連載小説
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29.目的地確定
「勝者! エトナ!」

軍事都市ゲヌア、闘技場。
そこで行われるトーナメント戦の、最下級のブロンズクラス。
参加条件なし。昇格の条件も緩い。言わば闘うに値するかどうかの足切りのようなもの。
つまり、参加者の殆どは駆け出し程度のレベル。
エトナの優勝は、必然であった。

(それなりにセーブしたけど、これ、全額突っ込んでたら
 無茶苦茶な額になったんじゃ・・・)

観戦していたシロは、いくらかの銅貨をエトナの優勝に張った。
前情報が無い為、オッズはあまり低くならず、
一点賭けをしていた為、増えた分がそのまま収益。
賞金と合わせれば、結構な額になりそうだ。

「優勝おめでとうございます! 一言どうぞ!」
「シロー!!! 愛してるぞーーー!!!!!」
「ちょっ!?」

優勝インタビューで、盛大に愛を告白。
その対象が幼い少年だということを誰も知らなかったが故、
大きな歓声が沸き起こるだけで済んだのは、シロにとっては幸運だった。

(・・・帰り、どうしよう)

エトナの隣を歩くことによって訪れる未来が存在することを、すぐに理解できる頭の良さが、
この事態は思いっきり不運であるということも、強く認識させてしまったが。



「お疲れ様です。そして自重して下さい」
「ありがとな。いやー、つい昂っちまって♪」
「全く・・・もう・・・」

控え室にて。
頭を抱えるシロであったが、嬉しい気持ちが存在するということも否定できず、
柔らかな頬が朱に染まる姿を見せてしまう。
エトナはそれに気づくも、いぢめるのは十分なので、指摘しないことにした。

「一先ず、ケガは無いですね?」
「おう。カスリ傷一つ無し。『傷の内に入らない』とかじゃなくて、本当に無傷。
 正直ぬるすぎたわ」
「記憶が正しければ、30秒かかった試合ありませんでした。流石です」

見た目は曲線美に彩られた、女性的なラインの肢体。それでもやはり、エトナはオーガ。
内にある筋肉や骨は、相当な密度と強度を持っている。
加えて数多くの戦闘経験があるとなれば、強いのは至極当然の事である。

「ところで、シロ」
「はい、何ですか?」
「アタシはもっと熱い闘いをしたかったが、見ての通りだった。
 つまり、アタシは今、身体を持て余してる」

それが意味することが何であるか。
今のシロなら、ここまで言われれば分かる。

「・・・僕からも、いいですか」
「おう」
「その・・・さっきからですね、ほんのりと漂う汗の匂いとか、熱っぽさとか、
 なんかもう色々刺激しちゃって、辛抱堪らないといいますか・・・」

求めるのは、エトナだけでは無い。
『自分から求めてもいい』ということを知り、こういうことも増えた。

「次の試合まで間隔開くんで、ここ、2時間くらい使えるそうです。
 ・・・僕、宿まで待てません」
「・・・・・・・・・・」

とことん、自分好みに成長してくれた。
あまりにも幸せすぎて、そして可愛らし過ぎて、言葉も無く、エトナはシロを押し倒した。



「んー・・・んちゅっ。ちゅぷっ、ちゅぱっ」
「ちゅ・・・ちゅじゅっ、じゅるる・・・」

すぐにでも、性器を結合することも出来る。
だが、交わる前の口付けは欠かせない。

唾液を啜り、唇を食み、歯列をなぞり、舌を絡ませる。
たどたどしくも一生懸命に応えようとするシロと、思いっきり口内を蹂躙するエトナ。
身体も、頭も、どんどん境界線が薄れていくのを感じる。

「んっ。・・・あーもう、いちいち可愛い」
「できることならカッコよくなりたいんですけどね」
「言い方間違えたな。シロはカッコ可愛い」
(うぅ・・・)

エトナが喜んでくれている、という推測は、多分合っている。
だが、シロも男の子。あまり可愛がられると、何となく複雑な気持ちになってくる。

比較対象が無い為、自分の容姿が中性的かどうか、自分からは分からない。
しかし、エトナの毎回の反応から推測するに、どうも自分には男らしさが無いらしい。

「僕だって男なんですからね? その気になれば・・・」
「その気になれば?」
「・・・その気に、なれば」

加えて、腕力や豪快さ、思い切りの良さ等々、男らしさを象徴する要素において、
その殆どを高いレベルで保持している存在が隣にいる以上、自信なんて持てやしない。
結局、シロはまだ一桁の年の、頭脳だけ著しく成長した少年。そこに男らしさは生まれない。

