9.三歩下がって五歩進む
時刻は朝5時半。
シロはいつもより早く、起床した。
彼は普段から早起きな方ではあるが、この日は殊更に早かった。
重たい瞼を開け、ぼんやりと、
「んっ、んちゅっ、むっ、んちゅっ」
する事無く一気に目を覚ました。
「ふぇっ!? 何が・・・?」
何処からともなく聞こえる、淫らな水音。
何故かとても温かく、気持ちいい股間。
そして、抱き合って眠っていた筈のエトナが隣にいない。
確認の為、自分の掛布団をめくってみると、そこに居たのは。
「ちゅっ、ちゅぱっ・・・ふぁ、おふぁほぉう、ふぃほ」
予想通り、エトナだった。
陰茎を咥えたまま、視線のみをシロに向けている。
「エ、エトナさん!? 何して、んっ、ですか!?」
「ん、ちゅぱっ、みふぇのふぉうひ・・・」
「一旦止め、あっ! て、下さっ、んんっ!」
柔らかな舌と口腔、唇の感触に上半身を跳ねさせながら、シロは静止を求める。
あまりにも挙動が大きかったので、エトナは一度口を離した。
「ん。おはようシロ」
「おはようございます・・・じゃなくて。何をしてるんですか」
色々言いたい事はあるが、とりあえず最も強い『困惑』の感情から、
疑問の言葉が出た。
それに対してエトナは、自身の唾液に塗れたシロの陰茎を手でしごきながら、
「見ての通り、朝フェラ」
非常にシンプルに、返答をした。
「いや、それは分かりますけど、何故?」
「こういうのって男の夢だろ? 目ぇ覚めたら勃ってたからさ、パクっと」
「・・・確かに、気持ちよかったですけど、それより・・・」
「んじゃ問題ないな。あむっ」
「あひぃっ!」
一気に全体の3分の2近くまで咥え直し、更に思いっきり全体を吸う。
まだ射精という経験の無い身体でも、何かが出そうな勢いで。
と思ったら、突然力を弱め、先端部分、鈴口の辺りを唇で挟んだ。
「シロ」
「ふぇ・・・エトナさん?」
「ちょっとだけ我慢しろよ。・・・んっ!」
「あひゃぃぃっ!?」
上体が跳ねる。
ちゅるん、と音を立てて、シロの本体がエトナの口内に直接触れる。
つまり、陰茎の包皮が剥かれたのである。
中身を吸いだすようにして亀頭を露出させ、その痛みを感じさせないよう、
すぐに口腔粘膜に宛がう。
痛みに慣れて来たら、ゆっくりねっとりと優しく舐る。
こうする事で、シロは殆ど苦痛を感じずに、大人への一歩を踏み出せた。
にゅるり、にゅるりと、無防備な陰茎に舌が這う。
触れられなかった所が存在しなくなるくらいに、シロは全体をくまなく舐められた。
「んにゅ・・・んっ。ふぃほ、ひもひいいふぁ?」
「ああっ! ひゃっ、やっ、ああんっ! ひゃっ!」
シロの喉から出るのは、言語の用を成さない、反射的な喘ぎのみ。
確かに、包皮を剥かれた時の痛みは殆ど無かった。
しかし、与えられる快楽が強すぎて、呂律が回らない。
シロが感じてくれている。そう、エトナが思った時。
―――この子を、犯しちゃいけない!
「・・・っ!?」
呪文が、発動した。
しかも、タリアナの時とは比較にならないほど強い。
「・・・んはっ!」
反射的に、シロの陰茎を口内から解放する。
唾液が光を反射し、外気に晒されたそれが震える様は、酷く淫猥だった。
・・・が。
「エトナ、さん・・・」
エトナは、この時漸く気付いた。
やってはならない事をしてしまったと。
シロが、怯えていた。
自分を見るその瞳は、不安と恐怖に塗りつぶされ、
輝きを失っていた。
(・・・アタシは何やってんだ!)
下唇を強く噛む。
行為に夢中になるあまり、シロの気持ちを考えていなかった。
少し考えれば、分かるはずだった。
シロが、無理矢理犯されることを恐れる事くらい。
「ごめんっ! アタシは・・・何て事を・・・!」
エトナが頭を下げたのは、謝る為だけではない。
自分の所為で怯えきったシロを、見たくなかったということもある。
寧ろ、そちらの方が大きいかもしれない。
(・・・?)
