喋るんや、それが当たり前や、せやろ?」
隠せない……何でも喋る……
気にしない……当たり前……
「お兄さんかかりやすくてええなあ、ほれほれ、じ〜〜〜〜〜〜っと、な〜んも気にしない、な〜んも気にしない」
気にしない……目……綺麗……
気に……しない……吸い込まれる……
ああ……もっと……もっと……
「へぇ〜、じゃあお兄さんが魔物の報告を上げたり、帰ってこおへんかったりすると、討伐隊とやらがこっちくるんやね」
「ええ、そうです、噂が何かの間違いであってくれればいいのですが」
「ふふ、その噂、まいた甲斐があるなぁ、ええ男が来れば村の皆も喜ぶわぁ」
なんだか、言ってはいけないことを言っている気がするし、
おかしなことも言われている気がするけれど、
でもそんなことは気にせずに、何にも考えずに喋ればいいんだ。
「せやせや、茶ぁ飲みながら喋くってるだけや、なんも気にせんでええんやで」
「そう……ですね……何でもないことを話しているだけ……気にしなくていい……」
「ホンマ、お兄さんはええ子やねぇ、ほい、おまけや、じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
あああああ……綺麗……綺麗……
目……好き……
「ふぃ〜、いいお湯だ、まさかお風呂までいただけるとは」
安宿に素泊まる日々に、時には野宿もしてきた体には、湯の心地が染み入りすぎる。
しかし、薪で沸かすような風呂ではなく、魔道具を使った自動式とは、
こんな山奥の家には贅沢すぎるような……あ、気にしない、気にしないんだった。
余計なことは考えず、久しぶりのお風呂を楽しもう。
「お邪魔しちゃうで〜、お湯加減のほうはどうや?」
「え? ……な、な、な、いけない! いけません! 女性が男に裸体をさらすなんて「じ〜〜〜〜〜」……あ……あ……?」
「な〜んもいけんくないよ、さ、背中流したるからこっち来ぃ?」
いけなく、ない、背中を流してもらう、だけ。
促されるままに体を預けつつも、なぜだろう?
とても嬉しくて、でもとても恥ずかしくて、
そしてやっぱり、とてもいけないことをしているような……
「ねぇ、うちの目ぇの事より恥ずかしいのが気になるん? 真面目さんなんやねぇ」
……目? 気にするって何のことだろう?
こんなにも、ずっと見つめていたくなるたくさんの素敵な……
「ほんなら、もっとかけたろかな、ほれほれ、頭ん中ふわんふわんになぁ〜れ」
「かけるって? ……ぁ……ふゎ……ぁ……ぁ……」
心が惚ける、何もわからなくなる。
頭の中に、気持ち良くなるという指示が与えられて、それに逆らえない。
ああ、もうどうでもいい、ずっと見ていたい。
何もかもが、瞳に吸い込まれていく。
「そのまま気持ち良〜くとろけててええよ、うちの体で、よ〜く洗ったるからなぁ」
抱きつかれて、柔らかい女性の肌をヌルヌルと擦り付けられる感覚が心地いい。
石鹸とはどこか違うこのヌルヌルはなんだろう、とか。
今は、背中を預けているのにどうやって目を見つめているのだろう、とか。
そんな疑問が脳裏をよぎっても、
ふわふわとした不思議な気持ち良さにかき消されていく。
「ふふふ、お兄さんのマラん棒もご立派様になってきたでぇ、な〜で、な〜で、く〜ちゅ、く〜ちゅ、もっと大きゅうな〜あれ」
「あ……あ……ぁぁぁ…………」
やわやわゆっくりと、ぬるんだ手を使われて撫でこすられる。
じらすように与えられる快楽が上ってきて、
わずかに心に残る、こんなことをしてはという気持ちもどんどん瞳に吸い取られて、
気持ち良くて気持ち良くてどうしようもなくなって、
ぼんやりと何もわからないまま、ただただ高められていく。
わからない……気持ちいい……
気持ち良くて……わからない……
ああ……綺麗……綺麗……
目に吸い込まれる……たくさん……たくさんの目に見られて……
あ……気持ちいい……もう……出る……
「……ん……ん……ふふ、出た出た、ああ……これが男の人の……お兄さんの……」
「……ぁぁ……うぁぁ……」
快楽を吹き出す脈動以外にはなんの力も入らない、
脱力しきった緩やかな絶頂にとろけてしまう。
「……ぁ、おいしい……あかん、これクセになってまう……」
すべてを出し切るまで優しく弄ばれ、
その手に粘りついたそれを舐めとられるのが気恥ずかしくても、
頭が何も考えてくれず、それを止めることもできない。
「えへへ、お兄さんの味、覚えてもうたわ、ほな、このことも気にせんようにな」
……気にしない……目……綺麗……
大きい瞳に……吸い込まれる……一番……大きい瞳に……ああ……好き……
「あ、帰ってきた! ねえねえ、うまくいったの?」
「バッチリやで、兵隊さんぎょうさん連れてくるらしいで」
「ほぉ〜……いいねえ、腕が鳴るじゃねえか」
……ええと、私は何をしていたんだっけ?