「・・・うぅ」
「ま、その辺は追々、身につければいいだろ。それより、どう気持ちよくなりたいんだ?」
「・・・一つに、なりたいです」
「いきなりそことは珍しいな。んじゃ、ほら」

せめて、性行為の時ぐらいは主導権を握りたいが、それもままならない。
現状、これは自分が上位になっているのではなく、譲ってもらっているだけ。

「前戯なくても、もうぐしょぐしょ。・・・シロ」

身体の上下を入れ替え、滴るほどに愛液に塗れた秘所を晒し、両手の人差し指と中指を添え、広げる。
『くぱぁっ・・・』という音が鳴りそうな程に、いやらしく、淫猥な姿を前にして。

「・・・・・・」

情欲を抑えられる訳も無く。

「・・・・・・・・・んあああっ!!!!!」

この日もまた、自分の男らしさはどうすれば上がるのかという話はどうでもよくなり、
情欲に溺れ、肉欲を満たすことに決めたシロであった。



「はうぅぅぅ・・・♥」
「気持ちよさそーな顔しやがって。アタシも気持ちいいけど♥」

挿入したら、何もしなくても、勝手に気持ちよくしてくれる。
ぐにぐに動く膣肉に肉棒を揉み解され、どう足掻こうが数分が限界。
全てを受け入れていれば、ぎっちりと締め上げられる中、深く長い快感が続くお漏らし射精。
何とか抗おうとして突きまくれば、擦り合わせられた粘膜に責められ、銃撃のような爆発射精。
タイプが違うだけで、どうしたって気持ちよくなれる。
そして何より。

「んー・・・んぁぁぁ・・・♥」
「うん、頭、な♥」

エトナが、たっぷりと甘やかして、愛を注いでくれる。
頭をぐしゃぐしゃと撫でられたり、ギュっと抱きしめられたり、背中や太腿を摩られたり。
心も体もあっためて、とろとろにさせてくれる。
涙がこぼれる程に、どうしようもなく幸せで、どうしたって幸せであり、どう転んでも幸せ。
極度の多幸感に包まれ、二人の境界線はどんどん融けてゆく。

もっと、この幸せを、この心地よさを、この愛を伝えたい。
無限に増幅する気持ちを、全てを共有したい。

「あむ・・・ちゅぷっ・・・」
「ん・・・ふふっ」

赤子のように乳房に吸い付くシロの頭を、ぐしゃぐしゃと撫でる。
少し乱暴に、掻き分けるようにして・・・それが、シロの好みの撫で加減。

「ちゅぱっ・・・もう、イキそうです」
「うん。いっぱい出せ」

締め付けの強い膣が、最後のとどめと言わんばかりに、三段締めと蠕動を始める。
ぬるぬるの分泌液に浸された肉棒が、襞の歓待を受け、擦られ、嬲られ、甘やかされ・・・

「ん・・・んああっ、あああっ!!!」

快楽神経の束をこねくり回す様にしながら、半固形の精液をエトナへと送り込んだ。
どくん、どくんと湧きだす塊は、全て膣内へ流れ込み、子宮を満たす。

「・・・3人旅になる方が、早いかもしれませんね」
「かも、な」

二人の関係は、お姉さんと少年ではない。
愛する男と女。それが、二人の関係。

「大好きです、エトナさん」
「愛してる、シロ」

繋がったまま、抱き合う。
0距離の状態で、更に・・・

ピリリッ、と鳴り響く電子音が割り込んでくる。
馬車の時に続き、いい雰囲気を邪魔される格好となった。

「・・・空気読めよ畜生」
「とりあえず、出ますね・・・」

イリスから貰った、受信電話。
告げられていた日数より早くに連絡が来たのはありがたいが、
あと数時間ほどの遅れが欲しかった。

「はい、もしもし」
『紅い月夜に』
「・・・鮮血の匂い?」
『依頼内容は?』
「両親を探してもらうことです」

『うん、間違いないわね。イリスよ』

受話器越しであっても、相も変わらず妖艶な声。
ここでも合言葉を要求されるとは思っていなかったが、記憶に留めていたのが幸いした。

『割と簡単に目処がついたから、24時間以内にクラックを連れて。
 1秒でも遅れたら、依頼放棄とみなすからそのつもりで』

それだけ言い残し、返事を待たずに切られた。

「それでは行きますか。・・・その、えっと」
「聞くだけなら早いし、続きは宿で、な」
「はい。クラックさんはギルドに行けば、多分見つかりますよね」



ゲヌアのギルドには、多くの案件が存在しており、その殆どが戦闘が絡む討伐依頼など。
そこに冒険者や傭兵を始めとする、戦闘を生業とする者達が集うのは自然なこと。

「クラックという冒険者の方、いらっしゃいますか?」
「少々お待ち下さい・・・はい、当ギルドに所属しております。ご用件は?」
「今日の午後3時頃に、会って頂くお願いを」
「かしこまりました。では、こちらに当人へ伝えておきたいことがありましたら、お書き下さい」