辺りが静寂に包まれたまま、
ふわりと、エトナの頭に何かが触れた。
「エトナさん」
(・・・!?)
シロの声が、響く。
柔らかなソプラノの、少年らしい声。
「大丈夫ですよ」
頭に触れていた何かが、動く。
初めての感触だが、エトナはそれが何かよく知っている。
「分かってますから」
(・・・あっ)
シロの小さな手が、そっとエトナの頭を撫でていた。
少年が、自分よりずっと大きいオーガの頭を撫でるという、
ちぐはぐな光景がそこにあった。
時折、エトナの髪を手櫛で梳かすようにしながら、背中へと手を伸ばす。
大丈夫、分かってる、心配ないと、声をかけながら。
「シロ・・・」
「怖がらせるつもりじゃ、無かったんですよね」
「・・・当然だ、バカ・・・!」
それは、自分に対してか、シロに対してか。
涙を流すエトナを、シロは静かに抱きしめた。
「おはようございます、ラザクさん」
「おはよう、店主さん」
「おぉおはよう。朝メシ出来てるぞ」
朝の日差しが差し込む、料理店1階ホール。
テーブルにはパンとサラダ、魚のムニエルとスープが用意されていた。
「さ、食おうぜ。勿論俺の奢りだ」
「ありがとうございます。それでは、頂きますね」
「同じく。頂きます」
「おう。おかわりもあるから、遠慮するなよ。
何たってお前らは、うちの店の恩人だからな!」
白い歯を輝かせ、満面の笑みを浮かべるラザク。
二人は、朝食を完食する事で、それに応えた。
「で、これからどうすんだ?」
朝食後。
まだ開店時間には余裕があると言うので、ラザクは二人に紅茶を出し、
雑談をしていた。
「んー、とりあえず北東方面のルートか?」
「それが一番無難ですね。次の目的地も明確ですし」
「何だ、旅でもしてるのか?」
「あぁ。全国横断、色々なものを見る旅」
「お、いいねぇ。・・・あ、もしかしてあのデカい馬車ってお前らのか?」
「はい、そうですけど」
「マジか!? すげーな! 何であんなんあるんだ?」
「ちょっと縁ありまして、ね」
「ほー。もしかして、他んとこでも人助けしてたり?」
「あはは・・・まぁ、そんな感じですかね」
「流石シロ。エトナ、お前人を見る目あるわ。
こいつあと10年もしたら立派な男になるぞ」
「だろ? アタシも楽しみで楽しみで」
「くーっ! 出来る事ならうちの店で働かせたかった!
ま、それよりもお前と一緒の方が楽しそうだし、仕方ねぇか!」
「当然! 何があろうと毛一本手放す気はねぇよ!」
「ふふっ、ありがとうございます」
談笑する事1時間。
開店時間が近づき、二人は席を立った。
「それじゃ、この辺で失礼しますね」
「アタシも。・・・そういや店主さん、ヤクトはどうなった?」
「勘当。あいつはもう完全に笑い者だし、出て行ったよ。
ま、まともな装備なしで外出たら良くて野垂れ死に、悪けりゃ猛獣に(物理的に)
食われるってとこだろ」
「でしょうね。ラシッドでもあんな人受け入れませんよ」
「受け入れるとしたら教団ぐらいか? 鉄砲玉か盾代わりに」
「だろうな。わっはっはっはっは!
