連載小説
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『誰のために』少年は歌う

「ねぇヴィオラ。君から見て僕は何歳ぐらいだと思う?」
「何歳に見えるか?そうね……大体12歳くらいかな。
ユング君、まだ声変わりしてないみたいだし…身長も小さいから
今から成長期に入るんじゃないかなって。」
「ち…小さい……。確かに事実だけど…傷つくなぁ…。」
「ごめんごめん!馬鹿にしてるわけじゃないわよ!むしろこれからが伸び盛りなんだから、
今から一杯食べていっぱい寝ていっぱい愛し合って大きくなればいいじゃない!」


ユング君の背は小さい。目測でも150cmもないはずだ。
私はちょうど170cmぴったりだから、その差は何と20cmもあるの。

私はショタコンじゃないけど…ユング君にはずっと私より小さいままでいてほしいと思う。
でも、男の子って成長するとかなり身長が伸びるし、本人もコンプレックスかもしれないわ。



「あ、そうだ!今からここの樹にでも背丈の印をつけてみない?
そして大きくなったときここに戻ってくれば、どれだけ伸びたかの記念に……」
「無駄だよ。僕はもうこれ以上大きくならないからね。」
「へ?」


……今なんて言った?これ以上伸びない?そんなアホな!?


「それどころか変声期だって一生来ないよ。」
「ま、まって!それじゃあ…もう成長しないってことじゃない!
そんなことないわよ!ユング君は男の子なんだからこれからが伸び盛りじゃない!」
「はぁ…………。いいかい、さっき僕のことを12歳くらいって言ったよね。」



ええ、言ったわ。
声変わりしてないんだから、少なくとも14歳以下なことは間違いないわ。












「僕はね、いま9歳なんだ。」
「きゅ、9歳!?ウソぉ!?ユング君の精神年齢、どう考えても9歳より遥か上よね!?
それに9歳であんなに歌が上手くて、性格はひねくれてるくらい大人びてるし…」
「ヴィオラって、いつも一言多いよね…」
「そうだったの……そうだったのね…。道理で…私の誘惑が効果がないと思ったら……」



あのね、みんな。私達リリムでも誘惑出来ない人間はいるの。

それは『第二次性徴前の子供』……つまり、まだエッチなことを知らないお子様たち。

もちろん、早熟な子は9歳前でも誘惑出来ることもあるけど、
基本的に二次性徴は10歳頃から始まるって言われてるわ。

だからオチンチンいじっても射精出来ないし、快感も感じないの。
宿屋でユング君を襲った時にユング君が勃起しなかったのは、
私が魅力的じゃないからじゃなくて、単に私の魅力を理解できていなかったからなのよね。



「それとね………僕はもう10年も『9歳』を生きてる。」
「は!?」





今までも十分驚愕の事実だったけど、今度ばかりは私も目が点になったわ。





「ど…どどど、どどどどどど……どういうこと!?」
「そのまんまの意味だよ。僕は10年前からずっと『9歳』のままなんだ。
そしてこれからも……ずっと『9歳』のまま生きて行くしかない。」
「そんな…どうして?」
「成長を止められたんだ。意図的にね……」












――――――――――《Side Jung》――――――――――





僕は幼いころから歌うことが好きだった。


ひまさえあれば、教えてもらった歌を口ずさんでたし、
お父さんとお母さんも、僕の歌が上手いって誉めてくれた。

大好きな歌を歌って、しかも褒めてもらえるのがとても嬉しかった。

誕生日に買ってもらった楽器を演奏するのも好きだった。
5歳のときには、子供用のピアノやリュートを毎日のように弾いてたっけ。




しばらくすると、とある噂が流れる。





『この街には神から祝福されし神童がいる』って…




僕の家に教会の神父や騎士が大勢来るまではそれが僕のことだとは思わなかった。
教会の奴らは…僕の音楽の才能に目を付けて、もっと歌が上手くなれると言ってきたんだ。

その時の僕は、純粋に歌が上手くなれることがとても魅力的に思えた。
将来どうなってしまうかも知らないで………




父さんも母さんも、僕が立派な音楽家になれると思って
身柄は教会に引き渡された。
両親とはなれるのは辛かったけど、立派な音楽家になれば
また戻ってこれると思い込んで……その時は子供心にただ夢ばかりが先行してた。







その後、僕は教会の少年聖歌隊に最年少の7歳で入隊する。

初めのうちは緊張したけど、歌を教わることは楽しかったし
周りは少し年上ばかりだったけど友達も何人かできた。

歌の先生や世話をしてくれるシスターや歌の教師もやさしい人だった。



最初のうちは何もかもが満たされた生活に満足してた。

でも、そのうちに、満たされた生活は僕を縛る枷になってゆく。



聖歌隊に入ったからには、歌えるのは聖歌だけ。
神を称えよとか、神を崇めよとか。見たこともない神様を褒める歌ばかり。
もっといろんな歌を歌いたかったのに……

『聖歌隊は高尚な歌を歌うんだ。つまらない歌は歌う必要ない。』


教会の外に出る自由もなかった。
教会の寮で生活し、許可なく外に出ることは禁止されてた。
たまには自然の中で遊んでみたかったのに……

『外は危険だ、無暗に出ないように。それにここは天国に一番近い場所。何の不満がある。』


それに、長い間親に顔を見せないと寂しくなる。
でもそもそも一般人は僕たちが生活しているところまで入ることはできない。
手紙だって書けなかった。完全に外の世界と隔離された…