王都に近いこともあって、交通の便が良い為、ここを拠点とする者も少なくない。
クラックもその一人である。

「後は適当に時間潰すか。とりあえずメシだな」
「ですね。普通のお店もありますけど、何故か屋台が多かったですよね」
「賞金も貰ったし、結構イイ感じに食え・・・ん?」

どうも、ギルドの外が騒がしい。
何やらもめ事が起きているようだ。

「前にも言ったよな? この街は魔物と共に発展していくと!」
「あなた方は騙されているのです! ああ嘆かわしい! これも全ては忌々しい魔物が・・・」

筋骨隆々、大柄の壮年の男と、大袈裟に身振り手振りをする、神父らしき男。
前者はともかくとして、後者は発言内容と服装から見るに、恐らく教団関係者。

「本日は布教活動がありますのでここで失礼いたしますが、早くお目覚め下さい。
 さもなければ、我々も実力行使に出させて頂きますので」
「あぁ来やがれ! 何なら今すぐ来い! いい機会だから総力上げてブチのめしてやるよ!」

言い争いが終わり、両者共に背を向けて去ってゆく。

ゲヌアの北東には、教団領が存在している。
魔物を排除する為、布教を中心とする活動を行っているものの、王都が親魔物政策を掲げている為、
昨今では目立った活動は見られない。
しかし、王都の脇腹とも言える位置に存在するゲヌアを武力で制圧し、勢力を広げようとする、
『過激派教団』というものも存在しており、予断を許さぬ状況である。

「・・・っ」

考えると、ここはシロにとって中々に危険な場所。
教団から逃亡してから数年経過しているとはいえ、かつては教団の道具として、存在していた。
ゲヌアが王都同様、親魔物派都市でなければ、シロが賞金首となっていてもおかしくない。

唇を噛み、俯く。
教団との関係は絶った。そして、当ても無く大陸を彷徨った。
流れ着いた先の街で出会った魔術師のおかげで、『破魔蜜』としての自分を殺すことに成功した。

それでも、過去は消えない。
死んだ魔物娘は、決して生き返らない。

「シロ」
「はい・・・!?」

人目も憚らず、エトナはシロを抱きしめた。
身長差がある為、身体が宙に浮く。
耳元にエトナの唇が近づき。



「心配すんな。大丈夫だ」



それだけ、囁く。

「・・・はい」

気の利いた言葉は、何一つ浮かばなかった。
だから、伝えたいことをそのまま、形にした。

「うん」

ポンポン、と、後頭部を軽く叩き、撫で下ろす。
何も、変わったことではない。

オーガらしく、エトナらしいその行動は、
シロの心を温かくしてくれた。

億千万の慰めや同情はいらない。
欲しいものは、エトナからの愛情。

「それじゃ、メシにしようぜ。アタシは闘技場の前にあった屋台でから揚げ食いたい」
「いいですね。屋台めぐりとしますか」

ニカッと笑って、いつも通りに。
二人で手を繋ぎ、ギルドを後にした。



「あれ、兄貴と姉御?」

面会予定時刻が近づいたので、ギルドに戻ろうとした辺りで、偶然にもクラックに遭遇。
どうやら闘技場帰りであるらしい。

「お疲れ様です。えぇ、少し食事を」
「ギルドから話は聞いてるか? 連絡きたから、例のトコに頼むわ」
「あぁ、そういうことなら。俺もメシにしてからで大丈夫ですか?」
「構いませんよ」

軽食を取りながら、暫し談笑。
食事をしながらの会話は、自然と円滑になる。

その中、クラックはあることを思い出す。

「そういや兄貴、姉御、聞きました? 最近教団の奴らが動いてるって話」
「いえ、特にそういったことは」
「アタシも。強いて言うなら、何かギルド前に教団のヤツがデカい男に絡んでたくらい」
「あー、成程、そういやもう結構経つしな・・・」