そうだ、実は魔物の住処に心当たりがあり、見かけたことすらあるということで、
彼女を連れてそれを中継ぎ役の伝令に報告し終えて、村に帰ってきたところだった。
あとは伝令から本部へ情報が上がれば、兵たちが派遣されてくるだろう。
「さて、どう可愛がってやろうか、先に考えとかねえと食いっぱぐれるかもな」
「いやいや、さすがに村の皆に行き渡るぐらいは来るやろ」
「でもなぁ、どうせ、よその娘達も集まるでしょ、男の話にはみんな耳が早いから」
「まあ、確かになぁ……ふふ、ウチにはいらん心配やけどな」
今、彼女が村の人と何を話しているのかは、やはり気にしなくていい気がする。
私は討伐隊が来るまでに魔物に動きがないか見張るため、
協力者となってくれた彼女と一緒に暮らせばいいのだから。
「他人事か畜生め! ……な、なあ、時にアレだ、その男とはその……ヤったのか?」
「あ! そうそうそう! ね、ね、どんな感じだった? 凄かった?」
「いや、ちょっちな、出したのごっくんはさせてもろてるんやけど、生本番はまだ……」
……そういえば、伝令が彼女を見たとき、
一瞬、やたらと驚いた顔をしていたような気がする。
すぐに平静に戻ったようだが、あの驚き様は少し異常だったな。
「なんだよじれってえな、お前も女なら押し倒してガツンとだな」
「そうしてもええんやけどな、どうせならじっくりと、もう術なしでもゾッコンメロメロに堕としてやってからな……」
「え〜、いいな、いいな、あたしも彼氏といつヤるかジレジレしたいな〜」
いったい何に驚いていたのだろうか、彼女はこんなにも普通なのに、
……いや、もしや彼女のあまりの可憐さに驚いたのでは、
まあ当然かもしれない、宝石もかくやの美しさを誇るその瞳を見れば、
私と同じように惚けてしまうものだろう。
男として当然だ、気持ちは大いにわかる……が、なにやらとても胸がモヤモヤする。
ううむ、どうにも不快だ、この気持ちはいったい何なのだろうか。
「……えへへ、なんかこの人、変なこと考えとるみたいやからもう帰るな」
「ん〜? よくわからないけどもう術いらないんじゃないかな? お幸せに〜」
「あんま焦らしてやらずに早くキめてやれよー」
腕を引かれて、慌ててついていく。
どうにも心の整理がつかない、なぜだろう、思い当たるところはないし、
あるいは、単純に体調が悪いのかも……
「ふふ、もうちょいと待ってぇなぁ、事が終わったら説明したるから、じ〜〜〜っと」
ああ……またなんだか……フワっとして、ぼ〜っとなって、どうでも良くなって……
……綺麗……好き……
「……お兄さん、ウチのことそないにぽけ〜と見つめてどしたん? 惚れてもうた?」
「へ? あ、その……いやいや、なんでもないですよ」
最近、ふと気が付くと彼女に見惚れていることが多くなってしまった。
どうしてもその綺麗な瞳に目線を引き付けられてしまうのだ。
それによく思い出せないが、彼女の目を見つめていると、
うまく言い表せない不思議な気持ちになるような……
「まあ、ホンマはわかっとるけどなぁ、ほれ、喋りたくな〜る、じ〜〜〜〜〜」
「うぁ……あ……えっと……なんだか……見てると……幸せになる……から……」
ああ……そうだ……これ……幸せ……なんだか……幸せになる……
見てるだけで……なんでだろう……?
でもいいんだ……気にしないでいい……わからなくていい……
見つめているだけで幸せになる……何も考えられずに見ているだけになる……
「せやろなぁ、ウチの目ぇ見ると、頭ぁ気持ち良ぅくなって、ふやけるように暗示をかけとるからね、もうお兄さん、癖になってしもうたかな?」
「癖……癖になる……目ぇ見るの……好き……」
自分は、何を言っているのだろう……
口がとてもゆるくて……変なことを言っているような……
でも幸せ……見ているだけで幸せ……
「ウチの力、気に入ってくれて嬉しいわぁ、ほんなら、今日はのんびりウチの目ぇ見ててええで、じ〜〜〜〜〜」
「あ……あ……好き……好き……見るの……好きぃ……」
すっと見ていい……見つめ合う……
ああ……ああ……幸せ……幸せ……綺麗……綺麗……好き……好き……
「……ウチの力が好きなんも嬉しいけどなぁ、ウチ自身のことも好いてくれてたら嬉しいなぁ、なんて、ふふ」
…………好きぃ…………
カン! カン! カン! カン!
「オラァお前ら集まりやがれぇ! お待ちかねの野郎共が来たぞ! 一人残らずお迎えして差し上げろぉー!」
すっかり自分の物のように馴染んでしまった部屋でくつろいでいるときに、
突然の鐘の音と大声に何事かと慌てそうになったが、
すぐに討伐隊が来たのだと思い至る。
いや、落ち着いている場合ではない、すぐに彼女を連れて逃げなければ……?
待て、彼女は……彼女は普通だから逃げる必要はないはず、
そうだ、討伐隊を呼んだのは私たち二人じゃないか、逃げることなんてない。
ああでも、魔物の村に住んでいるのだから疑われてしまうかも、
……魔物の村……? いや。ここは普通の村で……みんな……みんな、普通で……
「おーおー、張り切っとるなぁ、この村も賑やかになりそうや」
「あ……は、早く逃げましょう、大丈夫のはずですが念のため、そう、念のためです」
普通だから大丈夫かもしれないけれど、巻き込まれる可能性もあるのだ。
念のためなのだから何もおかしくはないはずだ。
「あはは、なんも心配いらんよ、じ〜〜〜〜〜、ほぉら……大丈夫……大丈夫……」
「しかし……あ……ぁ……」
吸い込まれる……吸い込まれる……
大丈夫……でも、逃げなきゃ……でも、大丈夫……?
ああ……瞳に吸い込まれて……何もわからない……
綺麗……好き……好き……ああ、あああああ……駄目! 駄目だ!
「うう……逃げ、逃げましょう……」
「あ、あれ? おかしいなぁ、ほ、ほら、怖くあらへんよ」
「うぁ……あぅ……」
怖くない……大丈夫……
蕩ける……何も考えられなくなっていく……
綺麗……心が……綺麗な瞳の中に囚われる……
好き……好き……好き……見ていたい……ずっと見ていたい……ぁ……だから……
「……ぁ……逃げて……あぁ……逃……げて……」
「ん〜、こないに抵抗されるん初めてや……どしたん? 話してみぃ、じ〜〜〜〜〜」
何故……? なんでこんなに抵抗? しているんだろう……?
ああ……綺麗だから……好きだから……
話す……話さなきゃ……
「……好き……貴女が……好きだから……」
「…………ふぇぇ? な、なんやて?」
「好きだから……ずっと見ていたいから……だから……貴女に何かあったら私は……」
「……あ……うわ……好きて……そっか、ウチのためにそないに耐えてくれてるんやな……あかん、嬉しすぎるわ……」
「あああ……好きぃ……逃げてぇ……」
もうだめだ……頭がフワフワして……
自分が何を言っているのかもわからない……
どうか……どうか無事で……
「……ええわ、覚悟キメよか、ほい、まずは起きぃや」
「ぁ……あれ? わ、私は何を!?」
今、何を言ったのか、思いっきり告白したような。
いやその、親切にしてもらって、瞳を見つめているとドキドキして、
気が付いたら一緒に暮らしていて、たまに、いや、かなり頻繁に、
見惚れて何もわからなくなったりしているが……うぁー……うん、ダメだな。
「皆が仲良ぅなったとこ見てもらってから解こぅ思っとったんやけどな、今、ホントの所ぉ教えるわ……ふふ、メロメロにはなってくれたみたいやし」
「そ、それは何というか勢いで、ああもう……しかし、教えるとは?」
気恥ずかしくてしょうがないがひとまず置いておこう。
いったい何を教えるというのだろう?