またいつでも来いよ。美味いメシ用意して待ってるからよ。
ついでに、これは餞別だ。保存利くから、いくらあっても困らないだろ」
二人に保存食を手渡す。
シロが断ろうとしたが、半ば押し付けるようにして、ラザクは店へと戻っていった。
「んじゃ、達者でなー!」
「おう! 店主さんも元気でなー!」
「色々と、ありがとうございましたー!」
馬車の中。
貰った物を整理し、二人はベッドに腰掛けた。
「エトナさん、ちょっといいですか」
不意に、シロが話しかける。
「ん、どうした?」
「二つ、お願いがあります」
そう言うと、シロはエトナの方を向き、語り始めた。
「まず、今朝の事ですけど、気にしないで下さい。
すごくびっくりしましたけど、エトナさんは悪くないですから」
「・・・いや、完全にアレはアタシが悪い。本当にごめん」
「仕方ないですって。エトナさんも魔物娘ですし」
「だからって・・・それは理由にならねぇだろ」
「なら、もう一つのお願いを聞いて下さい」
エトナに擦り寄り、少し俯く。
そして、意を決したように。
「呪文の効果が出るまでで構いませんから、その・・・して、もらえませんか・・・?」
真っ赤になりながら、下を向くシロ。
それに対してエトナは、その意味を理解しつつも、戸惑った。
「・・・シロ、えっと・・・うん?」
「いやその・・・朝は突然の事だったので怖かったんですけど、気持ちよかったのは事実ですし。
それに・・・途中で終わっちゃったんで、僕もその・・・」
シロも、子供とはいえ男である。加えて、ついこの間深い快楽の味を知った身だ。
中途半端に投げ出された昂ぶりが、どうしてももどかしかったのである。
その事をエトナに告げるのは非常に恥ずかしかったが、羞恥心より性欲の方が勝った。
「イく時は自分でしますから、それまではエトナさんに・・・」
ちらりと、エトナの顔を見る。
真顔だった。・・・が、
「・・・シローーーーー!!!!!」
突然、エトナはシロに抱きついた。
勿論、その表情はくしゃくしゃになった笑顔に崩れている。
「お前はアタシをどうするつもりだ!? 可愛すぎるわこの野郎!
そんな事なら大歓迎だ! いくらでもしてやるよ!」
嬉しさのあまり、シロを全力で抱きしめるエトナ。
シロが激しく肩をタップするのに気付くのがあと数秒遅れていたら、大変な事に
なったかもしれない。
シロが自らズボンを脱ぎ、パンツを下ろす。
今朝、エトナに剥かれた陰茎は既に臨戦態勢と言わんばかりにそり立ち、
触れられるのを今か今かと待ちわびているようである。
「うん、子供なりにしっかり勃ってる」
「あの、無理はしないで下さいね」
「了解。んじゃいただきます・・・あむっ」
ベッドに腰掛けたシロの両脚の間に入り、股間に顔を近づける。
亀頭に唇を当て、一気に雁首まで滑らせた後、軽く舌で一舐め。
シロの身体がピクリと反応するのを見て、そのまま続けた。
「ん、ずっ、じゅるるっ、ずずーっ、ずっ」
「はんっ! あっ、ああんっ! あああっ!」
両手をベッドにつき、嬌声を上げるシロ。
訳も分からないままされていた早朝と、自分から快楽をねだり、
『されている』という事をはっきりと認識している今とでは、
感じ方が全く違う。無論、後者の方が圧倒的に、気持ちいい。
(これくらいなら、もう少し激しくしても大丈夫か?)
少し深く、半分程度まで咥える。丁度その時。
「んんっ、あああああっ!!!」
シロが上体を大きく反らす。
どうやら、一回目の絶頂に達したらしい。
それを見て、エトナは一旦口を離す。
「ぷはっ。どうだ、シロ?」
「はぁ・・・はぁ・・・えっと・・・
僕のが、その、溶けそうになりました」
荒い息づかいに、紅潮した顔。
自分の今した行為は、目の前の少年が望んだ事。
(ゾクゾクする・・・!)
「あの、エトナさん・・・」
そして。
「その・・・もう一回、お願いできますか?」
それが生み出すのは途方もない、倒錯的背徳感だった。
「・・・・・・っ!」
「あぁっん!」
何も言わず、今度は喉奥まで、一気に吸い込んだ。
深く、深く入った肉棒が喉に当たる。
ディープスロートの感触は、女性器が強く締め付ける、性交を想起させる。
まさに『喉まんこ』と言うべき、あまりにも強烈な責め。
「んんっ・・・ん」
「ああぁっ! あっ、あわぁっ!」
根元まで咥え、空いた手で玉袋をやわやわと揉んだり、
陰茎と肛門の間、蟻の門渡りをくすぐり、快楽を促す。
(シロ・・・こんなによがって・・・)
(エトナさん・・・凄くいやらしい顔してる・・・)
お互いがお互いを興奮させ、官能を高めていく。
2倍、4倍、8倍、16倍・・・その相乗効果は天井知らず。
果てしない悦楽に侵され続けた。
(怖くないか、シロ?)
