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番外編1 朝、鉄同士がぶつかり合う音が響く訓練場に僕━━フリッツ・フォーゲル・インリアスはいる。 ここは城の中にある訓練場、『アレイスト』にあったものとはくれべものにならないほど設備が充実しているから僕としては嬉しい限りだけど。 ハヤテとアンバーシュタッドさんが旅に出てもう二ヶ月か…僕もあれから色々とあったなぁ…。 ハヤテがいなくなってから半月が経ったとき、城から召集がかかった。 そこでなんと僕は騎士の称号と卿の資格を得た。 なんでもこの歳で現役の騎士を模擬戦とはいえ倒したことが考慮されたらしい。 ふっ、僕としては当然の結果だと思っているけどね。 まぁ、この歳で騎士の称号はともかく卿の称号は少し早いから親が変わりに所持してもらっているけど。 そういうわけで僕はこの歳で称号を得たことでちょっとした有名人になった。 名が売れたことで嫉妬から闇討ちかけてくるような馬鹿もいたけど、称号を貰った実力を舐めないでもらいたかったね。 それよりもだ、同じように騎士になった僕のことが気に食わないのか模擬戦の時には絶対に僕を指名する女性がいるんだよね。 でも腕は僕よりも未熟で今のところ僕が全戦全勝してるけどね。 まったく、弱いなら来なければいいのに…。 ああ、今戦っていた騎士の勝敗が決したな。 次は僕か。 「…」 僕の目の前に立ったのは金髪を短くして誰もが振り返るであろう美貌を持った、おおよそ騎士には向かないはずの女性、そのせいか相貌がいささか鋭い気がする。仲間内ではそれがいいって声が多いけど僕はとてもそうは思わない。 実際、闘技場に上がった瞬間に何人か騎士の中から歓声があがった。 しかし騎士達の腐敗が激しいな。 この前なんて賭けに誘われたものだし…。 力だけで入っている能無し共め…。 それでいて虚言妄言を用いて貴族達に取り入ろうとしないのはいいことだがな。まぁそんな知恵はないだろうけど。 さて彼女だが、名前は『エリス・スウェンベルグ・アーセルライト』、姉はこの前魔物の討伐隊の隊長に任命された勇者がいるんだったかな。 まぁ僕には関係のないことだ。 彼女も飽きないな…。 「今日こそ私が勝ちます!」 「果たしてできるかな?」 「(カチン!)」 僕の言葉に腹を立てたのだろう、分かりやすい性格だ。 それでも冷静さを欠けないのは賞賛すべきかな? まぁ、腕自体は上がっても同じように僕も上がってるから負けることはないんだけどね。 そう、僕も強くならないといけない。ハヤテ達と会ったときに恥ずかしくないように。 何度か剣をぶつけた後、僕は彼女の剣を弾き飛ばし、その首元に剣を這わせた。 「!」 「チェックメイトだよ」 おっと、そんなに睨まないでくれ。僕だってまじめに戦ってるんだ。まぁどんな女性であれ傷つけたく何も事実だから怪我をさせないようにはしたけど。 「君も飽きないね。僕を一つの指標にしてもらえるのはうれしいけどさ」 「[ギリ…]」 おお怖い。歯軋りが聞こえてきたよ…。 それにしても何故彼女はここまで僕を目の敵にするんだろうか? そんなことを模擬剣を立て掛けながら考えてみる。 そもそも彼女とであったのは任命式の時だ。 卿の称号もその時同時に貰ったからそれでなのか? いやはや女性というのはまったく分からない…。 朝の訓練が終わった後、僕の所属する部隊の隊長から国王陛下から命令があるから昼食が終わった後に応接間の前に集まるようにと伝達があった。 新しい任務だろうか?だとしたら手柄を立てるチャンスだ。まぁ僕以外にも同じ考えのやつがいるだろうけど…。 なぜか隣にいたアーセルライトさんを見ると嬉々としたような、それでいて苦虫を噛んだような微妙な表情をしていた。 