今は逃げることを優先するべきだと思うのだが。
「うん、ちょいそっちも覚悟してぇな……気づいてええで」
「……? ………え? …………ッ!?!?!?」
……目が……彼女の目が一つしかない。
片目ではない、一つ目、あれはどう見ても元からだ、顔の中央に大きく一つ……?
違う、背中にも、触手? すべてに、目がついて……
そんな……そんな……つまりは…………魔物。
「うちな、ゲイザーっていう魔物でな、この目で暗示ってのをかけられるんや」
暗示……思い出した、森で偶然出会ったときは、
一つ目にも触手にも気づいて慌てたのに、
あの目に見つめられるとすぐに気持ち良く頭が呆けて、
気が付いたら彼女のことも、この家で暮らすことも、
何もかもが普通で当たり前になっていたんだ。
「ごめんな、お兄さんを利用することになって、でも、村に兵隊さん呼んでもらえて、うちらホンマ助かったわぁ」
「そんな……まさか……」
利用、兵を集めるための、なんということだ。
つまり私は、仲間たちを待ち伏せや罠の類におびき寄せてしまったのか。
「えへへ、これで村の皆にお婿さんができるわ、おおきにな」
「…………はい? お婿?」
「せや、これから忙しゅうなるでぇ、結婚式とか挙げたがるやつもいるやろし、ズコバコに夢中になりすぎて何か月も引きこもる輩がいたら引っ張り出さなならんし」
「結婚式? いや、ズ、ズコバコってそんな……待って、何か月も?」
騙されていたというショックと、
自分たちをどうするつもりなのかという恐怖が、突拍子もない言葉に霧散する。
「あはは、お兄さんポケっとした顔、別に目ぇの力は使ってないで?」
「ええと……せ、説明、詳しくお願いします」
なんかもう、心配していたような物騒なことにはならない気がする。
本当に目の力とやらが使われていないか確証はないけれど、
彼女たちに酷いことをされるところを、
私はどうにも想像できなくなってしまっていた。
「魔王の代替わりに魔物の女性体化、そして人間の男性を番にですか」
「いろいろ言うたけどな、うちらは人間さんと仲良うしたいだけなんや」
たしかにそんなこと、言われるだけでは信じられるわけがない。
いや、だからといって暗示だの性的に襲うだの信じさせる方法に問題は大有りだが、
とにかく酷いことにはならないようで安心した。
「……お兄さん、よう信じてくれるなぁ、魔物の……ウチのこと、怖がられたらどうしよう思ってて……ウチも、ちょっと怖かったんや」
「……大丈夫ですよ、急に言われていれば困っていたでしょうけれど、だいぶ一緒に暮らしてましたから、怖いというのも今更です」
たしかに魔物とは認識できていなかったが、
一緒の家で、村の人たちの顔も覚えるほど暮らしてきたのだ。
正直に言えば、まだ完全に信じ切れたとは言えないけれど、
それでも怖いとは思えない、彼女を、怖いだなんて思いたくはない。
「ふふ、嬉しい……嬉しいなぁ……信じてくれてありがとな」
「わ……いや、まあ、ええと……」
ぽふ……っと、不意に彼女が頭を胸元に預けてくる。
あの、そんなことをされたら、ふわりといい匂いか鼻をくすぐってきて、
頭がクラクラして、どうすればいいのかわからなくなってしまうのですが。
「あらら、これだけでお兄さんのドキドキすごいで、だめやないか、ここからチュウしてギュッとして、押して倒してアハンウフンしてくれなならんのに」
「ま、待って、そ、そんな急に心の準備がですね……いや、その前に兵隊が来ているんですよ?」
たしかに、まごうことなく惚れてしまっていて、
どことなくそういう雰囲気漂う状況ではあるが、
魔物についての、驚くような話を聞いて冷静ではないし、
今、村に兵が攻めてきているのには変わりないわけで……
「急に、ねえ……お兄さん思い出したんやろ、ウチら毎日一緒に風呂に入って、お兄さんの気持ちいいトコロ、ウチがいーっぱい、なでなでしてあげてたやん」
「あ……いや、その、それは、頭が幸せになってて抵抗できなくて」
毎日、ああ、毎日していた、暗示をかけられて、
何もわからないままに、手で気持ち良くされて、
でもそれは、目の力にどうしようもなくフワフワにされたから……
「せやろ、抵抗でけへんかったやろ、兵隊が来てるいうてもな、村の皆も似たようなことができるんやで」
「え……村の皆、いや、まさか魔物すべてがってことですか?」
「せや、めっちゃ強かったり、変わった能力もってたり、逆らえんくらい美人でエッチやったり、ま、ウチの種族は力ぁ強いてどっかて聞いたけど、誰も気にせんくらいや」
そうだ、あれだけの力を持っている彼女が、
何者でもないただの村人として暮らしているなんておかしい。
しかし、それが魔物にとっての普通であるのなら。
「今頃、兵隊さんたちは押し倒されたり、いろんな能力で気持ち良うされたり、一目見ただけでメロメロに惚れて、いちゃラブエッチしてたりするんやで」
勝てるはずがない、かなうはずがない。
一目見ただけで、自分をあっさりと術にかけて、
頭の中をフワフワと幸せでいっぱいにしてしまう彼女の力が魔物の普通なら、
人間が、抵抗できるわけがない。
「ねえ、お兄さんもそうなろっか、ウチの目ぇの能力で、気持ち良くて逆らえんようになって……えへへ、ラブラブエッチや」
「あ……あの……待っ……ぁぁ……」
言葉が出てこない、見つめられると何も言えなくなる。
綺麗で、吸い込まれそうで、目をそらすこともできなくなる。
あの、蕩けて、何もわからなくなる感覚が思い浮かんで、逆らいたく……なくなる。
「ほら、ウチの目を見るんや、そらしちゃだめやで」
見る、目を見る、そらさない、そらせない、そらしたくない。
ああ、綺麗、本当に綺麗だ、見ていたい、ずっと、ずっと見ていたい。
「気持ち良うなろ、お兄ぃ〜さん、頭とろんとろんになぁれ、じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