(僕は大丈夫ですけど、エトナさんは?)
行為の最中であっても、相手を思いやる事を忘れない。
エトナはシロを案じ、シロはエトナを想う。
身体だけではなく、心も繋がった、一心同体の交わり。
精神的に満たされた心地よさは、肉体にも還元されていく。
ただ刺激するだけでは決して得る事の出来ない、幸せな快楽。
「んん・・・んっ(ビクビクしてる・・・そろそろイキそうだな)」
身体と心の両方を愛情に埋め尽くされたシロが限界に達するのに、
時間はかからなかった。
その気配を察知したエトナは、更に口内を狭め・・・
「ん・・・んぁ・・・」
「あひぃっ!? ふぁっ、あがっ、あ゛あ゛っ゛ー゛!?」
かすれ交じりの叫び声。
意識が飛びそうになりながら、シロは二度目の絶頂を迎えた。
「ん゛ごっ!?」
「あぎゃっ! あああ゛あ゛っー!!!」
腰が浮く。亀頭が喉に押し付けられる。
それぞれの敏感な部位に、強い衝撃が走った。
「お゛げぇっ! ゲホッ、ゴホッ・・・」
「あっ、はぁ・・・エ、エトナさん、ごめんなさい! 大丈夫・・・じゃないですよね」
「はぁ、はぁ・・・ふぅ。いや、ちょっと息止まりかけたけど大丈夫だ。
それよりシロ、痛くなかったか? かなり荒っぽく吐き出しちまったけど」
「特に問題ないです。本当にごめんなさい」
「気にすんな。思いっきりよがってくれて嬉しかったぞ、この野郎♪」
ぬるぬるになったシロの陰茎を指でつつきながら、エトナは楽しそうに笑う。
「あはは・・・ありがとうございます。あの、呪文の方は?」
「あ、そんなのあったな。・・・全然だったな。何でだ?」
「本当ですか? 無理してませんよね?」
「いや全く。どうしてだろうな?」
このフェラチオにかけた時間は十分と少し。
その間、呪文は発動する気配すら無かった。
「口ですると効果出ないのか?」
「それじゃ朝の時と矛盾しますし・・・うーん・・・」
「まぁ、出ないなら出ないで都合いいだろ。主にアタシがだけど」
「僕にとっても、エトナさんが苦しまないで済むならそれが一番ですからね。
この件についてはその内考えることにしましょう」
「そうだな。さっ、次の街行こうか!」
そう言って外に出て、エトナは手綱を軽く引く。
それに反応し、馬は二人の目指す次の街へと向かい、ゆっくりと歩き始めた。
「エトナさん」
「何だ?」
「いいんでしょうか、こんなに幸せで」
「おいおい、何感慨深い感じになってんだよ。
アタシらの旅は、まだ始まったばかりだろ?」
「そうですね。・・・ふふっ、そうですよね・・・夢じゃないんですよね」
軽く、エトナの身体に体重をかけるシロ。
『エトナがいる』という事を、包み込むような温かさをもって確認する。
「夢でたまるかっての。シロ、いいから手放しで喜べ。
お前は何でもかんでも深く考えすぎなんだよ。たまには何も考えないで甘えてろ」
「あはは・・・今はちょっと、難しいかもしれませんね」
人格形成に係わる幼少期を過ごしてきたのは、汚れた人間に塗れた、教団。
数年経った今でも、シロの心は固く凍てついている。
「んじゃ、その内でいい。アタシはいつでも傍にいる。
だから、シロも傍にいろ」
それならば、ゆっくりと融かしていけばいい。
現に、少しずつシロは人間らしさを取り戻している。
きっと、シロが年相応の子供らしく、小さな幸せでとびきりの笑顔を見せる日は、そう遠くない。
その為にも。
「シロ」
「はい、何でしょうか」
「両親、殴りに行こうな」
「・・・はいっ」
旅の目的を見据え、エトナは天を仰いだ。
「あの、エトナさん」
「んー?」
「朝のアレですけど、・・・その内、またして頂けませんか?