何かがあったような言い方。
かつて教団にいたシロ、魔物娘であるエトナは、教団に狙われる要素がある。
追求せずにはいられない。 

「何があったんですか?」
「姉御が言った大男は、多分市長だと思います。前々から教団の要求を拒否してたらしくて。
 まぁ、『魔物から守ってやるから街の権限よこせ』なんて馬鹿な話、誰も受けませんけど」
「何一つとして得しねぇな!? それマジで言ってんのか!?」
「マジらしいんですよね・・・トチ狂った野郎どもですよ本当に。
 それで拒否られたら今度は賄賂攻撃ですね。全部その場で破棄しましたけど」
「破棄までしますか」
「物理的に。金貨とかグシャって握りつぶして」
「はいっ!? というか貨幣を鋳潰すのって犯罪ですよ!?」
「でもってそのまま相手の顔面に握り拳バーン! からの腹に蹴りドーン! 股間キーン!」
「アタシでもそこまではやらねぇ!」
「『一人軍隊』って呼ばれてますからね。味方にしろ敵にしろ何をしでかすか」

手段を選ばないことに関しては教団とどっこいどっこい。
軍事都市の主は、最早『人の皮をかぶった何か』と表現する方が的確な、
とんでもなく規格外な男であるらしい。

「つっても、冗談ですって。話には尾ひれがつくものですから」
「そりゃそうだろ。そんな奴いてたま・・・」
「5%くらいは」
「せめて半分! 半分は冗談であって下さい! むしろその5%の部分ってどこですか!?」
「『股間キーン!』じゃなくて『股間グシャァッ!』になる辺りとか?」
「なんか潰れた!? タチ悪くなっただけじゃねーか!」



昼食を済ませ、三人揃って情報屋の元へと向かう道中。
事が起きたのは、裏路地に入ってしばらくしてからだった。

「・・・待て」
「ん?」

先を往くクラックを制止し、辺りを見回すエトナ。
後ろにいたシロも、それにつられるようにして周囲を見る。

見える範囲には、誰もいない。
・・・だが。

「・・・そこか!」

先程曲がった角。
確かな気配が、そこにあった。

塀を体で巻き込むようにしながら、左手を向こう側に突っ込む。
掴んだものは思った通り、衣服らしき感触。

そのまま力任せに引きずり出し、正体を暴く。
そこにいたのは、十字架の描かれた白装束を纏った、壮年の男。

「くっ!」
「遅い!」

持っていた杖でエトナの顔を突こうとするが、その数倍速く背負い投げが決まった。
全身を地面に打ち付け、謎の男は悶絶する。

「流石・・・姉御」
(いつ見ても凄いな、エトナさん・・・)

後をつけている者がいることに気づき、
素早く捕まえたと思ったら、あっという間にノックダウン。
思わず感嘆の声を漏らすクラックと、エトナの強さを改めて認識するシロ。
その戦闘能力は、軍事都市においても随一のものと言えよう。



「で、誰だテメェ」
「とりあえず、アンタ教団のモンだろ? どういうことか教えてもらおうか」

謎の男を包帯で適当に拘束し、尋問に移る。(包帯はクラックの冒険者道具)
装束を見る限り、教団関係者であることは間違いない。

「貴様ら人間の裏切り者に、話すことなどない!」
「おぉそうか、んじゃ指切りといこうか。正確には指折りだけど」
「わぁーっ! 分かった話す話します話させて下さい!」

クラックが小指を曲がらない方向に曲げ始めた辺りで、男は早くも口を割った。
その内容を要約すると、こういうことらしい。

自分は北方の教団に所属しており、今回の目的は街との交渉。
その途中、偶然破魔蜜(シロ)を目撃したので、捕まえようとした。
しかし、隣にいるオーガ(エトナ)を見て、自分一人では無理だと思った。
だが、みすみす見逃すわけにもいかないので、とりあえず後をつけていた。

「ほーん。それで兄貴の後をねぇ」
「数年ぶりですね。まだ、こんなことをされているみたいで」
「どの口が言う! 大体、魔物を殺したのはお前だ!」
「ざけんな! シロが何したってんだよ! 利用したのはお前らだろうが!」
「詳しくは知らねぇが、兄貴が魔物を殺すような人じゃないってことぐれぇ分かる。
 精々、何かしらの手で騙すとか、催眠かけて使ったとかってとこだろ?」
「このガキの力を知らないようだが、こいつは・・・」