あ……
蕩ける……とろける……
頭とろとろ……気持ちいい……
綺麗な目………好き……好き……
「ん……お兄さんええ子……そうやって好きなところ触ってええからね……」
「触る……ああ……ぁ……」
瞳に見とれて陶酔していて物がうまく考えられない。
気が付いたらほわほわとおぼつかない心地で彼女の体に指を這わせていた。
「やん、お兄さんくすぐったい、お腹とか触って楽しいん?」
「ん……すべすべ……好きぃ……」
見つめられて頭がふやけると、口からゆるゆると言葉が漏れてしまう。
すっかり癖になってしまっているけれど止められない。
すべすべのお腹を撫でながらぼんやりと好きを漏らすのが、止められない。
「あ……あは……お、お兄さんがお風呂場で見てた、んぅ……おっぱいやで……ん……ふう……ん……そうや、遠慮せんで……ええよ、じ〜〜〜〜〜」
「うぁぁ……あ……あ……好きぃ……触るぅ……」
指が勝手に彼女の可愛らしい胸を、
肌にまとっている黒い粘膜と合わせてこね繰り回す。
恥ずかしさや戸惑いがわずかにでも生まれると、
顔の一つ目や、触手の目に覗きこまれて、
何に躊躇していたのかもわからなくなる。
「ふああ……さ、触って……もっと……こ、こんな……ん……やぁ……お兄さんに触られると……ひ……うぅ……ん……き、気持ちええ」
何もわからない、どうすることもできない。
瞳の力にとろかされて、耳をくすぐる艶声に促されるままに、
熱く濡れた、大事な、大事なところも、
ぼんやりと呆けた心地で、そうしたいがままに練りまわす。
ああ……好き……
触ると柔らかいの……好き……
気持ち良さそうな声……好き……
目……好き……見るの……好き……
吸い込まれる……綺麗……ぼんやりする……
ずっと見る……ずっと見てる……好き……好き……好き……
「え、えへへ、お兄さん、ウチもう我慢でけへんわ……ちょい、顔貸して、目ぇ見て」
「…………ぁ…………?」
頬に両手が添えられ、これ以上にないくらいに近くで、
しっかりと視線を合わせられる。
「お兄さんはぁ、もうなんもわからんくなるくらいに頭ぁぽやぽやふやふやで幸せにな〜る……じ〜〜〜〜〜」
「ぁ…………〜〜〜……」
辛うじて思考できたのは瞳に今までにない不思議な光があふれたということだけ。
あとはもう……ただただ何もかもが蕩けて幸せなだけ……
「お兄さんに気持ち良くなってもらうためだけの本気の暗示やで、ふふ、ウチの目ぇを見ているだけでどんどん幸せにな〜る……じ〜〜〜〜〜」
今、何も考えていない。
怪しく光る瞳の中に意識とか心とかが吸い込まれて、
綺麗なところで幸せにされているので体がお留守だ。
キラキラとした光に囚われてずっと見惚れるだけになってしまっている。
「……お兄さん、ここ、入れて……じ〜〜〜〜〜、なんも考えんくて……ええから……じ〜〜〜〜〜」
何をしているんだろう……
体がなにかしようとしている気がするけど……
わからないし……幸せだから……止められない……止めたくない……
「……大好きやで……お兄さん……んっ! ッ〜〜〜〜〜!!!!!」
……あ……体も気持ち良くて幸せな中に入った……
すごい……全部とろとろで……気持ちいい……幸せ……
「お兄さん……お兄さん……もっと幸せになるぅ……もっと好きになるぅ……も、もっとぉ……あ、あは……もっともっとぉ!」
「あ……あ……幸せ……好き……あああ……もっとぉ」
好きと、幸せと、気持ちいいが、
ひたすら呆けた頭の中を通り過ぎていく。
ただただ、それが流れてくるのを受け入れるしかできない。
ぼーっとして、とろけて、ふやけて、
気持ち良くて幸せで好きで好きで大好きで、
見てるだけ、見てるだけ、綺麗、綺麗、
わからない、我慢できない、なにが我慢できないのかもわからない。
吸い込まれる、綺麗な中に吸い込まれてわからない。
……あ……気持ちいい……
「や……ッ!? アッ〜〜〜〜〜ンンンンン〜〜〜〜〜!!!」
気持ちいい……なにかが出てる……ドクドクと……
ぼんやりして……考えられない……
気持ちいい……気持ちいい……
ああ……大丈夫かな……大好きな人が……ビクビクしてる……
「……ん……んふ……大丈夫や……気にせんでええからねお兄さん……じ〜〜〜〜〜」
……あ……気にしないで……いい?
……大丈夫……みたい……良かった……
「えへへ……心配してくれてありがとな、お兄さん……お礼や、もういっちょ、気持ち良うな〜れ、じ〜〜〜〜〜」
「あ……ふぁぁ……あ……」
ふわりと、また心がぼんやりとした気持ち良さに包まれる。
この、綺麗な目を見るとそうなる、それ以外は気にしなくていい。
ずっと見る……見てていい……見ていたい……
ああ……綺麗……綺麗……好き……好き……
…………大好き…………
おしまい
「あ、これはどうも……ああ、美味しい……生き返りますね」
差し出された暖かいお茶の、
ほのかな甘みを感じる安らぐような風味にほっと息をつく。
「ありがとうございます、私のような何処の者とも知れない旅人にこんなに親切にして頂いて……」
「ああ、そういう堅苦しいのはええのええの、困った時はお互い様や」
……なんだか不思議な人だ、誰かの世話になるつもりは無かったのに、
大きく、吸い込まれそうな瞳をスっと細めて見つめられると、
引き込まれるというか、それを見つめ返すことで頭がいっぱいになって、
見とれているうちに話が進み、一泊の恩にあずかることになってしまったのだ。
「こんな山奥まで歩いてくるんはしんどかったやろ、疲れもとらな魔物の村も探せへんよって、ああ、秘密なんやっけ?」
「ええ、探っていることを魔物に気取られないよう、秘密裏に……秘密……に?」
私は……この辺りに魔物の集落ができたという噂を、確かめるように密命を受けて、
それで、旅人のふりをして……私は、なんでこんなことを喋って……?