起きた時に一度中断してもらえれば、たぶん大丈夫なんで」
「・・・了解♪」
年相応の子供の要望では無いとは思ったが、
そんな事、シロの可愛らしさの前では些細な事だった。
シロはいつもより早く、起床した。
彼は普段から早起きな方ではあるが、この日は殊更に早かった。
重たい瞼を開け、ぼんやりと、
「んっ、んちゅっ、むっ、んちゅっ」
する事無く一気に目を覚ました。
「ふぇっ!? 何が・・・?」
何処からともなく聞こえる、淫らな水音。
何故かとても温かく、気持ちいい股間。
そして、抱き合って眠っていた筈のエトナが隣にいない。
確認の為、自分の掛布団をめくってみると、そこに居たのは。
「ちゅっ、ちゅぱっ・・・ふぁ、おふぁほぉう、ふぃほ」
予想通り、エトナだった。
陰茎を咥えたまま、視線のみをシロに向けている。
「エ、エトナさん!? 何して、んっ、ですか!?」
「ん、ちゅぱっ、みふぇのふぉうひ・・・」
「一旦止め、あっ! て、下さっ、んんっ!」
柔らかな舌と口腔、唇の感触に上半身を跳ねさせながら、シロは静止を求める。
あまりにも挙動が大きかったので、エトナは一度口を離した。
「ん。おはようシロ」
「おはようございます・・・じゃなくて。何をしてるんですか」
色々言いたい事はあるが、とりあえず最も強い『困惑』の感情から、
疑問の言葉が出た。
それに対してエトナは、自身の唾液に塗れたシロの陰茎を手でしごきながら、
「見ての通り、朝フェラ」
非常にシンプルに、返答をした。
「いや、それは分かりますけど、何故?」
「こういうのって男の夢だろ? 目ぇ覚めたら勃ってたからさ、パクっと」
「・・・確かに、気持ちよかったですけど、それより・・・」
「んじゃ問題ないな。あむっ」
「あひぃっ!」
一気に全体の3分の2近くまで咥え直し、更に思いっきり全体を吸う。
まだ射精という経験の無い身体でも、何かが出そうな勢いで。
と思ったら、突然力を弱め、先端部分、鈴口の辺りを唇で挟んだ。
「シロ」
「ふぇ・・・エトナさん?」
「ちょっとだけ我慢しろよ。・・・んっ!」
「あひゃぃぃっ!?」
上体が跳ねる。
ちゅるん、と音を立てて、シロの本体がエトナの口内に直接触れる。
つまり、陰茎の包皮が剥かれたのである。
中身を吸いだすようにして亀頭を露出させ、その痛みを感じさせないよう、
すぐに口腔粘膜に宛がう。
痛みに慣れて来たら、ゆっくりねっとりと優しく舐る。
こうする事で、シロは殆ど苦痛を感じずに、大人への一歩を踏み出せた。
にゅるり、にゅるりと、無防備な陰茎に舌が這う。
触れられなかった所が存在しなくなるくらいに、シロは全体をくまなく舐められた。
「んにゅ・・・んっ。ふぃほ、ひもひいいふぁ?」
「ああっ! ひゃっ、やっ、ああんっ! ひゃっ!」
シロの喉から出るのは、言語の用を成さない、反射的な喘ぎのみ。
確かに、包皮を剥かれた時の痛みは殆ど無かった。
しかし、与えられる快楽が強すぎて、呂律が回らない。
シロが感じてくれている。そう、エトナが思った時。
―――この子を、犯しちゃいけない!
「・・・っ!?」
呪文が、発動した。
しかも、タリアナの時とは比較にならないほど強い。
「・・・んはっ!」
反射的に、シロの陰茎を口内から解放する。
唾液が光を反射し、外気に晒されたそれが震える様は、酷く淫猥だった。
・・・が。
「エトナ、さん・・・」
エトナは、この時漸く気付いた。
やってはならない事をしてしまったと。
シロが、怯えていた。
自分を見るその瞳は、不安と恐怖に塗りつぶされ、
輝きを失っていた。
(・・・アタシは何やってんだ!)
下唇を強く噛む。
行為に夢中になるあまり、シロの気持ちを考えていなかった。
少し考えれば、分かるはずだった。
シロが、無理矢理犯されることを恐れる事くらい。
「ごめんっ! アタシは・・・何て事を・・・!」
エトナが頭を下げたのは、謝る為だけではない。
自分の所為で怯えきったシロを、見たくなかったということもある。
寧ろ、そちらの方が大きいかもしれない。
(・・・?)