「・・・僕は、この咎を一生背負っていくつもりです」

 

言い争いの中、静かに、しかし力強く響いた声で、辺りは静まり返った。

「僕にも原因の一端があるのは事実です。だから、僕は過去を捨てません。
 一生涯をかけて、たくさんの魔物を殺したことと、向き合い続けます」

ただ、利用されていただけ。
魔物娘を殺してしまう意図などなかった。物心がついた頃には、抵抗もした。
大勢の狂った大人の前では無力でも、彼は一人でも多く、魔物娘を殺さないようにした。

ありもしない罪を、償う。
その真面目さは、大馬鹿者と紙一重。ここまでくると、褒められたものではない。
・・・が。

「・・・ほっ、ほら見ろ! こいつはとんでもない悪人なんだよ!」

何の疑いも無い、大馬鹿者がそこにいた。

「言いたいことはそれだけか」
「最ッ高にカッコ悪ィ遺言、どうもありがとうございません」

この期に及んで戯言をのたまう教団員に送られたのは、
エトナの正拳突きと、クラックの飛び膝蹴りだった。



「来たぞ」
「紅い・・・」
「はいはい鮮血の匂い鮮血の匂い」
「もう、ちゃんと言い切ってからにしなさいよね」

食い気味に合言葉を言いつつ、ヴァンパイアの情報屋、イリスの元へ辿り着いた3人。

「あら、いたの?」
「おう。丁度いい材料がひっついてきたからぐいっと」

プラス、引きずりながら運ばれた教団員。
クラック曰く「あいつに引き取らせればうまいことやってくれる」とのことなので、
気を失ったところを適当に引っ張りながら、ここまで連れて来た。

「ありがとう。今度はどんな風に矯正・・・調教しようかしら」
「何でよりエグい言い方にした」
「これの処遇は後として、分かったことを教えるわね。
 まず、君の親の場所だけど、ズバリ王都。それも高級住宅街のマンションの最上階。
 私の眷属が多い場所だったから、早くに情報が届いたという訳」

どうやらシロの両親は、教団から貰った金にものを言わせて贅沢三昧らしい。
それを知ったエトナは、当然ながら怒りに震えた。

「知ってたけどとことんドクズだな・・・よくまぁのうのうと暮らせるもんだ」
「働かなくても生きていける額ではありますけど、そのペースだと数年で底をつくんじゃ・・・」
(何でそんな親から兄貴が生まれたんだろう。
 鳶が鷹どころか、ウジ虫から白鳥産まれたようなレベルだぞ・・・)
「あと、依頼は人探しだけだったけど、オマケで身辺調査もしたから、伝えておくわね。
 君の親二人、まだ教団と関わり持ってるみたいよ」

売られた後のことは、シロは一切知らない。
本人はてっきり、故郷で普通に暮らしているものだと思っていた。

「君が教団から抜けたってことも知ってるみたい。・・・偶然、聞いちゃってね。
 『あいつのせいで金を返す羽目になるところだった』って」
「・・・・・・っ」

我が子への愛は、金銭への執着にすげ変わっていた。

「一応兄貴の親ですから、こんなこと言っていいのか、とは思いますけど。
 ・・・文句なしの、ゴミクズですね」
「もう王都、行くしかねぇな。そして、両親ぶん殴る」
「・・・です、ね」

最終目的地は、はっきりと決まった。
そして、現在地は王都近辺の街。

次に向かうべきは、もう王都しかありえない。

「以上が、私が与えられる限りの情報全て。満足かしら? 事情は聞いたから、代金は免除。
 ちなみに、普段の依頼料は内容にもよるけど、今回の場合金貨30枚って所ね。・・・それと」

椅子から立ち上がった瞬間、姿が消えた。
戸惑う隙すら与えられず、シロの背後を取り。



「君みたいな可愛い子の血なら、高く買うわ」



耳を犯すような妖艶な声で、囁くと、
首筋を甘噛みし、そっと舌で舐った。

「ひゃっ・・・!」
「うぉい!」
「・・・ふふ、安心して。ちょっと味見させてもらっただけ」

後頭部を掴もうとしたエトナの手をすり抜けるようにして、椅子へと戻る。
ヴァンパイアは『戦闘能力が高いが、弱点も多い』と言われている種族ではあるが、
それは裏を返せば、弱点を突くことができなければ、容易に倒せる相手ではないということ。
日の光の差さない地下でなら、その力はエトナと互角以上。

