連載小説
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18.証
予備のお守りに紐を通し、首から下げる。
数にはまだ余裕があるが、無駄遣いするつもりは無い。

「・・・うん、これでよし」
「おう。それじゃ次は何処に行く? アタシもいくつか候補出たけど」
「僕の中では二択ですね。もう王都に行ってしまうか、もう少し寄り道するか」

地図を広げ、次の目的地を相談する。
ノノンからは内陸部に行くルートが多く、そちらだと最終的に王都を目指す事になる。
しかし、流通経路の関係上、海沿いの道もそれなりにあり、
選択肢は少なくない。

「もう少し寄り道してもいいんじゃね? それに、ここだけ越えれば街多いし」
「分かりました。僕も本当はもっと色々回りたくて。それじゃ、次はここですね」

短い相談の結果、さらに北上し、大陸北方の街に向かう事となった。

「少し長くなるから、色々用意しないとな」
「せっかくの商業都市ですし、色々仕入れましょう。
 確か、領主様から頂いた銀貨がこれくらい・・・」

幸い、路銀にはかなりの余裕がある。
特に金策をせずとも、2、3ヶ月は普通に旅が出来そうだ。
更に。

「あ、さっき見たチラシにあったんですけど、今日は市場でイベントがあるらしいですよ。
 えーっと、大道芸大会。優勝者には金貨10枚」
「よしシロ、出てみろ」
「いや、僕なんかが出た所で参加賞ぐらいしか・・・」
「何言ってんだ優勝候補筆頭が」

稼ごうと思えば、その辺でシロが何かするだけでいい。
銅貨数十枚程度なら楽に稼げる。

「それより、エトナさんも出ませんか? ストリートファイト対決とかあるらしいですよ」
「何々、『ルール無用の乱闘。殺さなければ何でもアリのトーナメント戦』。おっ、これいいな。
 純粋な決闘もしばらくしてなかったし、勘を取り戻すには丁度いい」
「えっ? あ、本当に書いてある。あの、勧めといてアレですけど、やっぱり・・・」
「何言ってんだ。オーガは色々な意味で戦う事が生き甲斐だ。
 それに、アタシが簡単にやられる程ヤワじゃないって事は分かるよな?」
「それはそうですけど・・・でも、気を付けて下さいね」

オーガは殴り合いといった方面での戦闘力も高い種族である。
日々の鍛錬を欠かさないエトナが、負ける理由は無い。

「んじゃ、早速行くか!」
「お互いに楽しめるといいですね」

身支度を整え、中央市場へと向かっていった。



「エトナさん、優勝おめでとうございます」
「シロもお疲れ。3位入賞、よく頑張った」

お互いの参加した大会が終わり、遅い昼食を取る。
エトナは圧倒的な実力で次々と勝ち上がり、見事に優勝。
シロは本職の大道芸人に話芸や奇策で一歩劣るも、上位入賞者の最年少記録の更新と健闘した。
賞金は二人合わせて金貨5枚と銀貨20枚。十分に贅沢が出来る金額である。

「とんでもない戦い方する人が出るかと思ったら、皆さんクリーンな戦い方してましたね」
「戦いで礼儀を弁えるっていうのは格闘家の基本だからな。それに、正々堂々戦えば、勝っても負けても
 次につながる。卑怯な真似したら、勝ったにしろ負けたにしろ、理由はんな事をしたから、しかないだろ?」
「自身の向上にはつながらない、と」
「そう。自分との戦いは常について回る。だから真剣勝負は面白いんだ」

エトナ流の格闘道。
健全な精神は健全な肉体に宿ると言われるが、洒洒落落とした性格のエトナはまさにその例であろう。
日々の鍛練により、外見も内面も磨かれた結果である。

「僕、戦う事とただ暴力を振るう事を同一視していました。ごめんなさい」
「気にすんな。それは偏見とかじゃなくて、単にシロが優しい奴だからそう思っただけだろ?」
「間違った優しさは偽善って言うんですよ。本当にごめんなさい」
「んー・・・」

落ち込むシロを見て、エトナは今までの事を思い出す。
基本的に、こうなったシロにかける事の出来る気の利いた言葉を、自分は持ち合わせていない。
それなら。

シロの両方のほっぺたをつまみ。

「むにー」
「なにほひへふんえふはえおあさん!?(何をしてるんですかエトナさん!?)」
「ぱちっ」

ぐいっと伸ばしてから、指を離した。

「・・・えっと?」
「難しい事考えんな。シロは優しい。以上」
「ですけど・・・」
「んじゃもっかいやるか?」
「・・・やめときます」

本当にまずい時はやるべきではないが、シロが自己嫌悪に陥ったら、とりあえずほっぺたつまんどこう。
そう思ったエトナであった。



ノノンの北側の門にて。
手続きを終え、二人が街の外へ出ようとした時。

「お二人にお届け物があります」

そう言って衛兵が手渡したのは、二つの小包。
差出人は露店商のジェフが所属する、ヨナレット商会の会長からが一つ。
そして、ベング商会に囚われていたコカトリスの、リノアから一つ。

「この度は大変お世話になりました。お二人の旅の無事をお祈りしております。
 また機会があったらいらして下さい。では、壮健で」

ゆっくりと、頭を下げる。皆さんもお元気で、とシロ。達者で暮らせよ、とエトナ。
それぞれ言葉を返しながら、馬車の中へと戻った。



街を後にして数分。小包の開梱をする二人。
ヨナレット商会の会長からの小包からは、数個の宝石と一枚の便箋が出てきた。

『君たちの活躍のおかげで、この街は救われた。出来れば直接会って礼をしたかったが、
 多忙故にこのような形となった無礼をお許し願いたい。その代わりと言っては何だが、
 この宝石を謝礼代わりに受け取ってもらいたい。売れば相応の値がつくだろう。
 同価値の枚数の金貨より嵩張らないので、旅に向くはずだ。』