辺りが静寂に包まれたまま、
ふわりと、エトナの頭に何かが触れた。
「エトナさん」
(・・・!?)
シロの声が、響く。
柔らかなソプラノの、少年らしい声。
「大丈夫ですよ」
頭に触れていた何かが、動く。
初めての感触だが、エトナはそれが何かよく知っている。
「分かってますから」
(・・・あっ)
シロの小さな手が、そっとエトナの頭を撫でていた。
少年が、自分よりずっと大きいオーガの頭を撫でるという、
ちぐはぐな光景がそこにあった。
時折、エトナの髪を手櫛で梳かすようにしながら、背中へと手を伸ばす。
大丈夫、分かってる、心配ないと、声をかけながら。
「シロ・・・」
「怖がらせるつもりじゃ、無かったんですよね」
「・・・当然だ、バカ・・・!」
それは、自分に対してか、シロに対してか。
涙を流すエトナを、シロは静かに抱きしめた。
「おはようございます、ラザクさん」
「おはよう、店主さん」
「おぉおはよう。朝メシ出来てるぞ」
朝の日差しが差し込む、料理店1階ホール。
テーブルにはパンとサラダ、魚のムニエルとスープが用意されていた。
「さ、食おうぜ。勿論俺の奢りだ」
「ありがとうございます。それでは、頂きますね」
「同じく。頂きます」
「おう。おかわりもあるから、遠慮するなよ。
何たってお前らは、うちの店の恩人だからな!」
白い歯を輝かせ、満面の笑みを浮かべるラザク。
二人は、朝食を完食する事で、それに応えた。
「で、これからどうすんだ?」
朝食後。
まだ開店時間には余裕があると言うので、ラザクは二人に紅茶を出し、
雑談をしていた。
「んー、とりあえず北東方面のルートか?」
「それが一番無難ですね。次の目的地も明確ですし」
「何だ、旅でもしてるのか?」
「あぁ。全国横断、色々なものを見る旅」
「お、いいねぇ。・・・あ、もしかしてあのデカい馬車ってお前らのか?」
「はい、そうですけど」
「マジか!? すげーな! 何であんなんあるんだ?」
「ちょっと縁ありまして、ね」
「ほー。もしかして、他んとこでも人助けしてたり?」
「あはは・・・まぁ、そんな感じですかね」
「流石シロ。エトナ、お前人を見る目あるわ。
こいつあと10年もしたら立派な男になるぞ」
「だろ? アタシも楽しみで楽しみで」
「くーっ! 出来る事ならうちの店で働かせたかった!
ま、それよりもお前と一緒の方が楽しそうだし、仕方ねぇか!」
「当然! 何があろうと毛一本手放す気はねぇよ!」
「ふふっ、ありがとうございます」
談笑する事1時間。
開店時間が近づき、二人は席を立った。
「それじゃ、この辺で失礼しますね」
「アタシも。・・・そういや店主さん、ヤクトはどうなった?」
「勘当。あいつはもう完全に笑い者だし、出て行ったよ。
ま、まともな装備なしで外出たら良くて野垂れ死に、悪けりゃ猛獣に(物理的に)
食われるってとこだろ」
「でしょうね。ラシッドでもあんな人受け入れませんよ」
「受け入れるとしたら教団ぐらいか? 鉄砲玉か盾代わりに」
「だろうな。わっはっはっはっは!