「ちゃんと首輪、つけておいた方がいいわよ。
 私に寝取り趣味があったら、間違いなくこの子攫ってたから」
「その時はお前の体重を8%だけにする」
「あら、それくらいのリスクなら、この子狙ってもいいかも?」
「よーしぶっ殺す!!!」
「いや、イリスさんの冗談ですから! 
 それに僕がエトナさん以外の女性についていくなんてありえませんから!!!
 ・・・あっ」
「・・・ふふっ」

思わず、恥ずかしいことを勢いよく叫んでしまったシロ。
その後に漏れたイリスの含み笑いが、真の狙いはこういうことだったと証明する。

「そういうことだから、心配ないわ。
 それじゃ、また何かあったらいらっしゃい。クラック経由でね」
「うー・・・でも、ありがとうございました」
「シロは渡さねぇからな!」
「だから大丈夫だって。誰かから盗らなきゃならないくらい、男に困ってないし」

余計なリスクを削る一方で、オーガ相手でも堂々からかう。
勿論、この喋り調子から本当に戦闘が発生するとは考えにくいが、それもも強さあってのこと。
ケラケラと笑いながら、シロにウインクを飛ばす。

「・・・全く。兄貴に姉御、本当すいません。あと、帰る前に少し待っててもらえますか?
 ちょいと野暮用がありまして」
「えぇ、構いませんよ」
「アタシも。次は王都に行くことは決まったけど、もう少し滞在するつもりだし」
「ん、了解ッス。イリス、例の件。奥の部屋借りるぞ」
「うん。二人とも、紅茶でも飲んで待ってちょうだい。
 あ、だけど赤いボードに入ってるものには手をつけないで。あれは私専用。
 ブラッディークッキーとか、血液入りのお茶菓子類だから」

先に入ったクラックを追いかけるようにして、部屋の隅にあった扉の向こうへと入っていく。
そのまま部屋に入る直前、振り返り。

「5分くらいで戻ってくるから、イチャつくのは程ほどにね♪」
「誰がするか!」

最後の最後までおちょくって、部屋へと消えて行った。



「・・・しないん、ですか?」
「おい待て。普段と立場逆」
「なんなら、見せつけるくらい・・・」
「どうしたシロ!? 頭でも打ったか!?」



時間は少し遅れて8分後。二人が部屋から出てきた。

「すいません時間かかって。じゃ、送ります」
「また何かあったら。別の依頼だったら料金はもらうけどね?」

唇に人差し指を添え、口角を上げる。
端正な顔立ちを微かに歪ませて出るその表情は、やはり妖艶。

「色々ありがとうございました。では、失礼します」
「一応もう一回。シロは渡さねぇからな!」
「・・・あはは」
「・・・ふふふ」

いつもの乾いた笑いに返された、悪戯っぽい笑いが、別れの挨拶となった。



「後は前と同じ感じで。また何かあったら呼んで下さい」
「分かりました。それでは、機会があればまた」
「何かとありがとな。イリスにも宜しく」
「はい、イリスにも・・・って、姉御からその言葉が出るとは意外ですね」
「一回、普通に手合せしてみたいしな。あいつ善人じゃねーけど、悪人でも無さそうだし」
「すげぇ、ほぼ正解ッスそれ。その辺の立ち位置狙ってるみたいで。
 ま、単に思春期の妙な感性引きずったままとも言えますけどね。
 ・・・んじゃ、俺は用あるんでこの辺で」

前と同様、大通りを走るクラックに手を振る。

これで、旅の目標を達成するための目的地がはっきりした。
二人の旅の終わりは近い。

「三日後・・・くらいですかね。揃えるもの揃えて、王都に行きましょう」
「いよいよ、だな。・・・拳の準備、整えとけよ」

目指すは王都。会うはシロの両親。
殴るは、その顔面。

「エトナさん。・・・本当に、ありがとうございました。
 言っていた通りですね。世界には、面白いものがたくさんあるって」
「だろ? ・・・アタシも、シロに出会えてよかった。
 こんなに精一杯、アタシを好きになってくれる男、いるとは思わなかった」
「エトナさん」
「シロ」

辺りの音が、少しずつ消えてゆく。
導かれるようにして、唇を・・・



―――その瞬間、爆音が鳴り響いた。
16/04/23 17:50更新 / 星空木陰
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■作者メッセージ
何とか7月中に完成、第29話です。
ついに、二人の旅の最終目的地が決まりました。

しかし、その矢先に訪れた大山。
これは最後の試練なのか。

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