「ふふ、気にしちゃあかんよ、ほれ、うちの目ぇ、見てみ?」
「え……あ……ああ……あ……」
目を見る……目を見る……
吸い込まれる……引き込まれる……
「うちにはなんも隠せない、気にせず何でも喋るんや、それが当たり前や、せやろ?」
隠せない……何でも喋る……
気にしない……当たり前……
「お兄さんかかりやすくてええなあ、ほれほれ、じ〜〜〜〜〜〜っと、な〜んも気にしない、な〜んも気にしない」
気にしない……目……綺麗……
気に……しない……吸い込まれる……
ああ……もっと……もっと……
「へぇ〜、じゃあお兄さんが魔物の報告を上げたり、帰ってこおへんかったりすると、討伐隊とやらがこっちくるんやね」
「ええ、そうです、噂が何かの間違いであってくれればいいのですが」
「ふふ、その噂、まいた甲斐があるなぁ、ええ男が来れば村の皆も喜ぶわぁ」
なんだか、言ってはいけないことを言っている気がするし、
おかしなことも言われている気がするけれど、
でもそんなことは気にせずに、何にも考えずに喋ればいいんだ。
「せやせや、茶ぁ飲みながら喋くってるだけや、なんも気にせんでええんやで」
「そう……ですね……何でもないことを話しているだけ……気にしなくていい……」
「ホンマ、お兄さんはええ子やねぇ、ほい、おまけや、じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
あああああ……綺麗……綺麗……
目……好き……
「ふぃ〜、いいお湯だ、まさかお風呂までいただけるとは」
安宿に素泊まる日々に、時には野宿もしてきた体には、湯の心地が染み入りすぎる。
しかし、薪で沸かすような風呂ではなく、魔道具を使った自動式とは、
こんな山奥の家には贅沢すぎるような……あ、気にしない、気にしないんだった。
余計なことは考えず、久しぶりのお風呂を楽しもう。
「お邪魔しちゃうで〜、お湯加減のほうはどうや?」
「え? ……な、な、な、いけない! いけません! 女性が男に裸体をさらすなんて「じ〜〜〜〜〜」……あ……あ……?」
「な〜んもいけんくないよ、さ、背中流したるからこっち来ぃ?」
いけなく、ない、背中を流してもらう、だけ。
促されるままに体を預けつつも、なぜだろう?
とても嬉しくて、でもとても恥ずかしくて、
そしてやっぱり、とてもいけないことをしているような……
「ねぇ、うちの目ぇの事より恥ずかしいのが気になるん? 真面目さんなんやねぇ」
……目? 気にするって何のことだろう?
こんなにも、ずっと見つめていたくなるたくさんの素敵な……
「ほんなら、もっとかけたろかな、ほれほれ、頭ん中ふわんふわんになぁ〜れ」
「かけるって? ……ぁ……ふゎ……ぁ……ぁ……」
心が惚ける、何もわからなくなる。
頭の中に、気持ち良くなるという指示が与えられて、それに逆らえない。
ああ、もうどうでもいい、ずっと見ていたい。
何もかもが、瞳に吸い込まれていく。
「そのまま気持ち良〜くとろけててええよ、うちの体で、よ〜く洗ったるからなぁ」
抱きつかれて、柔らかい女性の肌をヌルヌルと擦り付けられる感覚が心地いい。
石鹸とはどこか違うこのヌルヌルはなんだろう、とか。
今は、背中を預けているのにどうやって目を見つめているのだろう、とか。
そんな疑問が脳裏をよぎっても、
ふわふわとした不思議な気持ち良さにかき消されていく。
「ふふふ、お兄さんのマラん棒もご立派様になってきたでぇ、な〜で、な〜で、く〜ちゅ、く〜ちゅ、もっと大きゅうな〜あれ」
「あ……あ……ぁぁぁ…………」
やわやわゆっくりと、ぬるんだ手を使われて撫でこすられる。
じらすように与えられる快楽が上ってきて、
わずかに心に残る、こんなことをしてはという気持ちもどんどん瞳に吸い取られて、
気持ち良くて気持ち良くてどうしようもなくなって、
ぼんやりと何もわからないまま、ただただ高められていく。
わからない……気持ちいい……
気持ち良くて……わからない……
ああ……綺麗……綺麗……
目に吸い込まれる……たくさん……たくさんの目に見られて……
あ……気持ちいい……もう……出る……
「……ん……ん……ふふ、出た出た、ああ……これが男の人の……お兄さんの……」
「……ぁぁ……うぁぁ……」
快楽を吹き出す脈動以外にはなんの力も入らない、
脱力しきった緩やかな絶頂にとろけてしまう。
「……ぁ、おいしい……あかん、これクセになってまう……」
すべてを出し切るまで優しく弄ばれ、
その手に粘りついたそれを舐めとられるのが気恥ずかしくても、
頭が何も考えてくれず、それを止めることもできない。
「えへへ、お兄さんの味、覚えてもうたわ、ほな、このことも気にせんようにな」
……気にしない……目……綺麗……
大きい瞳に……吸い込まれる……一番……大きい瞳に……ああ……好き……
「あ、帰ってきた! ねえねえ、うまくいったの?」
「バッチリやで、兵隊さんぎょうさん連れてくるらしいで」
「ほぉ〜……いいねえ、腕が鳴るじゃねえか」
……ええと、私は何をしていたんだっけ?
