ワイバーンと再会して… BACK

第11話



翌朝、ハヤテ達は康介が営んでいる雑貨屋に来ていた。

昨日、ユーレンスが刀を貰い、彼の呪いを抑制するマジックアイテムをくれたのでその御礼をしにきたのだ。

「すいませ〜ん」

「…は〜イ」

店の奥から康介が出てきた。

「いらっしゃ…ああ、どうしタ?お礼なら別ニ…」

「あ、いえ。それもありますけど、今日発つので…」

「ああ、挨拶に来たわけカ。どうもご丁寧に…ところで、ハヤテ君は『ギルド』の存在は知っているかナ?」

「え?ええ、一応は」

「旅をするんだったら冒険者ギルドに入っていた方が楽だヨ?ギルドの支部があるところだったらいろいろと仕事があるだろうからサ。しかも、魔物でも入れるんだヨ?」

「それはいいですね、そのギルドというのはどこに?」

「そこの通りをまっすぐ右にいけばつくヨ。それじゃあ達者デ」

「はい。ではまた」

ハヤテ達が挨拶を済ませ、冒険者ギルドへと足を運んだ。

ギルドに向かう途中や、康介が営んでいた雑貨屋に向かう途中で小耳に挟んだ話によると、昨日の夜遅くに何者かが捕らえられた魔物達を解放したらしい。

なんでも紅い装甲を纏った旧魔王時代の戦士のような出で立ちだったとか。

だがそんなことはハヤテ達にはどうでもいいことで、彼等はギルドに向かった。

ギルドでは人が数多くおり、ハヤテ達のような旅の者から傭兵らしき者まで多岐に渡っていた。

「すいません、ギルドに登録したいんですけど…」

「あ、新規参入の方ですね、ようこそ冒険者ギルドへ。登録でしたらそこの三番のカウンターへお越しください」

受付で愛想よく振りまいていた女性に言われ、ハヤテ達はそこに移動した。

「ありがとうございます」

今日はあまり新規参入者が少ないのかそこだけガラッとしていた。

「登録に来たんですが…」

「ん?ああ、登録ね。五人分?」

「あ、はい。お願いします」

「面倒くさ」

ダークエルフの女性が頭を掻きながら奥へと消えていき、数分後戻ってきた。

「ほらよ。一応説明すると、前科は問わない。出生国と名前、年齢書けば終わりだ」

ダークエルフに感謝しながら五人は別の机に移って書類を書き上げ、ダークエルフに渡した。

「ちょっと待ってな」

再びダークエルフが奥に引っ込み、先ほどより時間がかかる作業を行ったようで、戻ってきたときには赤い菱形の宝石がはめられた腕輪を持ってきた。

「これがギルド証、はめた時に宝石の色が変わると思うけど、それは魔法の属性を表しているから特に気にする必要はないよ。あと、最初はEランクのミッションしか受けられないから」