どうしたのだろうか? 声をかけると一悶着おきそうだったからやらないけど…。 … 昼食の後、僕等は10人ほどで応接間の中で膝を立てて謁見していた。 近衛兵達が監視し、王が僕等を見つめる中、僕達は大臣から命令を受けた。 「━━であるので『アクトポ』において魔物を捕まえてきてもらいたい。あそこは魔物の数が爆発的に増えており、こちらまで流れてくるものがいるほどである。よって、その発生源の一つたる『アクトポ』で魔物を捕らえろ。これが貴君等最初の任務となる。気負いせずに励んでくれ」 「皆の者、余は期待しているぞ」 最後に王から激励を貰い僕等は準備のため兵舎へ向かった。 「…足手まといにならないでくださいよ?」 兵舎についてすぐアーセルライトさんがそんなことを言った。 やれやれ、彼女も困ったものだね。 でも言われっぱなしだと僕もいやだから最低限皮肉を言わせて貰うよ 「僕より強くなってから言ってもらいたいね」 「…ふん」 分が悪いと踏んで下がってくれたのはいいけど…幸先悪いな…。 …… 丁度一時間後、護送馬車に乗り、僕等は出発した。 まぁいくら馬車があるとはいっても御者台に乗る人以外は全員歩きだけどね。でも、アーセルライトさん含めた何人かは中に入っていた方がいいんじゃないかな? そう思って提案してみたけど反対されたよ、しかも女性の方々から。 まったくそろいもそろって律儀だねぇ…。いやはや恐れ入るよ。 昼頃に出発したためか、『アクトポ』に到着したのは夜になっていた。 だが、『アクトポ』内には入らず、外で野宿することとなった。 隊長が言うには訓練のためでもあるらしい。 「いいか、貴様等が行っていた野営訓練は国内で行われ、厳密には野営訓練とは言い難い。よって今回はここを野営地とし、二名が水汲み、三名が調理、四名が野営地作りをしてもらう。作業にかかれ」 隊長の指示で分かれた僕は何故か水汲みにいったアーセルライトさんを追って近くの川まで来た。 「貴方も来たの…」 「女性を一人で汲みに行かせるような男じゃないんでね」 「…私に気があるなら止めておいた方がいいわよ?私は貴方のことが嫌いだから」 「これは手厳しいね。でも僕は女性全員を幸せにするつもりでいるからね」 「そう、勝手にしたら?」 おういうと彼女は早々に話を切り上げ、木桶を両手に持って野営地に戻っていった。 僕も早くしないと隊長にドヤされかねないな…。 …… 翌朝、僕等は『アクトポ』内に入っていた。 「では、これよりペアを作り、魔物と判断したら問答無用でつれて来い。我等には主神より大義名分が与えられている!心置きなく化物どもを狩りつくせ!」 「「「「「おう!」」」」」 ああ、初任務がこんなにも気持ちのいいものとは思わなかった。 僕はもちろんアーセルライトさんとペアだ。彼女は気難しいからね、僕以外とはペアになってくれないんだよ。 …まぁずっと一人だった僕をハヤテが誘ってくれたからこうしているのかもしれないけど…。 その時、丁度雑貨屋らしきところから見知った女性が出てきたのを見つけ、僕は思い切って声をかけた。 「ユーレンス!?ユーレンス・アンバーシュタッドか!?」 そう、少し前にハヤテと旅に出た女性だ。 最初こそ僕はいい印象を持ってもらえなかったけど、ハヤテのおかげでそれなりに仲良くなったのだ。 「フリッツ!どうしてここに!?」 彼女も僕が来たことに驚いているんだろう、中々見れないような顔をしていた。 でも何か話そうとしたらアーセルライトさんに止められ、しかもなにやらよく分からない男にユーレンスが連れて行かれた。 まぁ彼女が出てきたところの店主らしき人物だったから大丈夫だとは思うんだけど…。 少しして、僕達も魔物を探し始めた。 「潮風って生臭いです。干上がればいいのに」 「お魚が食べられなくなるよ?」 