そうだ、実は魔物の住処に心当たりがあり、見かけたことすらあるということで、
彼女を連れてそれを中継ぎ役の伝令に報告し終えて、村に帰ってきたところだった。
あとは伝令から本部へ情報が上がれば、兵たちが派遣されてくるだろう。
「さて、どう可愛がってやろうか、先に考えとかねえと食いっぱぐれるかもな」
「いやいや、さすがに村の皆に行き渡るぐらいは来るやろ」
「でもなぁ、どうせ、よその娘達も集まるでしょ、男の話にはみんな耳が早いから」
「まあ、確かになぁ……ふふ、ウチにはいらん心配やけどな」
今、彼女が村の人と何を話しているのかは、やはり気にしなくていい気がする。
私は討伐隊が来るまでに魔物に動きがないか見張るため、
協力者となってくれた彼女と一緒に暮らせばいいのだから。
「他人事か畜生め! ……な、なあ、時にアレだ、その男とはその……ヤったのか?」
「あ! そうそうそう! ね、ね、どんな感じだった? 凄かった?」
「いや、ちょっちな、出したのごっくんはさせてもろてるんやけど、生本番はまだ……」
……そういえば、伝令が彼女を見たとき、
一瞬、やたらと驚いた顔をしていたような気がする。
すぐに平静に戻ったようだが、あの驚き様は少し異常だったな。
「なんだよじれってえな、お前も女なら押し倒してガツンとだな」
「そうしてもええんやけどな、どうせならじっくりと、もう術なしでもゾッコンメロメロに堕としてやってからな……」
「え〜、いいな、いいな、あたしも彼氏といつヤるかジレジレしたいな〜」
いったい何に驚いていたのだろうか、彼女はこんなにも普通なのに、
……いや、もしや彼女のあまりの可憐さに驚いたのでは、
まあ当然かもしれない、宝石もかくやの美しさを誇るその瞳を見れば、
私と同じように惚けてしまうものだろう。
男として当然だ、気持ちは大いにわかる……が、なにやらとても胸がモヤモヤする。
ううむ、どうにも不快だ、この気持ちはいったい何なのだろうか。
「……えへへ、なんかこの人、変なこと考えとるみたいやからもう帰るな」
「ん〜? よくわからないけどもう術いらないんじゃないかな? お幸せに〜」
「あんま焦らしてやらずに早くキめてやれよー」
腕を引かれて、慌ててついていく。
どうにも心の整理がつかない、なぜだろう、思い当たるところはないし、
あるいは、単純に体調が悪いのかも……
「ふふ、もうちょいと待ってぇなぁ、事が終わったら説明したるから、じ〜〜〜っと」
ああ……またなんだか……フワっとして、ぼ〜っとなって、どうでも良くなって……
……綺麗……好き……
「……お兄さん、ウチのことそないにぽけ〜と見つめてどしたん? 惚れてもうた?」
「へ? あ、その……いやいや、なんでもないですよ」
最近、ふと気が付くと彼女に見惚れていることが多くなってしまった。
どうしてもその綺麗な瞳に目線を引き付けられてしまうのだ。
それによく思い出せないが、彼女の目を見つめていると、
うまく言い表せない不思議な気持ちになるような……
「まあ、ホンマはわかっとるけどなぁ、ほれ、喋りたくな〜る、じ〜〜〜〜〜」
「うぁ……あ……えっと……なんだか……見てると……幸せになる……から……」
ああ……そうだ……これ……幸せ……なんだか……幸せになる……
見てるだけで……なんでだろう……?
でもいいんだ……気にしないでいい……わからなくていい……
見つめているだけで幸せになる……何も考えられずに見ているだけになる……
「せやろなぁ、ウチの目ぇ見ると、頭ぁ気持ち良ぅくなって、ふやけるように暗示をかけとるからね、もうお兄さん、癖になってしもうたかな?」
「癖……癖になる……目ぇ見るの……好き……」
自分は、何を言っているのだろう……
口がとてもゆるくて……変なことを言っているような……
でも幸せ……見ているだけで幸せ……
「ウチの力、気に入ってくれて嬉しいわぁ、ほんなら、今日はのんびりウチの目ぇ見ててええで、じ〜〜〜〜〜」
「あ……あ……好き……好き……見るの……好きぃ……」
すっと見ていい……見つめ合う……
ああ……ああ……幸せ……幸せ……綺麗……綺麗……好き……好き……
「……ウチの力が好きなんも嬉しいけどなぁ、ウチ自身のことも好いてくれてたら嬉しいなぁ、なんて、ふふ」
…………好きぃ…………
カン! カン! カン! カン!
「オラァお前ら集まりやがれぇ! お待ちかねの野郎共が来たぞ! 一人残らずお迎えして差し上げろぉー!」
すっかり自分の物のように馴染んでしまった部屋でくつろいでいるときに、
突然の鐘の音と大声に何事かと慌てそうになったが、
すぐに討伐隊が来たのだと思い至る。
いや、落ち着いている場合ではない、すぐに彼女を連れて逃げなければ……?
待て、彼女は……彼女は普通だから逃げる必要はないはず、
そうだ、討伐隊を呼んだのは私たち二人じゃないか、逃げることなんてない。
ああでも、魔物の村に住んでいるのだから疑われてしまうかも、
……魔物の村……? いや。ここは普通の村で……みんな……みんな、普通で……
「おーおー、張り切っとるなぁ、この村も賑やかになりそうや」
「あ……は、早く逃げましょう、大丈夫のはずですが念のため、そう、念のためです」
普通だから大丈夫かもしれないけれど、巻き込まれる可能性もあるのだ。
念のためなのだから何もおかしくはないはずだ。
「あはは、なんも心配いらんよ、じ〜〜〜〜〜、ほぉら……大丈夫……大丈夫……」
「しかし……あ……ぁ……」
吸い込まれる……吸い込まれる……
大丈夫……でも、逃げなきゃ……でも、大丈夫……?
ああ……瞳に吸い込まれて……何もわからない……
綺麗……好き……好き……ああ、あああああ……駄目! 駄目だ!
「うう……逃げ、逃げましょう……」
「あ、あれ? おかしいなぁ、ほ、ほら、怖くあらへんよ」
「うぁ……あぅ……」
怖くない……大丈夫……
蕩ける……何も考えられなくなっていく……
綺麗……心が……綺麗な瞳の中に囚われる……
好き……好き……好き……見ていたい……ずっと見ていたい……ぁ……だから……
「……ぁ……逃げて……あぁ……逃……げて……」
「ん〜、こないに抵抗されるん初めてや……どしたん? 話してみぃ、じ〜〜〜〜〜」
何故……? なんでこんなに抵抗? しているんだろう……?