「わかりました」

「早速依頼を受けるかい?ちなみに今あるのはどれも採取系ばかりだね」

ダークエルフの女性がハヤテ達の後ろにある依頼の紙が張られた方を指差したが、ハヤテは首を振って断った。

「いえ、今日発つ予定だったので…雑貨屋のご主人に勧められて登録しに来たようなものですから」

「雑貨屋…ああ、あのジパングかぶれの。は〜へ〜ふ〜ん」

「?」

なにやら感心したような声をだしたダークエルフに疑問を抱きながらも、ハヤテ達は町を出た。

一瞬ハヤテは振り返り、また何処かで康介に会うかもしれないと思った。





五人は『アクトポ』を出てから海岸沿いを歩きながら南下していた。というのも、ハヤテがそうしたいといったからだ。

特に断る理由もない四人は黙ってしたがったが、ユーレンスだけは何か隠しているような雰囲気をハヤテから感じ取っていた。

「リーダー今度は南にいくのか?」

「そうだよ、サヤ。ここはちょっと寒いけど、南にいけば温かいからね…」

「へぇ〜」

「ところでハヤテ、今日はどうするの?」

「ん?ああ…スドウさんのところで地図を買ったからこれから決める…かな」

「私にも見せて」

「私達も見たいです」

「じゃあちょっと歩いて、あの森の木陰に行こうか」

ハヤテの指した先には鬱蒼とした森林が広がり、その遥か先に山脈の頂上が見えた。


……


「この辺りで良いかな…」

五人は木陰に移動し、ハヤテが地図を平らな石の上に広げ、五人がそれを覗きこんだ。

「今俺たちがいるのがこの辺り、でこれから森に沿って南にあるこの『ティレス』に向かうつもりでいる」

「そこは何があるのリーダー?」

「う〜ん…『アクトポ』と似たようなとこだけど、多分離れ小島に行くための船があるとおもうよ。ほら、ここに島があるでしょ?」

「おお〜面白そう!」

「綺麗なとこかな?」

「…楽しそう」

三人別々の感想を口にするのを聞きながら、ハヤテは突然大型の鳥が羽ばたくような音を聞いた。音自体は彼等からそう遠くないところから聞こえているようだった。

それと同時にハヤテの中でそこに行かなければならないという使命感にも似た何かを感じ取り、体が勝手に動き出した。

「…行かなきゃ」

「へ?どこに…ってハヤテ!?」

呟いた直後、森に消えたハヤテを追って四人も駆け出した。





ハヤテは森の中を駆け、光が降り注ぐ綺麗な湖畔に出ていた。

「…この辺りに…」

ハヤテが呟いたのに呼応するかのように上空から羽ばたくような音が聞こえてきた。

ハヤテが見上げると、一匹のワイバーンが旧魔王時代の姿で舞い降りてきた。

ワイバーンは湖畔に下りてくると同時に人化した。

ハヤテは初めて会ったはずのその姿に見覚えがあった。性格には、その首に巻いたスカーフ状のものにだが。

「…君は…」

「ん?……え?えぇ〜〜!?」

突然ワイバーンが驚いたように叫んだ。

「なななんでここにあんたが!?」

「やっぱり君は僕が昔助けたワイバーン…?」

「いやまぁそうだけど…じゃなくて何であんたがここに!?あんた国にいるんじゃなかったの!?」

「へ?いや…色々あったから…」

「…というか、それって『大人』になったってことよね?」

徐々に冷静さを取り戻していったようで、ハヤテに詰問するような口調に変わっていた。

「?どういうこと?」

「…あ、そっか知らないんだよね…今って非童貞?」

「へ?そうだけど…」

「ふ〜ん、へ〜そう…ま、しょうがないか…」

突然何を言い出すのかとハヤテは疑問に思ったが、ワイバーンは納得したように頷いた。

「また会ったわね、久しぶり。再会できて嬉しいわ」

「…うん、俺も嬉しいよ」

「まさか私を差し置いて童貞をささげるような相手がいたことに驚いてるけどまぁいいわ。こうやって早く探しに来てくれたわけだし…」

「…もしかしなくても怒ってる?」

「そりゃね…その辺りは聞かないことにするわ」

「いままでどこにいたの?」

「ずっと飛び回ってたよ…でも、私はまだ貴方と一緒に行けないんだ」

「なんで!?」

「…しきたりなんだ。15歳に…一週間待って欲しいんだ」

「…しきたりなら仕方ないね…わかった、一週間後…どこ?」

「向かい側の山脈に一際大きいポプラの木があるからそこでどう?」

「いいよ。一週間後、楽しみにしてるから」

「私も…」

「ハヤテ〜?どこ〜?」

草を掻き分けて、ユーレンス達がやってきた。

「…あ、ユーリ。ごめんね突然走り出したりして…」

「ふ〜ん…あいつがそうなんだ…」

まるでユーレンスを品定めするようにワイバーンが呟いた。

「…じゃあね」

「…うん」

短い問答の後、突風が吹き上がり、ワイバーンはその風に乗りながら姿を変え、巨大な竜となって何処かへ飛び去ってしまった。



◆◆◆◆『ワイバーン』視点◆◆◆◆


…スッゴく緊張した…!

全然予想してなかったもの…。

まさか水浴びするために立ち寄ったところで彼に会うなんて…。

これもあの魔法のお陰なのかな?

でもなんだか彼とのつながりが薄くなってる気がする…。

にしても、私を差し置いて童貞を捨てるなんて何事よ!

そんな心中で私は空に舞い上がっていた。というか気分も舞い上がっていた。

そもそも彼が私のことを覚えていてくれたこと自体が幸運だった。彼にかけられた魔法と似たような魔法が私に駆けられていなければ、物覚えの悪い私は忘れてしまっていたかもしれないからな。まぁそんなことはないと思うけど…。

それにしてもしきたりなんて…そんなものないのに…。まさか緊張でドキドキしていてすぐに仲間になると幸福死しちゃうかもしれないなんて、あの場じゃいえなかったし…。

何はともあれ約束の日までもう少し飛び回ってようかな…。




◇◇◇◇◇◇◇◇




「ハヤテ、何を話していたの?」

ハヤテ達五人は『ティレス』の宿屋で夕食をとっていた。

ギルド証が役に立ち、いつもより安く部屋や食事が提供され、その分多く食べていた。

今日は海で獲れた魚の揚げ物と山で取れた茸のリゾット、コーンスープだった。

そんな中、ユーレンスがハヤテに聞いた。

「何って…一週間後、北にある山脈にあるらしい巨大なポプラの木で待ってるよって言われたんだけど…」

「そうじゃなくて!…貴方となにか関係があるように見えたんだけど?」

「ああ…彼女は俺が昔助けたワイバーンなんだ」

「…は?」

「ん?ひーはーっへはほほほあっはほほがあはふほ?」

「…サヤ汚い」

目一杯口の中に料理を突っ込んでいたサヤはヤイティにいわれて嚥下し、ハヤテに質問した。

「リーダーって魔物に会ったことがあるの?アタシ達の前に」

「あるよ…といっても、昔のことだし、しかもそれ以降ユーレンスに会うまで一度も会ってないけど…」

「ふ〜ん…」

「リーダーはさっきのワイバーンが初めて会った魔物なんですか?」

「いや、それよりちょっと前に妖精にあって追いかけられたよ…」

おかげで苦手になっちゃったよ…とハヤテは言った。

「そういえばハヤテが旅に出た理由ってあのワイバーンに会うためだったりするの?」

「そうだね…って、ユーリには言ってなかったけ?」

「そう?私は覚えてないけど…」

「…まぁどっちでもいいか」

ハヤテはそう言うと、サヤが狙っていた白身魚の揚げ物を頬張り、サヤが憤慨した。

その光景をほほえましく見ながら夜は更けていった。
















13/11/09 23:01 up
どうもです

いや〜今回はちょっと大変でした。特にワイバーンが出てきた辺りが!

さて、これから物語りは加速していきます。精一杯書いていくので期待していてください。


では。また会いましょう
kieto
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