「私はそもそも食べません。お肉で十分です」 「太るよ?」 あ…しまった。女性にこの話題はダメだった! 「…心配要りません。その分動いているので」 …この方には大丈夫だったみたいだ。 さて、当てもなく探してはみるけど…ってなんで突然家の中に入ってるの!?鍵壊しちゃってもう…。 「…クラーケンとスキュラと…インキュバス確保です」 …なるほど彼女はこれを見つけるために鍵を壊してまで中に入ったのか…。 中では何本もの触手に絡みつかれた男性とその繰り手と思われる魔物が二体いた。 三人ともこちらに驚いて身を寄せ合っていた。 それにしても、上半身は美しいのに下半身で萎えてしまうな。 「早く連れ出しましょう。こんな醜いところみたくありません」 「そうだね」 それには激しく同意だ。僕とてあくまで人の子だしね。 やっぱり人は人と付き合うべきだとこのとき痛感したよ。 三体を縄で拘束して護送車に戻ると、他にも多数…ラミアやグール、ハーピーなど…の魔物を捕まえていた。 元男性も多数いるようで、僕はなんとも情けない気分になった。 彼等は人間としての境地を忘れてしまったのかな? まったくもって滅したくなる。 …… その夜、僕等は『ラグネント』に向けてゆっくり進んでいた。 今回捕らえた数は20体に及び、なかなかの成果だった。 隊長も上機嫌で、うまい酒が飲めると意気込んでおり、僕等もそれに連れられ、言い切れぬほどの幸福感に侵されていた。 だが、その慢心がいけなかったのか、突如として暗雲が立ち込め、雷が鳴り始めた。 「ええい、こんなときに…貴様等駆け抜けるぞ!」 隊長の号令で僕等が走り出そうとした瞬間、目の前に雷が落ちて一瞬だけ金色の何かが見えた。 徐々に閃光から立ち直り、目の前にものを確認したが、とても信じられなかった。 それは金色のドラゴンだった。 全てを燃え上がらせるような真紅の相貌、長い胴体に生える一対の翼、強靭な四つの足。 間違いなくドラゴンだ。それもみたことがないような種類の。 「た、隊長!」 「落ち着け!こんなところにドラゴンなんぞおるはずもない!幻覚だ!」 だが、僕を含め全員が隊長の言っていることが信じられなかった。 その圧倒的な存在感が、僕等に現実をありありと見せつけ、隊長の言葉は気休めにもならなかった。 しかも、僕等がすくんでいると突然大きな声が響いた。 「捕らえている者達を置いて去れ人間よ…。我は戦うつもりはない。だが、もし危害を加え、あまつさえ反抗する態度をとればその血で贖って貰う事になるぞ?」 他者を寄せ付けない圧倒的な存在感を持って放たれた言葉に僕等は何もすることができず、突然現れたドラゴンは器用に前足で護送馬車だけを掴み、何処かえと持ち去っていった。 その光景を僕等はただ呆然と眺めているしかできなかった。 翌日の朝、僕等は『ラグネント』に帰り着いていた。 だが、その表情は重く、僕自身もすごく疲れていた。 あのドラゴンがどういう目的だったにせよ、あんなものを野放しにしておけば確実に人に被害が出る。いや、もうすでに出ているかもしれない。 おそらく僕等には追撃の命が下されるだろう。 だからその前に鍛えておかねば…最低限、竦まされないように。
13/11/02 00:41 up
どうもです。 今回は番外編ということでフリッツの一人称でお送りしました。 いっておきますが、あくまでもフリッツの一人称です。彼が言っていることは彼自身そう思っているだろうなというのを妄想していっているだけであって、俺の真意ではありません。 一応いっておきました。 さて、次回は本編に戻ります。 そろそろイベント起こせればいいな… では、またお会いしましょう。 kieto
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