ああ……綺麗だから……好きだから……
話す……話さなきゃ……
「……好き……貴女が……好きだから……」
「…………ふぇぇ? な、なんやて?」
「好きだから……ずっと見ていたいから……だから……貴女に何かあったら私は……」
「……あ……うわ……好きて……そっか、ウチのためにそないに耐えてくれてるんやな……あかん、嬉しすぎるわ……」
「あああ……好きぃ……逃げてぇ……」
もうだめだ……頭がフワフワして……
自分が何を言っているのかもわからない……
どうか……どうか無事で……
「……ええわ、覚悟キメよか、ほい、まずは起きぃや」
「ぁ……あれ? わ、私は何を!?」
今、何を言ったのか、思いっきり告白したような。
いやその、親切にしてもらって、瞳を見つめているとドキドキして、
気が付いたら一緒に暮らしていて、たまに、いや、かなり頻繁に、
見惚れて何もわからなくなったりしているが……うぁー……うん、ダメだな。
「皆が仲良ぅなったとこ見てもらってから解こぅ思っとったんやけどな、今、ホントの所ぉ教えるわ……ふふ、メロメロにはなってくれたみたいやし」
「そ、それは何というか勢いで、ああもう……しかし、教えるとは?」
気恥ずかしくてしょうがないがひとまず置いておこう。
いったい何を教えるというのだろう?
今は逃げることを優先するべきだと思うのだが。
「うん、ちょいそっちも覚悟してぇな……気づいてええで」
「……? ………え? …………ッ!?!?!?」
……目が……彼女の目が一つしかない。
片目ではない、一つ目、あれはどう見ても元からだ、顔の中央に大きく一つ……?
違う、背中にも、触手? すべてに、目がついて……
そんな……そんな……つまりは…………魔物。
「うちな、ゲイザーっていう魔物でな、この目で暗示ってのをかけられるんや」
暗示……思い出した、森で偶然出会ったときは、
一つ目にも触手にも気づいて慌てたのに、
あの目に見つめられるとすぐに気持ち良く頭が呆けて、
気が付いたら彼女のことも、この家で暮らすことも、
何もかもが普通で当たり前になっていたんだ。
「ごめんな、お兄さんを利用することになって、でも、村に兵隊さん呼んでもらえて、うちらホンマ助かったわぁ」
「そんな……まさか……」
利用、兵を集めるための、なんということだ。
つまり私は、仲間たちを待ち伏せや罠の類におびき寄せてしまったのか。
「えへへ、これで村の皆にお婿さんができるわ、おおきにな」
「…………はい? お婿?」
「せや、これから忙しゅうなるでぇ、結婚式とか挙げたがるやつもいるやろし、ズコバコに夢中になりすぎて何か月も引きこもる輩がいたら引っ張り出さなならんし」
「結婚式? いや、ズ、ズコバコってそんな……待って、何か月も?」
騙されていたというショックと、
自分たちをどうするつもりなのかという恐怖が、突拍子もない言葉に霧散する。
「あはは、お兄さんポケっとした顔、別に目ぇの力は使ってないで?」
「ええと……せ、説明、詳しくお願いします」
なんかもう、心配していたような物騒なことにはならない気がする。
本当に目の力とやらが使われていないか確証はないけれど、
彼女たちに酷いことをされるところを、
私はどうにも想像できなくなってしまっていた。
「魔王の代替わりに魔物の女性体化、そして人間の男性を番にですか」
「いろいろ言うたけどな、うちらは人間さんと仲良うしたいだけなんや」
たしかにそんなこと、言われるだけでは信じられるわけがない。
いや、だからといって暗示だの性的に襲うだの信じさせる方法に問題は大有りだが、
とにかく酷いことにはならないようで安心した。
「……お兄さん、よう信じてくれるなぁ、魔物の……ウチのこと、怖がられたらどうしよう思ってて……ウチも、ちょっと怖かったんや」
「……大丈夫ですよ、急に言われていれば困っていたでしょうけれど、だいぶ一緒に暮らしてましたから、怖いというのも今更です」
たしかに魔物とは認識できていなかったが、
一緒の家で、村の人たちの顔も覚えるほど暮らしてきたのだ。
正直に言えば、まだ完全に信じ切れたとは言えないけれど、
それでも怖いとは思えない、彼女を、怖いだなんて思いたくはない。
「ふふ、嬉しい……嬉しいなぁ……信じてくれてありがとな」
「わ……いや、まあ、ええと……」
ぽふ……っと、不意に彼女が頭を胸元に預けてくる。
あの、そんなことをされたら、ふわりといい匂いか鼻をくすぐってきて、
頭がクラクラして、どうすればいいのかわからなくなってしまうのですが。
「あらら、これだけでお兄さんのドキドキすごいで、だめやないか、ここからチュウしてギュッとして、押して倒してアハンウフンしてくれなならんのに」
「ま、待って、そ、そんな急に心の準備がですね……いや、その前に兵隊が来ているんですよ?」
たしかに、まごうことなく惚れてしまっていて、
どことなくそういう雰囲気漂う状況ではあるが、
魔物についての、驚くような話を聞いて冷静ではないし、
今、村に兵が攻めてきているのには変わりないわけで……
「急に、ねえ……お兄さん思い出したんやろ、ウチら毎日一緒に風呂に入って、お兄さんの気持ちいいトコロ、ウチがいーっぱい、なでなでしてあげてたやん」
「あ……いや、その、それは、頭が幸せになってて抵抗できなくて」
毎日、ああ、毎日していた、暗示をかけられて、
何もわからないままに、手で気持ち良くされて、
でもそれは、目の力にどうしようもなくフワフワにされたから……
「せやろ、抵抗でけへんかったやろ、兵隊が来てるいうてもな、村の皆も似たようなことができるんやで」
「え……村の皆、いや、まさか魔物すべてがってことですか?」
「せや、めっちゃ強かったり、変わった能力もってたり、逆らえんくらい美人でエッチやったり、ま、ウチの種族は力ぁ強いてどっかて聞いたけど、誰も気にせんくらいや」
そうだ、あれだけの力を持っている彼女が、
何者でもないただの村人として暮らしているなんておかしい。
しかし、それが魔物にとっての普通であるのなら。