またいつでも来いよ。美味いメシ用意して待ってるからよ。
ついでに、これは餞別だ。保存利くから、いくらあっても困らないだろ」
二人に保存食を手渡す。
シロが断ろうとしたが、半ば押し付けるようにして、ラザクは店へと戻っていった。
「んじゃ、達者でなー!」
「おう! 店主さんも元気でなー!」
「色々と、ありがとうございましたー!」
馬車の中。
貰った物を整理し、二人はベッドに腰掛けた。
「エトナさん、ちょっといいですか」
不意に、シロが話しかける。
「ん、どうした?」
「二つ、お願いがあります」
そう言うと、シロはエトナの方を向き、語り始めた。
「まず、今朝の事ですけど、気にしないで下さい。
すごくびっくりしましたけど、エトナさんは悪くないですから」
「・・・いや、完全にアレはアタシが悪い。本当にごめん」
「仕方ないですって。エトナさんも魔物娘ですし」
「だからって・・・それは理由にならねぇだろ」
「なら、もう一つのお願いを聞いて下さい」
エトナに擦り寄り、少し俯く。
そして、意を決したように。
「呪文の効果が出るまでで構いませんから、その・・・して、もらえませんか・・・?」
真っ赤になりながら、下を向くシロ。
それに対してエトナは、その意味を理解しつつも、戸惑った。
「・・・シロ、えっと・・・うん?」
「いやその・・・朝は突然の事だったので怖かったんですけど、気持ちよかったのは事実ですし。
それに・・・途中で終わっちゃったんで、僕もその・・・」
シロも、子供とはいえ男である。加えて、ついこの間深い快楽の味を知った身だ。
中途半端に投げ出された昂ぶりが、どうしてももどかしかったのである。
その事をエトナに告げるのは非常に恥ずかしかったが、羞恥心より性欲の方が勝った。
「イく時は自分でしますから、それまではエトナさんに・・・」
ちらりと、エトナの顔を見る。
真顔だった。・・・が、
「・・・シローーーーー!!!!!」
突然、エトナはシロに抱きついた。
勿論、その表情はくしゃくしゃになった笑顔に崩れている。
「お前はアタシをどうするつもりだ!? 可愛すぎるわこの野郎!
そんな事なら大歓迎だ! いくらでもしてやるよ!」
嬉しさのあまり、シロを全力で抱きしめるエトナ。
シロが激しく肩をタップするのに気付くのがあと数秒遅れていたら、大変な事に
なったかもしれない。
シロが自らズボンを脱ぎ、パンツを下ろす。
今朝、エトナに剥かれた陰茎は既に臨戦態勢と言わんばかりにそり立ち、
触れられるのを今か今かと待ちわびているようである。
「うん、子供なりにしっかり勃ってる」
「あの、無理はしないで下さいね」
「了解。んじゃいただきます・・・あむっ」
ベッドに腰掛けたシロの両脚の間に入り、股間に顔を近づける。
亀頭に唇を当て、一気に雁首まで滑らせた後、軽く舌で一舐め。
シロの身体がピクリと反応するのを見て、そのまま続けた。
「ん、ずっ、じゅるるっ、ずずーっ、ずっ」
「はんっ! あっ、ああんっ! あああっ!」
両手をベッドにつき、嬌声を上げるシロ。
訳も分からないままされていた早朝と、自分から快楽をねだり、
『されている』という事をはっきりと認識している今とでは、
感じ方が全く違う。無論、後者の方が圧倒的に、気持ちいい。
(これくらいなら、もう少し激しくしても大丈夫か?)
少し深く、半分程度まで咥える。丁度その時。
「んんっ、あああああっ!!!」
シロが上体を大きく反らす。
どうやら、一回目の絶頂に達したらしい。
それを見て、エトナは一旦口を離す。
「ぷはっ。どうだ、シロ?」
「はぁ・・・はぁ・・・えっと・・・
僕のが、その、溶けそうになりました」
荒い息づかいに、紅潮した顔。
自分の今した行為は、目の前の少年が望んだ事。
(ゾクゾクする・・・!)
「あの、エトナさん・・・」
そして。
「その・・・もう一回、お願いできますか?」
それが生み出すのは途方もない、倒錯的背徳感だった。
「・・・・・・っ!」
「あぁっん!」
何も言わず、今度は喉奥まで、一気に吸い込んだ。
深く、深く入った肉棒が喉に当たる。
ディープスロートの感触は、女性器が強く締め付ける、性交を想起させる。
まさに『喉まんこ』と言うべき、あまりにも強烈な責め。
「んんっ・・・ん」
「ああぁっ! あっ、あわぁっ!」
根元まで咥え、空いた手で玉袋をやわやわと揉んだり、
陰茎と肛門の間、蟻の門渡りをくすぐり、快楽を促す。
(シロ・・・こんなによがって・・・)
(エトナさん・・・凄くいやらしい顔してる・・・)
お互いがお互いを興奮させ、官能を高めていく。
2倍、4倍、8倍、16倍・・・その相乗効果は天井知らず。
果てしない悦楽に侵され続けた。
(怖くないか、シロ?)