「わざわざこんな物を・・・」
「律儀な奴だな。でも、ありがたいのは確かだし、貰っとこう」

『それと、ジェフ君の件だが、彼の為に嘆願書を書いてくれたそうだな。
 商会としては除名処分にするべきなのだろうが、他の皆がそれをあまり快く思っていない。
 元々、彼は人望があったし、街の救世主が許すというのなら、それに従うのが道理だ。
 一定期間の奉仕活動はしてもらう事になるが、商会には登録したままにしておく事にした。
 これも君たちの力あってこその事だ。ジェフ君の分も含め、礼を言おう。』

「嘆願書、書いてよかったな」
「贖罪は商会と街に向けてしてもらいましょう。あれはちょっとした事故ですよ」

『最後に、おそらく断られる事を前提にしてお願いする。
 我がヨナレット商会に所属するつもりはないだろうか?
 もしその気があるなら、連絡をしてくれ。いつでも歓迎する。それでは、お達者で。
 ―――ヨナレット商会代表 ドイル・サウザック」

苦笑するシロと、にやりと笑うエトナ。
答えは当然、決まっている。

「ちょっと、無理な相談ですね」
「欲しがるのも分かるけどな。いくら金積まれてもお断りだ」

旅路はまだ半ば。安住の地を決めてしまうには早すぎる。・・・が。

(でも、10年くらいしたら考えてみようかな。その時まで待ってもらえるかは別として)

一応、心には留めておく事にした。



続いて、リノアからの小包を開ける。
中身は小さい紙袋が一つと、一枚の便箋であった。

『シロさんとエトナさんへ。
 私を助けてくれた事、心から感謝します。本当は感謝なんていう簡単な言葉じゃ
 表し切れないくらいの思いですが、言葉が見つかりません。ごめんなさい』

「気弱過ぎるだろ。初めて会った時のシロみてぇ」
「え、僕こんな感じだったんですか?」
「こんな感じ。自覚してなかったのか?」
「・・・はい、全く持って」
「うん、まぁ何と言うか、シロらしい」
「あはは・・・」

『もう太陽の下で暮らす事は叶わないと思っていました。
 今ではむしろ、暑くて日射しがちょっと辛いです。なので、パラソルを買いました。
 頂いた給金で買った二つ目のものです』

「日射病になったら大変ですからね」
「だな。にしても、一つ目は何だろうな」

『もしかしたらこう思われたかもしれません。じゃあ一つ目は何を買ったのかと』

「読まれてた!?」
「いや、誰もがそう考えるでしょうから普通ですって」

『同封した小袋を開けて下さい。お二人へのプレゼントです。
 初めて貰った給金で最初に買う物は、お二人へのお礼の品にすると決めていました』

「これだな」
「それじゃ、ちょっと開けてみますね」

糊付けされた部分を剥がし、開封する。
中から出てきたのは、銀色に輝くペアリングだった。

『正確なサイズは分からないので、うまくつけられなかったらごめんなさい。
 でも、お二人の関係をより深いものにしてもらいたいと思って、これを贈らせて頂きました。
 お二人の旅の無事を心からお祈りします。そして、ありがとうございました。
 ―――リノア』

「これ、宝石もついてますよ。結構値が張ったんじゃ・・・」
「綺麗だな・・・折角だしつけてみるか」

それぞれリングを手に取り、指に通す。

「アタシの人差し指には入らないな」
「僕の小指だと少し緩いですね」

数回の試行の結果、丁度良くはまった指は。

「・・・リノアさん、これ狙ったんですか?」
「あるんだな、こんな事・・・」

指輪は左右どちらの手か、そのどの指につけるかによって、意味合いが異なる。
二人がつけた指が意味するのは、『愛を深める』。



リノアから贈られたペアリングは、まるで測ったかのように正確に、
二人の左手の薬指にピッタリとはまるサイズだった。



「右手にしておきます? 勘違い、されちゃいますし」
「アタシはこのままにするけど、シロが嫌なら別にいいぞ」
「・・・それじゃ、僕もこれで」

お互い、顔が真っ赤になるほど恥ずかしい。
だが、結局指輪はそのままにしておく事にした。



荷物の整理も終わり、後は次の街に向かうだけ。
今までより長い道のりになる為、到着は三日後の夜の見込みだ。
故に、必然的に二人きりの時間が長くなる。

未だ、シロの特異体質と、呪文の効果に関しては不明な点が残る。
しかし、お互いが求め合うなら、身体を重ねる事に一切の障害は無い。

インキュバスになりつつある少年と、それにゾッコンのオーガ。
そんな二人が、宿屋の一室のような馬車の中で時を共にすればどうなるか。

やる事は、決まっている。・・・が。

「・・・くぅ・・・くぅ・・・」
「お疲れ様。・・・アタシも寝るか」

そんな事は、どうでもいい。望めばいつでもいくらでも出来る。
それより、今は愛する者が隣にいるという幸せを噛みしめよう。

「おやすみ。・・・んっ」

軽く、頬に口づけるだけ。
そして数分後、馬車には二人分の寝息が響くだけとなった。
14/10/14 08:41更新 / 星空木陰
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■作者メッセージ
ラシッド→タリアナ→ロコ→ノノンと、都合4つの街を渡り歩いた二人。
5つ目の街はどんな所なのか。

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