「今頃、兵隊さんたちは押し倒されたり、いろんな能力で気持ち良うされたり、一目見ただけでメロメロに惚れて、いちゃラブエッチしてたりするんやで」
勝てるはずがない、かなうはずがない。
一目見ただけで、自分をあっさりと術にかけて、
頭の中をフワフワと幸せでいっぱいにしてしまう彼女の力が魔物の普通なら、
人間が、抵抗できるわけがない。
「ねえ、お兄さんもそうなろっか、ウチの目ぇの能力で、気持ち良くて逆らえんようになって……えへへ、ラブラブエッチや」
「あ……あの……待っ……ぁぁ……」
言葉が出てこない、見つめられると何も言えなくなる。
綺麗で、吸い込まれそうで、目をそらすこともできなくなる。
あの、蕩けて、何もわからなくなる感覚が思い浮かんで、逆らいたく……なくなる。
「ほら、ウチの目を見るんや、そらしちゃだめやで」
見る、目を見る、そらさない、そらせない、そらしたくない。
ああ、綺麗、本当に綺麗だ、見ていたい、ずっと、ずっと見ていたい。
「気持ち良うなろ、お兄ぃ〜さん、頭とろんとろんになぁれ、じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
あ……
蕩ける……とろける……
頭とろとろ……気持ちいい……
綺麗な目………好き……好き……
「ん……お兄さんええ子……そうやって好きなところ触ってええからね……」
「触る……ああ……ぁ……」
瞳に見とれて陶酔していて物がうまく考えられない。
気が付いたらほわほわとおぼつかない心地で彼女の体に指を這わせていた。
「やん、お兄さんくすぐったい、お腹とか触って楽しいん?」
「ん……すべすべ……好きぃ……」
見つめられて頭がふやけると、口からゆるゆると言葉が漏れてしまう。
すっかり癖になってしまっているけれど止められない。
すべすべのお腹を撫でながらぼんやりと好きを漏らすのが、止められない。
「あ……あは……お、お兄さんがお風呂場で見てた、んぅ……おっぱいやで……ん……ふう……ん……そうや、遠慮せんで……ええよ、じ〜〜〜〜〜」
「うぁぁ……あ……あ……好きぃ……触るぅ……」
指が勝手に彼女の可愛らしい胸を、
肌にまとっている黒い粘膜と合わせてこね繰り回す。
恥ずかしさや戸惑いがわずかにでも生まれると、
顔の一つ目や、触手の目に覗きこまれて、
何に躊躇していたのかもわからなくなる。
「ふああ……さ、触って……もっと……こ、こんな……ん……やぁ……お兄さんに触られると……ひ……うぅ……ん……き、気持ちええ」
何もわからない、どうすることもできない。
瞳の力にとろかされて、耳をくすぐる艶声に促されるままに、
熱く濡れた、大事な、大事なところも、
ぼんやりと呆けた心地で、そうしたいがままに練りまわす。
ああ……好き……
触ると柔らかいの……好き……
気持ち良さそうな声……好き……
目……好き……見るの……好き……
吸い込まれる……綺麗……ぼんやりする……
ずっと見る……ずっと見てる……好き……好き……好き……
「え、えへへ、お兄さん、ウチもう我慢でけへんわ……ちょい、顔貸して、目ぇ見て」
「…………ぁ…………?」
頬に両手が添えられ、これ以上にないくらいに近くで、
しっかりと視線を合わせられる。
「お兄さんはぁ、もうなんもわからんくなるくらいに頭ぁぽやぽやふやふやで幸せにな〜る……じ〜〜〜〜〜」
「ぁ…………〜〜〜……」
辛うじて思考できたのは瞳に今までにない不思議な光があふれたということだけ。
あとはもう……ただただ何もかもが蕩けて幸せなだけ……
「お兄さんに気持ち良くなってもらうためだけの本気の暗示やで、ふふ、ウチの目ぇを見ているだけでどんどん幸せにな〜る……じ〜〜〜〜〜」
今、何も考えていない。
怪しく光る瞳の中に意識とか心とかが吸い込まれて、
綺麗なところで幸せにされているので体がお留守だ。
キラキラとした光に囚われてずっと見惚れるだけになってしまっている。
「……お兄さん、ここ、入れて……じ〜〜〜〜〜、なんも考えんくて……ええから……じ〜〜〜〜〜」
何をしているんだろう……
体がなにかしようとしている気がするけど……
わからないし……幸せだから……止められない……止めたくない……
「……大好きやで……お兄さん……んっ! ッ〜〜〜〜〜!!!!!」
……あ……体も気持ち良くて幸せな中に入った……
すごい……全部とろとろで……気持ちいい……幸せ……
「お兄さん……お兄さん……もっと幸せになるぅ……もっと好きになるぅ……も、もっとぉ……あ、あは……もっともっとぉ!」
「あ……あ……幸せ……好き……あああ……もっとぉ」
好きと、幸せと、気持ちいいが、
ひたすら呆けた頭の中を通り過ぎていく。
ただただ、それが流れてくるのを受け入れるしかできない。
ぼーっとして、とろけて、ふやけて、
気持ち良くて幸せで好きで好きで大好きで、
見てるだけ、見てるだけ、綺麗、綺麗、
わからない、我慢できない、なにが我慢できないのかもわからない。
吸い込まれる、綺麗な中に吸い込まれてわからない。
……あ……気持ちいい……
「や……ッ!? アッ〜〜〜〜〜ンンンンン〜〜〜〜〜!!!」
気持ちいい……なにかが出てる……ドクドクと……
ぼんやりして……考えられない……
気持ちいい……気持ちいい……
ああ……大丈夫かな……大好きな人が……ビクビクしてる……
「……ん……んふ……大丈夫や……気にせんでええからねお兄さん……じ〜〜〜〜〜」
……あ……気にしないで……いい?
……大丈夫……みたい……良かった……
「えへへ……心配してくれてありがとな、お兄さん……お礼や、もういっちょ、気持ち良うな〜れ、じ〜〜〜〜〜」
「あ……ふぁぁ……あ……」
ふわりと、また心がぼんやりとした気持ち良さに包まれる。
この、綺麗な目を見るとそうなる、それ以外は気にしなくていい。
ずっと見る……見てていい……見ていたい……
ああ……綺麗……綺麗……好き……好き……
…………大好き…………
おしまい
21/09/13 22:25更新 / びずだむ