(僕は大丈夫ですけど、エトナさんは?)
行為の最中であっても、相手を思いやる事を忘れない。
エトナはシロを案じ、シロはエトナを想う。
身体だけではなく、心も繋がった、一心同体の交わり。
精神的に満たされた心地よさは、肉体にも還元されていく。
ただ刺激するだけでは決して得る事の出来ない、幸せな快楽。
「んん・・・んっ(ビクビクしてる・・・そろそろイキそうだな)」
身体と心の両方を愛情に埋め尽くされたシロが限界に達するのに、
時間はかからなかった。
その気配を察知したエトナは、更に口内を狭め・・・
「ん・・・んぁ・・・」
「あひぃっ!? ふぁっ、あがっ、あ゛あ゛っ゛ー゛!?」
かすれ交じりの叫び声。
意識が飛びそうになりながら、シロは二度目の絶頂を迎えた。
「ん゛ごっ!?」
「あぎゃっ! あああ゛あ゛っー!!!」
腰が浮く。亀頭が喉に押し付けられる。
それぞれの敏感な部位に、強い衝撃が走った。
「お゛げぇっ! ゲホッ、ゴホッ・・・」
「あっ、はぁ・・・エ、エトナさん、ごめんなさい! 大丈夫・・・じゃないですよね」
「はぁ、はぁ・・・ふぅ。いや、ちょっと息止まりかけたけど大丈夫だ。
それよりシロ、痛くなかったか? かなり荒っぽく吐き出しちまったけど」
「特に問題ないです。本当にごめんなさい」
「気にすんな。思いっきりよがってくれて嬉しかったぞ、この野郎♪」
ぬるぬるになったシロの陰茎を指でつつきながら、エトナは楽しそうに笑う。
「あはは・・・ありがとうございます。あの、呪文の方は?」
「あ、そんなのあったな。・・・全然だったな。何でだ?」
「本当ですか? 無理してませんよね?」
「いや全く。どうしてだろうな?」
このフェラチオにかけた時間は十分と少し。
その間、呪文は発動する気配すら無かった。
「口ですると効果出ないのか?」
「それじゃ朝の時と矛盾しますし・・・うーん・・・」
「まぁ、出ないなら出ないで都合いいだろ。主にアタシがだけど」
「僕にとっても、エトナさんが苦しまないで済むならそれが一番ですからね。
この件についてはその内考えることにしましょう」
「そうだな。さっ、次の街行こうか!」
そう言って外に出て、エトナは手綱を軽く引く。
それに反応し、馬は二人の目指す次の街へと向かい、ゆっくりと歩き始めた。
「エトナさん」
「何だ?」
「いいんでしょうか、こんなに幸せで」
「おいおい、何感慨深い感じになってんだよ。
アタシらの旅は、まだ始まったばかりだろ?」
「そうですね。・・・ふふっ、そうですよね・・・夢じゃないんですよね」
軽く、エトナの身体に体重をかけるシロ。
『エトナがいる』という事を、包み込むような温かさをもって確認する。
「夢でたまるかっての。シロ、いいから手放しで喜べ。
お前は何でもかんでも深く考えすぎなんだよ。たまには何も考えないで甘えてろ」
「あはは・・・今はちょっと、難しいかもしれませんね」
人格形成に係わる幼少期を過ごしてきたのは、汚れた人間に塗れた、教団。
数年経った今でも、シロの心は固く凍てついている。
「んじゃ、その内でいい。アタシはいつでも傍にいる。
だから、シロも傍にいろ」
それならば、ゆっくりと融かしていけばいい。
現に、少しずつシロは人間らしさを取り戻している。
きっと、シロが年相応の子供らしく、小さな幸せでとびきりの笑顔を見せる日は、そう遠くない。
その為にも。
「シロ」
「はい、何でしょうか」
「両親、殴りに行こうな」
「・・・はいっ」
旅の目的を見据え、エトナは天を仰いだ。
「あの、エトナさん」
「んー?」
「朝のアレですけど、・・・その内、またして頂けませんか?
起きた時に一度中断してもらえれば、たぶん大丈夫なんで」
「・・・了解♪」
年相応の子供の要望では無いとは思ったが、
そんな事、シロの可愛らしさの前では些細な事だった。
13/10/04 20:52更新 / 星空木陰
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