『親が寂しくても我慢しなさい。今は聖歌隊として神に仕えることだけを考えるように。』



歌の勉強の他にも、やりたくもない神学もやらされた。
周りの友達は徐々に教会の教えに忠実になっていったけど、僕は違った。

神様が本当に全知全能で、全ての人に幸福をもたらすのなら
なんで僕は教会に閉じ込められる生活を送らなきゃならないのだろう。
僕はただ、歌いたいときに歌って、楽器を弾きたいときに弾ければそれでいいのに……









そして、僕の人生を狂わせた…一つの出来事があった。




9歳になってしばらく経った日、少年聖歌隊は4年に一度
大聖堂で行われる大きな行事に参加して、合唱を披露した。

僕たちの年代は特にレベルが高かったらしく、会場は大喝采だった。


その時、少年聖歌隊の歌を聞いた教会の偉い人がこんなことをほざいたらしい。


『素晴らしい!真に素晴らしい!神に愛された少年たちの美歌がこれほどまでとは……!
じゃが、惜しむらくは…少年たちはこれから大人になってしまうのだ。
出来ればこの先もずっと……少年のままで、その美声を聞かせてほしいものだのう。』



それを聞いた教会の奴らは、とんでもないことを始める。












少年聖歌隊全員の成長固定。








不老不死研究の過程で生まれたこの成長固定魔法は、大人には多大な負担がかかるものの
成長する前の子供なら比較的負担をかけることなく行えるらしい。



数日後、教会の一室に呼び出された僕はそこで身体を拘束され、
四人の司祭に何かの魔法をかけられた。

呪文を唱える間、身体が熱くなったり…かと思うと急に冷たくなったり…
思い出すだけでも苦痛な感覚が何分も続いた。





その日以降、僕の身体の成長は止まり、ずっと子供のままで過ごすことを強制された。

建前上は『子供の純粋な心と清らな身体を永遠に保つため』って言われたけど…





結局、僕たち少年聖歌隊はただの『物』でしかなかったんだ。


僕たちの人間的な部分…笑ったり、泣いたり、楽しんだり……
そんなことは全部捨てさせて、
単なる『楽器』…あるいは『命令を理解する楽器』として扱ってた。



ある友人は、教会の命令に忠実になりすぎるあまり感情を失って
ただの『歌う楽器』になった。

またある友達は、成長期に成長を止められ、心にに異常をきたして
他人とのけんかが絶えなかった。

一番の親友だった子は、教会の偉い人や貴族の家に何度も個人演奏に行かされて
よくわからなかったけど…相当ひどい目にあったらしい。




それからまた二年もの間、変化がない…退屈な日々が続く。

こんな生活から逃げ出すきっかけになったのは、
教会騎士団が魔物を討伐しに行く際に、少年聖歌隊が同行することになった時だ。

聖歌隊が鼓舞すれば、教会騎士団は負けないと考えられていたかららしい。


結局、教会騎士たちは魔物の軍と戦って敗北。
聖歌隊の少年たちは魔物につかまらないために逃げまどうしかなかった。
僕も何度か襲われそうになったけど、
魔物に対抗するために相手を昏睡させる歌を覚えていたから何とか逃げ切れた。





そして、結局僕は教会には戻らなかった。あんなところ、二度と戻るものか。

でも、数年ぶりに家に帰ってみたらそこにはもう誰も住んでいなかった。
聞いた話だと、お父さんもお母さんも疫病で死んでしまったらしい。


僕にはもう、帰るところはない。
だから旅に出ることにした。


成長が止まってるから、同じところには長くは居られない。
それに、教会も僕を取り戻そうと捜索していた。



だから…僕は旅を続ける。







――――――――――《Side Viorate》――――――――――




「……そう。ユング君はなにかしらの魔法でずっと子供のままなんだ。」
「そういうこと。だから背も伸びないし、声も変わらない。死ぬまでこの姿さ。」
「教会もまた厄介なことをしてくれるわね!これじゃあユング君がかわいそうじゃない!」

それに、成長を止めた年齢がまた厄介なことに二次性徴前だから
このままじゃユング君の精を受け取れないの。それは困る!



「ユング君は…大人になりたい?」
「まあね。子供はもう飽きたよ。このまま背が伸びないのは嫌だしね。」
「分かったわ!私が何とかしてあげる!」


そう言って私はその場にすくっと立ち上がる。


「変態のヴィオラにそんなことできるの?」
「ふっふっふ!変態のヴィオラお姉ちゃんを舐めてもらっちゃ困るわよ!
私が本気を出せば実は凄いんじゃないか、って常日頃から思ってるの!」
「……不安だよ。」



大丈夫、ユング君。あなたはきっと……いや、必ず救って見せるわ。

だって私はリリム、ヴィオラート!!

私にできないことなんて何もないんだから!!


11/07/20 20:47更新 / バーソロミュ
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■作者メッセージ
さて、読者の中でこのオチを予想できた人がいたでしょうか?いたら

\ここにいるぞ!/

とアピールしてみてはいかがでしょうか?


読んでわかるとおり、ユング君がヴィオラの誘惑をはねのけたのは
単にユング君が性を理解する年齢に達していなかったからです。
一応伏線としては、3話目で男の子がヴィオラに傷の手当てをしてもらった時
誘惑されないで終わった場面があります。
いくらリリムが凄まじい魅力を持っててもそれを理解できないことにはどうにもなりません。
まあ、他の作者様の優秀なリリムの方々なら「3歳児でも堕とせる!」という方もいるかもしれませんね。


しかし…10年も9歳児をやっていると絶対精神を病むと思います。
むしろひねくれただけで済んでよかったかもしれません。
教会の連中も本人たちは100%善意でやったとはいえ、えげつないことをするものです…

物語はまだまだ続きます。はたしてユング君は色々な意味で大人になれるのか?

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